ポスター発表一覧 (全102件)   /LS-BT2021

2021/04/27 公開

ポスター発表は下記のカテゴリー毎に分類しております。


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    発表 コアタイム1(ポスター番号奇数):15:15~16:30
       コアタイム2(ポスター番号偶数):16:30~17:45


  キーワード 

 

                       
1:微生物  (P001-P009)

西岡 心 、北川 航 /   北大 農学院、産総研 生物プロセス研究部門

Rhodococcus(ロドコッカス)属細菌はPCBやダイオキシンなど環境汚染物質を強力に分解する能力に優れているだけでなく、抗生物質やバイオサーファクタントなどの有用物質生産能力にも優れています。このうち抗生物質についてはまだ研究例が少なく、新規物質やその生合成関連遺伝子の発見が期待されます。今回私たちはロドコッカス属細菌が生産するフェナジン系抗生物質についてその生合成遺伝子と経路について解析を進めました。

中井 亮佑、山本 京祐、成廣 隆/   産総研 生物プロセス研究部門

微生物(特に細菌)の最小サイズは一般に0.2~0.3マイクロメートルとされ、医薬・食品業界などにおいて孔径約0.2マイクロメートルの精密ろ過膜を用いた除菌が広く行われています(例:食品衛生法が定めるろ過除菌)。しかし、そのような精密ろ過膜を通り抜ける極小細菌が環境中に少なからず存在します。私たちは極小細菌の培養化や検出系構築などの研究開発を通じて、フィルターの通過能や捕捉性に関する科学的エビデンスを蓄積するとともに、それらの機能に基づく生物資源的評価にも取り組んでいます。

黒田 恭平、成廣 隆/   産総研 生物プロセス研究部門

世界の作物栽培における病害虫による被害は全体の収量の10~20%の損失に繋がっており、例えば有害線虫による農作物被害だけでも年間1,000億USドルを超える損害額が報告されています。現在、その防除には化学農薬が広く用いられていますが、近年の健康長寿・環境問題への関心の高まりから、ヒトへの健康被害や土壌汚染等の自然生態系への影響が懸念されるようになり、その使用に対する規制が強化されています。私たちは環境・安全の双方を意識した持続可能な作物栽培に向け,未利用バイオマス資源を利活用した有用微生物優占化土壌改良資材を作製し、土壌微生物を複合的に制御することで作物病害防除に取り組んでいます。

森山 実/   産総研 生物プロセス研究部門

近年、ヒトの腸内細菌が私たちの健康に重要な機能をもつことが注目を集めていますが、このような有用な細菌を自在に保存し、利用する技術の需要が今後ますます高まることが予想されます。私たちは、カメムシが自身の成長や生存に欠くことのできない腸内共生細菌を次世代に引き継ぐ際、特殊な分泌物質内に共生細菌を封入し、不活性状態のまま環境中で一時的に保存する能力をもっていることに着目し、その作用機序の解明に挑んでいます。共生細菌は難培養性で極めて脆弱な状態であるにも関わらず、常温・常圧・乾燥状態において維持を可能にするカメムシの細菌保存技術は今後、新規細菌保護材の開発へと展開できることが期待されます。

五十嵐 健輔/  産総研 生物プロセス研究部門

有機性廃棄物からのメタン生産反応を、培養系に機能性固体を添加することで促進する技術についての基礎研究を行っています。(1)有機物からのメタン生産は、有機物を分解する菌と、その分解物を使ってメタンを作る菌との共生によって進行します。これら微生物の培養液に導電性の固体(活性炭や鉄鉱物)を添加することで、微生物間の電子のやり取りが促進されメタン生産が促進されます。(2)メタン生産は多くの金属酵素が介在する反応です。この反応に関わる酵素の活性中心に類似した鉱物を培養液に添加するとメタン生産反応が促進されます。

石谷 孔司、中島 信孝/   産総研 生物プロセス研究部門

周囲の環境変化に応じて様々な遺伝子の発現を調節することは、微生物にとって環境適応能を高めるための生態学的な戦略の一つと考えられています。ゲノム上の単一塩基反復配列は、DNA複製時に塩基配列のスリップやミスペアリングを引き起こすことが知られており、相変異やゲノム進化を引き起こす原動力の1つとなり得ます。本研究では、遺伝子工学や疫学上最も重要なグループの1つであるEscherichia属を対象として、単一塩基反復配列を系統横断的に探索するための解析技術を開発し、本属1,346サンプルの全ゲノム情報から単一塩基反復配列の系統特異的プロファイルを明らかにすることで、反復配列の与える影響やゲノム編成における可塑性を考察しました。

山本 京祐(1,2)、草田 裕之(1)、鎌形 洋一(1)、田村 具博(1,3)、玉木 秀幸(1)
   /(1) 産総研 生物プロセス研究部門、(2) 筑波大学 生命環境系、(3) 産総研・早大 CBBD-OIL

現在、薬剤耐性は非常に多くの病原菌に拡大しており、新たな抗菌薬の開発速度の低下と相俟って、医学上の最重要課題となっています。薬剤耐性は遺伝子突然変異や耐性遺伝子の獲得によってもたらされますが、その発生・伝播メカニズムは十分にわかっていません。私たちは、様々な病原細菌が実際の感染現場で共存し互いに影響を及ぼし合っていることに注目し、病原細菌間の相互作用が薬剤耐性等の医療上重要な形質の進化に与える影響を解析しています。本研究では、未知の耐性進化メカニズムを明らかにし、薬剤耐性の拡大抑制につながる技術(例:適切な薬剤使用プログラム、新規抗菌性薬剤)の開発に資する知見を得ることを目的としています。

古林 真衣子、三谷 恭雄/   産総研 生物プロセス研究部門

カロテノイドは自然界を彩る赤や黄色の天然色素の一群であり、産業界でも飼料や着色料、サプリや化粧品など多くの分野で利用されています。 自然界から1000種類みつかっているカロテノイドは構造のわずかな違いによって異なる生理活性を示すことで知られ、より効果的な生理作用を持つような新たな構造探索方法が模索されています。 本研究では、微生物内での代謝経路工学と進化分子工学の技術を用いて、新たなカロテノイド構造を創出する方法を開発しています。

牧山(片野)  葉子、木村 明音、北橋 優子、大塚 梨沙、林 岳夫、佐藤 元、市川 夏子
  / (独) 製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター

微生物、植物、動物等の生物資源について、メタ情報やオミックスデータ、文献、特許等のさまざまな情報を搭載し、ワンストップでデータ検索と情報の収集ができるサイト「生物資源データプラットフォーム(Data and Biological Resource Platform, DBRP)」を構築し2019年から公開している。今回は2020年に新たに公開した、味の素株式会社、静岡県、株式会社テクノスルガ・ラボ、和歌山県(五十音順)のデータや、新規サービスであるDBRP Stanza、APIについて紹介をする。

2:農学  (P010)

藤原 すみれ、中野 仁美、光田 展隆/  産総研 生物プロセス研究部門

分子育種等による農作物の改良や植物由来原料の生産性の向上などに資することを目的として、独自の技術を活用し、有用形質付与に必要な転写因子や遺伝子の同定と解析を進めています。 具体的には、シロイヌナズナの転写抑制因子を転写活性化因子に転換させた網羅的植物リソースを利用し、従来の技術では発見が困難な新規有用転写因子の単離に成功しています。 さらに、得られた知見をもとに実用植物の改良に取り組んでいます。本技術を活用することで、目的に応じた様々な有用植物の開発が可能です。 本発表では、その一例として、これまでに得られた乾燥耐性関連の転写因子の単離と機能解析について紹介します。

3:植物学  (P011-P012)                      

古旗 祐一、加藤 義雄/   産総研 バイオメディカル研究部門

培養細胞における遺伝子改変は植物研究において需要が高まっている技術です。しかし植物細胞は外因性物質の侵入から自身を保護する細胞壁を有するため、遺伝子改変を担う生物材料の導入が難しいと考えられてきました。 本発表ではエレクトロポレーションにより、細胞壁を有する植物細胞に対して遺伝子改変タンパク質であるCreリコンビナーゼの直接導入及び効率的な遺伝子改変を報告します。 本技術を応用することで、これまで解析が困難であった致死遺伝子や重要遺伝子のコンディショナルノックアウトや細胞機能解析に影響を及ぼす薬剤選択マーカーの除去が可能となり、食品や生物材料を始めとする植物研究に大きく貢献できると考えています。

Anchu Viswan (1.2), Masamichi Hoshi (1.2), Ayana Yamagishi (1) Yuichi Furuhata (3), Yoshio Kato (3),Natsumi Makimoto (4)
Toshihiro Takeshita (4), Takeshi Kobayashi (4), Futoshi Iwata (5), Mitsuhiro Kimura (6),Takeshi Yoshizumi (6), Chikashi Nakamura (1,2)
   /(1) Cell. Mol. Biotech. Res. Inst., AIST, (2) Dept. Biotechnol. & Life sci., Grad. Sch. Eng., TUAT, (3) Biomed. Res. Inst., AIST,
(4) Sensing system Res. Inst., AIST, (5) Grad. Sch. Med. Photonics, Shizuoka Univ. (6) Fac. Agric., UHW,

In this study we have focused on developing a method for the effective transfer of plant genome editing systems directly into the plant tissues. The goal is to achieve genome editing by delivering genome editing proteins directly into inner layers (palisade or spongy layers) in case of leaf tissues and subepidermal L2 layers of the shoot api cal meristem (SAM, which may differentiate into the germ line). Previously our research group has developed 2D Nano Needle Array (NNA) for the successful delivery of genome editing systems into the animal cells, but the same setup cannot be utilized for plant cells due to its inability in penetrating stiff plant tissue surface and insufficie nt length to reach the L2 layer of SAM. Thus, a new 1D system is considered, where the needles are grown sideways from the substrate surface giving it a comb-like configuration. 1D arrays with different dimension of needles w ere tested for the insertion efficiency. Needle diameters ranging from 0.3 μm-5 μm and lengths ranging from 4 0 μm-100 μm were compared for the efficiency. The array with needle diameter 2 μm and 60 μm length was found to be effective in inserting into the Arabidopsis thaliana leaves and the soybean SAMs without buckling and subsequent breaking of the needles and the array name is kept as Micro Needle Array (MNA). We have considered two genome editing systems, Cre recombinase and Cas9/sgRNA. The setup was initially tested for the delivery of Cre recombinase and its transduction efficiency in a reporter cell-line of A. thaliana expresses the gene for s-glucuronidase (GUS), was confirmed by the GUS staining. Followed by Cas9/sgRNA targeting the PDS11 gene in wild type soybean SAM and is confirmed by NGS analysis.

4:食品  (P013-P017)                      

Saiki Papawee(1), 河野 泰広(1), 荻 貴之(2), Prapaipat Klungsupya (3), Thanchanok Muangman (3)
Wimonsri Phantanaprates (3), Papitchaya Kongchinda (3), Nantaporn Pinnak (3), 宮崎 歴(1)
  /(1) 産総研 細胞分子工学研究部門, (2) 沖縄県工業技術センター, (3) Thailand Institute of Scientific and Technological Research

Gymnema inodorum (GI) is an indigenous medicinal plant and functional food in Thailand that has recently helped to reduce plasma glucose levels in healthy humans. It is renowned for the medicinal properties of gymnemic acid and its ability to suppress glucose absorption. However, the effects of gymnemic acids on adipogenesis that contribute to the accumulation of adipose tissues associated with obesity remain unknown. The present study aimed to determine the effects of gymnemic acids derived from GI tea on adipogenesis. We purified and identified GiA-7 and stephanosides C and B from GI tea that inhibited adipocyte differentiation in 3T3-L1 cells. These compounds also suppressed the expression of peroxisome proliferator-activated receptor gamma (Ppar)-dependent genes, indicating that they inhibit lipid accumulation and the early stage of 3T3-L1 preadipocyte differentiation. Only GiA- 7 induced the expression of uncoupling protein 1 ( Ucp1) and ppar coactivator 1 alpha (Pgc1a), suggesting that GiA-7 induces mitochondrial activity and beige-like adipocytes. This is the first finding of stephanosides C and B in Gymnema inodorum. Our results suggested that GiA- 7 and stephanosides C and B from GI tea could help to prevent obesity.

橋本 祐里(1)、杉原 英俊(2)、畠山 昌樹(3)、山内 啓太郎(2)、大石 勝隆(1)
   /(1) 産総研 細胞分子工学研究部門、(2) 東京大学大学院 農学生命科学研究科 獣医学専攻 (3) 株式会社 みやぎヘルスイノベーション

筋ジストロフィーは、進行性の筋萎縮と筋力低下を主な病態とする遺伝性筋疾患の総称です。既存治療法であるステロイドはその効果が限定的であり、新規治療法としてエキソン・スキッピングなどの遺伝子治療が模索されていますが、効果および治療対象が限定的であることから、普遍性と有効性を兼ね備えた新たな治療展開が求められています。私たちが開発した新規食事療法は、筋ジストロフィーモデルラットの、筋力低下の抑制、筋量の維持、炎症の抑制、線維化の抑制、血清CK値の低下、などの病態に対する著しい改善効果を有することが確認されました。筋ジストロフィーだけでなく、他の筋疾患にも効果があると考え、研究を進めています。

袴田 雅俊(1)、松野 正幸(1)、久保田 かおり(2)、松下 正明(3)
  /(1) 静岡県工業技術研究所、(2) 東海大学 海洋学部、(3) うしづまチーズ工場

地域の乳酸菌を使ってチーズを製造するために、駿河湾から収集した乳酸菌からチーズ製造に適した株を選抜した。全70 株からホモ型乳酸菌で乳糖分解性に優れ、牛乳中でよく増殖する菌株を選抜し4株に絞り込んだ。さらに酸凝固タイプのチーズを試作することで、チーズ用乳酸菌1株(シラス由来Lactococcus lactis)を選抜した。試作した酸凝固チーズについて香気成分分析を行ったところ、市販乳酸菌スターターを使用した同タイプのチーズよりもジアセチルが多かった。近くこの乳酸菌を使用した酸凝固タイプのチーズを販売する予定である。今後は他のタイプのチーズ製造も試みる。

中村 努(1)、福田 展雄(1)、新間 陽一(2)、斎藤 俊幸(3)、橋本 直哉(4)、久保 義人(4)、岡田 俊樹(5)、川島 典子(5)、植村 亮太(6)、山本 佳宏(7)
廣岡 青央(7)、和田 潤(7)、高阪 千尋(7)、原田 知左子(8)、西村 友里(8)、村上 洋(9)、清水 浩美(10)、都築 正男(10)、大橋 正孝(10)、藤原 真紀(11)
吉村 侑子(11)、中村 允(11)、上垣 浩一(12)、大谷 里菜(12)、塩谷 瑞希(12)、長谷川 哲也(12)
   /(1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 産総研 生命工学領域研究戦略部、(3) 産総研 関西センター、(4) 福井県食品加工研究所
(5) 滋賀県工業技術総合センター、(6) 京都府中小企業技術センター、(7) (地独) 京都市産業技術研究所、(8) 兵庫県工業技術センター
(9) (地独) 大阪産業技術研究所、(10) 奈良県産業振興総合センター、(11) 和歌山県工業技術センター、(12) 近畿大学 農学部

技術の重要性:日本酒のトレンドとして大吟醸に代表される高級酒の消費が年々増加し、企業としても新ブランド開発の必要性が望まれています。平成28 年度より近畿8 府県でWGを構築し、ブランド構築に係る技術検討に取り組んできました。ここではで実施した酵母の特性評価について報告します。

河村 俊哉、〇橋本 亮一/   長崎県工業技術センター

長崎県内の食品加工事業者と六次産業化事業者の高付加価値加工食品開発を支援するため、令和3年4月に「食品開発支援センター」を工業技術センター内に開設した。このセンターは従来の「技術相談」、「設備開放(試作加工設備、分析設備)」、「依頼試験」、「共同技術開発」の業務に加えて、外部専門家による「商品企画支援」、および小規模事業者等が短期間設備を借りて商用サンプル程度の量の製品生産ができるHACCP準拠の「生産設備開放」の業務を行う。

5:分子・細胞生物学  (P018-P035)                      

黄 文敬(2)、〇菅野 茂夫(1)、中村 彰良(1)、平尾 秋穂(2)、山西 陽子(2)/   (1) 産総研 生物プロセス研究部門、(2) 九州大学 大学院

ゲノム編集技術を中心とした遺伝子工学の発展により、細胞に外来分子を入れる装置へのニーズは高まっています。 特に、エレクトロポレーション法やパーティクルガン法といった物理的導入手段は、細胞の種類に寄らずに分子を導入できるために今後の発展が期待されています。 本研究では、全く新しい物理現象である電界誘起バブルにより、細胞に衝撃を与えて外来分子を導入する装置を構築しました。特に,哺乳類培養細胞においてその遺伝子導入効果は顕著であり、リポフェクタミン法と同等以上の遺伝子導入効率が検出された。電界誘起バブルは、電気により制御できるために並列化も容易で、新しい遺伝子導入法として期待ができます。

〇三村 真大(1,2)、冨田 峻介(2)、新海 陽一(3)、細貝 拓也(4)、白木 賢太郎(1)、栗田 僚二(1,2)
   /(1) 筑波大学 数理物質科学研究科、(2) 産総研 健康医工学研究部門 (3) 産総研 バイオメディカル研究部門、(4) 産総研 物質計測標準研究部門

近年、遺伝子転写に関わるクロマチンの凝縮/脱凝縮が、DNAとヒストンタンパク質との相互作用により引き起こされる液-液相分離現象(LLPS)により制御されている可能性が示唆されています。本研究では、リンカーヒストンH1と様々な立体構造を形成するDNAとのLLPSに焦点を当て、調査をしました。 その結果、グアニンやシトシンを豊富に含むDNAが形成する四重鎖構造が、ヒストンとのLLPSを促進することを見出しました。 本成果は、DNAの四重鎖構造が細胞内LLPSの“制御因子”としての役割を持つ可能性を示唆しており、遺伝子制御メカニズムの解明やクロマチン凝縮をターゲットとした新規創薬技術に繋がることが期待されます。

田中 宏知(1,2)、増井 恭子(1,3)、Zouheir Sekkat (2,4,5)、石飛 秀和(1,2,3)、井上 康志(1,2,3)
  /(1) 産総研・阪大 PhotoBIO-OIL、(2) 大阪大学大学院 工学研究科、(3) 大阪大学大学院 生命機能研究科、 (4) MAScIR、(5) Mohammed Ⅴ Univ.

細胞内外へのイオン流出および流入の動態をイメージングすることは生命機能の詳細な理解につながり、様々な病気の原因究明や新薬の開発への展開が期待されています。 特にカリウムイオン(K+)は細胞内の生体ダイナミクスの制御因子の一つとして利用されており、細胞外や細胞間でのラベルフリーなイメージング手法の開発が求められています。 これに対して近年、金属イオンイオノフォアを添加した可塑化PVC膜を利用した表面プラズモンセンサーの開発が試みられており、私たちはイオン動態の観察を目指し顕微イメージング手法の開発を行っています。

森川 久未(1)、白吉 安昭(2)、久留 一郎(2)、廣瀬 志弘(1)
   /(1) 産総研 健康医工学研究部門、(2) 鳥取大学大学院 医学系研究科再生医療学部門

徐脈性不整脈は加齢に伴い増加する心臓疾患です。唯一の根治治療法は機械式ペースメーカの植込み術ですが、機械ゆえの問題点があります。そこで、機械に替わる生物由来の細胞や、生体材料を用いた“生物学的ペースメーカ”を開発することが本研究の最終目標です。具体的には、ヒトiPS細胞や幹細胞から心臓ペースメーカ細胞および周辺の心筋細胞を分化誘導し、生体材料を利用して組織化・三次元構築を進める計画です。

山内 彩加林(1, 2)、三浦 愛(1)、近藤 英昌(1, 2)、津田 栄(1, 2)/   (1) 産総研 生物プロセス研究部門、(2) 北海道大学大学院 生命科学院

不凍タンパク質は一般に「過冷却」と呼ばれる”水が凍結する寸前の状態”を安定化する物質です。また、不凍タンパク質は脂質二重膜にも結合して細胞を低温障害から守ることが知られています。私たちは、昆虫由来不凍タンパク質を含む保存液にラット膵島細胞を浸漬し、その過冷却状態を-5℃で維持することで、同細胞を長く生かし続けられることを見出しました(20日保存後の生存率が55%)。細胞は凍結と解凍の過程で大きな物理的ダメージを受けるため、凍らせずに何日ものあいだ細胞を生かし続ける技術には大きな需要があります。 昆虫由来不凍タンパク質は、そうした細胞の保管輸送分野に新たな「過冷却保存法」をもたらすと期待されます。

古藤 日子(1,2)、田村 誠(3)、Wong Pui Shan (2), 油谷 幸代(2)、Eyal Privman (4), Sean McKenzie (5),Laurent Keller (5)
   /(1) 産総研 生物プロセス研究部門、(2) 産総研・早大 CBBD-OIL(3) Mitsubishi Tanabe Pharma Holdings America, NeuroDiscovery Lab

多くの生物は他個体との密接な社会的コミュニケーションの中で生活し、社会環境に依存して行動や生理状態を柔軟に変化させ生き抜く生存戦略を備えていると考えられます。私たちは社会性昆虫であるアリを研究対象とし、社会環境と健康、そして個体寿命の連関とその制御メカニズムを分子生物学的に明らかにすることを目指しています。 私たちは、社会的孤立環境において労働アリの個体寿命が顕著に短縮すること、また行動や消化機能に異常が生じることを明らかにしてきました。 次世代シーケンス解析、及び一個体レベルでの行動定量化システムにより、孤立環境における遺伝子発現変動と寿命短縮に関わる制御機構の一端を紹介します。

氷見山 幹基、中村 努/   産総研 バイオメディカル研究部門

多くのタンパク質は三次構造を超分子的に集積し、多種多様な四次構造を形成します。四次構造は、タンパク質の機能発現において重要な役割を担っており、その特徴的な構造から、分子集積のテンプレートとしても魅力的な研究対象です。一方で、タンパク質の複雑な構造と巨大な分子サイズから、四次構造の制御は未だ困難な課題です。本発表では環状四次構造を形成するタンパク質、ペルオキシレドキシン(Prx)の解離・集合状態を、アミノ酸変異と化学修飾を組み合わせて人為的に制御する手法について紹介します。

佐々本 康平(1, 2)、下澤 勇弥(1, 2)、氷見山 幹基(2)、森芳 邦彦(3)、大本 貴士(3)、上垣 浩一(4)、西矢 芳昭(1)、中村 努(2)
/   (1) 摂南大院 理工生命、(2) 産総研 バイオメディカル研究部門、(3) 大阪産技研、(4) 近大農

アセチルセルロースは様々な製品に利用される生分解性プラスチックですが、自然界では生分解が遅いため、酵素を用いた温和な条件での分解と再資源化が望まれます。好熱菌由来アセチルキシラン脱アセチル化酵素TTE0866は、アセチルセルロースの脱アセチル化を触媒する有望な酵素です。しかし、TTE0866の結晶構造や詳細な触媒機構は不明であり、応用利用の妨げになっていました。本研究では、TTE0866の結晶構造を決定し、類似酵素との構造比較からアセチルセルロースに反応する要因を考察しました。

下澤 勇弥(1,2)、佐々本 康平(1,2)、西矢 芳昭(1)、氷見山 幹基(2)、中村 努(2)
   /(1) 摂南大学大学院 理工学研究科生命科学専攻、(2) 産総研 バイオメディカル研究部門

リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(MDH)は、オキサロ酢酸(OAA)からリンゴ酸を生成する酸化還元酵素であり、優れた基質選択性を有することが知られています。MDHは、OAAの結合により活性部位のループが開いたopen構造と基質に覆いかぶさったclosed構造が報告されていますが、その構造変化の詳細なメカニズムは明らかになっていません。そこで私たちは、基質や活性部位の構造が異なるMDHの結晶構造を4種決定し、構造変化のメカニズムと優れた基質選択性との関係を調べました。

今清水 正彦(1)、徳永 裕二(1)、田中 真人(2)、竹内 恒(1)/   (1) 産総研 細胞分子工学研究部門、(2) 産総研 分析計測標準研究部門

生物の秩序性、特に酵素反応が熱揺らぎ程度のエネルギーで極めて正確に行われる原理は生物の大きな謎です。その謎の解明により、幅広いバイオ技術応用が可能になります。その謎を解く鍵となるのが生物の分子周りにできる協同的な水の運動(水素結合ネットワーク)です。私たちは、水素結合ネットワークを直接励起できるテラヘルツ(THz)領域の電磁波を用いて、この問題を解明しようとしています。

熊谷 雄太郎(1)、Xiaoyu  Song (2)/   (1) 産総研 細胞分子工学研究部門、(2) 筑波大学 人間総合科学学術院

樹状細胞は自然免疫の担当細胞として炎症や抗ウイルス免疫応答に関与するのみならずMHCクラス2を高発現する抗原提示細胞としてT 細胞を中心とした獲得免疫を制御し、がん免疫療法へのワクチンとしての利用などが図られています。樹状細胞を線維芽細胞よりダイレクトリプログラミングによって作製することを目指し転写因子をスクリーニングしたところ、ある転写因子の組み合わせにより樹状細胞マーカー遺伝子やある樹状細胞のサブセット特異的な表面抗原を発現する樹状細胞様の細胞の作出に成功しました。本手法は生体内に適用することで難治性疾患、特にがんの治療に応用できる可能性があります。

回渕 修治/   産総研 細胞分子工学研究部門

いずれの細胞にも分化できる多能性幹細胞は再生医療のソースとして期待されています。多能性幹細胞はその由来や樹立方法、培養条件などによって個性や性質の違い(分化指向性や男女差など)があり、安定的に品質の高い多能性幹細胞を医療現場に提供するには、性質・品質管理の技術開発が必要であると考えられます。 本発表では、培養条件で未分化であるものの外胚葉への分化効率が変化した例と性染色体の遺伝子発現による男女差の例について報告します。

渡邊 朋子(1)、角太 淳吾(2)、回渕 修治(1)、原本 悦和(1)、今井 俊夫(2)、舘野 浩章(1)/   (1) 産総研 細胞分子工学研究部門、(2) カン研究所

ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)は再生医療に用いる細胞治療製品の作製のための細胞源として利用されています。そのためiPS細胞の品質管理は細胞治療製品を効率的かつ安定的に生産するために重要となります。本発表では、1) 細胞膜上の糖タンパク質を標的としたiPS細胞高特異的抗体の開発、2) iPS細胞から逸脱し、多能性を失った不要な細胞(逸脱細胞)を非破壊検出する技術の開発、3)逸脱細胞に発現する細胞外マトリックスを標的とした逸脱細胞除去技術の開発について報告します。

小高 陽樹(1)、箕嶋 文(1)、尾崎 遼(2)、舘野 浩章(1)
/   (1) 産総研 細胞分子工学研究部門 (2) 筑波大学 医学医療系生命医科学域 バイオインフォマティクス研究室

単一細胞レベルでの生体情報解析は、細胞集団中の多様性・不均一性を明らかにする上で欠かせないものとなっています。我々は単一細胞で糖鎖情報とRNA情報を同時取得できる新しい技術(scGR-seq)を開発しました。本技術は多細胞システムを理解する上で基盤的技術になるだけでなく、疾患において異常をきたす細胞亜集団や希少細胞(血中循環腫瘍細胞、がん幹細胞、組織幹細胞、老化細胞など)の創薬標的の探索に利用でき、医療分野をはじめ生命科学分野における幅広い展開が期待できます。

七原 匡哉(1, 2)、曽宮 正晴(3)、黒田 俊一(1, 2, 3)
/   (1) 大阪大学大学院 生命機能研究科、(2) 産総研・阪大 PhotoBIO-OIL、(3) 大阪大学 産業科学研究所

B型肝炎ウイルス(HBV)の膜タンパク質にはヒト肝細胞を認識するドメインがあります。 このドメインの構造を模倣したリポペプチドMyr47は肝細胞上のHBV受容体であるNaタウロコール酸共輸送ペプチド(NTCP)に結合し、HBVの細胞内への侵入を競合的に阻害できることが知られていました。 しかし一方で我々は、NTCPを発現していない細胞においてもMyr47はHBVサブウイルス粒子HBsAgの取り込みを阻害できることを見出しました。 本研究では、この取り込み阻害の詳細な機構について、様々な変異体を用いて光学的解析手法により明らかにする。

清水 勇気、川﨑 隆史/   産総研 バイオメディカル研究部門

近年、再生能力の異なる生物を用いた遺伝子発現の比較による再生を促進する仕組みの探索が行われています。 私たちは、哺乳類と比べ高い神経再生を示すゼブラフィッシュを用いて、再生を制御する分子機構の探索を行ってきました。 ゼブラフィッシュとマウスは異なる再生能力を示すものの、脳構造など生物的特徴の違いが大きいため、再生能力の低い比較可能なモデルを新たに検討しました。本研究では、メダカを用いた脳損傷モデルを作成し、低い再生能力を持つことを魚類で初めて示しました。今後は、神経新生や抗炎症など再生に関わる作用を示す因子の探索・同定を目指し、遺伝子発現の比較解析や再生能力の低いメダカを用いた機能解析を行います。

高木 悠友子(1)、竹下 大二郎(1)、横尾 岳彦(2) /   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 産総研 細胞分子工学研究部門

放射性同位元素(RI)は、分子構造を変えることなく生体物質に標識を入れる手法としてライフサイエンス分野で広く利用されてきました。 近年は蛍光試薬等の代替手法が充実してきましたが、まだまだRIに優位性のあるアッセイはあります。産総研の非密封RI施設では125I、32P、33P、35S、3H、14C、51Crの核種を使用することができ、ユーザーや共同研究先を募集しています。 本発表では、この中のいくつかの核種を利用した生化学実験の例をご紹介します。

山岸 彩奈(1)、内田 幸希(2)、中村 史(1)/   (1) 産総研 細胞分子工学研究部門、(2) 東京農工大学 工学部生命工学科

中間径フィラメントのネスチンは高転移性のがん細胞で高発現であり、その発現抑制によりがん浸潤能の低下が報告されています。 ネスチンは中間径フィラメントビメンチンと共重合繊維を形成しますが、私たちは高転移性のマウス乳がん細胞において、ビメンチンとアクチン繊維の結合がネスチンにより阻害されることを見出しました。 そこで、原子間力顕微鏡と抗ビメンチン抗体を修飾したナノニードルを用いてビメンチンの引張試験を行った結果、ネスチンを含む細胞骨格構造の可動性がネスチン破壊株と比較して高いことを明らかにしました。 これによりネスチンはがん細胞を柔軟化し、間隙を通過しやすくすることで、浸潤能に寄与すると考えています。

6:創薬  (P036-P041)                     

于 躍(1)、李 忠平(2) 、七里 元督(1)/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス系

Covalent organic frameworks (COFs) are a class of newly emerged crystalline porous materials that possess fascinating structures and specific features such as porosity, stability, tunability, and biocompatibility. COFs have recently shown a promise in biomedical applications. In this study, we developed a folate receptortargeting COF (FrCOF) that converts a serial of conventional hydrophobic chemo drugs into well-dispersed nanomedicines with an ultrahigh drug loading capacity (Max. 50wt%). We selected Withaferin-A as a model drugs and found FrCOF enhanced it selective anticancer activity. These results indicate that the synthesized FrCOF has potentials to be a useful drug carrier for targeted cancer therapy.

石原 司/   産総研 バイオメディカル研究部門

少子高齢化が進む日本では、労働生産性の向上が危急の課題となっています。研究活動は高付加価値な知的労働であり、次世代産業の発展を促します。そこで我々は、研究そのものの自動化による日本産業界の持続的成長を目指し、活動しております。本研究では、従来方法では数年もの歳月を伴う医薬品創出の自動化を掲げました。近年における機械学習の飛躍的進化は医薬候補化合物の設計を、日本の優位点であるロボット技術の深化は医薬候補化合物の合成を、自動化しえます。現在、自動設計と自動合成の具現化と融合による自動発明装置の完成を目指しています。将来的には、医薬品産業のみならず、あらゆるファインケミカルへの展開を目指しています。

安澤 葉介(1)、宮房 孝光(2)、渋谷 理沙(2)、千賀 由佳子(2)、本田 真也(1, 2)
   /(1) 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻、(2) 産総研 バイオメディカル研究部門

現在、好中球減少症の治療薬として使われているG-CSF製剤には、薬効の持続時間が短いという問題点があります。 タンパク質の安定性を高めることで、薬効の持続時間が伸びると期待されます。私たちはタンパク質の主鎖のN末端とC末端をつなぎ、タンパク質の主鎖を環状化することでG-CSFの安定性を高める方法を開発しました。 主鎖環状化の際の環状化部分の長さの違いが、安定性に大きな差を与えます。そこで、環状化部分の長さを変えた変異体を作製し、最も熱安定性の高い変異体を取得しました。主鎖環状化による安定性向上は、作りやすさと活性の維持と抗原性の低さが利点です。培養細胞を使った実験で、細胞増殖活性が保たれていることを確認しました。

渋谷 理紗(1, 2)、宮房 孝光(1)、今村 比呂志(1, 3)、大石 郁子(1)、本田 真也(1, 2)
   /(1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 東京大学大学院 新領域創成科学研究科、(3) 立命館大学 生命科学部

バイオ医薬品の凝集は、生体内で免疫反応や機能低下を引き起こします。これらを抑制するために、バイオ医薬品にN末端とC末端を共有結合でつなぐ改変手法(主鎖環状化)を適用しました。 ターゲットタンパク質として、バイオ医薬品の一種であり、凝集しやすい性質を持つ顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF) を用いました。 私たちは、環状化によってG-CSFの凝集が抑制されたことを明らかにしました。環状化がG-CSFの変性構造を変化させ、この変化がG-CSFの変性構造のコロイド安定性を向上させたと考えられます。 タンパク質の凝集抑制を促す主鎖環状化は、バイオ医薬品の保管安定性と生体内安定性を向上させることが期待されます。

小池 康太(1, 2) 、畔堂 一樹(2)、安藤 潤(2) 、山越 博幸(3) 、スミス ニコラス(4) 、闐闐 孝介(5)、袖岡 幹子(5)、藤田 克昌(1, 2, 6)
   /(1) 産総研・阪大 PhotoBIO-OIL、(2) 阪大院 工学研究科、(3) 名市大院 薬学研究科、(4) 阪大免疫学フロンティア研究センター
(5) 理研 有機合成化学研究室、(6) 阪大先導的学際研究機構 超次元ライフイメージング部門

効率的な医薬品開発のためには、細胞レベルで薬剤と生体分子との相互作用を観察することが重要です。我々は、生きた細胞内の低分子薬剤(小分子)をリアルタイムで検出できる技術を開発しました。小分子を検出する手法として、分子に固有な分子振動エネルギーを計測し、その空間分布を可視化するラマン顕微鏡を用いました。小分子の微弱なラマン散乱を増強させ高感度に検出するために、金ナノ粒子による表面増強ラマン散乱を利用しました。金ナノ粒子を導入した細胞に標的小分子を投与し、独自に開発した高速3次元ラマン散乱顕微鏡で計測しました。その結果、細胞内に小分子が取り込まれる様子を高感度に検出することに成功しました。

梶原 佑太(1)、本野 千恵(1)、土方 敦司(2)、今井 賢一郎(1)
   /(1) 産総研 細胞分子工学研究部門、(2) 長浜バイオ大学 バイオサイエンス部

創薬標的となる蛋白質の中には、リガンドとの非結合状態においては構造上明確ではないものの、リガンドとの結合によって形成されるような隠れた薬剤結合部位「クリプトサイト」を持つものがあります。 クリプトサイトを発見・活用する手法が開発できれば、創薬標的の枯渇を解消する切り札となることが期待されています。 本研究では、疾患関連変異の蛋白質構造上での機能部位周辺への集積性に着目して、クリプトサイト候補を絞り込み、さらに、水とリガンドの断片から成る共溶媒を用いた分子動力学計算による動的解析により、有望なクリプトサイト候補を見出しました。今後は、クリプトサイト候補の実験的検証を行い、新規創薬標的部位としての有効性を示します。

7:医学・薬学  (P042-P045)                     

孫 略 (1, 2)、杉浦 悠紀(1, 2)、十河 友(1, 2)、伊藤 敦夫 (1)
   /(1) 産総研 健康医工学研究部門、(2) 産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ

放射線治療はがんの三大治療であり、がん患者の5割が放射線治療を受けます。 放射線治療は抗腫瘍免疫を調整する効果があり、抗腫瘍免疫を活性化する方向にも、抑制する方向にも働きます。 そのため、ごく一部の患者では、活性化側に強く働いて劇的な治療効果を得られることがあります。しかし、多くの患者がそうではありません。 我々は、放射線治療の効果を劇的に高めるため「低分子化合物等を用いて、放射線による免疫調整を確実に抗腫瘍免疫活性化に導く方法」の開発を目指しています。本研究により、放射線治療による抗腫瘍免疫活性化が多くの患者で促進されれば、予後の改善につながります。さらに、侵襲と副作用の小さい放射線治療ががん治療の基軸となることで、患者の生活の質 (QOL) を保ちやすくなる可能性があります。

銘苅 春隆/   産総研 人間拡張研究センター、産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ

グルタチオンの酸化還元反応を利用した生化学分解性を有するジスルフィド結合(S-S)を内包する有機シリカナノ粒子の生成において、両親媒性分子である(3-mercaptopropyl)methyldimethoxysilane(MPDMS)をシリカ源としたナノ粒子の合成では、MPDMS分子が自らミセルを自己組織化するために簡便に生化学分解性ナノ粒子を作製できます。 しかし、界面活性剤を使用しないナノ粒子の合成は粒径制御が難しく、大量生産に向かない欠陥があります。 薬液の混合比で粒子サイズが変化することは知られていますが、今まで注目されたことがないナノ粒子の合成時の攪拌について、その影響を網羅的に調査しました。

羽田 沙緒里/   産総研 バイオメディカル研究部門

認知症最大の疾患であるアルツハイマー病(AD)の患者数急増が社会的な問題となっていますが、いまだ効果的な治療法は確立されていません。ADの原因因子であると考えられているAβは前駆体たんぱく質が二つの酵素により切断されることにより産生されます。私はこれまでにこの二つの酵素に着目し、AD発症メカニズム解明を目指してきました。 この研究から、ADの新しい効果的な治療法開発につながりうる研究を実施しています。

迎 武紘(1)、吉井 京子(1)、大石 勲(1,2) /   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 産総研 イノベーション推進本部

私たちは、卵の白身に「内因タンパク質をつくらない」または「外因タンパク質をつくる」ニワトリをゲノム編集により作出する技術を得意としています。この技術を応用して①オボムコイド(強アレルゲン因子)を含まない卵、②バイオ医薬品成分(インターフェロンβ)を含む卵、③抗体医薬成分(anti-HER2 mAb)を含む卵の開発に成功しました。特筆すべきは、卵一個当たりバイオ医薬品で約150mg、抗体医薬で約60mgの生産性です。 今後さらなる需要増が見込まれるバイオ医薬品・抗体医薬を『低コスト化を実現しつつ生産拡大』できる持続可能な未来を実現します。

8:医療・福祉機器  (P046-P056)                     

十河 友(1, 2)、藤井 賢吾(3)、柳澤 洋平(3)、小林 文子(3)、村井 伸司(3)、六崎 裕高(4)
原 友紀(3)、山崎 正志(3)、安永 茉由(1)、廣瀬 志弘(1)、伊藤 敦夫(1, 2)
/   (1) 産総研 健康医工学研究部門、(2) 産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ、(3) 筑波大学 医学医療系整形外科、(4) 茨城県立医療大学 医科学センター

骨粗鬆症患者への適応をも想定して、埋入局所の骨形成を促進し、十分な骨結合強度の維持によってゆるみリスクを低減するピン・スクリューの開発を行います。 新生骨形成を能動的に促す薬剤(成長因子)をピン・スクリュー(金属医療機器)に組み合わせたコンビネーション医療機器の承認申請は少なくとも国内では例がありません。本方法で作製されるコンビネーション医療機器が、様々な基材表面の物理化学的性質の影響を受けずに活性を保持できれば、本手法はピン・スクリューにとどまらず応用範囲を広げることが可能となります。

高木 亮/   産総研 健康医工学研究部門

通常のがん等の外科手術においては、メスで体を切って対象部位を切除するというのが一般的ですが、凹面型の超音波治療デバイスと強力なパワーを印加できるドライバーを用いることにより、「体を切らずに」外部から治療を行うことができます。 私たちは、そのようなデバイス・ドライバーの最適設計や、そのデバイスを使った生体作用の解明、治療効果や生体作用を超音波により高度に、正確に診断する技術に関する研究を行っています。 本技術を発展させることで、従来不可能であった、「体を切らない」治療の実現が期待できます。また、本技術は、医療分野に関わらず、非侵襲に物体内部の特定箇所を加熱したり、刺激したりする技術として活用できることが期待できます。

疋島 啓吾/   産総研 健康医工学研究部門、慶應義塾大学 医学部、実験動物中央研究所

水分子の制限拡散を定量するMRIを開発することで、従来のMRIでは取得が困難な生体内の細胞や組織構造情報を高精度に捉えることに成功しました。生体内の水分子は細胞内外の様々な微細構造による運動制限を受けます。私たちは、NMRにおける制限拡散の定量解析法q-spaceをMRIを用いて画像に展開し、前臨床における神経疾患モデルを対象にした実験や手術による摘出腫瘍を対象にした実験から本手法が神経では髄鞘の分布、腫瘍では悪性度と高い相関することを明らかにしました。本手法は、画像診断分野におけるMRIの高精度化をはじめ、その非侵襲性から医薬品開発における治療効果の判定法としても有用と考えられます。

渕脇 雄介 (1, 2, 3)、兼田 麦穂 (1)、林 郁恵 (1)、天羽 由紀子 (1)、田中 正人 (1)、山村 昌平 (1, 2)
   /(1) 産総研 健康医工学研究部門、(2) 産総研・阪大 PhotoBIO-OIL 、(3) 産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ

新型コロナウイルスに対する血中のIgGを15 分以内にその場でELISA により定量できる、スマホとマイクロ流路チップによるキットを開発しました。 既存(イムノクロマト法)の抗体検査とは異なり、複数のIgG をELISA により正確に定量できます。 核蛋白に対するIgGと、新型コロナウイルスの中和抗体として考えられているスパイク蛋白S1 に対するIgG 及び受容体結合ドメイン(RBD:receptor binding domain)に対するIgGの3種類を15 分で高感度に定量することに成功しました。 また試薬の滴下と撮影・解析等を自動化した全自動装置の開発も実現しました。

梶本 和昭 (1, 2)、橋本 宗明 (1)、片岡 正俊 (1)/   (1) 産総研 健康医工学研究部門、(2) 産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ

循環がん細胞(CTC)とは、腫瘍組織から遊離して血管内に侵入したがん細胞であり、血流を介したがんの遠隔転移に深く関わっています。私たちは、スライドガラス大の平板チップ上に1,000万個以上の細胞を単層に配列、保持させる表面処理剤を新規に開発しました。表面処理を施したチップ上に血液細胞を展開し、免疫多重染色を行うことでCTCの高感度検出を実現しました。さらに、岡山大学病院消化器内科との連携により、消化器がん患者の血液中に存在するCTC検出にも成功しました。今後は、さらなる高速化・自動化を進め、転移性消化器がんの新たな診断法として実用化を目指します。

吉原 久美子(1)、長岡 紀幸(2)、吉田 靖弘(3)/   (1) 産総研 健康医工学研究部門、(2) 岡山大学 歯学部、(3) 北海道大学 歯学部

歯科治療は材料開発が進み、現在では金属ではなく、歯冠色のコンポジットレジンといわれるフィラーとレジンの複合体での修復が増えています。 しかしながら、これら人工物と歯の接着は、長期の耐久性に問題があります。特に歯の象牙質は、無機質であるアパタイトだけでなく有機質であるコラーゲンを多く含み、コラーゲンの劣化が、接着界面の劣化に影響を及ぼすことがわかっています。 そこで、劣化の少ない接着界面を形成させる方法が望まれています。接着界面で起きる歯質と接着材の反応や接着界面の観察、分析からよりよい接着材料の開発を行っています。

山添 泰宗/   産総研 バイオメディカル研究部門、産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ

細胞を自在に操作する技術は、生体組織を模倣した人工組織の構築や細胞移植治療に有用です。 今回、われわれは“マイクロマシンを利用して細胞を操作する”という新たなアプローチを提唱しました。 この独自のアイデアをもとに、望みの数・形状・タイミングでさまざまな場所に細胞を輸送し配置できるマイクロマシンを開発しました。 このマイクロマシンを用いた細胞操作は、従来技術における様々な課題の解決に役立ちます。

小阪 亮 (1, 2)、濱川 滉大 (3)、河尻 耕太郎 (4, 5)、早瀬 仁則 (6)、西田 正浩 (1)
/  (1) 産総研 健康医工学研究部門、(2) 産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ、(3) 東京理科大学大学院
(4) 産総研 安全科学研究部門、(5) AIZOTH株式会社、(6) 東京理科大学

動圧浮上遠心血液ポンプの動圧軸受の軸受浮上力と溶血特性を改善させることを目的に、数値流体解析とニューラルネットワークを組み合わせて、動圧軸受の形状最適化を行いました。 動圧軸受の数値流体解析の結果をもとに構築したニューラルネットワークを用いて、動圧軸受の最適形状を求めた結果、従来の動圧軸受の形状に比べて、動圧軸受の発生力が大きく、溶血が生じにくい軸受形状を得ることができました。 本技術は試行錯誤で検討せざるを得なかった血液ポンプの設計パラメータを、人工知能を用いて最適化可能な技術であり、他の産業機器にも応用可能です。

新田 尚隆/   産総研 健康医工学研究部門

体内留置カテーテル出口部の感染は人的な管理方法に依存するため、ヒューマンエラーに頑健かつ臨床にも導入し易い感染防止システムが求められています。本研究では当該ニーズに応えるべく、パッチ型振動子を用いて体内に留置されたカフを被覆する酸化チタン粒子に超音波を照射し、活性酸素種の生成を増強して殺菌を行う感染防止システムを開発しました。これまで、活性酸素種の生成が最大化される照射条件と酸化チタン粒子量を見出し、また当該照射条件下での生体安全性についても実証してきました。本技術は、将来的に臨床現場における患者や看護者の管理における負担軽減等に資することが期待されます。

葭仲 潔 (1, 2)、高木 亮 (1)、疋島 啓吾 (1)、新田 尚隆 (1, 2)、鷲尾 利克 (1)、小関 義彦 (1, 2)、鎮西 清行 (1, 2)
   /(1) 産総研 健康医工学研究部門、(2) 産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ

ユニバーサルメディカルアクセスとは、誰もがいつでも、どこでも、どんな状況でも不安無く質の高い医療・介護にアクセスできる・提供できる究極の医療アクセシビリティの事を指します。 「非侵襲診断」(超音波、MRI等)・「低侵襲治療」(エネルギー治療・ロボット技術・生体力学)「評価技術・標準化」・(有効性・安全性・使い勝手)等をコアとして、「ユニバーサルメディカルアクセス」に資する、だれもが簡便に扱える医療機器の実現を目指します。

丸山 修 (1, 2)、小阪 亮 (1, 2)、迫田 大輔 (1)、西田 正浩 (1)、土方 亘 (3)、坂爪 公 (4)、齋木 佳克 (4)
   /(1) 産総研 健康医工学研究部門、(2) 産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ、(3) 東京工業大学 工学院機械系、(4) 東北大学大学院 医学系研究科

ECMOおよび人工心臓で使用される連続瘤式血液ポンプは、血液駆出のために、内部に高速で回転する部品(インペラ)が存在します。インペラの回転によって、血液ポンプ内部では大きなせん断応力が発生します。 この高せん断応力によって、血液凝固に関与する血中タンパクであるフォン・ヴィレブランド因子が損傷を受け、血液凝固機能が低下し、出血合併症を引き起こします。 しかしながら、せん断応力の大きさとフォン・ヴィレブランド因子の分解量との定量的相関は明らかではありませんでした。本研究では、回転型せん断負荷装置を使用して、両者の相関を明らかにします。

9:健康・ヘルスケア  (P057-P061)                      

土田 和可子(1)、小林 吉之(2)、肥田 直人(2)、井上 恒(1, 3)、堀江 祐範(1)、吉原 久美子(1)、大家 利彦(1)
   /(1) 産総研 健康医工学研究部門、(2) 産総研 人間拡張研究センター、(3) 香川大学 創造工学部

年齢を重ねると体の力が弱くなり、外出する機会が減り、病気にならないまでも手助けや介護が必要となってきます。 加齢に伴い心身が衰える状態をフレイルと言いますが、早期に、発見・対策を行うことで健康状態を維持できるとされています。 私たちは、動作解析装置にてフレイル状態の歩行の特徴を抽出し、関連因子(筋力、体組成、血管年齢、最終糖化産物など)と合わせて総合的に解析することで、早い段階でフレイルを検出できる方法論の確立を目指しています。 また、身体機能の向上を目指した靴や福祉用具などの製品開発を目的とした性能評価や共同研究を行っています。 フレイルの主症状である筋萎縮の予防・治療法の確立を目指し、培養細胞を用いて、温熱刺激やストレッチング、アミノ酸栄養などの介入による筋萎縮の予防効果の検討やその作用メカニズムの解析を行っています。 (※セッション2講演5のご質問も、こちらで対応可能です。)

草田 裕之、玉木 秀幸/   産総研 生物プロセス研究部門

乳酸菌はヒトの健康に有益な効果をもたらすプロバイオティクスとして古くから関心を集めており、ヒト腸内環境の安定化にはこれら乳酸菌がプロバイオティクス機能を保ったまま腸内で生存・定着・増殖することが重要です。 一方、腸内は投薬した抗生物質や、消化液成分の胆汁酸により乳酸菌にとって致死的な環境になりえます。 私たちは、抗生物質分解活性を持つ新規な胆汁酸塩分解酵素(BSH)を乳酸菌から単離することに成功しました。 また、本酵素が高い耐熱性を有すること、基質特異性が極めて広いことも明らかにしています。 本発表では、単離した高機能BSHの解析結果を報告すると共に、BSH活性に基づく新たな腸内環境改善技術の可能性について議論したいと思います。

蟹江 秀星、三谷 恭雄/   産総研 生物プロセス研究部門

人生100年時代といわれる昨今、様々な病気の進展予測や治療効果判定、予後予測に資する分子(バイオマーカー)の検出に利用可能なバイオセンシング技術に注目が集まっています。 私たちはそうしたバイオセンシング技術を念頭におき、ウミホタルをはじめとした光る生き物に備わる生物発光という現象に着目したシーズ探索および要素技術開発に取り組んでいます。 今回は、炎症性バイオマーカーとして注目されるヒト血漿由来の糖タンパク質(α1-酸性糖タンパク質)の存在下で起きるウミホタル由来物質(ウミホタルルシフェリン)の発光現象について紹介します。

安倍 知紀/   産総研 細胞分子工学研究部門

超高齢社会を迎えたわが国では、健康寿命の延伸が重要な課題となっています。 われわれは、運動のみならず、エネルギー消費や内分泌機能を介して生体の恒常性維持に寄与する骨格筋に着目しました。 骨格筋の質や量は、加齢や疾患、運動不足、栄養不良といったさまざまな要因により低下します。 日々の食事により骨格筋機能を維持・改善する方法の開発が重要であると考えられます。 本研究では、天然食品成分の1つであるルテオリンが、マウスにおいて敗血症による骨格筋の消耗を抑制することを発表します。 また、食事を摂るタイミングが骨格筋の質や量の維持・改善に重要であることもあわせて紹介したいと思います。

木村 健太/   産総研 人間情報インタラクション研究部門、産総研 次世代ヘルスケアサービス研究ラボ

健康寿命の延伸のためには、日常生活における生活習慣の改善が効果的であることは、多くの科学的エビデンスが蓄積されているところであり、一般的な常識として誰もが理解しています。 それにも関わらず、日常生活の中で健康を増進する行動を維持することは困難な場合が多く、皆さんも生活習慣の改善に失敗した経験があるのではないでしょうか。これは、モチベーションや感情といった心身状態、及び個人の属性や性格といった個人特性が、健康を増進する行動の開始と維持に影響を及ぼすことが一つの原因です。このことから、健康増進・維持へ取り組む行動変容を促進するためには、個人の心身状態と特性を把握した上で、対象とする個人に適合した介入を行うことが効果的です。
本発表では、ヘルスケアサービスの個人適合の実現に向けて実施している、1)心身状態を評価する技術の開発、2)個人特性に合わせた介入手法の研究開発について紹介します。(※講演も行います。)

10:計測・分析  (P062-P082)                      

栗田 僚二 (1, 4)、冨田 峻介 (1)、西原 諒 (1)、丹羽 一樹 (2)、冨田 辰之介 (3)
   /(1) 産総研 健康医工学研究部門、(2) 産総研 物理計測標準研究部門、(3) 産総研 細胞分子工学研究部門、(4)産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ

これまでルシフェラーゼとして機能しない(発光機能がない)と考えられてきた天然タンパク質においても、ルシフェリン(基質)を改変することにより発光可能であることを報告します。 ルシフェリンの各官能基を最適化することで、天然のヒト血清アルブミンを「認識して光る」という特異性を極めて高くすることができました。 高い相同性があるウシ血清アルブミンや他のヒト由来タンパクでは発光せず、従来測定法と同等以上にヒト血清アルブミンを定量可能でした。(※講演も行います。)

西原 諒(1, 2)、丹羽 一樹(3)、冨田 辰之介(4)、栗田 僚二(1, 5)
/   (1) 産総研 健康医工学研究部門、(2) JST さきがけ、(3) 産総研 物理計測標準研究部門
(4) 産総研 細胞分子工学研究部門、(5)筑波大学 数理物質科学研究群

本来ルシフェラーゼとして機能しない(発光触媒機能がない)天然タンパク質でも、人工的に改変したルシフェリン(基質)であれば、その発光反応を触媒する事を見出しました。 ルシフェリンの化学構造を最適化する事で、血清などの夾雑系においてもアルブミンだけを「認識して光る」という特異性を向上する事ができました。高い相同性があるウシ血清アルブミンや他のヒト由来タンパクでは発光せず、サンプル前処理なしにヒト血清アルブミンをELISA と同等以上に定量する事ができました。

柴山 祥枝、山﨑 太一/   産総研 物質計測標準研究部門、産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ

核酸医薬は高い特異性を持ち、化学合成が容易なことから近年、精力的に研究開発が進められている医薬品ですが、その品質評価技術が乏しく、医薬品の安心安全のためには評価技術の向上が必要不可欠となっています。そこで、本研究では、対象核酸を非破壊かつ直接定量できる分析法として、定量NMRおよびデジタルPCRを用いた分析技術の開発を検討しています。本発表では、核酸分析の基盤でもある核酸モノマーの含量評価と安定性について検討したので報告します。

鈴木 祥夫、加藤 大/   産総研 健康医工学研究部門

疾患関連物質を検出するための新規蛍光性ナノ材料を開発し、性能評価を行いました。材料の設計にあたり、標的物質の認識部位としてオリゴペプチドを採用し、ここに蛍光発色団を導入しました。物性評価の結果、ナノ材料単独では、蛍光は消光状態にあるが、標的物質を添加した時のみ蛍光強度の増加が観察されました。

松田 直樹 (1, 2)、岡部 浩隆 (1) /   (1) 産総研 センシングシステム研究センター、(2) 産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ

固液界面に単分子層以下の機能性分子を固定しデバイス応用するため、基板の表面修飾方法、吸着過程、固定化及びその場観察による確認方法の開発を行っており、電子移動反応を行う機能性タンパク質であるチトクロームcを取り上げました。 スラブ光導波路(slab optical waveguide : SOWG)分光法に自動洗浄装置を組み合わせ、固液界面を含むセル内の溶液交換を行いました。 溶液交換により洗浄を繰り返し行うことで固定されていない吸着分子は脱離させ、洗浄に伴う紫外-可視吸収スペクトル変化をその場観察しました。チトクロームcのガラスやITO電極表面への吸着過程、固定割合、吸着後の直接電子移動(direct electron transfer : DET)反応を定量分析した結果を発表します。

三浦 大典/   産総研 バイオメディカル研究部門

現在、日本が直面する経済環境や少子高齢化率を鑑みてこれらの状況(QOL)を変革する科学技術イノベーションの創出が強く求められています。 特に、創薬における成功率の向上・迅速化・低コスト化による国際競争力の向上、病態マーカー探索・分析に対するスループットの向上、医療現場での適切かつ迅速な治療戦略判断を可能とする簡便・高感度な分析技術は、医療イノベーションにおけるキーテクノロジーになるでしょう。メタボロミクスはゲノムの物質的最終表現型である代謝物を対象とするため、疾病マーカー探索や創薬ターゲットの同定、疾病メカニズム解明における重要性が強く指摘されています。我々はこれまで、MALDI-MSを基盤とした低分子量代謝物分析に関する技術開発を精力的に推進してきました。本セミナーでは、超高速代謝プロファイリング技術(サンプル調製1 分、1検体の分析時間15 秒、1536 wellプレートを一斉分析可能)、質量分析イメージング技術、化合物の組成式を決定できる測定法およびマトリックス開発に関するこれまでの取り組みを紹介するとともに、今後の技術開発における重要な課題について議論したいと思います。

増井 恭子 (1, 2)、徳満 俊介 (3)、名和 靖矩 (1, 3)、細川 千絵 (1, 4)、石飛 秀和 (1, 2, 3)、藤田 聡史(1)、井上 康志(1, 2, 3)
/   (1) 産総研・阪大 PhotoBIO-OIL、(2) 大阪大学大学院 生命機能研究科、(3) 大阪大学大学院 工学研究科、(4) 大阪市立大学大学院 理学研究科

ラマン散乱分光法を用いると、細胞を構成する分子の分子振動を低侵襲で検出することができ、細胞組織内の分子を可視化することができます。このラマン散乱分光法とレーザートラッピング技術を組み合わせると、光圧により捕捉・集積された生体内のリポソームやその内包物質の情報を高感度に計測することが期待されます。 そこで、私たちは神経細胞内に存在するシナプス小胞内の神経伝達物質の定量評価に向け、神経伝達物質内包リポソームを対象にした光計測技術の開発研究を行なっています。本計測法は任意の分子を内包したリポソーム内の分子情報および定量評価が可能なため、ドラッグデリバリーシステムの品質の評価への応用が期待できます。

寺田 侑平 (1, 2)、齋藤 真人 (1, 2)、高松 漂太 (3)、民谷 栄一 (1, 4)
/   (1) 産総研・阪大PhotoBIO-OIL、(2) 大阪大学大学院工学研究科、(3) 大阪大学大学院医学系研究科、 (4) 大阪大学産業科学研究所

私たちの身体を構成する細胞には「糖鎖」が存在し、タンパク質認識を介して病原体の感染や癌の転移などに関わっています。 この糖鎖のタンパク質認識能はバイオセンサーなど生体関連のデバイス開発に向けて魅力的です。特に、高分子に糖鎖をペンダントのようにぶら下げた「糖鎖高分子」という人工材料は、物質として安定で簡便に合成可能です。 本研究では、金ナノ構造を持つセンサーチップの表面に糖鎖高分子を固定し、細胞分泌物であるサイトカインの吸着をチップの吸収スペクトル変化により検出しました。固定する糖鎖高分子の設計を変えることでセンサー感度が向上すると分かり、バイオセンサー開発に糖鎖高分子が有用であると期待されます。

名和 靖矩 (1, 2)、熊本 康昭 (2)、李 梦露 (1, 2)、藤田 聡史 (1, 2)、藤田 克昌 (1, 2)
/  (1) 産総研・阪大 PhotoBIO-OIL、(2) 大阪大学大学院 工学研究科物理学系専攻

私たちは異なる二つの波長で同時にラマン散乱を励起・検出できるライン照明ラマン散乱顕微鏡を開発しました。 本顕微鏡では、これまで困難であった共鳴ラマン散乱と非共鳴ラマン散乱を同時に計測できます。 励起光として、波長532 nmと波長660 nmの光で生きたHeLa細胞のラマンイメージングを行いました。 波長532 nmでは、電子伝達系で重要な役割を担うシトクロムcの共鳴ラマン散乱が計測できました。 同時に、波長660 nmで励起されたタンパク質や脂質からの微弱な非共鳴ラマン散乱も高感度に計測できました。 一度の計測で多くの分子情報が得られるため、画像解析や多変量解析を利用した細胞種の識別や生体サンプルの薬剤応答評価への応用が期待できます。

大﨑 脩仁 (1, 2)、脇田 慎一 (1, 2)、民谷 栄一 (2, 3)/   (1) 大阪大学 工学研究科、(2) 産総研・阪大 PhotoBIO-OIL、(3) 大阪大学 産業科学研究所

小型で迅速にその場で診断を行えるPOCT(Point of Care Testing)機器の開発が求められています。すなわち、これを用いれば、未病状態の把握や日々の健康管理に貢献できると考えられます。 本研究では日々の生活の中でも容易に採取できる唾液を試料として、免疫機能やストレス状態と相関すると考えられる分泌イムノグロブリンA (sIgA)を測定するバイオセンサの開発に取り組んでいます。本研究ではPOCT機器として優位である電気化学測定原理に基づいた金ナノ粒子を抗体標識剤として用いた Gold-Linked Electrochemical Immuno Assay: GLEIAと称する独自技術を用いてポータブル型のイムノセンサを開発しています。 当日はGLEIAの詳細について紹介します。

張 玉寧 (1, 2)、名和 靖矩 (1, 2)、Hao Liu (1, 2)、Fiona Louis (1)、藤田 聡史 (1, 2)、松崎 典弥 (1, 2)、藤田 克昌 (1, 2)
/  (1) 大阪大学 工学研究科、(2) 産総研・阪大 PhotoBIO-OIL

In culturing three-dimensional tissues, including organoids, forming a capillary network is essential to carry nutrients throughout the tissue. For understanding their forming mechanism, fluorescence microscopy has been widely used in the past. However, there is a concern that the staining process may change the properties of the components. We cultured three-dimensional tissues with blood capillary and observed extracellular matrix and endothelial cells associated with vascular network structures in a label-free manner using Raman microscope. Our goal is to develop techniques to create and evaluate a three-dimensional vascular network model by utilizing molecular information obtained by Raman imaging specific to each tissue component.

本多 巧一(1, 2)、石飛 秀和(1, 2, 3)、井上 康志(1, 2, 3)
/  (1) 産総研・阪大 PhotoBIO-OIL、(2) 大阪大学大学院 生命機能研究科、 (3) 大阪大学大学院 工学系研究科

表面増強ラマン散乱(SERS)は、金属ナノ構造体に励起される局在型表面プラズモン共鳴(LSPR)により金属表面近傍にある分子のラマン散乱光強度が増大する現象です。 SERSはラマン散乱光の高感度検出を実現するが、LSPRによる増強度が金属のサイズや構造に依存することから、高い再現性の実現や解析的な予測が困難です。一方、ラマン散乱光は伝搬型表面プラズモン共鳴(PSPR)によっても増強することができます。PSPRは平坦な金属薄膜上に励起されることから、再現性の高い増強ラマンが検出可能で、電磁界解析により定量的に評価することができます。我々はこの増強ラマン散乱効果を高感度なセンシング・イメージングに応用することを目指し、その光学的特性を解明しています。

赤木 祐香 (1, 2)、森 宜仁 (1)、髙山 祐三 (1)、木田 泰之 (1, 2)/   (1) 産総研 細胞分子工学研究部門、(2) 産総研・阪大 PhotoBIO-OIL

細胞から得られるラマン散乱光により、タンパク質や脂質などの細胞内分子の分布や量を計測することができます。しかし、細胞由来のラマン散乱光は微弱であり、細胞内構造による変動の影響を受けやすいため、ラマンスペクトルを用いた非染色での細胞の分類を行うためには、細胞の広範囲領域から高速かつ高感度でラマンスペクトルを得る技術が必要でした。私たちは、高速で細胞の広い範囲にレーザー光を照射するPRESS:Paint Raman Express Spectroscopic systemを開発しました。本研究では、PRESSと機械学習による、ヒトT細胞の活性化状態の分類例を提示します。この技術は、非染色で細胞性状解析が可能であり、創薬スクリーニングへの応用が期待できます。

山本 条太郎 /   産総研 健康医工学研究部門

蛍光標識した標的分子の粒径・濃度・凝集状態を評価可能な、簡易型の蛍光相関分光(FCS)装置を開発し、光ファイバー型FCS(Fiber-optic based FCS, FB-FCS)と名付けました。この装置により、一滴の溶液試料に含まれる特定分子の評価を迅速かつ簡便に行うことができます。この装置を用いて有機蛍光色素や緑色蛍光タンパク質、蛍光標識抗体、蛍光ビーズの測定が可能であることは実証済みです。また、蛍光標識抗体を使用してエクソソーム試料の測定を行い、特定のマーカータンパク質を持つエクソソームのみを特異的に計測することにも成功しています。

千葉 裕介 (1)、吉岡 正裕 (1, 2)/   (1) 産総研 工学計測標準研究部門、(2) 産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ

人体内に照射する診断用超音波の音圧を高めると診断画像の画質は向上しますが、安全性確保のために設定された規制値を超過してはなりません。両立するには、診断用の広帯域超音波の瞬時音圧をより精密に計測する必要があります。原理上それが可能な、ハイドロホン感度の振幅だけでなく位相の周波数特性も用いる方法を実施するための、具体的な手法の確立が本研究の目的です。感度の位相特性を標準供給できる校正機関は限られるため、校正によらず位相特性を得る方法も提案されていますが、それらの方法が瞬時音圧計測結果に及ぼす影響はほとんど研究されていません。この度は異なる方法で得られた感度の位相特性を用いた計測結果を比較しました。

谷 知己/   産総研 バイオメディカル研究部門

光学顕微鏡を用いた単一細胞レベルでの生体機能の解析は、細胞集団中の多様性・不均一性を明らかにする上で欠かせないものとなっています。 我々は、小型魚類などのモデル生物やオルガノイドを丸ごと観察し、神経細胞や免疫細胞など、組織内部の個々の細胞がもつ様々な生体機能を、生きたまま可視化する光学顕微鏡システムを開発しています。 このような光学顕微鏡システムの開発は、再生医学や創薬において様々な応用に利用されることが期待されます。

重藤 元、山村 昌平/   産総研 健康医工学研究部門

細胞、組織中に存在するごくわずかな遺伝子変異やペプチドホルモンなどを簡易、迅速、高精度に検出する新しい分子認識プローブの開発を行いました。 遺伝子変異としては、癌組織や血液中の抗癌剤耐性に関連する変異遺伝子を標的とし、変異を持つ細胞や血中遊離遺伝子を検出することで効率的な診断につながります。ペプチドホルモンとしては、ELISA等の従来法では検出が困難なグルカゴンを標的とし、簡便かつ迅速に検出が可能なプローブの開発を行いました。

橋本 妃菜胡(1, 2, 3)、加藤 大(2, 3)、鎌田 智之(2)、國武 雅司(4)
/   (1)熊本大学大学院 自然科学教育部、(2)産総研 健康医工学研究部門、(3)産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ
(4)熊本大学 産業ナノマテリアル研究所 二次元ナノマテリアル部門

両連続相マイクロエマルション(BME)を薄膜ゲル状にして印刷電極と一体化させることで、電解質溶液を必要としない電気化学システムを開発しました。 BMEは、水と油がどちらも液滴を形成せず両連続に絡み合うように混在した溶液です。 本研究ではBMEの水相側を、支持電解質を含むハイドロゲルにしました。 このBMEゲル一体型電極を測りたい油にそのまま浸すか、油を1滴たらすだけで、BMEの油相側で脂溶性成分を抽出・拡散させ測定可能です。これは食品中の脂溶性抗酸化物質評価への応用が期待されます。

松本 哲郎(1, 3)、丹羽 一樹(2)、増田 明彦(1)、原野 英樹(1)
/   (1) 産総研 分析計測標準研究部門、(2) 産総研 物理計測標準研究部門、(3) 産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ

放射線治療のひとつであるホウ素中性子捕捉療法において治療現場へ産総研計測標準からのトレーサビリティを確立するために使用できる測定システム開発を行っています。 治療レベルの大強度フラックスが測定可能なこと、かつ産総研標準場とつなぐために5桁以上のフラックスのダイナミックレンジが必要です。 本研究では、測定システムの適用範囲を知るために光技術と組み合わせたあたらしい評価方法の開発を行っています。

渡邉 卓朗/   産総研 物質計測標準研究部門、産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ

呼気ガスを分析することで疾患の臨床的検出ツールとして用いることを目指し、様々な研究が行われています。 呼気ガスには非常に多くの種類の揮発性有機化合物(VOC)が含まれており、それらが生体内の代謝により合成されているためです。呼気ガスに含まれるVOCの種類やそれらの濃度について、健常者のものと患者のものとを比較することで、疾患の有無等を判別できる可能性があり、一部の疾患については臨床の現場で使用されています。重篤な疾患である癌疾患のスクリーニングを目的とした研究も行われています。本発表では、癌疾患スクリーニングを目的とした呼気ガス分析の現況と、臨床の現場での使用阻害要因について述べます。

11:デバイス・装置  (P083-P090)                      

田口 剛輝(1, 2, 3) 、植村 隆文(1, 3)、難波 直子(3)、Andreas Petritz (4)、荒木 徹平(1, 2, 3)、杉山 真弘(1, 2, 3)、関谷 毅(1, 2, 3)
/  (1) 大阪大学 産業科学研究所、(2) 大阪大学大学院 工学研究科、(3) 産総研・阪大 PhotoBIO-OIL、 (4) Joanneum Research

有機トランジスタは柔軟性や生体調和性を有しており、心電センサなどのフレキシブルな生体センサデバイスに向けた集積回路に応用されてきています。 集積回路において所望の信号処理を行うためには、複数の特性を持つ有機トランジスタを用いることが望まれます。本研究では、トランジスタの重要な特性の一つである閾値電圧(Vth)に着目しました。感光性ポリマーを絶縁膜として用いることで、Vth 制御の紫外光パターニングを可能にし、集積回路への応用可能性を示しました。 さらに、絶縁膜を薄膜化することで低電圧駆動を実現し、ウェアラブルデバイスへの応用可能性を示しました。本研究の成果は今後のフレキシブル生体センサの開発に貢献すると期待されています。

南木 創、栗田 僚二/   産総研 健康医工学研究部門

我々は、優れた可搬性・定量性を有するトランジスタ(電子デバイス)上に分子認識場を構築することで、分子間相互作用を電気信号によって読み出すことができる化学センサデバイスの開発に取り組んでいます。 当該デバイス中の分子認識場におけるナノ構造を巧みに制御することで、センサの選択性をオンデマンドに調節し得る手法を見出しています。 本成果は、多岐に渡る標的分子(バイオマーカー・環境指標物質など)の動態を「いつでも・どこでも」、「定量的かつ網羅的に」解析可能とする新たな分子計測基盤の創出へとつながるものと考えています。

張 嵐(チョウラン)(1, 2)、魯 健 (1)、松本 壮平 (1)/   (1) 産総研 デバイス技術研究部門、(2) 産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ

本研究は、新生児と高齢者向けの採尿ケアに関連した問題点を洗い出し、現場ニーズを明らかにする共に、尿量(尿漏れの報知)、及び尿中の成分をリアルタイムに計測できるセンサシステムを提案します。 新生児及び高齢者を対象とした採尿処置を実現するために、非接触式センサ電極のパターン形成技術、リアルタイムモニタリング用ディスポーザブル測定回路及び無線通信技術を開発します。排尿タイミングを報知、尿量を記録するデバイスの社会実装可能性を検討します。高安全性、非侵襲性、低コスト且つ操作性の良いシステムの技術検討を行うと共に、国内の大学や病院など医療現場における該システムの有用性についても検討します。

杉山 真弘(1, 2, 3)、植村 隆文(1, 3)、近藤 雅哉(1, 2, 3)、秋山 実邦子(1)、難波 直子(1, 3)
吉本 秀輔(1)、野田 祐樹(1)、荒木 徹平(1, 2, 3)、関谷 毅(1, 2, 3)
/   (1) 大阪大学 産業科学研究所、(2) 阪大院工、(3) 産総研・阪大 PhotoBIO-OIL

医療・ヘルスケア用途の生体計測装置は、これまで、硬い無機材料で構成されていました。しかし、硬い素子や部品が柔らかい肌などの生体組織に長時間触れると炎症を起こしやすいため、日常生活の中で長期間、生体情報を計測することは困難でした。そこで私たちは、有機薄膜トランジスタという柔軟な電子素子を厚さ1マイクロメートルの極めて薄いフィルム基板上に集積することで、装着感の少ないフレキシブル生体計測回路を開発しました。開発したセンサを用いて、実際に心電図を高精度に計測することに成功しました。本成果によって、自身の生体情報をこれまで以上に簡便かつ長期間にわたって計測することが可能になると期待されます。

森 宣仁、赤木 祐香、髙山 祐三、木田 泰之 /   産総研 細胞分子工学研究部門

細胞を3次元的に組立てた3次元組織は、創薬支援ツールとして開発が進められています。しかし従来の技術では3次元組織に灌流可能な大血管(主血管)と、そこから分岐する毛細血管の両方を構築するのは難しく、組織内部における酸素・栄養の供給や、薬剤の注入及び代謝産物の取り出しといった物質交換が十分に行えませんでした。そこで本研究では、外部ポンプと組織のインタフェースとして機能する灌流デバイスを用いることで、主血管及び毛細血管を持つ3次元組織を構築することに成功しました。この血管を通じて酸素・栄養供給や薬剤の注入といった物質交換を行うことに成功しました。このような血管付き組織は創薬における薬剤評価に利用可能と期待されます。

井手 大輝(1, 2)、齋藤 真人(1, 2)、青枝 大貴(3)、高松 漂太(4)、Wilfred Villariza Espulgar (1)
細川 正人(5)、松永 浩子(5)、有川 浩二(5)、竹山 春子(5, 6, 7)、民谷 栄一(2, 8)
/  (1) 阪大院工、(2) 産総研・阪大 PhotoBIO-OIL、(3) 阪大微研、(4) 阪大院医
(5) 早大 ナノライフ創新研、 (6) 早大院 先進理工、(7) 産総研・早大 CBBD-OIL、(8) 阪大産研

ウイルス、腫瘍を特異的に排除する免疫応答を活性化させる抗原特異的T細胞は、疾病の根本的な診断・治療法の実現に応用できると考えられています。しかし、あらゆる疾病に対処するためT細胞の多様性は膨大なので、抗原特異的T細胞の検出解析は困難であることが知られています。本研究では、独自開発したマイクロ流体デバイスを用いて、抗原提示細胞(APC)との相互作用に伴うT細胞内のCa2+濃度変化を一細胞レベルで測定し、抗原特異的T細胞の検出を試みました。測定後に任意のT細胞を一細胞回収しRNAシーケンスを行った結果、細胞内Ca2+シグナルという普遍性の高い初期免疫応答と、遺伝子発現という表現型の関連性を示唆する結果を得ました。

平間 宏忠/   産総研 人間拡張研究センター、産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ

がんを中心として、長期に渡って診断から治療までが必要となる疾病では、その期間のQoLの維持・向上が重要です。またその実現のためには、専門の検査センターでの検査や通院以外、すなわち自宅や日常生活における無意識化での診断や治療を実現することが重要となります。本プロジェクトでは、これらを実現するデバイス技術を開発します。本技術により、遠隔かつ専門機関や病院への通院なしに、生体情報を取得し、得られた情報をもとに専門家が診断することができ、さらに必要なタイミングで薬剤投与し治療できる、QoLの高い総合的な医療システムおよびサービスの構築に貢献することを目指します。

高根 慧至(1, 2, 3) 、野田 祐樹(2) 、豊嶋 尚美(2) 、関谷 毅(1, 2, 3)
/   (1) 産総研・阪大 PhotoBIO-OIL、(2) 大阪大学 産業科学研究所、(3) 大阪大学大学院 工学研究科

ストレッチャブルエレクトロニクスは、従来にない伸縮性のある電子デバイスを実現できるため期待が高まっています。 本研究では、ひずみ下でも安定した導電性を有するストレッチャブル電極の実現に向け、マクロスケールのメッシュ構造を有する金ナノワイヤ(AuNW)ネットワーク電極を作製し、抵抗値変化とそのメカニズムを調査しました。 150%伸長時の相対抵抗値変化は、メッシュ構造のない通常のAuNWネットワークでは30 であったのに対し、メッシュ構造の形成によって11 まで抑制されることを確認しました。また微細構造解析モデルによって、メッシュ構造を有するAuNWネットワーク電極の抵抗値変化は、電極の伸長方向とメッシュ状ナノワイヤネットワークを流れる電流方向に依存することが明らかとなりました。実験および解析結果によって、ナノワイヤネットワークを用いたストレッチャブル電極を作製する際の理想的なメッシュ構造のデザインの指針を提案しました。

12:情報工学  (P091-P092)                      

森下 雄一郎(1, 2)、清水 森人(1)、山口 英俊(1)、川口 拓之(2, 3)、坂無 英徳(4)、高橋 直人(4)、中田 秀基(4)
/  (1) 産総研 分析標準研究部門、(2) 産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ
(3) 産総研 人間情報インタラクション研究部門、(4) 産総研 人工知能研究センター

放射線によるがん治療は、体内に存在する腫瘍に正確な線量を処方することで達成されます。 このためには人体中の線量を計算する必要があり、モンテカルロ法(MC)による線量計算が最も信頼性の高い方法と考えられていますが、実際には膨大な時間、もしくは、計算リソースが必要なため、病院では行われていません。本研究では、MCにより計算した線量分布を教師データとして、任意の人体について、機械学習で線量分布が予想できるかを調べます。最終的には病院で手軽に正確な線量分布を得られるようなソフトウェアを作ることを目標としています。

川口 拓之 (1, 2)、山田 亨 (1)/   (1) 産総研 人間情報インタラクション研究部門、(2) 産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ

超音波計測、近赤外分光計測、経頭蓋磁気刺激法のように身体内部の局所を体の表面から治療・診断をするための医療機器が開発されています。ただし、診断/治療の対象となる体内組織の位置は身体表面から視認が不可能なため、所望の位置に診断/治療器具を誘導することが難しいか、大掛かりな機材を要していました。私たちは、この課題を解決するために、拡張現実を用いた体外器具のナビゲーションシステムの研究開発を進めています。この研究開発により、診断・治療の器具装着の簡易化と高速化、同一部位の経時的変容の評価が可能となります。また、上記の医療用装置は小型化が進んでいることから、遠隔医療や在宅医療の中心的なツールとなる可能性があります。

13:製造技術  (P093-P096)                      

中山 篤志(1, 2)、田口 敦清(3)、藤田 克昌(1, 2)/   (1) 大阪大学大学院 工学研究科、(2) 産総研・阪大 PhotoBIO-OIL、(3) 北海道大学電子科学研究所

私たちは深紫外域九州を利用した3次元光ナノ造形装置の開発を行い、3次元バイオプリンティングへの応用を試みています。従来では近赤外光による2光子重合反応を利用して3次元ナノ造形が行われているのに対して、本研究では可視光の2光子重合反応を利用することで、生体材料を直接励起して光重合反応を起こすことができます。開発技術では、近赤外光を用いた従来法で必要された光重合開始剤・増感剤の添加が不要になり、生体材料のみを単独に原料として、より生体適合性の高い3次元微細構造の作製が可能です。また、利用できる生体材料の拡大(タンパク質やセラミックス)や、加工分解能の向上(80 nm)を達成します。

亀谷 太一(1)、久保田 智巳(2)、佐藤 努(1)/   (1) 新潟大学 農学部、(2) 産総研 バイオメディカル研究部門

テルペン環化酵素は、イソプレノイドなどの非環状の基質を複数の環状骨格を有する化合物に変換する酵素で、医薬農薬香料などで有用な環状テルペノイドの合成に利用可能です。本研究では、その中でも龍涎香の主成分であるアンブレインの合成活性を有するバシラス属由来の酵素を対象とし、構造解析を行なっています。特にアンブレイン合成活性を強化した変異体の変異の機序を解析し、より高いアンブレイン活性を持つ酵素の創出を目的としています。

三重 安弘(1)、安武 義晃(1, 2)/   (1) 産総研 生物プロセス研究部門、(2) 産総研・早大 CBBD-OIL

医薬品等の有用物質の生産や構造改変において、酵素反応を利用することは特異性や環境負荷などの点で大変優位ですが、産業上有用な酵素反応の中には複雑な電子共役系を必要とするものも多く実用への課題となっています。 一方、電気化学法は電子移動反応制御に好適で安価なシステムを構築可能であり再生可能エネルギー由来の電力を利用できることから、電極を用いて電気化学的に酵素反応を駆動・制御することは、SDGsに資する物質生産システムの基盤技術として期待されています。しかしながら、その制御は種々要因により困難であるため、私たちはそれらを解決して当該概念を可能にする技術開発を進めています。

大矢根 綾子 (1, 5)、坂巻 育子 (1)、中村 真紀 (1, 5)、奈良崎 愛子 (2, 5)、蔀 佳奈子 (3)、田中 佐織 (4)、宮治 裕史 (4)
/  (1) 産総研 ナノ材料研究部門、(2) 産総研 電子光基礎技術研究部門、(3) 北海道医療大学 歯学部
(4)北海道大学大学院 歯学研究院、(5) 産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ

アパタイト等のリン酸カルシウム(CaP)は優れた生体親和性と骨伝導性を示す生体材料です。 発表者らは近年、簡便・迅速で部位選択的なCaP成膜技術を開発しました [1]。同技術によれば、1段階・数十分の工程で様々な材料表面の標的部位にCaPを成膜できます。 また、CaP膜にフッ素や亜鉛を添加することで、膜機能(抗菌性、耐酸性、骨形成促進機能等)の付加・向上も可能です。
本研究では、抜去歯牙より作製されたヒト象牙質基材の表面にフッ素アパタイトを成膜することで、歯面に抗菌性を付与しました [2]。 また、セメント質およびエナメル質基材への成膜も確認しました。本成膜技術は、う蝕や歯周病の予防・治療技術への応用が期待されます。

14:材料  (P097-P102)                      

寺村 裕治、須丸 公雄/   産総研 細胞分子工学研究部門、産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ

細胞外小胞の一種であるエクソソームは、細胞間相互作用のシグナルとして生命現象に関わっていることが近年明らかにされており、疾患マーカーや治療への応用が期待されています。 これまでに、エクソソーム単離には、主として超遠心分離法が用いられていますが、より簡便な分離方法が求められています。 私たちは、機能性ペプチドと脂質との結合材料による表面修飾を利用して,超遠心分離を用いないエクソソームの精製を目指しています。 本研究では、エクソソームのモデル材料としてリポソームを用い、材料の諸物性(ポリマー鎖長と脂質のアシル鎖長)がリポソームの基材表面への吸着・脱着に与える影響を調べ、分離に適した材料設計を調べることを目的としています。

杉浦 悠紀(1, 2)、堀江 祐範(1)、槇田 洋二(1)/   (1) 産総研 健康医工学研究部門、(2) 産総研 次世代治療・診断技術研究ラボ

本研究では抗菌性を示す骨補填材の創製を目的とし、Agの高い抗菌性を維持したまま、深刻な欠点である変色性、細胞毒性を減らして、新規骨補填材の基板材料として期待されるリン酸八カルシウム(OCP)に担持する手法について提案します。 骨は本来無菌的な組織であり、感染に非常に弱いものです。これを裏付けるように、骨に関する外科手術においては、凡そ数%の割合で術後感染が起き、予後不良となります。 特に骨欠損部を骨補填材で再建した場合、骨補填材自体が感染に無力であることから、何らかの要因で付着した菌が増殖し、ここが感染巣となり、重篤化するという課題を抱えています。DCPDをAg含有塩基性リン酸緩衝溶液で加水分解すると、OCP結晶構造中の特定サイトにAgを効率的に担持する手法を見出しました。 本検討で調製したOCP-Agは、優れた接触抗菌性を示す上に、培地に浸漬しても変色せず、また骨芽細胞への細胞毒性について軽減するだけでなく、ALP活性を増大させることに成功しました。 本検討は、すべて安価な試薬のみで調製可能であり、またワンポットで、難しい、高価な設備無しに調製可能です。

澤口 隆博(1)、田中 睦生(2)/   (1) 産総研 健康医工学研究部門、(2) 埼玉工業大学

近年、生体関連物質の高効率検出を目指すバイオセンサーやセンサチップ、タンパク質の非特異吸着の抑制など生体適合性が要求される医療機器などの開発において、測定溶液が接触する表面の特性が重要であることが明らかになってきています。私たちは、機能性表面修飾分子を用いて単分子層レベルで空間的に構造制御されたナノ構造分子膜を構築し、溶液中その場観察による表面構造の分子レベル解析と表面機能評価、実用的に有望な表面材料及び薄膜化技術の開発を進めています。

中山 敦好、山野 尚子、川崎 典起、中村 努/   産総研 バイオメディカル研究部門

海洋プラスチックごみ問題の解決の一手段として生分解性プラスチックが期待されており、海洋用途での普及を図るためには海洋生分解性の認証制度の整備が重要です。そのための試験法として、実際の海洋環境で確かに生分解・消滅するという実証試験が必要とされる一方で、新規に開発される生分解性樹脂が生分解性を有しているか否かを判定する試験も求められています。ここでは短い期間で評価できる新たな生分解標準試験法(ISO)を提案するため、生分解に影響する因子の解明とその最適化、用いる海水の活性化について検討しました。

川崎 典起(1)、中山 敦好(1)、山野 尚子(1)、中村 努(1)、藤岡 慎司(2)、林 龍太郎(2)/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) (株) プラステコ

持続可能な社会の実現には化石資源からの脱却、バイオマスの活用が重要であり、ポリ乳酸はもっとも期待されているバイオプラスチックです。 しかしながら、フィルム、シート、射出成形品、繊維などでは実用化されていますが特性上の問題から、発泡材料への成形は遅れています。 ここでは超臨界CO2押出成形によるポリ乳酸発泡体の作成と生分解性を含む物性について調べました。

増井 昭彦(1)、岡村 秀雄(2)、川崎 典起(3)、山野 尚子(3)、中山 敦好(3)
/  (1) (地独) 大阪産業技術研究所 応用材料化学研究部、(2) 神戸大学内 海域環境教育研究センター、(3) 産総研 バイオメディカル研究部門

ポリアミド4(PA4)は、高い海洋生分解性と優れた物性を持つ材料として期待されていますが、成型加工性に難があります。また、一般に生分解性プラスチックは、外部から微生物等の作用により生分解が進行し、使用中においても徐々に物性が劣化します。そこで、これらの問題の解決を目指して、PA4と既存の生分解性ポリエステルとのコンポジット、及び可視光応答性光触媒とのコンポジットを作製し、海洋生分解性と光照射条件下での抗菌性を評価しました。


(注)発表者のご所属欄中、国立研究開発法人、独立行政法人、地方独立行政法人、学校法人等の名称は省略、 また、農業・食品産業技術総合研究機構は農研機構、理化学研究所は理研、産業技術総合研究所は産総研と省略して記載させて頂いております。ご了承ください。