産技連 ライフサイエンス部会 バイオテクノロジー分科会/
関東甲信越静地域部会 食品・バイオ分科会
  研究成果・実用化事例発表会(2019.05.29)

(会場:産総研つくばセンター共用講堂、2F大会議室)

  10:00- 10:05 
 開会挨拶                                     産技連 ライフサイエンス部会長/バイオテクノロジー分科会長
(産総研 イノベーションコーディネータ)  新間  陽一 
  10:05- 10:25 
《講演1》
「食餌時刻の乱れと筋萎縮」
産総研 バイオメディカル研究部門 生物時計研究グループ
研究員  安倍  知紀
《講演概要》【背景・目的】骨格筋量の減少は、ロコモティブシンドローム発症の原因となる。骨格筋量を維持するためには、食事と運動が重要であると考えられている。本研究では、食餌時刻の違いが骨格筋に与える影響について、マウスを用いて検討を行った。 【方法】8週齢の雄性C57BL/6Jマウスを明暗各12時間の条件下で飼育し、活動期(暗期)または非活動期(明期)に8時間のみ摂餌可能なNF(nighttime feeding)及びDF(daytime feeding)群の2群間での比較を行った。【結果】時間制限給餌1週間後における活動リズムは、食餌のタイミングに依存せず、両群ともに夜行性が維持された。NF群に比べてDF群では、1日あたりの活動量の低下が認められ、腓腹筋重量や握力も有意に低値を示した。 活動期における血中IGF-1濃度は、NF群に比してDF群で低値を示した。活動期に絶食するDF群では、NF群に比べて、腓腹筋における筋タンパク質分解関連遺伝子(Atrogin-1、Murf1)の発現量が顕著に増大した。IGF-1の腹腔内投与は、DF群におけるAtrogin-1の発現増大を抑制した。 【結論】活動期の絶食は、血中IGF-1濃度の低下を介して骨格筋の萎縮を引きおこす可能性が考えられた。
  10:25-10:45 
《講演2》
「NMRの計測的利用を起点とした腎臓病患者のQOL改善」
産総研 バイオメディカル研究部門 生物時計研究グループ
主任研究員  根本  直
《講演概要》我々は、2005年よりNMR(核磁気共鳴分光)を計測的に利用し、統計的パターン認識と探索解析を組み合わせたNMR-メタボリック・プロファイリング(MP)法の開発と応用化を行ってきた。
この手法は、一連の目的変動を含むと思われる試料20程度をそのまま重溶媒に溶かし、それぞれの「高品質な」1次元プロトン・スペクトルを取得することから始める。NMRスペクトル解析の知識は必要無く、混合物スペクトルを数値化・次元圧縮によって散布図にして、データ分布の構造を探索して直接情報を抽出する。特徴量の抽出することで、状態を把握し、複数メカニズムの推定や次の一手を示すことができる。 今日の日本で慢性腎臓病(CKD)の予備軍は1千万人に達するとされ、最近の腎疾患の年間医療費は1兆5346億円と算定されている。(H26「国民医療費の概況」厚労省) CKDは重症化すると血液人工透析が必須になるが、その廃液をNMR測定すると透析液を構成する分子に加えて老廃物分子などが直接かつ経時的に観測できる。血液透析過程を定量的に把握することはほとんど行われて来なかったが、NMR計測により、透析時の生理的状況がわかってきた。 NMRによる透析廃液の解析を起点として、腎臓病患者のQOLを上げる取り組みの広がりについて報告する。
 10:45-11:05 
《講演3》
「スフィンゴ糖脂質の動態に着目したローカーボ・ケトン食の分子作用の研究」
産総研 生物プロセス研究部門 バイオデザイン研究グループ
主任研究員  奥田  徹哉
《講演概要》低炭水化物・高脂肪を特徴とするローカーボ・ケトン食(LCKD)は、その摂取により血中にケトン体を産生させることを主な特徴とする特殊な栄養食である。難治性てんかんの抑制効果があることから2016年に保険適用されており、近年では糖尿病などの生活習慣病の改善への応用も試みられている。しかしながら、その作用機構については不明な点が多く残されており、安全かつ有効な活用のための基礎研究が必要とされている。 我々は食餌の影響を評価し易い過食性肥満マウス(ob/ob)を用いたLCKD摂取モデルを確立し、その組織での分子発現の変化を解析している。特に肝臓、血清、脳組織に発現している複合糖質分子に着目した研究を進めており、LCKD摂取によりこれらの組織に発現するスフィンゴ糖脂質が増加することを新たに見出した。 関連する代謝系遺伝子の発現変化と相関してスフィンゴ糖脂質が増加していることから、LCKDの摂取は関連遺伝子の転写制御を作用点としてスフィンゴ糖脂質の発現量を制御すると考えられる。 増加するスフィンゴ糖脂質は遺伝性てんかんやインスリン抵抗性に関わることから、LCKDの標的分子としてその病態改善効果にも寄与していると推察している。
 11:05-11:25 
《講演4》
「核内受容体をターゲットとした食品の機能性評価」
産総研 生物プロセス研究部門 総括研究主幹  森田  直樹
《講演概要》核内受容体は転写因子一種で、様々な遺伝子、特に健康増進や疾病予防に関連している遺伝子の発現を調節する役割を担っています。この核内受容体は、活性化物質が結合すると転写因子としての機能を発揮するようになります。 よって、食品中に「核内受容体と結合する成分があるか」、「どの核内受容体をどれくらい活性化するか」を調べることで、食品の機能性を評価することが可能です。例えば、ある食品に核内受容体PPARγを活性化する成分が含まれていることがわかれば、その食品はメタボリックシンドロームの予防や改善を担う機能性があると予想できます。 産総研では、「核内受容体レポーターアッセイ」という手法を用いて、核内受容体活性化能を評価しています。食品抽出物を核内受容体レポーターアッセイに供して核内受容体活性化を網羅的に調べることで、食品にどのような機能性が期待できるかについて絞り込みができます。 このことは、特に既知有効成分の含有量等の機能性に関する情報が全くない試料の場合に、機能性を調べる糸口としてとても有用であり、従来に比べ機能性評価のコストと時間を短縮することができます。 本発表では、この核内受容体を利用した細胞ベースの食品機能性評価法を、実例を交えて紹介します。
 11:25-11:30 
閉会挨拶
ライフサイエンス部会副部会長(産総研 イノベーションコーディネータ) 三宅  正人

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