ポスター発表一覧    /LS-BT2018

ポスター発表は下記のカテゴリー毎に分類しております。


  1. 情報工学
  2. 遺伝子工学
  3. 生体高分子
  4. 再生医療
  5. 創薬
  6. 疾患
  7. がん
  8. 写真
  9. 生体計測
  10. 医療機器
  11. 微生物
  12. 農水産
  13. 食品
  14. 環境

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1:情報工学  (P001-P005)

Pui Shan Wong(1), Kosuke Tashiro(2), Satoru Kuhara(2), Sachiyo Aburatani(1,3)/
   (1) Biotech. Res. Inst. for Drug Discovery (BRD), AIST, (2) Graduate School of Bioresource and Bioenvironmental Sciences, Kyushu University, (3) Com. Bio Big Data Open Innovation Lab. (CBBD-OIL), AIST

With the advancement of transcriptome sequencing in time-series comes the ability to study the sequential changes of the transcriptome. Here, we present a new method to augment regulation networks accumulated in literature with transcriptome data gathered from time-series experiments to construct a sequential representation of transcription factor activity. We apply our method on a time-series RNA-Seq data set of Escherichia coli. as it transitions from growth to stationary phase over five hours and analyze the changes in metabolic activity of the pagP gene and associated transcription factors during phase transition. The visualization of the transcriptional activity describes the change in metabolic pathway activity originating from the pagP transcription factor, phoP. We observe a shift from amino acid and nucleic acid metabolism, to energy metabolism during the transition to stationary phase in E. coli.

上野 豊、藤岡 祐次、小林 聖幸/   産総研 バイオメディカル研究部門

構造生物学におけるタンパク質立体構造データが増加し、分子間相互作用のアニメーションによる理解が普及している。汎用の3次元CGソフトblenderは高機能なフリーソフトであり、教育や学術だけでなく生物産業的にも有用となってきた。これまでに、タンパク質動態をポリゴンモデルで構築し、その一部は科研費・分子ロボティックスの研究開発に応用してきた。アクチンミオシン相互作用、微小管キネシン相互作用、アミラーゼ加水分解反応の試作を経て、DNA、骨格筋や平滑筋の分子モデルとその動作モデルの構築を進め、分子人工筋肉の研究開発に利用している。分子動力学や基準振動解析の結果から構成した分子の動きはmotion capture format (BVH) ファイルを採用して部品化し、骨格アニメーションで表現している。また、物理シミュレーションを利用した動作の付与も活用していく。
http://staff.aist.go.jp/yutaka.ueno/blend

齋藤 裕(1,2)、光山 統泰(1)/   (1) 産総研 人工知能研究センター、(2) 産総研 CBBD-OIL

High-throughput chromosome conformation capture (HiC)はエピゲノム実験技術の1つであり、クロマチン構造におけるゲノム領域の3次元的なコンタクトを測定する手法である。HiCにより、例えば、配列上で離れた領域にあるエンハンサーとプロモータのコンタクト、DNAの複製や修復において形成されるクロマチン構造ドメインなど、ゲノムの様々な機能的3次元構造を検出することができる。大量のHiCデータから効率よく生物学的な知見を得るためには、計算機による情報解析が必要不可欠である。本研究では、HiCデータの新しい解析アルゴリズムCoseargeを開発し、統計的に有意な3次元共局在を示す遺伝子セットの網羅的な探索を行った。これにより、多くの共局在遺伝子は複数のtopologically associated domain (TAD)にまたがって存在することが明らかになった。それぞれの共局在遺伝子セットは特徴的なヒストン修飾や転写因子結合パターンを示しており、機能を有するクロマチン構造である可能性が高い。

2:遺伝子工学  (P006-P010)

玉野 孝一/   産総研 生物プロセス研究部門

微生物が生産する遊離脂肪酸やその誘導体には、医薬品やその原料などに利用可能なものがある。そこで物質生産能力に優れた麹菌Aspergillus oryzaeを用いて、その代謝を遺伝子組換えにより改良することにより、遊離脂肪酸の生産性向上に以前の研究で取り組んだ。その結果、アシルCoA合成酵素遺伝子faaAの欠失により、生産性を野生株の9.2倍に向上させることができた。そこで今回はFFAの高機能化に取り組んだ。
麹菌faaA欠失株は、パルミチン酸・ステアリン酸・オレイン酸・リノール酸の4種類の遊離脂肪酸を生産する。これらのうち最も高度不飽和なリノール酸を起点として、さらに高度不飽和で高機能な遊離脂肪酸への変換に働く酵素遺伝子3種類を、麹菌以外の微生物から単離してfaaA欠失株に導入した。その結果、いくつかの種類の高度不飽和遊離脂肪酸の生産が確認された。

三谷 恭雄(1)、近江谷 克裕(2)/   (1) 産総研 生物プロセス研究部門、(2) 産総研 バイオメディカル研究部門

生物発光に由来する発光タンパク質は、顕微鏡の高感度化と相まって急速に応用研究が進められ、インパクトの高い成果を生みつつある。生物発光といえば、ホタルが最もなじみ深い種であることは古典の世界の記載からも想像される。なじみ深さとは、すなわち、身近に数多く見られる(見られた)ということでもあり、事実、ホタルは、サイエンスにおける知見が最も蓄積している発光生物種の一つに数えられる。その一方で、入手困難な稀な発光生物、特に海棲発光生物については、多くの場合に断片的な記載しかなく、まして発光分子機構など全く知られていない種が多く残されている事実は、あまり広く知られていない。応用研究に光があたりがちな生物発光研究にあって、なじみのない生物の発光機構解明への挑戦がもたらした、全く新しい発見も含めた我々の取り組みの一端をご紹介させていただく。

川崎 陽久(1)、伊藤 薫平(2)、石田 直理雄(1,3)/   (1) 国際科学振興財団 時間生物学研究所、(2)筑波大学 生命環境、(3)産総研 TIA NPF

我々はまずパーキンソン病モデルショウジョウバエの作製を行った。 この目的で神経特異的プロモーターELAVとUAS/GAL4ベクター系をもちいて、ヒトα-synucleinとα-synuclein アミノ酸配列異常A30Pを強制発現するショウジョウバエを作製した。これら作製した組み替え型のショウジョウバエは、正常のハエに比べてクライミングアビリティー(はい上がり行動)低下が早期に見られる。また、寿命は正常のショウジョウバエより短かった。これらパーキンソン病モデルショウジョウバエを用いて、クライミングアビリティーと寿命を指標とし、これを改善する低分子のスクリーニングを行った。
その結果、南アフリカ原産のアイスプラント(Mesenbryanthemum crystallinum)由来の成分1種と、既存の漢方薬の2種のがパーキンソン病モデルショウジョウバエの睡眠と病態を改善したのでこの結果について報告する。

長崎 晃(1)、加藤 義雄(1)、上田 太郎(2)/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 早稲田大学

哺乳動物においては2種類の細胞質アクチンが存在するが、アミノ酸配列上の違いはN末端に存在する4アミノ酸のみであり、これらアイソフォームが機能的に分化しているのかは未だ議論の余地がある。そこで、各アイソフォームの機能を明らかにするため遺伝子編集によるノックアウト株の作成を試みた。
一方、CRISPR/Cas9システムにより比較的簡便な遺伝子改変技術が開発されてきたが、遺伝子破壊による表現型が現れない場合、また遺伝子破壊により致死に至る場合、既存のCRISPR/Cas9システムではノックアウト株の判定や致死の判断が困難であり、現状では得られた多量のクローンのスクリーニングが避けられない。そこで、我々は簡便かつ高効率にノックアウト株の取得が可能となるベクターの開発を試みた。構築する遺伝子編集ベクターはCas9とsgRNAの両者の発現ユニットを有するシグルベクターとし、セレクションマーカーは蛍光タンパクを融合したブラストサイジン耐性遺伝子(EGFP-Bsr)とした。Bsrの高い選択性により、24時間で形質転換体を確実に濃縮するとともに、EGFP蛍光による視認性によって形質転換効率が確認できる。次に選択後直ちに薬剤を除去することによって導入したベクターを細胞から脱落させ、遺伝子編集技術上の懸念であるベクターのゲノムへの挿入を防ぐ。得られたクローンにおけるベクターのゲノム挿入の有無はEGFP-Bsrの蛍光によって簡便に確認が可能である。また、sgRNAの発現効率を上げるためsgRNAの内部に存在するTTTT配列を除去し、さらにpolIIIプロモーター直下にType IIS制限酵素の認識配列を配したため標的配列のクローニングが容易である。
本研究において構築した遺伝子編集ベクターを用いて各細胞質アクチンのノックアウトアウト細胞の作成を試みたところ、一度のトランスフェクションで非常に効率よくノックアウト株の取得に成功したので報告する。

大西 恵、◯清末 和之/   産総研 バイオメディカル研究部門

Exogenous gene expression in neurons is an essential and indispensable technique for testing genes of function. There are many ways to express exogenous genes in neurons, but they have limitations. For example, Lentivirus vector is useful in high efficiency of gene transfer to neuron and make their expression stable via genome integration, but it has a limitation in gene size to transfer and ways of use. Epstein Barr virus (EBV) based vector is a useful vector in human cell lines because the vector is not integrated to host genome and stay in a cell as an episome and transfer the gene to daughter cells with its duplication during host cell’s division. Although the replication in a neuron is unnecessary, a feature of episome will be favored for exogenous gene resident in a neuron.

Arturo Magana-Mora(1), Manal Kalkatawi(2), Vladimir Bajic(2)
/   (1) Com. Bio Big-Data Open Innovation Lab (CBBD-OIL), AIST, (2) Computational Bioscience Research Center (CBRC), KAUST

Polyadenylation is a critical stage of mRNA processing in the formation of mature mRNA. The correct identification of poly(A) signals (PAS) helps to elucidate: 1) 3’-end genomic boundaries of a transcribed DNA region, 2) gene regulation mechanisms, 3) multiple transcript isoforms resulting from alternative PAS and, 4) identification of transcripts containing premature termination codons. Here, we analyzed human genomic DNA sequences and identified a set of features that helps in the recognition of true PAS, which may be involved in the regulation of the polyadenylation process. The proposed features, in combination with a recognition model, resulted in a novel method and tool, Omni-PolyA, freely available at www.cbrc.kaust.edu.sa/omnipolya/. Results show that Omni-PolyA significantly reduced the average classification error rate by 35.37% relative to the state-of-the-art results.

岡内 宏樹(1, 2)、大石 勝隆(1, 2, 3)/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 東京理科大学大学院、(3) 東京大学大学院

【背景】シフトワーカーや朝食欠食者には肥満者の割合が高いことが知られており、摂食リズムの乱れは肥満の原因になるものと考えられる。これまで我々は、明期(非活動期)の時間制限給餌がマウスにおいて肥満を促進することを報告してきた(Metabolism, 2016)。今回は、時間制限給餌による肥満促進の分子メカニズムを明らかにする目的で、時計遺伝子Clockの変異マウス(Clk/Clk)を用いて時間制限給餌を行った。
【方法】ICR系統の野生型(WT)及び同腹仔のClk/Clkマウスを回転かごの付いたケージで飼育し、暗期(NF)または明期(DF)の8時間のみに高脂肪高ショ糖食を与える時間制限給餌を10日間行なった。
【結果】WTマウス、Clk/ClkマウスともにNFに比べてDFで有意に体重が増加したが、その差はWTに比べてClk/Clkで小さくなった。精巣上体の白色脂肪組織重量は、WTとClk/ClkともにNFよりもDFで有意に高値であった。摂餌時刻における血中インスリン濃度は、WT、Clk/ClkともにDFで高値を示した。肝臓中の中性脂肪はWT、Clk/ClkともにNFに比べてDFで有意に高値を示した。
【結論】Clock変異マウスを用いた解析から、明期時間制限給餌による肥満の促進においては、時計分子CLOCKの関与は限定的であると考えられた。

3:生体高分子  (P011-P019)

高田 英昭/   産総研 バイオメディカル研究部門

染色体の凝縮異常は、癌をはじめとする様々な疾患と関係することから、染色体凝縮のメカニズムの解明や染色体凝縮を定量的に評価するシステムの医療分野への貢献が期待できる。分裂期の染色体凝縮にはマグネシウムイオンやカルシウムイオンといった二価陽イオンが関与することが示唆されているものの、その機能については不明な点も多い。本研究では、細胞内のカルシウムイオン濃度を変化させ、クロマチン凝縮の変化を測定することで、二価陽イオンが分裂期の染色体凝縮に関わっているかどうかを検証した。細胞内のDNAの凝縮状態を高感度かつ定量的に解析するために、FLIM-FRET法を用いてEGFPの蛍光寿命を測定するシステムを構築した。本システムを用いることで、二価陽イオンが、実際に生きた細胞内においても細胞分裂時の染色体凝縮に直接関与することを初めて明らかにした。また、細胞内のカルシウムイオンの欠乏により染色体の整列異常や分裂期の進行遅延といった細胞分裂異常が生じることも明らかとなった。このことから、カルシウムイオン濃度の低下によってDNAの正常な染色体への凝縮が妨げられ、細胞分裂の異常につながると考えられる。

星野 英人、上垣 浩一/   産総研 バイオメディカル研究部門

演者らは、セルロース基材への蛋白質結合アダプターとして、超耐熱性キチン・セルロースドメイン(hCBD)の活用法を開発する過程で、1年間を越える常温乾燥保管を経ても、尚、hCBDがセルロース基材に安定結合する性能を見出し、hCBDを利用したセルロース/蛋白質ハイブリッドによる蛋白質の材料利用の可能性を模索している。ラクダ科に属するアルパカのIgG抗体は、他の哺乳類に多く見られる、L鎖とH鎖の基本構成とは異なり、H鎖のみで構成される。このアルパカIgG抗体の抗原認識ドメインがVHH抗体である。近年、蛋白質工学的な生産性から、大腸菌での蛋白質の大量合成が可能なラクダVHH抗体が注目を集めている。
演者らは、抗GFP-VHH抗体を対象として、hCBDとの融合蛋白質を開発し、セルロース素材とのハイブリッドとしての活用法を探った。当該融合蛋白質は、大腸菌から可溶性画分として抽出可能で、1回のNi-NTAカラム精製により、CBB染色でほぼ単一バンドとして精製できた。本発表では、抗GFP-VHH抗体/紙ハイブリッドに関して、室温下での乾燥保存後の抗原結合性能など、材料素材としてのVHH抗体の新しい活用可能性を紹介する。

千葉 靖典(1)、喜多島 敏彦(1,2)、小松崎 亜紀子(1)、松澤 史子(3)、相川 誠一(3)、高 暁冬(2)
/   (1) 産総研 創薬基盤研究部門、(2) 江南大学 生物工程学院、(3) 株式会社アルティフ・ラボラトリーズ

メタノール資化性酵母Ogataea minuta由来のエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(Endo-Om)は、加水分解活性の他に、複合型糖鎖を転移するトランスグリコシダーゼ活性を有する。本研究では、Endo-Omの295番目のトリプトファン残基(Trp295)のアミノ酸置換を行い、加水分解活性に対する影響を調べた。構造モデリングの結果から、Trp295は活性中心に存在し、触媒活性には直接的に関与しないものの、N-型糖鎖トリマンノースコアのα-1,3-結合のマンノース残基と相互作用していることが予想された。またMan2GlcNAc2構造を有する2つの異性体に対する反応性から、α-1,3-結合のマンノース残基がEndo-Omの基質認識に重要であることが示唆された。アミノ酸置換の結果から、Endo-Omの活性には295番目に芳香族アミノ酸が必要であると推察された。Trp295をフェニルアラニンに置換したW295Fでは野生型酵素に対して2~3倍の比活性の向上が確認され、一方チロシンに置換したW295Yでは二分岐型糖鎖に対してのみ活性が向上していた。複合型糖鎖を2本有するトランスフェリンを基質とした場合、野生型酵素と比較してW295F、W295Y変異酵素は糖鎖切断効率が高かった。以上の結果から、比活性が高いEndo-Om W295Fは産業利用において有効な酵素であると考えられた。

川崎 一則(1) 、堀内 伸(2) 、伯川 秀樹(2) 、小林 恵美子(3) 、東海 直治(4) 、懸橋 理枝(4)
/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 産総研 ナノ材料研究部門、(3) 産総研 生物プロセス研究部門、(4) 大阪産業技術研究所

界面活性剤水溶液のゲル化や増粘挙動を制御することを可能にするために、アミドアミンオキシド型界面活性剤(AAO)の分子構造の設計の研究を行っている。様々な分子構造のAAOを作製することによって、疎水性相互作用や水素結合などの分子間相互作用に影響を与えて会合体形成を変化させ、その結果、溶液の物性の制御が可能になると考えられる。本研究では類縁の分子構造を持つAAO化合物として、C9CNC-6、C11CNC-6、およびC11CNC-3を設計し合成した。これら試料溶液中においてAAO会合体がどのような形状をとり、互いにどのような関係にあるかを明らかにするため、クライオ走査型電子顕微鏡法と急速凍結レプリカ透過電子顕微鏡法による観察を実施し、両顕微鏡法で得られた画像データの比較を行った。

川崎 一則(1) 、伯川 秀樹(2) 、堀内 伸(2,4) 、秋山 陽久(3,4)
/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 産総研 ナノ材料研究部門、(3) 産総研 機能化学研究部門、(4) 産総研 接着・界面現象研究ラボ

異種基材どうしの接合のために用いる表面前処理の効果を明らかにすることは、異種接合技術の信頼性を高めるために重要である。本研究では、難接着基材であるポリプロピレン(PP)の接着用前処理として期待される火炎処理と大気圧プラズマ処理について、透過電子顕微鏡による高分解能観察による比較検討を実施した。PP自体は非導電性のために透過電子顕微鏡によって微細構造の可視化が困難である。そこで、生物学研究に用いられるフリーズレプリカ装置を利用して、PP基材の表面に対する白金薄膜のレプリカ試料を作製し、基材から剥離した後に、透過電子顕微鏡によって高分解能観察を実施した。その結果、PP表面に存在する数十nmから数百nm程度の微細な凹凸の形状を明らかにすることに成功し、火炎処理やプラズマ処理の効果の相違を把握することができることを明らかにした。

村木 三智郎、広田 潔憲/   産総研 バイオメディカル研究部門

ヒトFasリガンド細胞外ドメイン (hFasLECD)は医療応用上の潜在的有用性を持つ蛋白質分子である。本発表では、hFasLECD誘導体とsulfo-Cy3基を有する蛍光性分子との間でのトランスシクロオクテン基-メチルテトラジン基間の逆電子要請型ディールスアルダー反応を利用した部位特異的化学修飾法の開発について報告する。本方法はシステイン残基やマレイミド残基における生理的pH条件下の緩衝液中での化学的不安定性を回避できるだけでなく、修飾用分子としてマレイミド誘導体を用いる場合(1, 2)に比べて、被修飾蛋白質分子に対してより少ないモル等量の修飾剤を使用しても高効率の結合反応が達成できるという利点を有しており、hFasLECDの生物活性を維持した状態での、他の機能性蛋白質分子との融合体の調製においても応用可能と考えられる(3)。
1. M. Muraki, BMC Biotechnol. 14: 19 (2014);
2. M.Muraki, SpringerPlus 5:997 (2016);
3. M. Muraki and K. Hirota, BMC Biotechnol. 17:56 (2017).

峯 昇平/   産総研 バイオメディカル研究部門

キチンはセルロースに次ぐバイオマス資源であり、キチン分解で得られるグルコサミンは、その優れた機能(生体親和性、生分解性、創傷治癒効果など)により多くの企業から関連製品が販売されている。環境問題の観点から考えるとグルコサミン製造には生化学的な酵素分解法が望ましい。しかしながら、現在用いられている酵素の安定性が低いという理由から実用例は少ない。そこで、高度な安定性を有する好熱菌由来の耐熱性キチン分解酵素に着目し、その産業用酵素としての利活用を目指し、当該酵素の構造・機能解析を行った。その結果、アミノ酸配列情報からだけでは不明であった活性部位および基質特異性を明らかにすることができた。本研究成果は、今後の新規酵素デザインの足がかりになるものである。

山下 樹里/   産総研 健康工学研究部門

3次元印刷技術の発達により、透明樹脂の中に血管などの内部構造を埋め込んだ臓器モデルが作成されている。しかし、透明樹脂で光が屈折し内部構造が歪む・内部構造に触れない・消費樹脂量が多く高価、等の問題がある。外側形状を輪郭線のみで表現した臓器モデルも提案されているが、複雑な外形では輪郭線が内部を隠蔽してしまう。そこで、外側形状を薄板で表現した新しい臓器モデルを提案する。本表現では、薄板に内部構造が支えられるため、複雑な構造が表現可能であり、また薄板の間から内部構造に直接触ることができる。内側・外側形状とも解剖がわかりやすいモデルとなった。副鼻腔・頭蓋底領域で試作したモデルを展示する。
[謝辞] 本研究の一部は、総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の一環として実施した。

森田 雅宗/   産総研 バイオメディカル研究部門

近年、核酸、タンパク質、脂質などの細胞を構成する分子をボトムアップ的に再構成・自己組織化させることで細胞の様なシステムを構築する試みが進展している。細胞サイズのリポソームや油中水滴などの膜小胞は、人工の生体分子システムを構築するにあたり基盤となる強力なツールとして着目されており、実際に様々な生体分子を膜小胞に封入することでリアクターとして応用されている。
本LS-BTでは、産総研内外の多くの研究者に、膜小胞のリアクターとしてしての活用だけでなく様々なシーンで利用してもらえるように、これまでに取り組んできた膜小胞を作製する技術開発・膜小胞を用いた様々な物質の相互作用解析に関する成果と生物学的な意義について紹介する。

4:再生医療  (P020-P024)

Qian Guowen (1,2)、Ye Jiandong (1,2)
/   (1) School of Materials Science and Engineering, South China University of Technology
(2) National Engineering Research Center for Tissue Restoration and Reconstruction

As a bioactive material for bone repair, calcium phosphate cement (CPC) has promising application prospect in clinic due to its characteristics of easiness to shape, self-setting ability, excellent biocompatibility and osteoconductivity. However, the inferior degradability and lack of interconnected macropores of CPC hamper its replacement by new bone. To overcome the above issues, this study aims to construct CPC-based composite by incorporating three-dimensional (3D) printing biodegradable poly(lactic-co-glycolic acid) (PLGA) network. It was expected that the composite can produce 3D interconnected macropores in situ after the degradation of the network. Meanwhile the formation of macropores would enhance specific surface area of CPC, which can accelerate the degradation of CPC.

原本 悦和(1)*、小沼 泰子(1)*、中島 由郎(2)、相木 泰彦(1)、樋口 久美子(1)、清水 真都香(1)
舘野 浩章(1)、平林 淳(1)、伊藤 弓弦(1) *equally contributed
/   (1) 産総研 創薬基盤研究部門、(2) 京都府立医科大学

再生医療の実用化・産業化を促進するためには、品質管理技術の確立が欠かせない。多種類の組織細胞に分化する能力を持ったヒト多能性幹細胞(ES/iPS細胞)を原料とした再生医療等製品の安全性を確保するために、製造工程において造腫瘍性細胞を除去する技術の開発が課題とされている。現在、目的とする細胞を分離精製する技術、残存する未分化細胞を殺傷する技術等、世界中で様々な手法が検討されている。これまで産総研では、特異的に低毒性でヒト多能性幹細胞と結合可能なレクチンプローブ「rBC2LCN」に関して、その関連技術の開発を進めてきた。本発表では、磁気ビーズを結合したrBC2LCNによる造腫瘍性細胞分離法ついて報告する。

佐野 将之(1) 、大高 真奈美(1) 、飯島 実(1) 、西村 健(2) 、中西 真人(1)/   (1) 産総研 創薬基盤研究部門、(2) 筑波大学

遺伝子デリバリーシステムは、任意の外来遺伝子を標的細胞に導入する技術であり、ウイルスまたは非ウイルスを用いた様々なデリバリーシステムが基礎生物学および遺伝子治療などの医療分野で実用化されている。我々は、宿主の細胞質で外来遺伝子を長期的に発現できる、欠損持続発現型センダイウイルスベクター(SeVdpベクター)を開発しており、幅広い動物細胞において、高い効率で遺伝子を導入することに成功している。現在、SeVdpベクターの安全性や効果を高めるため、外来遺伝子の発現を特異的に制御するシステムの構築を試みているが、SeVdpベクターは、一本鎖RNAをゲノムに持ち、DNAの状態に変換することがないため、組織特異的プロモーター等による遺伝子発現制御が利用できない。そこで、我々は、microRNA(miRNA)を利用して、SeVdpベクターからの遺伝子発現を制御することを試みた。miRNAに応答するSeVdpベクターは、特異的な細胞での遺伝子発現制御を可能にし、さらにiPS細胞作製の効果的なツールとしても利用できることが明らかとなった。

小林 慎(1,2)、細井 勇輔(2)、志浦 寛相(2)、山縣 一夫(3)、高橋 沙央里(2)、藤原 祥高(3)、岡部 勝(3)、石野 史敏(2)、五島 直樹(1)
/   (1) 産総研 創薬分子プロファイリング研究センター、(2) 東京医歯大学 難研 エピジェネティクス、(3) 大阪大学 微研

哺乳類の雌では2本あるX染色体の1本が不活性化されて、雄と雌の間で活性を持つX染色体の本数が揃う「X染色体不活性化」と呼ばれるエピジェネティックな現象がある。近年、この現象は多能性幹細胞の未分化状態を反映していると考えられ、幹細胞研究、再生医療の分野で注目を集めている。多能性幹細胞は二つの異なる未分化状態(naive とprimed)があり多能性に違いがあるが、これらを生かしたまま区別する方法が無いことが課題であった。我々は幹細胞の多能性の指標として利用されている「X染色体再活性化」に注目した。マウスの研究から、着床前の胚に相当するnaive 状態幹細胞(ES細胞)ではX染色体が再活性化され2本のX染色体が共に活性化されること、着床後の胚に相当するprimed状態の幹細胞(EpiSC)ではX染色体が不活性化され1本の活性化X染色体を持つことが報告されている。本研究ではマウスを材料に、X 染色体の状態を観察するため、2本あるX染色体それぞれに赤(mCherry)と緑(eGFP)のレポーター遺伝子を挿入した。開発したこれらの「Momijiマウス」を用い、発生過程でダイナミックに変化するX染色体の不活化及び再活性化の検出に成功、更にこれまで困難であったnaive 状態とprimed状態の多能性幹細胞を生かしたまま区別することに成功した。産総研では、このシステムとHUPEXクローン技術などを組み合わせ、多能性幹細胞の研究のみならず、細胞の分化やその逆過程であるiPS細胞リプログラミング、およびガン幹細胞、組織損傷等による再生過程の解析を行う。

波平 昌一(1)、平野 和己(1)、田中 みなみ(2,3)、加藤 薫(2)
/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 筑波大学 生命環境科学研究科

哺乳類の大脳皮質の多様な神経系細胞は、胎生期の神経幹細胞から発生段階依存的に産生される。この神経幹細胞の細胞産生機構において、ヒストンH3タンパク質末端のメチル化やアセチル化修飾によるクロマチン構造変換が重要な役割を果たしていることが知られている。これまでの神経発生を制御するクロマチン構造変換に関する研究において、多数の細胞から得られたDNAやタンパク質を実験材料としたクロマチン免疫沈降法などの分子生物学的手法が解析の中心であった。従って、組織内の神経幹細胞の1細胞レベルでのヒストン修飾の動態については不明な点が多く、神経発生を担うクロマチン構造変換機構の詳細は明らかになっていない。そこで我々は、超解像蛍光顕微鏡(誘導放出抑制顕微鏡:STED)を用いて、マウス胎生期大脳皮質の神経幹細胞と未成熟ニューロンの1細胞レベルでの修飾ヒストンの観察を試みた。

5:創薬  (P025-P033)

高木 悠友子(1)、圷 ゆき枝(1)、坂無 英徳(2)、野里 博和(2)、戸井 基道(1)、古川 功治(1)
/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 産総研 人工知能研究センター

シャーガス病は、昆虫ベクターが寄生原虫クルーズトリパノソーマを媒介することによって感染する「顧みられない熱帯病」の一つである。現行の薬は副作用が多く慢性期には効かないため、新薬の開発に繋がる知見が求められている。当チームでは、ドラッグターゲットとなるトリパノソーマの必須遺伝子を探索し、その阻害剤の元となる化合物のスクリーニングに取り組んでいる。昆虫と哺乳類宿主を行き来するクルーズトリパノソーマには複雑な生活環があり、全てのステージの原虫で遺伝子の必須性や化合物への感受性を評価するのはこれまで困難であった。我々は、各ステージの原虫を効率的に単離し、多数のドラッグターゲット候補の必須性をステージ特異的に評価することに成功した。また、画像解析の活用によりそれぞれの形態に適した評価手法を開発し、表現型スクリーニングを効率的に行うためのプラットフォームを整えている。今後は、スループット性の更なる向上を目指し、半網羅的なターゲット遺伝子の探索に取り組む予定である。

佐藤 孝明(1)、水谷 陽一(2)、松村 浩由(3)/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 藍野大学 医療保健学部、(3) 立命館大学 生命科学部

GPCRは、5系統中の1種サブクラスのG蛋白質群を活性化し、細胞外の刺激を細胞内応答に変換している。アドレナリン受容体とG蛋白質の複合体結晶構造解析によって、G蛋白質活性化に必要な安定相互作用部位は解明されたが、GPCRとG蛋白質の特異的相互作用を説明する統一的なモデルはなかった。マウス嗅覚受容体S6とキメラG蛋白質Gα15-olfおよび野生型Gα15との応答迅速性の解析から、受容体C末側のhelix 8の2番目の1アミノ酸が2.2倍迅速で1.7倍応答増大する初期一過性特異的相互作用を支配することを発見した。このアミノ酸は、刺激種とG蛋白質種で分類した26群の非嗅覚GPCRs(75種)中の17群で1種に保存されていた。この結果は、helix 8の2番目の1アミノ酸が検出信号の並列GPCR信号経路の機能的役割を反映し、信号検出の迅速性を支配し、並列処理される要素情報の優位性・階層性を決定し、新たな創薬ターゲットになることを、示唆する。また、この階層性によって並列処理される尿臭の5要素匂いの相対強度評価に基づいた膀胱癌特有尿臭の検査方法についても紹介する。

上田 大次郎、佐藤 努/   新潟大学

龍涎香は、マッコウクジラの腸管結石であり、高級香料や漢方薬として利用されていたが、商業捕鯨が禁止されてからは、入手困難となっている。私達はバクテリアの酵素を用いての龍涎香主成分アンブレインを合成することに成功している。現在、アンブレインの大量生産系の確立を目指した研究を行っている。また、アンブレインの香気成分への変換にも成功しており、香料としての利用も目指している。漢方薬として様々な生理活性が知られているが、ほとんど研究がなされていない。私達はアンブレインの生理活性探索について学内の共同研究を開始したが、学外も積極的に探している。一方、マッコウクジラ内でどのように龍涎香が生産されているかも未知であるが、私達はその課題についても研究している。

小島 正己(1)、水井 利幸(1)、青木 智子(1)、松井 このみ(1,2)/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 大阪大学大学院 生命機能研究科

「医食同源」という言葉は、食が体だけでなく心の健康も守るのかもしれない。この言葉の意味を検証するために我々は遺伝子改変動物の開発を行った。開発したマウスは、摂食、記憶、情動などを制御する遺伝子の改変動物であり、コントロールマウスに比べて体重増加とうつ様行動などの精神疾患の表現型が顕著である。本発表では、これらの研究データを紹介すると同時に、脳腸相関研究を通した食を医とする研究展望を議論したい。
遺伝子改変マウスは、ヒト神経系遺伝子の一塩基多型に注目して作製した。この多型は神経細胞の成長因子の産生に関して翻訳後メカニズムのレベルで阻害を受けていた。その結果として、脳湿重量の低下、海馬領野神経細胞のシナプス構造の不全といった神経伝達構造の異常を見出した。脳の異常にも関わらず、マウス体重はコントロールマウスに比べて増加しており、これらの表現型の関係が注目される。

石原 司/   産総研 バイオメディカル研究部門

医薬品の創出は数年に渡る歳月と幾多の試行錯誤を伴い、生産力向上は製薬産業における至上命題である。近年における機械学習の飛躍的な進化は、医薬候補化合物の設計を自動化しうる。我が国の優位点である機械化技術の深化は、医薬候補化合物の合成を自動化しうる。我々は、医薬品創出に資する支援技術の確立に向け、自動設計と自動合成の具現化と融合による医薬候補化合物自動探索装置の完成を目指している。
●目標像:365 日24 時間稼動し、高活性化合物を自律的に探索する
●試験稼働結果:臨床試験化合物に匹敵する化合物を自動で創出した
最近の創薬研究における多彩な薬効評価に対応すべく、アッセイはスクリーニング科学者の手技にて実施される。実測活性値は自動探索装置に再帰され、次なる設計―合成―評価のサイクルへ進み、医薬候補化合物としての自律的進化を促す。リアルワールドにおける仮説検証を重視する自動探索装置は、自動化による高い生産力と、シミュレーションのみに起因する不確定性を減じた高い実践性を、製薬産業にもたらすと期待される。
本発表では、自動設計装置と自動合成装置にて構成される自動探索装置の概要を紹介する。

浅田 眞弘、倉持 明子、隠岐 潤子、鈴木 理/   産総研 創薬基盤研究部門

繊維芽細胞増殖因子(FGF)-1はそのアミノ酸一次配列中に1ヶのN-型糖鎖付加部位を有するものの、分泌シグナルを持たないため通常の分泌経路を通過せず、糖鎖付加を受けずに細胞外に分泌/放出される。我々はFGFの糖鎖修飾の意義を解析する研究の一環として、FGF1のN-型糖鎖付加部位の役割について検討した。
N-末にIL-2由来の分泌シグナル配列、C-末にIgG(Fc)を融合したFGFの遺伝子をデザインしCOS-1細胞で発現させた。その結果、FGFに由来するものとIgGに由来するものの2本のN-型糖鎖で修飾された分子が分泌された。さらに、それぞれの糖鎖付加部位(Asn)をGlnに置換した分子を発現させたところ、FGF由来の糖鎖付加部位を置換したものの分泌効率は極端に低下したが、IgG由来の糖鎖付加部位を置換した分子はほぼ影響を受けなかった。
以上の結果、分泌経路を通過しないため機能していないと考えられるN-型糖鎖付加部位であっても、分泌シグナルを付加し動物細胞で発現させると糖鎖付加が生じること、またこの糖鎖付加がその分泌に大きな影響を与えることが判明した。

齊藤 輝将(1)、松崎 巧実(2)、白石 悠斗(1)、志賀 晃(2)、佐藤 淳(1, 2)、中村 真男(1, 2)
/   (1) 東京工科大学 応用生物学部、(2) 東京工科大学大学院 バイオ・情報メディア研究科

脳脊髄損傷で中枢神経組織が損傷を受けると、損傷部位周辺では炎症性サイトカインなどの作用により活性化アストロサイトが分化誘導されて、グリア性瘢痕が形成される。グリア性瘢痕内では、活性化アストロサイトから軸索伸長阻害因子のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンが分泌され、これが濃度勾配を形成して沈着し、神経再生を阻害する主たる原因の一つとなっている。最近、我々は軸索伸長阻害因子であるコンドロイチン硫酸(CS)と高い親和性をもつ分子として、ラクトフェリンを発見した。ラクトフェリンは、これまでに神経保護作用や抗炎症作用をもつことが報告されており、CSを標的とした神経保護/再生の創薬シーズとして期待される。
本発表では、CSとラクトフェリンの分子間相互作用解析の結果を踏まえて、CSによる軸索伸長阻害に対するラクトフェリンの効果を紹介する。
本研究の一部は、日本科学協会の笹川科学研究助成(学術研究部門)の助成を受けたものである。

藤田 聡史(1,2,3)、長崎 玲子(1)、 原 雄介(4)/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 産総研 PhotoBIO-OIL
(3) 神戸大学大学院 工学研究科 応用化学専攻、(4) 産総研 機能化学研究部門

通常の創薬プロセスにおいて、動物試験を行う前段階で、細胞や組織を用いた評価やスクリーニングが行われる。よって、大規模化合物ライブラリーからリード化合物などをスクリーニングし評価する際、多大な威力を発揮するのが、細胞マイクロアレイ等のHTS(ハイスループットスクリーニング)やHCA(ハイコンテント分析)技術であり、ここ10年でこれらの技術が大きく進歩した。既に様々な細胞マイクロアレイをベースとした化合物分析・スクリーニング法が提案されているが、迅速性、コスト性、複雑さの面で未だ改善すべき点も未だ多いのが現状である。そこで、我々は低分子化合物を徐放する細胞マイクロアレイチップを簡便に作製する手法を開発した。本発表では、本チップの作製手法および本チップを用いた細胞アッセイについて紹介する。

平野 和己、波平 昌一/   産総研 バイオメディカル研究部門

哺乳類の中枢神経系に存在する神経細胞(ニューロン)とグリア細胞は神経幹細胞より産生される。これまでに、胎生期マウス神経幹細胞の運命決定がDNAメチル化やヒストンタンパク質修飾といったエピジェネティクスによって制御されていることが報告されている。しかし、より複雑な構造と機能を有している霊長類の脳においては、胎生期神経幹細胞の分化制御へのエピジェネティクスの役割は不明な点が多い。
FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)依存的リジン特異的脱メチル化酵素1(LSD1)は、ヒストンの4番目のリジンのメチル基(H3K4me1/2)を脱メチル化する酵素活性を有しており、クロマチン構造を変化させることで、転写を負に制御することが報告されている。我々は、LSD1のヒト神経発生における役割を解析するためにLSD1活性阻害剤を用いて検討を行った。その結果、LSD1のヒストン脱メチル化活性によるHEYL(Notch標的遺伝子)の発現抑制が、ヒト胎児大脳皮質由来神経幹細胞(ヒト神経幹細胞)の神経分化に必要であることを明らかにした。興味深いことに、この新規神経分化機構は、マウス大脳皮質由来の神経幹細胞では認められず霊長類に特徴的な役割であることが強く示唆された。さらに、我々はLSD1の補酵素であるFADを効率的に細胞内に送り込み、LSD1のヒストン脱メチル化活性を亢進させることで、ヒト神経幹細胞の神経分化が促進することも発見した。これらの結果から、FAD依存的なLSD1のヒストン脱メチル化活性がHEYLの発現抑制を介してヒト神経発生を制御するという新たな機構を明らかにすることが出来た。

6:疾患  (P034-P037)

安倍 知紀(1)、風間 玲(1, 2)、大石 勝隆(1, 2, 3)
/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 東大 院 新領域 メディカル情報生命、(3)東理大 院 理工 応用生物

【背景・目的】摂食時刻の乱れは生活習慣病の発症に関わると考えられている。これまでに我々は、マウスに非活動期のみに摂食させると肥満になることを報告した。本研究では、摂食時刻の乱れが脂肪組織に与える影響について検討した。
【方法】雄性C57BL/6マウスを回転かご付きケージにて飼育し、活動期である暗期(NF)または非活動期である明期(DF)に高脂肪高ショ糖食を8時間のみ与える時間制限給餌を7日間行った。精巣上体周囲脂肪を用いて解析を行った。
【結果及び考察】時間制限給餌により、DF群ではNF群に比べて有意に体重が増加した。DF群の脂肪組織重量は増加したにもかかわらず、脂肪細胞の大きさは変化しなかった。また、炎症反応に関わる遺伝子の発現量については、NF群よりもDF群の方が低い傾向がみとめられた。
以上のことから、摂食時刻の乱れは単なる食べ過ぎとは異なる機序で脂肪組織を肥大化させる可能性が考えられた。

橋本 千秋、大石 勝隆/   産総研 バイオメディカル研究部門

体内時計の乱れは代謝異常を引き起こすことが知られている。これまで我々は、非活動期の時間制限給餌がマウスの肥満を促進することを報告してきた。今回は、摂食リズムの乱れとレプチン抵抗性との関連について検討を行った。マウスに、活動期である暗期(NF)または非活動期である明期(DF)に高脂肪高ショ糖食を与える時間制限給餌を行うと、DF群では、NF群と比較して肥満の促進とともに高レプチン血症がみられ、レプチン抵抗性が惹起されている可能性が考えられた。実際、2日間のレプチン投与の結果、DF群では、NF群にみられた摂餌量や体重の減少がみられなかった。一方、レプチン抵抗性のモデル動物であるdb/dbマウスに時間制限給餌を行ったところ、野生型マウスで見られたDFによる肥満の促進が認められなくなった。以上の結果より摂食リズムの乱れによる肥満にはレプチン抵抗性が関与する可能性が示された。

秋元 勇人(1)、大島 新司(1)、根岸 彰生(1)、小林 大介(1)、根本 直(2)/   (1) 城西大学 薬学部、(2) 産総研 バイオメディカル研究部門

禁煙補助薬使用中に発現するうつ病や自殺に対して、ニコチン退薬症候はリスク要因となり得る。既に、我々はHRMAS-1H NMRを利用したメタボリックプロファイリング(NMR-MP)により、うつ病状態のラットの脳内代謝物プロファイルは、健常ラットとは異なることを報告している。そこで、ニコチン退薬症候状態のラットの脳内代謝物の変動と、うつ状態のラットとの類似性を調べた。雄性Wistar/STラットにニコチン重酒石酸塩を1日4回14日間皮下投与し、最終投与から12および18時間の退薬時間を設けることで、ニコチン退薬症候ラット(Nic_12 group)と退薬症候回復ラット(Nic_18 group)を作成した。これらラットの海馬組織のNMRスペクトルを取得し、主成分分析(PCA)を実施した。Nic_12 groupの脳内代謝物プロファイルは、対照群と明確に判別可能であった。また、Nic_12 groupの判別に最も寄与する脳内代謝物はN-acetylaspartate (NAA)であり、海馬内で増加していた。一方、Nic_18 groupでは、対照群と判別することができなかった。NMR-MPは、ニコチン退薬症候状態と退薬症候から回復した状態を反映可能であることが明らかとなった。また、NAAはうつ状態の判別に最も寄与する脳内代謝物であるだけでなく、ニコチン退薬症候状態の判別にも最も寄与していることがわかった。

川﨑 隆史、弓場 俊輔/   産総研 バイオメディカル研究部門

ヒト中枢神経細胞の再生能力が極めて低いために、脊髄損傷からの機能回復はいまだに非常に困難である。そこで私たちは、神経細胞再生メカニズムの解析や神経細胞再生の促進因子の探索を行うことを目標として、最初に、組織再生能力の高いメダカを用いて、脊髄損傷モデルを試作し、機能再生評価系の構築を行った。受精後20~25日のメダカ個体の脊髄に対し、赤外レーザを照射し、熱損傷による脊髄損傷モデルを作製した。メダカ個体の運動機能を視運動評価系にて定量化し、損傷後の運動機能の再生を評価した。また、再生過程にあるメダカ個体の損傷部付近での分裂能を有する細胞や新たに神経細胞様に突起を伸ばす細胞を組織化学的に検出し、それらの分布や形態変化について解析することを試みた。これらを指標として、現在、脊髄損傷からの機能再生の促進因子を探索しているところである。

7:がん  (P038-P044)

Kalra Rajkumar, Chaudhary Anupama, Kaul Sunil, Wadhwa Renu/   Drug Discovery and Assets Innovation Lab, DAILAB, AIST

CARF (Collaborator of ARF) was initially discovered as a novel ARF-binding protein. It was characterized as an essential cell survival, p53-function and cell proliferation-regulatory protein. We earlier reported that excessively-/super- high expression of CARF caused malignant transformation of cancer cells. In the present study, we found CARF amplification at the genomic, transcript and protein levels in a variety of clinical invasive and metastatic malignancies. By molecular analysis, we found that CARF promotes epithelial-mesenchymal transition (EMT) via nuclear translocation and activation of β-catenin. CARF knockdown attenuated β-catenin signaling and EMT phenotype in cultured cells, and inhibition of tumor growth and lung metastasis in in vivo nude mice xenograft assays. Anti-CARF natural and synthetic molecules are proposed as potent anti-cancer drugs.

Pratap Anju(1), Hamada Michiaki(2)/   産総研 CBBD-OIL

Identification of disease associated transcripts from RNA-Seq gene expression data have been a topic of interest to scientists in the area of molecular biology. Classifier combination and decision fusion has been applied for transcript screening from expression data .Screened significant transcripts have shown optimal differentiation between cancer and normal liver tissues. Performance is validated by building cancer classifiers. This screening have improved the classification accuracy up to 29% more with less computational time. The screened transcripts are found to have significant association with cancer according to the literature. Disease associated significant transcript screening using joint machine learning model, is a cost effective method that can be applied to differential expression analysis and predictive diagnosis.

Xiupeng Wang (1), Xia Li (1), Yohei Watanabe (2), Atsuo Ito (1), Yu Sogo (1), Noriko M. Tsuji (2)
/   (1) 産総研 健康工学研究部門、(2) 産総研 バイオメディカル研究部門

The agonists of toll-like receptors (TLRa) are hot vaccine adjuvants that stimulate the anti-tumor immunity. Delivery of agonists of TLRa has been a focus for inducing adaptive antitumor immunity. Herein, a plain mesoporous silica without any TLRa enhances anti-cancer immunity in vivo. The mesoporous silica accelerates lymphocytes proliferation, stimulates IFN-γ, IL-2, IL-4 and IL-10 cytokine secretion, and increases IgG, IgG1, IgG2a, IgM and IgA antibody titers compared with those of alum-induced immune responses. Moreover, the mesoporous silica enhances effector memory CD4+ and CD8+ T cell populations in bone marrow, lymph node and spleen of mice.

Xiupeng Wang (1), Xia Li (1), Yohei Watanabe (2), Atsuo Ito (1), Yu Sogo (1), Noriko M. Tsuji (2)
/   (1) 産総研 健康工学研究部門、(2) 産総研 バイオメディカル研究部門

Aluminum compound is the most commonly used adjuvant in human vaccination for infectious diseases. However, Aluminum compound is non-degradable and causes side effects due to long persistence of the compounds at injection sites. And yet it is rather ineffective for cancer immunotherapy. Recently, we have shown that the plain mesoporous silica (MS) adjuvant is able to increase anti-cancer immune responses. Herein, MS doped with M (M=Ca, Mg, Zn) shows the significantly increased degradation rate compared with MS. Moreover, MS doped with M (M=Ca, Mg, Zn) enhances the anti-cancer immune response, increases the CD4+ and CD8+ T cell populations in splenocytes compared with alum.

Xia Li (1), Xiupeng Wang (1), Yohei Watanabe (2), Atsuo Ito (1), Yu Sogo (1), Noriko M. Tsuji (2)
/   (1) 産総研 健康工学研究部門、(2) 産総研 バイオメディカル研究部門

Appropriate adjuvant aiding in generating robust anti-cancer immunity is crucial for cancer immunotherapy. Herein, hollow ZnO significantly promotes the cellular uptake of a model antigen, and cytokine secretion by antigen-presenting cells in vitro. Hollow ZnO loaded with autologous cancer antigens inhibits cancer cell growth and increases the CD4+ and CD8+ T cell population in splenocytes of mice. The hollow ZnO is a promising adjuvant for cancer immunotherapy.

Xia Li (1), Xiupeng Wang (1), Yohei Watanabe (2), Atsuo Ito (1), Yu Sogo (1), Noriko M. Tsuji (2)
/   (1) 産総研 健康工学研究部門、(2) 産総研 バイオメディカル研究部門

Recent studies highlighted the potential of using polyinosinic-polycytidylic acid (poly(I:C)) for cancer immunotherapy. However, the application of poly(I:C) confronts multiple challenges such as limited efficacy at low dose and side effects at high dose. Herein, using chicken egg ovalbumin (OVA) as a model cancer antigen, mice immunized with MS-OVA-poly(I:C) show increased anti-cancer immunity against E.G7-OVA cells compared with those immunized with OVA-poly(I:C) (at same poly(I:C) dose of 12.5 μg/mouse). Moreover, mice immunized with MS-OVA-poly(I:C) (poly(I:C) dose of 12.5 μg/mouse) show comparable anti-cancer immunity as compared with those immunized with 4 times dose (50 μg/mouse) of free poly(I:C). The combination of MS and poly(I:C) decreases the necessary dose of poly(I:C) in anti-cancer immunotherapy.

李 梦露 (1,2)、紀ノ岡 正博 (2)/   (1) 産総研 PhotoBIO-OIL、(2) 大阪大学 工学研究科 生命先端工学

Rhabdomyosarcoma (RMS) is a highly malignant tumor originated from skeletal muscle, hallmarked by local invasion. Interaction between invasive tumor cells and normal cells plays a vital role in tumor invasion and metastasis. Here, a 3D in vitro tumor model was constructed by co-culturing embryonal rhabdomyosarcoma cells (RDs) with human skeletal muscle myoblasts (HSMMs) using cell sheet technology. Various ratios of RDs to HSMMs were employed to understand intercellular interactions. Disruption of sheet structure was observed in heterogeneous cell sheets with a low ratio of RDs. Deeper exploration of dynamic tumor cell behavior revealed that HSMM alignment was disrupted by highly motile RDs. This study demonstrated that RDs could compromise their surrounding environment by inducing decay of HSMM alignment. It also suggests that muscle disruption may be a major consequence of RMS invasion into muscle, which can be a promising therapeutic target to prevent tumor invasion.

8:生体計測  (P045-P064)

三澤 雅樹(1)、大森 拓也(2)、佐藤 昌徳(2)、清水 森人(5)、高橋 淳子(6)、松本 孔貴(3)、布施 拓(4)
/   (1) 産総研 健康工学研究部門、(2) 駒澤大学 医療健康科学部、(3) 筑波大学 医学医療系臨床医学域放射線腫瘍科
(4) 茨城県立医療大学 放射線技術科学科、(5)産総研 計量標準総合センター、(6) 産総研 バイオメディカル研究部門

【はじめに】 金ナノ粒子は、フォトンエネルギーを吸収して電子を発生し、溶媒中の酸素を励起して活性酸素を発生させる。これらががん細胞の表面や内部に集積すると、DNA鎖切断、細胞膜損傷、酸化ストレス等によって、がん細胞の生存率を低下させる。本研究では、金ナノ粒子を含有するリポソーム複合体(AuComplex)の細胞内取り込みと、ROS発生による細胞膜およびDNA損傷について調べた。
【実験方法】 リポソームに平均サイズ26nmの金ナノ粒子を内包したAuComplexを合成した。蛍光標識した金ナノ粒子とリポソームをHeLaおよびNB1RGB細胞に投与して、細胞集積性を確認した。また,DNA損傷をAPsite数,細胞膜損傷を過酸化脂質量で評価した。
【結果】 AuComplexを取り込んだ細胞の蛍光顕微鏡観察の結果から、細胞質内にエンドサイトーシスによってリポソームが取り込まれ、金ナノ粒子が細胞質内に拡散していた。これらの金ナノ粒子は、10MVの治療用X線照射下で、細胞内外のROS発生により、細胞膜に過酸化脂質を生成するとともに、DNAにAPsiteを形成させていることがわかった。

新木 和孝(1)、夏目 徹(1, 2)、福井 一彦(1)/   (1) 産総研 創薬分子プロファイリング研究センター、(2) RBI株式会社

我々の研究チームは質量分析測定技術をもとに、高精度かつ大規模なタンパク質相互作用解析システムを構築しており、これまでに数多くの新規タンパク質ネットワーク情報を明らかにしてきた。それと同時にプロテオミクス分野では近年、測定機器の精度・感度の向上と、計測データ解析技術の進展により、タンパク質分子の同定という定性的な解析から、タンパク質の存在量の変動や翻訳後修飾状態の相対定量といった定量解析に向けた動きが活発化している。このような背景の中、我々はさらなる質量分析解析技術の高度化を目指し、リン酸化修飾や酸化修飾状態というタンパク質翻訳後修飾の定量解析技術の開発を行ってきた。本発表においては、これまで開発してきた解析技術の紹介とともに、現在取り組んでいる新規解析技術の紹介を行いながら、質量分析測定技術を用いた研究の可能性や応用について議論したい。

加藤 薫(1)、上条 桂樹(2)、田中 みなみ(3)、高橋 正行(4)、細谷 浩史(5)、馬渕 一誠(6)、原田 慶惠(7)
/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 東北医科薬科大 医学部、(3) 筑波大学大学院 生命環境研究科、(4) 北海道大学 理学部
(5) 神奈川大学 理学部、(6) 東京大学大学院 総合科学、(7) 大阪大学 蛋白質研究所

収縮環は細胞質分裂時に、細胞表層に現れるアクチン、ミオシンを中心とする構造である。収縮環内部のアクチンとミオシンの滑りにより細胞質分裂が起こることは古くから知られてきたが、収縮環がどのように形成されるのか、収縮環内部のアクチンミオシンがどのように相互作用するのか、は未だ明らかでは無い。
この研究では、超解像光学顕微鏡を用いて、収縮環の形成過程の可視化を試みた。アクチンが、収縮環形成部位にどのように配置されるのか。ミオシンがどのように配置されるのか。アクチンとミオシンがどのように相互作用し、収縮環が形成されるのか。どのようにして、ミオシンとアクチンの向きが揃って行くのか。を、各種の超解像顕微鏡を駆使し、可視化したので報告する。この研究は、細胞増殖に基本原理の解明に繋がるものである。

加藤 薫、野田 尚宏、佐々木 章、石山 静葉、戸井 基道、波平 昌一、本田 真也、近江谷 克裕/   産総研 バイオメディカル研究部門

超解像は光の回折限界で決まる分解能を超えて、ナノスケールの分解能で微細構造を観察する技術である。超解像顕微鏡は、2000年代後半に実用化され始め、2013年にはノーベル賞を受賞し、急速に普及しつつある。超解像顕微鏡の開発の中心であるドイツでは、主要大学に、フルセットのSTED顕微鏡が導入され、ルーチンに30nm以下の分解能での観察ができるシステムが整っている。電子顕微鏡に比べて、試料作成が容易だが、低倍率の電子顕微鏡レベルの分解能でのナノ観察が可能である。
我々は、産総研に、STED顕微鏡(フルセットではない)を導入し、固定標本(細胞、及び、組織)において、分解能40nm程度の観察を実現した(今後、高分解能に対応したレーザーが導入されれば、30nm以下の観察も可能である。)。さらに、この顕微鏡を有効利用するために、共通利用のルールを整備し、共用利用を開始した。この発表では、STED顕微鏡の利点を示した上で、共通利用の方法(申込方法、試料の作成及び観察方法、コスト)について紹介する。

岩野 孝之/   産総研 人間情報研究部門

fNIRSは脳の活動を多様な環境で計測できる可能性のある手法であるが、皮膚血流やプローブ揺動などによるノイズの影響を大きく受けてしまう。そこで、fNIRS信号から脳由来の信号をより信頼性高く取り出すことを目指してfMRIとの同時計測を行い双方のデータの関係性を調べると共に、2波長ではなく3波長の近赤外光データを用いてfMRI BOLD信号との関係を調べることで、従来の手法よりも高精度に脳由来の信号を抽出することを試みた。その結果、従来の手法によるオキシヘモグロビン・デオキシヘモグロビン・トータルヘモグロビンのいずれのデータよりも、より高くfMRI BOLD信号と相関する成分を抽出することに成功した。

栗之丸 隆章、小島 直、栗田 僚二/   産総研 バイオメディカル研究部門

DNAのメチル化は、細胞の性質を決定づける機構(エピジェネティクス機構)であり、細 胞の発生・分化などに重要な役割を担う。近年では、メチル化以外の様々な後天的化学修 飾(シトシン修飾のバリアント)が報告され、各バリアントの網羅的解析法が求められて いる。そこで我々は、シトシンバリアントの迅速検出に向けて、ゲノムDNAをマイクロ流 路内で固定化する新規リンカー分子を開発した。本リンカー分子は、片側に固定部位を、 もう片側にグアニン塩基選択的に結合するナイトロジェンマスタードを有しており、ターゲットDNAに固定部位を簡便に導入できる。表面プラズモン共鳴(SPR)により、固定 部位を導入したDNAをセンサー基板上へ速やかに固定化することを確認した。さらに、各 バリアントを認識する抗体を用いたイムノアッセイにより、固定化DNAに含まれるバリアントの迅速検出を実現した。

山村 昌平、山田 恵理子、木村 蕗子、宮島 久美子、重藤 元/   産総研 健康工学研究部門

1細胞解析技術は、個々の細胞の機能解析だけでなく、疾患の病因となる希少な細胞の検出等の診断応用にも期待される。従来の1細胞解析技術としては、FACS等のフローサイトメトリーが挙げられるが、限られた細胞試料において大量の細胞から標的1細胞を確実に回収することは困難である。そこで本研究では、多数の細胞試料中から特定の1細胞を分離、解析するために、独自の1細胞マイクロアレイチップを作製した。
異なる直径のマイクロチャンバーが集積化したポリスチレン製マイクロアレイチップを、UV-LIGAプロセスによって作製し、表面に酸素プラズマ処理を施した。試験的に浮遊性の白血球細胞(CEM)と接着性の肺がん細胞(H1650)をそれぞれチップ上にピペットを用いて展開した。個々の細胞を各マイクロチャンバーに格納できる条件を洗い出し、簡単な洗浄操作のみで、1細胞に分離、解析できる1細胞マイクロアレイチップの開発に成功した。1細胞チップ上で、2種類のがん細胞に対して抗体多重染色し、標的1細胞を独自の1細胞回収システムで回収することも可能であった。したがって、本1細胞チップは、細胞種を問わず1細胞を分離、特性評価、回収できるシステムであることが示唆された。

森川 善富/   産総研 集積マイクロシステム研究センター

人間の健康状態を計測、見守り、判定するために、様々なウエアラブル機器が研究、開発されてきている中で、我々は動作を妨げないネックバンド型の耳内部脈波計測機器を開発してきました。データの左右差を評価する指標の一つとして非対称性指標を採用し、両耳内部脈波を同時計測、左右脈波の相関性や非対称性を解析することにより本計測機器の有効性を確認、報告してきました[1]。
しかしながらその非対称性指標は、耳内部脈波の測定誤差が大きいために対称性の有無の判定が難しいという課題がありました。本来対称性が予想される特性に適用する指標ですが、上記課題を解決し非対称性指標を用いた解析の有効性や拡張性を探るために、比較的測定誤差の少ない指尖容積脈波と耳外部容積脈波を同時計測して両波形に非対称性指標を適用してみました[2]。その結果、非対称性指標を用いた解析の改善に向けた指針が得られましたので報告します。
 【参考文献】
[1] 森川善富:「左右両耳内の脈波解析:相関性と非対称性」、平成27年度 第15回産総研・産技連LS-BT合同研究発表会、(2016).
[2] 森川善富:「計測部位の違いによる脈波波形の比較分析―指尖脈波と耳部脈波―」、第34回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム、(2017).

石井 則行(1,2)、池本 光志(1,3)、小田原 孝行(1)/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 岐阜大学大学院 連合農学、(3) 東邦大学大学院 理学部

エキソソームは、細胞から分泌され、血液、唾液、尿等の体液中に安定に存在し、タンパク質や核酸(miRNA等)等のさまざまな生体分子を内包している。近年、細胞間情報伝達ツールとして重要な機能を担っていることが明らかとなり、エキソソームを、がん等の難治性疾患の高感度早期診断や、DDS等に活用する研究開発が急速に進展している。
国内外で、標準的プロトコールに従って精製されたエキソソーム群は、何れも100 nm前後に単一ピークの粒径分布を示すと報告されている。ところが、電子顕微鏡観察によって、細胞から分泌される直前のマルチベシキュラーボディー(MVB)中や、分泌直後のエキソソームは、粒径約50 nmであることが確認されている。これらは、従来法により調製された膜小胞は、分泌直後の状態(形状や性質等)を保持していない可能性を強く示唆している。我々は、独自視点から「生物物理学的解析に適した膜小胞の調製方法」(特願第2016-075498号、PCT/JP2017/013999)を開発した。この調製法によるエキソソーム群を対象に電子顕微鏡解析、粒径分布解析等を行った結果について報告する。

増井 恭子(1,2)、名和 靖矩(1,3)、望月 葵(3)、石飛秀和(1,2,3)、細川千絵(1,4)、Vincent R. Daria(5)、藤田克昌(1,3)、井上康志(2,3)
/   (1) 産総研 Photo-BIO OIL、(2) 大阪大学大学院 生命機能研究科、(3) 大阪大学大学院 工学研究科
(4) 産総研 バイオメディカル研究部門、(5) オーストラリア国立大学

ラット胎児から取り出して基板上で2次元培養させた発達初期の神経細胞は、脳組織内の神経細胞と同様に、生体内分子の組成やその分布を変化させて同じ生理学的特性を発現するようになる。ラマン分光法を用いると、成長していく神経細胞の分子組成変化を生きたまま長期間、低侵襲で測定することができる。我々は、胚令18日のラット胎児から採取した海馬神経細胞内に分布する生体内分子を広範囲で観察するため、ライン状に集光したレーザーを走査して共焦点ラマンイメージングを行った。ミトコンドリアの内膜に結合するチトクロムC、タンパク質、脂質など、細胞内部に多く存在する生体分子由来のラマンスペクトルピークを元に、共焦点ラマン画像を取得することができた。

藤原 正子(1)、安藤 一郎(1)、宍戸 洋(2)、根本 直(3) /   (1) 東北大学、(2) (医)緑の里クリニック、(3) 産総研 バイオメディカル研究部門

血液透析は尿毒素だけでなく有用なアミン酸やアルブミンなども漏出するので、透析患者は蛋白の異化亢進や栄養障害を懸念されています。この対策としてアミノ酸製剤などの補充法が試みられています。補充療法をして数か月後に栄養指標(アミノグラムやアルブミン値)を観測する症例が多いのですが、複雑な背景を持つ患者に対して直接の効果を判定することは難しいと思われます。
我々は透析開始から一定速度でアミノ酸製剤の経静脈輸液をした症例で、透析中 (4-5時間) に6-7点の時間間隔で廃液と血漿を採取しました。廃液NMRメタボロミクスを用いると低分子であるアミノ酸の定量は精度よく得られます。例えばアラニンは流出の半分が抑えられ、バリンはアミノ酸補液に含まれる量の半分が吸収され残りは流出したことがわかりました。バリンの例で吸収されたことからある程度異化亢進を抑制できたと思われます。アラニンやバリンの流出を抑え吸収させることを目指すと、アミノ酸だけでない代謝全体のメタボロームを把握する必要があります。今後さらに多種類のアミノ酸の動態や代謝全体を把握することで、より栄養改善に効果のある補液方法を検討したいと思います。

北村 健一(1, 2)、大﨑 脩仁(1, 3)、村井 康二(2)、 脇田 慎一(1, 3, 4)
/   (1) 産総研 Photo-BIO OIL、(2) 神戸大学大学院 海事科学研究科、(3) 神戸大学大学院 人間発達環境学研究科、(4) 大阪大学大学院 工学研究科

心的負荷評価の可能な生理指標を構築するために、我々は唾液硝酸イオン指標に着目している。ヒトは心的負荷を受けると、収縮した血管内皮細胞から血中へNOガスが放出され、すみやかに代謝物となり、最終的にはNO3-として唾液腺に蓄積されることが知られている。血液由来の唾液の硝酸イオンを測定することにより、心的負荷を計測評価できると考えている1)
本発表では、硝酸イオン測定器のセンサ部に塗布するセンサ膜材料を構成するポリマーを検討した。硝酸イオン測定器のドリフト実験においてPVCと比較検討した結果、ポリウレタンポリマー(KP-13)が良好なセンサ特性を得た。
さらに、KP-13を用いた硝酸イオン測定器を試作して、唾液硝酸イオンから心的負荷評価を行い、本測定器の有効性を検討した。その際に比較指標として心拍変動を解析し、評価結果の比較を行った。2種類の実験により、KP-13は唾液硝酸イオン測定器を構成する有効なポリマーであると考えた。
1) 脇田 慎一, 唾液ストレス関連物質計測用バイオチップ研究開発の現状と展望, ストレス科学, 30, 276-284 (2016).

名和 靖矩(1,2)、米丸 泰央(2)、笠井 淳司(3)、スミス ニコラス(4)、橋本 均(3)、河田 聡(2)、藤田 克昌(1, 2)
/   (1) 産総研 Photo-BIO OIL、(2) 大阪大学大学院 工学研究科、(3) 大阪大学大学院 薬学研究科、(4) 大阪大学 免疫学フロンティア研究センター

光学顕微鏡は、生体に優しい光を用いるため、生きた細胞の低侵襲観察に適していますが、その空間分解能は光の回折限界により200nm程度に制限されます。近年の超解像技術の進展により、より高い空間分解能での生きた細胞内微細構造の観察が可能となりました。光学顕微鏡はより強力な研究ツールとして幅広い分野で利用されています。
我々の開発した飽和励起顕微鏡は、従来技術よりも高い空間分解能で、生体試料内部の三次元構造を観察できる超解像技術の一つです。本手法では、回折限界にまで光を集光して蛍光を励起し、励起光強度に対して非線形に応答する蛍光成分を検出します。この非線形な蛍光成分は、蛍光分子の飽和励起という現象により生じ、励起光強度が強い、集光領域の中心近傍に局在します。この非線形成分のみを検出し、画像を構築することで、高空間分解能画像が取得できます。飽和励起という普遍的な光学現象を利用するため、様々な蛍光色素および蛍光タンパク質において応用することができ、細胞だけでなく、厚みのある組織片の観察にも安定した性能が発揮できます。

鈴木 祥夫、田中 睦生/   産総研 健康工学研究部門

ドーパミンは、人間の情動・運動等に係る重要な神経伝達物質であり、現在根本的な治療法が確立していないパーキンソン病をはじめとする神経変性疾患に対してもドーパミンが関与していることが知られている。また、同じく神経伝達物質の一つであるオキシトシンは、中枢神経等に存在するペプチドであり、良好な対人関係の構築等に関与する効果がある。このため、神経伝達物質を選択的に検出可能な分子プローブを開発することは、神経伝達物質の挙動を計測することによって脳神経に関する理解が深まり、神経変性疾患の早期診断に繋がる可能性を秘めるなど極めて重要な技術である。
本研究では、これまでに得られた知見を基に、上記神経伝達物質を選択的に検出するための蛍光物質の設計・合成および性能評価を行った。蛍光物質の設計にあたり、ドーパミン認識部位として遷移金属イオン錯体を、オキシトシン認識部位としてペプチドを採用した。その結果、化合物単独では蛍光が消光状態にあるが、ドーパミンまたはオキシトシンを添加した時のみ蛍光強度の増加が観察された。以上の結果から、開発した試薬を用いることにより上記神経伝達物質の選択的検出が可能になると考えられる。

脇田 慎一(1,2,3)、南 豪(4)、南木 創(4)、佐々木 由比(4)、栗田 僚二(2)、丹羽 修(5)、時任 静士(6)
/   (1) 産総研 Photo-BIO OIL、(2) 産総研 バイオメディカル研究部門、(3) 大阪大学大学院 工学研究科、(4) 東京大学 生産技術研究所
(5) 埼玉工業大学 先端科学研究所、(6) 山形大学大学院 理工学研究科・山形大学 有機エレクトロニクス研究センター

有機エレクトロニクス技術を用いたバイオセンサは柔軟性があり、外部給電機能などの集積化や、多品種・小規模大量生産に特長がある。モバイルヘルスケアなどバイオIoTとして期待されている。有機トランジスタは耐水性に課題があるが、我々は、溶液中で安定に動作させるExtended-gate構造を有するFETバイオセンサを開発することにより、再現性の良いセンサ特性を得ることができた。1)
ウェアラブルバイオセンサの開発を目標に、非侵襲ストレスセンサの研究開発を検討した。唾液中に含まれるストレス研究対象物質2,3)を対象に、各種バイオセンサの基礎検討を行ったところ、再現性の良いセンサ特性を得ることができた。1,4)
1) T. Minami, Y. Sasaki, T. Minamiki, S. Wakida, R. Kurita, O. Niwa, S. Tokito, Biosens. Bioelectron, 81, 87-91 (2016).
2) 脇田慎一,唾液ストレス関連物質計測用バイオチップ研究開発の現状と展望ストレス科学, 30, 276-284 (2016).
3) K. Kitamura, K. Murai, S. Wakida, N. Mitomo, K. Fukushi, Intell. Autom. Soft. Co., 23, 161-166 (2017).
4) T. Minamiki, T. Minami, Y. Sasaki, S. Wakida, R. Kurita, O. Niwa, S. Tokito, Sensors, 16, 203331 (2016).

Adrien Rougny (1), Christine Froidevaux (2), Laurence Calzone, Loı̈c Paulevé (2)
/   (1) AIST, Biotechnology Research Institute for Drug Discovery, (2) Laboratoire de Recherche en Informatique, (3) Institut Curie

The mammalian cell cycle is tightly regulated by a number of proteins (cyclin/CDKs, pRB, E2Fs...) and involves a great number of molecular processes. Here, we model the dynamics of the cell cycle using two new qualitative semantics, that do not rely on any kinetic parameters. Our models are directly built from a huge CellDesigner map representing the regulation of the cell cycle [Calzone et al., 2008], and can be analyzed using standard techniques, such as simulation or model-checking. Using such techniques on our models, we show that the processes of the map alone are not sufficient to reproduce the succession of phases of the cell cycle, and that this succession can be re-established by considering the transcriptional effects of E2F1.

近藤 雅哉(1, 2, 3)、植村 隆文(2)、Michael Melzer(4)、吉本 秀輔(2)、Daniil Karnaushenko(4)
秋山 実邦子(2)、荒木 徹平(2, 3)、野田 祐樹(2)、Oliver Schmidt(4)、 関谷 毅(2, 3)
/   (1) 産総研 PhotoBio-OIL、(2) 産業科学研究所、(3) 大阪大学大学院 工学研究科、 (4) Leibniz-Institut für Festkörper- und Werkstoffforschung, Dresden

近年、軽量性と柔軟性に優れている有機薄膜トランジスタ (OTFT) を用いた、高い柔軟性を有するセンサ (フレキシブルセンサ) に注目が集まっている。本研究では、OTFT を用いた信号増幅回路およびシフトレジスタを、磁気抵抗素子が積層されたポリマー薄膜基板上に集積することで世界最薄膜 (3 µm 厚) のフレキシブル磁気センサ回路を実現した。フレキシブル磁気センサ回路は自由な曲面に貼り付ける事が可能であり、インフラセンサや生体用センサなど幅広い用途での応用が期待できる。加えて本研究では、小型の無線通信モジュールとフレキシブル磁気センサ回路を統合した磁気の無線計測システムを開発した。本発表では、無線磁気計測システムを用いた1つの応用として、指のモーションセンシングについても示す。

黒澤 茂(1)、田中 睦生(1)、愛澤 秀信(2)、吉本 稔(3)/   (1) 産総研 健康工学研究部門、(2) 産総研 環境管理研究部門、(3) 鹿児島大学 理工学研究科

水晶振動子(QCM)の電極表面に物理吸着と化学吸着したソフトマターの周波数依存性を検討した。QCMは、その電極表面に付着した物質の質量または溶液の粘度・密度に比例して周波数が変化する性質を持っている。最近では、ナノメータレベルの薄膜の粘性、弾性、膜厚、密度を測定できるレオロジーメータとして、単分子膜の厚さでのソフトマター分子の物性評価のために用いられている。QCMが測定できる厚さは、QCM表面と共に動くことができる厚さ(共振長)である。剛体薄膜では、膜厚が共振長になる。しかし、ソフトマターでは、QCMから離れるにつれて振幅が小さくなり、位相遅れが生じるため膜厚が共振長とは異なってくる。これは、ソフトマターが粘弾性を持つためである。本研究では、様々な分子量のPEGを用い、その物理的および化学的にQCM上に吸着させた際の共振長の周波数依存性を調べた。物理吸着と化学吸着の結果を比較すると化学吸着が物理吸着した分子よりも共振長が長い。一方、物理吸着と化学吸着した分子の共振長の周波数依存性では、周波数応答性は同じである事が明らかとなった。

稗田 一郎、中村 美子、長谷川 良平/   産総研 人間情報研究部門

本研究の目的は、瞬きによる意思伝達装置の開発とそのロボット制御への応用を検討することである。我々はこれまで脳波による意思伝達装置「ニューロコミュニケーターⓇ」の実用化開発を行ってきた。現在、最重度の運動機能障がい者を対象とした福祉機器としてこの装置の実用化開発を進めつつ、残存運動機能を利用可能な障がい者や健常者の生活にとっても役立つインターフェースの一種として、瞬き関連の筋電位による意思伝達装置「ブリンクコミュニケーター」の開発も開始した。本研究では、この装置によってヒト型ロボットの動作8種類を瞬きで選べるシステムの試作開発を行った。また、その性能評価のために、10名の健常成人を対象として実証実験を実施し、かつ生体電位データに対する独自のパターン識別手法を適用することによって、全被験者がその動作選択を約1秒で行えることを確認した。この解読速度は従来のワンボタンスイッチによるインターフェース(選択肢の数だけ秒数がかかるため、約8秒必要)に比べて約8倍高速であり、多数の動作を高速で表出する必要があるロボットの新たな制御法として有効であると考えられる。

澤口 隆博、田中 睦生/   産総研 健康工学研究部門

バイオセンシング素子の研究開発では、タンパク質の非特異吸着の抑制や特定のセンシング界面を構築する表面修飾材料が不可欠であり、この界面構築は基板材料の表面処理技術としても重要である。我々は、基板表面に化学結合を介して自己組織化単分子膜を形成させ、反対側末端やそのほかの部位に種々の機能分子を導入することで表面特性を分子レベルで制御することを目的に研究を進めている。表面結合基としてチオール類を用いると金などの金属表面を分子レベルで修飾できることから、オリゴエチレングリコール(OEG)を介して末端にホスホリルコリン(PC)基等をもつ新規アルカンチオールを開発し、単分子レベルで配列したナノ構造分子膜を構築した。また、カーボンやガラス、プラスティックなど、種々の材料表面を修飾する新規表面修飾分子についても研究開発を行っている。グラッシーカーボンやHOPG等のカーボン材料の表面修飾では、ジアゾニウム化合物を新規に開発し、そのHOPG上でのナノ構造分子膜は分子レベルで平滑で緻密な単分子膜を形成する優れた表面修飾分子であることが分かった。これらのナノ構造分子膜は、電気化学計測及び溶液中走査型トンネル顕微鏡(EC-STM)による分子レベル表面構造解析を行い、種々の基板材料表面での表面特性及びセンシング機能を評価した。

9:医療機器  (P065-P067)

古谷 俊介(1,2)、西尾 敬子(1)、鳴石 奈穂子(1)、赤澤 陽子(1)、萩原 義久(1)、吉田 康一(3)、永井 秀典(1,2)
/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 産総研 PhotoBIO-OIL、(3) 産総研 健康工学研究部門

【緒言】 血液中のバイオマーカーを定量測定することで様々な健康状態を確認可能である。特に複数のバイオマーカーの測定は早期診断や正確な診断に重要である。例えば、我々のこれまでの研究により、血液中のインスリン・アディポネクチン・レプチンを定量測定することで糖負荷試験を行わずに糖尿病の早期発見が可能なことが報告されている。本研究では、上記3種類のバイオマーカーの迅速測定可能なCD型のマイクロ流体デバイスを用いた高速ELISAシステムを開発したので報告する。
【実験】 本研究では、糖尿病の早期診断を目指し、開発したラボCD中でコントロール血清中のインスリン・アディポネクチン・レプチンに対する高速ELISAを行った。本手法では、各抗原抗体反応の時間をそれぞれ5分間でサンドイッチELISAによる上記3種類のタンパク質の検出を行った。
【結果と考察】 本研究では、コントロール血清中のインスリン・アディポネクチン・レプチンの3種類のタンパク質を開発した高速ELISA用ラボCDによって16分で検出することが可能であった。本技術は現場での迅速なELISAによる糖尿病の早期診断への応用が期待される。

西田 正浩(1)、後藤 大輝(2)、迫田 大輔(1)、小阪 亮(1)、丸山 修(1)、百武 徹(2)、山本 好宏(3)、桑名 克之(3)、山根 隆志(4)
/   (1) 産総研 健康工学研究部門、(2) 横浜国立大学、(3) 泉工医科工業株式会社、(4) 神戸大学

遠心血液ポンプの内部形状を検討するとき、ポンプを試作し、ポンプ性能や溶血特性を評価することは重要である。本研究では、モノピボット遠心血液ポンプを対象とし、それらの特性に対する試作方法の影響を調べた。3Dプリンタ成形、切削加工によりインペラをそれぞれ作製した。3Dプリンタ成形では硬質樹脂、切削加工ではアクリルを用いた。いずれのインペラともに、表面粗さを測定した後、製品のケーシングとアセンブルし、ポンプを作製した。実験では、ポンプの揚程流量特性、インペラの回転位置,およびポンプの溶血特性を計測した。その結果、3Dプリンタ成形により作製したインペラの表面粗さは製品の20倍以上であった。ところが、ポンプの揚程流量特性は製品とほぼ一致した。高弾性率を実現する硬質材料を用いたため、インペラの回転位置の変化も製品とほぼ一致した。しかしながら、ポンプの溶血量は、表面粗さが大きかった3Dプリンタ成形により作製したインペラでは増大し、切削により作製したインペラでは製品とほぼ一致した。そのため、試作したポンプの溶血量は、表面粗さの大きさに大きく影響していることがわかった。

鷲尾 利克(1)、横山 翔一(2)、林 嘉祥(2)、水原 和行(1,2)/   (1) 産総研 健康工学研究部門、(2) 東京電機大学 工学部

MR装置を用いた撮像方法のうちソフトウェア的な時間短縮法として近年compressed sensing(以下、CS)が注目されている。CS に関して多くの研究がなされているが、その際spiral scanやradial scanが用いられる場合が多い。一方、臨床における MR 撮像では Cartesian coordinate system による 2 次元撮像が多く使用される。 Cartesian coordinate systemによるソフトウェア的な撮像時間短縮方法として、従来よりzero-fill interpolation(以下、ZIP)が用いられている。本研究ではCartesian coordinate systemでのリードアウト単位のランダムサンプリングにより行うCSおよびZIPについて、どの情報を収集するか、を決めるマスクという観点からその特徴を比較し、それら2種類の手法の使いわけについて提案する。

10:微生物  (P068-P083)

安佛 尚志(1,2)、森山 実(2)、二河 成男(3)、二橋 亮(2)、孟 憲英(2)、古賀 隆一(2)、深津 武馬(2)
/   (1) 産総研 CBBD-OIL、(2) 産総研 生物プロセス研究部門、(3) 放送大学

甲虫類は昆虫の多様性の大部分を占めており、その特徴は厚くて硬い外骨格クチクラである。このクチクラは甲虫類の環境適応にとって重要な役割を果たしており、彼らの著しい多様性と繁栄を支えている。我々は、世界中で7万種もの記載種が存在し、極めて硬いクチクラを持つ種を多く含むゾウムシ類の共生細菌に注目し、その研究を進めてきた。まず、4種のゾウムシの共生細菌ナルドネラの全ゲノム塩基配列を決定し、チロシン合成に特化した極めて小さなゲノムであることを解明した。次いで、その名の通り黒くてとても硬いことで知られるクロカタゾウムシにおいて、ナルドネラによるチロシン合成が外骨格の色や硬さに関与していることや、チロシン合成の最終段階が宿主によって制御されていることを実証した。

伊藤 遼(1,2)、伊藤 通浩(3)、中野 義勝(3)、大久保 悠介(1)、竹山 春子(1,2)/   (1) 早稲田大学、(2) 産総研・早大CBBD-OIL、(3) 琉球大学

サンゴの生態にサンゴの共在細菌叢が関わっているとされている。サンゴ共在細菌叢の多くは難培養微生物であることが多く、菌叢の割合が示す意味も理解できていない部分が多い。そのため本研究では16S rDNA解析を用いたサンゴ共在細菌叢の解明と、サンゴの共在細菌のゲノム解析も行い、明らかとなっていない点の多いサンゴ内での生活する微生物の働きの推定を行った。
数回にわたり沖縄県にてサンゴ(Acropora tenuis)の枝を採取した。このサンゴの枝からメタDNAを抽出し、微生物の16S配列を対象としたシーケンシングを行なった。季節ごと地点ごとの細菌叢解析を実施し、さらにサンゴ内の微生物を分離、ゲノム配列を取得し、その機能を解析した。
サンゴ内の細菌叢は採取した地点によって変化することが観察された。また多くのサンプルにおいて、Endozoicomonas属が大きな割合を占めることがわかった。このEndozoicomonas属は他の海洋生物内にも存在することが知られている。公共のゲノムデータと比較ゲノム解析を行うことでその種間の相違を推定した。これらを総合すると、サンゴの共在細菌は地点、共生主に適した微生物が優先種となることが示唆された。

河田 悦和(1)、盤若 明日香(2)、西村 拓(2)、松下 功(2)、坪田 潤(2)/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 大阪ガス株式会社

(概要)我々は好塩好アルカリ・Halomonas sp. KM-1株を用い、化成品中間体を生産する研究を実施している。KM-1株は、培養に酵母エキス等を要せず、C5糖や廃グリセロールを資化し、中程度の高塩濃度、pH8-10で好適に生育するため、雑菌の混入が生じにくく、培地の滅菌が不要である。すでに、酢酸、乳酸、ピルビン酸などを個別に著量分泌することを報告しており、今回、好気的な条件でオキサロ酢酸の効率的な分泌生産を見出したので報告する。
(方法と結果)炭素源としてグルコースを用い、37℃で培養し、菌体および培地組成を分析した。培養の途上、対数増殖期もしくは培養当初から培地に含まれるNaCl濃度を1.0M程度に上昇させると、ピルビン酸の生産が抑制され、代わりに39g/L以上のオキサロ酢酸を分泌生産することを見出した。
オキサロ酢酸の大量生産についてはほとんど報告がなく、今後、ハロモナス菌を含め好塩・好アルカリ微生物による有機酸の生産は、その生理メカニズムの観点からも興味深いものと思われ、現在その生産メカニズムについて、代謝物の変化について検討を行っている。
1) A Hannya et al., (2017) AMB Express, 7(1):209

間世田 英明/   産総研 バイオメディカル研究部門

The frequent failure of antibiotics treatment is one of the acute public health problems. Several studies argue that one of the major reasons of treatment failure is the emergence of transient resistance cells (called persisters) without mutations. However, little study has been done to investigate how transient resistance cells emerge. Here, we showed a novel type of transient resistant cells isolated from Pseudomonas aeruginosa clinical isolates. They express one of the silent resistance genes, mexEF-oprN, transiently. Whole-genome resequencing revealed no mutation compared to wild-type cells, implying that transient resistance cells are exactly phenotypic variants from wild-type cells. Transcriptome analysis revealed the gene expression levels changed specifically in 13 genes, inducing transient expression of MexEF-OprN. These results suggested that one of them might be the main factor for emergence of transient resistance cells.

袴田 雅俊(1)、松野 正幸(1)、鈴木 邦明(2)/   (1)静岡県工業技術研究所、(2)静岡県産醤油株式会社

静岡県では県内の自然界から幅広い産業で有効利用可能な微生物を収集し、その資源を活用しやすくするため、本県ならではの有用微生物ライブラリーの構築と、これらの有用微生物を活用した発酵食品の開発に取り組んでいる。我々は、醤油業界で取り組んでいるヒスタミンの低減ができる乳酸菌の選抜と利用、醤油の風味を良くする酵母の選抜と利用について研究を進めてきた。
本発表では、アミン類低減を目的途した乳酸菌の選抜と添加条件の検討及び工場醸造規模での乳酸菌添加によるヒスタミン低減結果について、また、香味の向上を目的とした酵母の選抜と添加条件についての検討及び選抜酵母によるテストスケールでの醤油試作試験結果について紹介する。

小川 雅人(1,2)、西川 洋平(1)、森 一樹(2)、細川 正人(3,4)、竹山 春子(1,2,3)
/   (1) 早大院先進理工、(2) 産総研・早大CBBD-OIL、(3) 早大ナノライフ創新研、(4) JST・さきがけ

培養手法の確立されていない環境微生物の研究において有用な1細胞ゲノム解析では、そのゲノム増幅時に生じる増幅バイアスやエラー配列、混入DNAの増幅によって、取得ゲノムの低下が問題となる。
当研究室では、ピコリットルサイズの液滴内に1細胞を封入することによって、1分間に約1万の細胞に対して分離・ゲノム増幅を行うsd-MDA法を開発しており、混入DNAの少ないゲノム増幅産物の並列取得を達成している。さらに本研究では、複数のシングルセル情報の相互比較によってランダムエラーを除去した高精度なゲノム配列を取得するツールを開発した。
まず枯草菌の1細胞ゲノムデータをモデルに相互比較解析を行ったところ、培養枯草菌集団からの抽出ゲノムをもとに取得したゲノムと同等の高精度ゲノム情報が取得された。さらに微小液滴を用いて取得したマウス腸内細菌の1細胞ゲノムに対して相互比較解析を行うことで、バクテロイデス目に属する2種類の新規ゲノムを取得した。1細胞ゲノムの並列取得と相互比較ゲノム解析を用いて、環境細菌叢に含まれる微生物の網羅的かつ高精度なゲノム解析への応用が期待される。

菅野 学(1)、三谷 恭雄(1)、野田 尚宏(2)、木村 信忠(1)、田村 具博(1)/   (1) 産総研 生物プロセス研究部門、(2) 産総研 バイオメディカル研究部門

高付加価値な物質の微生物生産を効率化するうえで、その生合成遺伝子群の発現挙動の理解は極めて重要である。真核生物は一般に1つのRNA分子中に1遺伝子がコードされるのに対して、バクテリアのRNAの大半は複数の遺伝子からなるポリシストロン転写単位として存在する。例えば、バクテリアの二次代謝産物生合成遺伝子群の長さは5kb程度から100kbを超えるものまであり、一般に数kbから数十kbの複数のオペロンから構成されるが、既存のトランスクリプトーム解析手法では、数kbを超える転写産物の全長を1分子レベルで捉えることは困難である。本研究では、二次代謝産物の生産能に優れるStreptomyces属放線菌を用いて、長鎖cDNA調製手法の改良に取り組んだ結果を報告する。
本研究は、NEDOスマートセルプロジェクトの支援を受けて行われたものである。

西嶋 傑(1,2,3)、須田 亙(2,3,4,5)、大島 健志朗(2)、服部 正平(2,3,4,5)
/   (1) 産総研 CBBD-OIL、(2) 東京大学大学院 新領域創成科学研究科、(3) 早稲田大学 理工学術院
(4) 理化学研究所 統合生命医科学センター、(5) 慶應義塾大学 医学部

ヒトの腸内細菌叢は宿主の健康や疾患と密接に関わる。近年、環境中の微生物DNAを網羅的に決定するメタゲノム解析手法により、ヒト腸内細菌叢の菌種組成やそれらが所持する遺伝子、さらにはそれぞれの国や集団に特徴的な腸内細菌叢構造の存在が明らかとなった。しかし、そのヒト腸内細菌叢の国間多様性に、どのような因子が関わるのかについては明らかでない。そこで我々はアジア、欧米、アフリカを含む17国、約2,000人の腸内メタゲノムデータを公共データベースから収集し、それらとその国の食事データ、抗菌薬使用量のデータとの関連解析を行った。本発表では腸内メタゲノムデータの大規模比較解析から明らかとなったヒト腸内細菌叢の国間多様性、さらにはそれらの多様性と関わる因子に関して報告する。

千々岩 樹佳(1,2)、丸山 徹(1,2)、細川 正人(3,4)、柴田 重信(1)、竹山 春子(1,2,3)
/   (1) 早大院先進理工、(2) 産総研・早大CBBD-OIL、(3) 早大ナノライフ創新研、(4) JST・さきがけ

多くの生物の腸内には多様な細菌が存在し、宿主の生理的機能と相互に影響する。食事は腸内環境の制御因子の一つとされており、食事成分により腸内細菌叢の組成や機能活性を変化させることが可能である。また体内時計の制御にも関わっているため、摂取する時間も重要である。近年、食事成分による腸内細菌叢変動が宿主の体内時計に影響することが示唆された。しかし腸内細菌叢と宿主の体内時計の関係性における知見は少ない。そこで本研究では、水溶性食物繊維イヌリンを用いて、摂取頻度と摂取時間がマウス腸内細菌叢へ与える影響を評価した。マウス(ICR、雄、6週齢)に、普通食に5%セルロースまたは5%イヌリンを混合し与えた。摂取時間については朝夕食群、朝食群、夕食群の3群を設けた。菌叢データは、16S rDNAシーケンス解析により取得した。また、pHや有機酸濃度を分析し統合的に解析した。この結果、イヌリンの摂取に加え摂取時間を制御することによって特定の細菌叢の増加や減少が促され、pHや有機酸濃度も変化することが明らかとなった。本研究から、時間栄養学的な観点を考慮して食成分の腸内環境への影響を評価することが重要であると考えられた。

竹内 美緒(1)、尾崎 遥(2)、平岡 聡(3)、鎌形 洋一(4)、坂田 晋(5)、岩崎 渉(3)
/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 理研、(3) 東京大学、(4) 産総研 生物プロセス研究部門、(5) 産総研 地圏資源環境研究部門

微生物の分離培養は、医療・工業・環境等あらゆる分野で必要かつ未だにハードルの高い課題である。我々は、数多く存在する難培養微生物の中で海産メタノトロフを対象とし、難培養である原因の解明を目指している。これまで陸域のメタノトロフは約50種記載されているが、海洋からは7種(うち海底堆積物からは本研究含め2)にとどまり、分離できなかった、との報告事例が多い。分離培養の1つの鍵は、現場の環境をできるだけ再現すること、である。我々は、海底堆積物を試料とし、天然海水をベースに用いることで混合株を得ることができた。もう1つの鍵は、ゲル化剤である。通常の寒天ではなくゲランガムを用いること、さらに培地組成を変化させることにより、最終的にメタノトロフであるMethylocaldum marinum、さらにメチロトロフ(メタンは利用せずメタノールを利用できる)であるMethyloceanibacter caenitepidi を分離することができた。M. marinum は、完全合成培地ではM. caenitepidi の存在下でないと安定して増殖することができない。この共生関係を解明するため、ゲノム解析やRNA-seq解析を実施していることから、これらの結果を報告する。

伴 さやか、川﨑 浩子/   (独)製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター

MALDI-TOF MSを用いた微生物迅速同定法は、微生物毎のMSスペクトラムを取得し、指紋判定法により種レベル又はそれ以下のグループを識別・同定する方法である。臨床分野に加え、製造産業においても品質管理を目的にした本手法による微生物同定のニーズが高まっている。我々は環境汚染物質分解機能を有する菌群及び食品産業に重要な菌群、それらと非常に近縁で識別困難な以下の菌群を対象に、比較参照用MSスペクトル・ライブラリーの構築を行い、提供を開始した。
 ・乳酸菌Lactococcus 属とLeuconostoc 属(18種)
 ・シュードモナス・プチダとその類縁菌(11種)
 ・ノカルディア属(81種)
 ・黄麹菌とその類縁種(10種)
さらに、この手法の簡易で迅速という利点を活かして、多数の分離株のIn-houseライブラリーを構築、クラスタリングを行うことにより、目的の特性を有する可能性のある微生物種を短時間・効率的に取捨選択することができる。これにより地域特産品等から分離した微生物を用いた、ビールや日本酒などの地域ブランド商品の短期間での開発に貢献した。

富永 大介(1)、川口 秀夫(2)、堀 良美(2)、蓮沼 誠久(3)、荻野 千秋(2)、油谷 幸代(1)/   (1) 産総研 CBBD-OIL、(2) 神戸大学大学院、(3) 神戸大学

生体内の代謝系やシグナル伝達経路の主要部分を成す酵素反応には様々な反応形式があるが、多くの場合にはミカエリス・メンテン式を始めとした微分方程式による速度モデルが確立されている。しかしほとんどの場合において、それらには NAD や ATP などの補酵素やエネルギー分子は考慮されておらず、それらはいわゆる「大過剰」であるという前提によってモデルが成り立っている。これらの分子は非常に多くの反応に関わること、一方で代謝経路の骨格とされる代謝物に関わる反応は、それぞれの物質については一般に多くはないこと、さらには代謝物やエネルギー分子の定量的測定にはコストがかかることから、この前提が受け入れられてきた。しかし近年メタボローム測定が大規模化、システム化してきたため、コストの問題は解決されつつある。
そこで著者らは、大腸菌の酪酸代謝に関わる代謝物とエネルギー分子を131種選び、対数増殖期における濃度変化を観測し、そのうちの二十種程度について速度モデルにおける大過剰分子の有無の妥当性を検証した。データ点数は10点であり、速度モデルには S-system 形式を用いた。その結果、大過剰分子を取り入れたモデルは精度が高く、また取り入れない場合は無視できない誤差が生じ得ることが示された。

堀江 祐範(1)、三浦 隆匡(2)、平方 里美(2)、細山 哲(2)、杉野 紗貴子(1)、梅野 彩(1)、室冨 和俊(1)、 吉田 康一(1)、小池 泰介(3)
/   (1) 産総研 健康工学研究部門、(2) 製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター、(3) 三菱ケミカルフーズ株式会社

近年、2型糖尿病と腸内菌叢との関連性が指摘されている。2型糖尿病の研究のために動物モデルは重要であるが、2型糖尿病モデルマウスと正常マウスの腸内菌叢を比較検討した例はない。TSODマウスは、ヒトの肥満型糖尿病に類似した病態を示す糖尿病モデルマウスとしてられる。TSODマウスには、糖尿病態を示さない対照動物であるTSNOマウスが存在する。TSODマウスとTSNOマウスは同じ食餌を摂取しながら、TSODマウスのみが2型糖尿病態を示す。近年、腸内菌叢と生活習慣病との関連性が指摘されているが、TSODマウスとTSNOマウスの病態を比較する上で、これまで両者の腸内菌叢が不明であったことから、本研究では、腸内菌叢の比較検討を行った。病態発症前の5週齢及び病態発症後の12週齢のTSODマウスおよび同週齢のTSNOマウスについて腸内菌叢を比較した。各群において腸内菌叢を比較した。操作的分類単位 (OUT)は、12週齢のTSODマウスの盲腸で同週齢のTSNOマウスよりも高かった。TSODマウスとTSNOマウスの間で、いくつかの細菌種が異なった。これらの結果から、本マウス系統が腸内菌叢と2型糖尿病との関連性の検討に有用であることが示された。

木口 悠也(1,2)、須田 亙(3)、西嶋 傑(2)、高安 伶奈(3)、緒方 勇亮(3)
黒川 李奈(4)、飯岡 恵里香(4)、進藤 智絵(1)、田野倉 真紀(4)、大島 健志朗(4)、服部 正平(1)
/   (1) 早稲田大学理工学術院 先進理工学研究科、(2) 産総研CBBD-OIL
(3) 理化学研究所 統合生命医科学研究センター、(4) 東京大学大学院 新領域創成科学研究科

バイローム(ウイルス叢)はヒト腸内微生物叢の一つとして1gの糞便中に~109粒子存在すると考えられている。近年、炎症性腸疾患や1型糖尿病において、腸内バイロームの構造的破綻が生じていることが報告されており、これらの知見は腸内生態系の理解には腸内バイロームの生理機能の解明が必要であることを示唆している。
腸内細菌叢解析では糞便保存法、DNA抽出法、情報解析手法の違いにより結果が大きく変動することが知られているため、腸内バイローム解析においても各手法の検証が必要とされる。これまでに、腸内バイローム解析のためのDNA抽出法および情報解析手法の開発が複数報告されているが、サンプル保存法を開発・検証した例は報告がない。そこで我々は複数の条件(4°C,25°C,RNAlater保存液、Guanidine保存液、Glycerol保存液,液体窒素凍結)で保存したヒト糞便を使用してバイローム解析を行い、各保存法のバイアスを検証した。その結果、バイロームDNAの抽出が困難である保存法、保管期間の影響を受けやすい保存法、細菌由来DNAのコンタミネーションが増加する保存法など各保存法に特徴的なバイアスが確認された。
本ポスター発表では各保存法のバイアスを示し、腸内バイローム解析のための保存法を提案する。

和田 潤、泊 直宏、高阪 千尋、清野 珠美、廣岡 青央、山本 佳宏/   京都市産業技術研究所

古くから京都では微生物の力を借りてつくられた多くの発酵食品(飲料含む)が市場に出回っている。これら発酵食品の品質は発酵過程を担う微生物によって大きく左右される。
当研究所では特徴ある清酒づくりに貢献する清酒酵母の開発・育種を行い、取得した有用酵母を昭和30年代から酒造メーカーに分譲してきた。一方、乳酸菌もヨーグルトや漬物など様々な発酵食品に用いられ、酵母と並んで有名な発酵微生物であり、我々にとって非常に安心で身近な存在である。また、近年、乳酸菌はプロバイオティクス(ヒトの健康に好影響を与える生細菌)としても注目を集めている。
そこで、当研究所では乳酸菌についても、優良な発酵食品製造に寄与するために独自の乳酸菌ライブラリーの構築を行ってきた。現在500株以上の乳酸菌で構成された本ライブラリーを活用するために、食品製造を念頭において乳酸菌用の安定した増殖が得られる培地の作製を目指し、種々の培地を用いて乳酸菌の生育性試験を行った。増殖に有効な因子を探索するとともに乳酸菌用研究所オリジナル培地の作製を試みた。

髙木 啓詞、太田 俊也/   静岡県工業技術研究所 沼津工業技術支援センター バイオ科

耐熱性菌は、加熱殺菌後の食品を変敗する原因菌として注目しなければならない。一般的に耐熱性菌のスクリーニングは加熱処理したサンプルを培養する方法で行われることが多いが、培養条件による偏りが生じるため、網羅的に検出できていない可能性がある。培養条件による偏りを無くした網羅的な検出方法としてDGGE法が知られている。しかしながら、本法では死菌も含めて検出されるため、加熱処理したサンプル中の生菌を選択的に検出することはできない。一方、選択的膜透過性色素EMAを利用し、生菌由来のDNAを選択的に増幅検出するEMA-PCR法も知られている。これらから、EMA-PCR法とDGGE法とを組み合わせた方法(EMA-PCR-DGGE法)を用いることとした。これにより、サンプル中の生菌群集を選択的に解析することができるのではないかと考えた。
そこで、本研究では加熱処理したサンプルをEMA-PCR-DGGEで解析することで、耐熱性細菌の網羅的なスクリーニングが可能か検討した。具体的には、食品製造工場でのふきとり試験液から耐熱性細菌のスクリーニングを行い、菌種に合わせた培養法で目的細菌を分離した。
その結果、Micromonospora属とPropionibacterium属の細菌を分離することに成功した。分離した細菌の耐熱性を評価したところ、Micromonospora属の分離株について耐熱性が認められたため、EMA-PCR-DGGEによる耐熱性細菌のスクリーニングの有効性が示唆された。

11:農水産  (P084-P085)

小松崎 将一(1)、関 浩一(1,2)/   (1)茨城大学 農学部、(2)株式会社リーフ

地域・農林水産物・食の価値の繋がりは、国民の希求する「健全な食事」の基盤であり、顧客要求事項(美味しさ、栄養・機能性、食品安全)に応える品質マネジメントの水準向上が求められている。健全且つ持続可能な農業経営に向けて、顧客要求事項に応える品質を起点に、「土づくり機能」と農耕地の「環境保全機能」の価値を生産者及び消費者(実需者)と共通認識できる「見える化」の取組が重要である。本プラットフォームでは、いままで個別に議論されていた、有機質資材や緑肥の併用による最適利用システムを通じて、農産品の品質向上と収量増加を目指す。本報告では、草生栽培による薬用芍薬の有機栽培技術およびリビングマルチ利用技術について報告する。

川崎 一則(1) 、川﨑 隆史(1) 、兼松 渉(1) 、辻内 亨(1) 、苑田 晃成(3) 、平澤 誠一(4) 、綾 信博(4) 、西川 仁(5) 、櫻井 伸樹(5)
/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 産総研 構造材料研究部門、(3) 産総研 健康工学研究部門
(4) 産総研 製造技術研究部門、(5) JNC株式会社 水俣研究所

ファインバブル技術が植物の成長促進や品質へ及ぼす効果を検証し、次世代の農林水産業への応用を拓くため、植物工場へのファインバブル技術の導入とファインバブル計測評価技術を確立する研究を実施している(内閣府SIP:次世代農林水産業創造技術「収量や成分を自在にコントロールできる太陽光型植物工場」)。ファインバブルは、粒径100μmから1μmまでのマイクロバブルと、粒径が1μmよりも小さく典型的には100nm程度であると言われるウルトラファインバブル(UFB)に大別される。本課題ではUFBの効果に注目し、JNC株式会社水俣研究所が開発した中玉トマトの栽培システムにUFB発生装置(IDEC社、FZ1N-10)を設置し、実生産規模の実験を行っている。植物工場のUFB水のサンプリング方法や輸送プロトコールを検討し、UFBの計測に有効と考えられている粒子軌跡トレース法(PTA法)等を適用する測定を行った。植物工場の水道水中の微粒子はPTA法測定でのUFB検出に干渉するため、この障害を軽減する測定プロトコールを考案した。また、栽培に用いる養液中の肥料成分によるPTA法測定への影響の検討も行った。

12:食品  (P086-P088)

室冨 和俊(1)、田部井 陽介(1)、梅野 彩(1)、堀江 祐範(1)、辻野 義雄(2)、桝谷 文武(3)、吉田 康一(1)、中島 芳浩(1)
/   (1) 産総研 健康工学研究部門、(2) 北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス系、(3) 日本恒順株式会社

5-ヒドロキシ-4-フェニル-ブテノライド(5H4PB)は、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ活性化機能を有することが報告されているが、それ以外の5H4PBの機能性については明らかにされていなかった。そこで、本研究では5H4PBの潜在的な機能性を探り、そのメカニズムを明らかにすべく解析を行った。
各種ストレス応答によって発光が増強するレポーターコンストラクトをマウス線維芽細胞株に導入し、リアルタイム発光計測によって種々の細胞内シグナル経路に及ぼす5H4PBの影響を解析した。その結果、酸化ストレス耐性において重要な役割を果たすNrf2/AREシグナル経路を選択的かつ顕著に活性化することが見出された。そこで、遺伝子発現を解析したところ、 5H4PBは抗酸化遺伝子群の発現を誘導した。さらに、5H4PBを前処理した細胞に過酸化水素を暴露し、酸化ストレスレベルや細胞死を解析した結果、過酸化水素によって誘導される細胞内ROSレベルの増大、酸化的DNA損傷および細胞死は、5H4PB前処理によって大幅に軽減された。以上の結果より、 5H4PBはNrf2/AREシグナル経路を活性化することにより抗酸化遺伝子群の発現を誘導し、細胞に酸化ストレス耐性を付与することが明らかとなった。

瀬戸山 央、廣川 隆彦、橋本 知子/   (地独)神奈川県立産業技術総合研究所

【目的】糖化は皮膚老化や動脈硬化などの一因となることがいわれている。この糖化を抑制するための1つの方法として機能性食品の摂取が挙げられている。本研究はヨーグルト乳清のもつ抗糖化作用について明らかにすることを目的として行った。
【方法】市販されているヨーグルトの中から使用菌株の異なる3種類を選定し材料とした。各材料を遠心分離して得た上清をヨーグルト乳清とした。さらに各ヨーグルト乳清を限外濾過膜により分子量分画を行い実験に供した。抗糖化作用評価はAGEs生成反応の中間産物であるアマドリ化合物の生成抑制作用評価、同じくAGEs生成反応の中間産物であるα-ジカルボニル構造化合物の分解作用評価および蛍光性AGEsの生成抑制作用評価をすべてin vitro試験で行った。
【結果】すべてのヨーグルト乳清でアマドリ化合物の生成抑制作用および蛍光性AGEs生成抑制作用が認められ、ヨーグルトの種類によりその強さが異なった。また、アマドリ化合物の生成抑制作用および蛍光性AGEs生成抑制作用ともに分子量分画を行った中では分子量3K未満の画分で強い生成抑制作用を示した。

豊田 淳/   茨城大学 農学部

平成29年度、茨城大学農学部は現3学科に国際的視点および社会科学的視点を加えた2学科(食生命科学科、地域総合農学科)への改組を実施した。今回ご紹介する本取組は、「地域連携」および「産業連携」を通じて、地域の農林水産物の高付加価値化、食品の開発および製品化に関する教育・研究を展開し、食産業等の海外展開に資するものである。 また、それらを支える「学術研究」を、茨城県立医療大学、東京医科大学茨城医療センター等と連携して実施している。研究テーマとして、「生物資源の機能性探索、評価システムの構築」、「ストレスモデル動物の開発と生理機能測定」、「農作業療法の知見を生かした障害者就労継続支援型農業生産法人の研究」などを設定している。 このポスター発表では、現在までの本取組の成果を紹介する予定である。

13:環境  (P089-P092)

井手 圭吾(1, 3)、伊藤 通浩(2)、藤村 弘行(2)、須田 彰一郎(2)、中野 義勝(2)、油谷 幸代(1,3)、竹山 春子(1,3)
/   (1) 早稲田大学大学院 先進理工学研究科 生命医科学専攻、(2) 琉球大学、(3) 産総研 CBBD-OIL

【目的】海洋中の微生物組成は様々な環境変動を受け、微生物群集のもつ機能遺伝子は様々な環境因子へ関連する事が知られている。しかしその構造は複雑であり、部分的にしか明らかにはなっていない。本研究では、海洋中の微生物群集と環境因子が相互に影響を与えるシステムを総体的に理解するために、海洋微生物のメタゲノム、メタトランスクリプトームおよび海洋環境因子を用いて、ネットワーク解析を行った。
【方法】海洋メタゲノムは沖縄県瀬底島のサンゴ礁海域において、2014年11月から2016年3月までの月ごとに採取した。また、採取地点における 12個の環境因子を経時的に計測した。サンゴ礁海洋環境中における機能遺伝子と環境因子及び海洋微生物群集の構造を求めるために、取得した情報を基に海洋環境複層ネットワークの構築を行なった。
【結果・考察】ネットワーク解析の結果、海洋環境ネットワークの中で中心的な働きを持つ因子は海水温、 溶存酸素、シアノバクテリアである事が明らかになった。また、ネットワークからのコミュニティ抽出の結果、機能的な関連が予測されるコミュニティが抽出された。これらの因子は海洋微生物環境の中心的な役割を担っている可能性がある。

常盤 豊(1)、中山 敦好(1)、川崎 典起(1)、山野 尚子(1)、伊田 小百合(1)、楽 隆生(2)、世嘉良 宏斗(3)
/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 甲南化工(株)、(3) 沖縄県工業技術センター

最近、マイクロプラスチック汚染が、海洋生態系や人の健康への驚異になっている。マイクロプラスチック汚染を解決する一つの切り札として、海でも分解しやすいポリ-(R)-3-ヒドロキシ酪酸(PHB)が注目される。しかし、微生物が作るPHBは、生産コストや微生物由来の不純物などの問題があり、未だ広く普及していない。我々は、Halomonas sp. OITC1261株が好気的に菌体の外に生産し、精製が容易な(R)-3-ヒドロキシ酪酸(R-3HB)を用いて、ポリR-3HB(PHB)やポリR-3HBジオールを合成した。さらに、R-3HBを用いて、L-乳酸やグリコール酸との共重合体やポリウレタンを開発し、それらの生分解性について調べた。その結果、高純度のR-3HBを用いて化学合成したPHBやポリウレタン、さらにL-乳酸やグリコール酸との共重合体は、PHB分解酵素や海水、活性汚泥による分解性が高いことがわかった。

川崎 典起、山野 尚子、中山 敦好/   産総研 バイオメディカル研究部門

2-ピロリドン(PRN)を開環重合させたポリアミド4(PA4)は、高融点、高強度、生分解性という優れた性質を持ち、その原料モノマーであるPRNは、糖→グルタミン酸→γ-アミノ酪酸と変換することによりバイオマスを出発原料として生産が可能である。一方、ε-カプロラクタム(CLM)を開環重合させたポリアミド6(PA6)は、世界需要量が約300万tあり、優れた熱的、機械的性質を持つが、高分子量体は生分解されない。これらPRNとCLMをともに構成ユニットにもつポリアミド(4/6)共重合体(PA(4/6))は、PRNとCLMの組成比を変えることにより、物性や生分解性の制御が可能であり、例えば、高融点、高伸度、生分解性をもつPA(4/6)が得られている。現在、我々が研究開発している各種のPA(4/6)は、PA4やPA6とは異なる熱的、機械的性質、生分解性を示し、枯渇資源への依存度、環境への負荷の低減に対して期待される材料である。

中山 敦好、川崎 典起、山野 尚子/   産総研 バイオメディカル研究部門

ポリ乳酸はバイオベースマテリアルとして市場が広がりつつある。当グループでは以前、ポリ乳酸ベースの共重合体におけるコモノマーの種類、組成比等により、機械的性質、熱的性質、それに生分解性が大きな影響を受けることを報告した。一方で、ホモポリ乳酸は、一口でポリ乳酸と言っても、その物性は原料の乳酸の光学純度の影響を受ける。ここでは盲点になりがちなポリ乳酸のL/D比に注目し、その物性と生分解性について調べた。
合成はL-ラクチドとD-ラクチドを原料に行い、NMR測定から共重合体の特徴であるヘテロ配列が観測されることから生成を確認した。熱的性質は光学純度がほぼ100%に近いポリL-乳酸ではTm178℃であるのに対し、95%(D-乳酸5%)になると25℃低下し、90%ではそのTmは100℃を下回った。また、結晶化速度も光学純度の低下に伴い、大きく低下した。引張強度も低下するが破断時伸びは大きくなった。コンポストによる生分解性及び加水分解性は光学純度低下により分解速度は大きくなったが、プロテネースKによる酵素加水分解性は少量のD-乳酸含有では分解性は大きくなるが、40%以上の含有では著しく低下した。


(注)発表者のご所属欄中、国立研究開発法人、独立行政法人、地方独立行政法人、学校法人等の名称は省略、 また、農業・食品産業技術総合研究機構は農研機構、理化学研究所は理研、産業技術総合研究所は産総研と省略して記載させて頂いております。ご了承ください。