ポスター発表一覧    /LS-BT2017

ポスター発表カテゴリー

  1. 情報工学
  2. 遺伝子工学
  3. 生体高分子
  4. 発生工学
  5. 再生医療
  6. 創薬
  7. 疾患
  8. がん
  9. 免疫
  10. 生体計測
  11. 診断
  12. 医療機器
  13. 人間工学
  14. 農水産
  15. 食品
  16. 微生物
  17. 環境
  18. その他

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1:情報工学  (P001)

上野 豊、望月 佑樹/   産総研 バイオメディカル研究部門

タンパク質同士の相互作用を原子モデルに基づいて評価するため、複合体の解離過程を推定する分子動力学による手法を検討した。複合体の結合能の指標となる解離定数Kd値は平衡状態における自由エネルギー差を反映しているが、計算科学的な議論は単純でなく、解離過程の構造を推定する必要性が指摘されている。一方、解離速度乗数は表面プラズモン共鳴による直接測定が普及し結合能の指標としても活用されており、解離に必要なエネルギーの計算で推定できる。実際には解離過程の多様性もあるため、統計熱力学的な物性値を算出するのは難しいため、原子モデルに基づいた解離しやすさを評価する手法開発を目的とした。解離させるための外力を与えて解離を促進させ数ns以内に解離させるSteered Molecular Dynamicsの計算条件を検討した。計算にはGromacsを用いてリン酸化アミノ酸の力場パラメータも導入した。こうした手法は、解離過程の構造推定にも有効と考えている。いくつかのタンパク質で計算した例について議論する。
2:遺伝子工学  (P002~P004)

飯島 実、大高 真奈美、中西 真人、佐野 将之/   産総研 創薬基盤研究部門

遺伝子治療や再生医療などの先端医療研究において遺伝子デリバリーシステムの開発は非常に重要な課題である。センダイウイルス(SeV)を骨格としたベクターは、一本鎖RNAをゲノムに持ち、幅広い細胞種に効率良く遺伝子を導入できる。これまでに我々は、複数の外来遺伝子を同時に標的細胞に導入し、それらを長期間、均一のレベルで発現できる、欠損持続発現型センダイウイルス(SeVdp)ベクターの開発に成功している。 これまで様々なベクターにおいて、安全性や効果を高めるために、組織特異的に遺伝子発現を制御するシステムが開発されている。しかしながら、SeVdpベクターでは、ウイルスRNAポリメラーゼにより、RNAゲノムを鋳型に外来遺伝子が転写されるため、組織特異的プロモーター等の既存の発現制御システムが利用できず、また有効な方法も開発されていなかった。 本研究では、SeVdpベクターの安全性をより高めるために、新しい遺伝子発現制御システムの構築を試みた。我々は、SeV Cタンパク質がウイルスRNAポリメラーゼに作用し、RNA合成を抑制できることに注目し、Cタンパク質を過剰発現するSeVdpベクターを構築した。このベクターを培養細胞に導入したところ、外来遺伝子の発現が強く抑制されることが分かった。さらに、内在性マイクロRNAを利用し、Cタンパク質の発現を調節することで、外来遺伝子の発現を細胞特異的に制御することにも成功した。これらの結果から、Cタンパク質を利用することで、外来遺伝子の発現調節が可能なSeVdpベクターを作製できることが確かめられた。

中平 洋一、山根 里佳、土倉 みなみ/   茨城大学 農学部

植物特異的なオルガネラである葉緑体には独自のゲノムが存在する。『葉緑体工学』は、相同組換えにより目的遺伝子を葉緑体ゲノムの特定部位にターゲットできる技術であるが、その最大の利点としては、葉緑体DNAの圧倒的なコピー数(1細胞あたり最大10, 000コピー)を背景にしたタンパク質の大量発現が挙げられる。また、葉緑体は、光合成による豊富なエネルギーを基に、種々の代謝産物(アミノ酸・脂肪酸・植物ホルモン・色素など)を合成する“天然の化学工場”でもある。従って、葉緑体工学を活用した代謝改変により、新しい機能・付加価値を持った遺伝子組換え植物の創出が期待される。本発表では、1) セルロース系バイオマス糖化酵素を大量発現する植物、2) 養殖魚の疾病予防用抗原タンパク質を発現する植物、3) 光る鑑賞用植物など、開発中の葉緑体遺伝子組換え植物の具体例に加え、葉緑体での厳密な遺伝子発現制御を可能にする新技術(人工リボスイッチを基盤とした遺伝子発現誘導系)について紹介する。

玉野 孝一/  産総研 生物プロセス研究部門

微生物が生産する遊離脂肪酸(FFA)やその誘導体は、医薬品・バイオ燃料・健康補助食品やその原料等に利用が期待されている。麹菌Aspergillus oryzaeは日本酒・みそ・しょうゆ等の製造に日本古来使われてきた、安全で物質生産能力の高い有用なカビである。我々はこの優れた性質の麹菌に代謝工学的な遺伝子改変を行うことにより、FFAを高生産化する技術開発を進めてきた。 最初にFFAの生分解に関わる酵素遺伝子を網羅的に破壊した。その結果、FFAからアシルCoAへの変換酵素であるアシルCoA合成酵素をコードするfaaA遺伝子を破壊すると、FFA生産性は野生株から9.2倍に向上することを見出した。当faaA破壊株の栄養要求性相補や培養条件改良も実施した結果、培養液1 L当り2.7 gのFFA生産量を達成した。 次にFFA生合成に必要なNADPHに注目し、NADPHを産生するペントースリン酸経路の強化に取り組んだ。その結果、当経路を構成する酵素遺伝子群の中でトランスケトラーゼ遺伝子を高発現したfaaA破壊株は、FFA生産性がさらに1.4倍向上した。また、faaA破壊株は液体培養で菌糸が凝集するのに対し、トランスケトラーゼ高発現faaA破壊株は菌糸が凝集せずに分散した。これによりジャーを用いた高密度培養の可能性も見出された。現在、さらなるFFA生産性の向上を目指して、代謝の改変を続けている。
3:生体高分子  (P005~P013)

高田 英昭/   産総研 バイオメディカル研究部門

私たちヒトをはじめとする真核生物は、遺伝情報であるDNAを細胞核に納めており、細胞が分裂する時には、DNAは高度に凝縮し染色体構造を形成する。しかしながら、染色体構凝縮の詳細なメカニズムは未だ明らかとなっていない。もし、染色体凝縮に異常が生じると、癌をはじめとする様々な疾患と関係することから、染色体凝縮のメカニズムの解明は重要な課題といえる。その課題を解決するためには、生きた細胞内で染色体凝縮時のDNA構造変化を捉える技術が有用である。本研究では、DNAに結合するヒストンH2Bに蛍光蛋白質であるEGFPおよびmCherryを融合させることで、FLIM-FRETを用いて細胞内のDNAの凝縮状態を定量的に解析するシステムを構築した。本システムを用いることで、染色体凝縮因子の一つとして知られるカルシウムイオンが、実際に生きた細胞内においても細胞分裂時の染色体凝縮に直接関与することを初めて明らかにした。染色体凝縮は、DNAが持つ負電荷がカルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの二価陽イオンの働きで中和されることで促進されると考えられる。また、細胞内のカルシウムイオンの欠乏により染色体の整列異常や分裂期の進行遅延といった細胞分裂異常が生じることも明らかとなった。このことから、カルシウムイオン濃度の低下によってDNAの正常な染色体への凝縮が妨げられ、細胞分裂の異常につながると考えられる。

中村 努、大嶋 真紀、上垣 浩一/   産総研 バイオメディカル研究部門

【序論】ペルオキシレドキシン(Peroxiredoxin, Prx)は広く生物界に存在するタンパク質で、過酸化水素およびアルキル過酸化物を水およびアルコールに還元する。Prxは多くの場合リング状の十量体として存在するが、それ以外の分子集合(単量体、二量体、十二量体)をするPrxも知られている。我々は以前から古細菌由来Prxをターゲットとして研究を進めており、Aeropyrum pernix K1 (ApPrx), Pyrococcus horikoshii (PhPrx)由来Prxの十量体構造を明らかにしてきた。最近、新たにThermococcus kodakaraensis Prx (TkPrx)の十二量体構造を発見した。そこで、古細菌Prxの分子集合がどのようなメカニズムで決定されているかを知るために、活性中心の酸化状態やダイマー接触面のアミノ酸配列を変化させ、それらが四次構造に与える影響を検討した。 【結果と考察】PhPrxの分子集合が酸化にともなって十量体から十二量体に変化することが結晶解析によって確認された。溶液中で二量体となるように変異を導入したPhPrxは、結晶中では二量体がリング状に6個会合していた。このことは、PhPrx二量体が十量体にも十二量体にも会合しうることを示し、溶液中で酸化状態に依存した「十量体←→二量体←→十二量体」の経路が存在することを示唆する。

柳 瑶美 (1,2)、茂木 俊憲 (2)、高木 俊之 (1)、高橋 浩 (2)、網井 秀樹 (2)、長谷川 健 (3)、金森 敏幸 (1)、園山 正史 (2)
/   (1) 産総研 創薬基盤研究部門、(2) 群馬大院理工、(3) 京大化研

近年、パーフルオロアルキル(Rf, CnF2n+1)基を含む界面活性剤が膜タンパク質の可溶化に有用であることが報告され、炭化水素鎖のみからなる通常の両親媒性分子とは異なる際立った性質を示す、Rf基を含む両親媒性分子が注目されている。 そこで我々は、再構成脂質への応用を目的とした部分フッ素化リン脂質ライブラリーの構築を目指し、膜タンパク質研究に広く用いられている1,2-dimyristoyl-sn-glycero-3-phosphocholineの疎水鎖末端をRf基に置換した新規部分フッ素化リン脂質Fn-DMPC(n = 2, 4, 6, 8, Fig. 1)を合成した。 それらの膜物性がRf鎖長に顕著に依存すること、また膜タンパク質バクテリオロドプシンの再構成脂質として有用であることを明らかにした。さらにより多くの膜タンパク質に利用するために、ライブラリーの更なる拡充が必要と考え、本研究では生体膜中に多く存在する炭素数16の疎水鎖からなる1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphocholineを部分フッ素化したFn-DPPC(n = 4, 6, 8, Fig. 1)を新たに合成し、その熱物性を示差走査熱量測定(DSC)により明らかにすることを目的とした。

冨田 峻介、石原 紗綾夏、栗田 僚二/   産総研 バイオメディカル研究部門

一般にタンパク質を同定するには、抗原抗体反応のような特異的認識を利用する必要がある。一方、演者らはこれまでに、タンパク質群に対して交差反応性を示す分子群を作製し、これらによって得られるタンパク質固有の“フィンガープリント”を利用することで、特異的な認識に頼らずに簡易にタンパク質を同定できる手法の開発を進めてきた。今回、演者らは、より高精度なタンパク質の同定を目指して、タンパク質との結合によって蛍光が増減する性質をもつ、交差反応性の高い新規高分子群を開発したので報告する。
ポリリジン側鎖の一部のアミノ基に対してフルオレセインを修飾した高分子(PF)を合成し、さらに、PFの残りのアミノ基に対して、イソロイシン(PF-L)とチロシン(PF-Y)を導入した。10 mM MOPS (pH 7.0)中で、2 μg/mLの3種の高分子に対して、20 μg/mLの20種類のタンパク質を加えた後の蛍光を測定した結果、各タンパク質に対する蛍光フィンガープリントが得られた。これらを線形判別分析によって解析することで、計80サンプルを全て正しく識別することに成功した。以上より、たった3種類の高分子によって、これまでの報告で最多の20種のタンパク質の識別が可能であったことから、本分子群はフィンガープリントを利用するタンパク質センシングのための強力なプラットフォームになると期待できる。

平野 研/   産総研 健康工学研究部門

マイクロ流路を用いて、巨大環状DNA1分子を捕捉し直接かつ実時間でイメージングする手法を試み、当該手法を用いて、凝縮転移の計測を行った。
ヒトの個々の細胞にある中にある一つ一つのゲノムDNA分子は、凝縮した形で折り畳まれて存在している。この凝縮した状態の染色体は、単にゲノムDNA分子をコンパクトにして核に収納するだけでなく、一部が凝縮と脱凝縮を行うことで遺伝子発現を制御(on/off)しているなど重要な働きをしている。 そこで本報告では、マイクロ流路中に突起状の構造物を配置することで、環状DNA1分子を物理的にひっかけることで捕捉し、直接かつ実時間でイメージングし、凝縮転移の挙動の計測を試みた。スペルミンの添加によるDNAの凝縮は、直鎖状と環状とでは核形成過程において差異が生じることが明らかとなった。また核の形成位置は直鎖状ではほぼ必ず末端から起きていたが、環状では必ずしも先端で起こる訳ではなく、その現象は流速65μm/sが閾値となっていた。これらの差異は、環状DNA分子のねじれやポリマーとしての機械的特性が関与していると思われ、詳細を検証中である。
マイクロ流路を用いることで、いままで解析が行うことが難しかった環状DNAを1分子レベルで直接かつ実時間でイメージングやダイナミクス計測ができることを示した。微細加工構造を発展することでより高度な捕捉技術による1分子DNAレベルでの高感度な検出技術の確立も期待され、現在研究を進めている。

安武 義晃 (1)、亀田 倫史 (2)、田村 具博 (1)/   (1) 産総研 生物プロセス研究部門、(2) 産総研 人工知能研究センター

放線菌Pseudonocardia autotrophicaが持つビタミンD水酸化酵素(Vdh)は、ビタミンDから骨粗鬆症等の治療薬として知られる活性型ビタミンDへの二段階連続水酸化反応を触媒するシトクロムP450酵素である。私たちはこれまでに、組換え微生物による効率的な活性型ビタミンD生産を目指し、進化工学や立体構造に基づいた変異導入によるVdhの高活性化を試行してきた。その結果、活性部位から離れた箇所へのいくつかの些細な変異が、著しい活性の向上もしくは消失を引き起こすことを発見した。このような活性変化が引き起こされるメカニズムを探るため、それら変異体の結晶構造解析および分子動力学(MD)シミュレーションを行った。その結果、活性が著しく上昇もしくは消失した変異体には共通した構造変化が誘発されていることが明らかになり、その変化によって全体構造のダイナミクスが影響を受け、結果的に大きな活性変化が引き起こされると考えられた。自然界において、P450が新規化合物を代謝するため、もしくは阻害物質から逃れるために遠位変異により素早く適応進化することが知られているが、この場合にも同様のメカニズムが存在すると考えられる。

竹下 大二郎、沼田 倫征/   産総研 バイオメディカル研究部門

翻訳制御は、mRNAからタンパク質を合成する過程を調節する分子機構であり、遺伝子発現における重要な段階の一つである。翻訳過程における調節は、生体の迅速な環境適応を可能にしており、栄養欠乏、ストレス、発生や分化、神経系、老化、疾病などに密接に関連している。そのため、翻訳制御機構の分子構造の解明は、生体の発生・分化や恒常性維持に働く生物の基本的メカニズムを明らかにするだけでなく、翻訳制御の異常に起因する疾病の治療法の確立につながると期待される。本研究では、翻訳制御に関わるタンパク質に着目し、X線結晶構造解析や生化学的解析を基にした分子構造基盤の解明を目指した研究を行っている。本会では、構造解析に向けたタンパク質調製等の取り組みについて報告を行う。

西宮 佳志、扇谷 悟、森田 直樹/   産総研 生物プロセス研究部門

ウミホタル (Cypridina noctiluca) 由来ルシフェラーゼ(CLuc)は、ATP非依存性の分泌型ルシフェラーゼである。ウミホタルルシフェリン(発光基質)との反応に細胞溶解処理が不要であることから、CLuc をレポータータンパク質として用いれば同一細胞の遺伝子発現を経時的に解析することが可能である。我々はCLucを用いたデュアルカラーレポーターアッセイの構築に取組んでおり、これまでにランダム変異の導入によって発光特性の異なる変異体を複数取得している。しかし、変異が複数個所に導入されていることも多く、変異と発光特性変化の相関については不明であり、CLucの基質結合部位および活性中心の推測に至っていない。そこでランダム変異導入による変異体の取得をさらに進めるとともに、得られた変異体をもとに一残基変異体を作製し、個々の変異が発光特性に与える影響を解析している。また、システインを他の残基に置換した場合の影響についても解析している。 新たに得られた変異体には、既存変異体の変異箇所近傍に変異が導入されていた。また、二次構造予測によりβ‐シートを構成する残基またはβ‐ストランド間を連結する比較的鎖長の短いループ領域に変異が導入されていることが示唆された。

小椋 俊彦、岡田 知子/   産総研 バイオメディカル研究部門

溶液中の生きた生物試料をそのまま高分解能で観察することは、観察装置の開発にとって大きな目標の一つである。通常の光学顕微鏡では、光の回折限界のため分解能は200nm程度に制限される。一方、走査電子顕微鏡は、電子線を数nm以下まで集束させることが容易であり、その分解能は数nmにまで達する。しかし、試料を装置内部の高真空下に設置する必要があり、溶液中の生物試料をそのまま観察することは出来ない。さらに、電子線を直接試料に照射するためダメージが大きく、コントラストが低い問題点があった。本研究では、電子線を直接試料に照射するのではなく、薄い金属層に一旦照射し、この金属層に電子を吸収させることで生じる電位変化を、溶液中の生物試料に透過させて検出する新たな方法(新規誘電率顕微鏡)を開発した。まず耐圧性が高く極めて薄い窒化シリコンの薄膜2枚の中に、溶液中の生物試料を封入し密閉する。上側の窒化シリコン薄膜にはタングステンの金属層を積層し、ここに電子線を照射させて局所的な電位変化を発生させる。この電位変化を下側の金属端子により検出することで生物試料をそのまま観察することが可能となる。最近我々は、薄膜ホルダー上に培養細胞を直接培養し、これをホルダー内に溶液を保持した状態で封入する方法を開発し、細胞の内部構造の観察に成功した。本方法では、生物試料だけでなく有機ナノ粒子等の様々な液中観察が可能である。
4:発生工学  (P014)

大石 勲、吉井 京子/   産総研 バイオメディカル研究部門

組換え蛋白質の市場は拡大を続けており、医薬品業界では世界売上げ上位製品の大部分がバイオ医薬品と呼ばれる組換え蛋白質になっている。これら組換え蛋白質は培養細胞を用いて生産されるが、一基数十億円する培養プラントの製造や生産維持、管理の煩雑さ、高額な培地の使用などにより高い製造コストが問題となっている。実際バイオ医薬品である抗体医薬品の年間薬価は患者一人あたり数百万円になることもザラであり、患者本人のみならず保険医療費など社会福祉の観点からも大きな問題である。鶏卵は大量の蛋白質を卵白に含むことから、卵白の一部を遺伝子改変によりバイオ医薬品に置き換えることで安価なバイオ医薬品の生産が可能になると期待される。 発表者らは鶏卵への有用蛋白質大量生産を目指し、オボアルブミン遺伝子座にバイオ医薬品など外来遺伝子を導入する試みを行っている。CRISPR/Cas9法により始原生殖細胞に高頻度で外来遺伝子を導入(ノックイン)し、これを移植した生殖巣キメラを得ている。さらにヒトサイトカインのG1ノックイン個体を得ており、鶏卵内に高効率に組換え蛋白質を生産するか、また活性はあるのかといった点について解析を行っている。本発表ではゲノム編集を用いたニワトリの遺伝子改変技術について我々の取り組みを報告するとともに、産業用有用蛋白質の大量生産などニワトリ独特のゲノム編集技術の将来展望についても議論したい。 (LS-BTシンポジウムでの講演有)
5:再生医療  (P015~P020)

舘野 浩章、鈴木 加代、小沼 泰子、伊藤 弓弦、平林 淳/   産総研 創薬基盤研究部門

ヒト間葉系幹細胞は再生医療のための細胞源として期待されているが、品質管理技術がないことが大きな課題となっていた。特に、ヒト間葉系幹細胞の分化する能力は治療効果に大きく影響すると考えられるが、これまで評価する方法がなかった。今回、高密度レクチンアレイを用いて各種のヒト間葉系幹細胞を解析した結果、4種のα2-6シアル酸結合性レクチンは、分化する能力が低い間葉系幹細胞と比べて、分化する能力が高い間葉系幹細胞に顕著に高い反応性を示すことがわかった(Tateno et al. Glycobiology 2016)。液体クロマトグラフィーと質量分析計を用いて定量的構造解析を行った結果、細胞の分化する能力とα2-6シアリルN型糖鎖の発現量に相関性があることが分かった(Hasehira et al. Glycoconjugate J. 2016)。今回開発した技術により、ヒト間葉系幹細胞の分化する能力を簡便に評価できることから、再生医療に用いるヒト間葉系幹細胞の製造過程における品質管理への応用が期待される。

小沼 泰子、清水 真都香、相木 泰彦、伊藤 弓弦/   産総研 創薬基盤研究部門

再生医療に用いる細胞の保存には無血清かつxeno-freeの細胞凍結保存液が望まれ、また場合によってはジメチルスルホキシド(DMSO)の使用の有無についても関心が寄せられている。本研究では、DMSO-free/無血清/xeno-free/chemically definedな細胞凍結保存液の効果をヒト間葉系幹細胞および軟骨細胞を用いて検証した。 当該細胞保存液で保存した細胞は、20% DMSO/10% ウシ胎児血清を含む従来の凍結保存液のものと比較して同様の増殖率、形態を示した。また、これらの凍結保存液から解凍後2継代した間葉系幹細胞のDNAマイクロアレイによる網羅的な遺伝子を解析したところ、間葉系幹細胞マーカーCD73, CD90, CD105を含むほとんどの遺伝子で発現量の大きな差がなく(全プローブの相関係数0.99以上)、細胞の性質の保持についても従来の凍結保存液と同等であることが確認された。

長 真優子(1,2)、原本 悦和(1)、清水 真都香(1)、樋口 久美子(1)、相木 泰彦(1)
小沼 泰子(1)、青柳 秀紀(2)、豊田 雅士(3)、阿久津 英憲(4)、伊藤 弓弦(1,2)
/   (1) 産総研 創薬基盤研究部門、(2) 筑波大学 生命環境科学研究科、(3) 東京都健康長寿医療センター、(4) 国立成育医療研究センター研究所

間葉系幹細胞を用いた細胞治療のターゲットの一つとして、低ホスファターゼ症が挙げられる。これは、骨の形成に関与する酵素が体内で正常に合成されないことが原因で骨形成に異常をきたす病気である。特に、周産期や乳児期に発症した患者は致死率が高く、これまでにそのような患者に対する治療法は確立されていなかったが、近年、間葉系幹細胞移植と骨髄移植を併用することで患者が救命されたケースが報告されており、現在国内においても間葉系幹細胞を用いた臨床研究が行われている。 しかし、間葉系幹細胞はソースや採取方法、培養方法の違いにより、性質が異なる。骨分化能に関しても大きな差異があり、またその理由も不明である。現在の技術では骨分化前に間葉系幹細胞がどれだけの骨分化能を有しているのかを検証できず、それ故2週間かけて実際に分化させて確認しなければならなかった。 そこで、本研究では、治療の有効性を速やかに判断するのに役立つ骨分化能の有無を予測する遺伝子マーカーの探索を行った。さらに、その遺伝子が間葉系幹細胞の骨分化に対してどのような機能を持っているかを解析した。

横須賀 俊喜、栗崎 晃/   産総研 創薬基盤研究部門

呼吸は生命活動に不可欠なものであり、それゆえ、事故や疾患により肺を損傷すると生命維持が困難になる。特に慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、長年の喫煙などによる慢性的な炎症により肺胞組織が破壊され、活動時の呼吸困難や慢性のせきやたんなどの苦しい症状が続く難治性疾患であり、今後死亡率が増加すると予想されている。この疾患は肺胞が不可逆的に破壊される不治の病であり、現在気管支拡張剤やステロイドなどの対症療法で延命が試みられているが、より根本的な肺組織の再生方法の開発が必要とされている。そこで本研究では肺の様々な構成細胞へ分化しうる肺前駆細胞の作製方法を開発する。ヒトiPS細胞から肺前駆細胞を分化誘導する方法も先行研究で報告されているが、腫瘍化や目的外細胞混入のリスクが指摘されている。本研究ではこのような危険性を回避する新たな分化方法の開発を試みた。 当研究室では、最近マウス線維芽細胞から肺前駆細胞への分化転換に成功しており、本研究はこの方法をヒト細胞で実用化するため分化転換条件の最適化を実施した。ヒト細胞では、マウス細胞での分化転換効率と比べてその効率が低く、使用培地の最適化により分化転換効率を改善した。これらの細胞では肺前駆細胞マーカーの発現量が増加していることが定量的RT-PCRと免疫蛍光染色により確認された。さらに分化転換後2週間、小気道上皮細胞の初代継代細胞培養培地で培養することで免疫染色によりクララ細胞、Ⅱ型肺胞上皮細胞、Ⅰ型肺胞上皮細胞マーカーを発現していることから肺胞上皮細胞への分化能があることが示唆された。今後免疫不全マウスに本前駆細胞を移植し、その分化能を検討する予定である。

LIN HSIN KUANG/   産総研 創薬基盤研究部門

At present, nearly 5 percent of the global population is suffered from chronic obstructive pulmonary disease (COPD), a progressive lung disease that includes emphysema, chronic bronchitis, refractory asthma, and bronchiectasis. COPD is characterized by difficulty in breathing, lung airflow limitations, and frequent coughing. The main cause of COPD is smoking. Currently, there is no effective way to cure COPD. In this study, we are developing a novel differentiation method of lung progenitor cells that can differentiate into various lung tissue cells from human iPS cells. Our laboratory had screened over 15,000 chemicals and found one chemical compound that can promote differentiation of foregut endoderm into lung progenitor cells. Now I am optimizing the differentiation conditions to induce iPS cells to the lung progenitor cells. In this poster session, I will present my current state of research, and discuss problems I should overcome.

小沼 一雄、飯島 まゆみ/   産総研 健康工学研究部門

6:創薬  (P021~P030)

小島 正己/   産総研 バイオメディカル研究部門

BDNF(脳由来神経栄養因子)は、記憶・学習や認知機能に関与する神経栄養因子の一つであるため、アルツハイマー病等の認知症への関連が注目される。そこで本研究では、月齢別マウスにおけるBDNFサブタイプの発現変化を解析し、BDNFとの関連について新しい分子機序の示唆を目指した。2ヶ月以上の雄マウス(n=3)から大脳皮質と海馬を摘出し可溶化バッファーで処理をした。BDNFサブタイプの検出には各特異的抗体を用いて定量解析を行った。その結果、大脳皮質において、BDNFプロペプチドの発現は、高月齢において上昇傾向を示すが成熟BDNFの発現は加齢に伴って減少していることを見出した。しかし、海馬においてはそのような変動は見いだされなかった。これらの結果は、加齢に伴うBDNFサブタイプの発現変化と同時に我々が研究してきたそれらの分子の生理作用との関連が示唆される。

池本 光志、石井 則行/   産総研 バイオメディカル研究部門

G Protein Coupled Receptors (GPCRs)は、生命維持に必須な生理機能の発現に関与する7回膜貫通型受容体であり、主要な創薬標的因子である。我々は、鎮痛創薬に向けたGPCR関連創薬技術開発を目的とし、GPCR結合DNAアプタマーの効率的探索方法ならびに高親和性GPCR結合アプタマーの創製に取り組んでいる。特に、MORオピオイド受容体(μ受容体)は、主要な鎮痛関連GPCRsのひとつであり、耐性依存性を示さずに強力な鎮痛効果を示す新規MORリガンドの開発は医薬領域における重要な研究課題のひとつである。我々は、テトラサイクリン投与依存的にMORを発現誘導する293細胞を構築し、改良型Cell SELEX法を用いてMOR受容体に特異的に結合するDNAアプタマー(Apt-MOR)の探索を実施した。MORへの結合活性を指標に40塩基長の任意配列を含む76塩基長の一本鎖DNAライブラリーからスクリーニングを実施した結果、Apt-MORを同定した。Apt-MORはMOR発現細胞のみに対して特異的かつ高親和性に結合し、MOR受容体活性化指標であるcAMP産生抑制能を示したとから、MORに特異的に結合して活性化を誘導する分子機能を有すると考えられた。従って、本研究で提案した探索方法は、GPCRsを標的とする核酸アプタマー開発に有用な探索方法となり得る。

鍵和田 晴美、高坂 美恵子、趙 陽、望月 正弘、香川 静、桑野 志穂美、福田 枝里子、五島 直樹、堀本 勝久
/   産総研 創薬分子プロファイリング研究センター

細胞が外部環境に呼応して自己の性質を最適化する際、細胞内でその情報伝達を担うのがシグナル伝達経路である。シグナルは構成タンパク質間のリン酸基受渡しによって伝播される。すなわち多様なリン酸化酵素活性の全体像をとらえることができれば、細胞内でどのようなシグナルがどこまで、どんな方向へ伝わっているのかを特定することができる。リン酸化の研究は従来、個別タンパクの機能解析やMS解析によってリン酸化の痕跡を検出する形で進められてきたが、本手法は細胞の持つ酵素活性を直接観察できる点で画期的である。我々はこれまでに19139タンパク質を搭載した網羅的プロテインアレイを用いて精製されたキナーゼの活性をプロファイリングすることに成功し、さらに、多様なキナーゼの混合物である細胞抽出液のキナーゼ活性プロファイリングにも成功した。また、これらの測定結果とネットワーク数理解析を組み合わせることで、EGF刺激化のシグナルが経時的に伝達される様子を明らかにすることにも成功しており、本アッセイ系の有効性を確認できた。

千賀 由佳子、宮房 孝光、渡邊 秀樹、本田 真也/   産総研 バイオメディカル研究部門

タンパク質の立体構造が崩れて生じる凝集は、種々の疾患の発症と密接に関連している。抗体医薬品の場合、様々な環境ストレスによって凝集体へと変化して免疫原性の原因になると懸念されているため、凝集体の適切なモニタリングと制御が求められている。当グループでは、抗体の凝集前駆体となる非天然型構造を認識できる25残基の小型人工タンパク質AF.2A1 (Watanabe et al. J Biol Chem. , 2014) の開発に取り組んできた。今回私達は、AF.2A1で非天然型構造抗体をサンドイッチするAlphaLISAアッセイ系により、均一系で高速な抗体の凝集体モニタリングが可能となったことを報告する。非天然型構造抗体のサンプルは、ヒトモノクローナル抗体を酸性バッファーに透析置換して調製した。このアッセイ系では、天然型構造抗体の含有濃度に影響されることなく、非天然型構造抗体のみを検出することができた。また、酸処理ストレス以外では、熱や撹拌、酸化ストレスでの非天然型構造抗体を検出した。動的光散乱法によって非天然型構造抗体の粒子径を測定したところ、1000 nmまでの非天然型構造に反応することが明らかになった。以上の結果より、AF.2A1を用いたAlphaLISAアッセイ法は、様々なストレスによって生じた非天然型構造抗体を検出できる非常に有用なツールとして利用できることが示された。

加藤 義雄/   産総研 バイオメディカル研究部門

96ウェルプレート等のマイクロプレートは、創薬開発の現場で最も利用されている実験器具の一つである。膨大な種類の薬剤ライブラリーの適切な管理と、多様な評価軸で評価される薬剤活性の高精度な測定は、創薬スクリーニングの両輪であり、マイクロプレートがその役割を担っている。 一方でマイクロプレートは、自動化できない手作業の分析の際に、誤操作を引き起こす要因にもなっている。そこで、マイクロプレートを日々使用している経験の中から、マイクロプレートの個別のウェルに位置を示す記号をつけることにより、誤操作を低減させる方法を考案した。ウェルの奥側の壁に記号をつけることにより、プレートリーダー装置による上下方向から分光学的に試料を分析する際には影響を与えず、手動による作業者が操作する際には手前斜めからウェルを目視することによりウェル位置を示す記号を明瞭に認識することが可能となる。

梶本 和昭(1,2)、片岡 正俊(1)、原島 秀吉(2)/   (1) 産総研 健康工学研究部門、(2) 北海道大学 大学院薬学研究院

近年、肥満に伴う脂肪新生に血管新生が必須であることが明らかとなり、肥満治療のための新たな標的として脂肪組織の血管内皮細胞が注目されている。我々は、全身に分布する血管のうち、脂肪細胞に栄養と酸素を供給する血管の機能を選択的に低下させることができれば安全かつ効果的な肥満治療が可能になると考え、脂肪組織の血管に対して選択的に医薬分子を送達するためのリポソーム型ナノ送達システム(ナノDDS)の開発に着手した。脂肪組織の血管内皮細胞表面に発現するプロヒビチンに対する高親和性ペプチドモチーフを標的化リガンドとして搭載したナノDDSを構築し、in vivoにおける動態評価により標的部位への移行能が最大となるナノDDSの組成を見出した。さらにアポトーシス誘導性ペプチドを内包したナノDDSを食餌性肥満モデルマウスに3日に1回の頻度で反復投与することにより、有意な減量効果が認められた。さらに、ナノDDSの投与によって脂肪組織への炎症性マクロファージの浸潤が顕著に抑制され、対照群と同等量の高脂肪食を摂取しても脂肪肝が劇的に改善するという極めて意外な治療効果が得られることも明らかとなり、新たな肥満治療法として脂肪組織の血管を標的とするナノ医療戦略を世界に先駆けて提唱した。本発表では、in vivoにおける検討結果から明らかになった極めて興味深い知見について紹介する。

木村 忠史/   産総研 創薬基盤研究部門

ペプチドは低分子医薬品より大きく抗体など高分子医薬品より小さい中分子医薬品として注目され、特殊ペプチドを導入するなど高度なペプチドディスプレイ技術を用いた研究開発が行われている。我々は膜タンパク質、特にイオンチャネルを標的とするペプチドを創製することを目指し、大腸菌を用いたタランチュラ由来ペプチドとディスプレイ技術(PERISS法)およびパッチクランプ電気生理学的技術による研究開発を進めている。 我々のペプチドディスプレイ技術は、大腸菌ペリプラズム空間をディスプレイの場として利用すること、及びディスプレイするペプチドが蜘蛛毒由来であることなどを特徴とする技術である。標的イオンチャネル分子を大腸菌内膜に活性のある形で発現させペプチドライブラリーをスクリーニングし、更に電気生理学的手法を組み合わせることにより薬理学的に意味のあるペプチドを迅速に取得できると期待される。 イオンチャネル創薬の対象として想定される疾患は、疼痛、炎症、癌、腎疾患、心房細動など神経系から循環器系、消化器系と多岐に渡っている。イオンチャネルが関与している疾患に対して、我々の技術を用いることにより、これら疾患を対象としたペプチド性医薬品候補を提供することが可能となると考えている。

文 淞湖(1,2)、栗崎 晃(1)/   (1) 筑波大学生命環境科学研究科生物科学専攻、(2)産総研 創薬基盤研究部門

胃がんは我が国では患者数が肺がんに次ぐ第2位、死亡率でも第3位である。胃がんの原因と考えられるヘリコバクターピロリ菌の感染率は、若年層でこそ3-5割だが、60歳以上では8割以上の感染率を示しており、多くの日本人が潜在的危険群に属している。そこで我々は、胃がん発病のメカニズム究明に活用するためのin vitroヒト胃組織モデルの作製研究を行っている。昨年我々はマウスのES細胞を用いて成熟胃組織を完全に分化させる条件を開発した。本研究ではヒト人工多能性幹細胞(hiPS細胞)を用いてヒト胃組織モデルの分化条件を検討している。 先ずヒトiPS細胞を浮遊培養し、胚葉体を形成させた後、前腸内胚葉への分化を誘導する培養条件を定めるため、マウスES細胞から胃組織への分化を誘導する条件を基に検討している。これまでの検討から一層の管腔状のSOX2陽性の上皮細胞から成る前腸内胚葉への分化が確認されており、現段階ではSAGとIWP-2の濃度調節による変化を確認するため、定量的RT-PCRと免疫蛍光染色による検証を行っている。

足達 俊吾、夏目 徹/   産総研 創薬分子プロファイリング研究センター

薬剤等の刺激に対する細胞応答を知ることは、薬の評価や病気の診断において非常に重要である。細胞は外界からの刺激に対し、転写、翻訳、タンパク質の修飾、タンパク質分解など多層の制御により応答することが知られており、現在それぞれの制御層を個別に解析し、結果を統合的に解釈するマルチオミクス解析が盛んに試みられている。しかしながら、複数の解析プラットフォームにおいて得られた解析結果を統合することには現状大きな困難が伴う。我々は、単一のプラットフォームでの解析により多層の応答を知る方法として、新生タンパク質量に絞った定量解析技術の開発を行っている。新生タンパク質量は転写、mRNA分解、翻訳、タンパク質の修飾、タンパク質分解全ての応答情報を含んでおり、転写や翻訳阻害剤との併用によりそれぞれの層への切り分けも可能である。また、トータルタンパク質を定量に比べ、刺激に対しての影響が瞬時に現れるという利点をもつ。本発表では、新生タンパク質定量解析の現状と、今後の可能性について解析実例を交えて紹介する。

出口 友則/   産総研 バイオメディカル研究部門

ゲノム解析が進み多くの疾患原因因子が解明されたこと、また、何十万という化合物を一気に合成できるコンビナトリアル・ケミストリーが確立されたことにより、医薬品開発では、これらの原因因子をターゲットとするin vitroの分子標的スクリーニングが主流である。しかし、この手法により医薬品開発が一気に加速することが期待されたが、抗体医薬や一部のキナーゼ阻害剤を除き、期待された成果が見出されていないのが現状である。特に、in vitroの分子標的スクリーニングでのヒット化合物が、細胞レベルで活性を発現しないケースが多く、そのため、最近では、細胞等を用いた表現型スクリーニングへの回帰が見られる。表現系スクリーニングの究極は、個体レベルでのスクリーニングであるが、マウスのような小型動物であっても、多量の化合物量を必要とし、また膨大なコストがかかるため、開発化合物の評価にしか適用出来ない。そのため、欧米では安価かつスループットの高い個体レベルでのスクリーニングの要望に応えるため、最も小型な「脊椎動物」であるゼブラフィッシュを用いた創薬スクリーニングが進められている。 我々はこの現状を予見し10年以上前からメダカを用いた創薬スクリーニングのための基盤技術の開発を行っており、その最新技術とこれまでの成果を紹介する。
7:疾患  (P031)

戸井田 力(1)、姜 貞勲(2)、藤田 聡史(1)/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 国立循環器病研究センター研究所 生体医工学部

Obesity is associated with chronic inflammation and is known as a major risk factor for several diseases including hepatic steatosis. Macrophages (MΦ) play a critical role in the development of obesity-induced inflammation. Efficient delivery of therapeutic anti-inflammatory molecules, such as interleukin (IL)-10, to MΦcan dramatically improve therapeutic efficacy of obesity treatments. We used liposomes containing the ‘eat-me’ signal phosphatidylserine (PS) (PS containing liposomes; PSL), which have MΦtargeting ability and anti-inflammatory functions, as a biomaterial carrier for the delivery of IL-10 to MΦ. The IL-10-conjugated PSL (PSL-IL10) showed high affinity for MΦ. In obese mice, PSL-IL10 treatment exhibited significant anti-obesity and anti-inflammatory effects, such as reduced adipocyte size, proinflammatory cytokine secretion in adipose tissue, and hepatic steatosis. The PSL-IL10 has MΦtargeting ability and enhanced anti-inflammatory effect due to the synergistic anti-inflammatory effects of IL-10 and PSL.
8:がん  (P032~P035)

山村 昌平、林 尚子、山田 恵理子、橋本 芳子、梶本 和昭、片岡 正俊/   産総研 健康工学研究部門

がん細胞が他臓器へ血行性転移する際、血中に存在するがん細胞を血中循環がん細胞(Circulating Tumor Cell、CTC)と呼ぶ。CTCの解析は、転移がんの予後予測等に期待されているが、CTC検出には血液10ml(白血球約5千万個)中に数個レベルの分離能を求められるため、従来法では分離能や擬陽性等の問題がある。 そこで我々は、全血中から分離した白血球180万個を単一層に配置し、その中の極少数のがん細胞を正確に検出できる細胞チップを開発することに成功した。本細胞チップを用いることによって、全血中の白血球画分に混在するがん細胞(0.01-0.0001%)を定量的に検出し、チップ上で標的がん細胞の抗体多重染色を行うことができた。さらに、マイクロマニピュレーターを用いて、細胞チップ上の標的単一がん細胞を回収することも可能であった。現在、細胞チップを用いた患者試料の測定を進めている。本細胞チップは、新規CTC検出システムになり得ることが期待される。

三澤 雅樹(1)、早野 将史(1)、大森 拓也(2)、佐藤 昌憲(2)、清水 森人(3)、高橋 淳子(4)
/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 駒澤大学、(3) 産総研 分析計測標準研究部門、(4) 産総研 バイオメディカル研究部門

1. 背景と原理  X線照射下で金ナノ粒子(GNP)から光電子やAuger電子が発生することを利用し、放射線治療の治療効果を高める放射線増感剤の研究を行っている。発生した電子は溶媒中の酸素を励起し、活性酸素種を発生させる。 2. 実験方法  5~80nmの金コロイドに、活性酸素試薬(APF)を添加し、X線照射前後で蛍光強度を測定した。また、金ナノ粒子の細胞内取り込みを高めるため、リポソームを使った送達方法を検証した。次に、金コロイドを取り込んだ細胞に、治療用X線を照射し、細胞の生存率を評価した。 3. 結果とまとめ  金質量濃度56-85μg/mlの範囲で、水のみの場合に比べ、5~8倍のROS発生が見られた。次に、がん細胞(HeLa)と正常細胞(NB1RGB)への集積度を変えるため、リポソームにFITC標識金コロイドを内包し、リポソーム表面に抗EGFR抗体を接合した金ナノ粒子複合体を合成した。これを培養液に添加した結果、EGFR発現の高いHeLa細胞への金ナノ粒子集積が有意に高いことを確認した。

志賀 晃、佐藤 淳、中村 真男/   東京工科大学大学院

母乳ラクトフェリン(Lf)は、抗腫瘍作用や抗炎症作用を有することから創薬シーズとして期待されている。既にウシ由来Lfはサプリメントとして使用されており、多くの健康増進効果が報告されている。Lfは、2つの球状ドメイン(N-ローブとC-ローブ)から構成されており、硫酸化グリコサミノグリカン糖鎖(sGAG)の結合部位として、ラクトフェリンN-ローブのN末端部位が同定されている。最近、高転移性肺癌細胞において、sGAGの一種であるコンドロイチン硫酸Eが、肺癌細胞の増殖能と接着能に影響を与えて、転移能の亢進に寄与していることが報告されている。本研究では、ラクトフェリンN-ローブで刺激した際の細胞増殖活性を指標に、N-ローブの活性発揮に及ぼすsGAGの影響を評価した。その結果、N-ローブの細胞増殖活性は各種sGAGにより異なること、非小細胞低分化型肺癌細胞において細胞凝集塊を形成すること等が見出された。これらの結果をふまえて、sGAG結合能を低減させた抗腫瘍活性ラクトフェリン模倣ペプチドの成果を報告する。

王 秀鵬(1)、Xia Li(1)、Kazuko Yoshiyuki(1)、Yohei Watanabe(2)、Yu Sogo(1)、Tadao Ohno(3)、Noriko M. Tsuji(2)、Atsuo Ito(1)
/   (1) 産総研 健康工学研究部門、(2) 産総研 バイオメディカル研究部門、(3) The Nippon Dental University

A plain mesoporous silica nanoparticle without any immunomodulatory molecules significantly enhances anti-cancer immunity in vivo. Comprehensive mechanism of mesoporous silica nanoparticle induced cancer immunotherapy was analyzed in this study. The mesoporous silica nanoparticle promotes both Th1 and Th2 immune responses, as they accelerates lymphocytes proliferation, stimulates IFN-γ, IL-2, IL-4 and IL-10 cytokine secretion by lymphocytes ex vivo, and increases IgG, IgG1, IgG2a, IgM and IgA antibody titers in mice serum compared with those of alum and adjuvant-free groups. Moreover, the mesoporous silica nanoparticle enhances effector memory CD4+ and CD8+ T cell populations in three most important immune organs (bone marrow, lymph node and spleen) of mice after adjuvant injection. The present study paves the way for the application of mesoporous silica nanoparticle as adjuvant for cancer immunotherapy.
9:免疫  (P036~P040)

神谷 知憲、渡邊 要平、辻 典子/   産総研 バイオメディカル研究部門

Probiotics are microorganisms that bring good influence for health, especially for well-balanced immune and digestive system. It has been shown that a number of probiotic strains improve symptoms of animal models for allergy and autoimmune diseases. This study examined the effects of Pediococcus acidilactici (LAB-PA), a lactic acid bacteria separated from rice bran bed, for probiotic effects in an experimental autoimmune encephalomyelitis (EAE) mouse model. As a result, onset of EAE was delayed in the group fed LAB-PA. To investigate the mechanism of the protective effects of LAP-PA, we next performed in vitro co-culture assay using immune cells. CD11c+ cells from murine splenocyte were pulsed with MOG35-55 peptides, and co-cultured with CD4+ cells from lymph nodes of mice sensitized with MOG35-55 peptides. Cytokine concentrations in the supernatants of co-culture at day3 were determined using ELISA. The level of IL-17 induced by the MOG35-55 peptide was significantly lower in the presence of LAB-PA, while the level of IFN-γ was up-regulated. Collectively, it is indicated that LAB-PA has preventive effects in the EAE model via suppression of Th17 activity.

辻 典子(1)、神谷 知憲(1)、渡邊 要平(1)、角田 茂(2)、安達 貴弘(3)、藍原 祥子(4)
三浦 隆匡(5)、川崎 浩子(5)、佐々木 道仁(6)、澤 洋文(6)、平山 和宏(2)
/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 東京大学 農学生命科学研究科、(3) 東京医科歯科大学 難治疾患研究所、(4) 神戸大学大学院 農学研究科
(5) 製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター、(6) 北海道大学 人獣共通感染症リサーチセンター

Lactic acid bacteria (LAB) are a major component of small intestinal microbiota and frequently utilized for food fermentation. We have shown the anti-inflammatory effects of LAB and how they impact the functional maturation of immune cells through Toll-like receptor 3 (TLR3). We also found a single mutation of TLR3 results in a dysbiosis of intestinal microbial flora, indicating a close connection between gut microbiota and host immune system shaped by small intestinal microenvironment. It is therefore important to understand how food components such as LAB- containing fermented foods modulate immune response as well as gut microbiota of human host. Faecal suspensions from three healthy human donors were inoculated to germ-free mice to produce human flora- associated (HFA) mouse groups. HFA mice were fed diet containing 3% of Miso paste (a fermented food that contains LAB) for one month and immunized with ovalbumin (OVA). Effects of Miso diet on antigen-specific cytokine production in HFA mice were evaluated by ex vivo cell culture assay and ELISA. Profile of intestinal microbiota was analyzed by pyrosequencing. Both immune response and gut microbial profile of HFA derived from three different donors were modulated. Their causal relationships will be discussed.

Takahiro Adachi(1)、Shigeru Kakuta(2)、Yoshiko Aihara(3)、Tomonori Kamiya(4)
Yohei Watanabe(4)、Kazuhiro Hirayama(2)、Noriko M. Tsuji(4)
/   (1) Medical Research Institute,Tokyo Medical and Dental University
(2) Graduate School of Agricultural and Life Sciences,The University of Tokyo
(3) Graduate School of Agricultural Science,Kobe University、(4) Biomedical Research Institute, AIST

Probiotics such as Lactic acid bacteria (LAB) and Bacillus subtilis var. natto have shown to modulate immune responses. To understand how probiotic bacteria impact intestinal epithelial cells (IECs) are important because IECs are the first line of defense at the mucosal surface barrier, and their activities substantially affect the status of gut microenvironment and immunity. Nonetheless, their precise mechanism remains unknown because of the lack of analytical system in live animals. Recently, we generated a conditional Ca2+biosensor Yellow Cameleon (YC3.60) transgenic mouse line and established five-dimensional (5D) (x, y, z, time, Ca2+) intravital imaging of lymphoid tissues including Peyer’s patches and bone marrow. In the present study, we further developed intravital imaging system for intestinal tracts to visualize the responses of IECs against orally administrated food compounds in real time manner. By using this system, heat-killed Bacillus subtilis natto, a probiotic TTCC012 strain, was shown to directly induce Ca2+ signaling in IECs of mice kept under specific pathogen free conditions. In contrast, such activation of IECs was not observed in the case of a Lactcoccus lactis strain C60. Surprisingly, however, when we generate germ-free YC3.60 mice and observed how LAB stimulate IECs in the absence of gut microbiota, then C60 was capable of inducing Ca2+signaling in the IECs. For the first time, this study successfully visualized the direct effect of probiotics on IELs in live animals. It is strongly suggested that probiotic strains stimulate small intestinal epithelial cells under physiological conditions, and their activity was influenced by the microenvironment of small intestine such as commensal bacteria.

渡邉 要平(1)、辻 典子(1)、神谷 知憲(1)、木元 広実(2)、考藤 達哉(3)
/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 農研機構 畜産草地研究所、(3) 国立国際医療研究センター 国府台病院 肝炎・免疫研究センター

The number of non-alcoholic fatty liver disease (NAFLD) patients has rapidly increased during the past couple of decades. NAFLD is a progressive form of non-alcoholic steatohepatitis (NASH), a hepatic manifestation of metabolic syndrome and highly associated with hepatocellular carcinoma (HCC). Therefore establishment of diet-solutions, in addition to symptomatic treatments, are keenly required. We previously reported that a majority of lactic acid bacteria are able to induce high level of anti-inflammatory interferon-β (IFN-β) from dendritic cells by stimulating endosomal Toll-like receptors. One such strain, Lactoccocus lactis subsp. cremoris C60, induces high level of IL-10 also, and stabilizes oral tolerance. In the present study, we show that oral administration of C60 to NASH model mice up-regulated the level of IL-10 in the intestine and significantly improved NAFLD including steatosis, lobular inflammation, and hepatocellular ballooning.

Gabriel Gonzalez(2)、Michihito Sasaki(2)、Lucy Burkitt-Gray(3)、Tomonori Kamiya (1)
Noriko M. Tsuji (1)、Hirofumi Sawa(2)、Kimihito Ito(2)
/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 北海道大学、(3) ダブリン大学

Recent advances in Next Generation Sequencing technologies allow us to obtain millions of sequences from known and still unknown microorganisms. However, distinguishing faint signals of novel species from simple background noise remains a technical challenge; particularly when the nucleotide sequences of novel species are too diverged to show sufficient resemblance to those of their closest known species. To solve such a problem, we developed a new method, Optimistic Protein Assembly from Reads (OPAR). This method is based on the assumption that protein sequences could be more stable than the nucleotide sequences encoding them. By taking advantage of metagenomics, bioinformatics and conventional Sanger sequencing, our method successfully identified all the coding regions of the mouse picobirnavirus for the first time. The salvaged sequences indicated that segment 1 of this virus was more highly diverged from its homologues of other species in the Picobirnaviridae family than segment 2. For this reason, segment 1 of mouse picobirnavirus had not been detected so far, although segment 2 has been determined previously. OPAR web tool is available at http://bioinformatics.czc.hokudai.ac.jp/opar/.
10:生体計測  (P041~P053)

脇田 慎一(1)、南 豪(2)、南木 創(2)、佐々木 由比(3)、栗田 僚二(1)、丹羽 修(4)、時任 静士(3)
/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 東京大学 生産技術研究所
(3) 山形大学 大学院理工学研究科・山形大学 有機エレクトロニクス研究センター、(4) 埼玉工業大学 先端科学研究所

有機エレクトロニクス技術を用いたバイオセンサは柔軟性があり、外部給電機能などの集積化や、多品種・小規模生産に特長がある。モバイルヘルスケアとして期待されている。有機トランジスタは耐水性に課題があるが、溶液中で安定に動作する有機FETバイオセンサを前回報告した。今回、ウェアラブルバイオセンサの開発を目標に、唾液中に含まれるストレス研究対象物質を対象に、各種バイオセンサの基礎検討を行ったところ、再現性の良いセンサ特性を得ることができた。

呉 純/   産総研 バイオメディカル研究部門

化合物s-アデノシルメチオニン(SAM)はメチル基転移酵素によるDNAのメチル化反応のメチル基供与体である。s-アデノシル-L-ホモシステイン(SAH)はこのメチル化反応の副産物であり、メチル化反応の強力な阻害剤である。メチル化反応中に蓄積されたSAHはアデノシルホモシステインヌクレオシダーゼによって加水分解され、ホモシステインとアデノシンに変換される。最終的にホモシステインがメチオニンシンターゼによって、SAMに再生される。このSAMとSAHとの比率は、細胞中のメチル化ポテンシャルを示す。SAHの濃度の測定法としてイムノアッセイ法がすでに開発されたが、SAHの不安定性や抗SAH抗体のほかの化合物との交差反応においてまだ改善の余地があったので、本研究では、M13ファージを用いて、anti-SAH抗体や抗体に結合したSAHに対するバイオパニングを行った。この方法で選定されたペプチドを用いて新規のSAHのイムノアッセイ法の確立について検討したので、その詳細な結果を報告する。

金 賢徹(1)、山岸 彩奈(1)、今泉 美玖(2)、小野村 由衣(1)、長崎 晃(1)、宮城 洋平(3)、岡田 知子(1)、中村 史(1,2)
/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 東京農工大学大学院 工学府、(3) 神奈川県立がんセンター 臨床研究所

原子間力顕微鏡(AFM)を用いた生命科学分野研究では、探針先端に生体分子を固定化して細胞表面に順次接触させることにより、1細胞表面の受容体分布を可視化する研究などが行われている。細胞間接着力をAFMで測定する場合は、片方の細胞をAFMチップ側に取り付けねばならず、手技開発が容易ではなかった。本研究では、細胞と同程度の直径を持つ半球カップ状の金属微粒子をカンチレバー先端に取り付けた「カップチップ」を作製し、UFOキャッチャーの如くひとつの細胞を捕獲した後、別の細胞との接着力を簡便に測定する方法を開発したので、その技術詳細について報告する。金属カップは、鋳型となるポリスチレン球に任意の金属を蒸着した後、加熱により鋳型ポリスチレン球を取り除くことで作製した。そのカップを、AFMカンチレバー先端にマイクロマニピュレータを用いて糊付けした。作製したカップチップを基板上の細胞に接触させて数秒間静置した後、チップを基板から遠ざけると、細胞がカップ凹み部分に捕獲されて吊り上げられる様子が確認された。本技術を用いて、マクロファージと数種類のがん細胞との接着力を測定した結果、他のペアに比べてマクロファージとがん細胞間の接着力が優位に大きいことが定量的に示された。この結果は、2細胞間の接着力を、AFMを用いて定量的に測定できたからこそ明らかになったことであり、作製したカップチップの有用性を示している。

石井 則行、池本 光志、小田原 孝行/   産総研 バイオメディカル研究部門

Exosomes are extracellular vesicles secreted from biological cells. Those from diseased cells contain disease-specific nucleic acids and proteins. Therefore, they have attracted great interest as high sensitive diagnostic biomarkers at early stages of human diseases. However, their physiological and biophysical features remain largely unknown. In order to clarify the molecular mechanisms underlying exosome functions, we have developed a novel isolation method suitable for biophysical analyses that can resolve physicobiochemical features of exosomes by electron microscopies, particle counting techniques, and so forth. We demonstrate the usefulness of our isolation method in conjunction with electron microscopic analyses of exosomes from human embryonic kidney cells.

谷 英典/   産総研 環境管理研究部門

化学物質が生体に与える影響評価技術の開発のため、ヒトiPS細胞とノンコーディングRNA(ncRNA)に着目した。これまで化学物質の生体影響評価試験には動物実験が用いられてきたが、コスト面・倫理面の問題から代替法の模索が世界中で続いており、その中でも細胞試験系が有力視されている。しかしながら、未だ最適な細胞試験系の開発が成されていないのが現状である。そこで、我々は分化万能性を有するヒトiPS細胞を用いることで、ガン細胞やES細胞を用いた細胞試験系の課題を克服した、革新的な生体影響評価技術の開発が可能になると考えた。さらに、これまでの我々の研究により、ncRNAがmRNAよりも鋭敏に化学物質に対して存在量が変化することから、ncRNAは有用なバイオマーカーであることを見出している(Tani et al. PLoS One, 9, e106282, 2014)。このことから、マーカー分子としてncRNAを用いることは有用であると同時に、いまだ機能未知のものが多いncRNAの機能解明への貢献もできると考えている。まず我々は、未分化のヒトiPS細胞を神経細胞へと分化誘導を行い、神経細胞に対しモデル化学物質を暴露し、複数のmRNA・ncRNAの発現量変化を定量した。その結果、特定のncRNAが顕著に増加することを見出した。さらに、同定したncRNAの近傍RNAが同時に増加することを見出した。

稗田 一郎、中村 美子、長谷川 良平/   産総研 人間情報研究部門

産総研では脳波による意思伝達装置「ニューロコミュニケーター」開発中である。この装置は、小型の脳波計測装置を用いて解読したユーザーの脳内意思(メッセージ)を、CGアバターを介して表出することが可能である。この装置の主たる対象者は「完全閉じ込め状態」の重度運動機能障がい者を対象であるが、そのような状態の直前の症状で、身体の一部を用いた残存運動機能が利用可能な進行性神経難病患者においても効率的な意思伝達支援システムが必要とされている。そこで我々は、重度患者でも維持される傾向のある運動機能として「まばたき」に着目し、ニューロコミュニケーターのコア技術を用いた意思伝達装置「ブリンクコミュニケーター」の試作開発を開始した。瞬きと関連した筋電位は脳波(事象関連電位)と似た波形パターンを持ちながら約50倍のピーク値を持つために検出が容易であるとともに想定対象者も多く、早期の実用化を目指す予定である。

中村 美子(1)、増田 洋亮(2)、鶴嶋 英夫(2)、長谷川 良平(1)/   (1) 産総研 人間情報研究部門、(2) 筑波大学医学医療系 脳神経外科

我々は脳波による意思伝達装置「ニューロコミュニケーター」の病院内利用に向けた検討を行っているが、従来患者がメッセージを選択するための画像を提示するモニターは、小型のUSBモニターを使用し、ベッドに寝ている患者の体の上(眼前60cm程度)にアームで設置していた。しかし、この方式では医療行為や介護作業の妨げになることが臨床実験を通じわかってきた。そこで、今回、新たに2種類のディスプレイ、一つはベッドから離れた場所での中/大型テレビ(家庭用)、もう一つはヘッドマウントディスプレイを用いた視覚刺激提示法の導入の可能性を検討した。その結果、2種類いずれの新しい手法でも(装置の設置を工夫すれば)事象関連電位の検出や高精度の脳波解読が可能であることが明らかとなった。今後、さらに多くの被験者で最適な導入条件を検討することで、ニューロコミュニケーターの病室内利用の実現を促進したいと考えている。

鈴木 祥夫(1)、長坂 和明(2)、高島 一郎(2)、山本 慎也(2)、田中 睦生(1)/   (1) 産総研健康工学研究部門、(2) 産総研 人間情報研究部門

ドーパミンは、人間の情動・運動・意欲・学習・薬物依存に係る重要な神経伝達物質であり、現在根本的な治療法が確立していないパーキンソン病をはじめとする神経変性疾患にも関与していることが知られている。このため、ドーパミンを選択的に計測する分子プローブを開発することは、ドーパミンの動的かつ局所的な挙動をリアルタイムで計測することによって脳神経に関する理解が深まると同時に、神経変性疾患の早期診断に繋がる可能性を秘めるなど極めて重要である。 演者らは、これまで生体分子を検出するための蛍光分子プローブを設計・合成し、シアノピラニル基誘導体を基本骨格とした蛍光分析試薬を系統的に設計・合成し、タンパク質、核酸などの検出に成功した。そこで本研究では、これまでに得られた知見を基に、ドーパミンを選択的に検出するための蛍光物質の設計・合成および性能評価を行った。 蛍光物質の設計にあたり、ドーパミン認識部位としてイミノ二酢酸と遷移金属イオンから成る錯体を採用し、これに種々の蛍光発色団を導入し、複数の新規化合物を系統的に設計・合成した。性能評価を行ったところ、化合物単独では蛍光が消光状態にあるがドーパミンを添加した時のみ蛍光強度の増加が観察され、他のカテコールアミン類等を添加しても蛍光の変化は観察されなかった。以上の結果より、開発した分子プローブは、ドーパミンの選択的検出が可能であることを見いだした。

大島 新司(1)、秋元 勇人(1)、根岸 彰生(1)、大原 厚祐(2)、廣山 華子(3)、根本 直(3)、小林 大介(1)
/   (1) 城西大 薬学部、(2) 城西国際大 薬学部、(3) 産総研 バイオメディカル研究部門

【目的】バレニクリン酒石酸塩(VAR)は、禁煙成功率が高い禁煙補助薬である。しかし、VARの使用により、基礎疾患として有している精神疾患の悪化や、自殺関連事象の誘発が報告されている。そこで著者らは、VARを慢性経口投与したラットの「行動薬理」および「脳内代謝物の変動」の2つの視点から、VARが精神疾患、特にうつ病に及ぼす影響について検討した。【方法】雄性Wistar/STラットを4群(ストレスおよびVARを負荷しない”対照群”、ストレスのみを負荷した“ストレス群”、VARのみを負荷した“VAR群”、ストレスおよびVARを負荷した“ストレス/VAR群”)に割り付けた。VARは1日1回1.0 mg/kgを21日間経口投与した。適宜、行動薬理学的評価を実施し、21日目に海馬組織を摘出した。High-Resolution Magic-Angle Spinning(HRMAS)-1H NMRを用いた海馬組織のNMRスペクトルを取得し、多変量解析を行った。【結果】経時的な行動薬理学的評価では、対照群と比較し、VAR投与群で有意な変化が一時的に認められたものの、実験期間中継続するものではなかった。脳内代謝物プロファイルにおいて、VAR群およびストレス/VAR群は対照群に近いクラスであり、ストレス群と明確な分離を観察できた。【考察】行動薬理学的評価および脳内代謝物プロファイルは、VARによる自殺の主な原因であるうつ病の誘発はなく、抗うつ作用を示唆した。

森川 善富/   産総研 集積マイクロシステム研究センター

人間の健康状態を計測、見守り、判定するために、腕にはめる腕時計型機器、メガネ型の機器、着用タイプの機器など様々なウエアラブル機器が研究、開発されてきており、最近の進展には目を見張るものがあります。我々は、生体信号の中でも耳内部の脈波に着目し、動作を妨げない脈波計測を実現するためにネックバンド型の計測機器を開発してきました。 開発した機器は、両耳内の脈波データを長時間にわたって同時計測できる特徴を有しており、左右耳内脈波の相関性や非対称性を解析することにより、本計測装置の有効性を確認、報告してきました。 現在、開発機器の汎用性確認のため、複数の人を対象にした被験者実験へと研究展開中です。被験者実験では、当該機器による耳内脈波の左右差検出を合わせて目指しており、複数音源を提示した際の脈波計測実験を実施しているところです。今回、その被験者実験の実験計画を紹介します。

加藤 大/   産総研 バイオメディカル研究部門

アンバランスマグネトロン(UBM)スパッタ法により作製されたナノカーボン薄膜電極は、グラファイト並の高い導電性(電極活性)とダイヤモンド並の硬度(安定性)を併せ持つカーボン薄膜材料を開発した。薄膜表面構造をナノレベルで制御することにより、高い電極活性と高い安定性を両立できたことで、多くの生体分子を安定に定量可能である。さらには、本薄膜表面は超平坦であることから、電極として極めて低いバックグラウンド電流特性を示すため、従来電極では困難であった極微量濃度の生体分子を高感度に測定するための電極としての展開できることが期待できる。本発表では、開発したナノカーボン電極を利用した極微量物質の生体計測について紹介する。

鷲尾 利克(1)、藤田 各務(2)、水原 和行(1,3)、/   (1) 産総研 健康工学研究部門、(2) 東京電機大学 大学院 工学研究科、(3) 東京電機大学 工学部

撮像時間の短縮方法の内不完全なk-spaceデータから再構成を行う手法にzero-fill interpolation(以下、ZIP)が有り、近年compressed sensing(以下、CS)と呼ばれる手法も注目されている。本研究ではline samplingを前提にこれらの特徴をあきらかにし、その使いわけについて提案する。 ZIPは、k-spaceの位相方向中心部のみを、CSは位相方向にランダムなサンプリングを行うものである。これら手法の比較は完全なk-spaceデータに図示したパターンをマスクとして掛け合わせたものについて行い、画像の良否は完全テータから得られる画像との2次元相関係数を用いて評価した。 ZIPによる再構成画像は、従来から指摘されているとおり輪郭のはっきりしない(滑らかな)画像になり、画像上のエッジに平行なリンギングアーチファクトが生じる。一方、CSの再構成画像は、理想的にはfull k-space情報から再構成した画像を再現出来るが今回は輪郭のはっきりしない(滑らかな)画像となった。相関係数は33%、25%共に、ZIPがやや高い値を示した(33%でZIP:0.9920、CS:0.9916、25%でZIP:0.9899、CS:0.9896)が、ZIPではリンギングアーチファクト以外、CSでは全体的に、完全データとの差異は肉眼では確認できなかった。 CSは、同じ情報量から再構成する場合でもk-space上のサンプリング場所に自由度が有り、反復回数も一意に決まらず、これらの至適値を求める方法が別途必要になる。現時点では、リンギングアーチファクトの影響を無視できるならZIPを、できないなら、計算コストが重いがCSを使用するのが良いと考える。

戸恒 和人(1)、藤原 正子(1)、安藤 一郎(1)、宍戸 洋(2)、根本 直(3)
/   (1) 東北大学大学院薬学研究科、(2) 医療法人みやぎ清耀会 緑の里クリニック、(3) 産総研 バイオメディカル研究部門

近年、糖尿病(DM)を持つ血液透析患者が増加しその予後が悪い事が問題となっています。透析は広い分子量範囲の尿毒素を除去する改良がされて来ましたが、一方で有用なアミノ酸、アルブミン、ビタミンなども区別なく除去してしまいます。インスリンも大きく除去されるので、インスリン分泌能のないDM患者は透析後半に深刻な状態に陥ります。血糖値が高めでもインスリンが枯渇するため、組織へ糖が運ばれず、利用できない状態です。この時筋肉では飢餓状態を呈し、骨格筋のたんぱく質は分解しアミノ酸は新生回路へ動員されます。この代謝はDM患者の最大の合併症であるサルコペニア(加齢性筋肉減弱)に容易につながります。 これらのDM患者に対して、透析開始2~3時間目にインスリンを皮下注射し食事や栄養(アミノ酸、糖など)補充することで飢餓代謝を回避できた症例を報告します。このような補充治療は除去の機能しかない人工透析の欠点を補い、筋肉で糖やアミノ酸などを再吸収が出来るようにすると考えられ、上の合併症克服へ道を拓くものです。さらに患者のインスリン分泌能に応じた補液の方法を工夫し、代謝の改善効果を評価することを試みます。これらの代謝の把握には、従来の生化学検査値だけでなく、患者の透析中血漿や廃液の1H NMRメタボロミクスを用いて、乳酸、アラニン、ピルビン酸、ケトン体(3-ヒドロキシ酪酸)の血中値を定量し動態をモニターすることが有効と考えています。
11:診断  (P054)

村木 三智郎/   産総研 バイオメディカル研究部門

【研究成果の概要】Fasリガンドはヒトの免疫システムにおいて、がんなどの重大な疾病の発症原因となる有害細胞がアポトーシスにより未然に除去される過程で重要な役割を果たしている。本蛋白質分子の細胞外ドメインを対象として、リガンド-レセプター複合体の立体構造情報に基づく部位特異的化学修飾による蛍光色素の付加について検討した。本蛋白質の分子表面に多数存在するリジン残基の非特異的な修飾はレセプター結合活性に悪影響を与える可能性が高い。そこでレセプター結合界面から離れたアミノ末端にシステイン残基を挿入したタグ配列を付加した誘導体を作成し、この部位のみを特異的に蛍光色素のマレイミド誘導体により修飾することで、レセプター結合活性を保持した目的の蛍光性誘導体を調製する方法を開発した。 【開発技術の用途】本研究成果は、細胞膜上のFasレセプターの増減を指標とした抗がん剤治療の効果判定のための診断システムの構築などに応用可能と期待される。
12:医療機器  (P055~P061)

槇田 洋二(1)、小比賀 秀樹(1)、長岡 紀幸(2)、吉原 久美子(3)
/   (1) 産総研 健康工学研究部門、(2) 岡山大学 大学院 医歯薬学総合研究科、(3) 岡山大学病院 新医療研究開発センター

食道を通って胃に運ばれるべき食物が誤って気管支を通って肺に運ばれた際に、口腔内の細菌が食物と一緒に肺に運ばれてしまうと、肺の中で細菌が増殖して肺炎(誤嚥性肺炎)を引き起こす場合がある。誤嚥性肺炎は、嚥下機能が低下した高齢者や、十分な口腔ケアができない要介護高齢者に多く見られ、栄養状態が悪く、免疫力が低下している場合は重篤な状態に陥る場合が多い。 本研究では、企業・大学と連携し、塩化セチルピリジニウム(CPC)の抗菌活性を利用した抗菌性歯科材料の開発・事業化を目指している。CPCは医療品・化粧品などの分野で広く応用されている安全性の高い抗菌成分である。このCPCを層状無機化合物(モンモリロナイト)の層間に担持すると、層間のCPCが水中で緩やかに徐放し、持続的な抗菌性が発現する。CPC担持モンモリロナイトを長期間水中に浸せきすると抗菌活性を失うが、層間にCPCを再挿入することで抗菌活性を復活できる。在宅歯科医療において義歯床粘膜保護のために用いられる粘膜調整材は口腔内細菌が増殖しやすい多孔性軟質材料である。この粘膜調整材にCPC担持モンモリロナイトを添加することにより誤嚥性肺炎の主な原因菌種の一つとされるカンジダ菌に対して持続的な抗菌性を示し、清潔な状態を保つことができる。抗菌性粘膜調整材が実用化されれば、口腔環境が改善され誤嚥性肺炎発症リスクの低減が期待できる。

葭仲 潔(1)、新田 尚隆(1)、橋村 圭亮(1)、竹内 秀樹(1,2)、佐々木 明(1)、東 隆(2)、高木 周(2)、小関 義彦(1)
/   (1) 産総研 健康工学研究部門、(2) 東京大学

超音波治療の研究において、位相制御による体内での焦点位置制御の重要性からトランスデューサーの多素子化が必要である。本研究では超小型の多素子モジュールの開発に取り組んでいる。超音波出力素子部、アンプ部、位相制御部、位相制御ソフトウェアをそれぞれモジュール化し、これらのモジュールを複数配置する事により、例えば数百ch~数千chの多素子超音波トランスデューサーを構成する。これにより無駄な消費電力を抑えることが出来、非常に効率の良い、超小型なアンプ一体型超音波モジュールトランスデューサーが実現可能となる。第2次試作として1chダイレクトドライブアンプモジュール、5chリングアレイトランスデューサー、8ch位相制御ユニットモジュールの試作を行っている。

川上 滉貴(1)、迫田 大輔(2)、小阪 亮(2)、西田 正浩(2)、川口 靖夫(3)、丸山 修(2)
/   (1) 東京理科大学大学院、(2) 産総研 健康工学研究部門、(3) 東京理科大学

【緒言】血液ポンプを使用する際には、血液ポンプ内部の血流の淀み域で血栓が形成することがあり、血液ポンプ内での血栓形成は未だ解決すべき課題となっている。血液ポンプ内での血栓形成は、せん断速度と血液凝固能に寄与する。そこで、本研究では、せん断速度の負荷が血液中のどの血液凝固因子の反応に影響を及ぼしているか評価することを目的とした。 【実験方法】試験試料としてクエン酸ナトリウム抗凝固ヒト新鮮血を遠心分離し、試験血漿を得た。せん断負荷装置として二重円筒型レオメータを用い、試験血漿にせん断速度2,880 s-1、せん断負荷時間3時間、せん断負荷部温度37°Cでせん断負荷を加えた。せん断負荷後、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、プロトロンビン時間(PT)、および各血液凝固因子の活性を測定した。 【実験結果】せん断負荷を受けた試験血漿のAPTTは、せん断負荷を受けていないものと比較して52s延長し、Tは9s延長した。また、内因系および外因系凝固反応に共通の因子である第V因子活性が76%低下した。 【考察】本実験では、血球および血小板が存在しない環境でせん断負荷によって第V因子の反応活性が低下した。従って、せん断負荷は血球および血小板ではなく、第V因子に直接的に影響して反応活性を低下させると考えている。 【結論】本研究より、せん断速度は血液凝固第V因子の反応を抑制し、血液凝固因子全体の反応を抑制することが分かった。

西田 正浩(1)、中山 建人(2)、迫田 大輔(1)、小阪 亮(1)、丸山 修(1)、川口 靖夫(3)、山本 好宏(4)、桑名 克之(4)、山根 隆志(5)
/   (1) 産総研 健康工学研究部門、(2) 東京理科大学 大学院理工学研究科、(3) 東京理科大学 理工学部
(4) 泉工医科工業株式会社、(5) 神戸大学 大学院工学研究科

遠心式体外循環用血液ポンプは、心疾患患者の外科的治療の一つである開心手術を行う際に用いられる。その中で、モノピボット遠心ポンプは、インペラがピボット軸受の1点で支持されながら回転するため、軸受に生じやすいよどみを低減して抗血栓性に優れており、急性心不全に伴う経皮的心肺補助や右心補助などの他の用途での使用が期待できる。一方、それらの用途や使用時間の拡大にはさらなる溶血特性の向上が求められる。そこで、本研究では,ポンプの改良設計の指標を得るために、インペラの流路端の形状に着目し、まず、数値流体力学解析により、インペラの流路端の形状が異なるポンプの、ポンプ性能、インペラにかかる流体力、およびポンプの溶血予測値を算出した。次に、アクリルを切削してこれらインペラを作製し、それぞれポンプを組み上げ、モック回路に接続し、ポンプ性能、インペラの離昇特性、およびポンプの溶血量を計測した。ポンプの溶血量については、3Dプリンタ成形によってもインペラを作製し、同様にポンプを組み上げ、計測した。その結果、対象としたモノピボット遠心ポンプにおいて、数値流体力学解析結果および実験結果ともに、また、インペラの作製方法にかかわらず、インペラの流路端に存在する前切欠をなくすことにより、ポンプ性能の向上、インペラの離昇の抑制、およびポンプの溶血特性の向上が得られることがわかった。

合谷 賢治(1)、渕脇 雄介(1)、田中 正人(1)、大家 利彦(1)、杉野 卓志(2)、安積 欣志(2)
/   (1) 産総研 健康工学研究部門、(2) 産総研 無機機能材料研究部門

日常的な生活空間における健康かつ質の高い生活の実現を目指し、臨床検査装置の開発を目指す。特に人と生活環境双方に親和性の高い診断技術を創出するために、検査プロトコルから装置開発まで一貫したシステムの最適化が重要である。これまでに開発した自動滴下装置はその駆動力として、産総研とドイツフラウンフォファーIPAが共同開発した、軽量で消費電力の少ないナノカーボン高分子アクチュエータポンプを採用することで装置全体を小型に設計し、携帯性の良い設計となっている。さらに、発表では開発したマイクロピペットを組み込んだ自動検出装置のプロトタイプについて報告する。

新田 尚隆、賀谷 彰夫/   産総研 健康工学研究部門

音速は組織性状を反映し、診断のための非侵襲測定が望まれている。MR画像と超音波計測を融合したマルチモダリティ法は音速の直接測定が可能だが、組織の境界が不明瞭な場合の誤差低減が課題であった。そこで本研究では、画像処理に基づく誤差低減法を検討した。 マルチモダリティ法における音速測定は、同一の対象組織断面をMRIと超音波で撮像し、各々の画像において対象組織の厚さ計測を行うことにより実現される。それ故、各画像における厚さ計測アルゴリズムに対して改良を施した。 改良アルゴリズムの有効性を検証するため、再生軟骨から取得された同一断面におけるMR画像と超音波画像を用いた。境界を明瞭化した厚さ計測を可能にするべく、MR画像では対象組織の中心点を起点とした投影画像を、超音波画像では対象組織の変位画像を得た。各画像から対応する同一方向のプロファイルを抽出し、各プロファイルの半値幅から音速を決定した。その結果、境界を目視で決定して厚さ計測を行う従来法の誤差が約20 %であったのに対し、本改良法による誤差は約5 %となり、大幅に低減されることを確認した。

屋代 英彦(1)、欠端 雅之(1)、大矢根 綾子(2)、伊藤 敦夫(3)、六崎 裕高(4)/   (1) 産総研 電子光技術研究部門、(2) 産総研 ナノ材料研究部門、(3) 産総研 健康工学研究部門、(4) 茨城県立医療大学

高齢化およびQOLの向上から膝、股関節等の人工関節置換手術は年々増加している。現在、CoCr合金もしくはTi合金を用いた製品が主流であるが、金属のためアレルギー反応が生じる懸念がある。同時に手術後の経過をMRI診断ができないと言った大きな欠点があった。イットリア安定化正方晶ジルコニア(3Y-TZP)は生体親和性があり、硬度、靱性、耐摩耗性等の機械的性質に優れ、同時にMRI診断が行える大きな利点がある。このため次世代の人工関節材料として期待されている。人工関節と骨との固着は骨セメントが用いられてきたが、セメントデブリスによる緩みや塞栓の危惧があり、ブラスト加工等の数μm以上の凹凸加工とプラズマ溶射等による骨伝導物質のハイドロキシアパタイト膜の固着方式に変わりつつある。我々はジルコニア上にフェムト秒レーザーでのナノ周期構造形成、ナノ秒パルスレーザーアブレーションでのリン酸カルシウム成膜の2つのレーザープロセスにより生体骨とジルコニアの強い固着ができると考え研究を進めている。
13:人間工学  (P062)

竹山 愛理(1)、山内 康司(2)、鷲尾 利克(1)/   (1) 産総研 健康工学研究部門、(2) 東洋大学 理工学研究科

看護師は、患者に関する情報を他の医療従事者と共有し合い、看護に従事している。情報共有には看護記録を活用している。一方、看護記録の解決すべき課題として、看護用語の略語や短縮語の適切な活用がなされていないこと、客観的で正確な表現ではなく主観的で曖昧な記録がなされていること、等が報告されている。 本研究では、従来言語化し難かった患者情報を、写真や動画といった非言語情報として記録し, 客観的情報として共有するシステムを、現場看護師の意見を取り入れながら開発した。本稿では、システムのユーザビリティ評価結果について報告する。具体的には、1) ユーザインタフェース設計の原理原則に基づくヒューリスティック評価、および2) 人間の認知モデルに基づく認知的ウォークスルーを実施し、改善が必要であると考えられる機能を抽出した。 結果として、各項目を入力する画面で、項目に何を入力するかという説明文の有無が統一されていない点、一度送信した情報を端末側で削除/修正する機能が無い点、等が抽出された。 また、入力した情報や撮影物を閲覧する画面で、システムに使用しているアイコンのデザインが機能を正確に伝えられていない点が抽出された。 本稿の結果を考慮し、言語化し難い情報を正しく共有するという、現場でのニーズを実現するために、いかにICT等のシーズを適用するべきか、指針の作成に今後取り組む予定である。
14:農水産  (P063~P065)

浅田 眞弘(1)、倉持 明子(2,1)、上原 ゆり子(2,1)、牛越 設男(2)、牛越 康一郎(2)、小檜山 幸平(2)
牛越 建治(2)、村上 賢(3)、岡崎 孝映(4)、隠岐 潤子(1)、鈴木 理(1)、今村 亨(5,1)
/   (1) 産総研 創薬基盤研究部門、(2) 株式会社 牛越生理学研究所、(3) 麻布大学 獣医学部、(4) かずさDNA研究所、(5) 東京工科大学 応用生物学部

リゾープス菌由来発酵産物(RU)は、既に動物分野において、ホルモンの安定化、育毛養毛効果が認められており、ヒト健康補助食品への展開が期待されている。そこで、RUの活性を担う物質を明らかにすることを目的とし、高分解能・高質量精度のメタボローム解析によって候補物質を絞り込んだ結果、RUにはホルモン誘導などに関わる生理活性脂肪酸関連物質が含まれており、これが活性の一部を発揮していることが示唆された。 そこで、当該生理活性を指標として、免疫学的方法および培養細胞を利用した活性評価系を確立するとともに、RUの投与によって発現変動する遺伝子及び蛋白質を選択し、そのレポーターアッセイ系を構築した。さらに、マウスを用いた急性経口投与毒性試験、ヒトに対する有効性評価を行い、安全性および更年期症状改善への有効性を実証した。 今後は、保健機能食品(特定保健用食品、機能性表示食品等)としての製品化を目指し、さらなる研究開発を続ける予定である。

関山 恭代(1)、岡崎 和之(2)、池田 成志(2)、菊地 淳(3)
/   (1) 農研機構 食品研究部門、(2) 農研機構 北海道農業研究センター、(3) 理研 環境資源科学研究センター

Cercospora leaf spot (CLS) is one of the most serious leaf diseases for sugar beet (Beta vulgaris L.) worldwide. The breeding of sugar beet cultivars with both high CLS resistance and high yield is a major challenge for breeders. In this study, we report the NMR-based metabolic profiling of field-grown leaves for a subset of sugar beet genotypes harbouring different levels of CLS resistance. Leaves were collected from 12 sugar beet genotypes at four time points: the seedling, early growth, root enlargement and disease development stages. 1H NMR spectra of foliar metabolites soluble in a D2O-based buffer were acquired and subjected to multivariate and univariate analyses.

井上 栄一、久保山 勉/   茨城大学 農学部

国産レンコンは、輸入品には真似のできない高い品質が持ち味であり、安定した需要を維持しています。近年、機能性を期待した新しい需要も生まれています。そこで本プロジェクトでは、以下の三つの取り組みによって国産レンコンのブランド力を強化し、オールジャパン体制で国内の需要拡大と輸出を目指しています。
1.機能性と品質を長期間効果的に保持する技術の実証 生レンコンの高い品質や機能性を保持する条件を実証し、1ヶ月程度保持する方法の実用化を目指しています。 2.機能性を向上させるレシピや加工方法の実証 レンコンの持つ健康機能性を活かした一次加工品や加工食品の開発を実証します。また、乳酸菌を活用した加工品やレシピを提案します。 3.優良品種の普及と高機能性系統の探索 DNAマーカーによるレンコンの品種識別技術を確立し、優良品種を用いて普及過程における種バスの純度維持を実証します。さらに多数の遺伝資源の中から高機能性系統を探索します。
15:食品  (P066~P075)

川口 佳代子(1)、朱 耘(1,2)、木山 亮一(1)/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) サイネット カンパニー

植物由来のリグナンは腸内細菌によって代謝されほ乳類リグナンとなる。本研究では、ほ乳類リグナンおよびその前駆体におけるエストロゲン活性ならびに細胞機能に関与するシグナル伝達経路に対する影響を調べた。まず、ヒト乳癌MCF-7細胞を用いて、エストロゲン応答遺伝子の発現プロファイル解析によりほ乳類リグナン(enterodiol、enterolactone)およびその前駆体(sesamin、matairesinol、pinoresinol)のエストロゲン活性を調べた。各リグナン化合物とエストロゲン(E2)との間でプロファイルを比較したところ、中程度あるいは高い相関係数(R=0.44~0.81)が得られた。さらに、リグナン化合物の刺激によって、ERK1/2およびPI3K/AKT経路の活性化が観察されたことから、これらの化合物はエストロゲンシグナル伝達の経路を介して細胞に影響を与えることが示唆された。次に、ケモカイン(MCP-1)の分泌および細胞周期関連因子の変化を解析した。MCP-1は、E2またはenterolactoneの刺激によってMCP-1の分泌が有意に増加した。この反応はエストロゲン受容体の阻害(ICI 182,780)によって抑制された。一方で、サイクリンD1とサイクリンEは細胞周期の進行を制御する重要なタンパク質であるが、enterolactoneのみが、E2と同様に、刺激後6時間でサイクリンD1の発現の増加を示し、また、サイクリンEの発現量は刺激後6時間から24時間にかけて連続的に増加した。これらの結果から、enterolactoneは他のリグナン化合物と異なり、エストロゲンシグナル伝達経路を介して、細胞機能を果たしていることが考えられる。

古谷 俊介、萩原 義久、永井 秀典/   産総研 バイオメディカル研究部門

【緒言】食品偽装の問題に対応するため、現場での高速な肉種判別が求められている。一般的な遺伝子抽出とPCRでは現場での迅速な肉種判別を実現することは困難である。本研究では、現場での測定を可能とするため食肉からの簡易的な遺伝子抽出法を検討し、これまでに開発し特許取得済みの超高速リアルタイムPCRによって、非常に迅速な肉種判別を実現したので報告する。
【実験】本実験では、TaKaRaのCycleavePCR 肉種判別キット(6種)を用いて、牛・豚・鳥・羊・兎・馬の肉種判別を行った。肉からの遺伝子の抽出は、現場での迅速な測定を可能とするため、100mgの肉に400μLの水を加え、バイオマッシャーですり潰し、遠心後の上澄を抽出遺伝子として使用した。また、開発した超高速リアルタイムPCRシステムを用いて、96℃で10秒のホットスタート後、96℃で5秒と57℃で15秒の45サイクルの条件で肉種の判定を行った。
【結果と考察】牛・豚・鳥・羊・兎・馬の6種類の肉種を簡易な遺伝子抽出と高速リアルタイムPCRによって判別する事が可能であった。また、実サンプルとして生肉加工食品のハンバーグ・ナゲット・ウインナー等の肉種判別を行い、全てのサンプルで20分以内での遺伝子の抽出から肉種判別が可能であった。この技術は、プライマーを変えることで米の品種判別なども可能であり肉種判別以外にも多くの応用が期待される。また、本技術は技術移転ベンチャーのjTASを通してアプリケーション等で連携可能である。

高橋 砂織(1)、吉矢 拓(2)、熊谷(芳澤)久美子(2)、河野 泰広(3)
/   (1) 秋田県総合食品研究センター、(2)(株)ペプチド研究所、(3) 産総研 バイオメディカル研究部門

【目的】レニン・アンギオテンシン系は哺乳類で最も解析が進んでいる昇圧系である。これまで、本系の調節を目的としてアンギオテンシン変換酵素(ACE)をターゲットとした特定保健用食品の開発も盛んに行われている。今回、ACEの相同遺伝子として見出されたアンギオテンシン変換酵素2 (ACE2) を標的酵素として各種食材よりその阻害活性を探索した。その結果、秋田産てんこ小豆(黒ささげ)に強い阻害活性を見いだした。 【方法】酵母で発現した組換え型ヒトACE2はCalbiochem社より購入した。ACE2のアンギオテンシンII切断部位配列を基に、N末端に蛍光物質N-methylanthranilic acid をまたC末端側に蛍光消光残基Nε-2,4-dinitrophenyl-lysine (Lys(Dnp))を導入した新規蛍光消光基質Nma-His-Pro-Lys(Dnp)を合成した。 【結果】先に、大豆の熱水抽出液に強いACE2阻害活性を見いだしその阻害物質の構造をニコチアナミンと同定した。今回、秋田県で赤飯用小豆として重用されている「てんこ小豆(黒ささげ)」の熱水抽出液に大豆より強いACE2阻害活性を見いだした。そこで、各種クロマトグラフィーを用いて阻害物質を部分精製し、その阻害活性について検討した。得られた標品には高濃度のニコチアナミンが存在しており、てんこ小豆抽出液中のACE2阻害活性の大部分がニコチアナミン由来と考えられた。

内沢 秀光(1)、工藤 謙一(2)/   (1) 青森県産業技術センター弘前地域研究所、(2) 青森県産業技術センター八戸地域研究所

我々は、シジミを冷凍すると、熱水抽出物(以下シジミエキス)に含まれるオルニチン含量が増加することを見出した。冷凍条件の違いによりオルニチン含量が異なったことから、冷凍条件とオルニチン含量について詳細に検討した。その結果、-4℃保存が最もオルニチン含量を増加させることが分かった。また、シジミエキス中にオルニチン含有トリペプチド(アコルビン, β-Ala-Orn-Orn)を見出した。シジミの低温保存により顕著なオルニチン含量の増加が見られたが、室温に戻すとオルニチン含量は減少した。これにはアコルビンの合成と分解が関与している可能性が示唆されたことから、酵素の関与について、まずアコルビン合成酵素の探索を行った。シジミの各組織におけるアコルビン含量を比較したところ、貝柱と足に多く含まれていたことから、足からアコルビン合成酵素の調製を試みた。オルニチンとβ-アラニンを基質とし、ATPとMg2+存在下、得られた酵素液を用いてアコルビンの合成を試みたところ、生成されることが分かった。このことから、アコルビンは酵素的に合成されることが確認された。アコルビンやオルニチンに着目したシジミの低温応答メカニズムを解明し、シジミにおける生理的意味を明らかにすることで、新たな冷凍技術を開発できるのではないかと考え、研究を行っている。

豊田 淳(1,2)/   (1) 茨城大学 農学部、(2) 茨城大学 農医連携プロジェクト

近年、日本では精神疾患、特にうつ病の患者数が増加している。うつ病には抗うつ薬などの投薬では奏功しないケースがあり、投薬期間も長期にわたる上、治療満足度も低いといわれている。ここで注目されるのが、食事、運動、睡眠など生活習慣でうつ病発症を未然に防ぐ取組である。特に食に着目し、うつ病予防機能を持つ機能性健康食品を手軽に食事に取り入れられる商品を開発することで、人々の心身の健康に寄与するだけではなく医療費の削減にもつながると考えられる。私共はうつ病モデルのひとつである社会的敗北モデルマウスの作出および評価をしている。すでに、農医連携プロジェクトにおいて、茨城県立医療大学、東京医科大学茨城医療センターと連携することで食品機能性を証明する体制を共同で整えているが、さら私共の保有技術を広く活用する事で、うつ病予防機能のある食品および農産品の発掘及び、機能の発見につなげられると考えている。
【研究内容】 ◯うつ病モデルマウスの開発と評価系の構築 ◯生活習慣とうつ病との関連の解明 ◯うつ病予防効果のある食品および農産品のスクリーニング ◯食品系研究者をまじえて健康機能性食品の試作品を企業と共同開発

清水 浩美、首藤 明子/   奈良県産業振興総合センター

近年、予防医学の観点から漢方が注目され、漢方では「未病を治す」という発病前、未病の段階からの治療が重要であるとされている。奈良県では、需要が見込まれる漢方の薬用作物を安定供給し漢方を普及させるため、奈良県漢方のメッカ推進プロジェクトを平成24年に立ち上げ、部局横断した事業を展開してきた。 当センターは、PJの重点作物である大和トウキの栽培の増加に伴い、これまで活用されていなかったトウキ葉の食としての有効利用を進める研究を行い、機能性のある、より付加価値の高い食品開発を行うことを目的としている。 今回は、トウキ葉の機能性として考えられる、トウキ根の主成分のリグスチリドを含むフタライド類の含有量とセリ科に含まれる光毒性があると言われるフロクマリン類の含有量を調査した結果と抗酸化能の測定結果を報告するとともに、食経験が乏しいトウキ葉を広く普及させるために検討した食品試作の事例を報告する。 トウキ葉に含まれるフタライド類とフロクマリンは生産場所、栽培方法、季節によりばらつきが見られた。追試験を行い、収穫の最適な時期を見極めたい。 また、トウキ葉を使った食品のレシピ開発を行ったが、トウキ葉には特有の香り、味があるため、原材料に対して乾燥粉末で1%程度が適量であると結論づけた。食材との相性としては、肉料理や揚げ物など油脂と合わせることで、苦み等のマスキングができた。

奥田 徹哉/   産総研 生物プロセス研究部門

齧歯類用の低炭水化物・高脂肪食(F3666飼料)を肥満(ob/ob)マウスに摂取させると、ケトン体の産生、高血糖及び高インスリン血症の改善など様々な効果が見られる。我々は5-12週齢のob/obマウスにF3666を持続的に摂取させると、この時期に進行する脂肪肝の形成が抑制されることを見出した。本モデルマウスの肝臓ではlipogenic enzymesの発現が低下しており、糖質からのトリグリセリド合成が抑制されていることがわかったが、F3666は野生型マウスにおいてもlipogenesisを抑制するものの脂肪肝の抑制効果はないため、F3666の他の作用もob/obマウスの脂肪肝形成の抑制に寄与していること考えられた。本研究では網羅的遺伝子発現解析によりこのF3666の未知の効能にアプローチした。上記方法にてF3666を摂取させたob/obマウスの肝臓よりmRNAを調製し、Agilent Expression Arrayによる遺伝子発現解析を実施した。発現量の変化が検出された遺伝子はReal-time PCRにより検証し、有意に変化する遺伝子を同定した。通常食摂取群と比較して、F3666摂取群では予想通りlipogenic enzyme genesの発現低下が見られた。加えて、新たに脂質代謝に関連する数種の遺伝子の発現変化を見出した。そのうち、酸性糖脂質の分解に必要なGM2 ganglioside activator (GM2A)は、F3666の摂取群では遺伝子転写量が有意に減少しており、これに伴い酸性糖脂質の蓄積が見られた。最近、前脳の酸性糖脂質を欠失させたマウスが肥満の表現型を呈し、その脂肪細胞では絶食誘導lipolysis の制御が障害されているとの報告があり、本研究にて見出した酸性糖脂質の蓄積も肝臓におけるlipolysisの制御に寄与している可能性がある。

河原崎 正貴(1)、前川 京子(2)、鎌田 彰(1)、千葉 洋祐(1)、白濱 陽一郎(1)
上原 誉志夫(3)、内尾 こずえ(4)、根本 直(5)、福岡 秀興(6)、齋藤 嘉朗(2)
/   (1) マルハニチロ株式会社、(2) 国立医薬品食品衛生研究所、(3) 共立女子大学
(4) 医薬基盤・健康・栄養研究所、(5) 産総研 バイオメディカル研究部門、(6) 早稲田大学

【目的】本邦の高血圧者数は約4,300万人と推定され、なかでも食塩感受性高血圧患者は、脳卒中等の心血管イベントリスクが高い。その予防には、日常生活における減塩をはじめ、心血管保護作用を有する魚油の摂取が有効と考えられる。本研究では、食塩感受性高血圧(Dahl-S)ラットにドコサヘキサエン酸(DHA)含有精製魚油を投与し、血圧変化に関連する尿中代謝物を探索した。
【方法】Dahl-Sラットに、8.0%食塩含有飼料を自由摂取させ、大豆油(5g/kg)、精製魚油(5g/kg、DHA:3g相当)、Ca拮抗薬アゼルニジピン(3mg/kg)を8週間経口投与した。また、低食塩群として、0.3%食塩含有飼料を自由摂取させ、大豆油(5g/kg)を上記と同様に投与した。投与開始時および投与4、8週後に絶食下16時間蓄尿し、NMRおよびLC/MSによる尿中代謝物の包括的な分析を行った。
【結果と考察】高食塩負荷状態への精製魚油の投与により、収縮期血圧の有意な上昇抑制効果を確認した。また、尿のNMR-プロファイリング分析では、投与脂質(魚油と大豆油)の違いを反映していた。一方、LC/MSによる尿中酸化脂肪酸代謝物分析では、血圧の上昇抑制を示した魚油投与群および低食塩群で、大豆油投与群に比べて共通の増減変動を示す代謝物を見出した。これらは、降圧機序に関連する有用なバイオマーカー候補となる可能性が示唆された。

奥村 史朗(1)、長井 晴香(2)、冨岡 寛治(2)、岩倉 宗弘(3)、東 信哉(3)
/   (1) 福岡県工業技術センター生物食品研究所、(2) 久留米工業高等専門学校、(3) 九州計測器株式会社

食品製造産業では、定期的に一般生菌数の検査を行っているが、食中毒原因菌の検査はコストの観点から不定期に行われる場合が多い。そこで、検査の迅速化のために小型の表面プラズモン共鳴(SPR)センサーを用いた食中毒菌の簡易判定システムの開発を進めている。本システムでは、サンプルを液体培地で前培養した後、培養液から抽出したゲノムDNAをテンプレートとして非対称PCRにより食中毒菌固有のDNAの一本鎖を増幅し、その相補鎖との相互作用を小型SPRセンサーで検出する。検出感度は一本鎖DNAの増幅量に依存することから、一本鎖と二本鎖DNAが同時に増幅される非対称PCRの最適条件の検討のために、増幅物中の一本鎖DNA濃度の定量方法を確立する必要があった。そこで黄色ブドウ球菌の遺伝子を対象にPCRによる増幅物と同じ配列をもつForward鎖(F鎖)とReverse鎖(R鎖)を合成し、その定量法を検討した。その結果ODSカラムを用いるHPLCにより、カラム温度50℃でHPLCを行うことで、F鎖とR鎖が分離し、個別の定量が可能となり、両者の定量値差を求めることにより、一本鎖DNA濃度が簡易的に推計できた。次に標準サンプルをテンプレートとして非対称PCRを行ったところ一本鎖DNA濃度の定量値は、簡易的な計算による理論値とよく一致し、また、定量値と増幅産物のSPR応答にも良い相関性が認められた。

鎌田 靖弘(1)、丸山 進(1)、荻 貴之(1)、吉野 敦(2)、舟田 卓見(1)、新川 翔也(1)、市場 俊雄(1)
/   (1) 沖縄県工業技術センター、(2)トロピカルテクノプラス

我々は、エンサイ(Ipomoea aquaticaF.)にα-グルコシダーゼ阻害活性を有するイソクロロゲン酸が含まれていること、培養膵臓β細胞の系でインスリン分泌促進活性を有するケルセチン配糖体(quercetin 3-O- (6’ -O-malonyl) -β-D-glucoside)が含まれていることを明らかにし、エンサイを自由摂取させたKKAyマウスでは、空腹時血糖値、血漿HbA1c濃度が有意に低下することを報告した。 今回は、エンサイの含有成分であるイソクロロゲン酸とその構成成分であるクロロゲン酸、カフェ酸及びキナ酸について、更には同定成分のケルセチン配糖体とそのアグリコンであるケルセチンについて、α-グルコシダーゼ阻害活性、DPP-Ⅳ阻害活性、タンパク質糖化反応阻害活性等の活性比較を行った。またインスリン分泌促進活性物質の更なる成分同定も検討した。その結果、α-グルコシダーゼ阻害活性のIC50値は各々、イソクロロゲン酸a,b,c( 2.4, 0.65,1.4mM)、クロロゲン酸(15mM)、カフェ酸(3.9mM)、キナ酸(75mM)、同定したケルセチン配糖体(6.2mM)、ケルセチン(0.86mM)となった。DPP-Ⅳ阻害活性は、ケルセチン類には有したが、クロロゲン酸類には無かった。タンパク質糖化反応阻害活性は、キナ酸を除く成分に活性を有した。また、エンサイ中のイソクロロゲン酸含有量のα-グルコシダーゼ阻害活性への関与率は77%であった。更に、イソクロロゲン酸はインスリン分泌促進活性も有する事が推察された。 以上の結果より、エンサイ中の血糖値低下作用の有効成分は、主にこれらエンサイ由来のポリフェノール類であると推察された。
16:微生物  (P076~P086)

富永 大介(1)、川口 秀夫(2)、堀 良美(2)、蓮沼 誠久(3)、荻野 千秋(1,4)、油谷 幸代(1)
/   (1) 産総研 生体システムビッグデータ解析オープンイノベーションラボラトリ、(2) 神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科
(3) 神戸大学 自然科学系先端融合研究環 重点研究部、(4) 神戸大学大学院 工学研究科

特定の有用物質を微生物につくらせようとする際、どのような代謝経路によるかを文献調査などで推定するが、一般には複数の経路やフィードバックなどのループがある。そのため、炭素源や生成物、中間の代謝物などの量の時系列データを測定したとしても、どの反応ステップが律速であるか、また実際に活性化している経路や流量などを知るのは容易ではない。また一般に、それに必要な反応速度式パラメータなどの十分な情報がそろうとは限らない。しかし S-system モデルなら大部分がミカエリスメンテン式からなる代謝系モデルよりもパラメータ数が少なくて済む可能性があり、データ測定のコストが抑えられる。 そこで我々は、大腸菌の遺伝子組換え株によるフェニル乳酸の産生を対象として、代謝経路を調査、構築し、それに関わる代謝物質の濃度の時系列データを測定し、S-system 解析によりその各反応ステップの活性を推定した。その結果、可逆反応がフィードバック制御になっていること、律速段階と思われるステップなどが示唆された。

小松崎 亜紀子(1)、吉原 瑛梨奈(1,2)、千葉 靖典(1)、横尾 岳彦(1)/   (1) 産総研 創薬基盤研究部門、(2) 東京薬科大学 生命科学部

メタノール資化性酵母は、糖タンパク質をはじめとした異種タンパク質生産に適した酵母である。私達の研究室では、メタノール資化性酵母Ogataea minutaを用いて、バイオ医薬品等をターゲットとした異種タンパク質生産系の開発を試み、一定の成果を挙げてきた。本酵母種をさらに優れた宿主とするため、有性生殖が可能な株を確立するとともに、染色体に組み込まれることなしに自律的に複製可能なプラスミドの構築を行うことを試みている。接合型を決定するMAT遺伝子座位の解析を行った結果、本種においては、近縁のOgataea polymorphaと同様、ゲノム上の逆向き反復配列に挟まれた箇所の反転により接合型変換が生じることを、これまでに明らかにしてきた。 O. minuta NBRC 10746株のゲノムDNAからプラスミドライブラリを構築し、プラスミドが染色体上に組み込まれることなく細胞内に存在できるようなクローンを検索した結果、自律複製配列(ARS)の候補となるDNA断片を12種類取得した。これらのARS候補を含んだプラスミドを保持した細胞を培養し、プラスミドの保持率を調べたところ、培養中にプラスミドが染色体上に組み込まれる可能性があることを見出した。O. minutaが接合・胞子形成を効率よく行うための条件検討や、二倍体として栄養増殖できる可能性を検討した結果についても、併せて報告する。

世嘉良 宏斗(1)、花城 隆二(1)、会田 雅浩(1)、照屋 盛実(1)、楽 隆生(2)、常盤 豊(3,4)
/   (1) 沖縄県工業技術センター、(2) 甲南化工株式会社、(3) 産総研 バイオメディカル研究部門、(4) グリーン・プロダクツ・ラボラトリー

(R)-3-ヒドロキシ酪酸(R3HB)は生分解性樹脂等の原料となるほか、認知機能改善効果等の生理活性機能も注目されている。光学活性化合物であるR3HBの生産方法については微生物を用いた発酵法等による検討が行われてきた。発酵法ではR3HBを構成単位とする高分子(PHB)を細胞内に蓄積する好気性細菌を用いて、好気的にPHBを蓄積した後、これを加水分解してR3HBを得る方法がいくつか検討されており、近年では著しく生産性の高い菌株が報告されている。しかし、これらの方法で得られるR3HBは細胞内に蓄積するPHBの量以上に生産量を増やすことは困難である。そこで、R3HBを高効率に生産するため、好気条件でR3HBを細胞外へ生産する菌株を探索した。 沖縄県内の様々な試料から分離・収集した約1,000株のうち有望な菌株について、好気条件下におけるR3HBの生産性を評価した。 分離株のうちPHB生産菌として知られるHalomonas属細菌を中心にR3HBの生産性を調べた結果、PHBを細胞内に蓄積するのと同時にR3HBを培地中に生産する特異な性質の菌株(OITC1261株)を見いだした。このOITC1261株による2Lスケールの培養試験では、スクロースを基質とする培地で好気培養した結果、89時間後に58g L-1のR3HBと27g L-1のPHBを生産した。好気条件下でR3HBとPHBを同時に生産する野生株はこれまで報告がなく、R3HBの生産性も高いことから、OITC1261株を用いることで効率的なR3HB/PHB生産が期待できる。

中山 敦好、常盤 豊、川崎 典起、山野 尚子、上垣 浩一/   産総研 バイオメディカル研究部門

沖縄県ではその豊富なバイオマス資源の産業化に取り組んでいる。沖縄県工業技術センターでは(R)-3-ヒドロキシ酪酸(3HB)を安価な県産バイオマスから微生物発酵技術により高効率かつ高純度にて生産する技術を開発した。3HBの持つ特性・機能性を活用した各種用途開発を展開するため、県下企業及び産総研を含む公的機関が連携して基礎研究から応用研究を実施している。 産総研では3HBの重合により生分解性材料の開発を進めている。3HBをベースとするポリマーは嫌気的条件下でも容易に生分解される。これは合成系生分解性材料が主として好気条件で生分解されるのとは大きく異なり、土壌深くや、灌水時の水田、海水中など、合成系樹脂では生分解が疑問視される環境でも優れた生分解性を発揮することを意味する。そうした環境を選ばない生分解性という特徴を生かして、3HBユニットを他の合成系生分解材料に組み込むことで新しい生分解性機能材料を開発している。

和田 潤、泊 直宏、高阪 千尋、清野 珠美、廣岡 青央、山本 佳宏/   京都市産業技術研究所 バイオ系チーム

近年、プロバイオティクス(ヒトの健康に好影響を与える生細菌)として注目を集めている乳酸菌は、ヨーグルトや漬物など様々な発酵食品に用いられ、我々にとって非常に馴染みがある存在であり、安心なものである。 古くから京都では微生物の力を借りてつくられた多くの発酵食品(飲料含む)が市場に出回っている。これら発酵食品の出来や品質は発酵過程を担う微生物によって大きく左右される。品質の良い発酵食品や商品化のコンセプトに合致した製品の製造を可能にするためには、適した性能を有した微生物を用いる必要がある。そこで、発酵食品等を製造するために必要な優れた微生物を提供する目的で、様々な発酵食品に用いられる乳酸菌の単離及び収集を行うこととし、研究所オリジナルの多様で特徴ある乳酸菌のコレクション、即ち、乳酸菌ライブラリーの構築を目指すこととした。また、ライブラリー中の代表的な乳酸菌に対して、顕微鏡観察や生育性試験を行い、その諸性質を調べた。結果、本研究の単離工程で多様な菌株が取得できたことが示唆された。

鈴木 菜月、上塚 浩司/   茨城大学 農学部 生物生産科学科 動物保健衛生学研究室

ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)は健常な動物が保有する腸内細菌であるが、家畜や家禽で腸炎を起こし経済被害をもたらし得る。渡りをせず地域に定住する留鳥の排泄物を通じた環境中へのウェルシュ菌散布の状況を調べる目的で、まず茨城県内のカラス、ムクドリ、スズメの腸内容物からウェルシュ菌の分離を行った。
【材料・方法】茨城県内で捕獲されたカラス45羽、ムクドリ9羽、スズメ22羽の腸内容物からウェルシュ菌選択培地を用いて分離培養を行った。得られた純化菌株でウェルシュ菌と同定されたものはPCRによる毒素型分類を行った。
【結果】カラスからのウェルシュ菌の分離頻度は45.2%(19羽/45羽)、分離菌量の平均は約4.2×106cfu/gとなり、毒素型は118株が全てA型に分類された。またβ2毒素遺伝子およびエンテロトキシン遺伝子の検出も確認された。ムクドリでは分離頻度が22.2%(2羽/9羽)、菌量の平均が5.5×102cfu/g、毒素型が15菌株中A型12株、D型1株となり、β2毒素遺伝子は検出されず、エンテロトキシン遺伝子が検出された。またスズメからはウェルシュ菌は分離されなかった。
【考察】カラスの腸内容物からのウェルシュ菌の分離頻度や菌量に比較して、ムクドリとスズメでは著しく低い結果となった。この原因として食性の違いによる腸管内でのウェルシュ菌増殖への影響が推察される。排泄物を通じた環境中へのウェルシュ菌の散布はこれら3種の留鳥中ではカラスの関与が大きいと思われる。

石塚 由佳、上塚 浩司/   茨城大学 農学部 生物生産科学科 動物保健衛生学研究室

昨年度の研究から、健常なカラスの中には腸炎を発症せずに多量のウエルシュ菌を腸内に保有している個体が存在していることが分かった。鶏の壊死性腸炎は腸内でのウエルシュ菌の異常増殖により発症するので、その発症予防を考える上で非常に興味深い知見である。しかし、死後変化の影響でカラスの腸管内でウエルシュ菌量が増加している可能性を検証しておく必要がある。カラスでの検証は困難であるため、Sprague-Dawley(SD)ラットを用いた検討モデルを開発中である。
【材料・方法】実験①: 8週齢のSDラット28匹を安楽死させ、そのうち4匹を0時間群、残りのラットは8匹ずつA群(4℃)、B群(20℃)、C群(30℃)に分け死体を保管、48時間、96時間後に腸管を採取した。実験②:6か月齢のSDラット7匹を安楽死させ、腸管を採取した。どちらの実験でも小腸、盲腸、大腸からウエルシュ菌選択培地を用いて分離培養を行った。
【結果】実験①と②のどちらにおいても、全サンプルでウエルシュ菌は分離されなかった。
【考察】実験①において、8週齢のSDラットではウエルシュ菌は生前の腸内で菌量が検出限界以下であり、死後も検出限界以上に増殖しないことが確認された。実験②では、生前の腸内で菌量が検出限界以上のウエルシュ菌の死後変化を調べるため、まず高齢のSDラットの腸内のウエルシュ菌を調べてみたが、やはり検出限界以下であった。このため、新たなモデルを検討している。

山本 有花、上塚 浩司/   茨城大学 農学部 生物生産科学科 動物保健衛生学研究室

昨年度は、スズメ22羽の腸内容物からウェルシュ菌の選択培地を用いた分離培養を行い、ウェルシュ菌の性状の一つである卵黄反応を示す菌株を22羽中12羽から合計44菌株得たが、いずれもウェルシュ菌の性状とは完全に一致せず、ウェルシュ菌の分離頻度は0.0%となった。これは調査したその他の留鳥では見られない特殊な結果であった。そこで今年度はスズメ10羽をさらに追加して調査した。
【材料・方法】茨城県内で捕獲されたスズメ10羽の腸内容物からウェルシュ菌選択培地で分離培養を行なった。また、分離菌株からDNAを回収して16SrRNA遺伝子の塩基配列を調べ、BLASTによる菌種の同定を行った。
【結果】卵黄反応を示す菌株を10羽中4羽から合計14菌株得たが、ウェルシュ菌と性状が完全に一致する菌株はなかった。昨年の結果と合わせ、合計32羽のスズメでウェルシュ菌の分離頻度は0.0%となり、ウェルシュ菌はスズメの腸内では分離培養の検出閾値以下でしか存在しないことが確認された。さらに分離菌株29株での同定の結果、セレウス菌群であるBacillus cereus, B.thuringiensis, B.toyonensisのいずれかとなった。
【考察】セレウス菌はウェルシュ菌の増殖を抑制するプロバイオティクスとしての利用が報告されていることから、ウェルシュ菌による腸炎の予防にもつながる興味深い結果と考えている。

関 光一朗、上塚 浩司/   茨城大学 農学部 生物生産科学科 動物保健衛生学研究室

これまでに、留鳥の腸内容物でウエルシュ菌の保有が確認された。 しかし、ウエルシュ菌は実際には糞中に排泄されて農場を汚染するため、腸内容物中と糞中の菌量の対応を把握しておく必要がある。 実際に留鳥での糞の調査は困難であることから、留鳥と同じく農場に侵入する存在としての野生ネズミに着目し、腸内容物と糞それぞれのウエルシュ菌量を調査し、その対応について検討した。
【材料・方法】大学敷地内でアカネズミ6匹、クマネズミ3匹、ハツカネズミ12匹を捕獲し、小腸、盲腸、大腸の内容物および糞からウエルシュ菌選択培地を用いて分離培養を行った。
【結果】現時点でウエルシュ菌の分離頻度は、アカネズミ2匹/ 5匹 = 40.0%、クマネズミ2匹/ 3匹 = 66.6%、ハツカネズミ5匹/ 8匹 = 62.5%となり、分離菌量はいずれも2.0 × 102 ~ 5.2 × 10CFU/gの範囲であった。ウエルシュ菌分離が確認された殆ど全ての個体では、腸内容物と糞の両方からウエルシュ菌が分離された。腸管の区分では大腸から多く分離され、菌量が多いときは盲腸や小腸からの分離も確認された。この大腸での菌量と比較すると,糞での菌量が少ない個体の方が多かった。ウエルシュ菌類似の菌株として、ウエルシュ菌検出の有無にかかわらず、C. sardinienseが検出された。
【考察】今後は個体数を増やして食餌や年齢の違いによる影響を調査するとともに、毒素型別や菌株の分子系統解析を予定している。

河田 悦和(1)、盤若 明日香(2)、西村 拓(2)、松下 功(2)、坪田 潤(2)/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 大阪ガス株式会社

(概要)我々は好塩好アルカリ・Halomonas sp. KM-1株を用いて、化成品中間体を生産する研究を実施している。KM-1株は、培養に酵母エキス等を要せず、C5糖や廃グリセロールを資価し、中程度の高塩濃度、pH8-10で好適に生育するため、雑菌の混入が生じにくく、大量のエネルギーが必要な培地などの滅菌が不要である。すでに、アルファケトグルタル酸、酢酸、乳酸などを個別に著量分泌することを報告しており、昨年度は菌体中にバイオプラスチックPHB合成を促進する過程で、PHB合成が抑制され、著量のピルビン酸を分泌することを報告したが、最近さらに、好気的な条件でクエン酸のみを効率的に分泌生産する条件を見出したので報告する。 (方法と結果)炭素源としてグルコース、窒素源として硝酸ナトリウムを用い、37℃で培養し、菌体および培地組成を分析した。従来の条件では、著量のピルビン酸を分泌したが、培養の途上、対数増殖期もしくは培養当初から培地に含まれる塩濃度を1.0M程度に上昇させると、ピルビン酸の生産が抑制され、代わりに100g/L以上のクエン酸を分泌生産することを見出した。 ハロモナス菌において、クエン酸の生産の報告はなく、また、好気条件かつ好塩・好アルカリ微生物による有機酸の生産は、その生理メカニズムの観点からも興味深いものと思われ、現在その生産メカニズムについて、代謝物の変化も含め検討を行っている。

竹内 史子/   製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター

NITEでは政府の地方創生戦略に基づき、地域の活性化をめざし、地域の微生物資源を活用した地域ブランド創出事業を支援している。 平成27年度から千葉県産業支援技術研究所と連携して、千葉県君津市の「まち・ひと・しごと創生戦略に基づく交付金」を活用した事業「きみつ食の彩りプロジェクト「きみつカラー工房(酵母)」における地域ブランド商品の開発支援を行っている。 NITEは微生物の分離を担当し、君津市が日本一の出荷量を誇る「カラー」から約900株の分離株を得た。そこからMALDI-TOF MSを用いたタンパク質パターン解析による微生物の簡易迅速同定を行い、食品や化粧品等に利用される酵母及び乳酸菌等を約160株選抜した。選抜株はすべてrDNA塩基配列に基づく相同性検索により同定を行った。 千葉県産業支援技術研究所においては、得られた酵母Saccharomyces cerevisiae 10株について、性能評価を実施した。その結果、グルコース及びスクロースの資化性は認められるものの、マルトースの資化性が認められないこと、耐塩性が低いこと、さらに10株すべてが12-16%以上のアルコール生産能を持つことが確認された。これより、ビールや味噌、醤油よりは日本酒や果実酒等の製造に適していることが示唆された。 今後日本酒製造を目指し、さらなる分析を行い、君津市の地域ブランド商品開発支援を進めていく予定である。
17:環境  (P087~P089)

中山 敦好、川崎 典起、山野 尚子/   産総研 バイオメディカル研究部門

汎用プラスチックの劣化による二次マイクロプラスチックや研磨剤、ペレットなどの一次マイクロプラスチックが海洋中に拡散し、有害有機化合物を濃縮する受け皿となり問題化している。生分解性プラスチックはその解決策の一つとして期待されるが、海水中での生分解については報告例が少なく、国連環境計画(UNEP)レポートでも評価されていない。そこで本研究では、既存の生分解性樹脂を中心に生分解に影響を与える各種因子について調べた。 微生物が生産する樹脂として知られるP3HBは実環境でもラボ試験でも分解は速く、2週間で重量減少率は約50%であった。化学合成系ポリエステル類のラボ試験ではポリカプロラクトンは良好な生分解性を示したが、ポリ乳酸やその他の樹脂では生分解は明確ではなかった。ラボ試験で生分解がはっきりしなかった合成系樹脂の中でも一部の樹脂(PBSA, PBAT)では実環境試験にて重量減少が確認された。こうした生分解結果の違いは生物多様性が関係していると考えられる。 塩濃度は採水箇所、天候、時期等により変動するが、海水の生分解活性とは明確な相関は認められなかった。季節の影響としては、夏場において生分解活性は高く、また採水した海水を異なる温度で生分解試験したところ、高い温度において生分解は速かった。大阪港の海水は神戸方面に比べて生分解活性は高く、海水中の微生物数と一定の相関を示すことから海水の汚濁度と関係があると考えている。

前田 滋哉/   茨城大学 農学部

我が国の農業水路は治水・利水を重視してコンクリート化が進んだため、かつての土水路より高流速で植生が減少してきた。その結果、水路に生息する魚類が減少したが、近年では農業水路での魚類保全も重視されるようになり、魚道、魚巣、魚溜といった環境配慮工が水路に導入される事例が増加した。しかし、それらの魚類保全への有効性や最適な設計法についての研究は、十分にはなされていない。特に、水の乱れ(乱流)に対する魚の応答はこの問題の本質部分の一つだが、水理と魚類生態といった関連分野の学際性のため、世界的にも研究が始まったばかりと言える。そこで我々は茨城県美浦村興津地区の農業水路にある魚巣と魚溜を対象とし、水路における乱流特性と魚の消費エネルギーを指標とし、魚巣と魚溜の設置効果の定量化を試みた。  魚巣、魚溜で各3地点、対象区で3地点を選び、そこで1/80秒に1回の頻度で流速を30秒間計測した。これに基づき乱れエネルギー、乱れ度といった乱流特性と消費エネルギーを推定した。7回分の観測データと推定した指標を魚巣2グループ、魚溜2グループ、対象区1グループの計5グループで集計した。グループ中央値を相互比較したところ、魚の消費エネルギーは魚巣、魚溜で対象区より有意に小さく、魚溜より魚巣で優位に小さいことが明らかになった。したがって、少なくとも魚の休息場所としては魚巣の方が魚溜より効果的であることがわかった。

成廣 隆(1)、玉木 秀幸(1)、堀 知行(2)、佐藤 由也(2)、愛澤 秀信(2)、稲葉 知大(2)、羽部 浩(2)
/   (1) 産総研 生物プロセス研究部門、(2) 産総研 環境管理研究部門

活性汚泥法や嫌気性消化法等の廃水処理技術は、限りある水資源の循環と再利用を支える社会インフラである。しかし、既存施設の老朽化や化学工業の発展に伴う廃水種の多様化等に伴い、処理効率の安定化や、様々な化学物質の分解処理へ向けた柔軟性の向上、廃水からのエネルギー資源の回収に向けた高度化など、これまでの廃水処理技術を持続的発展が可能な社会に適合させるための技術革新が求められている。廃水処理プロセスの内部では、多種多様な微生物が「汚泥」を形成して廃水中に含まれる有機物の分解を担っており、それら微生物群の動態を解明しようとする研究が数多くなされてきた。しかしそれらの多くは、ある単一の処理施設における限られた運転期間の微生物群の動態を解析しただけに過ぎず、廃水処理技術の機能性向上に資する微生物学的知見を見出すには至っていない。このような状況を踏まえ、環境管理研究部門および生物プロセス研究部門では、国内15箇所の都市下水処理施設で稼働している活性汚泥反応タンクや嫌気汚泥消化タンクから定期的に採取した汚泥試料を対象とし、次世代シークエンス技術やバイオインフォマティクス解析技術を駆使して汚泥微生物群の多様性・存在量・代謝機能を高解像度に解析してデータベース化する「環境微生物データペースプロジェクト」を進行している。本発表では、環境微生物データベースの概要と、その将来展望を紹介する。
18:その他  (P090~P100)

橋本 千秋(1,2)、大石 勝隆(1,2,3)、中尾 玲子(1)、安本 佑輝(1,2)
/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 東京理科大学大学院 理工学研究科 応用生物科学専攻
(3) 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻

【背景及び目的】体内時計の乱れは、肥満などの代謝異常を引き起こす可能性が報告されている。これまで我々は、マウスにおける明期(休息期)時間制限給餌が、高レプチン血症を惹起し、肥満を誘発することを報告してきた (Metabolism, 2016)。今回は、明期時間制限給餌による体重の増加に、レプチン抵抗性が関与している可能性を検証する目的で、遺伝的にレプチン抵抗性を示すdb/dbマウスを用いて、明期時間制限給餌による行動生理学的な影響を検討した。
【方法】6週齢の雄性db/dbマウスと野生型の対照マウスを回転かごケージにて飼育し、明暗各12時間の条件下にて高脂肪高ショ糖食を用いた8時間の時間制限給餌を行った。明期摂餌(DF)群と暗期摂餌(NF)群において、活動量および体重の経日変化を測定した。11日間の時間制限給餌の後、ZT2(点灯から2時間後)およびZT14(消灯から2時間後)において肝臓や白色脂肪組織、骨格筋を採取し、臓器重量を測定するとともに、代謝関連遺伝子の発現量をRT-PCRにて測定した。レプチンやインスリンなどの血中ホルモン濃度は市販のELISAキットにより測定を行った。
【結果及び考察】野生型マウスでは、NF群に比べて活動量の減少や体重の増加がみられたが、db/dbマウスでは、NF群とDF群との間にこれらの有意差は認められなかった。また、db/dbマウスでは、脂肪酸合成遺伝子の発現量、血中レプチン濃度においても、NF群とDF群との間に差異が認められなかった。以上の結果により、マウスにおける明期時間制限給餌による肥満には、レプチン抵抗性が何らかの形で関与する可能性が考えられた。現在は、明期時間制限給餌によるレプチン抵抗性の発症メカニズムの解明を目指して研究を進めている。

中尾 玲子(1)、榛葉 繁紀(2)、大石 勝隆(1)/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 日本大学 薬学部

マウスは飢餓状態においてエネルギー消費を抑制するために体温を低下させることが知られている。我々はこれまで、飢餓を模倣するケトン体食(高脂肪低炭水化物食)を摂取したマウスの低体温は1日の中でも活動期(暗期)後半から休息期(明期)前半に観察されることから、飢餓時における時刻依存的な体温調節メカニズムが存在し、体内時計が関与する可能性を示してきた。我々は骨格筋の熱産生機能に着目し、その役割について検討を行った。筋萎縮を誘発したマウスにケトン体食を摂取させたところ(筋萎縮+ケトン体食群)、対照マウス(ケトン体食群)と比較して有意に体温が低下した。我々はDNAマイクロアレイにより、筋萎縮によって影響を受けるエネルギー代謝関連分子を探索し、骨格筋における熱産生分子Slc25a25を見出した。Slc25a25遺伝子はケトン体食負荷によって発現が誘導されたが、筋萎縮によって発現量が顕著に減少した。熱産生を担う臓器として褐色脂肪組織(BAT)が重要であるとこれまで報告されてきたが、BATにおけるSlc25a25遺伝子、Ucp1遺伝子の発現量には筋萎縮+ケトン体食群、ケトン体食群の間で差が見られなかった。これらの結果から、飢餓時の体温維持には骨格筋による熱産生が重要であり、筋萎縮に伴って発現量が低下する遺伝子Slc25a25がその責任分子である可能性が示された。

亀山 昭彦、Santha K. Dissanayake、Wai Wai Thet Tin/   産総研 創薬基盤研究部門

バイオ医薬品は、がんや自己免疫疾患などの難治疾患の治療薬として期待され、その市場規模は2020年には30兆円にまで拡大すると見込まれます。その一方で、単一の化合物からなる低分子医薬とは異なり不均一な分子の集合体であるバイオ医薬品は、製造や品質評価において従来とは異なる種々の課題に直面しています。例えば抗体医薬における糖鎖不均一性は医薬品の薬効、抗原性、動態などに影響することが知られており、糖鎖不均一性評価は製品の品質管理だけでなく、近年では製造段階からこれらを制御することが求められるようになりました。このような背景から、私たちはバイオ医薬品の糖鎖不均一性を迅速かつ簡便に評価する技術を開発しています。 質量分析やHPLCによる糖鎖分析法は確立されていますが、バイオ医薬の糖鎖不均一性評価では、数日間におよぶ分析前処理操作が課題となっています。また、高価な酵素を用いて糖鎖を遊離させるため多検体の分析ではコスト負担が大きいことも問題となっています。私たちは酵素を用いることなく簡単な化学反応により、抗体培養液の採取からHPLCに供するまでの処理時間を3時間以内へと圧縮することに成功しています。これにより、創薬段階から開発段階そして製造に至るまで一貫した糖鎖不均一性のモニターを実現し、次世代の高品質バイオ医薬品製造に資することが期待されます。

稲垣 英利(1)、江口 克之(2)、増子 恵一(3)、紺野 勝弘(4)、数馬 恒平(4)
/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 首都大学東京 理工学研究科、(3) 専修大学 経営学部、(4) 富山大学 和漢医薬学総合研究所

Ants share with social and solitary bees in many properties, such as morphology, behavior, and so on. As these bees have a stings, some of the ant species have a sting to prey on other insects, and to be painful to humans. The sting potency is a cause of a venom which is believed to include various irritative or paralytic components which are potential lead compounds of drug development. In this study, we used both proteome and transcriptome analysis to identify novel toxic peptides and proteins of a predatory ant species,Odontomachus monticola. O. monticola, is about 10 mm long, red-brownish, have long mandibles and powerful stings. We identified the following toxic peptides and proteins from this species: 1) six pilosulin-like peptides, 2) two agatoxin-like peptides, 3) two waprin-like peptides, 4) three phospholipase A2-like proteins, 5) one hyaluronidase-like protein, 6) one Sol i 1-like protein, and 7) two Sol i 2/4 -like proteins, by either or both of proteome and transcriptome analysis.

中尾 玲子(1)、橋本 千秋(1,2)、和田 直之(3)、大石 勝隆(1,2,4)、岡内 宏樹(1,3)
/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 東理大院 理工 応用生物、(3) 東理大 理工 応用生物、(4) 東大院 新領域 メディカル情報生命

シフトワーカーや朝食欠食者では肥満者の割合が高いことが知られており、摂食リズムの乱れは肥満の原因になると考えられている。我々は、休息期(明期)のみに給餌を行う時間制限給餌がマウスの肥満を促進することを報告した(Metabolism, 2016)。今回は、明期摂餌による肥満促進に対する回転かご運動の影響を検討した。C57BL/6Jマウスに高脂肪高ショ糖食を与え、通常の明暗条件下で飼育した。明期(DF)または暗期(NF)に8時間のみ餌を与える時間制限給餌を10日間行い、回転かごのある場合(RW)と無い場合(SED)で比較を行った。RW-DF群ではRW-NF群と同様に夜行性のリズムが維持されていた一方で、RW-NF群に比べて1日の活動量が有意に減少し、活動量の減少が明期摂餌による肥満に関与すると考えられた。ところが、回転かごの有無に関係なく、DF群では肝臓での脂質含量や白色脂肪組織重量、体重がNF群よりも高値を示した。血中のレプチン濃度とインスリン濃度は摂餌時刻にピークを示し、回転かごの有無に関係なくNF群に比べてDF群で高値を示した。また、脂肪酸合成遺伝子のmRNA発現量を調べたところ、肝臓では回転かごの有無に関わらずNF群に比べてDF群で高値を示した。ところが白色脂肪組織ではRW-NF群に比べてRW-DF群は高値を示し、SED-NF群とSED-DF群では差が見られなかった。さらに、深部体温リズムを調べるとSED-DF群の振幅がSED-NF群やRW-DF群よりも小さくなっていた。これらの結果から、回転かご運動は休息期の摂食による肥満の促進にはあまり影響を与えないが、体温リズムの維持を助けると考えられる。

田中 睦生、黒澤 茂/   産総研 健康工学研究部門

ゴム素材の一つであるポリジメチルシロキサン(PDMS)は、加工性に優れ無毒であることから、バイオセンサや医用機器の構成材料として用いられている。しかしPDMSの表面は撥水性であることから、その用途は限られてしまうという現状がある。PDMS表面を親水性にする手法として、原子移動ラジカル重合(ATRP)をもちいた表面修飾法が知られているが、複雑な手順や高度な技術を必要とするために産業的に利用されるには至っていない。 一方で我々は、高分子材料を用いたゴムやプラスチックの表面修飾法について検討しているうちに、スルホベタインやホスホリルコリンなどのツビッターイオン性官能基をメタクリル酸に導入した高分子材料は、大気プラズマ処理したPDMS表面に物理吸着されることを見いだした。これらの高分子材料が物理吸着することによって表面は親水性となり、その親水性は一ヶ月以上保たれることを見いだした。さらには、光反応性官能基を導入した共重合高分子を用いることによって、共有結合による表面修飾も可能であることを明らかにした。大気プラズマによる表面改質と高分子材料を組み合わせることによって、ゴムやプラスチックの様々な表面修飾が展開できることを見いだした。

澤口 隆博、田中 睦生/   産総研 健康工学研究部門

バイオセンシング素子の研究開発では、タンパク質の非特異吸着の抑制や特定のセンシング界面を構築する表面修飾材料が不可欠であり、この界面構築は基板材料の表面処理技術としても重要である。我々は、基板表面に化学結合を介して自己組織化単分子膜を形成させ、反対側末端やそのほかの部位に種々の機能分子を導入することで表面特性を分子レベルで制御することを目的に研究を進めている。表面結合基としてチオール類を用いると金などの金属表面を分子レベルで修飾できることから、オリゴエチレングリコール(OEG)を介して末端にホスホリルコリン(PC)基等をもつ新規アルカンチオールを開発し、単分子レベルで配列したナノ構造分子膜を構築した。また、カーボンやガラス、プラスティックなど、種々の材料表面を修飾する新規表面修飾分子についても研究開発を行っている。グラッシーカーボンやHOPG等のカーボン材料の表面修飾では、ジアゾニウム化合物を新規に開発し、そのHOPG上でのナノ構造分子膜は分子レベルで平滑で緻密な単分子膜を形成する優れた表面修飾分子であることが分かった。これらのナノ構造分子膜は、電気化学計測及び溶液中走査型トンネル顕微鏡(EC-STM)による分子レベル表面構造解析を行い、種々の基板材料表面でのセンシング界面構築法を検討した。

新木 和孝、末永 敦、夏目 徹、福井 一彦/   産総研 創薬分子プロファイリング研究センター

分子シャペロニンCCT/TRiC複合体は、サイトゾル画分に局在し、タンパク質のフォールディング形成や恒常性維持をつかさどっている。これは8つの異なるサブユニットがリング状となり、そのリングが重ね合わさった16量体の円錐構造をとっている。その複合体の内側にはタンパク質の構造形成を促す空洞があり、ATPの加水分解反応を利用してオープン型、クローズ型といった動的な構造変化を起こす過程で、タンパク質の構造形成を促進させている。このCCT複合体は、異なるサブユニットからなるため、動的な運動性を示す過程で、サブユニット構成に起因する機能的な非対称性が存在していることが予想された。そこで本研究では、CCT複合体構造の構造変化に伴って生じる、複合体構造の安定性や内腔の特徴的変動を分子シミュレーションにより解析した。その結果、複合体構造の分子間相互作用エネルギーがオープン型とクローズ型状態で非対称的に変動していること、システイン残基のpKaや静電位ポテンシャルなどの構造表面の特徴も、構造変化に伴って非対称的に変動していることが判明した。さらに、これらの非対称性が、基質との非対称的な相互作用を引き起こしていることが、微小管をモデル基質として用いた相互作用解析により明らかになった。本研究により、ダイナミクスに基づく構造プロファイリングの重要性が強く示唆された。

小室 俊輔(1)、小池 純平(1)、石垣 徹(2)、日下 勝弘(2)/   (1) 茨城県科学技術振興課、(2) 茨城大学

茨城県では、東海村に建設された「大強度陽子加速器実験施設(J-PARC)」に、中性子の産業利用を促進するため、2台の中性子構造解析装置を設置・運用しています。
〇材料構造解析装置(iMATERIA)
 概要:X線では困難な水素やリチウムのような軽元素の位置や量が測定できる装置
 特徴:原子からナノレベルまで幅広い構造解析、ロボットによる迅速的な試料自動交換機能、多様な環境下でのその場測定
〇生命物質構造解析装置(iBIX)
 概要:タンパク質の機能・発現や化学反応に関与する水素やプロトンを高い精度で測定できる装置
 特徴:タンパク質中の水素・プロトンの動き(役割)の把握

小室 俊輔、小池 純平/   茨城県科学技術振興課

〇いばらき量子ビーム研究センター(IQBRC:茨城県那珂郡東海村白方162-1)
 ・ J-PARCの産業利用を促進するため、利用者の様々な相談や技術開発などをサポートする施設です。
 ・ 研究者・産業界の交流を通じて、産学官の共同研究や産業利用を促進します。
〇いばらき中性子医療研究センター(※IQBRCに隣接)
 ・ 最先端のがん治療法である「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」の実用化推進のための産学連携拠点です。
   BNCT…ホウ素薬剤を投入した患者に中性子線を照射し、がん細胞を破壊する療法。

十河 友(1)、王 秀鵬(1)、伊藤 敦夫(1)、程 侃(2)、山崎 淳司(2)/   (1) 産総研 健康工学研究部門、(2) 早稲田大学 創造理工学研究科

合成後そのまま使用可能なドラッグデリバリーのキャリアを用途として、炭酸カルシウム及びリン酸カルシウム粒子の調製方法を検討した。共存物が未反応物として残留しても生体への影響が予想できる原材料を使用し、且つ無菌操作を条件とすることで安全性に配慮した。カルシウム源、炭酸源、アミノ酸源(日本薬局方に収載される化学薬品、又は市販の医療用輸液類)を混合、撹拌して主に直径2~10 μmの粒子からなる炭酸カルシウム(バテライト)を得た。これらの粒子は二次粒子として得られ、合成条件次第でそれらは更に三次粒子を形成した。そのバテライト粒子は、リン酸ナトリウム溶液中に分散し24時間37℃で振盪すると、容易にリン酸カルシウム化された。バテライトの合成条件並びにリン酸ナトリウム溶液の液性によって得られる相は低結晶質アパタイトから低結晶質リン酸八カルシウムまで変化した。いずれの場合も、低結晶質リン酸カルシウムに特徴的な鱗片状粒子が集合した球状粒子として得られた。アパタイトの場合は球状粒子がブドウの房状の集合体として得られ、適当な滅菌済み分散媒に添加し、容器ごと超音波照射を行うことで容易に単独の球状粒子として得ることが可能であった。リン酸八カルシウムの場合は複数の球状粒子間が鱗片状粒子で充填された塊状粒子として得られた。


(注)発表者のご所属欄中、国立研究開発法人、独立行政法人、地方独立行政法人、学校法人等の名称は省略、 また、農業・食品産業技術総合研究機構は農研機構、理化学研究所は理研、産業技術総合研究所は産総研と省略して記載させて頂いております。ご了承ください。