ポスター発表一覧    /LS-BT2016

ポスター発表は下記のカテゴリー毎に分類しております。

  1. 情報工学
  2. 遺伝子工学
  3. 核酸
  4. タンパク質
  5. 脳神経
  6. 発生工学
  7. 再生医療
  8. LEAD
  9. 創薬
  10. 疾患
  11. がん
  12. 免疫
  13. 生体材料
  14. 生体計測
  15. 診断
  16. 医療機器
  17. 人間工学
  18. 農林水産
  19. 植物
  20. 食品
  21. 微生物
  22. 環境
  23. その他

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1:情報工学  (P001-P005)

Kuo Tony/   産総研 創薬基盤研究部門

Many human diseases have a genetic component. Thus, genome sequencing has become an important method in the study of genetic disorders. Variant discovery has become a routine analysis method in research and in clinical settings and many tools have been developed for this task. However, results from different tools do not often agree and are very sensitive to small changes in parameters, implying the methods are not robust. It is known that uncertainties and ambiguities exist in sequence alignment and variant calling due to the repetitive nature of the human genome. Indel calling in particular, tend to have difficult to resolve ambiguities and remains unreliable, especially for single sample or individual analysis as opposed to population studies. Here, we present a statistical model to evaluate putative variants where we explicitly construct the putative mutant genome and calculate the likelihood of the sequencing data given the reference genome versus the likelihood of the sequencing data given the mutant genome. Our method uses sequence alignment merely to obtain a set of candidate positions for calculating probabilities with the assumption that the majority of positions have no alignments and therefore have negligible contribution to the probability mass. We account for multi-mapped reads by aggregating the probabilities at each mapped position. In addition, we slide sequencing reads through the regions flanking the putative variant and calculate the probability mass, thus accounting for uncertainties with regards to indels.

泰地 真弘人、大野 洋介、森本 元太郎、大村 一太、長谷川 亜樹/   理研 生命システム研究センター

We have developed a special-purpose computer systems for molecular dynamics (MD) simulations named MDGRAPE-4. The MDGRAPE-4 is designed to enable long-term MD simulations of sub-millisecond to millisecond timescale. To perform such simulations in practical period of several months, a calculation time of single MD step should be an order of ten microseconds, which is difficult to be achieved by conventional massively parallel supercomputers. To solve the problem, we had developed the dedicated System-on-Chip named “MDGRAPE-4 LSI” that integrates accelerators for nonbonded interactions, general-purpose processor cores, memories, and network interfaces. The single-chip integration decreases latencies and increases throughput between computing elements. We built the system with 512 MDGRAPE-4 LSIs. We are currently porting the GROMACS software package for it.

Hao Zhang、Makoto Taiji/   理研 生命システム研究センター

Deep Neural Network (DNN), a human brain inspired machine learning algorithm, has recently been shown to provide much better performance than other machine learning algorithm. It has been applied to fields like computer vision, speech recognition, nature language process and bioinformatics where it has been shown to produce state-of-art results on various tasks. However, a conventional general CPU or GPU cannot meet the performance requirement when the data is huge and DNN scale is big. In this work, we proposed a mapping algorithm to map the neurons to on-chip networks by using computing the minimum hops. This mapping algorithm is applied to three cases: (1) all the neurons of the whole deep neural network can be mapped to single acceleration node; (2) all the neurons of single layer can be mapped to single acceleration node; (3) only part of neurons in a single layer can be mapped to single acceleration node. This mapping algorithm can effectively reduce the latency and improve the network throughput. Thereby, the performance is improved.

桝屋啓志(1, 2)、小林紀郎(2, 1)/   (1)理研 バイオリソースセンター、(2)理研 情報基盤センター

生命原理の理解とその応用を加速するには、様々な生物で得られた研究成果を種の違いを踏まえながら統合する必要がある。これまで、様々な解析を通じて得られた表現型は、標準化や統合が困難と考えられていたために、公開されたとしても限定的な研究コミュニティ内でしか用いられず、新たなイノベーションの障壁となっていた。 我々は、機械可読なメタデータ記述の標準技術であるセマンティックウエブに基づき、表現型とその関連情報を幅広い研究コミュニティから収集して統合、公開するプロジェクトを推進している。具体的には、遺伝因子と環境因子の相互作用によって現れる表現型、そこから紐づく遺伝子や系統、疾患、環境などの情報を幅広い研究コミュニティから収集し、オントロジーを付して分野横断的に知識処理可能となるようデータ統合を進めている。直近の成果は、マウス表現型解析国際コンソーシアム(International Mouse Phenotyping Consortium: IMPC)のデータ約90万件を、セマンティックWeb形式で統合し公開したことである。本発表では、本プロジェクトの概要と進捗状況を説明する。
プロジェクトのWebサイト:http://jphenome.info
データ公開基盤:http://metadb.riken.jp(理研メタデータベース)

松嶋 功、黒須 隆行、石井 紀代、柿林 博司、並木 周/   産総研 電子光技術研究部門

現代社会における情報通信ネットワークの重要性は、データー量の指数関数的増大とともに、年々高まっている。 現在のネットワークでは電子的なLSIを用いてパケットと呼ばれる単位で情報をやり取りするルータが使用されている。 この方式では情報量の増大に比例して消費電力が増大する。このため、今後の高精細映像など大容量データーの需要が増えると、ネットワークだけで国内総発電量を超える事態となる。 この問題を解決するため、産総研は光スイッチによる回線交換型の新しい「ダイナミック光パスネットワーク」を提案し、開発を進めている。 このネットワークは高精細映像など大容量データーを低消費電力、しかも低遅延で送ることができるため、遠隔医療などのリアルタイム性が重要な医療応用や、ビッグデータ、AI等の分野での活用が期待される。
2:遺伝子工学  (P006-P008)

加藤 義雄、小島 直/   産総研 バイオメディカル研究部門

自然界には、ヌクレオアミノ酸と呼ばれる、核酸塩基を側鎖として持つアミノ酸が存在する。 例えば、ウラシル(U)とアラニンから構成されるウィラルジインは、マメ科の植物から見出されているが、通常タンパク質を構成するアミノ酸は20数種類に限定されており、ヌクレオアミノ酸がタンパク質内へと取り込まれない。tRNAのミスアシル化を利用することにより、天然アミノ酸の機能を越えたタンパク質を創製できることから、これまでに多種多様な人工タンパク質が作られているが、DNAと塩基対を形成し得るヌクレオアミノ酸を位置特異的にタンパク質内に導入した例は報告されていない。 DNAと配列特異的に相互作用できるタンパク質には、遺伝子配列特異的な発現制御やゲノム編集等への応用が期待されている。 本研究では、核酸塩基を持つα-アミノ酸がタンパク質内に導入可能かどうかを検証するため、核酸塩基を側鎖として有するα-アミノ酸を化学合成し、in vitro翻訳系にて解析を行なった。

富永 大介(1)、森 一樹(2)、油谷 幸代(1)/   (1)産総研 創薬基盤研究部門、(2)高機能遺伝子デザイン技術研究組合

微生物に遺伝子を導入による代謝物の生産量向上などを行う際、複数の候補遺伝子があると、それらの一部または全部を導入するが、それらの全てのあり得る組み合わせで効果を実測することは、候補遺伝子の数によっては事実上不可能である。 そこで、限られた実測数から、観測されていない組み合わせでのパフォーマンスを定量的に予測し最適な組み合わせを推定する計算機アルゴリズムを、RBFネットワークモデルを元に開発した。 まずこの推定法を有用遺伝子の検出法として考え、RBFネットワークと線形重回帰モデルについて、その検出力をランダムなシミュレーションデータセット(遺伝子間の交互作用がない)と未公開データを改変して作成したデータセットを用いて検証した。 どの遺伝子を導入するかという組み合わせの総数は1024通りであり、その一部をモデル構築に用い、残りの全ての組み合わせについて収量を予測した。 シミュレーションデータセットでは、ある遺伝子によるパフォーマンスの向上効果が他の遺伝子と無相関かつ他の遺伝子のおおよそ 1.4~1.5 倍程度あればその遺伝子を有意水準5%で検出できること、RBFネットワークによる予測値に補正を加えることで定量的なパフォーマンスの予測ができることを見いだした。 また改変データセットではRBFネットワークが線形モデルよりも予測精度が高いことが統計的に示された。

永井 秀典、鳴石 奈穂子、古谷 俊介、萩原 義久/   産総研 健康工学研究部門

On-site quantitative analyses of pathogens (ex. bacteria and viruses) by polymerase chain reaction (PCR) system have recently expanded in medical and biological researches. We have developed a remarkably rapid and portable real-time PCR system that is based on microfluidic approaches. In this system, we employed the precise handling of a sample plug on each temperature zone for a 2-step PCR. An advantage of this approach is that the temperature of the sample plug could be changed immediately; the minimum reaction times for denaturation, annealing, and extension of DNA could be easily examined by varying the retention time on each temperature zone. We have compared the performance of three DNA polymerases in the actual PCR conditions using this system. As the results, it was cleared that the speed of real-time PCR would not always depend on the activity of DNA polymerase. Real-time PCR using TaqMan probes consists of a complex reaction. In particular, DNA polymerase has two roles: extension of DNA fragments from the origin of duplication at the primers binding site, and degradation of the probes bound to the template DNA. As the two processes proceed simultaneously in a rapid real-time PCR, the optimum DNA polymerase must be estimated by using actual real-time PCR conditions. In this study, we compared among the performances of three DNA polymerases. Although KAPA2G Fast HS DNA Polymerase has the highest enzymatic activity among them, fastest real-time PCR was achieved by using SpeedSTAR HS DNA Polymerase and its extension rate containing the decomposition reaction of the probe was 77 bp sec-1 in this study. By the rapid quantitative analysis for E. coli in our reciprocal-flow PCR system, we realized rapid detection in 7 min and a high sensitivity, which was the same as that of the conventional thermal cycler.
3:核酸  (P009-P010)

佐野 将之(1)、大高 真奈美(1)、飯島 実(1)、加藤 義雄(2)、中西 真人(1)/   (1)産総研 創薬基盤研究部門、(2)産総研 バイオメディカル研究部門

マイクロRNA(miRNA)は21-23塩基長の内在性ノンコーディングRNAであり、これまでに真核生物において多くのmiRNAが同定されている。miRNAはmRNAの3’非翻訳領域(UTR)に配列依存的に結合し、RISCと呼ばれるタンパク複合体を呼び込むことで、翻訳阻害やmRNAの分解を引き起こす。miRNAのなかには組織特異的、時期特異的な発現パターンを示すものがあり、発生、分化、代謝などの様々な現象に深く関与していることが知られている。これまでに、miRNAの生理学的な意義を解明するために、多くのmiRNA検出方法が開発されてきた。一般的には、ノーザンブロットやRT-PCRが広く利用されているが、これらの方法は細胞を壊す必要があり、また単一細胞あたりの解析には向いていない。一方、miRNA特異的な蛍光プローブは単一細胞での検出が可能であるが、長期間のモニタリングには不向きである。これらの課題を克服するため、蛍光タンパク遺伝子の3’UTRにmiRNAの標的配列を組込んだベクターによりmiRNAの発現を視覚的に検出する方法が開発されてきた。今回、我々は幅広い細胞種で安定した遺伝子発現強度が得られる細胞質RNAベクターを用い、miRNAの検出系を構築し、評価を行ったので、その成果を報告する。

野口 修平(1)、Imad Abugessaisa(1)、長谷川 哲(1)、川路 英哉(2)、粕川 雄也(1)/
   (1)理研 ライフサイエンス技術基盤研究センター、(2)理研 予防医療・診断技術開発プログラム

「リファレンスゲノム」や「リファレンス遺伝子」といった、特定の要素の代表を選択し、アノテーションづけされた「リファレンスデータセット」はゲノム関連の研究においてとても重要である。実験により得られたデータをこれらのリファレンスデータセットに対応づけることによって、他の様々なデータとの比較や関連する情報の探索が可能となる。 しかしながら、転写開始点(TSS)やプロモーターについては、いくつかの国際的なプロジェクトがあり、その膨大なTSSのデータセットが利用可能であるにもかかわらず、リファレンスとなるセットはまだ存在していない。そこで、これらの利用可能な情報を統合し、網羅的なTSSのデータセットを作成し、TSSに関するリファレンス(refTSS)の構築を試みた。 refTSSの構築では次の三項目を行う。一つめはCAGEや5’-SAGEといった5’端シーケンスデータを元にした、ゲノム上のTSS位置情報の同定。二つめは遺伝子や、転写制御情報といったアノテーション情報のTSSへの統合。三つめは、TSSとアノテーションの情報の整合性を確認するキュレーションである。 現在は、FANTOM5 promoter atlasをベースに、主要な3つの転写開始点に関するデータベースの統合が完了し、転写制御等に関するアノテーション情報の統合を進めている。最終的に、refTSSはウェブ上に公開し、誰でも利用できるようにする予定である。refTSSは転写開始点や、それに関連する研究を行う者にとって有用なツールになることが期待できる。
4:タンパク質  (P011-P019)

富井 健太郎、今井 賢一郎、清水 佳奈、深沢 嘉紀、LIM, Kyungtaek、小田 俊之/   産総研 創薬基盤研究部門

創薬等の支援へ向け、タンパク質の立体構造/相互作用/局在予測などのバイオインフォマティクス技術に基づく支援とそれら技術の高度化を、「創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業」において実施して いる。本発表ではこれまでに事業で行った支援例、即ち、創薬研究の加速化を目指して取り組んだ、類似基質結合部位データベースPoSSuMの改良や、ミトコンドリアタンパク質の輸送因子に関する解析支援事例などについて紹介する。またわれわれのグループで行っているタンパク質の類似性検索及び配列解析技術の高度化や、それらの応用例などについて紹介する。

岡本 有司(1,2)、井村 順一(2)、岡田 眞里子(1)/   (1)理研,(2)東京工業大学

我々の研究の目的は,システム生物学で提案されているモデルや解析手法を規格化,統一化することをコク的としている。 我々は細胞内の分子間相互作用を十分に表現し,解析が相違なモデル表現として,ポジティブ2次システムを提案する。 また, 従来の研究で提案されてきた,ヒル関数を用いた微分方程式などを,ポジティブ2次システムで十分に近似できることを示す。 さらに,ポジティブ2次システムの安定性や有界性を解析する手法を提案する。 これにより,遺伝子発現が行われないタンパクなどの解析的な結果が得られる。 最後に,ポジティブ2次システムの結合に注目し,その結合したシステムの特性を解析する。

新木 和孝(1)、草野 秀夫(1)、佐々木 直幸(2)、八田 知久(1)、福井 一彦(1)、夏目 徹(1)/
   (1)産総研 創薬分子プロファイリング研究センター、(2)ロボティック・バイオロジー・インスティテュート株式会社

酸化ストレスは加齢、糖尿病、がん、動脈硬化などといった数多くの疾患メカニズムと関連していることが知られている。 ROS(Reactive Oxygen Species)と総称される酸化ストレスに対して、タンパク質アミノ酸残基の中でも、システイン残基のチオール基の反応性が高いことが知られている。 このため、酸化ストレスの惹起時に、チオール基に可逆的・不可逆的翻訳後修飾が生じることが多い。 本研究では、このようなシステイン残基の酸化状態というプロファイル情報をもとに、細胞内の恒常性状態を評価する系の構築を試みた。 手法としては、プロテオミクス技術を主軸に、複数のシステイン残基の同時定量が可能なisobaric labeling法を採用し、システイン残基の酸化状態の網羅的定量計測系を構築した。 本発表においては、培養細胞を用いた検証実験を行った結果を紹介しながら、酸化状態という定量プロファイル情報から読み取れる細胞内恒常性維持機構、ならびに疾患メカニズム解析や創薬への応用などに関して議論したい。

石井 則行(1)、佐藤 孝雄(2)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)東京工業大学大学院 生命理工学研究科

シャペロニンは、変性したタンパク質や、新たに合成された未成熟なタンパク質のフォールディングを促進する。シャペロニン反応サイクルに、対称な形状のGroEL-(GroES)2 (フットボール型) と非対称なGroEL-GroES (ビュレット型)が、等モル比で共存することが分かってきた。 フットボール型は、好熱菌シャペロニンで見出した分子赤道面での開裂から生じる単層リングGroEL-GroES(ドーム型)の前駆体と考えられる。 折れたたみ中間体を内包したビュレット型の結晶構造に半経験的分子軌道(MO)法を適用したところ、各構成サブユニット間の相互作用の積分値である、シスとトランス-GroELのリング間や、シス-GroELとGroESのリング間の相互作用に異方性が認められた。 分子量900 kDaの巨大タンパク質複合体に初めてMO計算を適用し、電子顕微鏡法で観察された分子赤道面での開裂を理論的に説明できた。 ドーム型を加味し、フットボール型、ビュレット型の共存するシャペロニン反応サイクルを提案した。

今井 賢一郎、深沢 嘉紀、富井 健太郎、Paul Horton/   産総研 創薬基盤研究部門

近年、ミトコンドリア局在プロテアーゼは、高度に制御されたタンパク質分解を行い、基質タンパク質の局在や機能を調節し、ミトコンドリアの選択的オートファジーやアポトーシスなどといったストレス応答を制御していることが明らかになってきた。中でもミトコンドリア内膜に局在するRhomboid型のプロテアーゼPARLは、パーキンソン病の原因遺伝子であり、選択的ミトコンドリア分解の調節因子でもあるPINK1やアポトーシス促進因子であるPGAM5やHtrAを切断するこで、これら基質の機能を調節し、損傷を受けたミトコンドリアのセンサーとなることが明らかになってきた。しかし、既知のPARLの基質は、これら3例のみである。PARLの新規基質の発見は、ミトコンドリアにおけるストレス応答機構の解明において重要な情報となる。そこで、我々は、ミトコンドリア内膜に特化した膜貫通セグメント予測法、PARLの切断部位予測法、最近、我々の開発した高精度ミトコンドリアターゲッティング配列予測法MitoFatesを組み合わせ、PARLの基質探索パイプラインを開発した。そして、このパイプラインを用い、翻訳開始点のシフトや選択的スプライシングによって生じるisoformも含めたヒトのプロテオームに対する基質候補の探索を行った。本発表では、基質探索パイプラインの詳細、基質候補の探索結果、基質候補と既知の疾患関連変異との関係について報告する。

千賀 由佳子(1, 2)、石田 敦彦(3)、茂里 康(4)、亀下 勇(2)、末吉 紀行(2)/
   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)香川大学 応用生物科学、(3)広島大院 総合科学、(4)産総研 健康工学研究部門

プロテインキナーゼは細胞内情報伝達において中心的役割を担っており、様々な生命現象の制御に関与している。 その中でも、Ca2+/CaM依存性プロテインキナーゼI(CaMKI)は、高等動物の記憶や学習といった高次神経機能において重要な働きをするリン酸化酵素であり、α、β、γ、δの4つのアイソフォームが存在する。CaMKIは上流のキナーゼによるリン酸化で活性化することが知られているが、その活性はリン酸化酵素とは逆の脱リン酸化酵素(プロテインホスファターゼ)により負の制御を受けている。 先行研究では、CaMKIαはCa2+刺激がない状態ではリン酸化されないと報告されていたが、本研究によりCaMKIδはCa2+刺激がない状態でも有意にリン酸化されていることを見出した。 今回私達は、この現象がCaMKIαとCaMKIδのN末領域の一次構造の違いによってCaMKIδがホスファターゼ抵抗性となることで起こることを報告する。これにより、従来とは異なるCa2+に依存しない制御機構の存在が示唆された。

村木 三智郎/   産総研 バイオメディカル研究部門

ヒトFasリガンドはNK細胞や細胞障害性T細胞などに多く発現する1回膜貫通II型の糖蛋白質であり、Fasレセプターに結合しアポトーシスを誘導することにより生体内での有害細胞の除去に寄与している。そのためがん、関節リウマチをはじめとする自己免疫疾患ならびに臓器移植時の移植片対宿主病などの発症に深く関与していることが示唆されており、これらの疾病に対する治療や診断を目的とした医療用蛋白質の設計を考える上で有用である[1]。これまでに、本蛋白質が標的細胞の膜上のFasレセプターに特異的に結合する役割を担う細胞外ドメインについて、メタノール資化性酵母P. pastorisを宿主として、N末端領域や糖鎖結合部位に関する各種の改変型組換え蛋白質の発現生産系を構築すると共に、本来のレセプター結合活性を損なうことなく部位特異的化学修飾を実現するための誘導体の調製方法を開発してきた[2, 3]。本会ではこれらに関連して、今年度の日本蛋白質科学会年会のワークショップ「微生物による蛋白質発現」で紹介したディスポーザブルカルチャーバッグを用いた培養方法の実際[4]に関する口演内容をポスターにまとめた形で発表する。
【参考文献等】
[1] M. Muraki, Integr. Mol. Med. (Review), 1, 38-56 (2014).
[2] M. Muraki, BMC Biotechnol. , 14:19 (2014).
[3] 村木、特開2015-007025.
[4] 村木、蛋白質科学会アーカイブ、7, e078 (2014).

森井 尚之 (1)、奈良 雅之 (2)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、 (2)東京医科歯科大学

ペプチドやタンパク質について観測されるIRスペクトルの1700-1600cm-1領域のシグナルは2次構造を反映するものとして有用である。 特にβ構造に関しては、1630cm-1の主吸収帯の他に、逆平行型β構造では1685cm-1に特徴的な副吸収帯が観測され、一方、平行型β構造では1685cm-1付近には副吸収帯が現れないことが、理論的にも実験的にもほぼ確立されている。 筆者らは、1残基のみ15N同位体を導入した一連のアミロイド性ペプチドを作成して、そのアミロイドのIRを測定した結果、b構造を示す共通の1625cm-1付近の主吸収帯の他に、副吸収帯として、1685cm-1のものと1660cm-1のものの2種類のスペクトルが観測されることを発見した。 1685cm-1のバンドを根拠にアミロイド線維は、逆平行型β構造と考えられるが、ここでの観測結果に基づいて、これまで報告されている多数のアミロイドのIRスペクトルを再解釈すると、アミロイドはほぼすべて、そのペプチドあるいはタンパク質の分子種によらず、逆平行型β構造であるという結論に達する。

森井 尚之 (1)、清水 隆 (1)、奈良 雅之 (2)/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2) 東京医科歯科大学

インスリンは環状構造を含む51アミノ酸残基からなる生理活性ペプチドである。 インスリンをある程度の高温等の変性条件にさらすとアミロイド線維が形成される。 このアミロイドの分子構造について、数残基のアミノ酸配列部分を2つ任意に組合わせた「アミロイド幹領域の2次元スクリーニング法」を適用して、幹領域の候補を見いだし、さらに同位体ラベルIRスペクトル法によってβ構造領域を特定した。 これに加えて、2重同位体ラベルを行うことで、水素結合している2つのβ構造領域間の残基同士のマッチングを決定した。 また、電子顕微鏡像の解析からβシート構造同士の高次な配向様式の情報を得た。これらを総合することで、インスリンのアミロイドについて非常に詳細な分子構造モデルを提案することに成功した。
5:脳神経  (P020-P024)

細川 千絵/   産総研 バイオメディカル研究部門

細胞診断、細胞治療のためには、細胞ネットワークを非侵襲で高精度に計測し、制御可能な技術が求められている。本研究では、細胞の局所領域を能動的に、かつ非接触に操作可能な手法として、集光レーザービームの光摂動を用いた細胞操作技術の開発に取り組んでいる。本発表では、集光レーザー摂動を用いた神経細胞内分子の集合操作について紹介し、神経細胞ネットワークの機能制御への応用について述べる。

落石 知世(1)、角 正美(2)、山崎 和彦(1)、広瀬 恵子(1)、戸井 基道(1)、海老原 達彦(1)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)茨城県立医療大学

アルツハイマー病の発症原因の一つとして、最近、神経細胞外ではなく細胞内にオリゴマー状態で重合したアミロイドβタンパク質(Aβ)が、より強い神経障害性を持つとするオリゴマー仮説が注目を集めている。 そこで、Aβが神経細胞内のみに蓄積し、かつそのAβ分子動態を生きた細胞内で観察できるヒトAβ1-42-GFP 融合タンパク質を発現させたトランスジェニックマウス(Aβ-GFPマウス)を作製し、記憶・学習能力やシナプス部でのタンパク質発現を解析した。 NMR・電子顕微鏡・蛍光相関分光法によりAβ-GFP融合タンパク質は小さなオリゴマーのみを形成することが判明した。 またAβ-GFPマウスは若い月齢ですでに記憶障害を呈し、シナプス領域の記憶・学習に関連したタンパク質の発現も低下した。 本モデル動物は細胞内Aβオリゴマーの機能を詳細に解析し、アルツハイマー病の発症初期の変化を捉えるツールとして有用であり、またアルツハイマー病の新たな治療薬や発症を予防する物質の探索など、幅広い利用が期待される。

佐藤 孝明 /   産総研 バイオメディカル研究部門

鏡像異性体ペアは、その物理・化学的特性がほぼ同一であるために、機器分析での識別が困難である。 一方、嗅覚は、(-)鏡像異性体と(+)異性体を数秒で識別できる。鏡像異性体識別に重要な嗅覚受容体を明らかにするために、野生型マウスと背側全嗅覚受容体欠損マウス(ΔDマウス)の検知・識別閾値を比較した。 匂いプルーム型匂い提示式Y迷路を使った検知・識別行動実験の結果、野生型マウスの嗅覚はワインラクトンおよびカルボン鏡像異性体ペアをppq(10-15)以下の濃度で検知・識別できる超高感度であることを発見した。 対照的に、ΔDマウスは(+)鏡像異性体に選択的な感度低下を示した。その結果、ΔDマウスで観察されたワインラクトン鏡像異性体ペアに対する1億倍の感度差は、ヒトの感度差に一致した。 これは、ヒトの1億倍の感度差がΔDマウスと同様に、受容器背側の(+)ワインラクトン高感度受容体を欠損し、(-)ワインラクトン高感度受容体を持つためであることを示唆している。 さらに、ΔDマウスは、一方あるいは両者の鏡像異性体を検知できる広い濃度範囲で、両者を識別できない、「識別パラドックス」を示すことを発見した。この結果は、匂い情報形成に受容体応答が均等に寄与するのではなく、少なくともよく似た鏡像異性体の同定には、背側の高感度受容体が匂い形成を支配し、識別・同定に不可欠な貢献をしていることを示している。

平野 和己、波平 昌一/   産総研 バイオメディカル研究部門

精神疾患や脳腫瘍などの脳神経系疾患は発症が思春期以降となる場合が多い。それらの発症機構の解明や治療法の開発のためには、発症時期に併せたヒトモデル細胞の作製が必須であるが、未だヒトの脳神経の解析に適したヒトモデル細胞の確立には至っていない。そこで、本研究ではヒト胎児大脳皮質由来の神経幹細胞(ヒト神経幹細胞)の安定的な培養法とヒト神経幹細胞から神経細胞への分化誘導法を確立することで、神経細胞の安定的な供給を可能にし、上記の課題を克服した。ところで、胎生期のマウス神経幹細胞の運命決定が、DNAメチル化やヒストンタンパク質修飾といったエピジェネティクスによって制御されていることが知られている。しかしヒト神経幹細胞の分化制御におけるエピジェネティクスの役割は殆ど明らかにされていない。そこで、各種阻害剤を用いてヒト神経幹細胞の分化制御に関与するエピジェネティクス制御因子の探索を行った。その結果、メチル化ヒストンタンパク質のメチル基を取り除くLSD1(Lysine Specific Demethylase-1)の阻害剤の添加により、神経分化が抑制されることを見出した。このLSD1の機能は、マウスの神経発生では確認されなかったことから、ヒトで特徴的な機能であることが示唆された。今回、ヒト神経幹細胞の神経分化におけるLSD1の詳細な機能解析の結果について報告する。

長谷川 良平、中村 美子/   産総研 人間情報研究部門

発表者の研究グループでは、重度運動機能障がい者のコミュニケーションを支援するために脳波BMI技術を用いた意思伝達装置「ニューロコミュニケーター」の実用化開発を行っている。本システムでは、メッセージ選択に関する脳内意思決定を解読する手段として、頭頂部で顕著に観察できる事象関連電位を活用している。ニューロコミュニケーターのコア技術の一つである小型無線脳波計を搭載したヘッドギアは、まさにこの電位を効率的に計測できるように設計されており、頭頂部を中心に8個の電極を配置している。一方、このヘッドギアを、通常、髪の毛で覆われている頭頂部に適切に装着するためには、導電性のジェルを用いたり、電気的な抵抗を確認したりするなど、ある程度、熟練した技能が必要であり、それが技術移転の妨げになっていた。そこで我々は、比較的少数の電極を髪の毛が無く、ジェルが不要な前額部に配置することによって、簡便に事象関連電位を検出し、脳波解読に用いることができるかどうかを検討した結果、良好なデータ得られたのでここに報告する。
6:発生工学  (P025-P030)

梶山 康平(1,2)、原本 悦和(1)、小沼 泰子(1)、王 碧昭(2)、伊藤 弓弦(1)/   (1)産総研 創薬基盤研究部門、(2)筑波大学 生命環境科学研究科

組織が創傷を負った際に最初に起こる重要な生理反応の一つが血液凝固反応である。血液凝固の際に形成される血餅には血小板と多くの赤血球がトラップされ、この反応は脊椎動物に共通の反応である。 しかし、哺乳類の赤血球や血小板が無核であるのに対して、他の脊椎動物の赤血球および血小板の役割を担う栓球が有核である、という点で大きく異なっている。これまで、脊椎動物において赤血球や栓球の核が果たす役割についてはほとんど研究されてこなかった。血液凝固は損傷部位において迅速に起こる生理反応であり、その過程において新規の転写が可能である有核の赤血球や栓球が組織再生において重要な役割を担っている可能性が考えられる。 本研究では、両生類の鮮血および血餅における遺伝子発現の差異をDNAマイクロアレイにより解析することで、血液凝固反応後におこる転写の有無を確認する。さらに血液凝固時に特異的に働くシグナル伝達経路を明らかにすることで、両生類の組織再生において有核血球細胞である赤血球・栓球が果たす生理的役割の解明を目指す。 今回は網羅的な遺伝子発現解析から得られた成果について報告する。

山田 しおり(1,2)、原本 悦和(1)、小沼 泰子(1)、鈴木 理(1)、伊藤 弓弦(1)/   (1)産総研 創薬研究部門、(2)茨城大学大学院

心臓は組織や細胞の再生能力が低いために、重篤な心不全に陥った場合、人工心臓の導入や臓器移植が主な治療法となるのが現状である。 近年、再生医療の臨床応用へ向けた研究が行われており、心筋細胞への分化の高効率化、遺伝子導入に代わる安全・安価な方法が検討される中、課題の一つとなっているのが「成熟化」である。 心臓は個体発生において比較的早い時期に形成され、身体の成長と共に、遺伝子発現、構造、機能などの変化を伴って成熟していく事が知られている。 これまで幹細胞から作られてきた心筋細胞では「胎児型」と呼ばれる、未熟な状態であるものが多い。 心筋成熟のメカニズムを明らかにし、胎児型から成体型への成熟過程を制御できるようにする事が、医療分野への応用に必須である。 本研究に用いるアフリカツメガエルは、遺伝子操作が容易にできる事などから、発生生物学や発生工学において広く利用されている。 当研究室にはin vitroで胚の未分化領域から心臓様組織を3次元的に再現する実験系があり、まだ明らかになっていない心筋の成熟過程を解析するためのモデル系として有用である。 本研究は心筋成熟の引き金となる遺伝子の探索を目的としており、今回はツメガエルの心臓成熟過程における遺伝子発現の変化や心筋構造の違いについて、これまで明らかになった事を報告する。

狩野 絵吏子(1,4)、原本 悦和(1)、二宮 裕将(2)、有泉 高史(3)、王 碧昭(4)、伊藤 弓弦(1)/
   (1)産総研 創薬基盤研究部門、(2)名古屋大学大学院 医学系研究科、(3)玉川大学 農学部、(4)筑波大学大学院 生命環境科学研究科

両生類にはイモリやサンショウウオのような有尾目と、カエルのような無尾目が存在し、その形態は大きく異なる。形態の相違点の一つとして、相対的に無尾目の脊椎は短く、有尾目の脊椎は長い、といったものが挙げられる。このような形態の違いが発生段階のどの時期に、どのようなメカニズムで起こるのかは興味深い研究テーマである。体節形成のメカニズムについては多くの研究がなされている。また、アカハライモリとツメガエル2種を用いた先行研究により、体節形成よりも前の中胚葉誘導期において、中胚葉誘導因子に対する感受性の違いがあることがわかっている。我々は、この感受性の違いが体軸(脊椎)の長さの違いに影響しているのではないかと考えた。
本研究では、新たな有尾両生類を用いて、中胚葉誘導因子に対する感受性の違いと形態の種間差の関連について検証することで、有尾両生類の形態的特徴の要因を解明することを目指す。 また有尾両生類は高い再生能力を持つため、再生医学の観点からも注目されている。有尾両生類を再生研究のモデル生物として容易に利用できるようにするため、実験手法の検討と基盤整備を行った。これらの成果について報告する。

京田 耕司、岡田 初美、大浪 修一/   理研 生命システム研究センター

近年のバイオイメージ・インフォマティクスの発展に伴い、発生過程の時空間動態を数値情報として定量的に計測することが可能になった。 これらの定量データを計算機で処理することにより、大規模かつ定量的なフェノーム解析を行うことができる。 本研究では、線虫C. elegans初期胚をモデルに、遺伝子機能を阻害した際の4次元微分干渉顕微鏡画像から、細胞核分裂の時空間動態を定量的に計測している。 胚発生に必須である各遺伝子に対してRNAiを施し、263遺伝子に対する1142個体のデータ計測を完了した。 最初に、RNAiによる表現型異常を、計算機を用いて自動検出する手法を開発した。437個の表現型の特徴を数学的に定義して、野生胚とRNAi胚の定量データからそれらの特徴量を計算して統計的に比較することにより、約6000の表現型異常を検出した。 これらの表現型異常には、目視検出が極めて困難な時間的・3次元空間的な表現型が多数含まれている。 次に、我々は、形質発現の時空間的な繋がりを推定する手法、さらに、これらの形質発現の繋がりの背後にある発生機構に関与する遺伝子を予測する手法の開発を行い、 線虫C. elegans初期胚発生の形質発現モデルを構築することに成功した。 定量データを活用することにより、今まで行われてきた解析を大規模かつ高速に実行できるだけでなく、新しい情報科学的アプローチで解析できることを実証した。

東 裕介(1)、大浪 修一(1,2)/   (1)理研 生命システム研究センター 、(2)科学技術振興機構

線虫C. elegansは観察のしやすさからイメージング研究が進み、発生過程が不変の細胞系譜に従うことが1細胞トラッキングにより明らかにされている。 しかし、この間の各細胞の動態にどの程度の個体差があり、それが発生にどの様な影響を与えるのかについては未解明である。 そこで本研究では、胚の各細胞の動態をデジタル化して、複数の胚で比較するシステムを開発した。 まず、細胞核と細胞膜を別々の蛍光分子で標識した胚の3次元タイムラプス画像に対し、両者をセグメンテーションする画像処理プログラムを作成した。 さらに、異なる向きの胚を空間的にレジストレーションするプログラムも作成した。 複数の胚の間で細胞動態にどの程度の個体差があるかを定量解析した結果、発生初期の細胞座標のずれは長軸の10%程度だった。 しかし、個体によってこのずれが大きくなる場合があり、細胞を重ね合わせて可視化したところ、胚全体の回転運動に違いが生じていたことが分かった。 この違いが細胞間の相対配置に影響しているかをさらに調べるため、細胞間コンタクトが回転運動によって変わるかを調べた。 その結果、回転運動に違いがあっても細胞間コンタクトの個体差は大きくならず、細胞の相対配置はロバストであることが分かった。今後、外部環境の変化に対してどの程度のロバストネスがあるかを調べ、ロバストネスを担っている細胞機能の解明に向けて研究を進めたい。

遠里 由佳子、岡田 初美、高山 順、京田 耕司、大浪 修一/   理研 生命システム研究センター

ライブイメージング技術の普及にともないさまざまな動画像が公共データベースに公開されつつある。 これら動画像から得られる核や細胞の位置や形の変化といった定量データは、生命現象を動的システムとして理解する上で重要な高次元情報であり、表現型解析や数理モデルの構築への活用が期待できる。 そこで我々は、Phenobankで公開されている2次元タイムラプス微分干渉顕微鏡画像に開発した画像処理法を適用することで、線虫の核分裂動態の定量データの新しいリソースを作成した。 これは初期発生にRNAi表現型を持つことが知られている549遺伝子のRNAi胚について各3個体の定量データを含む(計1,579定量データ)。各定量データは、核領域の輪郭座標とその時間変化で構成される。 すべてのデータはマニュアルでエラー修正され、細胞名と前後軸が注釈付けられている。 リソースの有効性を実証するため、雌性前核の移動速度の表現型解析を行った。 その結果、RNAiにより雌性前核の最大移動速度が速くなる/遅くなる新規遺伝子を同定した。そして、GFP-tubulinで微小管が可視化されたRNAi胚でその表現型を確認した。 我々は、これらのリソースをSSBD(Systems Science of Biological Dynamics database)上に公開する予定である(http://ssbd.qbic.riken.jp)。
7:再生医療  (P031-P035)

伊藤 弓弦(1)、清水 真都香(1)、道上 達男(2)、小沼 泰子(1)/   (1)産総研 創薬基盤研究部門、(2)東京大学大学院 総合文化研究科

iPS細胞等幹細胞の自動培養装置を開発する上で問題となるのは、培養後の細胞が持つ分化能である。 作製されたiPS細胞等幹細胞はそのまま利用されるわけではなく、何らかの目的細胞に分化させて用いられるのが一般的である。 また、iPS細胞等幹細胞は確かに多能性を有しているが、各種細胞への分化しやすさにはバラツキがある。 よって、使用目的細胞に分化しやすい性質を持たせながら大量供給が可能な自動培養装置の作り込みが重要となってくる。 例えば、Ⅰ型糖尿病治療を目的とする場合は、膵島細胞に分化しやすい性質を有したiPS細胞等幹細胞を大量自動培養できるかが鍵となる。 また、再生医療を行うにあたり、問題となるのは膵島分化系に供するiPS細胞等幹細胞の必要細胞数の確保である。 必要な細胞を安定に準備出来ることが、自動培養装置が満たすべきスペックとして必須である。 本発表では「分化能維持」・「安定した拡大培養」を担保したiPS細胞等培養技術を装置に作り込めるかどうかの検証結果を報告する。

倉持 明子 (1, 2)、隠岐 潤子 (1)、上原 ゆり子 (1, 2)、織田 裕子 (1)、田野 裕美 (3)
鬼柳 由美子 (3)、浅田 眞弘 (1)、鈴木 理 (1)、今村 亨 (1, 4)、伊藤 丈洋 (3)/
   (1) 産総研 創薬基盤研究部門、(2) 株式会社 牛越生理学研究所 (3) 株式会社 細胞科学研究所、(4) 片柳学園 東京工科大学 応用生物学部

iPS細胞を用いた再生医療の実用化のためには、細胞の大量安定培養が必要であり、近年は自動培養装置の利用も模索されている。一方、細胞培養液に関しては、従来からFGF2を添加した培地が用いられているが、その不安定性に起因する培養液の短い使用期限設定等に対しての改善が求められている。我々はこれまでにFGF1とFGF2のキメラ蛋白質(FGFC)を高機能化FGFとして開発してきた。FGFCはFGF2に比べて分解酵素や熱に対してより安定であり、animal-freeの組換え型蛋白質としての大量調製が容易である。そこで、従来のFGF2をFGFCで置換し、より安定性を高めたiPS細胞用の無血清培養液の開発を行った。 新規培養液は、all-in-one で供給され、シェルフライフも「4℃保存で2ヶ月」と従来品にはない優位性をもつ。この培養液で培養したiPS細胞は、良好に増殖し、コロニーの形態も正常であった。この培地で10回以上継代した細胞は、未分化マーカーの発現を維持しているとともに、いずれの胚葉への分化能も保持していることが判明した。 これらの結果から、FGFCを含有する「安定性を高めたiPS細胞用の無血清培養液」は、今後の再生医療の発展に大きく寄与できるものと考えられる。なお、この無血清培養液は株式会社細胞科学研究所より、近日中に上市される。

小沼 泰子、相木 泰彦、樋口 久美子、清水 真都香、舘野 浩章、平林 淳、伊藤 弓弦/   (1)産総研 創薬基盤研究部門

多能性幹細胞を用いた再生医療では、移植片中の残留未分化細胞に起因する腫瘍形成が一つの課題であり、リスクを軽減するために残留未分化細胞の除去のための様々な方法が検討されている。本発表では、ヒト多能性幹細胞の細胞表面に特異的に結合するレクチンプローブであるrBC2LCNを用いた、磁気ビーズベースの細胞分離による多能性幹細胞の除去について報告する。

國分 優子(1)、野口 隆明(1)、伊藤 泰斗(1)、王 碧昭(1)、栗崎 晃(1,2)/   (1)筑波大学 生命環境科学研究科、(2)産総研 創薬基盤研究部門

近年までの研究により、多能性幹細胞からの様々な肺分化誘導系が構築されてきた。しかし、完全に機能的な細胞の作成にはまだ困難が伴い、さらなる研究が必要である。 我々は、ヒト多能性幹細胞からの肺、気管支分化誘導系で発現上昇する分泌タンパク質を解析した。現在はそのタンパク質の発現パターンを解析中であるが、この分泌タンパク質を用いることで、ヒト多能性幹細胞からの肺及び気管支の分化過程をモニターする事ができ、将来的により機能的な分化細胞の作成検討時にこのタンパク質が有用なマーカーになる可能性があると考えられる。
8:LEAD  (P036-P041)

長 真優子(1, 2)、原本 悦和(1)、清水 真都香(1)、相木 泰彦(1)、樋口 久美子(1)
小沼 泰子(1)、青柳 秀紀(2)、豊田 雅士(3)、阿久津 英憲(4)、伊藤 弓弦(1)/
   (1)産総研 創薬基盤研究部門、(2)筑波大学 生命環境科学研究科、(3)東京都健康長寿医療センター、(4)国立成育医療研究センター研究所

低ホスファターゼ症とは、体内で骨の形成に関与するアルカリホスファターゼが生まれつき体内で合成されなかったり、活性が低かったりすることで、骨形成に異常をきたす病気である。特に、周産期や乳児期に発症した患者は致死率が高く、これまでにそのような患者に対する治療法は確立されていなかった。近年、間葉系幹細胞移植と骨髄移植を併用することで患者が救命されたケースが報告されており、現在国内においても間葉系幹細胞を用いた臨床研究が行われている。 しかし、間葉系幹細胞はソースや採取方法、培養方法の違いにより、性質が異なる。骨分化能に関しても大きな差異があり、またその理由も不明である。現在の技術では骨分化前に間葉系幹細胞がどれだけの骨分化能を有しているのかを検証できず、それ故2週間かけて実際に分化させて確認しなければならなかった。そこで、本研究では、治療の有効性を速やかに担保し、高い治療効果を実現することを目的とした遺伝子マーカーの探索を行った。その結果、間葉系幹細胞の骨分化能に相関して発現量が変化する遺伝子を見出した。 本発表では、この中から一つの遺伝子の解析結果について報告する。

新海 典夫(1)、Tony Kuo(1)、池田 誠(2)、高澤 昌樹(2)、Martin Frith(1)、小原 收(2)、Paul Horton(1)/
   (1)産総研 創薬基盤研究部門、(2)かずさDNA研究所

DNAの変異は、がんのメカニズムにおける中心的要素であり、それゆえに、近年のがんのシンケーシングデータの入手の容易化は、がんの治療や、抗がん剤の薬剤耐性において新たな知見を明らかにすることが期待されている。 一方、産総研は、ゲノム配列の情報を解析するための要素技術を開発している。この要素技術を既存のパイプラインに組み入れ、実用化することにより、従来得られなかったがんの変異を新たに検出できれば、がん治療への大きな貢献となる。 そこで、我々は体細胞変異を検出する為の解析フロー(かずさDNA研究所より提供)に新たに産総研のアラインメントツールLASTを導入したものを実装し、既存のアラインメントツール(BWA)を使用したデータによる検出結果と比較した。その予備的調査結果として、マッピングツールの違いが変異検出に差異をもたらすという結果を得た。これは、パイプラインにLASTを導入することにより、今までは検出できなかった変異を新たに検出できる可能性があることを示す。 また、我々はこれらの解析フロー等を可視化、配布容易化することにより利便性を高め、多くの研究者、技術者らが自ら解析に着手できる、また性能評価も行える環境を整えることにより、開発成果の社会へ還元することを目的として、ワークフローのgalaxy環境上での実装に関する研究開発も行った。

竹内 恒、福西 快文、久保 泰、堀本 勝久、夏目 徹/   産総研 創薬分子プロファイリング研究センター

現在の創薬の抱える最も大きな問題はリード創生にあり、薬効が不十分もしくは副作用を生じる化合物が臨床試験に突入することで、莫大な資金と時間の損失を引き起こしています。溶液NMR法は、細胞に近い水溶液中で分子間相互作用を解析可能な唯一の構造生物学的手法であり、従来のリード開発技術の限界を打破し高品質な化合物を創生する鍵となります。今回の発表では、この注目すべき解析技術、そして融合的技術革新を通じ創薬産業の活性化に取り組む私たち研究センターの活動を紹介させていただきます。

圷 ゆき枝(1)、久保田 智巳(1)、谷 修(1)、山崎 和彦(1)、古川 功治(1)、阪下 日登志(1)、立石 幸寛(2)、山口 智彦(2)、伊藤 真二(2)、生田目 一寿(2)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)アステラス製薬株式会社

シャーガス病やアフリカ眠り病はトリパノソーマ原虫が寄生することで発症する顧みられない熱帯病の一つである。 我々は抗寄生原虫薬開発のための産学官連携コンソーシアム「顧みられない熱帯病(NTD)治療のための創薬共同研究」の一員として、タンパク質立体構造に基づいた治療薬開発を行っている。 これまでにコンソーシアムでは幾つかの酵素をターゲットとして選抜し、それぞれに対する酵素活性阻害薬の開発を行ってきた。現在我々は脂質合成に関連する酵素の結晶学的解析を行い、阻害剤の合成展開に資する情報を提供している。 ターゲットとなる酵素はヒトでもオルソログが機能しているために、阻害剤は原虫の酵素とヒトの酵素を区別して作用する必要がある。従って、原虫とヒトの両方の酵素の立体構造を明らかにし、その差異を認識するような化合物デザインが求められる。 本発表では、先行しているヒトの酵素と幾つかの候補化合物との複合体結晶構造解析の結果を報告する。結晶構造から化合物と酵素との相互作用を解析したところ、静電的に相互作用しているアミノ酸残基は一つに限られており、主に基質結合ポケットの形状と疎水性により保持されていることがわかった。また、原虫酵素のモデリング解析から、化合物周辺の構造は原虫とヒトとでよく保存されていることが予想された。一方で、化合物周辺からさらに遠位にある保存されていないアミノ酸残基に向けた合成展開の可能性について議論することができた。

鈴木 祥夫(1)、千葉 靖典(2)、久野 敦(2) /   (1)産総研 健康工学研究部門、(2)産総研 創薬基盤研究部門

近年、糖質に関する研究が目覚ましく進歩しており、癌、免疫受容体、受精、発生・分化、感染症、バイオ医薬品開発等において、重要な役割を果たしていることが明らかとなっている。 糖質を標的とする診断薬等の開発には、糖質とそれを認識するプローブとの相互作用を定性・定量的に解析する必要があるが、糖質とプローブとの結合力は一般的な抗体-抗体反応と比較して弱いため、新たな評価技術の開発が求められている。 本研究では、これまでに行った蛍光分子プローブの開発で得られた知見を基に、シアノピラニル基の近接によるダンシル基の蛍光消光現象に着目した新規蛍光センサーを開発し、蛍光の”on-off”によるレクチンの糖鎖検出を試みた。 その結果、レクチンをダンシル基で標識化(化合物I-D)、および糖鎖をシアノピラニル基で標識化(化合物II-P)することにより、糖鎖-レクチン間の相互作用をダンシル基-シアノピラニル基間の距離に依存した蛍光強度の変化を用いて検出することに成功した。 また、磁気ビーズ表面にレクチンおよびダンシル基を修飾し、種々の濃度のシアノピラニル基で修飾したマルトースを添加したところ、0.1 nMのマルトースを検出することに成功した。 さらに、糖タンパク質と非糖タンパク質との構造の違いを識別することに成功した。 以上のことから、今回、開発した技術を用いることにより、糖質の高感度検出が可能になると考えられる。

清水 明(1)、佐藤 隆(1)、舘野 浩章(1)、久保田 智巳(2)、櫻田 紀子(1)、成松 久(1)、千葉 靖典(1)/
   (1)産総研 創薬基盤研究部門、(2)産総研 バイオメディカル研究部門

【背景と目的】近年、マメ科レクチンに属するノダフジレクチン (Wisteria floribunda agglutinin, WFA) が様々ながんのバイオマーカー検出に有効であることが報告されている。また佐藤らはノダフジ種子よりWFAをコードする遺伝子のクローニングと大腸菌発現系の構築に成功した。 さらに二量体形成への関与が示唆されている272残基目のCysをAlaに置換した変異体 (C272A) がLacdiNAc (GalNAcβ1,4GlcNAc) を強く認識することを明らかにした。そこで我々はWFAの産業利用のためより効率的な生産系の開発を目的とし、高発現が期待される酵母を用いた組換え型WFAの発現系を検討した。 【方法・結果】C272A変異に加え、WFA自身のN-型糖鎖付加部位である146残基目のAsnをGlnに置換した二重変異体の遺伝子を作製した。この遺伝子をHisタグもしくはHisおよびFLAGタグを有する分泌発現ベクターに組込み、メタノール資化性酵母Ogataea minuta (O. lindneri) へ導入した。 大腸菌では培養1 Lあたり0.3 mg程度の発現であったのに対し、酵母では培養1 LあたりHisタグWFAを10 mg精製することが出来た。一方His-FLAGタグが付加した組換え体は酵母でも4 mgの標品しか得られず、FLAGタグの付加が酵母でのWFAの発現に影響を与えることを示唆している。 精製した組換え体の糖鎖認識能を糖鎖アレイで解析した結果、大腸菌組換え体と同様にLacdiNAcを強く認識することが示された。またLectin-ELISA法を用いてLacdiNAc型糖鎖を有するタンパク質の検出に成功した。以上より、酵母由来の組換え型WFAはバイオマーカー検出のためのツールとして有効活用が期待できる。

七里 元督、萩原 義久/   産総研 健康工学研究部門

マラリア感染症は全世界で年間2億人以上の患者が発生し、66万人が死亡する最も恐ろしい感染症である。 決定的な治療法は未確立であるが、ビタミンEの欠乏でマラリアに抵抗性を持つことが知られていた。 そこで血中ビタミンEが枯渇するマウスにマラリア原虫を感染させたところ、耐性を獲得することを認めた(Herbas MS et al., Am J Clin Nutr. 2010)。 ビタミンEは食物に豊富に含有されるため、マラリア治療としてビタミンEの制限を利用することは困難であった。 一方、高脂血症治療薬のプロブコールに血中ビタミンE低下作用があることを見出していた(J Nutr Biochem.2010)。 以上の知見を元に、プロブコールをマウスに前投与しマラリア感染を行ったところ、マラリア原虫の増殖を抑制し、マウスの生存率を改善できることを見出した(PLoS One. 2015)。 本知見はマラリア感染症に対する新しい治療戦略となる可能性がある。
9:創薬  (P042-P043)

高原 翼(1,2)、川崎 陽久(1)、鈴木 孝洋(1,3)、坂田 一樹(1,2)、伊藤 薫平(1,2)、辻 昭久(4)、石田 直理雄(1,2)/
   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)筑大院 生命環境、(3)株式会社シグレイ、(4)日本アドバンストアグリ株式会社

現代において、認知症をはじめとした神経変性疾患は、非常に深刻な社会問題となっている。高齢化社会の到来に伴い、これら疾患の治療や予防等の対策を確立させることが急務である。 神経変性疾患の研究に用いられるマウス・ラットでの動物実験は、実験結果が出るまでに多大な時間が費やされるばかりか、近年は動物愛護の観点からも実験が行いにくくなっている。 そこで我々は、ヒトの神経変性疾患ゴーシェ病を再現したショウジョウバエを作製した(PLoS One. 2013 Aug 2;8(8):e69147, Labio21. 2014, No55, pp.21-15)。 さらにショウジョウバエに低栄養ストレスを与える事で、約3日間という短期間で寿命測定する新しい系(ASアッセイ: Accelerated Starvation assay)を開発した。 これらの系や最新の行動評価法を組み合わせることで、神経変性疾患に効果的な薬剤の選別を行っている。これら、最新のスクリーニング結果について報告する。

福西 快文(1)、真下忠彰(2)、和田 光人(3)/   (1)産総研 創薬分子プロファイリング研究センター、(2)株式会社 情報数理バイオ、(3)富士通株式会社

myPrestoは、化合物データベース作成、タンパク質分子シミュレーション、タンパク質ポケット探索、タンパク質―薬物ドッキング、ドッキングスクリーニング、類似化合物探索、分子編集、物性予測、合成容易性予測を行うソフトウェアである。 myPrestoは、無償でソース公開されており、広く企業に於いて唯一無償利用可能な創薬統合ソフトウェアである。 myPrestoは、最新のGPUが利用可能なタンパク質分子シミュレーション(翻訳後修飾アミノ酸等の利用も可能)、世界最高精度のタンパク質ポケット探索、世界最速のタンパク質―薬物ドッキング、選択性も考慮したドッキングスクリーニング、母核ホッピング可能な類似化合物探索、世界有数の合成容易性予測の特徴を持つ。 現在、複数の製薬企業で用いられている他、グラフィックソフト、クラウドサービス向けソフトウェアなどでの商品展開にも採用されている。
10:疾患  (P044-P045)

安本 佑輝(1,2)、橋本 千秋(1,3)、中尾 玲子(1)、山﨑 春香(1,4)、廣山 華子(1)、根本 直(1)
山本 幸織(1)、桜井 睦(5)、大池 秀明(1,5)、和田 直之(2,3)、野呂 知加子(4)、大石 勝隆(1,2,6)
/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)東理大院 理工学研究科、(3)東理大 理工学部
(4)日大 生産工学部、(5)食総研 食品機能研究領域、(6)東大 新領域

食事性肥満は生活習慣病の大きな発症要因となっている。食事性肥満には、食事内容のみならず、食事のタイミングが大きく影響していることが知られている。 給餌時間を夜間の活動期のみに制限したマウスでは、自由摂食させたマウスに比べて高脂肪食による肥満が顕著に抑制される(Hatori et al. Cell Metab 2012)。 さらに、暗期制限給餌と明期制限給餌で肥満度を比較すると、休息期の制限給餌によりマウスの体重は有意に増加する(Arble et al. Obesity 2009)。 本研究では、1週間の暗期制限給餌と明期制限給餌が食餌性肥満に与える影響について、そのメカニズムを明らかにすることを目的とした。 たった1週間の明期制限給餌により、活動量の低下と過食に伴う体重増加が認められ、そのメカニズムとしては、高インスリン血漿による脂質合成の亢進やレプチン抵抗性の惹起、代謝性末梢臓器での代謝リズムの脱同調が関与している可能性が明らかとなった。

中尾 玲子(1)、山﨑 春香(1,2)、野呂 知加子(2)、大石 勝隆(1,3,4) /   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)日本大学 生産工学部 応用分子化学科、(3)東京理科大学大学院 理工学研究科 応用生物科学専攻、(4)東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻

マウスは低栄養状態においてエネルギー消費を抑制するために体温を低下させることが知られている。 我々はこれまで、低栄養を誘導するケトン体食(高脂肪低炭水化物食)を摂取したマウスでは1日の平均体温が普通食の場合に比べて有意に低下し、特に1日の中でも活動期(暗期)後半から休息期(明期)前半に体温が低下する日内休眠が観察されることから、低栄養時における時刻依存的な体温維持メカニズムが存在し、体内時計が関与する可能性を示してきた。 我々は骨格筋の熱産生機能に着目し、その役割について検討を行った。 坐骨神経切除によって筋萎縮を誘発し骨格筋の代謝状態を変化させたマウスにケトン体食を摂取させたところ(筋萎縮+ケトン体食群)、対照マウス(ケトン体食群)と比較して有意に体温が低下したことから、低栄養時における体温維持には骨格筋における熱産生が重要であると考えられた。 さらに我々は、DNAマイクロアレイにより、筋萎縮によって発現量が低下する骨格筋特異的な熱産生関連分子Slc25a25を見出した。 Slc25a25遺伝子は暗期の始めをピークとする日周発現を示し、筋萎縮によって発現リズムが減衰し、ケトン体食負荷によって発現が誘導された。低栄養時の体温維持には骨格筋による熱産生が重要であり、筋萎縮に伴って発現量が低下する骨格筋特異的日周発現遺伝子Slc25a25がその責任分子である可能性が示された。
11:がん  (P046)

三澤 雅樹(1)、早野 将史(2)、清水 森人(1)、林 和彦(1)、佐藤 昌憲(2)/   (1)産総研 健康工学研究部門、(2)駒澤大学 医療健康科学部

【背景と原理】X線照射下で金ナノ粒子(GNP)から光電子やAuger電子が発生することを利用し、放射線治療の治療効果を高める放射線増感剤の研究を行っている。発生した電子は溶媒中の酸素を励起し、活性酸素種を発生させる。
【実験方法】5~80nmの金コロイドに、活性酸素試薬(APF)を添加し、X線照射前後で蛍光強度を測定した。また、同じ金コロイドをHeLa細胞培地に混合し、治療用X線を照射し、細胞の生存率を評価した。また、金ナノ粒子の細胞応答を調べるため、細胞内酸化ストレス、スーパーオキシド、NO発生を蛍光試薬で測定した。
【結果とまとめ】金質量濃度56-85μg/mlの範囲で、水のみの場合に比べ、5~8倍のROS発生が見られた。また、GNP取り込みにより、細胞質内で酸化ストレス及びNO産生の上昇、核近傍でのスーパーオキシド生成が認められた。GNPの細胞内取り込み、X線照射による細胞内ROS産生によって酸化ストレスが増加した結果、1.1~1.43の増感率が得られたと考えられる。
12:免疫  (P047-P050)

神谷 知憲(1)、渡邊 要平(1)、牧野 聖也(2)、狩野 宏(2)、辻 典子(1)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)株式会社 明治

乳酸菌はあらゆる生物の消化管に存在する共生細菌である一方、ヨーグルトや生菌製剤といったプロバイオティクスとして用いられるなど、ヒトにとって有用な細菌である。我々は、プロバイオティクスとして用いられる乳酸菌が宿主の免疫系の機能向上の評価を行い、この度はその評価方法、及び内容を報告する。 免疫系の中核を担うT細胞に対する乳酸菌の効果を評価するため、以下のマウスを用いたin vivo/vitro試験を実施した。 評価対象の乳酸菌をマウスに経口投与するin vivo試験にて、投与マウスのパイエル板中のリンパ球に対する効果を解析した。その結果、T細胞が産生する抑制性サイトカインであるIL-10、感染防御に働くサイトカインであるIL-17の産生量が有意に上昇していることが認められた。また、炎症性サイトカインであるIFN-γの産生量は低下していることが明らかとなった。また、未成熟T細胞と抗原提示細胞を乳酸菌存在下で共培養するin vitro試験では、評価対象の乳酸菌の株毎にIFN-γの産生量が異なることが確認された。 これら評価結果をもとに選択した疾患モデルにて、プロバイオティクス乳酸菌のさらなる機能評価を実施し、産業応用に繋げていく。

辻 典子(1)、Suabjakyong Papawee(1)、渡邉 要平(1)、神谷 知憲(1)、木元 広実(2)、考藤 達哉(3)
/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)農研機構 畜産草地研究所 、(3)国立国際医療研究センター 国府台病院 肝炎 免疫研究センター

Non-alcoholic steatohepatitis (NASH) is a detrimental process of diabetes to develop into hepatocellular carcinoma. This inflammatory disease is becoming increasingly popular among obese population associated with high-fat diet, especially in developed countries. In the present study, we show that oral administration of a lactic acid bacterium (LAB, Lactococcus lactis subsp. cremoris C60) prevents inflammation and steatosis in murine liver, using an experimental model of NASH.

辻 典子(1)、渡邉 要平(1)、神谷 知憲(1)、福井 竜太郎(2)、三宅 健介(2)
/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門 、 (2)東京大学 医科学研究所 感染遺伝学分野

Lactic acid bacteria(LAB) induce IFN-β secretion by BMDCs via TLR3 and TLR9. Induction of interferon-β (IFN-β) by LAB strain, KK221, benefits the anti-inflammatory response. The aim of this study is to clarify how IFN-β induced by LAB impacts T cell differentiation and immune homeostasis. 1)The amount of IFN-β and IL-12 secreted by DCs in response to KK221 was correlated with the amount of dsRNA. 2)IFN-β induced the gene expression of IRF1 and IRF7, which induce IL-12p35 gene transcription. 3)LAB induced Th1 cell differentiation through IFN-β production by DCs. 4)LAB administration suppressed Th2 immune response via TLR3 in vivo.These results suggest that Th1 polarization and Th2 suppression due to TLR3-mediated IFN-b production may confer anti-allergic or anti-inflammatory activity by commensal or probiotic LAB.

吉田 圭介(1)、前川 利男(1)、Claire R. Guillet(2)、井上 健太郎(3)、白鬚 克彦(2)、岡田 眞里子(3)、石井 俊輔(1)
/   (1)理研 筑波研究所、(2)東京大学 分子生物学研究所、(3)理研 IMS

免疫系には、非特異的に病原体を認識する"自然免疫系"と特異的に病原体を認識する"獲得免疫系"の二つが存在する。従来、免疫記憶は獲得免疫系のみが有すると考えられてきたが、昨今の報告から、自然免疫系にも免疫記憶が存在する可能性が示唆されている。我々は、エピジェネティック記憶を介してヘテロクロマチン形成を制御する転写因子ATF7がこのような現象に関係するのではないかと考え、自然免疫系に属する免疫細胞であるマクロファージについて解析を行った。その結果、ATF7は自然免疫遺伝子のプロモーター領域に結合しており、エピジェネティック修飾H3K9me2を誘導することで転写を負に制御していることが分かった。また、ATF7がLPS処理などの自然免疫ストレスによって染色体上から解離することで、標的遺伝子のH3K9me2レベルが低下し、基底発現量が上昇した。さらに、この変化は数週間の長期に渡って維持された。以上の結果から、自然免疫系にも免疫記憶が存在し、ATF7活性化に伴って病原体に対する抵抗性が非特異的に亢進することが明らかになった。
13:生体材料  (P051-P056)

王 秀鵬(1)、李 霞(1)、伊藤 敦夫(1)、吉行 和子(1)、渡邉 要平(2)、十河 友(1)、大野 忠夫(3)、辻 典子(2)/   (1) Health Research Institute, AIST、 (2) Biomedical Research Institute, AIST、 (3) School of Life Dentistry at Tokyo, The Nippon Dental University

Appropriate adjuvant is crucial for cancer immunotherapy due to the immunosuppressive environment of the growing cancer. Recent emphasis has been on particulate adjuvant loaded with pathogen associated molecular patterns (PAMPs) as cancer immunotherapy. The particulate adjuvant mostly acted as a carrier (vehicle) of PAMPs. Herein, a solo hollow mesoporous silica nanosphere markedly improved anti-cancer immunity, significantly improved both Th1 and Th2 immunity, significantly improved effector memory CD4+ and CD8+ T cell population in bone marrow in vivo. The mesoporous silica nanosphere is a promising adjuvant, because it functions as both carrier of antigen and immune potentiator.

中山 敦好、山野 尚子、川崎 典起、安藤 仁、上垣 浩一/   産総研 バイオメディカル研究部門

【はじめに】生分解性材料は使用中においても分解が進行するため材料としての信頼性に乏しく、その解決には生分解のスイッチング機能が重要である。 そのトリガーとして「光」の活用を検討した。光触媒含有生分解性複合材料はすでに多くの研究報告があるが、その目的は光分解と生分解の相乗効果を狙った「分解の促進」である。 我々は可視域にまで吸収帯を持つ改質光触媒の弱い酸化力に注目し、その作用を抗菌力として利用することで今までの考え方とは正反対に、光を「生分解の抑制」に活用することを考えた。
【実験】光触媒として昭和電工製ルミレッシュ(Cu/TiO2)をカプロラクトン/乳酸系生分解性材料に添加し、フィルムとし、生分解性はリパーゼ及び土壌を用いて評価した。
【結果】遮光下では光触媒量に関わりなく土壌表面で生分解は進行し、1ヶ月で半減した。 土壌中ではさらに速く分解が進行した。一方、太陽光暴露下(平均照度2200lx)では光触媒含有率によって生分解に差が生じ、0.5wt%以上の含有で分解は大きく抑制された。リパーゼ加水分解でも同様の傾向であった。 また、光触媒含有フィルムの抗菌性は0.3wt%以上で大きな抗菌活性が認められた。 以上のことから、可視域に吸収帯を持つ改質光触媒を含む生分解性樹脂では露光により生分解の抑制現象が現れるが、太陽光暴露により発現する弱い酸化力が抗菌性、酵素阻害をもたらすためであると考えられる。

伊藤 敦夫(1)、十河 友(1)、山崎 淳司(2)、 相澤 守(3)、尾坂 明義(4)、早川 聡(4)、菊池 正紀(5)、山下 仁大(6)
田中 優実(7)、田所 美香(1)、Lídia Ágata de Sena(8)、Fraser Buchanan(9)、大串 始(1)、Marc Bohner(10) /
  (1)産総研 健康工学研究部門、(2)早稲田大学 創造理工学部環境資源工学科、(3)明治大学 理工学部応用化学科、(4)岡山大学 自然科学研究科生命医用工学専攻、(5)物質・材料研究機構、(6)東京医科歯科大学 生体材料工学研究所、(7)東京理科大学 工学部 工業化学科、(8)Instituto Nacional de Metrologia, Qualidade e Tecnologia-Inmetro, Diretoria de Metrologia Científica e Industrial-Dimci, Divisão de Metrologia de Materiais-Dimat, Brazil、(9)Queen's University, School of Mechanical and Aerospace Engineering, UK、(10) RMS Foundation, Switzerland

医療機器の承認申請には、標準規格での評価が必要なため、材料開発と共に規格開発も重要である。我々は吸収性セラミックの骨内吸収性をある程度予想可能なin vitro試験法を開発し、国際ラウンドロビンテストを行った。 ラウンドロビンテストでは相対密度60%台(TCP60)と70%台(TCP70)のミクロ気孔りん酸三カルシウム(TCP)、Mg含有量1.0、1.7、3.4mol%で相対密度60%台のミクロ気孔マグネシウム含有TCP(MgTCP)、相対密度20%台と30%台のマクロ気孔TCPを使用し、酢酸緩衝液(pH5.50)、トリス緩衝液(pH7.30)、フタル酸緩衝液(pH4.01)中での溶解速度を測定した。 溶解速度をTCP60又はMgTCP(1.0.mol%)の溶解速度で除した相対溶解速度を評価指標とした。ミクロ気孔TCPとMgTCPを家兎大腿骨に埋入して吸収量を計測し、TCP60またはMgTCP(1.0.mol%)の吸収量で除した相対吸収量を求め、相対溶解速度と比較した。 その結果、ミクロ気孔TCPとMgTCPの相対溶解速度は機関間でよく一致し、TCP70のTCP60に対する骨内での相対吸収量とも一致した。MgTCP(1.0 mol%)の溶解速度で規格化したMgTCP(1.7 mol%)とMgTCP(3.4 mol%)の相対溶解速度も骨内での各MgTCPの相対吸収量と一致した。 【文献】A. Ito et al., Acta Biomater,25,347-355 (2015)

柳澤 洋平(1)、村井 伸司(1)、藤井 賢吾(1)、六崎 裕高(2)、原 友紀(3)、十河 友(4)、廣瀬 志弘(4)
橋本 幸一(5)、柳 健一(5)、長谷川 雄一(5)、大矢根 綾子(6)、伊藤 敦夫(4)、山﨑 正志(3,7)
/   (1)筑波大学大学院 人間総合科学研究科、(2)茨城県立医療大学 保健医療学部医科学センター整形外科、(3)筑波大学 整形外科
(4)産総研 健康工学研究部門、(5)筑波大学 つくば臨床医学研究開発機構(T-CReDO)
(6)産総研 ナノ材料研究部門、(7)筑波大学附属病院 未来医工融合研究センター

皮膚貫通して骨に刺入するネジ、及びネジを固定する体外器具を用いる創外固定術は、有効な低侵襲骨折治療法ではあるが、皮膚とネジの隙間のトンネル感染が問題になる(臨床での感染率10-53%)。 そこで、皮膚と骨の両方を再生し、骨固定と感染防止を促進することを期待して骨伝導性のアパタイト(Ap)と線維芽細胞成長因子(FGF)-2を表面に形成した創外固定チタンピン(Ap-FGFピン)を、産総研、筑波大学、茨城県立医療大学の共同で2002年から開発してきた。 製造方法開発、動物実験での概念実証を経た後、臨床応用するために製造器具、製造条件、アパタイト-FGFの品質、FGF含有量評価法等の検討、バリデーションの実施、FGFのバイオアッセイ法の高度化を行い、品質を安定化した。 以上を元にAp-FGFピンの製造方法に関するGMP文書(A4・379ページ)が作成された。このGMP文書と、筑波大学附属病院セルプロセシングファクトリー(CPF)のGMP文書を融合し、Ap-FGFピンの臨床研究用GMP文書とした。 2014年2月から、片持ち式創外固定が適用となる橈骨遠位端骨折症例を対象に、筑波大学にてAp-FGFピンの安全性確認のための少数例での臨床研究が開始された。本発表では、その臨床試験結果を中心に報告する。
【謝辞】本研究は厚生労働省革新的医薬品・医療機器・再生医療等製品実用化促進事業の補助金を受けた。

馬場 照彦、高木 俊之、金森 敏幸/   産総研 創薬基盤研究部門

基板と脂質膜との間に内水相を存在させ得るテザード脂質膜は、機械的強度に乏しい脂質膜の安定性を固定化によって高める利点があるほか、イオンチャネルや膜貫通型タンパク質の関わる輸送機能の評価において有用とされている。 これまでに開発した部分フッ素化リン脂質やテトラエーテル型リン脂質 について、これらのテザード脂質膜形成性を観察した。 気水界面や水中で安定な膜を形成する部分フッ素化不飽和ホスファチジルコリンは、金基板表面に作製した自己組織化膜を介して、安定なテザード脂質膜も形成可能であることをインピーダンス測定により確認した。 部分フッ素化リン脂質膜と非フッ素化リン脂質膜の比較では、KCl溶液を使用した場合、I-V特性に対する膜内の局所的な疎水性の差異は殆ど反映されず、ほぼ同様な挙動を示した。

藤田 聡史、長崎 玲子/   産総研 バイオメディカル研究部門

動物組織や細胞集団中の1細胞毎の振舞いを制御し品質管理をする上で、1細胞解析技術に加えて、1細胞毎にシグナルを導入し、その振舞いを制御する技術開発が重要である。 我々は、これまでより固相化された物質を細胞との接触面から細胞に送り込む技術開発を進めてきた。
本発表では、この技術を応用した1細胞核酸遺伝子導入技術を紹介する。 負電荷を帯びた基板表面を酸素プラズマ処理により作成し、その界面にカチオン性リポプレックスを強固に結合させ、細胞を播種すると、核酸がエンドサイトーシス等により取り込まれる。 さらにPEGをグラフトしたガラス表面とインクジェット印刷技術を用いた新たな細胞接着パターン作製技術を開発し、1細胞毎に異なる遺伝子を導入する事に成功した(1, 2)。 また、磁力によるコントロールが可能な鞭毛型マイクロマシンの界面に上記技術を用いて遺伝子を固相化し、1細胞DDS技術の開発も進めている(3, 4)。 これらの技術は、新たな創薬開発、診断、毒性評価やDDS技術として有用であり、今後さらなる技術開発を進める。
(1) Fujita, S. et al., Lab Chip,(2013)13,77.
(2) 細胞接着領域のマイクロパターンを有する細胞固定化基板の製造方法, 特開2012-187072.
(3) Qiu, F. et al., Adv. Funct. Mater.,(2015)25,1666.
(4) Qiu, F.et al., Sens. Actuators B Chem.,(2014)196,676.
14:生体計測  (P057-P065)

加藤 薫、平野 和己、波平 昌一、佐々木 章、野田 尚宏/   産総研 バイオメディカル研究部門

超解像光学顕微鏡を用いると、光学顕微鏡の分解能(約200nm)を越え、さらに小さな構造を、50-100nm程度の分解能で観察できる。超解像光学顕微鏡は2014年度にノーベル賞の対象となると、急速に進歩し始めた。単に小さな構造を見るだけではなく、組織や個体の内部の微細構造を見るのに適した手法や、高速での画像取得に対応した方法や、簡便な方法、微細構造を見ることに特化した方法などが実用化された。
本ポスターでは様々な超解像観察手法を、我々自身の試料を用いてサマリーし、特徴を示し、超解像顕微鏡を用いた、我々の研究を紹介する予定である。

森川 善富/   産総研 集積マイクロシステム研究センター

動作を妨げることなく長時間の連続計測が可能な耳内脈波計を用いて、我々は左右両耳内の脈波データを心電波形と共に同時計測しています[1]。 このウェアラブル耳内脈波計は、ネックバンド型保持方式を採用し、様々な場面での応用展開が考えられる試作機器です。現在は、心電波形、3軸加速度、温湿度に加え、左右両耳内の脈波データを同時計測できます。無線でデータを転送するため、動きを伴う場面でも動作を妨げることなく計測可能です。 我々は耳内脈波計を用いて左右両耳内の脈波データを同時計測し、左右耳内脈波の相関性解析、非対称性解析を進めていますので、この取り組みをご紹介します。
【謝辞】本研究の一部は、JSPS科研費 25540139の助成を受けたものです。
【参考文献】[1]森川善富:耳内脈波データの非対称性解析に向けて、平成26年度 第14回産総研・産技連LS-BT合同研究発表会(2015)

合谷 賢治、渕脇 雄介、田中 正人、杉野 卓司、大家 利彦、安積 欣志/   (1)産総研 健康工学研究部門、(2)産総研 無機機能材料研究部門

健康診断の支援技術としてPOCT(Point Of Care Testing)機器の市場拡大が期待されている。 先進国においては、技術開発が活発化しており、生活習慣病対策に非常に有効な手段として展開されつつある。 一方で、発展途上国では実情が異なり、特に経済的な理由で十分な医療環境が整備されていない地域へは、低コストで健康診断キットを提供出来ないことが課題となっている。 そこで米国(ハーバード大)を中心に安価な紙を用いた医療診断チップが考案され、本研究グループでは紙と透明フィルムを組み合わせた安価なハイブリッドチップが開発された。 本チップは、一滴の血液と展開液をフィルムに滴下するだけで血漿成分を抽出し、界面張力によって抗体を固定化した反応場まで滲み出させる。 すなわち、自然エネルギーのみを利用しており煩雑な送液装置等が不要である。 さらにチップ自体は1-3円で作製されており、定性的検査においては圧倒的に少ないコストで導入が可能である。 本報告はそのハイブリッドチップの利用を想定した、血液の多項目並列検査を実現するためのマイクロピペットの開発を目指し、試作機を設計・作製した。 マイクロピペットの駆動ポンプには、ドイツフラウンフォファーIPAと共同開発した、軽量で消費電力の少ないナノカーボン高分子アクチュエータピペットを採用することで装置全体を小型に設計し、携帯性の良いデザインを目標とする。

新田 尚隆(1)、三澤 雅樹(1)、白崎 芳夫(1)、林 和彦(1)、沼野 智一(2)、兵藤 行志(3)、藤原 夕子(4)、星 和人(4)
/   (1)産総研 健康工学研究部門、(2)首都大学東京 人間健康科学研究科、(3)産総研 人間情報研究部門
(4)東京大学 医学部 付属病院 ティッシュ・エンジニアリング部

音速は組織性状を反映し、弾性や含水量の評価指標として生体内での測定が望まれている。 これまで、MR画像の幾何学的な距離情報と超音波画像の伝搬時間情報を組み合わせ、音速の生体内測定を可能にするマルチモダリティ法の検討を進めてきた。 本研究ではその一応用として、再生軟骨の弾性評価に適用したので報告する。
全ての処置は、倫理委員会による承認後に実施された(東大#622、産総研ヒ2013-145及び動2013-190)。 10週齢ラット(♂)の背部皮下にヒト軟骨細胞を播種したPLLA足場材を移植して再生軟骨(#1(100:0))を作製し、麻酔下にて、2週及び8週後における生体内の音速Cvivoを測定した。 比較のため、軟骨細胞と線維芽細胞の混入比を変えた再生軟骨(#2(10:90)、#3(1:99)、#4(0:100))、及び加熱によりviabilityが低下した軟骨細胞を用いた再生軟骨(#5(100:0))も併せて作製し、Cvivoを測定した。
摘出した再生軟骨に対して圧縮試験による弾性率Elastic modulusの測定を行い、Cvivoと比較した結果を図1に示す。Cvivoと圧縮弾性率は正の相関(R2 = 0.87)を示しており、今回の再生軟骨においてCvivoは圧縮弾性率の影響を強く受けていることが分かった。

谷川 ゆかり(1)、川口 拓之(1)、岡田 英史(2)、河野 理(3)、藤井 宏之(4)、橋本 康(2)、吉永 哲哉(3)、大川 晋平(5)、星 詳子(6)
/   (1)産総研 人間情報研究部門、(2)慶應義塾大学、(3)徳島大学、(4)北海道大学、(5)防衛医科大学校、(6)浜松医科大学

近赤外光を用いた拡散光トモグラフィ(Diffuse Optical Tomography : DOT)は、生体組織の酸素化度などの生体機能に関連する情報の定量的3次元イメージングが可能な技術であり、悪性腫瘍組織の確定診断など、X線CTやMRIだけでは困難な診断への適用が期待されている。 しかし光はX線などとは異なり、生体組織により強く散乱され、弱く吸収されるため、DOTの実用化のためには、生体組織内の光伝播を高精度で解析するための数理モデルと、それに基づく画像再構成アルゴリズムの開発が必要である。 この画像再構成において初期値となる光学特性値は、再構成の結果に大きく影響するため、実際の生体組織に近い、組織毎の標準的なin vivoでの光学特性値が必要不可欠である。 本研究では、生体組織の標準的な光学特性値をin vivoで求めることを目的として、ラット頭部など実際の生体組織を対象にフェムト秒パルスレーザと高速光検出器を用いて時間分解計測を行った。 先端の被覆をはいで約100μm程度の太さにした送受光ファイバは頭部の各組織のみを計測できるよう、1.25mm離して設置し、脳表からマイクロメータを用いて脳内に0.25mmないし0.5mm程度差込んでは計測を繰り返し、時間分解計測を行った。 さらにその結果にモンテカルロシミュレーション結果とのフィッティングを行い、光学特性値を求めた。

脇田 慎一(1)、南 豪(2)、南木 創(2)、佐々木 由比(2)、栗田 僚二(3)、丹羽 修(4)、時任 静士(2)/   (1) 産総研 健康工学研究部門、(2) 山形大学大学院理工学研究科・山形大学有機エレクトロニクス研究センター、(3) 産総研 バイオメディカル研究部門、(4) 埼玉工業大学先端科学研究所

有機エレクトロニクス技術を用いたバイオセンサは柔軟性があり、外部給電機能などの集積化や、他品種・小規模生産に特長がある。モバイルヘルスケアや創薬支援技術として期待されている。 有機トランジスタは耐水性に課題があるが、我々は、溶液中で安定に動作させるExtended-gate構造を有するFETバイオセンサを開発することにより、再現性の良いセンサ特性を得ることができた。1) ウェアラブルバイオセンサの開発を目標に、非侵襲ストレスセンサの構築を検討した。唾液中に含まれるストレス研究対象物質を対象に、各種バイオセンサの基礎検討を行ったところ、再現性の良いセンサ特性を得ることができた。2)
1) T. Minamiki, T. Minami, R. Kurita, O. Niwa, S. Wakida, K. Fukuda, D. Kumaki, S. Tokito, Applied Physics Letters, 104, 243703 (2014).
2) T. Minamiki, T. Minami, Y. Sasaki, R. Kurita, O. Niwa, S. Wakida, S. Tokito, Anal. Sci., 31, 725 (2015).

上平 安紘(1)、池羽田 晶文(1)、百瀬 晶子(2)、三浦 理代(2)/   (1)農研機構 食品総合研究所、(2)女子栄養大学

食品のグリセミック・インデックス(GI)を測定するためには、複数の健常人に対し、試験食摂取後2時間までの血糖値を測定する試験を何度も実施する必要がある。採血を必要としない非侵襲血糖値測定法は長年研究されているが、未だ米国FDAや日本薬機法の認可を得た機器はない。皮下埋入型の低侵襲センサーは既に認可を得ているが、医師の処方と管理を必要とし、健常人に用いることはできない。 近赤外分光法を用いた非侵襲センサーの場合、生体内のグルコースが微量であること、グルコースの微弱な吸収が他の成分の強い吸収に埋没することなどが根本的な障壁となるため、複数の波長の吸光度を測定し、多変量解析により定量を試みるのが一般的である。 本研究では、391回に及ぶ2時間糖質負荷試験データを解析することにより、近赤外短波長領域において、①吸光度変化が血糖値変化と連動する波長が存在し、②その波長が試験ごとに変動すること、③その波長を利用した非侵襲血糖値推定法を用いてGI測定の採血回数を削減する方法について報告する。

東本 翼(1,2)、菅原 順(2)/   (1)筑波大学、(2)産総研 人間情報研究部門

【緒言】大動脈や頸動脈などの中心動脈は高い伸展性を有する。そのため、心収縮に伴い動脈壁は受動的に伸展し、心臓にかかる負荷(左室後負荷)を軽減する。先行研究によると、有酸素運動能力が高い者ほど動脈伸展性が高い(動脈硬化度が低い)ことが報告されている。しかし、先行研究で用いられている動脈硬化度の評価方法、頸動脈-大腿動脈間脈波伝播速度(cfPWV)は心臓から遠位の動脈硬化度を反映している。したがって、左室後負荷と密接に関連する近位大動脈の動脈硬化度と有酸素性運動能力との関係は明らかではない。そこで、本研究では、近位大動脈の動脈硬化度評価の重要性、必要性を明らかにすることを目的とし、有酸素性運動能力との関連性を検討することとした。
【方法】幅広い年代の様々な運動習慣を持った健康な成人男性82名を対象に、有酸素性運動能力と動脈硬化度を測定した。近位と遠位大動脈の動脈硬化度評価には心臓-頸動脈間脈波伝播速度(hcPWV)およびcfPWVを用いた。
【結果】hcPWVの方がcfPWVより有酸素性運動能力と強い相関関係を示した。フォワードステップ重回帰分析により、hcPWVは有酸素性運動能力を決定する因子として抽出された。
【結語】 脈波伝播速度法により動脈硬化度の部位特性を評価し、心肺機能との関連を検討した。近位大動脈の硬化度と心肺機能との関連性が明らかとなり、当該部位の動脈特性評価の意義・有用性が示唆された。

廣山 華子、安本 佑輝、大石 勝隆、根本 直/   産総研 バイオメディカル研究部門

NMR-メタボリック・プロファイリング(MP)法はNMR分光計を計測的に用いて簡便に実施できる代謝状態把握技術である。 通常、体液や果汁の希釈溶液を用いるが、今回我々は生体組織を可能な限り簡便に処理して有用情報が得られるかを試みたので報告する。
マウス肝臓における代謝リズムを変化させる目的で、マウス(6週齢、雄、C57BL/6J)に、覚醒時間帯のみまたは睡眠時間帯のみに摂食(高脂肪高ショ糖食、1週間)させ、両群について各種データを取得した。 各群2時刻でサンプリングを行い、肝臓と骨格筋を直ちに液体窒素にて凍結した。 それぞれにEDTA含有リン酸重水緩衝液を加えて破砕し、遠心して上清を得た。 さらに内部標準を加え3倍に希釈してNMR試料とした。500MHz分光計を用いて溶媒前飽和1Dスペクトルを取得し、絶対値微分処理を行い、数値化して主成分分析にてパターン認識に供した。
240変数から一次解析を開始し、変数選択を行ったところ肝臓試料で第1主成分軸に沿った2つの明確なクラス形成を見出した。 この事により、肝臓においては摂食のタイミングの違いが主要代謝のリズムに影響している結果が得られたが、骨格筋においては、摂食タイミングの違いは、代謝リズムに対して大きな影響を与えなかった。
15:診断  (P066-P073)

藤原 正子(1) 、安藤 一郎(1)、佐藤 博(1)、佐藤 慶祐(2)、根本 直(3)
/   (1)東北大学大学院 薬学研究科、(2)(医) 宏人会長町クリニック、(3)産総研 バイオメディカル研究部門

三次予防とはいわゆる予防とは少し異なり、重症化した疾患の進行防止や復帰のための治療を指し、超高齢化社会において大きな役割を担う概念です。 糖尿病性腎症の予後は悪く、最終救命治療としての血液透析導入後も病態の進行は深刻なものがあります。 透析は4~5時間の治療の間に、尿毒素だけでなく有用なアミノ酸、ホルモン、ビタミンなども区別なく除去しています。 これまで我々はNMRメタボロミクスを用いて透析中の代謝物の変動を観察してきました。これによって糖尿病を持つ患者は持たない患者と比べて、透析治療に対する負荷代謝応答が大きいことを見出し、予後にも影響する事が示唆されました。 透析患者の個別治療や予後改善に対する治療のために、患者の個別の代謝特性や透析導入後の年ごとの代謝の変化を把握する事が重要です。

大島 新司(1)、秋元 勇人(1)、松本 明日香(1)、大原 厚祐(2)、根岸 彰生(1)、廣山 華子(3)、根本 直(3)、小林 大介(1)
/   (1)城西大学 薬学部、(2)城西国際大学 薬学部、(3)産総研 バイオメディカル研究部門

疾患による生体の代謝物変動の挙動に固有のパターンを見出すことで、診断支援・病態把握ツールとしての1H-NMRを利用したメタボロミクスが利用されている。 一般的に用いられるのは溶液用高分解能NMR分光計であるので、尿や血漿などの生体液を試料とする。うつ病のような精神神経系疾患においても実施例は多いが、今回、我々は、測定用として生体液試料でなく、疾患発症部位である脳組織そのものを試料として、 その代謝物をHigh-Resolution Magic Angle Spinning(HRMAS)-1H-NMR spectroscopyにて解析を試みたので報告する。21日間ストレス負荷により誘発されたうつ病症状を行動薬理試験(オープンフィールド試験、ショ糖嗜好性試験)により確認し、最後にうつ病モデルラットの脳を摘出し、海馬をMAS-NMR試料とした。 また、非ストレス群海馬を対照として、HRMAS-NMRを測定し、PCAを行ってうつ病モデル群と対照群を分けるスコアプロットを得ることができた。スコアプロットの第一主成分得点と行動薬理試験結果との間でSpearmanの順位相関係数を求めると高い相関を認めた。HRMAS- 1H-NMRを利用した、メタボロミクスの可能性を見出すことができたと考えている。

大槻 荘一/   産総研 健康工学研究部門

非侵襲で病変を診断するため、光散乱による生体組織の偏光測定および解析法の開発を進めている。 細くしぼった偏光を板状試料に照射すると、入射位置を中心としたクローバー葉状の偏光が検出される。 光が照射時と検出時に偏光子を通過する際に、偏光の参照軸が一定の角度だけ回転するためである。 入射位置を中心とした極座標において、rを中心からの距離、aを方位角とすると、光の射出位置は(r, a)と表される。4×4の正方行列で表される試料の偏光特性Mは、M(r, f)= R(f)M'(r)R(f)、と書くことができ、ここでM'は還元散乱行列、R(f)は角度fの回転行列である。 還元散乱行列は試料本来の偏光特性を表すと考えられる。 屈折率1.334の媒体に屈折率1.59の球形粒子が均一に分散した試料を考え、モンテカルロ・シミュレーションを行った。 計算で得られた散乱行列から前式を用いて求めた還元散乱行列は、中心からの距離rだけに依存することがわかった。 還元散乱行列を対称分解または極分解することにより、試料の偏光特性を求めた。 中心からの距離が大きい場合、試料は偏光解消子として機能するが、距離が小さくなるほど、垂直に方位した遅延性偏光子としての性質が強くなることがわかった。当日は、散乱粒子の半径による還元散乱行列のパラメータの変化についても述べる。

猪股 梨華(1, 2)、Jing Zhao(1)、宮岸 真(1, 2) /   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)東邦大学 理学研究科

エキソソームは血中を循環する粒径30nm~100nmの小胞であり、放出する細胞・組織由来のmiRNA、mRNA等の情報を内包していることから、癌や様々な疾患の診断への応用が期待されている。血液や細胞上清からのエキソソームの精製は、超遠心法、密度勾配遠心法、共沈剤を用いた沈殿法等の手法が知られているが、手間が掛かったり、夾雑物の含有が問題となっている。また、エキソソームマーカーに対する抗体を用いた精製法もあるが、インタクトなエキソソームを効率よく取得することは困難である。  今回、我々は複数の表面マーカーに対する核酸アプタマー用いて、エキソソームを特異的にキャプチャーし、インタクトな状態で精製する条件の検討を行ったので、その結果について報告する。 今回開発した核酸アプタマーを用いた精製法は、エキソソーム上にある様々な疾患マーカーに対しても適用可能であり、今後、マイクロ流路技術を組み合わせて、様々な疾患に対するエキソソーム簡易診断法の開発へと発展させて行く予定である。

岩崎 渉(1)、龍 美月(1)、ラマチャンドラ ラオ サトウルリ(1)、栗田 僚二(1,2)、丹羽 修(1,2,3)、宮崎 真佐也(1)
/   (1)産総研 製造技術研究部門、(2)産総研 バイオメディカル研究部門、(3)埼玉工業大学 先端科学研究所

電気化学的手法とイムノクロマトグラフィーを組み合わせることで、簡便で定量的な分析手法の確立が試みられている。この時、ニトロセルロース膜の内部を毛細管現象によって流れる電気化学的活性物質を検出器の電極表面での酸化還元反応の信号を検出するため、電極とニトロセルロース膜の接触が重要となる。本研究では電極とニトロセルロース膜の接触面積を向上させるため、MEMS技術により表面形状を微小三次元構造化した電極を作製し、検出信号の増幅に成功した。 本研究は、総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「次世代農林水産業創造技術」(管理法人:農研機構 生物系特定産業技術研究支援センター、略称「生研センター」)によって実施されました。

飯竹 信子(1)、朱 耘(1)、亀山 昭彦(2)、水城 圭司(3)、柏 裕樹(4)、西 健太郎(4)、礒部 信一郎(4)、木山 亮一(1)
/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)産総研 創薬基盤研究部門、(3)崇城大学 工学部、(4)九州産業大学 工学部

分子生物学分野で用いられる従来の蛍光色素の多くは、熱やpHなどの物理的条件に対して不安定で、中には空気中のオゾンで分解する蛍光色素もあり、定量分析において安定した結果を得ることが困難な場合がある。我々が開発した蛍光色素Fluolidはその特有な構造により従来の色素に比べて光や熱、乾燥に対して安定しているため、本分野における様々な分析方法への応用が期待される。これまで、我々はこのFluolidを用いて各種腎癌病理組織切片の多重免疫染色を試み、腎癌のサブタイプの分類に有用であることや染色した病理組織切片を3年間室温で保管し再検査に利用できることを確認した。そこで、我々はFluolidのさらなる有用性を確立すべくウェスタンブロッティング法における抗原の検出にFluolid標識抗体を用いたところ、PVDF膜上で抗原特異的な蛍光を検出することに成功した。PVDF膜に転写した抗原はHorseradish peroxidase(HRP)やAlkaline phosphatase(AP)など酵素で標識された抗体を用いて検出するのが一般的であるが、単色であるため、数種類の抗原を一度に判別するためにはその分子量やpIの違いで検出する必要がある。一方、本法は異なる蛍光色素で標識された抗体を用いるため、抗原を蛍光の違いで識別できることから、より的確かつ簡易に抗原を特定することができると考えられる。

愛澤 秀信(1)、小澤 佑佳(1,2)、王 正明(1)、山田 和典(2)/   (1)産総研 環境管理研究部門、(2)日本大学 生産工学部 応用分子化学科

簡便な操作かつ迅速で高感度に検出可能なバイオセンサの需要が高まっている。バイオセンサの高感度、高安定、高性能化には、センサ上への分子認識分子の固定化制御が重要と考えられている。 本研究は、分子認識分子に抗体を用いる高精度な免疫センサ開発を目的としている。センサ上に抗体を固定化するときに重要な役割を担うとされるバイオインターフェイスとして、プラズマ重合(pp-)アミノスチレン膜の適用を試みた。モノマー供給圧力5Pa、放電出力10、50、100W、重合時間60、120sの各条件で9MHz水晶振動子にpp-アミノスチレン膜を被覆し、各条件における重合膜の化学構造や表面形状を解析した。 pp-アミノスチレン膜への抗体固定化の測定は、フローインジェクション分析法(FIA)を用いて行い、抗体固定化による周波数の経時変化をリアルタイムで測定した。pp-アミノスチレン膜被覆水晶振動子の周波数変化は、抗CRP固定化濃度に対して依存性を示すことを明らかにした。

山村 昌平、橋本 芳子、八代 聖基、片岡 正俊/   産総研 健康工学研究部門

がん細胞が他臓器へ血行性転移する際、血中に存在するがん細胞を血中循環がん細胞(Circulating Tumor Cell、CTC)と呼ぶ。CTCの解析は、転移がんの予後予測等に期待されているが、CTC検出には血液10ml(白血球約5千万個)中に数個レベルの分離能を求められるため、従来法では分離能や擬陽性等の問題がある。 そこで我々は、全血中から分離した白血球180万個を単一層に配置し、その中の極少数のがん細胞を正確に検出できる細胞チップを開発することに成功した。本細胞チップを用いることによって、全血中の白血球画分に混在するがん細胞(0.01-0.0001%)を定量的に検出し、チップ上で標的がん細胞の抗体多重染色を行うことができた。現在、細胞チップを用いた患者試料の測定を進めている。本細胞チップは、正確性の高い新規CTC検出システムになり得ることが期待される。
16:医療機器  (P074-P078)

川口 拓之(1,2)、小畠 隆行(2)、佐野 ひろみ(2)、谷川 ゆかり(1)、山谷 泰賀(2)
/   (1)産総研 人間情報研究部門、(2)放医研 分子イメージング研究センター

PET/MRI開発における技術的課題の一つとして、生体組織によるガンマ線減弱を補正するためのデータを解剖学的MR画像より生成する手法が挙げられる。しかし、体幹部PETのための従来法には、骨による減弱の影響が考慮されていないため誤差が発生する、減弱補正に特化したMRI撮像が必要で撮像時間が延長する、という問題点がある。本研究では、診断用のT1強調MRIを基にして骨の影響を考慮した減弱補正用画像(?マップ)の生成法を開発し、前立腺がんのPETシミュレーションで性能評価をした。診断用T1強調MRIでは、減弱係数が異なる領域でも輝度が同等なため、従来法では骨の影響を無視して空気と軟組織のみに分割している。一方、提案法では輝度情報に加え、組織の確率密度関数を利用する。ここで、組織の確率密度関数とは各画素が各領域に属する確率の空間的な分布である。これは、複数名のMR画像を領域分割し、形状を標準化したものを平均することで生成できる。従来法で生成した?マップを用いて減弱補正したPET画像では前立腺からの放射能が過小評価された。これは減弱係数の高い骨の影響を無視した補正を行ったためである。一方、提案法で減弱補正した場合は若干の放射能の過大評価とアーチファクトが見られるものの従来法と比べ誤差が大幅に軽減され、PET画像の精度を改善できることがわかった。

白井 智宏(1)、加藤 薫(2)/   (1)産総研 分析計測標準研究部門、(2)産総研 バイオメディカル研究部門

 一般に、生体組織などの強散乱媒質に光波を入射すると、媒質内部で不規則な散乱を繰り返すため出射光はほぼ一様に広がってしまう。しかし、最近の研究により、適切に制御された波面分布をもつ光波を入射すると、媒質内部での光波の挙動がうまく制御され出射光を1点に集光できることが明らかとなっている。この結果は、最適化された光波面と散乱媒質との組み合わせが、ある種のレンズとして作用することを示しているため、これを利用すると原理的には散乱媒質を通したイメージングが可能となる。  本研究では、光波を使って生体組織などの強散乱媒質内部をより深くより高精度にイメージングする技術の創出を目指して、波面制御に基づく散乱レンズ実現システムの構築とその最適な実現法の考案、およびそれを利用したイメージング技術の諸特性の評価を行っている。本発表では、その一例として、散乱レンズに基づく散乱媒質を通したイメージングについての基礎実験の結果を紹介すると共に、生体深部の高精度イメージングに向けたこの技術の展望について述べる。

葭仲 潔(1)、豊田 晋伍(1,2)、新田 尚隆(1) 竹内 秀樹(1,3)、東 隆(3)、佐々木 明(1)、高木 周(3)、水原 和行(2)
/   (1)産総研 健康工学研究部門、(2)東京電機大学、(3)東京大学

超音波治療の研究において、位相制御による体内での焦点位置制御の重要性からトランスデューサーの多素子化が必要である。本研究では超小型の多素子モジュールの開発に取り組んでいる。超音波出力素子部、アンプ部、位相制御部、位相制御ソフトウェアをそれぞれモジュール化し、これらのモジュールを複数配置する事により、例えば数百ch~数千chの多素子超音波トランスデューサーを構成する。これにより無駄な消費電力を抑えることが出来、非常に効率の良い、超小型なアンプ一体型超音波モジュールトランスデューサーが実現可能となる。第1次試作として8×8マトリックスアレイ(64ch)トランスデューサーモジュール、16chダイレクトドライブアンプモジュール、88ch位相制御ユニットモジュール、位相制御コントロールソフトウェアの各モジュールを試作した。図のシュリーレン画像のように集束ビームや平行ビームなど本モジュールの組み合わせシステムにより、超音波の位相ステアリングを行えることを示した。

山下 樹里/   産総研 人間情報研究部門

高度な医療機器を適正に使用し患者の安全を確保するため、新規医療機器の審査において、承認条件として所定の講習会でトレーニングを受けた上での機器使用を求められる事例が増加している。しかし、トレーニングに必要な内容、運営方法、コストなど、開発に必要な具体的な情報は明らかではない。そこで、医療機器分野への新規参入支援を目的に実施されている経済産業省委託事業「医療機器開発ガイドライン策定事業」のひとつとして、平成22年に医療機器のトレーニングシステム設計方針を示す「トレーニングシステム開発ガイドライン」(以下、本ガイドライン)を策定した。インストラクショナルデザインの考え方に基づき使用者のトレーニングに必要な項目を列挙するだけでなく、具体例として、仮想の医療機器(脳神経外科手術支援ロボット)についての基本操作トレーニング講習会のテキストの注釈付きひな形を付録として提供することで、実用性を持たせた。 平成25年に、本ガイドラインに基づいたトレーニング講習会が設計され、平成26年より日本脳神経外科光線力学学会にて「原発性悪性脳腫瘍患者に対する光線力学的療法(PDT)講習会」として実施されている。また、平成26年度に経済産業省委託事業「医療機器等に関する開発ガイドライン策定事業」の中で「再発食道がんPDT機器トレーニング開発ワーキンググループ」を設置し、本ガイドラインを改訂した。

川上 滉貴(1)、迫田 大輔(2)、小阪 亮(2)、西田 正浩(2)、川口 靖夫(3)、丸山 修(2)
/   (1)東京理科大学大学院 理工学研究科機械工学専攻、(2)産総研 健康工学研究部門、(3)東京理科大学

血液ポンプ内部の淀み域である低せん断応力域では血栓が形成することがある。この血栓が体内に流れると循環器疾患の重篤な合併症を引き起こすため、血液ポンプ内の血栓形成は解決すべき課題である。一方、血液ポンプの羽根車と本体間の隙間ではせん断応力が生じており、このせん断応力は血液ポンプ内部の血栓形成に関与していることが報告されている。しかし、せん断応力による血液ポンプ内での血液凝固反応機序は明らかになっていない。 そこで本研究では、せん断応力の指標となるせん断速度に基づく血液凝固因子の反応に着目し、せん断流れ場においてせん断速度が血液凝固因子の反応に及ぼす影響を評価することを目的とした。そこで、二重円筒型レオメータを使用して2,880 s-1のせん断速度を3時間負荷し、せん断負荷後の内因系凝固因子のフィブリン形成までの反応時間である活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)および外因系凝固因子のフィブリン形成までの反応時間であるプロトロンビン時間(PT)を全血および各因子欠乏血漿について測定した。 その結果、全血では、せん断負荷後のAPTTは延長したが、PTは変化しなかった。一方、因子欠乏血漿については、血液凝固第V因子欠乏血漿のAPTTおよびPTが他の因子欠乏血漿と比較して大きく延長した.以上の結果より、せん断負荷後の血液凝固第V因子の反応時間が延長したことで、せん断負荷後のAPTTは延長し、内因系凝固反応が抑制されると考えられる。
17:人間工学  (P079-P082)

遠藤 博史、井野 秀一、藤崎 和香/   産総研 人間情報研究部門

加齢に伴い咀嚼や嚥下機能が低下すると、誤嚥のリスクが高まり、窒息や肺炎の引き金となる。 そのため、咀嚼・嚥下機能が低下した高齢者は、食品の物性値が調整された食感の変化の乏しい食事しか食することができなくなる。 食感は食の楽しみを構成する重要な要素の1つであるため、食感の乏しい食事は高齢者のQOLを下げる要因となっている。 そこで、物性値が調整された介護食しか食べられない場合でも、多様な食感を感じることができれば、食事の質や食の楽しみが向上し、高齢者のQOLの改善が期待できる。 そこで本研究では、咀嚼音を使った異種感覚統合による食感呈示を試みた。咀嚼状態に合わせて咀嚼音を提示するため、咬筋の筋電を用いた。 筋電波形は電気的な波形信号であるため、音として聞くことが可能であり、根菜の咀嚼音に近い音である。 介護食・嚥下食は軟らかく、食品そのものから咀嚼音は発生しないが、筋電波形そのものを擬似的な咀嚼音として聞かせることでリアリティの高い咀嚼音提示が実現可能である(筋電咀嚼音)。 実験では介護食を咀嚼中に筋電咀嚼音の有無で食品から受ける印象がどのように変化するかを主観評価法によって調べた。 その結果、食感や感想などに関するいくつかの項目でポジティブな変化が見られ、食感の乏しい介護食に対して人工的に生成した擬似的な咀嚼音を提示することで、食品から受ける印象を変えることができる可能性があることが分かった。

菅原 順(1)、東本 翼(1,2)/   (1)産総研 人間情報研究部門、(2)筑波大学人間総合科学研究科

脳梗塞や骨折などで一定期間臥床の生活を強いられた場合、早期から下肢の筋委縮は始まる。また臥床期間が長く続くと、自律神経による血圧調節の機能低下が惹起され、立ちくらみを起こしやすくなる。 このような不具合を予防し、ベッドレストからの早期離脱を支援する技術開発が望まれる。下半身陰圧負荷刺激(Lower body negative pressure: LBNP)は、密閉した容器内に仰臥位の状態で下半身を入れて、容器内の気圧を下げ、血液を下半身に貯留させる手法である。仰臥位姿勢のままで立位姿勢時の循環動態および交感神経活動を誘発できることから、 自律神経系による血圧調節機能評価などに利用されているが、近年、長期臥床に伴う血圧調節機能低下への予防法としても注目されている。 我々は、LBNPの特色である「仰臥位の状態で立位姿勢中の生理刺激を付加できること」に加えて、「抗重力筋に対して鉛直方向への力を付加できる」リハビリテーション装置を開発を進めている。本発表では、予備検討として、段階的に下半身陰圧負荷を印加した際の循環動態の応答評価するとともに、立位条件と比較した。

中川 誠司(1)、保手浜 拓也(1)、伊藤 一仁(2)、籠宮 隆之(3)、中山 仁史(4)
/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)九州大学、(3)国立国語研究所、(4)広島市立大学

高齢化社会の進展に伴う難聴者の増加や生活スタイルの多様化に伴って、新しいオーディオ機器や福祉機器の開発の必要性が生じている。骨伝導方式には、外耳道(耳の穴)を塞がない、騒音に強い、耐水性が高いという利点があるものの、その知覚特性やメカニズムには依然として不明な点が多く残る。我々は、骨伝導メカニズムの解明と重度難聴者のための新型補聴器への応用に世界に先駆けて取り組んで来た。また、これまでに獲得した骨伝導に関する種々のノウハウ(骨伝導音声の明瞭度向上技術、骨伝導音の頭部内伝搬過程の解析手法、骨伝導スピーカ/マイクロホンの固定技術等)を利用して、騒音下や水中でも利用可能なオーディオデバイスやスマートホン、マイクロホン、さらには軽度・中度難聴のための補聴機器などへの開発を図っている。

中川 誠司(1)、添田 喜治(1)、保手浜 拓也(1)、岡本 洋輔(2)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)大同大学

騒音の低下やオーディオ機器や照明、エアコン技術の発達と普及により、居住空間は快適になった。 一方、さらなる快適化や差別化のために“高次感性”に基づく最適化が必要とされている。 官能評価では安定した結果を得ることが困難な高次感性の評価には、脳機能データを始めとする生理データの活用が有効であると考えられる。 非侵襲脳機能計測をはじめとする種々の生理計測技術や心理計測技術、物理計測・信号処理技術を駆使して、定量的かつ精密な視聴覚印象評価と音響空間、機能照明、エアコンなどの最適設計に取り組んでいる。 高次感性に基づく最適化は、製品やサービスの高付加価値化や差別化に極めて有効であり,様々な産業分野への応用が見込まれる。
18:農林水産  (P083)

大石 勲、吉井 京子、清末 和之/   産総研 バイオメディカル研究部門

ニワトリは世界有数の産業動物であり、遺伝子改変技術開発が求められている。 特にゲノム編集による遺伝子ノックインやノックアウト技術は有用蛋白質を鶏卵に発現させたり、耐病性や新形質の獲得、モデル動物としての機能向上など産業や科学におけるニワトリの活用に繋がると期待される。ニワトリは体内受精の後硬い卵殻に覆われ発生するという独特の発生様式から遺伝子操作が困難であり、他の生物種に比べて遺伝子操作技術が大きく遅れている。 我々は将来配偶子に分化する始原生殖細胞を培養し、遺伝子操作を行った後にレシピエント胚に移植して生殖巣キメラ(G0)を得て、この後代(G1)に組換えニワトリ個体を得ることに成功している。 今回我々はニワトリ始原生殖細胞にCRISPR/Cas9系を用いて遺伝子ノックアウト及びノックインを試みた。 卵白蛋白質であるオボアルブミンやオボムコイドを標的としたノックアウトでは得られた始原生殖細胞の大部分で変異が認められ、これをレシピエント胚に移植することで生殖巣キメラが得られた。 生殖巣キメラ個体を性成熟させ得られた精子のゲノムには遺伝子欠損が認められ、これを野生型個体と交配することで後代にヘテロノックアウト個体を得ている。 また、遺伝子ノックインに関してもオボアルブミン遺伝子座に外来遺伝子を導入し、産業用有用蛋白質の大量生産などニワトリ独特のゲノム編集技術の活用法について研究を行っている。
19:植物  (P084)

大島 良美、光田 展隆/   産総研 生物プロセス研究部門

クチクラは植物の地上部表面のほとんど全てを覆っており、外敵や環境ストレスから植物を保護するなど植物が大気環境中で生育するために欠かせない役割を果たしている。クチクラの主要な成分は脂質性ポリエステルとワックスであるが、組織によって異なる蓄積量と形状がどのように制御されているかはほとんどわかっていない。われわれは、シロイヌナズナの転写因子MYB16, MYB106が葉や花の形成過程でクチクラ合成・蓄積関連遺伝子の発現制御を通して、クチクラ形成を誘導する鍵因子として働くことを明らかにした。MYB16またはMYB106に強力な転写活性化ドメイン(VP16)を融合し発現させると、葉や花に特徴的なクチクラワックスとクチクラナノリッジを増加させることができた。MYB106,MYB16と近縁なLATE MERISTEM IDENTITY 2 (LMI2)は茎頂や未熟種皮で発現しており、花芽の形成に関与することが知られているが、種子における機能は未解明であった。LMI2の変異体が未熟種子表面の癒着や水分透過性の上昇などクチクラ欠損の表現型を示したことなどから、LMI2は種皮のクチクラ形成を制御することが明らかになった。LMI2-VP16を利用した環境ストレス耐性付与についても紹介する。
20:食品  (P085-P093)

川口 佳代子(1)、 朱 耘(1,2)、木山 亮一(1)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)サイネット カンパニー

リグナンの多くは植物由来の化合物であり、エストロゲン様作用を示す植物エストロゲン(phytoestrogen)である。 その構造は、分子内に2個のC6C3単位をもつフェニルプロパノイド構造を特徴としている。 ゴマ科植物においてはピノレジノールを起点としてセサミンへ至るリグナン合成経路が存在する。 ヒトが食物の一部として摂取した時、マタイレジノールやセサミンなど一部のリグナンは腸内細菌によって代謝され、 エンテロジオールやエンテロラクトンなどのほ乳類リグナンとなる。 本研究では、エストロゲン応答遺伝子の発現プロファイル及びシグナル伝達経路の解析により5種類のリグナン(sesamin、matairesinol、pinoresinol、enterodiol、enterolactone)のエストロゲン活性を調べた。 各リグナン化合物とエストロゲン(17β-estradiol、E2)との遺伝子発現プロファイルの相関を分析した結果、sesaminを除き、E<U>2</U>と各化合物との間で高い相関係数(R</>値)が得られた。それら遺伝子を6つの機能グループに分け、それぞれの活性を比較したところ、一部の機能グループは共通の応答を示すことがわかった。さらに、細胞内のErk/Aktシグナル伝達経路に対するリグナンの影響をウェスタンブロット法を用いて調べたところ、E<U>2</U>およびリグナンはErkおよびAktを活性化することが観察された。また、ELISA法によりケモカインの一種であるMCP-1の発現を調べた。これらの結果から、リグナンは、Erk/Akt経路をE<U>2</U>と共有することによってエストロゲンと似た機能を果たす可能性が示唆された。

奥田 徹哉、森田 直樹/   産総研 生物プロセス研究部門

ローカーボダイエットの肥満改善効果が注目されており、動物モデルを用いた検討にて関連する様々な代謝異常の改善効果が確認されている。 一方で、過度な糖質摂取制限による副作用の懸念から、有効活用に向けて分子レベルでの効能・安全性評価が求められている。 我々は肥満モデルマウス(ob/ob)へ超低炭水化物ダイエットであるketogenic diet(KD)を持続的に摂取させたモデルを構築して解析を進めており、これまでにob/obマウスに見られる高血糖や過度な脂肪肝の改善効果を見出している。本検討では、KD摂取によるインスリン抵抗性関連分子の発現動態について、ob/obマウスに加え野生型マウスへKDを摂取させた群を用いて比較検討した。その結果、インスリンシグナル伝達のモジュレーターとして注目されている酸性スフィンゴ糖脂質(ガングリオシド)の動態について新規な知見が得られ、肝臓のガングリオシドの発現量に適切なKD利用のための指標としての有用性を見出した。

河野 泰広、小川 昌克/   産総研 バイオメディカル研究部門

生活習慣病は、厚生労働省の報告では毎日のよくない生活習慣の積み重ねによって引き起こされる病気であり、日本人の3の2の人がかかっています。高血圧症、内臓脂肪蓄積を伴う糖尿病や高脂血症および動脈硬化症等のメタボリックシンドローム(生活習慣病の一つ)が急増しており、その対策が社会問題になってきています。そこで現在、血糖降下、血圧降下および脂肪低下作用を有する機能性食品の開発が求められています。炎症性サイトカインTNFα産生抑制物質による血糖降下作用、脂肪低下作用を有する機能性食品に係わる研究開発を行っています。今年度から機能性食品表示制度が始まり、食用植物の機能性を細胞レベルで評価する技術を開発するとともに、生活習慣病の予防・改善に効果のある化合物の解析を行っています。これまでに食用植物のエタノール抽出物や分離化合物について、マウス細胞を用いてTNF-α産生抑制物質を探索しました。レンギョウの抗炎症物質としてアルクチゲニン、マタイレシノール、およびウルソール酸を見出しました。

高橋 砂織(1)、吉矢 拓(2)、熊谷(芳澤)久美子(2)、杉山 俊博(3)
/   (1)秋田県総合食品研究センター、(2)株式会社ペプチド研究所、(3)秋田大学 大学院医学研究科

【目的】レニン・アンギオテンシン系による血圧調節機構に関する研究の歴史は長く、その重要構成要素であるアンギオテンシン変換酵素(ACE)をターゲットとした特定保健用食品の開発も盛んに行われている。今回、ACEの相同遺伝子として見出されたアンギオテンシン変換酵素2 (ACE2) の新規蛍光消光基質を開発するとともに大豆抽出液にACE2阻害物質を見いだしその構造を明らかとした。
【方法】組換え型ヒトACE2はCalbiochem社製を用いた。ACE2のアンギオテンシンII切断部位配列を基に、N末端に蛍光物質N-methylanthranilic acid (Nma)をまたC末端側に蛍光消光残基Nε-2,4-dinitrophenyl-lysine (Lys(Dnp))を導入した新規蛍光消光基質Nma-His-Pro-Lys(Dnp)を合成した。
【結果】反応動力学的解析の結果、ACE2のNma-His-Pro-Lys(Dnp)に対するkact/Km値は、7.17 μM-1s-1であり、既知の蛍光消光基質MCA-Ala-Pro-Lys(Dnp)を用いた場合のkact/Km値は、0.77 μM-1s-1であり本基質の優位性が示された。 一方、各種食材の抽出液を用いてACE2の阻害活性を検討した結果、大豆の熱水抽出液にACE2阻害物質が存在することを見出し、各種クロマトグラフィーを用いて阻害物質を精製した。阻害物質の(M+H)+は、ESI-MSで304.1と求められた。1H-NMRスペクトル、ODS及びTSKgel amide-80を用いたHPLCの挙動やアミノ酸分析の結果を既知物質と比較した結果、大豆由来ACE2阻害物質をニコチアナミンと同定した。ニコチアナミンは食物由来最初のACE2阻害物質である。
謝辞:本研究の一部は、一般社団法人中央味噌研究所助成金により行われた。

久保 雄司(1)、中川 力夫(1)/   (1)茨城県工業技術センター

和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたこともあり、世界的に和食への関心が高まっていますが、納豆は、糸引きを苦手とする外国人も多く、海外への普及が進んでいません。 茨城県産業政策課では、いばらき成長産業振興協議会という事業を進めており、そこで食品企業を担当するコーディネーターは、納豆を海外に展開させることを目的として糸引きの少ない納豆の開発を提案し、工業技術センターはその相談を受ける形で新たな納豆菌を育種・選抜することにしました。 納豆の粘りに寄与する主たる成分は、ガンマポリグルタミン酸であり、この成分の合成量が少ない菌株の選抜に取り組みました。納豆菌に限らず、細菌などは継代培養を繰り返すと稀に親株と表現型が変わることがあるため、この現象を利用しました。継代培養を繰り返すうちに、元のコロニーと外観が変化した株(自然変異株)を全て単離して納豆を試作し、糸引きが少ない株を候補株として選抜しました。関係者で試食した結果、最も評価の高かった1株をIBARAKI ℓst-1と命名し、特許を取得しました(特許第5754009号)。 いばらき成長産業振興協議会では、IBARAKI ℓst-1を用いて作成した納豆を新しい食材として販売したい県内納豆メーカーを募り、「豆乃香」という統一ブランド名、パッケージデザイン及び豆乃香を利用したメニューを考案して、これまでに、糸引きの少ない納豆を新たな食材として海外へ売り込むことを目的として国内外の展示会へ出展しています。

鎌田 靖弘(1)、丸山 進(1)、荻 貴之(1)、眞栄平 房子(2)、髙嶺 房枝(2)、宮良(久場)恵美(2)、舟田 卓見(1)、市場 俊雄(1)
/   (1)沖縄県工業技術センター、(2)琉球大学 医学部保健学科

沖縄夏野菜であるエンサイ(Ipomea aquatica F.)は、αグルコシダーゼ阻害活性を有し、その有効成分の一つとしてイソクロロゲン酸類が含まれる。 また動物試験で血糖値の低下傾向1)、培養細胞実験でインスリン分泌促進活性を有するという報告もある。そこで我々は、エンサイを原料とする加工食品への機能性表示を目的に、今回は混餌給与による動物試験に加え、インスリン分泌促進物質の分離・同定を行った。 動物試験は、KKAyマウスに、10%の乾燥粉末配合飼料を8週間自由摂取させた。また、in vitroにおけるインスリン分泌促進活性の他に、DPP-Ⅳ阻害活性及びタンパク質糖化反応阻害活性も測定し、成分の分離・同定を試みた。 その結果、動物試験では、空腹時血糖値、血漿HbA1c及びT-Chol濃度が有意に低下した。血漿インスリン濃度は変化しなかった。糞中の腸内細菌叢は、フゾバクテリウム、緑膿菌及び酵母菌の検出率が低下していた。 50%EtOH抽出物を用いたin vitroでの活性試験では、インスリン分泌促進活性は対照の4.1倍増加し、DPP-Ⅳ阻害率は19%、タンパク質糖化反応阻害率は16%であり、新たな有効成分としてquercetin 3-O-(6'-O-malonyl)-β-D-glucosideを見出した。 以上の結果より、エンサイには血糖値低下作用があり、血糖値に関与する3つの活性を有する事、成分もイソクロロゲン酸の他に、ケルセチン配糖体等も関与している事が分かった。またタンパク質糖化反応阻害活性や日和見感染菌に対する抗菌活性もある事が分かった。
1) 日本農芸化学会2005年度大会(札幌)要旨集P.276 30E112B

河原崎 正貴(1)、鎌田 彰(1)、千葉 洋祐(1)、矢口 文(1)、内尾 こずえ(2)、根本 直(3)
/   (1)マルハニチロ株式会社 中央研究所、(2)医薬基盤研究所、(3)産総研 バイオメディカル研究部門

【目的】飽食の現代社会にありがちな高カロリー摂取状態において、食事の質の違いがどのような影響を与えるのかについて着目した。そこで本研究では、タンパク質と脂質の一部を畜肉あるいは魚肉由来とした高カロリー食を摂取した時に、代謝に及ぼす影響を評価した。
【方法】高脂肪高炭水化物基本餌、(510kcal/100g)のタンパク質と脂質の一部を、タンパク質に畜肉(牛肉)と魚肉(サケ肉)、脂質に牛脂と魚油をそれぞれ組み合わせた高カロリー飼料を作製し、同カロリーで異なるタンパク質と脂質の餌を調製した。それらを雄性C57BL/6J(8週令)に12週間自由摂取させた。以降毎週体重と摂餌量を測定し、4週毎に採尿採糞を行った。なお、実験終了時に剖検および採血を実施した。
【結果と考察】摂取エネルギーに差はないが、畜肉-牛脂群と魚肉-魚油群で有意な体重の差を認めた。また、牛脂添加群と魚油添加群、あるいは、畜肉添加群と魚肉添加群において、血糖値と血中総コレステロール(T-CHO)で有意に差を認めたことから、魚油や魚肉タンパク質あるいはその代謝分解物に血糖値やT-CHOを制御する機能があることを示唆した。また魚肉配合群の糞便中では有機酸が増加し、pHの低下を示した。したがって、高カロリーの状態における食餌の質の違いは、糖・脂質代謝および腸内菌叢に影響を与えることを示唆した。

荻貴之(1)、鎌田靖弘(1)、照屋盛実(1)、潮平憲二(2)、瑞慶山良寧(2)、稲福桂一郎(2)、丸山進(1)
/   (1)沖縄県工業技術センター、(2)金秀バイオ株式会社

紅藻、藍藻などの光合成色素タンパク質フィコエリスリンはタンパク質と赤色のフィコエリスロビリンが共有結合したものであり、食品用の着色料、抗体などを標識する蛍光色素として利用されている。 我々は沖縄産の海藻の新しい用途開発を行うなかで、紅藻をプロテアーゼで加水分解することで熱安定性の高い赤色色素が遊離することを見出し、本色素の一部を精製、その性質を検討した。 クビレオゴノリ(G. blodgettii)のサーモライシン加水分解物から精製した赤色色素をLC/MS等で解析したところ、Val-Asn-Lys-Cysとフィコエリスロビリンが結合した物質と推定された。同様に、ミリン科紅藻(A. subulata)のサーモライシン加水分解物から精製した赤色色素はIle-Asn-Lys-Cysとフィコエリスロビリンが結合した物質と推定された。 フィコエリスロビリンペプチドは、in vitroの系でタンパク質糖化反応を阻害する活性などを有していた。 従来の赤色色素フィコエリスリンはタンパク質であるため、煮沸すると変性して、沈殿を起こしやすくなるが、これらの色素は煮沸による凝集や沈殿がなく、食品用赤色色素、蛍光色素としても有用と考えられる。

清野 珠美、廣岡 青央/   京都産業技術研究所

当研究所バイオ系チームで従来行っていた、ガスクロマトグラフィーを用いたプレラベル化法による遊離アミノ酸分析は、アミノ酸のラベル化という前処理があるものの、1試料の分析時間が10分以内という迅速分析が可能であった。 しかし、天然アミノ酸の1つで、清酒の苦味に寄与するアミノ酸であるアルギニンが検出できないという欠点があった。 そこで今回、液体クロマトグラフィー-質量分析装置 (LC/MS) と非ラベル化アミノ酸分析カラムを用いて、多重反応検出 (Multiple reaction monitoring: MRM) モードによる、アルギニンを含んだ20種類の遊離アミノ酸分析の検討を行った。 条件検討の結果、化学的な前処理を行わなくても、1試料15分で、20種類のアミノ酸を分離・検出することができた。 安定同位体アミノ酸による内部標準法を用いることで、1-100μMの濃度幅でも良好な検量線を作成することができ、清酒等の実試料の分析でも再現性の高い結果が得られた。本法で得られる多成分分析データは、食品、特に清酒の品質管理に大きく貢献できると考えられる。
21:微生物  (P094-P099)

松沢 智彦、矢追 克郎/   産総研 生物プロセス研究部門

土壌などの環境中には夥しい数の微生物が生息しているが、それらのほとんどは実験室では培養が困難な微生物である。 メタゲノム手法は環境中の微生物から培養を介さずにゲノムDNAを抽出し遺伝子資源として利用する。 そのため、培養が困難な微生物のゲノムDNAにもアクセスすることができ、また、メタゲノムを用いた機能性スクリーニングでは多種多様な微生物のゲノムに含まれる遺伝子をまとめてスクリーニングに使用することができる。 我々の研究グループでは、土壌やコンポスト由来のメタゲノムから、植物由来バイオマスの酵素糖化を促進する酵素や高い糖転移活性を有する糖質加水分解酵素などを取得してきた。 本発表では、植物由来バイオマスの酵素糖化を促進するメタゲノム由来キシロシダーゼについて報告する。 本酵素はキシロシダーゼ活性とアラビノフラノシダーゼ活性を有するバイファンクショナルな酵素であり、バイオマス酵素糖化への有用性だけでなく、カルシウム添加によって劇的に活性化されるなどのユニークな酵素学的性質を有していた。

増渕 隆(1)、日向 弘和(2)、渡口 和樹(2)、池永 裕(2)、林 秀謙(2)、佐藤 勝也(3)、大野 豊(3)
/   (1)群馬産業技術センター 、(2)前橋工科大学 工学部 生物工学科、(3)日本原子力研究開発機構 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター

12 C5+ (220 MeV)のイオンビーム照射により取得した 清酒酵母(No.227)の遺伝子機能解析を行った。パイロシークエンス法によりイオ ンビーム変異酵母の全ゲノムDNA塩基配列を解読し、発酵特性等の機能とゲノム情報 が既に明らかとなっている酵母(S288C及びきょうかい7号:以降Ky7)と比較し た。Ky7とNo.227では、アルコール発酵経路に関与するPDC、ADHをコードする遺伝子 群には相違箇所は見られなかった。DNAマイクロアレイおよびリアルタイムRT-PCRの 解析から、No.227のBIO5CTS1の発現が低下している結果が得られ ているが、Ky7とNo.227ではこれらに関しても相違箇所は見出せなかった(Table 1)。従ってこれらの遺伝子ではなく、その上流領域の遺伝子発現の制御に関わる領 域に何らかの変異が起きている可能性がある。今後は、更にシークエンスを行うこ とで解読精度を向上させると共に、今回解析を行わなかった領域についても精査する。 また、本研究ではゲノムデータが公開されているS288C擇侭ぢとの比較しか行わ なかったが、今後No.227の親株であるきょうかい 901号のゲノムDNA塩基配列を決定し、比較していく予定である。

山口 薫、竹内 史子、高橋 幹男/   製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター(NITE-NBRC)

NITE-NBRCでは政府の地方創生戦略に基づき、地域の活性化をめざし、地域の微生物資源を活用した地域ブランド創出事業を支援している。 これまで北里大学感染制御研究機構釜石研究所と共同で、岩手県釜石市の市の花である「はまゆり」から食品に使われる酵母を分離し、ビール、海鮮中華まん、パン等の上市に成功し、震災復興の支援につなげている。 現在、NITE-NBRCでは千葉県君津市の「まち・ひと・しごと創生戦略に基づく交付金」を活用した事業「きみつ食の彩りプロジェクト」の中で、出荷量全国一を誇る君津の「カラー(花卉)」から分離された微生物を活用し、君津の「カラー」の知名度向上とブライダル業界のプラスイメージを継承した地域ブランド商品の販売による地域活性化への支援を行っている。NITE-NBRCは微生物の分離を担当し、JAきみつや地元農家の協力を得て「カラー」を採取し、約900株の分離株を得た。そこからMALDI-TOF MSを用いたタンパク質パターン解析による微生物の簡易迅速同定を行い、食品や化粧品等に利用される酵母及び乳酸菌等を約160株選抜した。選抜株はすべてDNA塩基配列に基づく相同性検索により同定を行った。現在、得られた清酒用酵母Saccharomyces cerevisiae 10株について、千葉県産業支援技術研究所の協力のもと日本酒製造等を目指した資化性試験等の機能解析を実施している。

河田 悦和(1)、坪田 潤(2)、松下 功 (2)、西村 拓(2)  /   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)大阪ガス株式会社 エネルギー技術研究所

【概要】我々は好塩好アルカリ・Halomonas sp.KM-1株を用いて、化成品中間体を生産する研究を実施しています。KM-1株は、培養に酵母エキス等を要せず、C5糖や廃グリセロールを資価し、中程度の高塩濃度、pH9-10で好適に生育するため、雑菌の混入が生じにくく、滅菌に必要な大量のエネルギーが不要です。今回、菌体中にバイオプラスチックPHB合成を行う過程で、PHB合成が抑制され、ピルビン酸を分泌する条件を見出したので報告する。 【方法と結果】炭素源としてグルコース、窒素源として、硝酸ナトリウム、尿素をそれぞれ用い、33℃、37℃、40℃で培養し、菌体および培地組成を分析した。尿素を用いた場合、すべての培養温度で、菌体内にPHBが蓄積し、上清には、40℃においてピルビン酸の分泌が見られた。一方、硝酸ナトリウムを用いた場合は、33℃では、尿素と同じく菌体内にPHBの蓄積が見られ、ピルビン酸分泌は見られなかった。一方、37℃及び40℃では、培養初期は、PHBの蓄積が見られたが、その後、PHBの蓄積が停滞し、代わってピルビン酸などが著量分泌することを見いだした。ハロモナス菌において、ピルビン酸生産の報告はなく、好アルカリ性の微生物による有機酸の生産は、その生理メカニズムの観点からも興味深いものと思われる。

神坂泰(1)、木村和義(1)、植村浩(1)、Rodrigo Ledesma-Amaro(1,2)/   (1)産総研 生物プロセス研究部門、(2)サラマンカ大学

我々は、出芽酵母 S.cerevisiaeを用いて油脂生産系の構築をめざしている。これまでに、出芽酵母の貯蔵脂質合成酵素Dga1pの活性型変異体をdga1破壊株に過剰発現させると、脂質含量45%の脂質蓄積性株が得られることを見出した。また、このdga1形質転換株では、DGA1に隣接する遺伝子であるヒストンアセチル基転移酵素をコードするESA1の発現低下が脂質蓄積に重要であることを見出した。今回は、Esa1pによる糖新生の律速酵素ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(Pck1p)のアセチル化による活性化の系を用いて、このdga1破壊株由来の脂質蓄積性株でEsa1pの機能低下について検討した。糖新生は、非発酵性の炭素源である2%グリセロール/乳酸での増殖の程度で評価した。その結果、dga1形質転換株では、グリセロール/乳酸での増殖が低下しており、この株に ESA1や PCK1を過剰発現させると増殖が回復することから、 dga1形質転換株ではEsa1pの機能が低下していることが確認された。また、アセチル化の供与体であるアセチルCoAを合成する酵素であるAcs1p, Acs2pを過剰発現させても、増殖が回復した。一方、グリセロール/乳酸での増殖が回復した株をグルコース培地で培養すると、脂質含量は顕著に低下することから、糖新生と脂質蓄積とは、逆相関の関係にあることが示唆された。さらに、d9不飽和化酵素Ole1pを過剰発現させた場合でも増殖が回復し、Ole1pによるオレイン酸含量の増加とパルミトオレイン酸含量の低下が糖新生に影響を与えることを見出した。

村田 里美(1,2)、榊原 風太(1)、藤田 克英(3)、福田 真紀子(4)、髙木 和広(1)/   (1) 農業環境技術研究所、(2)日本学術振興協会、(3)産総研、(4)技術研究組合単層CNT融合新材料研究開発機構

大気中のヒドロキシラジカルや生物代謝により生成される水酸化(OH-)PCBは、可溶性が高くPCBより毒性が強いことから環境影響が懸念される。OH-PCB分解法として微生物分解が期待されるが、OH-PCB分解菌の報告はほとんどない。 本研究は土壌からOH-PCB分解菌を単離しOH-PCBの分解能を検討した。また神経細胞モデルであるPC12を用いて、分解されたOH-PCB代謝産物の毒性評価を行った。 分離されたN-9株はSphingomonas属に属し、4OH-3クロロビフェニル(CB)を4OH-3クロロ安息香酸(CBA)へ分解することを明らかにした。1塩素OH-PCBのうち4OH-3CBは100%分解したが、4OH-2CBと4OH-4'CBは7日間培養でも32.8%と23.0%しか分解しないことを明らかにした。またN-9株は低塩素(1-4Cl)のOH-PCBを好んで分解し、高塩素(5,6Cl)のOH-PCBはほとんど分解しないことを明らかにした。2種類のOH-PCB(4OH-3CBと4OH-3,5CB)とその代謝産物(4OH-3CBAと4OH-3,5CBA)の毒性評価を行った。その結果OH-PCBによるPC12の細胞膜損傷と細胞の異常伸長を確認したが、代謝産物ではそれらの影響は見られなかった。N-9株は4OH-3CBや4OH-3,5CBをCBAへ変換することで低毒化することが推察される。
22:環境  (P100-P102)

成廣 隆(1)、Masaru K. Nobu(2)、玉木秀幸(1)、鎌形洋一(1)、Wen-Tso Liu(2)/   (1)産総研 生物プロセス研究部門、(2)イリノイ大学

活性汚泥法や嫌気性消化法等の廃水処理プロセスは、限りある水資源の循環と再利用を支える社会基盤技術である。しかし、既存施設の老朽化、人口増加に伴う廃水量の増加、化学工業の発展に伴う廃水種の多様化に伴い、処理効率のさらなる安定化、様々な化学物質の処理へ向けた柔軟性の向上、廃水からのエネルギー・有用物質の回収に向けた高度化など、これまでの廃水処理技術そのものを持続的発展が可能な社会に適合させるための技術革新が求められている。廃水処理プロセスの内部では、様々な微生物が「汚泥」と呼ばれる複合微生物系を形成して廃水中に含まれる有機物の分解を担っているが、それら微生物群の生理・生態学的機能の全貌は明らかにされていない。本発表では、嫌気性廃水処理プロセスにおける有機物分解フローの鍵物質である揮発性脂肪酸を分解する細菌の比較ゲノム解析の結果と、国内の嫌気性消化タンクの微生物群集構造を解析した結果等を紹介し、微生物学的側面から廃水処理プロセスの機能性向上を目指した研究展開を報告する。

愛澤 秀信(1)、谷 英典(1)、安齋 弘樹(2)、志賀 直子(3)、齊藤 伸寿(3)、鳥村 政基(1)/   (1)産総研 環境管理研究部門、(2)福島県、(3)エム・ティ・アイ

マイクロ流路デバイスは、環境計測やバイオ分野等で行われる化学反応や化学分析を、幅数十から数百μm、深さ数十μm程度の溝を用いることで反応時間の短縮や測定対象となる試料や薬品の使用量を大幅に削減可能である。しかしながらこれらの流路作成では、多くの試作を行う研究と実用化を見据えた開発では流路作成工程が異なるため、流路作成に時間とコストがかかることが問題とされてきた。
本研究では、これらの問題解決する一つの手段として微細めっき技術の適用を試みた。本法は、試作段階から量産化まで一貫して使用可能なマイクロ流路デバイス用金型を用いることで、マイクロ流路を迅速、かつ安価に作製可能である。 作製したマイクロ金型を用いて、ワンチップで多くの濃度に対する細動の応答性測定を目的としたPDMS製のマイクロ流路型濃度勾配チップを試作した。試作した濃度勾配チップ内に細胞と培地を導入して培養を行い、培養細胞に多濃度の刺激物質を曝露させ、各刺激物質に対する細胞の応答性を評価できた。

朱 耘(1,2)、川口 佳代子(1)、飯竹 信子(1)、木山 亮一(1)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)株式会社 サイネット カンパニー

We summarized updated information about DNA microarray-based gene expression profiling by focusing on its application for estrogenic chemicals, including natural/industrial estrogens and phytoestrogens. The cell signals induced by estrogenic chemicals can be monitored by DNA microarray assay using appropriate sets of estrogen-responsive genes, which are associated with or mediate various types of cell signaling pathways, such as mitogen-activated protein kinase (MAPK) and ubiquitin/proteasome signaling pathways, and cell functions, such as apoptosis, cell cycle and cytoskeletal formation. The signaling pathways identified could be used as candidate toxicity pathways to monitor and evaluate endocrine disruptor action. Using a focused DNA microarray containing a set of selected estrogen-responsive genes, we for the first time found a new type of estrogenic chemicals, silent estrogens, which are characterized by their estrogenic gene-expression profiles without growth stimulative or inhibitory effects.
23:その他  (P103-P115)

岡本 佳乃(1)、鈴木 大進(1)、岡崎 由佳(1)、川北 浩久(1)、渡邊 浩幸(2)、金 哲史(3)、篠原 速都(1)
/   (1)高知県工業技術センター、(2)高知県立大学、(3)高知大学

平成23~25年度の高知県産学官連携推進事業「高知県産未利用植物の活用に向けた農商工連携基盤の構築と事業化モデル」として、約300種類の植物抽出物でマッシュルーム由来のチロシナーゼ阻害についてスクリーニングを行った。 その中でチロシナーゼ阻害活性の強い植物として土佐和紙の原料として用いられてきたガンピ(Diplomorpha sikokiana)を見出し、その活性成分を単離し構造決定した。 その結果、3-(2,4-dihydroxyphenyl)propionic acid、Caffeic acid、Syringic acidの3成分が活性成分として関与していた。 このうち、3-(2,4-dihydroxyphenyl)propionic acidのチロシナーゼ阻害活性はIC50=0.08mg/mlであり、美白化粧品の成分として知られているコウジ酸のIC50=0.05mg/mlとほぼ同等であった。 更に市販の美白成分であるアスコルビン酸との併用でチロシナーゼ阻害が顕著に強くなるシナジー効果が確認された。

Hongyu Wang(1), Jiexia Quan(1), Tsuyoshi Uchide(2), Tadashi Andoh(3), Hiroyuki Fuse(4), Kaname Saida(1,4)
/   (1)AIST, (2)Veterinary Internal Medicine, Department of Small Animal Clinical Sciences, School of Veterinary Medicine,
(3)Hokkaido National Fisheries Research Institute, Fisheries Research Agency, (4)Graduate School, Shibaura Institute of Technology,

魚類においてエンドセリンの免疫反応性や受容体活性が報告されている。魚類におけるエンドセリン関連ペプチドの構造的分布を明らかにするために、哺乳類のET配列を元に作成したスクリーニング用のプライマーで魚類の腸管から作成したcDNAライブラリーを探索した所、ET関連ペプチドに相当するDNA配列を見出した。さらに全長のcDNAを単離して、ET関連ペプチドの前駆体の構造を明らかにした。結果、メダカやサケやサメのETとそれらの前駆体の配列を明らかにし、約165個の前駆体タンパク質から成熟型魚類ETが生合成されると推定された。魚類ETの前駆体配列は哺乳類ETのそれらと約30%の相同性が見られた。これらの配列からETペプチドの進化的考察をした。

橋本 千秋(1,2)、堀川 和政(1)、菊池 洋介(3)、牧田 美希(3)、沖田 公子(4)、福留 真一(3)、和田 直之(2)、大石 勝隆(1,5,6)
/   (1) 産総研 バイオメディカル研究部門、(2)東京理科大学 理工学部 応用生物科学科、(3)株式会社 日清製粉グループ本社 R&D 品質保証本部 基礎研究所、(4)オリエンタル酵母工業株式会社、(5)東京理科大学 大学院 理工学研究科 応用生物科学専攻
(6)東京大学 大学院 新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻

小麦全粒粉の摂取は、2型糖尿病や循環器疾患の罹患リスクを減少させることが知られている。本研究では、小麦の表皮に含まれるアルキルレゾルシノール (ARs) の代謝改善効果について検討を行った。 C57BL/6Jマウス(4週齢)に高脂肪高ショ糖食(FS)または0.4%ARs添加高脂肪高ショ糖食(FSAR)を10週間自由摂食させたところ、ARsの同時摂取によりFS依存的な高インスリン血漿、高レプチン血漿、脂肪肝が抑制され、体重の増加も完全に抑制された。 FSAR群では、インスリン依存的なAktのリン酸化が亢進しており、糖負荷試験やインスリン負荷試験の結果から、FS依存的な耐糖能やインスリン感受性の低下が抑制されていた。 また、FSAR群では、糞便中のコレステロール量が有意に増加しており、ARsが脂質の吸収を阻害している可能性が示された(J Nutr, 2015)。in vitroの試験により、ARsが胆汁酸と直接結合することでコレステロールと胆汁酸とのミセル形成を阻害する可能性が示された。さらに、マウスを使った絶食再給餌実験により、一過性のARs摂取が、糞便中へのコレステロールの排出を促進するのみならず、血中のコレステロールレベルを有意に低下させる可能性が示された。 小麦ARsは、小腸におけるコレステロールの胆汁酸ミセル形成を阻害することにより、食餌性の肥満及び糖尿病を改善する可能性が考えられる。

岩本 一成(1)、間木 重行(1)、岡田 眞里子(1)/   理研 統合生命医科学研究センター

ErbBシグナル伝達経路の異常は、細胞の癌化と密接に関与するため、そのシグナル伝達は高度に制御されている。 我々は、ErbBシグナル伝達を負に制御するタンパク質PHLDA1をトランスクリプトーム、プロテオミクス、イメージング解析により同定し、PHLDA1がErbB3受容体に結合し、そのリン酸化を抑制することを見出した。 一方、一細胞レベルでの解析では、PHLDA1の発現量とリン酸化ErbBが正に相関していることが分かった。 このような一見相反する特性を生み出す制御機構を検証するため、本研究では数理モデルを用いた解析を行った。 まず、PHLDA1がErbB受容体のどの活性化プロセスを阻害するのかを検証した。一般的に、ErbB受容体の活性化プロセスは、(1)リガンド(HRG)とErbB3の結合、(2)HRG:ErbB3とErbB2の結合(ヘテロダイマー化)、(3)ヘテロダイマーのリン酸化、(4)リン酸化ヘテロダイマー同士の結合、となっている。 PHLDA1がそれぞれの反応過程を阻害する数理モデルを構築し、そのシミュレーションを実行した。その結果、(2)と(4)の両反応過程を阻害するモデルが実験結果と最もよく一致し、PHLDA1がErbB受容体の多量体化プロセスを阻害していることが示唆された。 さらに、この数理モデルをErbBシグナル伝達経路全体へと拡張した結果、ErbBの活性化だけでなく下流のタンパク質であるリン酸化AktおよびERKの実験結果もよく再現でき、同定した制御機構の妥当性が示された。

Satoshi Oota (1), Yosuke Ikegami (2), Nobunori Kakusho (3), Koh Ayusawa (4), Akihiko Murai (4), Atsushi Yoshiki (1)
Yuko Okamura-Oho (5), Hideo Yokota (5), Yoshihiko Nakamura (1, 2)
/   (1)BioResource Center, RIKEN, (2)The Department of Mechano-Informatics, University of Tokyo
(3)Japan Neutron Optics Inc., (4)AIST, (5)Center for Advanced Photonics, RIKEN

To employ the biomechanics framework to analysis of an abnormal gait pattern of a mutant mouse, we developed a detailed yet feasible mouse musculoskeletal model. We also performed motion capture on the mutant mouse hindlimb with the musculoskeletal model. Considering that its responsible gene is exclusively expressed in the central nervous system, the mutant mouse is thought to encode aberrant motor commands that control certain motor units involved in the mutant-specific gait pattern. We elucidated the mechanism of the neuro-motor functions in the biomechanics framework. While the laboratory mouse is a powerful genetic tool, there was no reliable mechanics model for mouse neuro-motor function analyses. In this presentation, we show how neuro-biomechanics framework can be applied to laboratory mice. With the mouse neuro-biomechanics framework, it is potentially possible to create a novel domain of the neuroscience: simulation-based neuroinformatics covers broad-spectrum phenomena from the neural circuitry-level to the macroscopic motor function-level, which will potentially contribute to totally different disciplines, like neuro-robotics.

ホー ケネス、遠里 由佳子、京田 耕司、大浪 修一、 Ho Kenneth H.L., Tohsato Yukako, Kyoda Koji, Onami Shuichi/   理研 生命システム研究センター

SSBD (Systems Science of Biological Dynamics database) (http://ssbd.qbic.riken.jp) is a free open access repository for quantitative data and their corresponding microscopy images. Quantitative data in SSBD are represented in BDML (Biological Dynamics Markup Language; Kyoda et al., 2015) ,an unified XML-based open format for representing quantitative data of biological dynamics. SSBD currently provides over 300 sets of quantitative data obtained from biological experiments and computer simulations. SSBD also provides software tools for visualization and analysis. There are 188 sets of data in mouse and C. elegans together with 2.2 million 3D time-lapse microscopy images. The objective of SSBD is to facilitate and contribute to the development of data-driven biology by providing a novel platform for repurposing and exploiting large sets of quantitative data and microscopy images.

坂田 一樹(1)、川崎 陽久(2)、鈴木 孝洋(2,3)、石田 直理雄(1,2)
/   (1)筑波大学 大学院 生命環境科学研究科、 (2)産総研 バイオメディカル研究部門、(3)株式会社シグレイ

我々の研究室では、キイロショウジョウバエを用いて、交尾行動の概日リズムに食餌が与える影響について研究している。 低栄養餌(5%グルコース)をベースに、幾つかの食餌成分を加えた培地を35mmシャーレに作成した。それらの培地に雌雄1匹ずつをつがいで載せ、求愛行動の様子を上部のCCDカメラで10秒につき1枚の画像を撮り続けた。撮影した画像において、雌雄が5mm以内に近接している状態を求愛行動中と定義し、1時間あたりの平均求愛活動時間を算出した(AutoCircaS)。 これまでの研究結果から、1)求愛行動リズムの振動発現には時計遺伝子periodが必要である事、2)通常餌から低栄養餌に変えると求愛行動リズムの振幅が減少する事、3)低栄養餌に0.5%アイスプラント粉末を加えた培地で求愛行動リズムの活性が著しく上昇する事、 4)アイスプラント含有成分として知られるmyo-inositolを低栄養餌に0.001%, 0.01%, 0.1%ずつ加えた場合、求愛リズムの振幅が上昇するとともに周期長が短くなる事が明らかとなった。 これらの実験から、myo-inositolが上記濃度(≦0.1%)において、求愛行動リズムの活性上昇と短周期化を示す事が明らかとなったので国際誌へ報告した(Front Pharmacol., 2015;6:111. )。 さらに最近我々は、高濃度(≧1%)のmyo-inositolが求愛行動リズムおよび関連する遺伝子mRNAの発現量に与える影響を調べている。今回その最新の成果を報告する。

川崎 陽久(1)、岡野 英幸(2)、石田 直理雄(1,3)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)白寿生科学研究所、(3)筑波大学 生命環境

動植物に対して、雷などの電界曝露が好ましい効果を発揮する事例は、昔から多数知られている。 しかしながら、その分子機構に関しては、依然として明らかになっていない。 我々は、最近、低栄養条件下ショウジョウバエを用いる迅速な寿命測定法を開発した(ASアッセイ)。 このアッセイを用いる事で、電界曝露がショウジョウバエの寿命に及ぼす影響を評価した。 50ヘルツ交流電界(35kv/m)曝露により、野生型ショウジョウバエの寿命が約20%延長した。 この効果は、複数の時計遺伝子変異系統でも同様に観察される事から、体内時計がこの現象に関わっている可能性は少ないと考えられた。 また、通常の栄養状態においたショウジョウバエでも、同様の条件の電界曝露で寿命延長が確認された事から、この効果は普遍的な現象だと考えられる。 この寿命延長効果について考察し、生物の持つ電界受容体の可能性について議論する。

堀江 祐範/   産総研 健康工学研究部門

ナノ粒子は直径が1~100nmの範囲にある粒子と定義されている。これまでに、一部のナノ粒子が呼吸器に対して影響を及ぼすことが明らかとなっており、吸入毒性の評価系の確立が課題となっている。 動物によるトータルな影響と、細胞によるメカニズムを中心とした検討の2面からのアプローチにより、より正確な影響評価が可能であると考えられる。 一方で、ナノ粒子の吸入によりアレルギー反応が増悪する可能性があるものの、その知見は乏しい。 本発表では、ナノ粒子の有効利用のためのアレルギー増悪効果評価系の確立を含めた研究成果を紹介する。

三重 安弘、池上 真志樹、小松 康雄/   産総研 生物プロセス研究部門

医薬品等の有用物質の生産や特定物質の検出において、酵素反応を利用することは環境負荷や特異性などの点で優位ですが、産業上有用な酵素反応の中には複雑な電子共役系を要する酸化還元反応もあり実用への課題となっています。一方、電気化学法は電子移動(酸化還元)反応の制御・計測に好適であり廉価なシステムを構築可能です。電気化学的に酵素反応を制御することは、低コストで効率の良い物質生産・検出システムの開発に重要な技術となります。そこで酵素を電極上に固定化し、電極を電子供給/需要系として酵素反応を進行させるための技術を開発しています。 電子を電極から酵素の活性中心へ直接移動させて酵素反応を進行させるためには、両者間に適切な電子移動経路が形成される必要があります。これまでに私たちは、電極界面にナノ凹凸構造を構築することでその経路が形成されやすくなることを見出し、物質生産に有用な水酸化酵素の電気化学的制御に成功しました。また、より効率的に酵素反応を制御可能な電極界面を最近見出し、現在詳細な検討を進めています。

澤口 隆博、田中 睦生 /   産総研 健康工学研究部門

タンパク質の非特異吸着の抑制など、表面に特定の機能を附与する表面修飾材料は、バイオセンシング素子や生体適合性が要求される医療機器開発での表面処理技術として重要である。我々は、基板表面に化学結合を介して自己組織化単分子膜を形成させ、反対側末端やそのほかの部位に種々の機能分子を導入することで表面特性を分子レベルで制御することを目的に研究を進めている。 表面結合基としてチオール類を用いると金などの金属表面を分子レベルで修飾できることから、オリゴエチレングリコール(OEG)を介して末端にホスホリルコリン(PC)基をもつ新規アルカンチオールを開発した。 この表面修飾分子はAu(111)電極上にナノ構造分子膜を形成し、電気化学計測によるとその表面濃度は約5.25×10-10mol/cm2で、溶液中走査型トンネル顕微鏡(EC-STM)による表面構造解析でも分子レベルで配列した単分子膜であることが判明した。 一方、カーボンやガラス、プラスティックなど、種々の材料表面を修飾する新規表面修飾分子についても研究開発を行い、そのナノ構造分子膜の構造・機能評価を行っている。グラッシーカーボンやHOPG等のカーボン材料の表面修飾では、ジアゾニウム化合物を新規に開発し、そのHOPG上でのナノ構造分子膜は分子レベルで平滑で緻密な単分子膜を形成する優れた表面修飾分子であることが明らかになっている。

小室 俊輔(1)、小池 純平(1)、村田 賢彦(1,2)、石垣 徹(3)、日下 勝弘(3)/   (1)茨城県、(2)産総研、(3)茨城大学

茨城県では、東海村に建設された「大強度陽子加速器実験施設(J-PARC)」に、中性子の産業利用を促進するため、2台の中性子構造解析装置を設置・運用しています。
●材料構造解析装置(iMATERIA)
   概要:X線では困難な水素やリチウムのような軽元素の位置や量が測定できる装置
   特徴:原子からナノレベルまで幅広い構造解析 、ロボットによる迅速的な試料自動交換機能、多様な環境下でのその場測定
●生命物質構造解析装置(iBIX)
   概要:タンパク質の機能・発現や化学反応に関与する水素やプロトンを高い精度で測定できる装置
   特徴:タンパク質中の水素・プロトンの動き(役割)の把握、低温条件(~100K)での測定
●茨城県中性子ビームラインの利用等について、ご相談ください。(TEL:029-331-2529)

小室 俊輔(1)、小池 純平(1)、村田 賢彦(1,2)/   (1)茨城県、(2)産総研

●いばらき量子ビーム研究センター(IQBRC:茨城県那珂郡東海村白方162-1)
・J-PARCの産業利用を促進するため、利用者の様々な相談や技術開発などをサポートする施設です。
・J-PARCの研究者・産業界の交流を通じて、産学官の共同研究や産業利用を促進します。
●いばらき中性子医療研究センター(※IQBRCに隣接)
・最先端のがん治療法である「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」の実用化推進のための産学連携拠点です。
 BNCT…ホウ素薬剤を投入した患者に中性子線を照射し、がん細胞を破壊する療法。
●研究室、会議室の使用等について、ご相談ください。(TEL:029-352-3301)


(注)発表者のご所属欄中、国立研究開発法人、独立行政法人、地方独立行政法人、学校法人等の名称は省略、 また、農業・食品産業技術総合研究機構は農研機構、理化学研究所は理研、産業技術総合研究所は産総研と省略して記載させて頂いております。ご了承ください。