ポスター発表一覧    /LS-BT2015

ポスター発表は下記のカテゴリー毎に分類しております。

  1. 生体高分子
  2. 情報工学
  3. 遺伝子工学
  4. 発生工学
  5. 再生医療
  6. LEAD関連
  7. 創薬
  8. 疾患
  9. がん
  10. 免疫
  11. 診断
  12. 脳神経
  13. 人間工学
  14. 生体計測
  15. 医療機器
  16. 微生物
  17. 食品
  18. 農林水産
  19. 環境
  20. その他

矢印(矢印)をクリックすると、概要がご覧になれます。

1:生体高分子  (P001-P018)

池永 皓祐(1,2)、岸 良一(1)、岡部 勝(2)/   (1)産総研 ナノシステム研究部門、(2)神奈川工科大学大学院

近年、柔らかくあらゆる形状に適応する電子皮膚・生体情報インターフェイスや、生体組織や臓器の計測・診断や治療を可能とする「やわらかいエレクトロニクスデバイス」の開発が進められている。このためには生体組織のような柔軟性・伸縮性と高い電気的特性を兼ね備えた新素材の開発が必須である。本研究では、ポリ(4-スチレンスルホン酸)を1stネットワーク、ポリ(N,N-ジメチルアクリルアミド)を2ndネットワークとしたダブルネットワークゲルをマトリックスとして、その内部で導電性高分子であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を重合し、導電性高強度ハイドロゲル(E-DN ゲル)を合成した(図)。E-DN ゲルは、柔軟性と機械的強度を兼ね備えた新素材で、弾性率2.5 MPa、破断強度1.6 MPaという高い力学強度を示した。また伝導度は1.3 S/cmを示し、この伝導機構について解明した。

柳川 史樹、杉浦 慎治、高木 俊之、須丸 公雄、金森 敏幸/   産総研 幹細胞工学研究センター

A number of research groups have reported micropatterning of hydrogels for tissue engineering using biocompatible hydrogels such as PEG. Recently, photodegradable hydrogels have attracted significant attention because they are suitable for the creation of 3D microstructures for biomaterials and tissue-engineering research of their tunable properties. Here we reported an activated-ester-type photocleavable crosslinker for preparing photodegradable hydrogels, which react with a biocompatible polymer containing amino moieties such as amino-4armPEG.

柳川 史樹、杉浦 慎治、高木 俊之、須丸 公雄、金森 敏幸/   産総研 幹細胞工学研究センター

To perform long-term cultivation of engineered 3D thick tissue, medium perfusion to the 3D tissue is necessary for supplying oxygen, nutrients, and other soluble factors for cell growth. Recently, photodegradable hydrogels have attracted significant attention because of their tunable material properties. In this study, we applied this gelatin-based photodegradable hydrogels to construct biomimetic 3D liver tissue in a microfluidics device with a manner of photolithography. This platform enabled microscale fabrication of perfusable tissues with designed geometry in a microfluidic device.

森井 尚之(1)、清水 隆(1)、奈良 雅之(2)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)東京医科歯科大

アミロイド構造形成の基本メカニズムに関する仮説として、我々は最近、「β2-driven機構」を提案した(Biochemistry,51,1566-1576 (2012))。その内容は、第1段階として、タンパク質の部分変性過程において分子中の比較的近接する2つの6残基程度の領域が逆平行型β-sheet構造を形成する。第2段階として、この分子内β-sheet構造部分が主鎖の水素結合による軸方向の並進対称の集積と、成長軸に関するC2対称の積層構造形成が同時に進行することでアミロイド線維が伸長するというもので、いくつかのタンパク質についてのアミロイド幹部分の同定実験の結果を含めて、アミロイド化の現象を合理的にかつ一般性をもって説明することができる。また具体的な機構まで分かっていないタンパク質の凝集現象の理解にも適用の可能性が考えられる。

森井 尚之(1)、奈良 雅之(2)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)東京医科歯科大

タンパク質の立体構造解析は現在ほとんどがX線結晶構造解析と溶液系多次元NMR法によってなされており、赤外分光法(IR)等の吸収スペクトル手法は分子中の各2次構造の含量を見積もるための手法の域を出なかった。近年、上記のような主要な手法が適用できないアミロイド線維(タンパク質の1次元らせん結晶)において、アミノ酸残基位置特異的に13C同位体ラベルを行うことで、1残基ごとの2次構造を同定する方法が行われるようになり、アミロイドの線維幹部分の構造が明らかになってきた。しかしなお、タンパク質によっては標準的なこの手法によっても予想されるようなスペクトルが得られず、構造の理解が混乱している状況がある。今回我々は、同位体ラベル赤外吸収スペクトル法によるアミロイド構造の研究の過程で、タンパク質のIRの基本理論であるMiyazawa理論(1960)を発展的に再構成し、同位体効果の寄与を考察することで2次構造レベル以上の詳細な構造情報の抽出も可能であることを見いだした。またアミロイドの実験結果から、理論上でしか知られていなかった吸収帯の存在を発見し、この構造帰属によって、一部のタンパク質において不可解であったアミロイド構造問題が合理的に解決できる道を拓くことに成功した。

田中 真人/   産総研 計測フロンティア研究部門

円二色性スペクトルはタンパク質などのキラル分子の構造解析に広く用いられている。通常は可視紫外域における計測が一般的であるが、その波長領域を真空紫外領域にまで拡張することで、ヘリックス本数などのより高精度なタンパク質の構造解析や糖の分析などが可能になる。真空紫外域での円二色性計測には放射光を利用することが多い。
我々はより簡便な利用のために汎用光源を用いた真空紫外域での円二色性計測システムの構築を行っている。計測波長領域は最短140nm程度である。温度調節可能な真空対応の水溶液セルの開発により、タンパク質や糖水溶液の計測と構造解析にも成功している。また縮小光学系の採用により、光スポットサイズを100マイクロメートル角以下にすることで、微量試料の計測も可能にしている。当日は上記計測システムの詳細とタンパク質や糖試料の計測結果の一例などについて説明する。

中村 努(1)、新山 真由美(1)、橋本 わかな(1,2)、井田 くるみ(1,2)、森田 潤司(2)、上垣 浩一(1)/   (1)産総研 健康工学研究部門、(2)同志社女子大

結晶中でタンパク質分子は規則的に配置しており、非生理的に接触している。同じタンパク質であれば結晶化条件のマイナーな違いによらず結晶系は変わらないことが多い。一方で、リゾチームのように様々な結晶系をとりうるタンパク質も存在する。
本研究では、Pyrococcus furiosus由来N,N'-diacetylchitobiose deacetylaseのネイティブタンパク質またはセレノメチオニン誘導体を、カドミウムを「含む」または「含まない」条件で結晶化し、結晶内パッキングを調べた。カドミウムを含む条件では、両タンパク質ともにN末端のMetまたはSeMetの側鎖がカドミウム錯体をつくり、N末端どうしの接触に寄与していることが明らかになった。しかし両者で結晶内パッキングは異なっていた。このことから、セレノメチオニンの利用が結晶化スクリーニングの成功率を上げうることが示唆される。

土田 直之(1)、高橋 浩(1)、高木 俊之(2)、金森 敏幸(2)、園山 正史(1)/   (1)群馬大院理工、(2)産総研 幹細胞工学研究センター

Di-O-Tetradecylphosphatidylcholine(DTPC)とDTPCの片方のアルキル鎖末端を分子間共有結合することにより二量体化したリン脂質(PC-DTPC)を合成(Fig.1)し、熱物性・膜異方性を比較することにより、脂質の二量体化が膜物性に与える影響を調べた。DSC測定において、PC-DTPCのシャープな吸熱ピークを、DTPCと比較して、25℃以上高い53.4℃に観測した。膜内部の流動性変化に敏感な蛍光色素であるジフェニルヘキサトリエン(DPH)を用いた蛍光異方性測定より、PC-DTPCにおいて異方性 r 値は、熱転移温度付近で急激に変化し、DTPCのr 値に匹敵するところまで減少した。膜の親水性/疎水性界面の極性変化に敏感な蛍光色素であるLAURDANを用いた蛍光測定およびX線回折の結果と合わせて、二量体化の影響について報告する。

山野 尚子、川崎 典起、中山 敦好/   産総研 健康工学研究部門

ポリアミド4(PA4)はg-アミノ酪酸(GABA)の重合体であり、バイオマスから生産したGABAを原料とすることによりバイオベースポリマーとして生産できる。PA4は、ポリアミド(ナイロン)であるが環境中で容易に生分解される材料であり、我々は活性汚泥による分解を見出し分解菌を単離した。また長期安定性を求められる用途を考慮し、ステアリン酸などの長鎖脂肪酸を末端に付加することにより生分解性を抑制する技術を開発した。今回は環境中で容易に生分解されるPA4の生体内での分解性をラットを用いて検討し、さらに安全性評価試験を行った結果を報告する。生体内分解試験:ラットの背面を切開し、皮下に電界紡糸により作成した各種ポリマーの不織布を埋入した。一定期間後に試料を取り出し、HFIPによる抽出にてポリマーを回収し、NMRのピーク強度からポリマーの残存量、分解率を求めた。その結果、コポリエステルアミド、PA4が生体内で生分解されることを明らかにした。安全性評価:PA4の生物学的安全性を調べるため、細胞毒性試験と変異原性試験を行った。チャイニーズ・ハムスター肺由来V79細胞を用いた試験を行い、PA4はコロニー形成を阻害する細胞毒性作用はないことを、また微生物を用いた復帰突然変異試験を行い、PA4に変異原性は無いことを明らかにした。

中山 敦好(1)、川崎 典起(1)、山野 尚子(1)、上垣 浩一(1)、永原 優(2)、木村能章(2)/   (1)産総研 健康工学研究部門、(2)藍野大学

ポリL-乳酸はバイオマス由来材料として、また生分解性材料として注目され、実用化が進められている。とくに、ポリD-乳酸と組み合わせたステレオコンプレックス(Sc)は、通常のポリ乳酸より高い融点と優れた強度を持つ材料として注目されている。しかしながら、Sc化すると生分解性が極端に低下してしまう。そこで、ポリ乳酸ホモポリマーよりも優れた生分解性を示す乳酸系コポリマーを用いてScを合成し、その生分解性を調べた。
コモノマーとして各種ラクトン及びグリコリドを用い重合し、ポリD-乳酸とのSc化を試みたところ、L-乳酸含率80%以上でSc化できた。コポリマーとScの融点とは相関があり、コモノマー含率が大きくなるとScの融点は低下した。しかしながら、グリコリドを用いたコポリマーの場合のみ、Sc化しても乳酸ホモポリマーのScの融点とほとんど変わらなかった。この理由として、通常のラクトン類では主鎖の繰返し単位長が乳酸と異なるため結晶の乱れを生じ、融点低下を起こすのに対し、グリコリド(グリコール酸)では、繰返し単位長は乳酸と同じであるため結晶の乱れを生じないことが挙げられる。ただ、グリコール酸ではS配置のメチル基がなく、積極的な結晶化能には欠けることから、融解熱はホモポリマーScのそれよりも小さい。生分解性は加水分解性、酵素分解性、コンポスト化などで評価し、コポリマーのScとすることで良好な生分解性が実現できた。

平野 研(1)、市川 正敏(2)、石堂 智美(1)、馬場 嘉信(1,3)、吉川 研一(4)/   (1)産総研 健康工学研究部門、(2)京大・院理・物理第一、(3)名大・院工・応化、(4)同志社大・生命医科学

Understanding the mechanisms of DNA compaction is becoming increasingly important for gene therapy and nanotechnology DNA applications. The kinetics of the compaction velocity of single DNA molecules was studied using two non-protein condensation systems, PEG with Mg2+ and spermine. The results show that the compaction velocity of a single DNA molecule was proportional to the PEG or spermine concentration to the power of a half. Theoretical considerations indicate that the compaction velocity is related to differences in the free energy of a single DNA molecule between the random coil and compacted states. This study demonstrates the control factors of DNA compaction kinetics and contributes toward the understanding of the compaction mechanisms of non-protein DNA interactions as well as DNA-protein interactions in vivo.

小田原 孝行、池本 光志、広瀬 恵子、石井 則行/   産総研 バイオメディカル研究部門

塩とポリエチレングリコール(PEG)との混合物は、タンパク質などの生体高分子の分画、濃縮、結晶化の沈殿剤として広く用いられている。また、高濃度のタンパク質(5?30%)と電解質イオン(約0.2M)を含む生体内分泌液を模した環境を再現するためにも使用されている。このような濃厚溶液での生体物質の会合は、塩イオンの遮蔽効果とPEGに対する排除体積効果が連携的に作用することで基本的には説明されている。これまでに行った沈澱曲線の系統的な決定から、定説と考えられている塩とPEGの効果に以下のような修正が必要なことがわかった。 (1)0.1Mオーダーの塩によるタンパク質電荷に対する遮蔽効果は、希薄溶液で成り立つイオン強度とは異なった関係に従う。すなわち、短いイオン-タンパク質電荷間距離のため、イオンの効果はその電荷分布を反映したものになっている。 (2)塩とPEGとの混合物による会合効果は、それぞれの効果の積、或は和として増幅すると考えられがちであるが、実際には独立して作用し、決してお互いに増幅する関係にはない。 この二つの効果はシンプルな式で表され、タンパク質会合のいろいろな場面に関わっている可能性がある。そこで、これらの関係から導かれた、“混み合った分子環境下で会合するタンパク質は必ずしも疎水性の強いものに限られてはいない”という結論と、細胞内やエキソソームなどにおいて観察される混み合った分子環境の意義や役割について紹介する。

佐藤 琢(1)、児玉 康平(2)、服部 浩二(1)、市川 創作(2)、杉浦 慎治(1)、金森 敏幸(1)/   (1)産総研 幹細胞工学研究センター、(2)筑波大学大学院 生命環境科学研究科

本研究は圧駆動型マイクロ流体デバイスを用いた液滴作製について報告している。 近年、マイクロ流体デバイスを用いて作製した液滴の中で高価な試薬を用いる生化学反応を行う研究が報告されている。従来、液滴を作製する際、シリンジポンプを用いて送液を行う。しかし送液時のチューブ内デッドボリュームによるサンプルの損失と装置の使い回しによるサンプルの相互汚染がしばし問題となる。本研究では、送液口に液供給リザーバーを直接付けることでサンプルの損失量を最小限に抑え、使い捨て可能なPDMSを基材として用いる事でサンプルの相互汚染の防止を可能とした。このようなマイクロ流体デバイスを用いて、連続相と分散相のマイクロ流路の交点にて、液滴の作製を行うことができ、粒径約70 μm、変動係数の小さな単分散な液滴の作製が行えた。

石井 則行、池本 光志、広瀬 恵子、小田原 孝行/   産総研 バイオメディカル研究部門

Exosomes are small membrane vesicles secreted from biological cells. Exosomes from diseased cells contain a high concentration of characteristic nucleic acid and proteins in the disease, and have therefore attracted attention as a biomarker at the early stages of the disease. Exosomes vary in size from 30 to 100 nm, with potential physiological roles for different diameter ranges. In order to clarify the molecular mechanisms underlying exosome functions, we are trying to develop rapid and simple electron microscopic techniques that can resolve the biomolecules within each exosome. Observation of exosomes from human embryonic kidney (HEK293) cells using our improved techniques of purification, staining, fixation, and immunolabeling will be presented.

近藤 哲朗(1)、肥後 範行(2)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)産総研 ヒューマンライフテクノロジー研究部門

近年、抗体医薬や核酸などの高分子医薬が癌・癌関連疾患や自己免疫疾患等の標的分子に対して創出され、リポソームや高分子ミセル等DDSキャリア―・デバイスの発展と共に、これらの高分子特性を利用した薬物送達技術が急速に進歩してきている。これらの高分子医薬はその劇的な治療効果から世界の医薬市場で需要が急増しているが、多くは末梢組織のがん(血液がん、大腸癌、乳がん)や関節リウマチ等を対象としている。アルツハイマー病や脳腫瘍、卒中など高齢社会が抱える深刻な中枢疾患に対しては、特異抗体やサイトカインなどを設計した高分子・タンパク医薬が次世代型の中枢医薬として期待されてはいるものの、血液脳関門 (blood-brain barrier: BBB) が障壁となり開発が遅れている。これらを脳内に投与するには、現状では穿頭・開頭手術など、場合によっては複数回におよぶ外科手術を必要とし、患者にかかるストレスは心理的なものも含めて少なくない。そこでこれらの問題の解決に向けた基盤技術開発の一つとして、本研究ではマウス in vitro BBB model を作製し指向性分子進化工学を応用して、高分子・機能タンパクの脳内送達を可能にする新規技術の開発を行い、生体を用いた非浸襲脳内デリバリ-の動態評価および薬理有効性評価を進める。

竹下 大二郎、杉本 崇、山下 征輔、富田 耕造/   産総研 バイオメディカル研究部門

マイクロRNAは、配列特異的に標的とするmRNAを認識し、mRNAの分解や翻訳抑制へ誘導することで細胞分化や発生などを制御する重要な分子である。マイクロRNAの機能不全は、細胞のガン化など様々な病因となることが知られている。そのため、マイクロRNA発現制御の分子反応機構の解明は、生体の発生分化や恒常性維持における生物の基本メカニズムを明らかにするだけでなく、マイクロRNAに起因する疾病の治療法の確立につながることが期待される。本研究では、肝臓特異的に発現し、脂質やコレステロール代謝に関わる遺伝子発現を制御し肝機能の維持に関わるマイクロRNAに注目し、そのマイクロRNAの代謝、発現を制御するRNA合成酵素複合体の分子反応機構の解明を行う。

呉 純/   産総研 健康工学研究部門

 DNAメチル化はDNAのCpGアイランドにあるシトシンのピリミジン環の5位にメチル化され、遺伝子の発現の抑制として機能する。一方、脱メチル化は抑制されている遺伝子の発現の活性化の役割を果たす。脱メチル反応は5-メチルシトシンが、脱アミノ化反応あるいは5-ヒドロキシメチルシトシンへの酸化反応により、二重らせん構造から出っ張った状態になり、N-グリコシド部位での加水分解を経て除去され、グアニン基と脱塩基部位との中間体を経ることが知られている。本研究ではDNAの2本鎖中の脱塩基部位に向いているグアニン基を修飾するためにアセチレン基を有するグリオキザール化合物を合成した。化合物は穏やかな条件でグアニン基と反応し、アセチレン基を介してクリック反応によってDNAのビオチン化に成功した。修飾されたDNAを鋳方とするPCR反応はその脱塩基部位において変異を与えることがわかった。その詳細について報告する。

上垣 浩一(1)、中村 努(1)、駒 大輔(2)、大本 貴士(2)/   (1)産総研 健康工学研究部門、(2)大阪市工業技術研究所

蛋白質の構造機能研究を円滑に推進するには大腸菌内で蛋白質を可溶化状態で発現させる事が必要である。しかし大腸菌で蛋白質を発現すると封入体と呼ばれる凝集体を形成してしまい非常に煩雑で経験が必要なリフォールディング操作が必要となる。封入体を形成する原因の一つは一細胞あたり数十~数百コピー存在するプラスミドから一斉に蛋白質合成が開始された結果、蛋白質のフォールディングを手助けするシャペロン蛋白質のキャパシティーを超えてしまうためと考えられる。この問題点を克服するために本発表では蛋白質発現に関与する遺伝子コピー数を厳密に制御するために遺伝子破壊に利用されてきたRedシステム(Red mediated recombination system)等を利用し、当該遺伝子を発現プロモーターごと大腸菌の染色体に組み込んだ発現系の構築を行い染色体上のコピー数と発現蛋白質の発現量との相関も明らかにした。さらに本システムを利用し、プラスミド発現系では封入体を形成していた蛋白質発現にも成功したので合わせて報告したい。
2:情報工学  (P019~P021)

齋藤 裕(1,2)、辻 淳子(3)、光山 統泰(1,2)/   (1)産総研 ゲノム情報研究センター
(2)Core Research for Evolutional Science and Technology (CREST), Japan Science and Technology Agency,Japan
(3)Program in Bioinformatics and Integrative Biology, University of Massachusetts Medical School, USA

産総研ゲノム情報研究センターはエピゲノムデータ解析技術の研究を推進しており、その一環としてDNAメチル化データ解析ソフトウェアBisulfighterを開発した。Bisulfighterは次世代シークエンサによって得られるBisulfite-Seqリードのマッピング、各シトシン塩基のメチル化率の推定、そしてサンプル間のメチル化変化領域の検出を行うソフトウェアパイプラインであり、各行程において既存手法よりも高い精度を達成している[1]。また、Bisulfighterの応用事例として、産総研幹細胞工学研究センターとの連携により脂肪幹細胞・iPS細胞・成熟脂肪細胞の分化におけるエピゲノム変化の解析などを行っている[2]。 [1]Saito et al, Nucleic Acids Research, 42(6):e45, 2014 [2]Takada* and Saito* et al, Epigenetics, 9(9):1195-1206, 2014

富永 大介/   産総研 ゲノム情報研究センター

生きている細胞は外部からの刺激により、あるいは特定の時期の到来などによりそれぞれ特定の挙動を取るが、これはシグナルが細胞核に伝わり、遺伝子が発現しタンパクが機能するなどといったことにより起こり、これらは細胞内で構成される様々なネットワークの精妙な働きにより制御されている。しかしその大部分は未だ構造も働きも、その存在も知られていない。これを探るには、実験観測の結果が意味するところを描き出すための最新の情報解析技術が必須である。そこで、遺伝子発現量の時系列データを想定し、ネットワークの構成要素(遺伝子)が時間とともに変化する様子を観測した定量的な数値の時系列データから、ネットワークの構造とその変化を推定するためのアルゴリズムを新規に開発した。これを用いてマウス概日周期の発現データから、遺伝子間の制御関係の強さの変化を推定するアルゴリズムを考案し、制御ネットワークの変化を推定した。

上野 豊(1,2)、村岡 伸哉(1,2)/   (1)産総研 健康工学研究部門、(2)奈良先端科学技術大学院大学・情報科学研究科

今日の3次元コンピュータグラフィックス技術によって、様々な動画がメディア産業で活用されている。生物学も恩恵をうけてきた一方で、アニメーション作成にかかる労力と費用の大きさが普及の妨げになっている。情報技術の研究開発の効果が期待できることから、我々はアニメーション構築支援ソフトウェア開発を進めている。基準振動解析によって得られているタンパク質の熱揺らぎを可視化するために、スキニングと呼ばれる手法を適用した。タンパク質のポリゴンモデルに骨格を導入し、骨格の動きにしたがってポリゴンをスムーズに動作させることができた。
3:遺伝子工学  (P022~P027)

大橋 智子、吉田 和利、原田 知左子、井上 守正/   兵庫県立工業技術センター

食物アレルギーの有病率は増加しており、アレルギーの原因となるアレルゲンを除去した食品への需要が高まっている。しかし、アレルギーの原因食品は、卵、牛乳、小麦、米など加工食品に幅広く添加されている食品も多く、完全な除去は難しいことから、低アレルゲン化食品の開発が活発に行われている。本研究では、タンパク質のジスルフィド結合を還元することでアレルゲンタンパク質の消化性を高める酵素を安全性の高い麹菌を用いて生産した。 ジスルフィド結合還元活性を有する酵素であるチオレドキシンをターゲットとし、麹菌チオレドキシン遺伝子を高発現させた組換え麹菌を分離したところ、チオレドキシン活性が宿主株より約70倍高い麹菌が得られた。この高発現麹菌を用いて麹菌チオレドキシンのアレルゲンタンパク質への効果を調べたところ、麹菌チオレドキシンは、牛乳の主要アレルゲンの一つであるβ-ラクトグロブリンの消化性を高めることを確認した。また、チオレドキシンの活性を維持するためには、チオレドキシン還元酵素の添加が必要であるが、本研究では、チオレドキシン還元酵素を添加せずにアレルゲンタンパク質の消化性を高めることができた。麹菌の菌体抽出液を用いることで、麹菌の産生するチオレドキシン還元活性により活性型チオレドキシンを維持できるため、より低コストな方法に近づけたと考える。

安永 茉由(1)、赤澤 陽子(1)、伊東 祐二(2)、萩原 義久(1)、中島 芳浩(1)/   (1)産総研 健康工学研究部門、(2)鹿児島大学 理工学研究科

ルシフェラーゼを用いたレポーターアッセイは定量性が高く測定が簡便なため、細胞から個体レベルでの遺伝子発現を指標とした創薬スクリーニングなどに利用されている。我々はルシフェラーゼに対する細胞内阻害抗体を用いた新規レポーターアッセイシステムの構築を目的に、ラクダ科動物であるアルパカのVHH非免疫抗体ファージライブラリからの阻害抗体の取得を試みた。我々が独自に開発した高発光強度型緑色発光ルシフェラーゼ(ELuc)を抗原にバイオパンニングを行い、2種のファージクローンを単離した。単離した抗体とELucを培養細胞で共発現させ発光を測定したところ、発光阻害活性を示さなかった。一方、大腸菌で発現させ精製した抗体を用いin vitroでの結合活性を測定したところ、1種の抗体は結合活性を示した。現在はELucをアルパカに複数回免疫することで、より特異性および阻害性の高い抗体の作出を試みている。

鍵和田 晴美、五島 直樹/   産総研 創薬分子プロファイリング研究センター

薬効が確認された医薬シーズ低分子化合物に対する作用・副作用標的分子の特定は、科学的裏付けに基づいた有効かつ安全な医薬品開発に必須のプロセスである。従来の医薬シーズ低分子化合物の標的タンパク質スクリーニングでは、低分子化合物-タンパク質間相互作用を表面プラズモン共鳴法SPR技術や蛍光偏光法FPなどの測定技術がよく用いられる。しかしこれらの測定技術では、比較的弱い相互作用の検出が難しいことや、測定環境が細胞内と大きく異なるなどの課題がある。前者は特に、開発初期段階の低分子化合物によく見られる解離の速い反応を検出する上で大きな妨げとなる。後者も薬事申請に必要な薬効の科学的検証の際に大きな障壁となる。
そこで今回我々は、これらのボトルネックを解消するためにメモリーダイ法(Hashimoto et al. JBS 2009)とSNAPタグを組み合わせた新規相互作用検出技術の開発を試みた。

池本 光志(1,2)、宮岸 真(1)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)東邦大大学院 理学研究科

G Protein Coupled Receptors (GPCRs)は、痛みなどの重要な生理機能の発現に必須な膜蛋白質であり、主要な創薬標的因子である。本研究は、GPCR関連鎮痛創薬開発ツールの樹立を目的とし、μ-オピオイド受容体(MOR)を認識するDNAアプタマー(Apt-MOR)の創製を試みた。まず、MORのN末端にHAタグを融合させたHA-MOR蛋白質をテトラサイクリン依存的に発現誘導する293安定細胞を樹立した。次に、本細胞を用いて改良型Cell SELEXを行い、40塩基長の任意配列を含む一本鎖DNAライブラリーからApt-MORを同定した。 Apt-MOR は、MORに対して特異的かつ高親和性に結合し、強いアンタゴニスト活性を示した。従って、Apt-MORは、GPCR関連鎮痛創薬開発における有用なツールとなり得る。

加藤 義雄、戸井 基道、松本 大亮、中村 史/   産総研 バイオメディカル研究部門

狙ったゲノムDNA配列を書き換えるゲノム編集技術は、畜産動物の改変・有用植物の育種・再生医療への応用等、幅広い分野においてその普及が期待されている。ゲノム編集には、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALENおよびCRISPR/Casという3つの異なる人工ヌクレアーゼが利用されているが、いずれも米国産であり、国産のゲノム編集技術の開発が急務となっている。 一方で、ゲノム編集技術に関する安全性の問題も指摘されている。従来のゲノム編集法では、遺伝子発現ベクターによる持続的な人工ヌクレアーゼの発現が、目的外のゲノムを損傷してしまうオフターゲット効果を引き起こすこと、発現ベクターのDNA/RNAが意図せずに目的細胞のゲノムに組み込まれてしまうこと等が懸念されている。核酸を使ったゲノム編集の上記リスクを回避するために、我々はZFNタンパク質を用いたゲノム編集技術を開発している。これまでにZFNタンパク質が細胞膜を透過してゲノム上の標的配列を改変できることを確かめており、タンパク質によるゲノム編集の妥当性を確かめてきた。ZFタンパク質が細胞内に取り込まれるメカニズムを解明することにより、より安全なゲノム編集技術の確立を目指したい。

松本 大亮(1,2)、加藤 義雄(1)、小林 健(3)、岩田 太(4)、中村 史(1,2)/
   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)東京農工大院工生命工、(3)産総研 集積マイクロシステム研究センター、(4)静大院工機械工

我々はシリコンの微細加工技術により、3 mm角に直径200 nm、長さ20 μmの高アスペクト比のナノニードルを数万本配列させた材料、ナノニードルアレイを開発している。アレイ内のナノニードルの長さの変動係数は5.2%以下であり、これと細胞培養シャーレの水平調整を行った後に、接近動作を行うことにより、シャーレ上に培養された多数の細胞に同時に挿入することが可能である。我々はこのナノニードルアレイを用い、ゲノム編集などに用いられる人工ヌクレアーゼなどの機能性タンパク質を細胞内へ高効率に導入する技術の開発に着手し、部位特異的組換え酵素であるCre タンパク質の細胞への導入を試みた。ゲノム上にloxP配列を持ち、Creタンパク質による組換えによりRFPがGFPに転換するHEK293をレポーター細胞として用いて試験を行った結果、1回の導入操作で30%の細胞の蛍光波長の転換が確認された。現在、種々操作の条件の最適化を行い更なる効率の向上を試みている。
4:発生工学  (P028)

大石 勲、吉井 京子、小島 正己/   産総研 健康工学研究部門

近年、抗体医薬など有用蛋白質の需要は増大を続けていますが、高い生産コストが問題となっています。鶏卵は安価で豊富な蛋白質を含むことから、遺伝子組換えにより卵白成分の一部を有用蛋白質に置き換えることができれば、有用蛋白質を安価に大量生産可能と考えられます(いわゆる金の卵を産むニワトリの樹立)。本研究では抗体医薬をはじめ、モデル蛋白質を鶏卵中に大量生産する技術の開発を目指しています。また、遺伝子操作によるニワトリ内在性遺伝子の改変・除去技術にも取り組み、有益な産業動物の作成技術樹立を目標としています。 これまでに私たちは、将来ニワトリの精子や卵子になる大元の細胞(始原生殖細胞)を用い、ゲノム編集技術による遺伝子改変を達成しました。さらに、始原生殖細胞を用いて遺伝子組換えニワトリの樹立にも成功しています。これら技術を元に、ニワトリ遺伝子改変技術の産業への応用を目指しています。
5:再生医療  (P029~P038)

柳沢 託磨/   産総研 幹細胞工学研究センター

iPS細胞やES細胞といった多能性幹細胞から目的の細胞を分化させるには発生のプロセスを参考にして、様々な細胞増殖因子を用いる分化方法が開発されつつあるが、近年、高価な増殖因子の代わりに同様の作用を示す安価な分化制御化合物が利用されはじめている。 iPS細胞を活用した難病研究が進む中、国内患者数が500万人以上と推定され、喫煙者に多い生活習慣病である慢性閉塞性肺疾患(COPD)に着目した。
本研究では、ヒトiPS細胞から前腸内胚葉を分化誘導し、さらに高効率に肺前駆細胞を作り出す分化制御化合物を探索した。前腸内胚葉から肺前駆細胞への分化促進化合物の同定を行うため、肺前駆細胞マーカーであるヒトNKX2.1遺伝子の上流プロモーターNKX2.1-GFPレポーターを用いて市販化合物ライブラリーのスクリーニングを行った。全9984化合物のうちGFP蛍光強度が高かった上位10個の化合物を有力分化促進候補化合物として選定した。次にこれら候補化合物をヒトiPS細胞より分化させた前腸内胚葉細胞へ添加し、NKX2.1の免疫抗体染色により内在性のNKX2.1タンパク質の発現を確認した。その結果、1つの化合物で実際にNKX2.1の発現を確認し、肺前駆細胞分化促進化合物である可能性が示唆された。現在、同定化合物における濃度や処理時間の最適化、また、他の増殖因子との組み合わせや培地条件の検討を行っている。また、スクリーングにより上位にあがった化合物の内まだ未検証な化合物においても実験を行っている。

佐野 将之(1)、大高 真奈美(1)、久保 陽子(1)、西村 健(2)、中西 真人(1)/   (1)産総研 幹細胞工学研究センター、(2)筑波大学 医学医療系

パラミクソウイルス科に属するセンダイウイルスは1本鎖RNAをゲノムに持ち、幅広い動物種に感染できるウイルスである。このウイルスはヒトに対する病原性がないため、遺伝子導入ベクターとして、将来の先端医療への応用が期待される。これまでに我々は、細胞障害性が低いセンダイウイルス変異株を骨格に用い、ウイルスの伝播に必要な遺伝子を完全に欠損させたベクターを開発し、このベクターを欠損・持続発現型センダイウイルスベクター(SeVdpベクター)と名付けた。SeVdpベクターは複数の遺伝子をベクターゲノムに同時に搭載することが可能であり、これらの遺伝子を宿主ゲノムに組込むことなく、長期間、持続的に発現させることができる。現在、我々は、SeVdpベクターを再生医療に応用することを目指しており、これまでに、Oct4Sox2Klf4c-Myc遺伝子を搭載したSeVdpベクターにより、末梢血単球を含む様々なヒト組織細胞から外来遺伝子フリーのiPS細胞を樹立することに成功している。最近では、SeVdpベクターで樹立したiPS細胞の臨床応用も視野に入れ、FeederフリーおよびXenoフリーの条件下でのiPS細胞誘導も行っている。本発表では、これらの成果と合わせ、SeVdpベクターを利用した、細胞リプログラミングの発展性についても報告する。

國分 優子、石嶺 久子、栗崎 晃/   産総研 幹細胞工学研究センター

Pituitary gland is a center of the endocrine system that controls homeostasis of whole body via the secretion of many hormones. Especially, the anterior pituitary is important on the ground that there are main 5 different cell types expressing each specific hormones. However, it was not well known about their regulatory networks of transcriptional factors for each cell types, and even their appropriate culture conditions in vitro. Moreover,there are no specific protocol for the preparation of each mature type of pituitary cells from their progenitors or ES and iPS cells. Here, we attempted to immortalize mouse pituitary cells. Immortalized cell lines expressed TSH beta, which is one of the hormones of the anterior pituitary. We analyzed the characteristics of these established cell lines and transplanted one of the cell lines into mouse kidney and under the skin.

小沼 泰子(1)、樋口 久美子(1)、相木 泰彦(1)、Shu Yujing(1)、浅田 眞弘(2)、浅島 誠(1)、鈴木 理(1, 2, 3)、今村 亨(2, 4)、伊藤 弓弦(1)/
   (1)産総研 幹細胞工学研究センター、(2)産総研 バイオメディカル研究部門、(3)茨城大学 理工学研究科、(4)東京工科大学 応用生物学部

FGFシグナルはヒトES細胞及びiPS細胞を維持培養するために不可欠である。主に、bFGF(FGF2)のリコンビナントタンパク質がヒト多能性幹細胞の培養に使用されているが、bFGFタンパク質が不安定性であるため、培養中の濃度を維持するために新鮮なbFGFの添加供給が必要とされる。本研究では、ヒトFGF1とFGF2ドメインから構成されるキメラタンパク質であるFGFCが、ヒト多能性幹細胞の維持培養に有効であることを明らかにした。FGFCは大腸菌等のバクテリアのリコンビナント系で生産ができ、またFGF1およびFGF2よりも高い熱安定性およびプロテアーゼ耐性を示す。ヒトES細胞及びiPS細胞を、bFGFの代わりにFGFCを同濃度含有する培地で維持培養し比較したところ、多能性マーカーの発現、網羅的な遺伝子発現、核型、または三胚葉への分化能の点で有意な差を示さなかった。このことからFGFCは従来のbFGFのより安価な代替品として、ヒト多能性幹細胞の維持培養に使用できると考えられる。

倉持 明子(1)、鈴木 理(1, 2)、田野 裕美(3)、鬼柳 由美子(3)、浅田 眞弘(1)
織田 裕子(1)、上原 ゆり子(1, 5)、佐藤 和聡(3)、今村 亨(1, 4) 、伊藤 丈洋(3)/
   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)産総研 幹細胞工学研究センター、(3)株式会社細胞科学研究所
(4)東京工科大学、(5)株式会社牛越生理学研究所

iPS細胞を用いた再生医療の実用化のためには、細胞の大量安定培養が必要である。従来FGF2を添加した培地が用いられているが、その不安定性に起因する培養液の不安定性や短い使用期限設定、培養液交換頻度等に対しての改善が求められている。我々はこれまでにFGF1とFGF2のキメラタンパク質(FGFC)を高機能化FGFとして開発してきた。FGFCはFGF2に比べて分解酵素や熱に対してより安定であるとともに、動物由来成分を含まないリコンビナントタンパクとしての大量調製が容易である等の特長を有する。しかし、FGFCは熱安定性が改善されているものの、例えば37℃で2日間放置すると活性が大きく低下する。本研究ではFGFCの安定性をさらに高めて高性能無血清培養液を実現するための成分を検討した。

石嶺 久子(1)、渡邊 加奈子(1)、小久保 謙一(2)、柿沼 祐子(2)、加茂 功(2)、田島 綾子(3)
望月 純子(3)、海野 信也(3)、小林 弘祐(2)、桜川 宣男(2)、浅島 誠(1)、栗崎 晃(1)/
   (1)産総研 幹細胞工学研究センター、(2)北里大学医療衛生学部 臨床工学専攻、(3)北里大学医学部産婦人科学単位

ヒト羊膜は分娩後に医療廃棄物となる胎盤から採取されるため、廃棄細胞を有効活用でき、かつ倫理的に問題になりにくい組織のひとつである。このヒト羊膜は上皮細胞と間葉系細胞から構成され、ヒト羊膜由来間葉系幹細胞は細胞の増殖や分化を制御する増殖因子やサイトカインなどの液性因子を分泌する能力を有し、組織修復を促進する効果が期待されることから、細胞製剤として開発がすすめられている。一方、ヒト羊膜上皮細胞 (hAEC) はHLA-A, -B, -C, -DR 抗原が発現していない低免疫原性を示す細胞であることから、細胞や組織移植時に適切な生着環境を作り出すスキャフォールドとしての利用が期待されている。また、組織再生の細胞源として利用する場合未分化マーカーの発現が必須であることから、本研究ではDNA マイクロアレイを用いて、hAECにおける各種幹細胞マーカー、分泌因子等、の発現を中心に網羅的に遺伝子発現を調べた。さらに、他組織由来の上皮細胞と比較することによって、再生医療への応用の可能性を探索した。

伊藤 泰斗(1,2)、野口 隆明(1,2)、関根 麻莉(1,2)、高田 仁実(1)、栗崎 晃(1,2)/
   (1)産総研 幹細胞工学研究センター、(2)筑波大学生命環境科学研究科生物科学専攻

肺は自己修復能力が乏しく、慢性閉塞性肺疾患などの難治性疾患に対する根本的な治療方法は存在しない。このような難病に対して将来肺へ分化し増殖することのできる肺前駆細胞や肺組織細胞を作製し、肺へ移植する再生治療が期待されている。現在、ヒト人工多能性幹細胞(ヒトiPS細胞)から肺前駆細胞へと分化誘導する方法は複数報告されている。しかし、現時点での肺前駆細胞へ分化する効率は最大でも70%程度である。そのため、分化細胞は肺前駆細胞とその他の細胞の混合物であることから、腫瘍化や目的外の組織細胞の移植による予期せぬ副作用引き起こされる危険性が考えられる。これらの細胞移植治療に伴う危険性を回避するために、肺前駆細胞のみを細胞表面マーカーを用いて評価し、選別することが有効である。肺は、発生過程において胎生期の腸管から出芽した肺原基に存在する肺特異的転写因子Nkx2.1陽性の肺前駆細胞集団から形が作られる。そこで我々は、肺前駆細胞が存在するマウス胎生13.5日目の肺と胃、食道、腸の遺伝子発現をマイクロアレイ解析で比較し、さらに肺で特異的に発現する遺伝子と細胞膜タンパク質の遺伝子をマイクロアレイ解析で比較することで、肺前駆細胞特異的な細胞膜タンパク質の遺伝子を同定した。今回は、ヒトiPS細胞から分化させた肺前駆細胞を我々が同定した細胞表面マーカーを用いて選別する方法について報告する。

高田 仁実、二宮 直登、横須賀 俊喜、浅島 誠、栗崎 晃/   産総研 幹細胞工学研究センター

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、喫煙などの習慣により肺胞組織が破壊され、活動時の呼吸困難や慢性的な咳といった苦しい症状を引き起こす呼吸器疾患である。現在本疾患に対する治療として、気管支拡張剤やステロイドなどの投与で呼吸を楽にし、患者のQOLを改善させる対処療法がとられているが、破壊された肺胞組織を再生させる根本的な治療法は無い。そこで私たちは、細胞移植による新たな肺再生治療法の実現に向け、肺の様々な組織に分化する能力を持った肺前駆細胞を作製する技術の開発を試みた。  移植用細胞の作製法として、iPS細胞を分化させ目的細胞を作製する分化誘導技術の開発が進んでいる。しかしながらiPS細胞は、その高い分化・増殖能力から、目的細胞のみへの分化をコントロールすることが非常に困難である。また目的外細胞の除去方法や未分化細胞の混入によるガン化の問題も未だ解決しておらず、実用化には長い年月を要すると考えられる。これらiPS細胞における技術的課題を回避するため、私たちは新たな技術で肺前駆細胞を作製する方法を検討している。本発表では、これら肺前駆細胞作製技術の検討結果と、肺前駆細胞から様々な肺細胞へと分化させる技術について検討した結果を報告する。

須丸 公雄、森下 加奈、高木 俊之、佐藤 琢、金森 敏幸/   産総研 幹細胞工学研究センター

ヒトiPS細胞利用の検討が本格化するに伴い、細胞選別や純化処理へのニーズが高まる中、我々は独自に開発した光応答性培養基材と光マイクロプロジェクションの組み合わせにより、基材上に接着しているヒトiPS細胞を自在に並べ、切り出し、選り分ける新技術を確立した。 ヒトiPSを含む幹細胞の維持培養や分化誘導などの系では、多種多様な細胞が基材に接着し、かつ互いにつながった状態で混在するが、こうした培養系のプロセシングは、スクレーパーによるかき出し、ピンセットやローラーカッターを用いた切断やピペッティングによる細分化といった、操作者の手技に頼るのが現状であった。 我々が開発した新しい細胞プロセシングツールは、イメージングサイトメトリーなどの画像技術との親和性も高く、これらに基づく自動化が容易である上、マイクロ流体システムなどの閉鎖無菌系内で培養される細胞にも適用可能である。

高山 祐三(1)、櫛笥 博子(1)、渋谷 陽一郎(1,2)、中須 麻子(1)、木田 泰之(1)/
   (1)産総研 幹細胞工学研究センター、(2)国立大学法人筑波大学 臨床医学系 形成外科

糖尿病の治療法はインスリン注射が一般的であるが、日常的な自己管理の困難さや注射時の痛みが大きな問題となっている。ヒトiPS細胞を利用した膵b細胞誘導・培養技術の開発は、膵b細胞の自家移植を可能とする次世代糖尿病治療法として注目を集めているが、 正常生体における血中インスリン濃度は自律神経信号や各種ホルモン作用により厳密な制御を受けているのに対して、多能性幹細胞より誘導・培養した膵b細胞はこれら制御機構とは独立しており、また細胞自体のインスリン分泌のグルコース応答性といった特性が劣る等その機能には不十分な点があり、 実際に幹細胞由来膵b細胞を用いた移植治療の実現には至っていない。これに対して、我々は「神経インターフェース技術を利用した工学的アプローチにより膵b細胞のインスリン分泌を制御する手法開発と移植デバイス化」を行うことを目指してきた。 生体内の膵b細胞は自律神経系の作用によりインスリン放出活性化と抑制化が行われており、生体外においても自律神経シグナルの人為的制御を介したインスリン分泌機能の精密調節が期待できる。これに基づき、幹細胞・体細胞より誘導した膵b細胞と自律神経細胞を集積したデバイスを作製し、 血糖値変化に基づいた電気刺激を自律神経組織に加えそのシグナルにより膵b細胞のインスリン分泌を制御することで、新規糖尿病治療手法として確立することを目指している。
6:LEAD関係  (P039~P052、P147)

坂無 英徳(1)、野里 博和(1)、高橋 栄一(1)、村川 正宏(1)、古川 功治(2)、山崎 和彦(2)、久保田 智巳(3)、柳 哲雄(4)、平山 謙二(4)/
   (1)産総研 情報技術研究部門、(2)産総研 バイオメディカル研究部門、(3)糖鎖医工学研究センター、(4)長崎大学 熱帯医学研究所

クルーズ・トリパノソーマ(Trypansosoma cruzi)は、代表的な「顧みられない熱帯病 (Neglected Tropical Diseases; NTD)」として知られ、心臓や消化管に重篤な障害をもたらすシャーガス病を引き起こす寄生原虫である。 ヒトへ感染すると、細胞内で増殖するアマスティゴートや、鞭毛を持つトリポマスティゴート(TM)への変態を経て拡散する。 新規抗原虫薬開発の際の候補化合物のスクリーニングにおいて、人間の目視計測による動くTMの出現数に基づく薬効判定はスループットが低く、創薬のボトルネックとなっている。そこで我々は、計数の負担軽減と高速化を可能にする画像処理技術を開発した。 本技術では、ノイズ除去などの処理を施した動画像から特徴量(立体高次局所自己相関特徴)を算出し、多変量解析により回帰モデルを生成した後、検査対象の動画像から算出した特徴量を回帰モデルに当てはめてTMの推定数を得る。 立体高次局所自己相関特徴を採用することで、動画像中の計数対象であるTMを個々に切り出さなくても、その形や動きの様子を捉えることが本技術では可能となった。マウス脳由来繊維芽細胞内で増殖したT.cruzi Tulahuen株の培養上清を撮影した動画像を用いて検証し、本技術による推定数と専門家により目視計測されたTM数が充分な精度で一致することを確認した。

山崎 和彦(1)、谷 修(1)、田辺 英紀(2)、本坊 和也(2)、山口 智彦(2)、新美達也(2) 、生田目一寿(2)、久保田智巳(3)、古川功治(1)、阪下日登志(2)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)アステラス製薬株式会社・創薬化学研究所、(3)産総研 糖鎖創薬技術研究センター

立体構造情報を利用したfragment-based drug discovery (FBDD)における最初のステップは、フラグメント化合物(分子量300程度以下の低分子)のライブラリーより、複合体立体構造が得られる可能性が高い化合物を選別することである。標的タンパク質(主に酵素)の阻害活性や結合活性など、多特性の指標を多手法によって評価することにより、信頼性の高い結果を導くことがその後の展開の成否を分けると言ってよい。 NMRは汎用性が高く、最も情報量の多いスペクトル分光法である。基質、生成物、化合物、標的タンパク質由来のシグナルを指標とし、様々なパルス系列により、多くの特性を独立に評価できる。本発表では、顧みられない熱帯病治療のためのFBDD共同研究において、1)生成物のシグナルを指標とした酵素反応の定量と化合物による阻害活性の評価、2)化合物のシグナルを指標としたwaterLOGSY法によるタンパク質との結合評価を行った結果について、報告する。現段階では、特に、後者による結合検出と複合体立体構造が得られる可能性の相関が高いと考えている。なお、選別スクリーニングにおいては、膨大な数の化合物を効率的に取り扱う必要があるが、産総研では、試料自動交換機を用いることにより、数百の試料を一度に処理することが可能である。また、これに付随し、waterLOGSY法における結合の有無を自動判別するプログラムも作成した。

鈴木 祥夫(1)、千葉 靖典(2)、丹羽 修(1)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)糖鎖医工学研究センター

 これまで生体分子を検出するための蛍光分子プローブの開発の一環として、シアノピラニル基誘導体を基本骨格とした蛍光分析試薬を系統的に設計・合成し、タンパク質との相互作用について評価を行ってきた。さらに、ダンシル基を基本骨格としたタンパク質および核酸検出用蛍光分子プローブの開発にも成功している1)、2)。  本研究では、シアノピラニル基とダンシル基誘導体の新たに見出した性質として、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に着目し、ダンシル基をエネルギードナー、シアノピラニル基をエネルギーアクセプターとした新規FRET型センサーを開発し、蛍光の"on-off”を用いてタンパク質の検出を行うことが出来た。さらに、本法をレクチンによる糖鎖検出に応用し、一例としてコンカナバリンAをシアノピラニル基で標識化、さらにマルトースをダンシル基で標識化することにより、糖鎖-レクチン間の相互作用をダンシル基-シアノピラニル基間の距離に依存したFRETを用いて検出することに成功した。  このような試薬を用いることにより、タンパク質等の生体分子を高感度かつ簡易的に検出することが可能になると考えられる。
【参考文献】1) ELECTROPHORESIS, 34, 2464 (2013) 2) Bioorg. Med. Chem. Lett., 23, 6123 (2013)

宮岸 真(1)、萩原 義久(2)、中島 芳浩(2)、小島 直(3)、赤澤 陽子(2)、安部 博子(2)、小松 康雄(3)/
   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)産総研 健康工学研究部門、(3)産総研 生物プロセス研究部門

核酸医薬品は、がん等の難治療疾患に対する次世代医薬品として、大きな期待を集めている。しかし、疾患部位への有効なターゲッティング法の開発が進んでおらず、その技術開発が大きな課題となっている。我々は、この課題を解決するために、複数の技術要素を複合的に組み合わせた分子複合マテリアルの開発を行っている。ターゲッティング法として、疾患部位の受容体に対するラクダ科抗体(VHH抗体)を用い、核酸とVHH抗体を選択的に結合するリンカーの開発 を行う。また、作成 した核酸分子複合マテリアルを動的、定量的に評価するために、レセプターの細胞内移行を容易に観察でき、さらにノックダウン効果のリアルタイム測定を可能とする2色ルシフェーラーゼレポーターを有する安定細胞株の構築を進める。発表では本プロジェクトの現在までの進捗状況について報告する。

野中 元裕、藤森 智子、木村 忠史、福田 道子/   産総研 糖鎖創薬技術研究センター

糖鎖は核酸、タンパク質と並んで生体における必須の構成要素であるものの、その構造の多様性および不均一性から解析が難しい。また、糖タンパク質を応用した治療薬開発は糖鎖の化学合成が難しいことから極めて困難であると考えられている。それに対して我々は、ファージディスプレイ法によって糖鎖に類似した構造を持つペプチドを単離同定することで、均一な糖鎖模倣体を得る技術を有している。ファージディスプレイ法は、ランダムに生合成させたペプチド断片を、T7ファージの頭部を構成するg10タンパク質に融合させ提示することで、抗体の多様性に匹敵するほど(>10 10)の種類から標的分子に特異的に結合するペプチドを一日以内で同定することができる手法である。糖鎖に対するモノクローナル抗体を標的としてファージライブラリースクリーニングを行うことで抗体に嵌り込む糖鎖模倣ペプチドを得ることができる。この技術によって、糖鎖の合成上の問題点を迂回でき、糖鎖模倣ペプチドに基づく新しい薬剤候補が同定可能になり、従来の方法では見出されなかった新規薬剤が開発されると考えられる。

安形 清彦(1)、佐藤 隆(1)、木村 忠史(1)、舘野 浩章(2)/   (1)糖鎖医工学研究センター、(2)産総研 幹細胞工学研究センター

 疾患の発症や進行に伴う病巣組織の性質の変化は、疾患細胞膜上あるいは分泌されるタンパク質上の糖鎖に現れることが数多く報告されている。糖鎖センターでは、実際に、血中タンパク質の微少な糖鎖変化に注目し、疾患の進行を定量的に検出できる診断薬を開発してきた。このことは、疾患細胞に特有の糖鎖変化を標的として治療薬を開発できる可能性を示唆している。従来の抗体薬開発は主にタンパク質を標的とする技術に依存しているが、本研究課題は糖鎖も含めた糖タンパク質を標的分子とした新しいコンセプトによる独自の生体適合分子の開発を進めている。  肝臓疾患の細胞表面マーカーや疾患に関わる糖タンパク質(標的分子)と結合するプローブの開発を目的として、i) ファージディスプレイの系を用いて結合ペプチドのスクリーニングを行っている。さらに、ii) 産総研オリジナル技術であるPERISS法を用いて疾患特異的分子に結合するペプチドを創製することやiii) 糖鎖を特異的に認識する低分子ペプチドを創出する技術の開発とiv) 糖鎖を認識する抗体(scFv)をファージライブラリーより取得することを目的としてとしてスクリーニングを行っている。また以上の基本開発項目に加えレクチンの医用応用等も研究している。本発表会では、各スクリーニングのコンセプトと実施例を紹介する。

堀本 勝久、福井 一彦/   産総研 創薬分子プロファイリング研究センター

創薬プロセスにおいて、実験科学主導のセレンディピティ―に依存した探索的なアプローチが主流であり、計算情報科学は補填的役割です。一方、システム薬理学は、計測データと知識情報からなる創薬ビッグデータの数理情報解析による仮説検証型の創薬、「デジタル・イニシアティブ創薬」を目指しています。

清水 明(1)、佐藤 隆(1)、舘野 浩章(2)、久保田 智巳(1)、成松 久(1)、千葉 靖典(1)/
   (1)産総研 糖鎖創薬技術研究センター、(2)産総研 幹細胞工学研究センター

【背景・目的】 マメ科レクチンに属するノダフジレクチン (Wisteria floribunda agglutinin, WFA) はN-アセチルガラクトサミン (GalNAc) 残基を含む糖鎖を認識することが知られている。我々は近年、WFAが肝内胆管がん、肝繊維化、肝硬変、上皮性卵巣がんのバイオマーカー検出に有効であることを報告してきた。本研究ではWFAをより広く活用させるため、遺伝子工学的手法を用いた組換え型WFAの酵母での調製と糖鎖認識特異性について検討を行った。 【方法・結果】 WFA野生型 (WT)、二量体形成への関与が示唆されている272残基目のCysをAlaに改変した変異体 (C272A)、 N-型糖鎖付加部位である146残基目のAsnをGlnに改変した変異体 (N146Q)、さらにC272AとN146Qの二重変異体 (N146Q/C272A) をメタノール資化性酵母Ogataea minuta (O.lindneri) で発現させることに成功した。ついで精製した組換え型WFAの糖鎖認識能を糖鎖アレイで解析した結果、N146Q/C272A組換え体はLacdiNAc (GalNAcβ1,4GlcNAc) を特異的に認識することが明らかとなり、酵母で特異的糖鎖認識能を持つ組換え型WFAを生産できることが可能となった。

佐藤 隆(1)、舘野 浩章(2)、梶 裕之(1)、千葉 靖典(1)、久保田 智巳(1)、平林 淳(2)、成松 久(1)/
   (1)糖鎖医工学研究センター、(2)産総研 幹細胞工学研究センター

 糖鎖医工学研究センターにおける疾患糖鎖バイオマーカー開発のためのグライコプロテオミクス戦略において、特定のタンパク質上のノダフジレクチン(WFA)認識糖鎖が肝内胆管がん、肝線維化、肝硬変、上皮性卵巣がんなどの疾患で、患者と健常者とを見分けるバイオマーカーとして有効であることを見出してきた。このレクチンは、GalNAc含有糖鎖を認識するプローブとして古くから組織染色や様々な生化学実験に用いられているが、そのアミノ酸配列や認識する糖鎖の詳細な構造は明らかになっていない。本研究では、疾患で変化するWFA認識糖鎖の詳細を明らかにするため、ノダフジ種子よりWFAをコードする遺伝子を単離し、リコンビナントレクチンを作製して糖鎖結合特異性の詳細な解析を行った。さらに、アミノ酸置換の導入により、糖鎖認識特異性が異なる改変レクチンの開発にも成功した。これらの結果は、より高感度のバイオマーカー検出システムの開発に有効であると考えられる。

梶 裕之/   産総研 糖鎖創薬技術研究センター

疾患に伴う糖鎖変化を指標としたバイオマーカーを開発する戦略では、はじめに疾患に伴う糖鎖変化を検出する。この変化は、レクチンマイクロアレイ分析を用いた比較糖鎖プロファイリングによって最も感度よく検出され、検出と同時にプローブとなり得るレクチンを選択できる点で優れている。最近は、FFPE(ホルマリン固定パラフィン包埋)簿切試料(病理標本)を材料に、極めて局所的な微小領域の糖鎖変化を検出できるように改善され、これまでより疾患細胞選択的な糖鎖変化が検出できるようになった。マーカー開発のパイプラインでは、ついで、レクチンアレイ分析で選択されたレクチンをプローブとして、疾患特異的な糖鎖をもった糖タンパク質を捕集し、同定する。このためには、糖タンパク質同定の分析スケールをレクチンアレイ分析並みに微小化し、候補タンパク質の選別を開始するに足る充分数の糖タンパク質を同定できなければならない。そこで本研究は、マウスの肝臓をモデル試料として、質量分析を基盤とした糖タンパク質の同定及び構造解析技術を改善、微小化することを目的に行った。  はじめに糖タンパク質同定手法をスケールダウンして、出発材料の量と糖タンパク質同定数の関係を確認したのち、反応条件などを検討し、FFPE簿切試料からの同定を試みた。マウス肝臓のFFPE切片(ヘマトキシリン染色)の1mm2相当の試料から約130種の糖タンパク質の検出が可能になった。

七里 元督、萩原 義久/   産総研 健康工学研究部門

マラリア感染症は全世界で年間2億人以上の患者が発生し、66万人が死亡する最も恐ろしい感染症である。決定的な治療法は未確立であるが、ビタミンEの欠乏でマラリアに抵抗性を持つことが知られていた。そこで血中ビタミンEが枯渇するマウスにマラリア原虫を感染させたところ、耐性を獲得することを認めた(Herbas MS et al Am J Clin Nutr. 2010)。ビタミンEは食物に豊富に含有されるため、マラリア治療としてビタミンEの制限を利用することは困難であった。一方、高脂血症治療薬のプロブコールに血中ビタミンE低下作用があることを見出していた(J Nutr Biochem. 2010)。以上の知見を元に、プロブコールをマウスに前投与しマラリア感染を行ったところ、マラリア原虫の増殖を抑制し、マウスの生存率を改善できた。本知見はマラリア感染症に対する新しい治療戦略となる可能性がある。

栗崎 晃(1)、王 瑩瑩(1,2)、石嶺 久子(1)、周 鋭(1,2)/   (1)産総研 幹細胞工学研究センター、(2)JSPSフェロー

膵臓癌はわが国で癌の死亡率第4位であり、予後が悪く死亡率が極めて高い難治癌である。膵臓癌に対する抗癌剤は、含フッ素ヌクレオシドのゲムシタビンやS-1が標準治療薬として現在使用されているが、半年ほどの生存期間の改善が見られるものの、多くの患者は耐性癌により1-2年で命を落とし、5年生存率は僅か数%と絶望的である。一方、近年膵臓癌においては、癌幹細胞が抗癌剤耐性の癌を再発させることが明らかになりつつある。我々は、多能性幹細胞から膵臓組織細胞を分化させる効果のある強力な化合物候補を材料に、膵臓癌幹細胞の自己複製能を抑制し、癌幹細胞を分化させる化合物を探索した。現在、有望化合物の効果について、自己増殖能と癌幹細胞マーカー発現の消失、分化マーカーの発現上昇等を指標にin vitroで検証中である。さらに、実際に本分化促進薬の有効性を膵臓癌幹細胞移植ヌードマウスを用いてin vivo試験にて実証中である。

肥後 範行、長坂 和明、松田 圭司、高島 一郎/   産総研 ヒューマンライフテクノロジー研究部門

高齢化社会において脳卒中後の後遺症は大きな問題である、中でも脳卒中後に多く生じる後遺症の一つである痛み(疼痛)は、患者の大きな苦しみとなっている。 その典型ともいえるのが、視床の梗塞や出血後にしばしば生じる視床痛である。しかしその発症メカニズムは充分に理解されておらず、治療法も確立されているとは言い難い。ただし近年になって、脳卒中後疼痛のモデル動物が提唱され、発症メカニズムの解明が進められている。最近、我々はマカクサルを用いた視床痛モデルを開発した。このモデルでは、コラゲナーゼIVを視床後外側腹側(VPL)核に注入し、局所的な損傷を作成している。圧刺激を与えた時の逃避反応と、50℃の高温刺激の逃避行動を計測した結果、損傷三週間以降に損傷半球と対側の上肢において逃避行動の増加が示された。視床痛患者と同様に、弱い感覚刺激に対しても疼痛を感じるアロディニアと呼ばれる症状が発症していると考えられる。さらに脳活動の変化を機能的MRIにより計測したところ、VPL核損傷後のアロディニア症状の発症と並行して大脳皮質の前帯状皮質および島皮質において、損傷前には見られなかった高い活動が計測された。これらの領域の高活動は視床痛患者でも報告されており、サル視床痛モデルでも脳の機能的変化が生じていると考えられる。モデル動物を用いた研究を進めることで、視床痛の革新的な治療技術の開発につながる可能性がある。

波平 昌一、栗田 僚二/   産総研 バイオメディカル研究部門

 多発性硬化症(脱髄疾患)は、神経細胞の髄鞘形成に預かる希突起神経膠細胞(オリゴデンドロサイト)の細胞死や機能異常に因るが、その後天的発症原因は未だ不明である。本研究はDNAメチル化因子と新規メチル化定量マイクロデバイスを利用し、多発性硬化症発症の分子基盤を解明するとともに、その根本治療に対する創薬スクリーニングのための新規モデル動物、及び評価系マイクロデバイスの開発と提供を目指す。  これまでに我々は、モデル動物となり得る新規DNAメチル化酵素欠損マウスを開発し、そのマウスが多発性硬化症の特徴的症状の一つである脳内における炎症反応の亢進を示すことがわかった。今回はそれらの結果について報告する。

清水 佳奈(1)、縫田 宏治(1,2)、花岡 悟一郎(2)、Martin Frith(1)、富井 健太郎(1)、光山 統泰(1)
池上 努(3)、小島 功(3)、津田 宏治(1,4)、浅井 潔(1,4)、〇 Paul Horton(1)/
    (1)産総研 ゲノム情報研究センター、(2)産総研 セキュアシステム研究部門、(3)産総研 情報技術研究部門、(4)東京大学

背景:個人ゲノムの時代は到来しつつある。遺伝子検査分野に国内だけで700以上の事業者が参入している上、国内外で癌患者などの臨床シーケンシングは急速に普及してきている。癌はゲノム変異に起因する疾病であり、他の疾病についても遺伝要因による罹患リスクが大きいため、個人ゲノム情報の活用に対する期待は極めて大きい。しかし、この大量なゲノム情報を安全に活用する情報技術の開発は追いついておらず、ゲノム情報の有効利用をさまたげている。 手法:類似配列検索技術、準同型暗号などの要素技術をゲノムアラインメント及びゲノム情報の秘匿検索に応用して研究開発を進めている。 結果:ヒトとチンパジー及びマウスのゲノム比較において世界のde facto standardであるUCSCのウェブサイトより高精度なゲノムアラインメントが得られた。また、この配列検索技術を癌患者の臨床シーケンシングデータからゲノム変異を検出する問題に応用し、競合する解析ソフトウェアの結果と比較した。ゲノムプライバシー保護においてはアレル頻度の秘匿検索システムを開発し、東北大学・東北メディカル・メガバンク機構にて実証実験を行った。
7:創薬  (P053~P057)

高原 翼(1,2)、伊藤 薫平(1,2)、川崎 陽久(1)、鈴木 孝洋(1,3)、坂田 一樹(1,2)、辻 昭久(4)、森山 茂(5)
築野 卓夫(5)、泉 香津代(6)、仲尾次 浩一(6)、石田 直理雄(1, 4)/
   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)筑波大学 生命環境科学研究科、(3)株式会社シグレイ、(4)日本アドバンストアグリ株式会社
(5)築野食品工業株式会社、(6)ピアス株式会社

現代において、認知症をはじめとした神経変性疾患は、非常に深刻な社会問題となっている。 高齢化社会の到来に伴い、これら疾患の治療や予防等の対策を確立させることが急務である。 神経変性疾患の研究には、通常、ヒトの培養細胞や哺乳動物を用いた実験が行われる。 しかしながら、細胞培養実験は生命現象のごく一部のみが反映された実験系であり、また、通常のマウス・ラットを用いた動物実験は、実験結果が出るまでに多大な時間が費やされるばかりか、近年は動物愛護の観点から、これまでのような実験が行いにくくなってきている。そこで我々は、ヒトの神経変性疾患を再現したショウジョウバエを作製した(PLoS One.2013 Aug 2;8(8):e69147, Labio21.2014.No55,pp.21-15)。さらにショウジョウバエに飢餓ストレスを与える事で、 約3日間という短期間で寿命測定する新しい系(ASアッセイ:Accelerated Starvation assay)を開発した。これらの系や最新の評価法を組み合わせることで、神経変性疾患に効果的な薬剤の選別を行っている。これら最新のアッセイ法を用いる事で、医薬品や健康食品などを効率よく開発できる事が期待される。

川口 佳代子(1)、朱 耘(1,2)、木山 亮一(1)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)サイネット カンパニー

エストロゲンは女性ホルモンとして、女性生殖器の発達などに関わることが知られている。その作用は、細胞の核内に存在するエストロゲン受容体に結合することで始まり、特定のシグナル伝達経路を介し、遺伝子群の転写を上昇・減少させる。本研究では、植物エストロゲンを主な仲間とした8種類のリグナンについて、a)細胞増殖アッセイ、b)DNAマイクロアレイアッセイ、c)定量的遺伝子機能プロファイリングにより細胞内エストロゲン活性の評価を行い、d)ウエスタンブロット解析によるエストロゲン受容体経路のタンパク質のリン酸化活性の変化を調べることでシグナル伝達経路の解析を行った。各リグナンとエストロゲン(17β-estradiol、E2)との間の遺伝子発現プロファイルの相関を分析した結果、E2と各化合物との間に高い相関係数が得られた。また、遺伝子を6つの機能グループに分け評価したところ、一部の機能グループでは共通の応答を示すことがわかった。さらに、リグナンの細胞内のErk/Akt/P70S6Kシグナル伝達経路に対する影響を調べた結果、エストロゲンと同様のリン酸化活性の変化が確認された。以上のことから、リグナンは細胞核内においてエストロゲン受容体 (ER) を介したシグナル伝達が行われていると考えられる。これらの知見は、医薬や創薬、食品などの分野に有用な情報を与える可能性が示唆される。特に、ホルモン依存性疾患の有効な代替薬になり得るかもしれない。

朱 耘(1,2)、木山 亮一(1)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)株式会社 サイネット カンパニー

本研究では、カプサイシンがエストロゲン様作用を示すことを報告する。E2およびカプサイシンはシグナルメディエーターであるErk、AktおよびP70S6Kを活性化した。この活性化は両方ともEGFRの阻害剤によって阻害された。カプサイシンによる活性化はERの阻害剤では阻害されなかったが、カプサイシン受容体TRPV1の阻害剤によって阻害された。ケモカインの1種であるMCP-1はPI3K/Akt/mTOR経路を介してERaを活性化すると考えられている。E2の刺激によってMCP-1の転写およびタンパク質産物の活性化が起こったが、カプサイシンによる活性化は見られなかった。以上の結果、カプサイシンおよびE2のシグナル伝達は異なる受容体によって開始されるが、カプサイシンは、PI3K/Akt/mTOR/P70S6K経路をE2と共有することによってエストロゲン様効果を示し、さらに、そのエストロゲン効果はEGFRのような他の受容体とのクロストークを介している可能性が示唆された。その上、カプサイシン及びE2はCyclin D1やp27kip1のような細胞増殖に関係する因子の調節には異なる結果を示した。以上の結果、シグナル伝達経路の解析によってもカプサイシンは細胞増殖活性を持たないサイレントエストロゲンであると考えられる。

村木 三智郎/   産総研 バイオメディカル研究部門

Fasリガンドは標的細胞に発現するFasレセプターの細胞外ドメインと特異的に結合することにより細胞死や炎症を誘導し、がんや関節リウマチを始めとするヒトの重大な疾病の発症に深く関係していることが示唆されている。ヒトFasリガンド細胞外ドメインのN末端部位にシステイン残基を含むタグ配列を含む誘導体をこれまでに構築したピキア酵母を宿主とする発現系を利用して生産し、その生物活性を損なうことなく部位特異的化学修飾による疾病の治療や診断等に有用な誘導体を調製するための基礎となる手法を開発した。 文献等:M. Muraki, BMC Biotechnol., 14:19 (2014)
村木, 蛋白質科学会アーカイブ, 7, e078 (2014)
村木、特願2014-004933。

佐藤 琢(1)、楢崎 元太(2)、宗平 洋一(2)、小林 英毅(2)、杉浦 慎治(1)、金森 敏幸(1)/   (1)産総研 幹細胞工学研究センター、(2)第一三共株式会社

血管内皮細胞の機能評価のため、生体内と同様のずり応力を負荷可能な灌流培養チップを開発した。培地循環を空気圧で行うことにより、培養環境をチップ内に限定して清浄性の維持を容易にするとともに、多数の培養系の並列処理を簡便に行うことができる。
8:疾患  (P058)

七里 元督、吉野 公三/   産総研 健康工学研究部門

ストレスは身体的、社会的に重篤な状態(うつ病、胃潰瘍、過失事故、過労死など)を引き起こす要因となるが、客観的に評価できるバイオマーカーは確立されていない。我々は、ストレスマーカーを同定することを目的として、マウスに対してストレス(水浸拘束負荷)を負荷した。脂質由来の酸化生成物を多項目測定したところ、血漿中で著増する脂質酸化物を同定した。また、このストレスに伴う脂質酸化物の生成には、脂質酸化酵素が関与する特異的な反応であることを見出した。
本研究ではストレスやストレス関連性疾患の新規バイオマーカーとしての有用性をヒトへのストレス負荷による検証を行っており、また今回見出した脂質酸化物のストレスにおける生理的意義の解明を行っている。
9:がん  (P059~P065)

岡田 知子(1)、倉林 睦(2)、降幡 睦夫(2)、今村 亨(1)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)高知大学医学部

We have established a highly bone marrow metastatic mouse breast cancer cell line, 4T1E/M3. While metastatic potential of 4T1E/M3 to bone was quite high when injected intravenously to mice, it was rather low when injected subcutaneously. Then using these cells, we carried out the in vitro and in vivo selection and established higher bone metastatic cells, FP10SC2, which have a very high potential of metastases to lungs and spines when subcutaneously injected to mice. DNA microarray analysis revealed that the gene expression of cadherin17 was upregulated in these cells. When the expression of cadherin17 was suppressed by RNAi, the anchorage independent growth and migration activity was dramatically decreased and metastatic activity to spines was significantly reduced. Taken together, it was suggested that cadherin 17 plays an important role on breast cancer metastasis to bone marrow.

長崎 玲子、上田 太郎、藤田 聡史、長崎 晃/   産総研 バイオメディカル研究部門

細胞運動は発生過程における胚形成や形態形成、成体においては創傷治癒や再生に関与している。また、細胞運動とガンの浸潤・転移には密接な関連があることから、細胞運動関連遺伝子は創薬の標的になり得る。しかし、細胞運動の制御機構は階層的で非常に複雑であるため、その全貌は未だ明らかになっていない。一般に、細胞運動のプロセスは様々なセルイベントが高度に協調される必要があると考えられており、各セルイベント内における制御メカニズムについては明らかになってきたが、それぞれのセルイベントを時空間的に統括制御する仕組みに関しては包括的な理解が進んでいない。そこで、細胞運動における制御ネットワークを明らかにするために、ラット膀胱がん細胞と細胞性粘菌を用いて遺伝子スクリーニングを行った。本報告ではこれらの候補遺伝子群の細胞生物学的アプローチとパスウエイ解析の結果について報告する。

飯竹 信子(1)、Dilibaier Wuxiuer(1)、朱 耘(1)、魚返 拓利(1)、水城 圭司(2)、柏 裕樹(3)、西 健太郎(3)
磯部 信一郎(3)、青柳 貞一郎(4)、木山 亮一(1)/
   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)崇城大学工学部、(3)九州産業大学工学部、(4)東京医科大学茨城医療センター

我々は、従来の色素に比べて熱・乾燥・光に対し安定な新しい蛍光色素Fluolidを用いて各種ヒト腎癌病理組織切片(淡明腎細胞癌、乳頭状腎細胞癌、嫌色素性腎細胞癌、透析腎癌、腎血管筋脂肪腫)の多重蛍光免疫染色を試みた。抗Kank1抗体、抗CK7抗体、抗CD10抗体を1次抗体とし、それぞれFluolid-Green、Fluolid-Orange、Alexa Fluor 647で標識した2次抗体を用いた。その結果、Kank1とCK7は正常腎組織、乳頭状腎細胞癌、透析腎癌で陽性だったが、その他の癌組織では弱陽性、あるいは陰性であった。一方、CD10は正常腎組織、乳頭状腎細胞癌、透析腎癌、淡明腎細胞癌、腎血管筋脂肪腫で陽性だったが、嫌色素性腎細胞癌では弱陽性を示した。また、我々はFluolidの蛍光安定性について調べた。免疫染色を行った直後とその組織切片を3年間室温で保管した後にそれぞれの蛍光を比較したところ、Alexa Fluor 647は退光が認められた。一方、FluolidはAlexa Fluor 647のような著しい退光が認められなかった。したがって、Fluolidを用いた多重蛍光免疫染色は、ヒト腎癌のサブタイプを分類するのに有用であるだけでなく、蛍光免疫染色検体を長期間保存できるという点で、これまでの病理診断における蛍光免疫染色法に対する認識を大きく変えるものと期待される。

池原 譲(1,3)、鳥村 政基(2)、愛澤 秀信(2)、佐藤 浩昭(2)、榊田 創(3)、金 載浩(3)、井上朋也(4)
小倉睦郎(5)、岡崎俊也(6)、湯田坂雅子(6)、都 英次郎(6)/
   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)産総研 環境管理技術研究部門、(3)エネルギー技術研究部門
(4)産総研 集積マイクロシステム研究センター、(5)ナノエレクトロニクス研究部門、(6)ナノチューブ応用センター

日本ではすい臓がんにより、28829人が死亡している(2011年)。すい臓がんと診断された患者の平均生存期間は、約6か月であり、現在もなお悪性度の高いがんの一つとされている。膵臓癌は、他のがん等と異なり、科学技術による死亡率の改善が反映されていないという特徴があり、がん研究戦略「今後のがん研究のあり方について」(平成25年厚生労働省がん対策推進協議会報告書)では、解決の必要な難治性がんの代表例として膵臓癌が名指しされ、「従来のアプローチとは異なる学問横断的な取り組み」で行う「高度画像診断やがんの存在診断技術の研究開発」を推進する必要性が強調された。 この状況を鑑みて我々は、すい臓がんを標的疾患に、融合・連携推進戦略予算による支援を受けて「産総研に強みのある工学技術を結集した融合研究」を展開した。例えば、光通信での使用を目的に開発された「InGaAs結晶半導体」を高感度な近赤外光イメージングの開発に転用し、半導体製造・核融合のために研究されてきた「プラズマ技術」は、低侵襲な止血を実現する技術へと転用を試みたのである。近赤外光イメージングは、膵臓癌の存在診断を可能にする画像診断装置を、プラズマ止血は、術後合併症のリスクを大幅に改善する低侵襲手術の実現を確実なものとする状況となり、産総研オリジナルの新規医療デバイス創成に成功している。現在、企業を通じた実用化を推進しているところでありその成果概要を紹介する。

ナシル・ハジ・マミテリ、岡田 知子、海老原 達彦、佐藤 主税/   産総研 バイオメディカル研究部門

ASEMは、薄膜で真空を遮断することで開放大気中の水溶液サンプル中を観察できる倒立型の走査電子顕微鏡(SEM)である。 取り外し可能なASEM ディッシュと共に開発された。電子線を透過する薄膜窓を底に備えた35mm 径のサンプル dish であり、この容器中で様々な細胞を CO2 培養槽内の安定環境で培養し、固定後に電顕ステージにのせることにより10 mg/ml グルコース溶液中で観察できた。分解能は 8 nm である。観察できる範囲は、加速電圧30kVでSiN膜から2-3micro meterである。 ASEM では凍結薄切が要らず、水環境のままで直接観察ができるため、癌の術中迅速診断を飛躍的に早くする可能性がある。そのため、ここではマウスをモデルに、観察を行った。正常マウスと乳癌転移マウスの組織を、TI-ブルー/PTAで染色し比較した観察では、特に肺と脊髄で明解な差が得られた。肺も脊髄も、極めて乳癌の転移を受け易い組織であることが知られている。肺では、肺胞組織に食い込むように存在する細胞隗中に、大きな核の細胞が顕著であった。また、脊髄では転移後に繊維に沿って集合している細胞集団で、大きな核が顕著であった。染色手法のさらなる改良によって、本方法は、術中迅速診断および腎疾患診断さらには基礎生物学研究、発酵工学を含む食品科学、物性・材料分野など様々に応用されることが期待される。

三澤 雅樹(1)、栗林 翔太(2)、佐藤 昌憲(2)、清水 森人(3)、藤田 克英(4)、高橋 淳子(5)/
   (1)産総研 ヒューマンライフテクノロジー研究部門、(2)駒澤大学、(3)産総研 計測標準研究部門
(4)産総研 安全科学研究部門、(5)産総研 バイオメディカル研究部門

X線照射によって金ナノ粒子から電子が発生し、活性酸素(ROS)発生を促進する現象を利用し、放射線治療の治療効果を高める研究を行っている。 本研究では、X線及び電子線の治療機を用いて金ナノ粒子による活性酸素発生、腫瘍細胞影響を評価した。 治療用リニアックからの10MVの高エネルギーX線を照射したとき、希釈した5~80nmの金コロイドに、活性酸素の蛍光試薬であるAPFを添加し、X線照射後の蛍光発光を測定したところ、水のみの場合に比べ、5~8倍のROS発生が見られた。ROSの発生は濃度依存的、吸収線量依存的であった。 次に、同じ金コロイドをHeLa細胞の培地に混合し、24時間培養した後、治療用X線を照射しところ、LQモデルの評価において、1.1~1.4倍の増感率が得られた。結果として、治療用の10MVX線で照射したとき、金コロイドの活性酸素発生とHeLa細胞の生存率の間に相関があることがわかった。

稲垣 勇紀(1,2)、宮本 良一(2)、櫛笥 博子(1)、木田 泰之(1)、小田 竜也(2)/   (1)産総研 幹細胞工学研究センター、(2)筑波大学・消化器外科

Intractable cancers including pancreatic adenocarcinomas face multidrug resistance due to its solid property. To attack the pancreatic intractable cancers, we are establishing protocols for advanced stromal therapies using in vitro and in vivo mouse model. As our strategies are based on cutting off the supply from surrounding stromata to tumors, our challenges are 1. generation modified mesenchymal stem cells as an artificial stroma for tumors, 2. forming and associating the cells into the tumors, 3. disappearance artificial stromata and tumors with chemical compound(s). These advanced strategies improve cancer and stroma-targeting therapies for intractable cancers.
10:免疫  (P066~P070)

辻 典子(1)、渡邉 要平(1)、佐藤 亜美(1)、杉 正人(2)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)ライフサイエンス研究所

核酸の免疫細胞に対する作用、特にインターフェロン(IFN)やサイトカイン産生に及ぼす影響についてさまざまな分子群のかかわりが明らかとなっている。核酸が腸管および全身の免疫細胞に及ぼす影響を解明することは、経口摂取された核酸の生体調節作用を考える上で意義深い。そこで本研究においては、サケ白子由来核酸(DNA-Na)と食用酵母由来核酸(RNA)を用い、マウスの脾臓および腸管免疫細胞(パイエル板細胞)に及ぼす影響をin vitro培養系を用いて調べた。 免疫全細胞を用いた際に核酸はミエロイド系細胞からのIL-12産生を促し、T細胞においては間接的にIFN-γ陽性細胞を増強した(Th1応答の促進)。一方、T細胞のみの培養に核酸(RNA)を加えた場合は、CD4陽性メモリーT細胞でサイトカイン産生が顕著に抑制される現象が観察された。RNAによる直接的なT細胞免疫応答制御機構の存在が示唆された。

辻 典子、佐藤 亜美、渡邉 要平、廣山 華子、根本 直/   産総研 バイオメディカル研究部門

【目的】生体防御と抗炎症機能は免疫機能の二つの側面であり、環境因子(病原体、腸内細菌、食物成分など)に反応して個体ごとの環境適応能力として発達する。産総研では消化管免疫機構を理解し積極的に活性制御することによって健康を回復・増進する技術を開発してきた。しかしながら特定細胞群の追跡にとどまらず、代謝経路等総体的な効果についての評価を併行して行なうための解析法は確立されていない。また、最終的にヒトの食行動を通して予防的、治療的効果を実証するためには、非侵襲的なモニタリングの手法を確立することが必須である。そこで、メカニズム推定と前駆分析として優れるNMR-メタボリック・プロファイリング(NMR-MP)法を適用して免疫応答を含む炎症の可視化を試みた。
【方法】肝炎と食物アレルギーモデルにおける炎症を解析した。健常あるいは疾患モデルマウスの凍結保存血清に重水を添加し、遠心後の上清をサンプルとした。NMRはAvance-III 500MHz分光計 (BrukerBiospin)を用い溶媒前飽和測定を行った。データ処理はAlice2forMetabolome(JEOL)を利用し、絶対値微分スペクトルを0.04ppm幅でバケット積分し、水信号部を除く240変数を用いて主成分分析(PCA)散布図を得て解析した。 【結果】散布図では炎症の強度に対応してデータの整列を認めた。標的因子の絞り込みと定量化も行っている。

郭 子進(1)、辻 典子(2)/   (1)理化学研究所 統合生命医科学研究センター、(2)産総研 バイオメディカル研究部門

Rush specific oral tolerance induction (Rush-SOTI) has been introduced in clinical therapy for allergy. First, we established an anaphylaxis mouse model and examined serum level of two important anaphylaxis-inducing factors, platelet activating factor (PAF) and histamine. Histamine was responsible for the early phase (as early as 30 min) while PAF was responsible for the late phase (after 30 min) of experimental anaphylaxis. Next, we treated the model mice with Rush- SOTI protocol and found this treatment blocked the drop of body temperature at the late phase, resembling the effect of PAF antagonist. In Rush-SOTI treated mice, PAF level in serum was significantly reduced at 30 min after challenge, indicating PAF metabolism is involved in the therapeutic effect of Rush-SOTI.

辻 典子、佐藤 亜美、渡邉 要平/   産総研 バイオメディカル研究部門

There is great interest in food functions recently, especially regulation of biological systems including immune systems. We aimed to suppress inflammation by using lactic acid bacteria (LAB) and other food components available in our regular diet. Some flavonoid compounds are reported to induce Foxp3+ cells while soy milk contains genistein and genistin. We fermented soy milk using a LAB strain, Lactococcus lactis K478 which induce high level of IL-10 production from BMDC to analyze the combinatory effects of LAB and flavonoids. Administration of fermented soy milk (FSM) to BALB/c mice induced significantly higher Foxp3+CD25+ T cells in small intestinal lamina propria, than administration of non-fermented soy milk. Furthermore, administration of FSM led to significant suppression of subsequent delayed-type hypersensitivity (DTH) and IgG antibody responses.

渡邉 要平(1)、福井 竜太郎(2)、三宅 健介(2)、辻 典子(1)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)東京大学医科学研究所 免疫・感染部門

Double-stranded RNA of lactic acid bacteria (LAB) is recognized by dendritic cells (DCs) via endosomal-TLR3 and benefits the anti-inflammatory response through induction of interferon-β (IFN-β). Here we show that LAB enhances interleukin-12 (IL-12) secretion by DCs and differentiation of IFN-γ-producing T cells in an IFN-β-dependent manner. We demonstrated that IFN-β secreted in response to LAB increased IFN regulatory factor 1 (IRF1) and IRF7 mRNA, which contribute to Il12p35 expression. The resultant induction of Tbet and IFN-γ in CD4+ T cells also occurs in vivo, where oral administration of LAB suppresses Th2 immune responses via TLR3 signaling pathway. Th1 polarization and Th2 suppression due to TLR3-mediated IFN-β production may thus confer anti-allergic or anti-inflammatory activity by commensal or probiotic LAB.
11:診断  (P071~P077)

野里 博和(1)、胡 尓重(2)、坂無 英徳(1)、高橋 栄一(1)、村川 正宏(1)/   (1)産総研 情報技術研究部門、(2)筑波大学

近年、医療分野のIT化が進み、膨大なデータが日々の診療で取得され、医療ビックデータとして診断・治療・予防などにおいて活用され始めています。しかし、検査中に医師による機器操作を必要とし、多くの判断を同時に行わねばならない内視鏡検査では、蓄積されたデータを十分に活用することが難しく、医師の経験や技量にその診断精度が大きく依存しています。そのため、コンピュータによる医療データ解析技術が求められていますが、内視鏡画像の撮影条件が一律でなく、即時処理が必要であるなどの厳しい技術課題のために、内視鏡検査における実用的な手法の確立が進んでいません。そこで本研究では、検査中に診断を支援する新たな内視鏡画像診断支援技術の開発に取り組み、世界中で高品質の検査が受診可能になることを目指します。本研究では、主に大腸内視鏡とカプセル内視鏡を対象に研究開発を行っています。具体的には、産総研独自の画像認識技術に基づいて、検査画像の幾何学的な性質を表す特徴量の抽出と解析を少ない計算量で行い、医師が診断すべき画像の選別や、映っている粘膜表面の定量的な評価を行っています。さらに、診断済み検査画像データベースと連携して、推定される重症度や、類似症例などの参考情報などと一緒に、医師にわかりやすく提示する技術開発も進めています。

愛澤 秀信(1)、森川 湧起(1,2)、佐藤 浩昭(1)、山田 和典(2)/   (1)産総研 環境管理技術研究部門、(2)日本大学生産工学部

Plasma polymerization technique has shown to be a powerful tool for surface modification. It is efficient for a wide variety of different monomers, even without regular functional groups associated with conventional polymerization, on most substrates. The films were deposited onto a quartz crystal microbalance (QCM) for further use as immunosensor. Grafting polymers from the surface will potentially increase the amount of antibody immobilized on QCM and sensitivity of immunosensor. The Atom Transfer Radical Polymerization (ATRP) approach was selected since it gives a good control of the grafted polymer. The grafting approach is being used to increase the active sensor area. In order for the device to serve as immunosensor, antibody is immobilized on the polymer grafts.

青木 寛、鳥村 政基/   産総研 環境管理技術研究部門

近年、遺伝子機能を核酸レベルで解析する手法として、蛍光標識に基づくDNAマイクロアレイ法が利用されている。一方、蛍光法に代わる手法として、安価で省スペース化が容易な電気化学的手法に基づく核酸検出法が注目されている。特に、核酸情報を環境やヘルスケアの「現場」で活用する目的には大変魅力的だ。 本研究では、簡便・迅速な網羅的核酸検出技術を目指し、電気化学的手法に基づく非標識オリゴ核酸センサアレイを開発した。これは、ペプチド核酸(PNA)をターゲット認識部位とする人工核酸プローブの微量液滴を、集積化されたマイクロ電極アレイチップの電極表面に点着させることで作製した。ターゲットとのハイブリッド形成の有無は、電気化学活性マーカーの酸化還元反応の変化により判定した。 本チップにより、ターゲットであるmRNAおよびmiRNA配列の、同時かつ再現性のある配列選択的な非標識検出に成功したので紹介する。

今場 司朗/   農研機構食品総合研究所

第3の生命鎖として重要な糖鎖の機能を詳細に解明する為には様々な構造の糖鎖を網羅的に結合させた糖鎖チップが欠かせない。わが国は糖鎖研究が盛んでそれぞれの研究室が独自の糖鎖を多数保有している。もし、この様な糖鎖を集め一つのチップ上に結合させることが出来たならアメリカ、ヨーロッパのコンソーシアムを凌駕する糖鎖チップを作製できると考えた。しかし、この様な糖鎖資源に対して欧米の様に化学修飾を行ってからチップに結合させる手法を取ったのでは手間がかかりとても欧米に追いつくことが出来ない。そこであらゆる構造の糖鎖に対してまったく化学修飾する事無くガラス基板に共有結合可能な光反応性チップを開発した。様々な構造の糖鎖をこのチップ上にスポットした後、UV光を照射するだけで簡単に共有結合しアレイ化可能という特色を持つ。このチップの有効性を検証する為に糖脂質であるGM1ガングリオシドと、二糖であるラクトースをそれぞれ様々な濃度でチップ上にスポットし、UV光により固定化した。この糖鎖チップに対してPNAレクチンを作用させると、スポット濃度依存的に蛍光強度が変わりラクトースは約250mM~500μMの範囲で直線性があり、GM1は8μM~0.1μMの範囲で直線性があった。これによりここで開発された本光反応性チップは様々な糖鎖構造を結合可能であり、かつ極低濃度でも検出可能なチップであることが確認された。

高崎 延佳(1)、萩生田 純(1,2)、成松 久(1)/   (1)糖鎖医工学研究センター、(2)東京歯科大学市川総合病院リプロダクションセンター

現在、日本国内で不妊に悩むカップルの割合が6組に1組の割合に上昇しており、不妊症カップルのおよそ半数は男性側に原因があることも明らかになってきた。最近の研究では男性不妊症のおよそ80 %が精子の運動能障害(精子無力症)であることが報告されている中で、医療現場では精子無力症の原因究明を行うことなく、体外受精などの生殖補助医療が行なわれているのが現状である。 我々は、糖転移酵素遺伝子に高い相同性を持ち、ヒト精巣特異的に発現する新規遺伝子の同定に成功し、相同遺伝子のヘテロ欠損マウスが精子運動能障害による雄性不妊の表現型を示すことを明らかにした。
更に、精子無力症と診断された患者精子を用いた同定遺伝子上の変異検出法を確立し、これまでに2例の遺伝子変異を特定した。一例については、既に開発された精子選別法によって、遺伝子変異を含まない精子を使った顕微授精を行い、女児出産に無事成功することができた。

赤澤 陽子、七里 元督、萩原 義久/   産総研 健康工学研究部門

パーキンソン病の診断は、症状の重症度を分類する尺度で進行の程度が診断され、進行の程度に応じた治療が行われる。病気の進行の速さや治療の効果は人によって異なるため、対処療法が中心となる。そのため、早期の診断と治療開始が可能になれば、飛躍的に病気の進行を遅延・抑制できると考えられるが、パーキンソン病の早期診断マーカーは未だ存在しない。 DJ-1は家族性パーキンソン病の原因遺伝子であり、その抗酸化作用はシステイン106番目(Cys106)の酸化が深く関わっていると考えられている。 本研究では、Cys106が酸化された酸化DJ-1に着目し、神経変性疾患のヒト臨床検体を測定することによりパーキンソン病早期診断マーカーとしての有用性を検証した。

田村 磨聖(1)、柳川 史樹(1)、杉浦 慎治(1)、高木 俊之(1)、須丸 公雄(1)、松井 裕史(2)、金森 敏幸(1)/
   (1)産総研 幹細胞工学研究センター、(2)筑波大学医学医療系

細胞挙動に関する生物学的解析を行うには、目的とする細胞の三次元培養環境が重要である。また、近年では3次元培養した細胞培養システムを使用する研究が増加しているため、培養した細胞を分離した上で細胞特性を解析する技術が必要となってくる。当研究機関では、アミノ基末端を有する化合物と反応する”光開裂性架橋剤”の開発に成功しており、開発した架橋剤とゼラチンを架橋することで、光分解性ハイドロゲルが作成できることが明らかとなっている。そこで光分解性ハイドロゲルへ包埋した細胞に局所光を照射することで細胞摘出を行う「3次元培養環境下における細胞の選択的摘出」に関する最新の研究成果を報告する。
12:脳神経  (P078~P084)

桑原 知子(1)、若林 玲実(1)、藤巻 慎(1,2)、浅島 誠(1)/   (1)産総研 幹細胞工学研究センター、(2)筑波大学

成体の脳内には、日々分裂し、神経新生を起こしている神経幹細胞が存在する。我々はこれまでに成体期の神経新生の基礎となる分子制御機構や、生体から比較的簡易に取り出せる嗅球由来の神経幹細胞の活用法を提唱してきた。  脳内での神経新生現象は記憶や学習機能の礎となるが、各個人のおかれた状態や環境が、神経幹細胞からの神経新生に大きく影響を及ばす。本来、成体での神経新生は個人差が非常に大きい現象であるが、近年この個人差を左右する転移遺伝子の存在が明らかになった。転移遺伝子L1はジャンプする遺伝子と知られ、L1によるゲノム改変が細胞レベルで起きることが我々の研究から明らかになった。成体の神経新生時にL1が活性化することは、ヒトの死後脳を用いた解析でもその活性化が確認されている。L1のジャンプにより、千差万別の神経細胞が出来上がり、その多様化により我々の脳機能の差や個性も作られると考えられる。多くの神経・精神疾患は、個人の状態で罹患および病態が左右されるものであり、疾患と転移遺伝子の動態がどう影響するのかを解析することは、再生医療の新たな切り口として非常に興味深い。そこで我々は、神経新生を誘導するL1およびL1の活性化を促すWntの活性化機構を比較解析した。さらにこれらの遺伝子群の活性化の変動と個体の学習能力との関連についても行動実験により解析した。その結果について紹介する。

落石 知世、戸井 基道、海老原 達彦/   産総研 バイオメディカル研究部門

アルツハイマー病の発症原因の一つとして、最近神経細胞外ではなく細胞内にオリゴマー状態で重合したアミロイドβタンパク質(Aβ)が、より強い神経障害性を持つとするオリゴマー仮説が提唱されている。そこで、Aβが神経細胞内のみに蓄積し、かつそのAβ動態を可視化できるヒトAβ1-42-GFP 融合タンパク質を発現させたトランスジェニック動物(Aβ-GFPマウス・線虫)を作製し、それらの動物の加齢に伴う神経変性の様子を解析した。その結果、細胞内Aβは動物が成熟後早い時期からシナプスの機能障害を引き起こしている可能性が示唆された。Aβ-GFP融合タンパク質の分子の重合状態を電子顕微鏡にて解析した結果、この融合タンパク質は短い重合体しか形成できず、ほぼオリゴマーの状態で存在することが明らかとなった。本モデル動物は細胞内Aβオリゴマーの機能を解析するツールとして有用であると考えられる。

梶原利一(1,4)、戸井基道(1)、桑原知子(2)、高島一郎(3)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)産総研 幹細胞工学研究センター、(3)産総研 ヒューマンライフテクノロジー研究部門、(4)明治大学理工学部

学習行動変化や病態異常を反映する匂い神経回路の解明を目指した新規実験系を構築した。記憶機能と密接に関わる嗅覚神経系は、脳底部に配置している為、神経回路機能の解析が十分に進んでいない脳部位の一つといえる。我々は、イメージング技術、多点計測技術を、モルモット単離脳標本や、マウススライス標本に適用する事で、嗅覚に関わる記憶神経回路動作が、電気刺激に対して複雑なパターンを示す事をつきとめた。また、嗅覚神経回路の機能解析を遺伝子レベル、個体レベルで、容易に行うことができ、かつ、回路機能への薬理的な作用を短期間で調査可能な系の確立を目指して、線虫の嗅覚回路イメージングシステムを新たに構築した。このシステムを用いて化学走性に関与する神経活動のライブイメージングを行い、匂い変化に伴う個々の神経の応答と伝達の様式を明らかにした。

波平 昌一、平野 和巳/
   産総研 バイオメディカル研究部門

精神疾患や脳腫瘍といった脳神経系疾患は、その発症が思春期以降となるため、原因解明や創薬開発に資するモデル細胞やモデル動物の確立が遅れている。最近、それらの発症にエピジェネティクス因子の1つDNAメチル化の制御機構破綻が起因していることが疑われている。そこで本研究では、DNAメチル化制御因子に焦点を当て、発達依存的な病態モデル細胞や動物を作製することで、脳腫瘍及び精神疾患治療に対する創薬スクリーニングのための次世代型新規研究材料の開発と提供を目指す。
本研究の遂行から、神経疾患モデル細胞の候補と成り得るヒト胎児大脳皮質由来の神経幹細胞の安定的な培養法とニューロン分化誘導法を確立することに成功した。さらに、各種阻害剤を用いてヒト神経幹細胞の分化制御に関与するエピジェネティクス制御因子の探索を行った。その結果、メチル化ヒストンタンパク質のメチル基を取り除くリジン特異的脱メチル化酵素-1 (LSD1)の阻害剤の添加により、ニューロン分化が抑制されることを見出した。今回の発表では、それらの結果について報告する。

渡辺 由美子(1)、NIK MOHD AFIZAN NIK ABD. RAHMAN(1,2)、肥後 範行(1)、高島 一郎(1)/   (1)産総研 ヒューマンライフテクノロジー研究部門、(2)プトラ大学(マレーシア)

「経頭蓋電気刺激法」という電気刺激を用いた治療方法が世界的に注目を集めている。頭皮表面の電極から弱い直流電流を流すことによりうつ病などの精神疾患の治療や脳卒中のリハビリなどに用いようとする最近注目の医療技術である。ところが刺激によって脳にどのような変化がおこるかについては未解明な点が多い。本研究では、血液脳関門という脳と血管との間にある物質交換を制限する機構に着目し、血液脳関門の透過性に経頭蓋電気刺激が影響を与えるかを明らかにすることを目的として研究を行った。結果、特定の刺激条件で血液脳関門の透過性が上昇することが明らかになった。経頭蓋電気刺激によって血液脳関門の透過性を局所的にかつ安全に調節することが可能になれば、これまで有効な治療法のなかった精神疾患などに効果的な薬を刺激と組み合わせることで効率的に脳に届けるなど、新たなドラックデリバリーシステムとしての幅広い応用が期待される。

川﨑 隆史、弓場 俊輔/   産総研 健康工学研究部門

生物個体の生命活動に必須である行動・学習等を解析するためには、その基盤となる神経回路を特定する必要がある。神経回路を解析するためには、高等動物においては、最終的に組織学的な手法を用いざるを得ない。一方、小型魚類は、体の透明性により、生きた個体内の細胞・組織を可視化することが可能である。本研究では、生きた個体を用いて、行動や学習等の基盤となる神経回路の特定することを可能とする遺伝子導入メダカ系統の樹立を目指している。活動依存的に発現するとされる最初期遺伝子のプロモーターを応用することにより、活動後の神経回路を可視化することが可能であると考えられる。メダカにおいて発現する最初期遺伝子を探索し、実際に発現が確認された遺伝子のプロモーター領域を単離した。メダカ受精卵への遺伝子導入により、適当なプロモーター領域を選定した。最終的に、部位特異的組換え技術を応用し、最初期遺伝子の発現特性を神経系に限定するための技術を確立する。

藤村 友美、長谷川 良平/   産総研 ヒューマンライフテクノロジー研究部門

本研究では、脳波による意思伝達装置「ニューロコミュニケーター」を応用し、複数の視覚刺激が脳内でどのように表象されているかを「刺激類似度」という観点から解読するシステムの試作開発と実証実験を行った。具体的には、継時的ターゲット選択課題を遂行中の被験者の脳波データに対して線形判別分析と多次元尺度構成法を組み合わせた解析を行った。本システムの妥当性を評価するため、まず物理的に類似性が規定できる単純な図形(理論的に円環配置が可能な刺激セット)を用いて実験を行った。その結果、脳波解読の結果においても各刺激が理論値と同様の円環配置になることが確認された。現在、物理的情報に加え、感性情報も含む刺激セットを用いた実験を行っている。今後はこのシステムを、製品パッケージなど既存の製品群の評価や、新製品の開発の参考にするなど、ニューロマーケティングツールとして応用したいと考えている。
13:人間工学  (P085~P087)

大隈 隆史、蔵田 武志/   産総研 サービス工学研究センター

サービスのプロセスや環境の再設計の効果検証においては、実際のサービス現場における人の行動情報、生体情報を用いることが重要であるが、コストを含む様々な事情から、直接プロセスや環境を変更する前に検証することが求められる。そこで我々は、仮想環境中に構築されたサービス現場における人の行動や生体情報を記録することで事前検証を可能にするサービスフィールドシミュレータの開発を進めている。サービスフィールドシミュレーターは、(1)環境内で人が環境からうける感覚をできる限り実際の現場に近づける、(2)環境提示のためのデバイスが行動・生体情報取得のためのデバイスと干渉しない、という二点を主な設計コンセプトとし、方向感覚を狂わせない全方位ディスプレイによる環境提示、仮想的な視力を下げない高解像度提示、足踏み認識による仮想環境内の移動機能を実現している。

岩木 直(1)、武田 裕司(1)、大隈 隆史(2)、蔵田 武志(2)、竹中 毅(2)/   (1)産総研 ヒューマンライフテクノロジー研究部門、(2)産総研 サービス工学研究センター

近年の行動経済学の発展により、消費行動は必ずしも合理的でなく無意識的要素が大きく関与することが知られて以来、アンケートやヒアリングなどの古典的なニーズの把握方法の限界が明らかになるとともに、脳機能計測を製品やサービス等の企画に応用する技術が脚光を浴びている。しかし、脳機能計測装置で得られるデータのみでは、実世界の消費性向をモデル化することは難しく、実際に商品・サービスの設計に反映するには大きなギャップがある。 われわれは、産総研の高精度脳活動計測技術、VR 技術、フィールドでの行動計測技術をシームレスに運用して、商品やサービスの企画・開発・提供方法設計の最適化を支援する(Neuro-Aided Design)枠組みの構築を進めている。
これまでに、
(i) VR環境(Service Field Simulator: SFS)中にショッピングモール内の顧客動線を再現し、この環境内で歩行中の被験者の脳波が安定的に計測可能であること
(ii) SFS内で、被験者の心理状態を評価するためのプローブ刺激を被験者に与えながら脳波計測を行うことにより、周囲環境に対する興味の度合い(視覚と他の感覚との間の注意リソース配分のバランス)を定量的に計測できることを明らかにした。

渡邊 洋(1)、奥村 智人(2)、若宮 英司(3)/   (1)産総研 健康工学研究部門、(2)大阪医科大学LDセンター、(3)藍野大学

発達障害児・者の病態を評価するための指標の一つとして空間認知能力が有効であると考えられている。特に地誌的失見当という症状は他の視空間認知障害と違い、歩き回れる広い範囲で障害が露見することが特徴である。このような臨床的知見を検証するため、我々は没入型のバーチャルリアリティ(以下VR)装置を用いて実際にバーチャル空間を歩いてターゲットを探索するゲームを開発し、探索時間や歩行距離の計測を可能にした。空間の規模、ランドマークの有無、初期視点位置等を制御することでさまざまな空間的要因を持つ実験環境での探索行動の定量化が期待できる。本報告はこのゲームを用いて、健常大学生を被験者として実施したコントロール実験の結果を紹介するものである。VR装置内で得られた結果と、同被験者に実施した空間認知能力の指標と考えられるサブテストの結果の関係について議論を行う。
14:生体計測  (P088~P099)

中村 美子、長谷川 良平/   産総研 ヒューマンライフテクノロジー研究部門

我々の研究グループでは、重度運動機能障がい者を対象とした脳波による意思伝達装置「ニューロコミュニケーター」の実用化開発を進めている。この基盤技術の一つが、小型無線脳波計や複数の電極を搭載したヘッドギアである。これまでの開発過程において、最初の改良では、頭部締め付け感の軽減を目的として布製(ver.01)から樹脂製(ver.02)への変更を行った。また、続く改良では、医療機器/電化製品由来の電気的ノイズを除去する目的として電磁シールドキャップを付加した(ver.03)。さらに、最近の改良では、ノド元への締め付け感の除去を目的としてアゴ紐による固定型(ver.01~03)からカチューシャ型(ver.04)への変更を行った。今回の研究では、これまでの試作開発の過程で散発的に調べてきた性能評価や心理評価についてまとめるとともに、現在進行中の臨床応用に関しても予備実験の結果を報告する。

林和彦(1)、三澤雅樹(1)、白崎芳夫(1)、岡崎匡雄(2)/   (1)産総研 ヒューマンライフテクノロジー研究部門、(2)北茨城市立総合病院

頸椎の椎間板ヘルニアの手術法には大別して二通りあり、後方から神経束をよけて切除する方法と前方から食道をさけ頸椎の海綿骨をある程度削除し、椎体の軟骨下骨に穴をあけ病変部を切除または除去する方法(前方除圧固定術)である。後者の術式を採用する際は椎体の外殻(緻密骨)及び海綿骨を、ある程度削除しなければならない。しかし、椎体の外殻および海綿骨をどの程度削除したら強度がどのような関係で低下するのかは明白ではない。
本報告では、椎体の外殻及び海綿骨を種々の割合で削除し、削除率と強度低下との相関関係を調べた。また、この削除した空孔にセラミックスを挿入し、セラミックスの補強効果も検討した。

新田尚隆、賀谷彰夫、兵藤行志、三澤雅樹/   産総研 ヒューマンライフテクノロジー研究部門

変形性膝関節症は、関節軟骨の変性疾患であるが、その初期診断法は確立されていない。初期診断には、軟骨の含水量や弾性を反映する超音波の音速が注目されているが、生体内における非侵襲かつ直接的な測定技術は開発されていない。そこで本研究では、MRI計測と超音波計測の融合に基づく生体内音速測定法を提案し、それを実現するためのハードウェア構成及び計測アルゴリズムを検討した。 図に非侵襲音速測定法の概念を示す。MRI装置及び超音波プローブを用いて測定対象の厚さと超音波の伝搬時間をそれぞれ測定し、音速が算出される。高精度な音速測定のために、MRI撮像中における超音波照射タイミングの最適化や、厚さ及び伝搬時間計測の高精度化を図った。音速を変化させた軟骨ファントムやラット皮下に埋植した再生軟骨を用いた実験を行い、本手法で得られた測定値が、パルス透過法で測定された参照値とよく一致することを確認した。

森川 善富/   産総研 集積マイクロシステム研究センター

我々は人間が発する生体信号解析に、脈波に着目して取り組んでいます。個体(人間)に内在する生態情報を計測することにより、運動や疲労に伴う個体状態の変化を解析、評価してきました。
この目的のために開発してきたウェアラブル耳内脈波計を用いると、動作を妨げることなく長時間の脈波計測が可能になります。我々は本脈波計により同時計測できる左右両耳内の脈波データの生体信号解析に取り組んでおり、その有効活用を進めています[1]。今回、耳脈波データの左右差に着目して解析を進めたので報告します。
【謝辞】本研究の一部は、JSPS科研費 25540139の助成を受けたものです。
【参考文献】[1]森川善富:開発した耳内脈波計によるデータの有効活用、平成24年度 第12回産総研・産技連LS-BT合同研究発表会、(2013)

大槻 荘一/   産総研 健康工学研究部門

非侵襲で病変を診断するため、生体組織による光散乱の測定および解析法の開発を進めている。光散乱特性のシミュレーションに用いられるモンテカルロ法は、多数の光子の挙動を追跡する手法であり、並列計算の高速化が課題となっている。そのため、演算処理能力の高い多数のコアを有し、汎用計算に特化した画像処理装置(Graphic processing unit、GPU)が注目される。GPUでは、それぞれのコアにおいて、32個のスレッド群(ワープ)がメモリを共有しながら、共通した命令を実行するが、条件分岐を含む計算では、ワープ内のあるスレッドが分岐命令を実行している間、他のスレッドが休止する。すなわち、ワープ間では異なる命令を同時並列的に実行し、ワープ内では命令の実行は逐次的である。光子とスレッドを1対1に対応させ、光子が物体内で行う過程を追跡するとき、その過程は物体内での散乱と、内表面での透過・反射の2つに大別される。本研究では、単純な繰り返し計算である物体内での散乱をGPUに行わせ、分岐の多い複雑な計算である内表面での透過・反射をCPUに行わせることにより、光散乱シミュレーションの高速化を図った。

芦葉 裕樹(1)、王 暁民(2)、藤巻 真(1)/   (1)産総研 電子光技術研究部門、(2)ナノエレクトロニクス研究部門

生体試料中のタンパク質やウイルスの高感度検出は、疾病の早期発見や高度な感染症予防を実現する重要な技術である。高感度バイオセンシング手法のひとつに表面プラズモン共鳴励起増強蛍光免疫測定(SPRF)がある。高感度であるが測定系が大型で操作が煩雑であった従来のSPRFの課題を克服するため、本グループは小型で簡便なSPRFを実現するV字断面流路チップを用いた蛍光測定センサ(V溝センサ)を開発した。V溝センサの検出感度を規定する要因のひとつに表面プラズモン共鳴によるチップ表面の電場増強度がある。電場増強度が大きいほど蛍光が増幅され、検出感度が向上する。チップ基材屈折率が電場増強度に与える影響を評価するため、多層膜電場強度の数値計算を行った。本計算結果より、屈折率が増加するほど電場像強度を最大化するV溝頂角の値は大きくなり、その時の電場増強度の値も大きくなることが示された。すなわち屈折率の高い基材をチップに用いることでセンサの検出感度が向上すると考えられる。そこでチップ基材として従来のポリスチレンより屈折率の高いガラスを採用し、V字流路チップを作製した。本チップを用いてインフルエンザウイルスの検出を実施し、104 pfu/mLの濃度のウイルスが検出された。本研究の一部はNEDO社会課題対応センサーシステム開発プロジェクト(④研究開発成果等の他分野での先導研究)の助成を受けて行われた。

脇田 慎一(1)、栗田 僚二(2)、丹羽 修(2)、南木 創(3)、南 豪(3)、福田 憲二郎(3)、熊木 大介(3)、時任 静士(3)/   (1)産総研 健康工学研究部門、(2)産総研 バイオメディカル研究部門、(3)山形大学院理工・山形大ROEL

有機エレクトロニクスを用いたバイオセンサは柔軟性があり、外部給電機能などの集積化が可能である。さらに、他品種・小規模生産であり、次世代モバイルヘルスケア応用が期待されている。しかしながら、有機トランジスタは耐水性に課題があり、バイオセンサへの応用は進んでいない。 そこで、耐水性の高い構造と実装技術の観点から、図1)に示すようにボトムゲート部を延長させたExtended-gate構造を有するFETバイオセンサを設計し、免疫センサや酵素センサの基礎検討を行ったところ、再現性の良いセンサ特性を得ることができた。 1) Minamiki T, Minami T,Kurita R, Niwa O, Wakida ,Fukuda K, Kumaki D, Tokito ,、Materials, 7, 6843 (2014).

加藤 薫(1)、上条桂樹(3)、高橋正行(4)、佐々木保典(1)、横尾岳彦(2)、佐々木 章(1)、水野敬文(1)/
   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)産総研 生物プロセス研究部門、(3)東北大・医・人体構造、(4)北大・理・化学

超解像光学顕微鏡は、光学顕微鏡の分解能の限界を超えて、微細な構造が観察できる顕微鏡である。現時点ではSTED法で30nm(固定試料)、SIM法では100nm(生細胞、動画)の分解能が実現し、低倍率の電子顕微鏡に匹敵する画像が得られている。しかし、材料ごとに、試料作製のノウハウがあるため、超解像観察できるものは限られている。
そこで本研究では、微生物(酵母)、培養細胞、組織などを用いて、観察技術の開発を行った。使用できる蛍光色素をプロファイリングし、色素群の中から使用できるものを選ぶ方法を見いだした。さらに、各種の材料ごとに、ライブセルの調整方法や、固定方法を検討し、超解像観察用の試料作製のノウハウをつかんだ。また超解像技術の新たな解析方法への応用も検討した。このポスターでは、結果として得られた超解像画像を示し、今後の可能性について論じる。

藤原 正子(1)、安藤 一郎(1)、佐藤 博(1)、竹内 和久(1,2)、今井 潤(1)、根本 直(3)/
   (1)東北大学薬学部、(2)(医)宏人会クリニック、(3)産総研バイオメディカル

全国の血液透析患者数は2013年に31万人と、増え続けています。血漿や廃液には、様々な代謝物が含まれますが、その種類の多さと個人差により病態との関連を特定するのは簡単ではありません。私たちは1H-NMRメタボロミクスという新しい手法を用いて、透析治療中の患者の代謝応答や病態の新規鑑別法を開発しています。4時間という透析治療中に乳酸、ピルビン酸、アラニンなどエネルギー代謝の要となる代謝物を定量しました。その結果、これらの代謝物濃度変化は患者によって固有のパターンを持ち、この時間パターンが再現することが解りました。個別化医療への展望を与えるものと考えられます。

小島 直(1)、加藤 義雄(2)/   (1)産総研 生物プロセス研究部門、(2)産総研 バイオメディカル研究部門

 従来の遺伝子検出法では、配列の相補性を利用した検出技術が汎用されており、そのほとんどには蛍光分子が導入された核酸プローブが利用されている。これらの核酸プローブでは、標的配列に結合したときの蛍光強度の変化により遺伝子を検出するが、細胞内にはタンパク質等由来の自然蛍光が存在するため高感度な検出には限界があった。一方、蛍の光に代表される生物発光は、夾雑分子由来のバックグランドがないため、蛍光よりも高い感度で検出することが可能である。そのため現在ではレポーターアッセイなどの生化学的ツールとして広く利用されている。  本研究課題では、遺伝子の配列情報を生物発光として捉えるための新しいシステムを構築することで、生物発光を利用した新しい遺伝子検出技術の開発を目指す。本発表では、標的配列上でのみ進行する特異的な化学反応により発光分子を放出する新規核酸プローブの化学合成について報告する。

冨田 辰之介(1)、轟木 堅一郎(2)、大石 勝隆(1,3,4)/
   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)静岡県立大学 薬学部、(3)東京大学大学院 新領域創成科学 メディカルゲノム、(4)東京理科大学大学院 理工学 応用生物科学

【目的】時計遺伝子発現の概日リズムをタンパク質レベルで測定することを目的にReal-time immuno-PCR法を構築する。組織や細胞などの微量試料おいて、時計機能の本体であるタンパク質を本法で定量する為の種々の検討について報告する。
【実験】CRY1抗体をELISAプレートに固相化し、CRY1強制発現細胞の溶解液を加え反応させた。その後ビオチン化検出抗体とDNAフラグメント、ストレプトアビジンを加え、抗原抗体DNA複合体を形成し、複合体DNA量をRT-PCRで定量した。
【結果・考察】高い感度を有するImmuno- PCRでの定量には、操作過程で強力な非特異的吸着の抑制が必要である。体内時計の転写抑制因子であるCRY1について種々の条件を検討した。固相化抗体は市販のCRY1抗体を50mMホウ酸ナトリウム緩衝液(pH 9.5)で1 mg/mLに希釈して50 m Lを用い、ブロッキングには7%BSAを用いた。その後、検出抗体とDNAを添加し、複合体のDNAをRT-PCRで解析した結果、200個程度の細胞からのCRY1由来と考えられるシグナルの検出が可能となった。定量性については強制発現細胞において、細胞50-1000個に当たる範囲で相関係数0.991を示す検量線を得た。本法の高い感度を生かし、微量細胞の内在性時計タンパク質の量変動解析についても現在取り組んでいる。

谷 英典(1)、小沼 泰子(2)、伊藤 弓弦(2)、鳥村 政基(1)/   (1)産総研 環境管理技術研究部門、(2)産総研 幹細胞工学研究センター

 本研究では、ヒト細胞において、環境ストレスに対するストレスマーカーの探索のために、長鎖ノンコーディングRNA及び人工多能性幹細胞(iPS細胞)に着目した。長鎖ノンコーディングRNAはタンパク質に翻訳されないRNAであり、細胞のストレス応答においてダイナミックな制御機構を担うことが近年報告され始めている。また、ヒトiPS細胞は、多くの細胞に分化できる分化万能性と、分裂増殖を経ても維持が可能な自己複製能を有する細胞であり、胚性幹細胞(ES細胞)の有する倫理的な問題もクリアしている。  我々は、モデル環境ストレス(シクロヘキシミド、過酸化水素、カドミウム、ヒ素等)に応答する長鎖ノンコーディングRNAとして、6つの新規分子(CDKN2B-AS1、MIR22HG、GABPB1-AS1、FLJ33630、LINC00152、LINC0541471_v2)を同定した。本結果より、長鎖ノンコーディングRNAには、環境ストレス全般に応答するものと、特異的に応答するものが存在することを見出した。さらに、従来のストレスマーカーとしてp53関連遺伝子と比較した結果、長鎖ノンコーディングRNAの方が高感度かつ迅速に環境ストレスに応答することを見出した。以上より、ヒトiPS細胞において、長鎖ノンコーディングRNAが環境ストレスに対するサロゲート分子として有用であることが示された。
15:医療機器  (P100~P107)

迫田 大輔、小阪 亮、西田 正浩、丸山 修/   産総研 ヒューマンライフテクノロジー研究部門

当研究グループでは近赤光による血液凝固反応や血液成分(ヘモグロビン、血糖値、血漿タンパク等)の非侵襲モニタリング法の開発を行い、人工心肺使用中における血液凝固管理や、人工膵臓使用中の血糖モニタリングへの応用を目指している。本研究では、1人工心臓で循環中の血液の血液凝固反応モニタリング法の開発、2血液内ラマン散乱伝播シミュレーションの開発を行った。1について、近赤外光による体外循環中の赤血球凝集能の連続モニタリング法を開発し、血栓形成過程における赤血球凝集能評価を行った結果、血液凝固反応が進むにつれて赤血球凝集能が低下することがわかった。また2について、赤血球による励起光の散乱と、励起光子分布に基づきラマン光子を発生させるモンテカルロ・シミュレーションを開発した。本シミュレーションを使用することで、血液内の散乱によるラマンスペクトルの歪みを補正し、ラマン分光による血液成分の定量が期待できる。

白井 智宏/   産総研 計測フロンティア研究部門

低コヒーレンス干渉の原理に基づくOCT(Optical Coherence Tomography)は、低侵襲かつ高分解能の光学的断層イメージング法として、生物・医学分野における基礎研究用のツールとしてばかりではなく、最近では網膜の断層情報を取得する眼科診断機器としても広く普及している。その深さ分解能は、原理的には入射光のスペクトル幅が広くなるほど向上するが、実際には測定サンプルに付随する群速度分散の影響により容易に低下してしまう。 最近、この問題を解決する手法のひとつとして、量子もつれ光子対を利用した量子OCTが考案され、これにより群速度分散の影響を受けずに、2倍向上した深さ分解能で断層イメージングが可能であることが明らかにされた。しかし、量子もつれ光子対は微弱であり、かつその発生と制御が容易ではないことから、この量子OCTを実際の計測現場で使用することはかなり難しい。また、量子OCTは時間領域の従来型OCTをベースとしているため、断層像を取得する際には参照ミラーの機械的走査が不可欠となっている。 そこで筆者らは、量子OCTとスペクトル領域の従来型OCTの両概念を融合することにより、従来型OCTと同じタイプの光源が利用しても、サンプルの分散の影響を受けずに機械的走査が不要となる新しい断層イメージング技術を考案した。本発表では、当該技術の原理とその効果的な実現方法について議論する。

葭仲 潔(1)、豊田 晋伍(1,2)、竹内 秀樹(3)、東 隆(3)、佐々木 明(3)、鷲尾 利克(1)、小関 義彦(1)、高木 周(3)、水原 一行(2)、松本 洋一郎(3)/
   (1)産総研 ヒューマンライフテクノロジー研究部門、(2)東京電機大学、(3)東京大学

超音波治療の研究において、位相制御による体内での焦点位置制御の重要性からトランスデューサーの多素子化が必要である。 本研究では超小型の多素子モジュールの開発に取り組んでいる。おおよそ親指大の大きさのモジュールに多素子トランスデューサー(4ch~16ch程度)とハイパワーアンプを内蔵したものを想定しており、 これらのモジュールを複数配置する事により、例えば数百ch~数千chの多素子超音波トランスデューサーを構成する。 これにより無駄な消費電力を抑えることが出来、非常に効率の良い、超小型なアンプ一体型超音波モジュールトランスデューサーが実現可能となる。 今回は位相制御モジュールを新たに開発した。おおよそ名刺2枚程度の大きさに88chの位相制御システムが内蔵されている。あらたに開発したソフトウェアと組み合わせ、複数台同期駆動によって1000chを超える位相制御が可能である。

井野 秀一(1)、近井 学(1)、高橋 紀代(1,2)、大西 忠輔(1,3)/
   (1)産総研 ヒューマンライフテクノロジー研究部門、(2)篤友会リハビリテーションクリニック、(3)昭和伊南総合病院

社会環境やライフスタイルの変化に伴い、糖尿病や運動器症候群の患者数は急増している。これらの生活習慣病は、本人の自覚が乏しく、放置するとQOLを著しく低下させる合併症や寝たきりの原因となる障害を引き起こす。本研究では、その早期発見と進行予防のために、合併症の中でも比較的早期に出現する末梢神経障害や転倒リスクに関わる感覚要因に着目し、足底部の感覚機能を簡便で高感度にチェックする検査技術の開発を医工連携で行っている。これまでに、末梢神経障害等による皮膚感覚の鈍麻を感度よく定量化する新手法として、足底皮膚の接線方向の微細変形(ずれ)に基づく感覚刺激法を考案し、その感覚レベル(閾値)を高精度に調べる検査システムを試作した。本検査システムを用いて健常者の足底感覚を立位姿勢で調べたところ、わずか10-30 μm程度の皮膚のずれを感知でき、刺激呈示に対する部位依存性と速度依存性の存在も明らかになった。

清水 森人、森下 雄一郎、加藤 昌弘、田中 隆宏、黒澤 忠弘、齋藤 則生/   産総研 計測標準研究部門

放射線治療において、患部への投与線量を正確に評価することは治療効率を向上させる上で非常に重要である。産業技術総合研究所(以下、産総研)は放射線治療現場における水吸収線量計測の不確かさを軽減するため、グラファイトカロリーメータを用いた高エネルギー光子線水吸収線量標準を開発した。グラファイトカロリーメータは内部に熱量吸収体としてグラファイトを持っており、これに高エネルギー光子線が照射された際の温度上昇から水吸収線量を求めることができる。医療現場と同じ条件で校正を行うため、医療現場で用いられているのと同じ医療用リニアック装置を産総研内に設置した。開発された高エネルギー光子線水吸収線量標準は2013年11月から供給開始され、これにより、従来のCo-γ線で校正された電離箱で水吸収線量を計測した際に必要だった補正係数が不要となり、医療現場での水吸収線量計測の不確かさ3%から2%にまで改善される。

川崎 陽久(1)、岡野 英幸(2)、石田 直理雄(1)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)白寿生科学研究所

電界が生物の生育に与える影響は古くから知られているが、そのメカニズムに関しては、不明な点が多い。この現象の分子的な原理を調べるために、我々は短時間で寿命を測定する技法を開発した。ショウジョウバエを50Hzの電界にて飼育したところ、寿命が約20%延長する事が確認された。この効果は、時計遺伝子変異を含む複数の系統で再現する事ができたため、少なくともショウジョウバエにおいては普遍的な現象だと考えられた。この事から、電界による寿命延長には、体内時計は不要だと考えられた。

西田 正浩(1)、中山 建人(2)、迫田 大輔(1)、小阪 亮(1)、丸山 修(1)、桑名 克之(3)、川口 靖夫(2)、山根 隆志(4)/
   (1)産総研 ヒューマンライフテクノロジー研究部門、(2)東京理科大学、(3)泉工医科工業株式会社、(4)神戸大学

【目的】開心術に用いられる血液ポンプは、近年、さらなる血液適合性の向上が希求されている。開発したモノピボット遠心血液ポンプは、インペラがピボット1点で支持されており、作動流体である血液の流体力がインペラの回転安定性ひいては血液適合性に影響する。 本研究では、インペラの形状に着目し、流体力および回転安定性に与える影響を調べた。
【方法】モノピボット遠心血液ポンプを対象とし、現モデルと同形でインペラに切欠があるFRモデルと、切欠がないNモデルを比較した。流体解析ソフトにより、インペラに作用する軸スラストを算出した。ポンプ性能試験を行うとともにインペラの浮上を目視した。さらに、インペラの傾きを変位計により計測した。
【結果】流体解析結果より、一定のインペラ回転数では、流量が増加すると、軸スラストが減少して浮上しやすくなることが示された。ここで、FRモデルは、Nモデルより軸スラストが大きく、浮上しにくいことが示された。これに対応して、ポンプ性能試験では、Nモデルでインペラが浮上することはあっても、FRモデルで浮上することはなかった。 一方、インペラの傾きの計測結果より、流量が増加すると、インペラの傾きは増加したが、最大の傾きは0.8゜と小さく、また、両モデルに変化はなく、傾きへの影響は小さかった。
【結論】インペラの切欠は、軸スラストを増加させることで、インペラの浮上を抑制し、回転を安定化させる。

斉藤 匠(1)、小阪 亮(2)、迫田 大輔(2)、西田 正浩(2)、川口 靖夫(3)、山根 隆志(4)、丸山 修(2)/
   (1)東京理科大学大学院、(2)産総研 ヒューマンライフテクノロジー研究部門、(3)東京理科大学、(4)神戸大学大学院

補助人工心臓の駆動状態を確認するため、血液の流出入口に接続されている曲がり管を利用した曲がり管式血流量計を開発している。 本流量計は、曲がり管で生じる遠心力を管路外壁に貼り付けた歪ゲージで計測することで流量計測を行う。 しかし、曲がり管の曲げ角度は人工心臓の種類によって異なるが、本流量計の曲げ角度は120度に固定されていた。 そこで、本研究では曲がり管式血流量計の流量計測可能な曲げ角度を検討した。評価モデルとして、図の4種類の曲がり管を用い、遠心力および静圧補償の計測位置に歪ゲージを貼り付けた。 評価試験として、本流量計に貼り付けた歪ゲージから計測される流量と市販流量計で計測した流量との計測誤差率を比較した。その結果、平均誤差率は、曲げ角度30、60、90および120度の曲がり管でそれぞれ15、10、3および3%であった。 本結果より、流量計測可能な曲げ角度は60度から120度であることがわかった。
16:微生物  (P108~P116)

野田尚宏(1,2)、宮本龍樹(1,2)、常田聡(2)、関口勇地(1)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)早稲田大学大学院 先進理工学研究科

プログラム細胞死はあらゆる生命体に見られる生体の恒常性維持のための重要な機能である。トキシン?アンチトキシン系の機構は原核生物に広く見られるプログラム細胞死を司る機構の一つと考えられている。トキシンはタンパク質であり、細胞内の核酸やタンパク質などの特異的なターゲットを攻撃する。一方、アンチトキシンはトキシン分子と直接的、間接的に相互作用することで、トキシン分子による細胞内ターゲット攻撃を阻止する分子である。トキシンタンパクの一つであるmRNA interferaseは一本鎖RNAを配列特異的に切断することで、その毒性を発揮し細胞を休眠状態さらには死に至らしめることが明らかになってきている。3塩基を認識するmRNA interferaseが最も多く知られているが5塩基以上の認識配列を持つものも見つかっており、mRNA interferaseの多様性が知られるようになってきている。この微生物が持つ多彩なmRNA interferaseの特性を解析するため、これらのmRNA interferaseの発現・精製を行うとともに、その認識配列を効率的に同定することを目指して、次世代シーケンサーや蛍光消光現象を用いた取得した酵素の特性・活性評価システムの構築を行った。さらに微生物細胞内でのこれらの酵素の役割についても解析を進めている。

Dieter Tourlousse、Akiko Ohashi、Satoko Matsukura、Noda Naohiro、Yuji Sekiguchi/   産総研 バイオメディカル研究部門

Massively parallel sequencing of 16S rRNA gene amplicons is now widely applied for elucidating the structure of complex microbial communities. To further advance this methodology, we designed and validated a novel type of synthetic 16S rRNA gene spike-ins to serve as quality controls and quantification standards. The spike-ins are added at different steps of the sample preparation and can hence evaluate the performance of the overall measurement process. Using defined mock communities and spiked environmental samples, we demonstrated their utility for assessment of the quality of the experimental steps as well as in silico bio-informatics analyses. Since the spike-ins are designed in silico and chemically synthesized, they can be readily adopted by other researchers, thereby providing a baseline for integration and comparison of different studies.

宮崎 亮/   産総研 生物プロセス研究部門

The main interest of my research is in “phenotypic heterogeneity” in a clonal cell population. We may be tempted to think of clonal populations of bacterial cells as millions (or billions) of largely uniform cells, exhibiting little or no phenotypic diversity. However, with the development of enhanced approaches for single-cell based analyses, such an idea is increasingly revealed as an oversimplification. Rather, a pool of isogenic bacterial populations can readily contain phenotypically distinct subpopulations, which may arise either from stochastic variation or deterministic processes. To uncover molecular mechanisms of phenotypic heterogeneity, I develop a novel approach to analyze such subpopulations with combined high-throughput technologies. Using the system, furthermore, I would propose a unique bioengineering scheme based on such cellular potentials at the single-cell level.

駒 大輔(1)、山中 勇人(1)、森芳 邦彦(1)、増田 敬哉(2)、佐藤 嘉弘(2)、樋田 幸三(2)、大本 貴士(1)/
   (1)地方独立行政法人大阪市立工業研究所、(2)帝人株式会社

パラアミノ安息香酸(PABA)はポリマー原料などへの応用が考えられる芳香族化合物である。生体内では葉酸合成における中間代謝物として合成されるが、その量はごく微量である。そこで帝人株式会社との共同研究により、大腸菌を代謝工学的に改変することで、グルコースを原料としてPABAを高生産する菌株を作製することを試みた。 PABA合成の鍵となる4遺伝子(aroF, pabA, pabB, pabC)を大腸菌の染色体に導入して高発現させた。その結果、培養液中にPABAの蓄積が見られたが、生産量は不十分であった。そこでコリネ菌の融合型pabAB遺伝子を染色体に導入して高発現させたところ、PABA生産量は飛躍的に向上した。 作製した株は、グルコース流加培養により7.1g/LのPABAを18%の収率で生産することができた。この収率は酵母を用いた既報と比べて20倍以上であった。

神坂 泰、木村 和義、植村 浩、山岡 正和/   産総研 生物プロセス研究部門

我々は、出芽酵母S.cerevisiae を用いて油脂生産系の構築をめざしている。これまでに、出芽酵母の貯蔵脂質合成酵素Dga1pのN末端領域が欠失した活性型(Dga1dNp)をdga1破壊株に過剰発現させると、脂質含量45%の脂質蓄積性株が得られることを見出した。 今回は、出芽酵母に含まれる機能性脂肪酸であるパルミトオレイン酸(16:1(n-7), POA)に着目し、脂質蓄積性の酵母株によるPOA生産を向上させる条件を検討した。POAは、近年生理活性等が注目されているが、一般的な油糧植物にはあまり含まれておらず、新たな供給源の開発が求められている。 そこで、Dga1dNpを過剰発現させたdga1破壊株の培養条件を検討したところ、要求アミノ酸であるメチオニンを通常培養に用いる0.02g/lよりはるかに高い2g/lまで上げると、脂質含量はそれほど変化せずにPOA含量が40%から50%まで増加することを見出した。 さらに、培養温度を30℃から20℃に低下させたところ、POA含量は55%まで増加し、POA生産量も当初の2.5倍に増加した。 一方、Dga1dNpを過剰発現させていないdga1破壊株では、メチオニン添加の効果は認められず、脂質蓄積の増加がこの効果に必要であることが示された。以上の結果より、高濃度のメチオニン添加と低温培養が、脂質蓄積性出芽酵母によるPOA生産に適した培養条件であることが見出された。

横尾 岳彦(1)、小松崎 亜紀子(2)、千葉 靖典(2)/   (1)産総研 生物プロセス研究部門、(2)糖鎖医工学研究センター

メタノール資化性酵母は、糖タンパク質をはじめとした異種タンパク質生産に適した酵母である。私達の研究室では、メタノール資化性酵母の一種である Ogataea minuta を用いて、バイオ医薬品等をターゲットとした異種タンパク質生産系の開発を試み、一定の成果を挙げてきた。しかし、本酵母種を更に優れた宿主とするための課題も見えてきている。この課題を解決に導くには、O. minuta という酵母種の基礎生物学的知見を着実に集積することが必須と考えられる。しかしながら、現時点では本酵母種の遺伝学的解析は実用的ではなく、また、使い勝手の良いプラスミドも存在しないため、基礎生物学的研究を進めるには困難を伴う。そこで、本研究においては、この酵母において自在な遺伝学的解析を可能とすべく、有性生殖が可能な株を確立するとともに、染色体に組み込まれることなしに自律的に複製可能なプラスミドの構築を行うことを目的とする。まず接合型を決定する MAT 遺伝子座位の解析により、本種における接合型変換メカニズムを明らかにした。また、プラスミドを作製するために必須である自律複製配列をゲノムライブラリから検索した結果について報告する。

伊藤 一成(1)、五味 勝也(2)、狩山 昌弘(3)、三宅 剛史(1)/   (1)岡山県工技セ、(2)東北大院農・生物産業創成、(3)フジワラテクノアート

 発酵食品に必須な麹造りに用いられる固体培養は、穀類を含む様々なバイオマスとの相性が良いことに加え、液体培養よりタンパク質生産性が極めて高く、しかも複数同時のタンパク質生産に優れている。しかしながら、物質の低移動と多様で複雑な影響因子から、培養の管理制御が困難で、結果生じる培養状態の不均一と低い再現性が問題となる。  我々は、これら固体培養の問題を解決するために無通風箱培養法を考案構築し、小麦ふすまと麹菌を用いて、培養制御および酵素生産の特性を解析した。その結果、本培養法によると培養状態の均一化と高い再現性が実現できること、従来法よりも酵素生産性が向上することなどを明らかにした。さらに、本培養法を用いて培養制御を行った効果についても報告する。

和田 潤、泊 直宏、高阪 千尋、清野 珠美、廣岡 青央、山本 佳宏/   京都市産業技術研究所 バイオ系チーム

乳酸菌は糖類を分解利用(代謝)して乳酸を生成する細菌類の総称であるが、昨今、多くの乳酸菌がプロバイオティクス(ヒトの健康に好影響を与える生細菌)として注目を集めている。一方で、乳酸菌は長年にわたりヨーグルトや漬物などの発酵食品に広く用いられ、 人にとって非常に身近で安心なものであるとともに食品保存や製品の旨味を引き出す効能を有している。 今日、有用な生物そのものが生物資源として価値が再認識されるなかで、京都では微生物の力を借りてつくられた多くの発酵食品(飲料含む)が市場に出回っている。しかしながら、大手企業を除けば商品(発酵食品)の品質を大きく左右する微生物の保管・管理が可能な事業所は少ない。そこで、将来的に発酵食品製造において新製品の開発や品質管理に寄与すべく、京都独自の乳酸菌ライブラリー構築を目指して乳酸菌の単離を発酵食品等から行った。

/   (独)製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター(NIBRC)

NITEは岩手県釜石市、にのへ市とそれぞれプロジェクトを行っています。 釜石市とは市の花であるはまゆりから酵母Saccharomyces cerevisiae (サッカロマイセス属)を分離しました。分離には地元の研究機関、北里大学感染制御研究機構釜石研究所と協力して行いました。現在は、分離した酵母は取り扱いやすいように、ドライイースト化し、岩手県等の支援を受けた地元の企業が、パンやお酒など、はまゆり由来微生物を利用した地域ブランド商品の開発を行っているところです。また、二戸うるしプロジェクトについては、二戸市と民間企業がタイアップし、中小企業庁の事業支援を受け「にのへブランド品」を海外に発信し、それを国内にもフィードバックさせることで、二戸市の魅力を国内外にアピールし地域産業の活性化を図るという事業のお手伝いをしているものです。
ナイトは、この事業の実施者から協力依頼を受けた岩手県工業技術センターからの紹介で、事業者から協力要請を受け、プロジェクトに参画し、漆の花から菌株を採取し、お酒やパンなどの食品の製造に使用可能な酵母の分離を行っているところです。
17:食品  (P117~P124)

宮崎 歴、大石 勝隆、山本 幸織/   産総研 バイオメディカル研究部門

これまでLactbacillus brevis SBC8803株(SBL88TM)の熱処理菌体摂取が整腸効果、免疫バランス改善効果、肝機能保護効果を示すことがヒトや実験動物で報告されている。本研究では、SBC8803株の新規生理機能の探索を目的として、マウスにおける熱処理菌体摂取が自発行動リズムおよび睡眠に及ぼす影響について検討した。 マウスにSBC8803熱処理菌体を自由摂取させ、回転輪行動を観察した。摂取12日後から有意に一日の総活動量の増加が見られた。さらに睡眠リズムはSBC8803投与により活動期の覚醒時間の有意な増加が認められた。また、休息期におけるNREM睡眠の増加がみられ、SBC8803熱処理菌体の摂取がより行動リズムおよび睡眠リズムにメリハリのあるパターンを作り出すと考えられた。これらの結果から、SBC8803熱処理菌体の摂取が行動や睡眠を制御している可能性が考えられた。

高橋 砂織、佐藤 愛、熊谷 昌則、畠 恵司、渡辺 隆幸/   秋田県総合食品研究センター

てんこ小豆(黒ささげ)は、秋田で古来より栽培されておりその起源は古く奈良時代までさかのぼるとなどの説がある。てんこ小豆は、赤紫の色素含量が多く、秋田では赤飯用小豆として重用されている(図1)。これまで大豆や小豆に関しては様々な機能性探索研究が行われている。しかしながら、てんこ小豆(黒ささげ)の機能性に関する研究は皆無である。本研究では、秋田産てんこ小豆の機能性に関して、抗酸化性、人工モデル臓器による脂質代謝に及ぼす影響や血圧関連酵素類に対する影響などを検討した。その結果、てんこ小豆の熱水抽出液にレニン、キマーゼやACE阻害活性を見出した。

垣田 浩孝、小比賀 秀樹、江口 結希/   産総研 健康工学研究部門

【目的】健康リスク因子の一つである海域流出油を低減するために石油分解微生物を利用することは有効な手段の一つである。我々は食添アルギン酸ナトリウムから調製したアルギン酸カルシウムゲルが石油分解微生物の海域での浮上性担体として有効であること、フラスコ規模でのモデル石油の分解実験から14日間で61%の分解率を得られることを見出した。しかしフラスコ実験中にゲル担体が浮上性を喪失することが実用化への問題点として残っていた。そこで原料アルギン酸ナトリウムのゲル浮上性への影響を明らかにし、微生物担体として最適な原料アルギン酸ナトリウムを選択するための指標を得ることを本研究の目的とした。
【方法】粘度及びM/G比の異なる4種類のアルギン酸ナトリウムを原料としてアルギン酸カルシウムゲルを調製し、塩水耐性及び浮上性等を評価した。
【結果】低粘度(20 mPas)および高粘度(700 mPas)のアルギン酸ナトリウムに比して中粘度(500~600 mPas)のアルギン酸ナトリウムが塩水耐性及び浮上性に優れていた。高M/Gのアルギン酸ナトリウムは海水への浸漬3日後に破壊したが、低M/Gの方は海水への浸漬8日経過時でも形状を保っていた。
【考察】微生物担体原料として一定粘度以上でかつ低M/G比のアルギン酸ナトリウムが適していると考えられた。

松本 健一(1)、筒井 達也(1)、岡本 竹己(1)、山下 創(2)、横須賀 貞夫(2)、菊池 明(2)、齋藤 高弘(3)/
   (1)栃木県産業技術センター、(2)栃木クラフトビール推進協議会、(3)宇都宮大学

【研究背景】栃木県は、全国有数のビール用大麦生産県であり、県内ブルワリーでは、地域特産品を活かした個性的なビールが醸造されている。地ビールの付加価値、発信力の強化と首都圏を中心とした広範囲への流通・販売における品質担保を目的として、1県清酒酵母のビール醸造への利用、2GABAビールの開発、③熟度・劣化度評価法の開発に取り組んだ。
【結果】1県清酒酵母のビール醸造への利用:県清酒酵母6種を用いて、発酵条件20℃、4日間で麦汁発酵試験を実施した。発酵完了後のEtOH濃度は0.6-2.9%であり、麦汁発酵能が低いことが確認された。発酵改善のため、酵素を添加するとEtOH濃度は2.7-5.5%となり、県清酒酵母それぞれの特徴的な香気も確認された。
2GABAビールの開発:GABA富化麦芽を調製し、県内ブルワリー使用酵母6種を用いて、発酵試験を実施した。全ての酵母について発酵は順調に進み、発酵完了後のビールにはGABAが15.7-17.8mg/100ml含有することが確認された。
③熟度・劣化度評価法の開発:ビール系飲料の保存試験を実施して、化学発光法(自発発光法)により評価を行った。保存期間の増加に伴い、試料からの発光量が低下する傾向が確認できた。このことから試料から自発的に発生する微弱光を測定することで、ビール系飲料の品質変化を捕捉できる可能性が高いと考えられる。

原田 知左子、大橋 智子、吉田 和利、井上 守正/   兵庫県立工業技術センター

播磨国風土記は713~715年に成立したとされ、2013~2015年は編纂1300 年の記念年に当たるため、播磨地方4酒造組合で組織される「はりま酒文化ツーリズム協議会」より記念酒開発の依頼を受けた。播磨国風土記の宍粟郡庭音村の項に、カビを用いて造った酒、つまり日本酒についての現存する最古の記述があることから、この宍粟郡庭音村(現:宍粟市庭田神社)から酒造用の麹菌と酵母を分離し、これを用いた酒を記念酒にすることとした。
庭田神社から麹菌、酵母を分離するために、1甘酒を本殿、拝殿にお供え2境内の草木、土等採取③境内の亀石、拝殿等から拭き取り等によりサンプルを採取し、これらを分離用培地に接種した。酵母は、1エタノール10% 存在下でもアルコール発酵するもの2協会酵母と資化性等の特徴が同じかどうかで選抜し、rDNA遺伝子の塩基配列を確認した。麹菌はコロニーの色等特徴を確認した後、(独)酒類総合研究所にグループ判定の分析を依頼した。
これら分離した麹菌と酵母に播磨産の米と水という原料の全てを播磨産で造ることに加えて、風土記の時代を考慮した醸造方法で造ることにより、記念酒「庭酒」を開発した。この「庭酒」は、今年の春にはりま酒文化ツーリズム協議会加盟の蔵より製造販売された。この冬は、より多くの蔵(9社予定)より製造され、来春販売予定である。

長沼 孝多/   山梨県工業技術センター

山梨県は、県土の約78%を森林が占める森林県であり、得られる豊富な水を利用して良質な清酒がつくられている。近年では、地産地消の取組が活発になっており、酒造好適米など地場産の原材料を使用した清酒の製造量が増加傾向にある。 地産地消の取組を支援するため、県産酵母(富士桜酵母、桃の実酵母)の開発および改良を実施した。県産酵母からシュガーエステル凝集法により変異株を取得し、選抜により泡なし富士桜酵母FJA025株および泡なし桃の実酵母MMB043株が得られた。同酵母は、実験室レベル試験醸造において701号と比較した場合 1もろみのリンゴ酸が0。4~0。6倍、コハク酸が0。6~0。8倍 2もろみのアミノ酸量が約1。4倍 ③清酒の呈味に関与する4種類のアミノ酸のうち、アラニンの割合が高く、アルギニンの割合が低い といった特徴が認められた。一方、泡なし化により、泡なし化前と比較してもろみの有機酸量が減少し、特に酢酸量が減少すること、もろみのアミノ酸量も微減することがわかった。 同様の目的で、本県での栽培に適した酒造好適米品種を選定したところ、中間地用は「夢山水」、平坦地用は「吟のさと」であった。実験室レベル試験醸造では、「夢山水」「吟のさと」ともに生成酒のアミノ酸含有量が他品種と比較して低く、高級酒向けの酒質になると考えられた。

本山 三知代/   農研機構

【目的】油脂の結晶状態は、油脂を基材とする食品や医薬品、化粧品などにおいて硬さや展延性等の物性を決める重要な役割を果たしている。しかし既存の技術では、油脂の結晶状態、すなわち結晶がどれくらいどこに含まれ、その結晶多形の種類はどれか、ということを同時に可視化することはできない。そこで、1回の実験でこれらの特性を可視化する手法の開発を目的に、油脂の構造について多くの情報を与える顕微ラマン分光法を用いて研究をおこなった。
【実験】4℃冷蔵期間の異なる豚肉脂肪の切片を試料とした。冷却ステージを具備した532 nm励起ラマン顕微鏡を用いて、試料の指紋領域のラマンスペクトルを測定した。結晶化度およびβ’型結晶多形含量はそれぞれに特異的なバンド強度を用いて算出し、特異的なバンドが確認できなかったβ型結晶多形は多変量解析を用いてスペクトル全領域の情報から含量を算出し、イメージに再構成した。
【結果と考察】1回の実験で得られたラマンスペクトルより、結晶化度と主要な結晶多形(β'およびβ型)のイメージを同時に取得できた。 冷蔵期間が長くなるとβ型結晶多形が大きな構造物を作り、系の屋台骨の役割を果たすβ'型結晶多形のネットワーク構造の連続性に影響を及ぼしていることが確認できた。油脂を基材とする食品等の物性形成のメカニズム解明に結びつくと考える。

冨田 理(1)、根本 直(2)、松尾 洋輔(1)、庄司 俊彦(3)、田中 福代(4)、中川 博之(1)
小野 裕嗣(1)、菊地 淳(5,6,7)、亀山 眞由美(1)、関山 恭代(1,5)/
   (1)農研機構 食品総合研究所、(2)産総研、(3)農研機構 果樹研究所、(4)農研機構 中央農業総合研究センター、(5)理研 環境資源科学研究センター
(6)横浜市立大学大学院 生命ナノシステム科学研究科、(7)名古屋大学大学院 生命農学研究科

NMRメタボリックプロファイリング法を市販リンゴの特性解析に適用した。試料には青森県産リンゴ(ふじ、王林、ジョナゴールド)、およびニュージーランド産リンゴ(ふじ、Jazz、Envy)を用いた。各試料5個体ずつから果肉抽出物と果汁を調製し、1H-NMRスペクトルを測定してメタボリックプロファイリングのデータセットを作成した。主成分分析では、各リンゴはJazzとEnvyからなるクラスとその他の品種のクラスとに分離され、この品種間差異は主に主要糖類(sucrose、glucose、fructose)の含有量の差によって説明されると考えられた。次に、主要糖類に由来する変数を除去し、含有量の小さい成分に注目して解析したところ、原産国の違いを反映したクラス形成が確認された。ニュージーランド産リンゴのクラスは主にcitramalic acidとaspartic acidの含有量の大きさにより特徴づけられ、一方、青森県産リンゴはxylose、quinic acid、およびメチル基を有する未同定成分により特徴づけられた。この成分は他の先行研究においても未同定であったため、活性炭クロマトグラフィーにより分離精製し、2D NMR解析、LC/MS解析、旋光度測定を行った。標準品を用いた比較解析の結果、植物からの分離報告例が少ないL-rhamnitolとして同定された。
18:農林水産  (P125~P130)

川瀬 眞市朗/   農研機構 近畿中国四国農業研究センター

【緒言】米ぬかなどの穀類廃棄物からはトコフェロールやフェルラ酸、リン脂質といった有用物質が回収されている。一般に農産物や農産廃棄物からの脂質の抽出には圧搾と溶媒抽出を併用するが、有機溶媒の使用量を減らせられれば環境負荷を低減できる そこで、農産廃棄物に含まれるトリアシルグリセロールなどの非極性脂質を共存するリン脂質の両親媒性を利用して水に分散させれば、低コストかつ環境負荷を低く抑えた脂質の抽出が可能と考え、本研究を行った。
【実験と結果】白米表層粉は、白米を研削式精米機で重量が5%減になるまで研削し、篩い分けにより調製した。水抽出は糠もしくは白米表層粉3gをガラス製遠沈管にいれ、純水15mLを注加し均一に混合することで行った。この混合物を低速遠心して得た白濁上精を水抽出液として以降の実験に使用した。走査電子顕微鏡で水抽出液を観察し、球状構造物を確認した。粒度分布測定により、これら球状構造物は直径が1マイクロメートルから数百ナノメートルサイズの3群からなることを確認した。 水抽出液をLC-MS分析し、トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、ホスファチジルコリン、リゾフォスファチジルコリンを検出した。
これらの結果から、白米表層粉を水抽出するとトリアシルグリセロールがリン脂質に包まれた球体として水に抽出されてくると考えられた。

根本 直(1)、廣山 華子(1)、関山 恭代(2)、冨田 理(2)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)食品総合研究所

モモは、アジア市場への輸出が期待されており、輸出先の嗜好と共に、その状態の迅速な把握が必要である。今回、我々は混合物NMRとして、未知であるモモ可食部の基礎的データ取得を目的とし、単一果の部位による違いを確認することを試みた。 市販のモモ1個の果柄(軸)近く、頂部、赤道部から120°間隔で3点ずつ計9点から1cm径の筒状に果肉を抜き取り、それぞれから果汁を搾取して重水で5倍希釈し、NMR試料とした。500MHz分光計を用いて1Dスペクトルを取得し、数値化して主成分分析にてパターン認識に供した。その結果、主として糖とリンゴ酸の含量に応じて部位により異なるデータ分布を与え、経験的に感じるモモ部位による味の違いと符合する差をスペクトル上でも確認した。NMRは香りや風味を検出できるものではないが、果汁中の主要成分をもれなく同時計測しているので味の傾向の把握に非常に有効な方法であると考えられる。

根本 直(1)、廣山 華子(1)、高橋 ひとみ(2)、平子 誠(2)/   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)農研機構・畜産草地研究所

高泌乳牛の能力を最大限に発揮させるには濃厚飼料の利用が必須であるが、濃厚飼料は発酵が早く、多量に給与するとルーメン内環境を変化させ、生産病の原因となる。畜草研では、高泌乳牛における生産病の発生を予防するため、異常発酵を抑えるサプリメントを活用して健全なルーメン発酵を促し、周産期ストレスを緩和して乳量増加を計りつつ分娩後の繁殖機能回復を早めることのできる飼料の給与法についての検討を行って来ている。 今回は、分娩後のルーメン発酵と繁殖機能の回復状況を反映するバイオマーカーを探索するため、血液中の代謝物質プロファイルをNMRにて解析を試みた。 冷凍保存されていたウシ血漿20検体を重水にて4倍に希釈調製した試料について500MHz分光計で溶媒前飽和スペクトルを測定した。得られたスペクトルを絶対値微分ののち、K-L展開(PCA)を行ったところ、溶血試料1点ともう1点のアウトライヤを含む2次元散布図を得た。 変数選択と試料選択を行うことにより特徴空間を操作し、分娩前後でクラス形成を観察できた。試料の遡及検索により、溶血試料でないアウトライヤは腸炎発症個体であることが判明し、また、飼育地の違いなどによるクラス形成やデータ整列なども観察出来た。このようにNMR-MP法にて血液の状態を概括することで乳牛の様々な生理状態を低浸襲で検出・評価できる可能性を見出した。

廣山 華子(1)、小田切 雄司(3)、小幡 明雄(3)、関根 由喜夫(4)、冨田 理(2)、関山 恭代(2)、根本 直(1)/
   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)食品総合研究所、(3)キッコーマン株式会社、(4)日本デルモンテ株式会社

NMR-メタボリック・プロファイリング(MP)は、何が起こっているのか判然としない事象を可視化する技術であり、包括的にマーカー候補の変数を取得できる技術である。今回我々は、NMR-MPにより市販のトマトジュースの解析を試みた。市販品は、主にジュースやケチャップなどの原料になる加工用とサラダなどでそのまま食する生食用の2種類のトマトから作られている。そこで、加工用8種、生食用3種、計11種を、重水製緩衝液で5倍希釈し、測定用試料とした。 500MHzNMRを使用し、溶媒前飽和法、25℃にて1Dスペクトルを取得し、常法に従い0。04ppmごとに面積を測り多変量とした。主成分分析の結果、変数として糖分、クエン酸、グルタミン酸を一括把握することが可能であり、図に示す様に右側は生食用、左側は加工用が分布した。この様な可視化により、自分好みや体調に合ったトマトジュースを選ぶことが出来るかもしれない。

河原崎 正貴(1,3)、鎌田 彰(1,3)、千葉 洋祐(1)、矢口 文(1)、内尾 こずえ(2)、根本 直(3)、江成 宏之(1)/
   (1)マルハニチロ株式会社 中央研究所、(2)医薬基盤研究所、(3)産総研 バイオメディカル研究部門

【目的】飽食の現代社会にありがちな高カロリー摂取状態において、食事の質の違いがどのような影響を与えるのかについて着目した。すなわち本研究では、タンパク質と脂質の一部を畜肉あるいは魚肉由来とした高カロリー食を摂取した時に、代謝に及ぼす影響を評価した。
【方法】高脂肪高炭水化物基本飼料のタンパク質と脂質を畜肉あるいは魚肉に置き換え、同カロリーの畜肉配合食(畜肉食)および魚肉配合食(魚食)を調製した。これらを雄性C57BL/6J(8週齢)に12週間自由摂取させ、体重と摂餌量を追跡した。4週毎に採尿を行い、1H-NMRメタボリック・プロファイリングを実施した。試験終了時には剖検を実施し、血液および臓器を採取し、生化学検査および病理検査を実施した。
【結果と考察】各食餌群の摂取カロリーに差が無いにもかかわらず、畜肉食群は著しい体重増加に加えて脂肪肝を認めた。一方、魚食群では脂肪肝は確認できず、畜肉食群と比較して血糖値および血中コレステロール値において有意な低値を示した。これらの表現型と尿のNMR-MPおよび肝臓の脂質プロファイルに関連を認めた。したがって、高カロリー状態においても魚食を摂取することで、肝機能や糖代謝を正常に維持する効果があると考えている。

岩崎 渉、宮崎 真佐也、丹羽 修/   産総研 生産計測技術研究センター

家畜生産の現場では効率的な生産管理のために性ホルモン等の迅速で簡便な測定が必要とされている。インフルエンザ診断にも用いられているイムノクロマトグラフィーは簡便な測定方法であるが、高感度に定量計測することはできない。そのため、電気化学的手法をイムノクロマトグラフィーへ応用した定量性の付与が試みられている。ニトロセルロース膜内を流れる溶液内のメディエーターを電気化学的に測定する際には電極とニトロセルロース膜の接触が重要となる。本研究では電極とニトロセルロース膜の接触面積を向上させるため、MEMS(マイクロマシン)技術により表面形状を微小三次元構造化した電極を開発した。 本研究は、総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「次世代農林水産業創造技術」(管理法人:農研機構 生物系特定産業技術研究支援センター、略称「生研センター」)によって実施されました。
19:環境  (P131~P134)

田部井 陽介、苑田 晃成、堀江 祐範/   産総研 健康工学研究部門

【背景】インジウム・スズ酸化物(ITO)は、薄型ディスプレイやタッチパネル・太陽電池などの透明電極原料に用いられており、近年急速に需要が高まっている。一方、ITO製造に係わる作業者の肺障害が報告されるなど、ITO吸入による健康影響が注目されている。しかしながら、これまでナノサイズのITO粒子の生体への影響に関する報告は皆無であった。そこで、本研究では、ITOナノ粒子の細胞への影響を解析し、ITOナノ粒子の吸入によって生じる生体への影響を評価した。
【方法】遠心分離によって調整したITOナノ粒子分散液をA549細胞(ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞)に曝露し、一定時間経過後の細胞への影響を評価した。
【結果・考察】4種類のITOナノ粒子がA549細胞に及ぼす影響を評価したところ、細胞毒性が低い物と高い物が見出された。毒性の低いITOナノ粒子では、ミトコンドリア活性阻害能、細胞膜損傷性、炎症誘発性はほとんど認められなかった。一方、毒性の高いITOナノ粒子は、細胞内に多量に取り込まれ、活性酸素種の産生を促進すると同時に、DNA損傷を引き起こし、細胞の増殖能を阻害することが見出された。これらの影響は、細胞内に取り込まれたITOナノ粒子が可溶化することに起因すると考えられる。このことから、ITOナノ粒子の中には、細胞毒性および遺伝毒性を示す物があり、吸入曝露により肺障害を引き起こす可能性があると考えられる。

金本 美穂(1,2)、根岸 秀之(2)、榊 啓二(2)、池上 徹(2)、太田 寛行(1)/
   (1)茨城大学 農学部、(2)産総研 環境科学技術研究部門

非食用で土壌を選ばず栽培できるスイートソルガムはバイオ燃料作物として有用であり、搾汁液からのブタノール生産が研究されている。ブタノールは、エタノールと比較して沸点が高く、揮発性が低い上、発酵液中のブタノール濃度は2%以下と低いため、蒸留では分離に大きなエネルギーを要する。 そこで、浸透気化(PV)法による分離が研究されている。これまでに、シリカライト-1膜を用いて1%(w/w)ブタノール水溶液および細菌培養培地の発酵液からブタノール濃度80%(w/w)以上の透過液が得られている。
本研究では、スイートソルガム搾汁液でのブタノール生成菌Clostridium beijerinckii SBP2-HB株の発酵液を用い、シリカライト-1膜によるブタノール分離の有効性を検討した。供給液ブタノール0.8%(w/w)以上で、透過液ブタノール濃度が74.6~85.3%(w/w)であり、ブタノール水溶液と同等であった。 透過流速は未処理の場合6.2~12.3 g/h・m2であり、ブタノール水溶液の透過流束との比は0.12~0.21であった。pHの調整により、透過流束は16.0~33.0 g/h・m2、比は0.29~0.35に増大した。活性炭処理した供給液では、透過流束は25.3~57.7 g/h・m2、比は0.54~0.76であった。 pHの調整と活性炭処理でスイートソルガム発酵液においても高い分離性能が得られた。

成廣 隆(1)、Masaru K. Nobu(2)、鎌形 洋一(1)、Wen-Tso Liu(2)/
   (1)産総研 生物プロセス研究部門、(2)University of Illinois at Urbana-Champaign

消費社会といわれる現代において、人的活動が地球の物質循環に与える影響は極めて大きい。持続可能な社会を構築し、それを維持してゆくためには、地球本来の物質循環に及ぼす人的活動の影響を最小限に止めることができる要素技術の開発が喫緊の課題となっている。このような状況の中で、廃水中に含まれる有機物を分解すると同時に、有望なエネルギー資源である「メタン」を生成することが可能な嫌気性廃水処理プロセスは、人的活動が生み出した廃棄物を物質循環にリサイクルすることができる持続社会対応型の廃水処理技術として注目されている。嫌気性廃水処理プロセスの内部では、多種多様な微生物が「汚泥」と呼ばれる複合微生物系を形成しており、廃水中に含まれる有機物の分解において中核的な役割を果たしているが、それら微生物群の機能は未解明のままである。本研究では、日本、米国、欧州で稼働する嫌気性消化汚泥プロセス(anaerobic digester)から採取した汚泥の構成微生物群の多様性と、それらの微生物群が有する生理・生態学的機能を、メタゲノムやメタトランスクリプトーム等の最先端のエコゲノミクス技術を駆使して明らかにすることを最終的な目標としている。今回の発表では、消化汚泥に特定の有機物を添加して長期間集積培養した系の微生物群集構造解析に基づき、消化汚泥プロセスのコアとなる微生物群を明らかにした成果について発表する。

野田 和俊(1)、丸本 幸治(2)、愛澤 秀信(3)/   (1)産総研 環境管理技術研究部門、(2)国立水俣病総合研究センター、(3)産総研 環境管理技術研究部門

水銀に関する環境問題の広まりから、2013年に「水銀に関する水俣条約」が採択され、水銀の使用、排出の削減や廃棄物管理などが求められた。日本国内においては、原子力発電所の停止に伴い、火力発電所での石炭燃焼に伴う微量水銀の大気排出などがクローズアップされ、さらに水銀含有廃棄物の長期保管等に関する管理体制についての検討も始まっている。これらを背景に、環境基準レベル(WHO:1μg/m3)の微量水銀濃度を容易に高感度測定するため、ngレベルの金属水銀濃度を検知可能とする水晶振動子による検知システムの開発を行っている。
測定原理は、水晶振動子表面上に物質が吸着すると、その基本共振周波数は比例的に減少する原理を利用し、金属水銀(Hg0)が金に対して合金(アマルガム)となることから、水晶振動子の金電極との直接反応を応用している。
実験の結果から5~100μg/m3のHg0濃度域では共振周波数とHg0濃度がほぼ比例することが示された。また、測定流量と周波数変化についても相関関係が示された。アマルガム反応原理から、反応試料と曝露時間が重要なパラメータであるため、検量線を求める必要性がある。
まとめとして、小型の電子デバイスである水晶振動子を利用した微量水銀濃度検知が可能なことを明らかにした。WHOの環境基準である1μg/m3の微量水銀濃度を容易に高感度検知可能なことが示された。
20:その他  (P135~P146)

小酒井 貴晴(1,2)、坂手 光恵(1)、滝澤 聡(1)、打出 毅(3)、小林 久人(1)、大石 勝隆(1)、石田 直理雄(1,4)、斉田 要(1,5)/
   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)山形大学、(3)酪農学園大学、(4)筑波大学、(5)芝浦工業大学

We investigated the dependence on feeding schedule and biological clock of the regulation of ET-1 gene expression in mouse colon. Fasting increased the level, while maintaining the rhythmicity, of ET-1 gene expression in epithelial colonic tissue. Re-feeding, however, decreased ET-1 gene expression and suppressed rhythmic oscillation, and the rhythmicity also changed for gene expression for circadian clocks. Furthermore, the decrease in ET-1 gene expression induced by re-feeding was blocked by pre-treatment with hexamethonium and atropine. The daily change in ET-1 gene expression in colon, which depends on feeding schedule via the autonomic nervous system, is synchronized with peripheral circadian oscillators under conditions of free feeding and fasting but not re-feeding. The decrease in ET-1 gene expression in the proximal colon induced by re-feeding occurs via the nervous system.

Jiexia Quan(1)、Hongyu Wang(1)、打出 毅(2)、布施 博之(3)、斉田 要(1,3)/
   (1)産総研 バイオメディカル研究部門、(2)酪農学園大学、(3)芝浦工業大学

The presence of endothelin (ET)-like immunoreactivity and the cardiovascular effects of mammalian ET-1 in fish have been reported. To identify ET-related peptides in fish, we screened the cDNA library of the medaka (Oryzias latipes) intestine by means of rapid amplification of cDNA ends, and we cloned cDNAs encoding an ET-related peptide. The medaka ET-related sequence of 21 amino acids is similar to the trout ET-1 peptide recently purified from kidney specimens of Oncorhynchus mykiss. The deduced amino acid sequence of medaka pre-proET-1 (PPET-1) comprises 166 amino acids, including a putative signal sequence and mature ET-1, as well as big ET-1 and ET-1-like sequences. This precursor has low homology with the sequences of human, rat, mouse, frog (Xenopus laevis), and zebrafish (Danio rerio) PPET-1.

深沢 嘉紀(1)、今井 賢一郎(1)、富井 健太郎(1,2)、Horton Paul(1,2)/
   (1)産総研 ゲノム情報研究センター、(2)東京大学大学院新領域創成科学研究科情報生命科学専攻

Mitochondria provide numerous essential functions, and their dysfunction leads to very diverse diseases. Although many mitochondrial proteins have been identified, a complete list is still elusive. Since it is said that 50 to 70% mitochondrial proteome depends on N-terminal signal (presequence) for their localization, we developed a novel presequence predictor, MitoFates, and look for undiscovered mitochondrial proteins from human proteins (including variants). MitoFates predicts 1,167 genes where at least one isoform has a presequence, and surprisingly 580 of them were not annotated as “mitochondrial”. We should note that these include 42 regulator candidates of parkin translocation. In addition, we performed presequence analysis for diverse eukaryotes. Interestingly, some organisms show low fraction of predicted presequence, and we discuss these in evolutionary history of eukaryotes.

河野 泰広/   産総研 バイオメディカル研究部門

【研究開発の経緯】茨城県行方市内には多数のヤマユリが自生し栽培も容易である。地域おこしの一環としてヤマユリ精油を利用した香粧品等を開発したいというニーズが地元にあり、行方市商工会の依頼で共同開発を行いました。
【開発支援の内容】ヤマユリ花弁の精油を水溶性で沸点が高く引火性の低い有機溶媒を用いて安全かつ簡便に抽出する小規模企業向け技術を開発しました。
【製品の概要と特徴】 ヤマユリの香水は「山百合のしずく」として2010年5月からから茨城空港内で試験販売し、来年二作目の商品を販売予定です。精油の含有量がまだ十分でなく、現在、含有量の高い商品とするための改良を進めているところです。
本研究の一部は、独立行政法人 科学技術振興機構復興促進プログラム(A-STEP)探索タイプ研究助成により行われました。

加藤 愛、藤井 紳一郎、絹見 朋也、柴山 祥枝、坂口 洋平、高津 章子/   産総研 計測標準研究部門

産総研計量標準総合センター(NMIJ/AIST)では、認証標準物質(CRM, Certified Reference Material)の開発を行っており、タンパク質などの生体高分子のCRM開発にも取り組んでいる。CRM開発には計量学的に最も信頼できる値付け(濃度や純度の決定)を行う必要があり、主に同位体希釈質量分析法(IDMS, Isotope-dilution Mass Spectrometry)を組み合わせた定量法を用いている。これらのCRMを校正もしくは妥当性評価に用いることで、測定結果の信頼性向上に役立てることができる。
本発表では、当研究室でこれまでに開発を行ったタンパク質・ペプチド標準物質の開発概要について紹介する。併せてCRMを活用した、保存容器などプラスチック材料表面への生体高分子の吸着評価について紹介する。

田中 睦生/   産総研 バイオメディカル研究部門

バイオセンサー開発では、バイオマーカーを検出するセンシング界面の構築が不可欠であり、界面構築にはセンシング基板材料に応じた様々な表面修飾材料が必要である。バイオセンシング界面を構築する表面修飾材料には、抗体や酵素などの機能性物質を固定化する機能、タンパク質の非特異吸着を抑制する機能などが求められる。本研究では、バイオセンシング界面を構築するための様々な表面修飾材料をライブラリー的に合成した。そしてこれら表面修飾材料に応じた界面構築法を確立するために、修飾表面を電気化学的に解析できるプローブ材料を開発し、目的とするセンシング界面構築法を検討した。

澤口隆博、田中睦生/   産総研 バイオメディカル研究部門

我々は、基板表面に化学結合を介して自己組織化単分子膜を形成させ、反対側末端やそのほかの部位に種々の機能分子を導入することで表面特性を分子レベルで制御することを目的に研究を進めている。例えば、化学結合基としてチオール類を用いると金などの金属表面を分子レベルで修飾できることから、オリゴエチレングリコール(OEG)を介して末端にホスホリルコリン(PC)基をもつ新規アルカンチオールを開発した。この表面修飾分子はAu(111)電極上にナノ構造分子膜を形成し、溶液中走査型トンネル顕微鏡(EC-STM)による表面構造解析でも分子レベルで配列した単分子膜であることが判明した。一方、グラッシーカーボンやHOPG等のカーボン材料の表面修飾では、ジアゾニウム化合物を新規に開発し(図)、そのHOPG上でのナノ構造分子膜は分子レベルで平滑で緻密な単分子膜を形成する優れた表面修飾分子であることが明らかになった。

亀田 直弘、増田 光俊/   産総研 ナノシステム研究部門

生体膜の主要成分であるリン脂質誘導体は、水中で自己集合し、リポソームを形成する。その閉鎖空間には親水性の低・高分子、その二分子膜壁内には疎水性の低分子を封入できることから、ドラッグデリバリー用途として医療分野だけでなく、食品、化粧品分野での実用化研究が進められている。一方、的確な分子設計を施した合成脂質分子が、ナノチューブへと自己集合することが分かってきた。ナノチューブの両端は開放されており、リポソームとは異なったカプセル機能の発現が期待できる。本研究では、カプセル機能の高度化を目的とし、口径サイズが数ナノメートル以下の誤差範囲内で制御され、内外表面が異なる官能基で被覆された単分子膜構造から成るナノチューブの構築を目指した。天然に存在するバイオナノチューブであるタバコモザイクウィルスの構造や組成に学び、脂質分子の設計、自己集合プロセスの検討、分子パッキングの制御を行った。

藤田 克英(1,2)、遠藤 茂寿(2)、丸 順子(2)、加藤 晴久(1,2)、篠原 直秀(1,2) 内野 加奈子(2)、福田 真紀子(2)、堀江 祐範(1)、本田 一匡(1,2)/
   (1)産総研、(2)技術研究組合単層CNT融合新材料研究開発機構

ナノ炭素材料は、革新的素材として注目される一方、カーボンナノチューブ(CNT)等の線維状材料は、その形態から、アスベストのように中皮腫を引き起こすのではないかという有害性のリスクが懸念される。このため、研究開発プロセスの初期段階からのナノ炭素材料の安全性に関する検討を組み込んでいくことが必要となる。本報告は、事業者による自主安全管理の支援を目的に、培養細胞を用いた簡易なナノ炭素材料の有害性評価手法の開発や普及について紹介するものである。これらの成果は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務の結果得られたものです。

小室 俊輔(1)、杉山 拓也(1)、村田 賢彦(1,2)、石垣 徹(3)、日下 勝弘(3)/   (1)茨城県、(2)産総研、(3)茨城大学

茨城県は、県内に建設された「大強度陽子加速器実験施設(J-PARC)」に、中性子の産業利用を促進するため2台の中性子回折装置を整備・運営しています。
●生命物質構造解析装置(iBIX)
概要:タンパク質の機能・発現や化学反応に関与する水素や水分子を高い精度で測定できる装置
用途:タンパク質の構造解析、機能性高分子材料の開発、化学プラント用触媒の開発
●材料構造解析装置(iMATERIA)
概要:X線では困難な水素やリチウムのような軽元素の位置と量が測定できる装置
用途:Liイオン電池材料の開発、燃料電池材料の開発、磁石材料の開発、超伝導材料の開発

小室 俊輔(1)、杉山 拓也(1)、村田 賢彦(1,2)/   (1)茨城県、(2)産総研

●いばらき量子ビーム研究センター(IQBRC)
  ・J-PARCの産業利用を促進するため、利用者の様々な相談や技術開発などをサポートする施設です。(ex.J-PARCユーザーズオフィス)
  ・J-PARCの研究者・産業界の交流を通じて、産学官の共同研究や産業利用を促進します。(ex.東海村研究交流プラザ)
●いばらき中性子医療研究センター(※IQBRCに隣接)
  ・最先端のがん治療法である「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)※1」の実用化推進のための、産官学連携拠点です。
     ※1ホウ素薬剤を投入した患者に中性子線を照射し、がん細胞を破壊する療法。
●研究室、会議室の使用等について、ご相談ください。 (TEL:029-352-3301)

坂田 一樹(1,2)、川崎 陽久(2)、鈴木 孝洋(2,3)、辻 昭久(4)、築野 卓夫(5)、森山 茂(5)、石田 直理雄(1,2)/
   (1)筑波大学大学院 生命環境科学研究科、(2)産総研 バイオメディカル研究部門、(3)株式会社シグレイ
(4)日本アドバンストアグリ株式会社、(5)築野食品工業株式会社

ショウジョウバエの求愛行動は、雄が雌に近づき、いくつかのステップを経て交尾が成立する。石田時間生物研究室では、雄と雌を1匹ずつシャーレに入れ、雄が雌を追いかける行動のリズム(Close Proximity (CP) Rhythm)の測定系を開発した。これまでに、CPリズムはサーカディアンリズムであり、早朝を中心にピークを迎え、夕方頃には減少することが分かってきた。さらに、CPリズムの振幅については、ショウジョウバエが摂取する餌に依存して変化することも明らかにした。例えば、栄養価の低い餌を与え続けた場合、求愛行動の頻度が減少し、CPリズムの振幅は減少した。このように、CPリズム上で変化が見出されたものの、このリズムに影響する食餌成分はほとんど明らかになっていない。そのため、CPリズムに影響する食餌成分の探索とその分子機構の解明を目的として研究している。


(注)発表者のご所属欄中、国立研究開発法人、独立行政法人、地方独立行政法人、学校法人等の名称は省略、 また、農業・食品産業技術総合研究機構は農研機構、理化学研究所は理研、産業技術総合研究所は産総研と省略して記載させて頂いております。ご了承ください。