中鉢大それを少し異なる観点からコメントしますと、東京と地方は全くの別物です。象徴的な例で言えば、時間の流れ方が感覚的に違うので、時計の進め方も違うようにしなければいけないと思っています。
東京の1時間と仙台の1時間の感覚は違います。東京では5分毎に電車が来るのに我先にと皆駆け込んで電車に乗り込みます。一方そんな混雑は仙石線にはありません。なぜ東京ではあんなに急がないと生活しづらいのか。それは、分業化によって効率を良くしているからですが、反面、それは一人では生きづらい構造であることを意味します。このため、東京では何をするにもお金が必要です。私の生まれ育った田舎だと、財布を開く場面など週に1、2回もなく、それで普通に生きていけるわけです。地方がなにも東京の真似をする必要はないと思うのです。
例えば、ライオンとシマウマの弱肉強食の共生関係があります。ライオンが強いからシマウマがいなくなるかといえばそうではなく、シマウマがいなくなるとライオンもいなくなる。「地方消滅」と言いますが、地方がなくなれば東京は死んでしまうと思います。地方を犠牲にして生きるという、歪みのある片務的な関係は是正しなければいけません。 では、そのためにはどうしたらいいか。地方には地方の文化があるわけではないですか。保護主義的になるわけでなく、地方独自のものをつくり、それを前提に東京と自由に往き来するのです。「ここに土着していける」というクローズドな面と、外と交流していくオープンな面の両方のバランスをもって、中央と双務的関係が築けなければ、健全ではないと思うのです。
つまり、地方と中央の対等な付き合い方があるのではないでしょうか。それは必ずしも地方が中央化することでも、中央が地方化することでもない。地方には、地方の役割があると思うのです。
海輪私の家内は秋田県の横手市出身で、彼女と結婚する前、横手に何回か行き、地方都市独自の良さを感じました。ところが十数年後には、商店街がバタバタ閉店して今やゴーストタウンです。なぜかと言えば、バイパスができて、大型ショッピングモールができました。あの時、東京のスタンダードを地方に持ち込んでしまったのです。効率的で安く大量に物が入るといいでしょう、という価値観が席巻してしまった。すると地域は壊れてしまう。むしろ、そこで失ったものに、大切なものがあるでしょう。これをひとつの価値観として再認識する必要があります。
東経連も将来ビジョンを策定する際、そこからまず議論しようと「なぜ東北に住むことが良いことか?」から考えました。すると理事長も仰る通り、職住近接で「暮らしやすい」。「暮らしやすい」とはコストも最小で暮らせるということですから、収入が減ったって、自由に使えるお金は、逆に増える可能性があります。次に人口減少の問題は、高齢者が増え、稼げる人が減るという人口構成の問題です。そこに着目し、若い人が住める環境にもっと力を入れていく必要があります。そこで「暮らしやすく、やりがいを実感できる地域社会」をイメージし、その実現のために何をすべきか考えました。
そのためには、東京と同じやり方ではない「稼ぐ力」が必要です。それに理事長も仰る通り、交流しなければシュリンクしてしまいますから、中央や他地域と交流しながら活性化していくことが大切という意識も必要です。
そのような意味で仙台はトップランナーとして、これからも東北の中核都市として発展し続けるポテンシャルが非常に高いですね。先程もお話しした通り、隣県同士の問題は、仙台ばかりが栄えていることが理由だと思うのです。しかし逆に言えば、東北全体を考えた時、仙台でさえも栄えなければ大変なことになる、という言い方もあるわけです。仙台で得た利益が他の東北地方に広がる構造ができれば、一番よいと思うのです。まず、それを目指すマインドを高めなければ、東北同士で足の引っ張り合いばかりになってしまいますね。
中鉢その閉塞感を打ち破るような活動は、基本的にはやはり「人」だと私は思うのです。
幾つかあるネットワークのうち私が思い付くのは、地域の持つ同窓組織や先輩・後輩の縦系列のつながりと、地域コミュニティにおける駅と学校の役割、このふたつが重要という予感がしているのですよ。
そして、行動範囲を少しずつ広げ、今まで知らなかった人とも付き合えることが大切だと思います。そのためには言葉や色々なユニバーサルな能力も必要になります。それによってまた自己増殖して広がっていくと思います。 私も海外に赴任したりと、色々なことをしました。自分の指向性からしたら自ら海外には行けなかったでしょうが、後ろから背中を押す人がいたから行けました。人間は本質的には保守的なので、何かきっかけが必要だと思います。
海輪ですから仕掛けとして今回のフェスタのような場をつくり「会ってみたらよかった」ということが成功事例になり伝播していくようなアプローチになりますね。 あとは、独自の「幸福度調査」のようなものを実施するのもよいと考えています。本当は東北は幸福なんだと自分たちの価値を見直すこと、人から評価してもらうことが必要ではないでしょうか。
もうひとつは、震災後、起業する若い方が多いです。最近の若い経営者はノウハウを囲い込もうとしないどころか、逆にどんどん教えて別の地域に広げていこうという方が多いのです。そのような若い方には非常に期待したいですし、それを全面的に展開するための情報発信やつなげるお手伝いを、我々もしたいと考えています。