現在、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のもと、非可食型バイオマスから化学品を製造する一貫プロセスの開発に関する大型プロジェクトが実施されています。製紙技術と化学品製造技術の融合を目指す試みで、日本製紙株式会社を中心として民間企業、大学、研究機関など26機関が参画しています。
このプロジェクトのなかで、産総研と東北大は、日本製紙とともに製紙技術から排出される黒液中に含まれる高付加価値成分であるバニリンを、超臨界CO2によって選択的に抽出する連続プロセスの開発に取り組んでいます。基礎物性の視点からの研究アプローチを得意とする東北大学猪股研究室と、プロセスエンジニアリング研究に強みを持つ産総研の特徴を活かして、東北大がバッチ装置を用いた抽出条件の検討を行い、そのエンジニアリングデータをもとに産総研が連続プロセスの最適化を行うというフォーメーションです。
超臨界流体の基礎物性に関して世界的な権威である猪股先生は、川﨑主任研究員の学位論文の副査でもあり、20年来の関係。民間企業の超臨界CO2によるケミカルフィルター再生技術の開発を共同で実施したことをきっかけに、その後、CO2塗装、今回のNEDOプロジェクトによるバニリン抽出と連携は続き、現在3テーマの共同研究を実施しています。
川﨑主任研究員らが目指すのは、有機溶剤を大量に使用する従来型工業技術を高圧CO2を用いたグリーンプロセスに革新すること。今後も東北大との連携を強化し、この東北の地で高圧CO2科学と実装技術の拠点化を図ります。
反射防止用途など、ナノメートルレベルのプラスチックの表面加工で主流となっている熱ナノインプリント技術には、厚手のものに対して処理に時間がかかるなどの難点があります。そこで、相澤上級主任研究員は、宮城県産業技術センターと共同で、常温で使用可能で、シンプルで処理時間が大幅に短縮できる、液化炭酸ガスを利用した新しい技術を開発しました。
ところが、興味を示してくれる企業はあるものの、なかなか実用化には繋がりません。技術的な面でも、当時の宮城県産業技術センターと産総研東北センターには精密なナノインプリントのモールド(型)を自作できる設備も、高価なモールドを購入する予算もなく、精度に関する研究データが不足していました。
そんなとき偶然、東北大と産総研のマッチング事業の所内公募が開始されます。半年前に東北センターで光ナノインプリントの講演をされた中川先生と共同研究するきっかけにはうってつけです。相澤上級主任研究員は、思い切って中川教授に相談。東北大ー産総研のマッチング事業の中で、中川研究室から新しいモールドの提供をうけるとともに、CO2ナノインプリントによる転写結果の解析をしてもらうことになったのです。
この中川研究室との連携により、より説得力のあるデータを示すことができるようになり、CO2ナノインプリント技術の実用化にも弾みがつきつつあります。さらに、共同研究の中で、CO2ナノインプリント以外の二酸化炭素ナノ加工技術についても中川研究室との連携可能性を探るなど、新たな関係も生まれています。