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研究紹介

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川波研究員
年の地球環境問題解決には 、 効率が良く 、 廃棄物を出さない資源循環型低環境負荷技術の開発が求められてい る 。特にエネルギー事情が厳しくなってきている中 、 様々な方面への低環境負荷コンパクトプロセスの実現 が 必要とされてきてい る 。

本の石油資源は貧弱であ る が 、 綺麗で豊富な水を資源に持ってい る 。と同時に世界第4位の二酸化炭素排出国でもあ る 。この “ 水 ” と “ 二酸化炭素 ” を最大限に利用する技術展開は 、 将来私たちにとって 、 キーとなってくると思 われる 。 筆者 は 、 超臨界流体場反応チームに所属し 、 超臨界流体技術を中心とした 、 世界 に誇れる高温高圧領域での有機合成反応の研究展開をしてい る。特に 、 この安全・安心・安価かつ枯渇しない資源である “ 水 ” と “ 二酸化炭素 ” を使った 、 コンパクトでシンプル かつ効率的な 物質合成法の開発を行って いる 。

近のトピックスとしては 、 超臨界二酸化炭素-イオン液体ハイブリッド反応場を用いる二酸化炭素からのプラスチック原料(カーボネート類)高効率合成があ る ( 図1 )。身近な例として 、 コンパクトディスク(CD) や携帯電話の液晶パネル など多方面に使われるエンジニアリングプラスチックで ある が 、 現在の多くが猛毒で 危険なホスゲンから作られてい る 。このプラスチック原料を二酸化炭素から効率的に作る手法の開発に 、 2000年から取り組 んでき たが 、 当初は二酸化炭素が不燃性で安定な物質であるため 、 原料として利用するには極めて困難で あっ た。これに対して 、 新たなイオン液体技術と超臨界流体技術を組み合わせることで 、 実 用レベルまでの効率を得るのに成功した。この イオン液体技術による 手法は 、 米国化学会C&E NEWSでも二酸化炭素削減に向けた 有望な 技術 であると 紹介され 、 従来法に変わる新たな技術として 、 現在は世界中で研究されるようになってい る 。

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図1 超臨界 二酸化炭素を使った高効率プラスチック 原料合成法の開発

なお 、本技術開発も含めた形で 、 平成17年度第4回GSC賞経済産業大臣賞を 受賞する こととな っ た。 その他、アクリル酸 を製造するのに用いられてきたアルドール反応 において、 二酸 化炭素 の圧力 コントロール のみで 反応 選択 性を制御 できることも見出しており、 この技術は、 英国王立化学会Green Chemistry誌にて 、 2004年のHot Articleとしても紹介された。

在は 、 カーボネート合成に関しては 、 エンジニアリングチームとの共同でベンチプラントスケールの試験を試みて い る ( 図2 ) 。また 、 他 の チーム・研究センター・研究所・企業とも幅広く共同で研究を行っており 、 今後この “ 水 + 二酸化炭素 ” の分野で 、 更に大いなる展開を目指して研究を進めていきたいと考えてい る 。

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図2 ベンチプラントスケール ( a ) および小スケール ( b ) での超臨界二酸化炭素固定化試験装置

関連論文:
・ 川波 肇, 化学工学 , 70, 117, 2006. ・ H. Kawanami, K. Matsushima, Y. Ikushima, Ind. & Chem. Eng. Res ., 44, 9656, 2005.
・ K. Matsushima, H. Minoshima, H. Kawanami, Y. Ikushima, M. Nishizawa, A. Kawamukai, K. Hara, Ind. & Chem. Eng ., 44, 9626, 2005.
・ H. Kawanami, H. Matsumoto, Y. Ikushima, Chem. Lett ., 34, 60, 2005.
・ H. Kawanami, Y. Ikushima, Tetrahedron Lett ., 45, 5147, 2004.
・ H. Kawanami, Y. Ikushima, N. Kobayashi, Chem. Lett ., 820, 2004.
・ K. Matsui, H. Kawanami, Y. Ikushima, H. Hayashi, Chem. Commun ., 2502, 2003.
・ H. Kawanami, A. Sasaki, K. Matsui, Y. Ikushima, Chem. Commun ., 896, 2003.
・ H. Kawanami, Y. Ikushima, Tetrahedron Lett ., 43, 3841, 2002.

* 筆者は、 平成18年3月29日から平成19年3月28日まで 、 産総研長期海外派遣「在外研究職員」として 、 英国ノッティンガム大学に留学 予定 。


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