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研究トピックス

電池の内部で生じる反応を非破壊で直接目視する手法を開発
~技術移転による製品化について~

蓄電池

産業技術総合研究所 電池技術研究部門では、閉じられた電池の内部を非破壊で直接目視観察できる新たな技術を開発しました。 (特願2025-056480)
またこの度、技術移転契約により、株式会社イーシーフロンティアから、本技術を基にした製品がリリースされました。(製品紹介ページはこちら)

【技術のポイント】
  • 密閉された電池の内部を非破壊で目視観察
  • 光透過性を有する銅薄膜電極の開発
  • 金属リチウムの析出と溶解の過程をオペランドで観察

【開発の背景】
現行のリチウムイオン二次電池を超える、高エネルギー密度の二次電池として、金属リチウム二次電池の開発が期待されています。本二次電池では、電極表面で金属リチウムの析出と溶解が繰り返し起こります。そこで、リチウムデンドライトや内部短絡の発生を抑制するために、電極面内における金属リチウム析出の不均質さを理解することが、その実用化において重要とされています。
上記の目的において、電池内部の電極表面で生じる反応を可視化することが求められています。特に目視による直接観察は、現象をより直感的に理解することが出来るため、技術的な有用性は高いと言えます。
この背景に基づき、光透過性を有する銅薄膜電極を用いた、電池内部の新たな目視観察技術を開発しました。

【技術の詳細】
金属リチウム二次電池の主要な電極には、銅箔が用いられますが、通常の厚さの金属箔 (厚み 10 μm以上) は光 (可視光) を通すことはありません。一方で金属であっても、その厚みを薄くすることで、光を通すようになります。この性質に着目し、光を透過する厚さの銅薄膜を、光学的に透明なガラス基板の上に製膜し、それを電極として用いることを発案しました。銅薄膜の膜厚を薄くすると光透過性は高まりますが、他方で電極としての電子伝導性は損なわれます。ここでは電極としての電子伝導性と良好な光透過性を両立する厚みを設計し、本技術を完成させました。

図1には、金属リチウムの析出と溶解を調査するための試験用電池セルの一例を示しました。ここではリチウムの供給元となる金属リチウム箔を対極に、銅薄膜電極を作用極に用います。両電極を、電解液を含侵させたセパレータを挟んで対向させ、垂直方向に加圧した状態で試験を行います。図1(a)には通常の試験セルの模式図を示します。両方の電極の金属箔は光を通さないため、リチウム析出が起こる界面 (セパレータと銅電極の界面) を観察することは出来ません。図1(b)には本観察技術における試験用セルの模式図を示します。光透過性を有する銅薄膜を用いることで、電極越しにリチウムの析出を目視で観察することが出来ます。

説明図

図1 本技術の概念と試験用電池セルの一例。作用極の銅は金属リチウムの析出反応と溶解反応が起こる電極、対極の金属リチウム箔は作用極で起こる反応を補う電極である。セパレータは電解液を含んでいる。(a) 通常用いられる試験用セルの模式図。対極と作用極は 10 µm 以上の厚みの金属箔であり、光を通す事は無いため、電池内部における金属リチウム析出の様相を目視することはできない。(b) 本技術における試験用セルの一例。ガラス板の上に製膜した銅薄膜を電極として用いる。金属リチウム析出の様子を、電極の裏側から透視することが出来る。


図2には本試験用セルで観察した、金属リチウムの析出と溶解の様子を観察した一例を示します。図2(a)に示した電圧プロファイルには、リチウム析出と溶解に起因する電圧の平坦部が明瞭に観察されており、本試験セルにおける光透過性銅電極が、電気化学的に良好に機能していることを意味しています。図2(a)中の特徴的な電圧プロファイル上の点をAからHで示しました。さらに図2(b)には、これらの点に対応する電極の写真を示しました。
点AからDのリチウム析出過程では、電気量に伴い電極が暗くなる様子が見て取れます。これは銅電極の表面に金属リチウムが析出していることを意味しています。点DからHのリチウム溶解過程では電極の明度が回復し、元の銅電極のコントラストが回復していく様子が分かります。このように光透過性銅薄膜電極を用いることで、金属リチウムの析出と溶解のプロセスを目視で観察できることが分かります。点BとGに対応する電極の写真上では、白点線の楕円で囲った領域に特に顕著なリチウム析出が観察できます。これは対極の金属リチウム箔表面の傷や突起部分に対応します。このように電極面内におけるリチウムの析出と溶解の不均質性が、対極表面の状態に影響されることが、目視で明らかになりました。

説明図

図2 光透過性銅薄膜電極を用いた試験セルによるリチウムの析出と溶解の定電流サイクル試験の結果。(a) 電流密度 i = 1.0 mA cm-2 におけるリチウム析出と溶解の電圧プロファイル。特徴的な電気量の点を◇Aから◇Hで示している。(b) (a)で示した電気量の点◇Aから◇Hに対応する電極面内の写真。

動画による電極の色変化の様子

金属リチウムの析出と溶解の電極面内の不均質性は、リチウムデンドライトの発生や、局所的な内部短絡の発生など、金属リチウム二次電池の実用化を妨げる要因となります。このような面内不均質性を抑制するための対極や電解液、セパレータの開発が、金属リチウム二次電池の開発を加速することに繋がります。本技術による目視観察は、新たな電池の設計や部材の開発に貢献します。

本技術の詳細は、プレプリント (https://doi.org/10.26434/chemrxiv-2025-zx6rk-v2) にて公開されています。
また本技術を基にした製品の詳細は、株式会社イーシーフロンティアの製品紹介ページにて公開されています。


問い合わせ先

産業技術総合研究所 関西センター 電池技術研究部門
主任研究員 橘田 晃宜
E-mail: メールアドレスaist.go.jp

ナノ材料科学研究グループ