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研究トピックス

固体高分子電解質を用いる電気化学デバイス構築のための電極開発(電気化学会女性躍進賞)

産総研関西センターでは前身の大阪工業技術試験所時代から固体高分子電解質膜に触媒電極を接合した電気化学デバイスの研究開発に取り組み、水電解水素製造技術を実用化し、固体高分子形燃料電池の研究開発に取り組んできました。現在、固体高分子電解質膜を用いる電気化学デバイスは燃料電池自動車や家庭用燃料電池(エネファーム)として社会導入が実現し、今後広く利用される流れにあります。また、この技術はさらに種々の方面で応用が進む可能性をもっています。
これまで固体高分子電解質膜を用いる先導的な電気化学デバイス構築に取り組んできた産総研電池技術研究部門の女性研究者が電気化学会女性躍進賞を授与されました。藤原直子主任研究員が創出してきた主な技術シーズを紹介します。

説明図

関連総説:
Electrochemical Devices with Metal-Polymer Electrolyte Membrane Composites
Naoko Fujiwara
Electrochemistry, 85, 9, 566-571 (2017)

■安全安心で環境にやさしいダイレクト燃料電池の提案

固体高分子形燃料電池にメタノール等水素以外の燃料を供給し電極上で直接酸化して発電するダイレクト燃料電池は、可搬電源やモバイル端末の充電器として一部実用化され、利用が期待されています。産総研ではアスコルビン酸(ビタミンC)を燃料とするダイレクト燃料電池を開発しました。この燃料電池は水素やメタノールを使わず、燃料極反応はアスコルビン酸を摂取したときに生体内で起こる代謝反応と同じで、安全無害な燃料電池です。さらに、アスコルビン酸の酸化には貴金属触媒を必要とせず、表面積の大きい炭素材料を電極に使用できる特徴があります。産総研ではこのビタミンC燃料電池を科学教室等の教材として利用しています。

説明図

図1 アスコルビン酸(ビタミンC)を燃料とする固体高分子形燃料電池による発電

発表論文:
Direct Polymer Electrolyte Fuel Cells Using L-Ascorbic Acid as a Fuel
Naoko Fujiwara, Kazuaki Yasuda, Tsutomu Ioroi, Zyun Siroma, Yoshinori Miyazaki, Tetsuhiko Kobayashi
Electrochemical and Solid State Letters, 6, 12, A257-A259 (2003) 他

また、アスコルビン酸の他、エタノールやグルコースなどのバイオマス由来燃料を利用するダイレクト燃料電池の研究に取り組みました。エタノールやグルコースは酸性電解質中では過電圧が大きいため、アルカリ電解質中における過電圧低減を期待して従来のカチオン交換膜に代わりアニオン交換膜を電解質に用いる方式で研究開発を行いました。その結果、アニオン交換膜形燃料電池では従来のカチオン交換膜形燃料電池に比べてアノードでの燃料酸化とカソードでの酸素還元の両反応の過電圧が低減し、発電性能が大幅に向上することを報告しました。

発表論文:
Direct ethanol fuel cells using an anion exchange membrane
Naoko Fujiwara, Zyun Siroma, Shinichi Yamazaki, Tsutomu Ioroi, Hiroshi Senoh, Kazuaki Yasuda
J. Power Sources, 185, 2, 621-626 (2008) 他

説明図

図2 カチオン交換膜(CEM)、アニオン交換膜(AEM)を電解質膜とする固体高分子形燃料電池の発電性能比較

関連発表:
⇒ 次世代燃料電池研究グループ 研究成果

■金属空気二次電池のための固体高分子形空気極

金属空気電池は高いエネルギー密度を有することから革新的な車載用蓄電池としてその二次電池化が期待されています。空気極側の問題点として、過電圧が大きいこと、アルカリ電解液による電極濡れや液漏れの危険性、空気中の二酸化炭素によるガス拡散電極細孔内への炭酸塩析出などが指摘されています。これらの問題点を改善し大幅な性能向上を図るため,空気極内およびその近傍に電解質としてアニオン交換膜およびそのアイオノマーを用いる固体高分子形空気極を提案し,空気中の二酸化炭素による性能低下の抑制と液漏れ防止の可能性を報告しました。

発表論文:
Reversible air electrodes integrated with an anion-exchange membrane for secondary air batteries
Naoko Fujiwara, Masaru Yao, Zyun Siroma, Hiroshi Senoh,Tsutomu Ioroi, Kazuaki Yasuda
Journal of Power Sources, 196, 2, 808-813 (2011)

説明図

図3 アニオン交換膜およびそのアイオノマーを利用する亜鉛空気二次電池空気極の概念図

関連発表:
⇒ 次世代燃料電池研究グループ 研究成果

■化学メッキ技術による高分子アクチュエータ素子

特殊な化学めっき法により高分子電解質膜の両面に直接白金を析出させた電極接合体に水中で電位を印可すると屈曲する現象を利用した高分子アクチュエータが90年代に旧大阪工業技術研究所で開発されました。しかし、水の電気分解による気泡発生が課題でした。そこで電極を白金から金に変えることで電位窓が広がることに着目し、金の前駆体である金属錯体や還元剤を工夫することで高分子電解質膜の両面に均一な金電極層を形成させることに成功し、従来の白金電極を使用したアクチュエータに比べてガス発生なしに大きな屈曲が達成できることを報告しました。この技術はベンチャー企業で実用化に向けた研究開発が行われています。

発表論文:
Preparation of gold-solid polymer electrolyte composites as electric stimuli-responsive materials
Naoko Fujiwara, Kinji Asaka, Yasuo Nishimura, Keisuke Oguro, Eiichi Torikai
Chemistry of Materials, 12, 6, 1750-1754 (2000)

説明図

図4 作製した高分子アクチュエータの2V印加時の屈曲挙動

説明図

図5 金電極接合体のアクチュエータへの応用例

■化学メッキ(吸着還元法)による膜-電極接合体作製技術

化学めっき法により膜-電極接合体を作製する技術はもとは固体高分子型水電解水素製造法のために旧大阪工業技術試験所で開発された技術です。この方法は膜中に金属錯体を吸着させ還元剤により高分子電解質膜の表面に直接白金を析出させる方法で、密着性が高く、水電解等の高電流密度作動におけるガス発生にも耐えられること等が特徴です。通常のアイオノマーを用いる熱圧着法とは異なる特徴があります。藤原はこの技術を発展させ、上述の高分子アクチュエータの他、燃料電池への適用を試み、チューブ状電解質膜や熱に弱い電解質膜への電極接合、アイオノマーを使えない場合の電極接合等を報告しています。

説明図
説明図

図6 化学メッキ(吸着還元法)による膜-電極接合体作製技術と一般的な熱圧着法の比較

発表論文:
Preparation of platinum–ruthenium onto solid polymer electrolyte membrane and the application to a DMFC anode
Naoko Fujiwara, Kazuaki Yasuda, Tsutomu Ioroi, Zyun Siroma, Yoshinori Miyazaki
Electrochimica Acta, 47, 25, 4079-4084 (2002)

関連論文:
Evaluation of a passive microtubular direct methanol fuel cell with PtRu anode catalyst layers made by wet chemical processes
H. Qiao, T. Kasajima, M. Kunimatsu, N. Fujiwara, T. Okada
Journal of the Electrochemical Society, 153, 1, A42-A47 (2006)

Potential application of anion-exchange membrane for hydrazine fuel cell electrolyte
K. Yamada, K. Yasuda, N. Fujiwara, Z. Siroma, H. Tanaka, Y. Miyazaki, T. Kobayashi
Electrochemistry Communications, 5, 10, 892-896 (2003)

次世代燃料電池研究グループ