研究トピックス
全固体リチウム電池の固-固界面構築技術
リチウム二次電池はエネルギー密度の向上が求められる一方、安全性の確立と信頼性についてもますます強く要求されるようになっています。このため、燃えやすい有機電解液の代わりにリチウムイオンを伝導する固体電解質を用いた全固体リチウム電池に大きな期待が持たれています。この電池を実用化するためには固体電解質等の部材開発に加えて、固体同士の固-固界面制御技術に基づく電池設計および各種プロセス技術の開発が必要です。産総研電池技術研究部門では硫化物系固体電解質を用いた 全固体リチウム二次電池の実用化へ向けた研究開発を進めてきています。開発した各部材シートを積層し良好な電極-電解質間の固-固界面を形成したラミネート型全固体電池のプロトタイプを開発し作動させることに成功しています。
図1 全固体リチウム二次電池断面の走査型電子顕微鏡(SEM)
図2 作製したラミネート型全固体リチウム二次電池でスマートフォン自撮り用LED照明を作動
■固体電解質の微細化・均質分散により良好な電極複合体層を構築
"Electrode morphology in all-solid-state lithium secondary batteries consisting of LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2
and Li2S-P2S5 solid electrolytes"
Atsushi Sakuda, Tomonari Takeuchi, Hironori Kobayashi
Solid State Ionics, 285, 112-117 (2016)
Li2S-P2S5系固体電解質が加圧によって常温で焼結できることを利用し、固体電解質の微細化と室温成型(常温加圧焼結)で、より産業的に利用しやすい緻密電極層の作製プロセスを開発しました。様々な手法により固体電解質の粒子形状制御を検討し、硫化物系固体電解質を均質分散させることにより、電極の均質性の改善、電極-電解質接触面積の増大、電極層の高密度化(空隙の低減)、正極活物質(酸化物)粒子同士の接触部で局所応力が生じることによる正極活物質粒子の破砕を低減しています。低弾性率かつ擬塑性変形が可能な硫化物系固体電解質が電極活物質粒子への応力集中を抑制する緩衝層として振る舞う効果を引き出しています。
図3 正極層断面のSEM像とEDXによる酸素(NMC:正極活物質、平均粒子径9.4μm)、硫黄(SE:固体電解質、平均粒子径16μmおよび3.8μm)の元素マッピング:固体電解質粒子を微細化したプロセスにより、電極の均質性改善、電極電解質接触面積増大、電極層高密度化(空隙の低減)が可能
■全固体リチウム-硫黄電池
"High Reversibility of "Soft" Electrode Materials in All-Solid-State Batteries"
Atsushi Sakuda, Tomonari Takeuchi, Masahiro Shikano, Hikari Sakaebe, Hironori Kobayashi
Front. Energy Res., 4, 19, 1-7 (2016)
産総研が開発した成形性に優れる高容量電極活物質Li3NbS4を用いてLi2S-P2S5系固体電解質を利用する全固体二次電池を開発しました。Li3NbS4が常温加圧焼結する擬塑性変形が可能な材料であるため、室温での加圧成型においてプレス圧の増加と共に緻密化し、90%以上の緻密な成型体の形成が可能です。充放電で約30%の体積変化が生じるにも関わらず、クラック等が確認されず、380 mAh g-1の可逆充放電が可能で良好なサイクル特性の発現が可能です。
図4 Li3NbS4を用いた全固体リチウム硫黄電池電極層断面のSEM像
関連論文:
"Composite positive electrode based on amorphous titanium polysulfide for application in all-solid-state lithium secondary batteries"
Atsushi Sakuda, Noboru Taguchi, Tomonari Takeuchi, Hironori Kobayashi, Hikari Sakaebe, Kuniaki Tatsumi, Zempachi Ogumi
Solid State Ionics, 262, 143-146 (2014)