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研究トピックス

新たな製造プロセスでLiNiO2の劣化抑制

蓄電池

ニッケル酸リチウムは、高容量リチウムイオン二次電池正極材料として期待されているが、高電位充電時にサイクル劣化が激しく、その特性が十分に活かし切れていませんでした。今回、今まで取り組んできたLiFeO2-Li2MnO3系正極材料研究の成果を基に、新たな製造プロセス(Li2NiO3熱分解法)の適用により、高容量(>190 mAh/g)を維持しつつサイクル劣化を大幅に抑制したリチウム過剰ニッケル酸リチウム系正極材料を開発しました。

■Li2NiO3熱分解プロセスで作製したリチウム過剰LiNiO2

1)Appearance of lithium-excess LiNiO2 with high cyclability synthesized by thermal decomposition route from LiNiO2-Li2NiO3 solid solution
Mitsuharu Tabuchi, Nobuhiro Kuriyama, Kenji Takamori, Yuichiro Imanari and Kenji Nakane
J. Electrochemical Soc., 163 A2312 (2016)
2)高容量と高サイクル特性を有するニッケル酸リチウム正極材料の合成と評価
(産総研電池技術研究部門)田渕光春、栗山信宏、片岡理樹
第57回電池討論会講演要旨集1A18(2016)
3)高容量ニッケル酸リチウム正極材料の充放電時熱挙動解析
(電力中央研究所、産業技術総合研究所)小林陽、田渕光春、栗山信宏、小林剛、宮代一
第57回電池討論会講演要旨集1A19(2016)

 水酸化ニッケルと水酸化リチウムという安価な原料を用いて、簡便に高サイクル特性のニッケル酸リチウム合成を可能とする技術を開発しました。ニッケル層内に欠陥構造を持たせることにより、高容量(>190 mAh/g、4V級正極では最高値に近い値)を維持しつつ、高電位充電においても高サイクル特性(放電容量維持率85%@50サイクル)を実現しました(図1参照)。
 また電中研における充放電時の熱挙動解析により、従来法で得られるニッケル酸リチウムの問題点であった、充放電時の相変化に伴う発熱吸熱が大幅に低減されることも見いだしました(図2参照)。
 今後、化学組成の最適化により、さらなる特性改善が期待できます。4V級正極材料であるために、車載用などの大型リチウムイオン二次電池用のみならず、小型民生用高容量正極材料としても期待できます。
※上記論文に掲載されている連携企業との共同研究は終了し、当所単独での研究継続許可済み

説明図

図1 開発品(左図)と従来品(右図)の充放電特性

説明図

図2 従来品(左図)と開発品(右図)の充放電時の熱挙動。上段左が充電曲線、右が放電曲線であり、下段がそれに対応する熱挙動を示す。

今後の予定

今回のデータを基に、正極材料開発パートナーを探し、電池メーカー等に供給できるようにします。また、さらなる特性改善のために、作製方法の検討&異種金属置換効果の検討などを行います。一方で今まで行ってきたLiFeO2-Li2MnO3系正極材料開発も継続し、大型リチウムイオン二次電池用の安価で高性能な正極材料開発も継続して行います。

【関連論文】(Li2MnO3系正極材料の最新版)
1)M. Tabuchi et al., "Synthesis and electrochemical characterization of Ni- and Ti- substituted Li2MnO3 positive electrode material using coprecipitation-hydrothermal-calcination method" Electrochimica Acta, 210, 105-110, (2016).
2) M. Tabuchi et al., "Structural change during charge-discharge for iron substituted lithium manganese oxide" J. Power Sources, 318, 18-25, (2016).
3) M. Tabuchi et al., "Stepwise charging and calcination atmosphere effects for iron and nickel substituted lithium manganese oxide positive electrode material" J. Power Sources, 313, 120-127, (2016).

【関連特許】
・特開2013-56801他、今回発表に関する当所単独物質特許2件出願済み

【関連書籍・総説】
・田渕光春、「Li2MnO3正極、LiNi1/2Mn1/2O2正極」、電池技術委員会編「電池ハンドブック」
 第8編 第3章3.7節、オーム社(2010).

電池システム研究グループ