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研究トピックス

高活性な錯体触媒が可能にする新技術

センサー触媒燃料電池

説明図 通常の金属触媒とは質的に異なる錯体系触媒の開発を進めています。この新しい触媒を使うと、例えばこれまで白金電極で酸化しにくかったCOが、容易に電極酸化されるようになります。他にもアルコールや糖類、水素化物を選択的に電極酸化する新しい概念の触媒です。燃料電池への利用をはじめとして、CO除去触媒や高選択性センサ、カルボニル化合物合成触媒など酸化反応を利用する物質変換への応用も模索しています。新しい電極触媒の開発により、これまで電気化学デバイスの対象でなかった化合物を使えるようになるところが本技術の利点です。この触媒はロジウムを使いますが、1分子で作用する分子触媒ですので担持量はわずかですみます。

■ロジウムポルフィリン錯体による一酸化炭素(CO)酸化

"CO Electro-oxidation by Rh Disulfo-deuteroporphyrin, and Its Mitigation Effect on CO Poisoning of PEMFC Anode"
Shin-ichi Yamazaki, Masaru Yao, Sahori Takeda, Zyun Siroma, Tsutomu Ioroi, and Kazuaki Yasuda
Electrochemical and Solid-State Letters, 14 B23-B25 (2011)

一酸化炭素を白金よりもはるかに低過電圧で酸化する極めて活性の高い触媒です。発電技術や固体高分子形燃料電池(PEFC)への利用 (後述)、CO除去技術、高選択・高感度なCOセンサーとしての応用が期待されます。

説明図

■CO酸化触媒を利用した発電技術

"A Direct CO Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell"
Shin-ichi Yamazaki, Tsutomu Ioroi, Yusuke Yamada, Kazuaki Yasuda and Tetsuhiko Kobayashi
Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 3120–3122

"New-Concept CO-Tolerant Anode Catalysts Using a Rh Porphyrin-Deposited PtRu/C"
Shin-ichi Yamazaki, Masaru Yao, Zyun Siroma, Tsutomu Ioroi, and Kazuaki Yasuda
J. Phys. Chem. C 2010, 114, 21856–21860

この触媒をPEFCの燃料極触媒として利用すれば、COを燃料として発電することが可能です。また、現状のPEFCの白金系燃料極触媒にこの触媒を混ぜると、COにより白金が被毒されることによる性能低下を軽減することができます。

説明図

■ロジウムポルフィリン錯体によるアルコール酸化

"Electrocatalytic oxidation of alcohols by a carbon-supported Rh porphyrin"
Shin-ichi Yamazaki, Masaru Yao, Naoko Fujiwara, Zyun Siroma, Kazuaki Yasuda and Tsutomu Ioroi
Chem. Commun., 2012, 48, 4353–4355

これまでの錯体触媒よりも活性の高いアルコール酸化電極触媒です。貴金属使用量の少ないダイレクトアルコール燃料電池への応用を検討しています。また、白金系触媒とは異なる反応性を利用して燃料電池以外にもアルコールセンサやカルボニル化合物合成への応用を検討しています。一方で、アルコールだけではなく糖類やある種の有機酸の酸化が可能であり、これらの物質の分析や、これらの物質を燃料とする燃料電池への応用の検討を進めています。

説明図

■ロジウムポルフィリン錯体によるボロハイドライド酸化

"Metallocomplex-based borohydride electro-oxidation catalysts"
Shin-ichi Yamazaki, Masaru Yao, Hiroshi Senoh, Zyun Siroma, Naoko Fujiwara, Tsutomu Ioroi, and Kazuaki Yasuda
Catal. Today 170 (2011) 141–147

ロジウムポルフィリン触媒は以上のような有機物のみならず無機物であるボロハイドライドも電極酸化することが可能です。白金に比べて副反応による水素発生が少なく、反応の制御がしやすい触媒反応です。この特性を利用すれば、水素を副生しにくいダイレクトボロハイドライド燃料電池や必要に応じて水素を発生する水素発生装置への応用が考えられます。

関連特許:
・特許第4613350号「一酸化炭素の電気化学的酸化用触媒」
・特許第5158793号「糖類の電気化学的酸化用触媒」
・特許第5376527号「アルコールの電気化学的酸化用触媒」 など

【関連書籍・総説】
・田中、山崎「水加ヒドラジンをエネルギーキャリアとする貴金属フリー燃料電池車」
 日本エネルギー学会誌Vol.93, No. 5(2014)pp 414-421
・山崎、五百蔵「COまたはCO/H2を燃料とするためのアノード触媒の開発」
 水素エネルギーシステム Vol.36, No. 2(2011)pp 12-16

次世代燃料電池研究グループ