出展: 国土地理院 WEBサイト

※「地理院地図データ」(国土地理院)をもとに、産総研 活断層・火山研究部門が作成

1000年に1度と⾔われた東北地⽅太平洋沖地震

様々なメディアで「■■■を震源地とするマグニチュード8クラス以上の地震の発生確率は今後30年以内にXX %程度」というような話題を耳にしたことがあると思います。この発生確率はどのように求められるのでしょうか? 地震や津波の研究者は、「過去に起きた地震は、将来も繰り返し起きるだろう」という仮定のもと、過去の履歴、つまりどのような地震がいつどこで起きたのかを調べ、それらから発生確率を計算します。なるべく多くの地震の事例があれば、それだけ確率の計算の信頼性が上がります。

地震計や測位衛星(GPSや「みちびき」など)を使った観測は最近100年程度の記録に限られており、それより前に起きた地震を知るためには古文書等の文字の記録に頼るしかありません。しかし、その文字の記録も正確性や連続性といった点が地域によって大きく異なります。また、時代が古くなればなるほど、文字の記録から知ることのできる情報は少なくなります。こうした問題点を解決する方法として、私たちは、歴史記録より古い時代まで遡ることのできる「地層」の記録に注目してきました。

2011年東北地方太平洋沖地震が発生した後は、地質記録の重要性が改めて注目されるようになっています。内閣府の中央防災会議では、想定すべき地震・津波について「これまでの考え方を改め、古文書等の分析、津波堆積物調査、海岸地形等の調査などの科学的知見に基づき想定地震・津波を設定し、地震学、地質学、考古学、歴史学等の統合的研究を充実させて検討していくべきである」という提言が公表されました。これを受けて、大学や研究所の研究者だけではなく地方自治体が主導して過去の巨大地震・津波の地質記録が調べられるようになりました。

「17 世紀型地震」による津波が繰り返し浸⽔してきたとされる北海道東部の海岸

産業技術総合研究所は2014年に「津波堆積物データベース」を公開しました。このデータベースでは、当時社会的に注目された西暦869年貞観地震の研究について、研究の一次データである「掘削調査の結果」から結論である「断層モデル」に至るまでのトレーサビリティ(追跡の可能性)を保つことを第一としました。また、震災後に行われた津波堆積物の調査が注目されていたということもあり、解釈途中のデータも開示するようにしました。しかしながら、解釈途中のデータを開示することで、地質に詳しくない閲覧者にはかえって理解しにくくなってしまうという問題点もありました。
データベースの公開から10年近く経過し、研究を取り巻く環境は大きく変わりました。現在では学術論文のオープンアクセス化が進むと共に、論文のデータが「データレポジトリ」という形で無料公開されるようになり、トレーサビリティの確保は常識となりつつあります。こうしたなか、私たちの「津波堆積物データベース」は一定の役目を終えたと考え、新しい形で研究成果を理解いただくために「津波浸水履歴図」として公表することになりました。

「津波浸水履歴図」では、地質を専門としない方々にも理解しやすくするために、調査地点と浸水計算結果を中心にまとめました。また、研究者が行っている作業について分かりやすく解説する項目も設けました。この一方で、より専門的なハザードマップ等を作成するために必要なデータとして、断層パラメータも公開しています。津波浸水履歴図は、房総半島東方沖で発生した巨大津波に続き、千島海溝南部で発生した巨大津波についても公開していく予定です。