独立行政法人産業技術総合研究所
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成果のまとめと今後の展望
平成23年度次世代高信頼・省エネ型IT基盤技術開発・実証事業(サービス工学研究開発分野)の受託事業として実施した「本格研究による人起点のサービス工学基盤技術開発」の成果について報告した。サービスの生産性向上、すなわち、サービス提供過程において付加価値の創出につながらない負荷とコストの低減を実現することを目的に、観測→分析→設計→適用の最適設計ループにしたがって要素技術を開発し、かつ、それらを統合したパッケージとして、具体的なサービス現場に一貫して適用し、要素技術の統合による技術パッケージの有効性を検証した。設定した開発目標を達成し、また、事業において連携を実施した企業の多くが、開発した技術を事業終了後も自己負担で継続運用していくという結果が得られた。さらに、開発した技術パッケージについては、複数の企業に技術移転が進んでいる。しかしながら、サービス業の9割以上を占める中小サービス事業者への技術の導入と普及については、十分な成果に至らなかった。
本事業を通じて、サービス工学技術が単にサービス業の生産性向上に役立つだけでなく、製造業のサービス機能の支援としても意義のある技術であることが明らかになった。今後のサービス工学技術の研究開発には、この観点を取り入れ、大きく3つの視点で推進していく必要があると考える。
(1)製造業のサービス機能への導入を踏まえた研究開発
国内市場が縮小するなか、製品の低価格化競争が過熱し、それに対応するように生産空洞化が加速している。これは顧客の平均的な特性に応じたコモディティ製品を大量生産して大量消費することで、価格を価値として訴求していくアプローチである。日本の産業構造を、この大量生産・大量消費型から脱却させるためにサービス工学技術の活用を考える。これは、買う=交換価値=売り切りから、使う=使用価値=顧客との継続的関係への変革を意味している。この変革の結果、顧客との継続的な関係づくりと使用価値を担うものは主としてサービスとなり、製品(モノ)はサービスを伝達する媒体、端末、インタフェースと考えられる(Service Dominant Logic)。このためには、製造業が積極的にサービス機能を備えて顧客接点を持ち、顧客接点で蓄積される大規模データをモデル化して、それを製品(サービスを伝達する媒体、端末、インタフェース)の設計に環流していくサイクルを産み出す必要がある。サービス工学技術として、顧客接点での大規模データ収集と、収集した大規模データから製品設計に活用できる知識を抽出する技術が求められる。
(2)サービス業の生産性向上における価値の向上に資する研究開発
サービス機能の生産性を向上させて行くには、生産性の分母に当たる「サービス提供にかかるコスト」を削減していくアクションを継続するとともに、生産性の分子に当たる「サービス提供品質」を均質化、高質化するアクションを同時に実現していく必要がある。「サービス提供品質」の均質化、高質化のために、優れた従業員のスキルや経験を理解し、それを効果的に育成し、継承する技術・方法論が求められる。
(3)サービス業の生産性向上におけるコストの低減に資する研究開発
サービス機能の生産性を向上させて行くには、生産性の分母に当たる「サービス提供にかかるコスト」を削減していくアクションを継続する必要がある。サービスプロセスと顧客の価値需要を観測・分析し、顧客への価値形成に関係するプロセスとそうでないプロセスを仕分け、価値形成に関与しないプロセスを効率化する技術が必要となる。
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