独立行政法人産業技術総合研究所
事業目的と研究開発のアプローチ 飲食・小売サービス 医療・介護サービス 観光・集客サービス サービス工学技術の導入戦略 成果のまとめと今後の展望

医療・介護サービス
3.1 研究の構成と開発目標

医療・介護サービスにおいても、顧客(患者、被介護者)のニーズや身体状態等に基づいた施策計画と実行が顧客満足度に大きく寄与する。しかし、顧客接点時間が長く従業員との人間関係も密な介護・医療サービスでは、面談やアンケートによる顧客データの調査、顧客やその生活環境に設置したセンサによる顧客データ計測は困難である。さらに、従業員(介護士や看護師等)が専門性の高いスキルと判断力によりサービスを提供しているため、従業員間のスキル差が大きくサービス品質の管理も難しい。かつ、複数の職種の従業員が相互に連携をとりながらサービスを提供している。このようなサービス現場では、顧客の直接的計測に依らない(従業員の観測は可能)サービスプロセスの可視化、従業員間の顧客情報共有によるサービス生産性の向上が必要である。本事業では介護施設である有料老人ホーム スーパーコート、介護老人保健施設 和光苑、医療機関である佐賀大学医学部附属病院、社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院、昭和大学横浜市北部病院、長崎大学病院等と連携を取りながら、主として従業員支援技術パッケージの開発を進めた。

医療・介護サービス現場での生産性向上には、従業員間の情報共有支援が効果的である。医療機関では電子カルテや看護記録の情報システムが運用されているが、介護現場での情報システムの導入は限定的である。また、医療機関であっても、看護師が情報入力に多くの業務時間を費やし、十分な顧客(患者)情報の把握や共有ができていないのが実状である。そこで、本研究では、従業員の業務プロセスを記述、把握した上で、介護や看護に直接的に関係しない業務(情報の入力、転記、計算など)を低減し、従業員間での効率的な情報共有を実現する技術パッケージを開発した。この技術パッケージを、2施設以上で適用し、10%以上の業務改善効果を実現することを目標として設定した。また、この技術パッケージに必要な要素技術のうち、作業時点記録支援技術では、ハンディ端末などの支援機器の導入とインタフェース設計により、作業時点記録および閲覧の労力を現状に比べ50%削減することを目標設定とした。

3.2. 研究成果
医療・介護サービスでは、従業員支援技術パッケージの開発を進めた。従業員の業務プロセスの把握には、いままで手作業によるタイムスタディを活用してきたが、本研究では【要素技術@:サービスオペレーション推定技術】を導入し、効率的な業務プロセス把握を実現した。
図3-1:従業員情報共有システム
図3-1:従業員情報共有システム(※図3.2.1-5)
顧客(患者、被介護者)情報の収集、従業員間での情報共有、活用支援にはハンディ端末型のシステムによる作業時点記録支援技術を開発した【要素技術C:作業時点記録支援技術】。他の従業員が入力した情報を整理して、状況に合わせて推奨提示することで、類似文章をキーパッドなどで打ち込まずに選択するだけで入力できる技術を組み込んだ。同様にシステム側が自動的にキーワードを推奨してくれるため、キーワード検索も容易になる。介護老人保健施設和光苑の協力を得て、介護福祉士2名、看護師2名に擬似的な申し送り作成、および、確認業務を行わせ所要時間を計測した。従来の申し送りノートを用いた場合は平均6.9分であるのに対し、システムを利用した場合は平均2.1分であり、作業時点記録および閲覧の労力を69.2%低減できた。同様に佐賀大学医学部附属病院の看護師4名に同様のシステムを用いて患者のバイタル計測と所見入力の所要時間を計測した。紙面入力では平均1分かかっていたのに対して、システムを利用した場合は平均28秒となり、このケースでも50%の労力削減を確認できた。
図3-2:システム導入効果
図3-2:システム導入効果(※図3.2.1-8)
適切な入力候補を推奨する技術である【要素技術A:カテゴリ&コンテクストマイニング技術】。
これらの技術によって労力が削減できた申し送り業務は、作業全体の24.7%を占めることが明らかになっている(先行する研究プロジェクトの成果に基づく)。和光苑における69.2%の労力削減は作業全体の15.6%に相当、佐賀大学における50%の労力削減は作業全体の12.5%に相当する。すなわち、本研究では開発した従業員支援技術パッケージを2機関に適用した結果、両施設ともに10%以上の業務改善効果が得られたことになる。
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