独立行政法人産業技術総合研究所
事業目的と研究開発のアプローチ 飲食・小売サービス 医療・介護サービス 観光・集客サービス サービス工学技術の導入戦略 成果のまとめと今後の展望

事業目的と研究開発のアプローチ

本事業は、クラウドコンピューティングを利活用した新サービスの創出、産業の高次化を実現するための基盤研究開発、環境整備を目的とし、中小企業を含めた幅広いサービス企業が容易に利用できるイノベーションの推進と生産性向上のための基盤技術の研究開発を実施したものである。その背景には、日本経済の約7割を占め、地域経済の中核を担う重要産業であるサービス産業において、企業経営と現場の運営、人材の育成を支援する工学的手法の重要性が増加していることがある。特に、サービスの高付加価値化と、サービス提供過程において付加価値の創出につながらない負荷とコストの低減を実現する、サービス工学の重要性が認識されている。サービスにおける研究開発では「人(=顧客・サービス提供者)」が重要な研究対象となるため、これまでの「モノ」を対象とした工学的手法の単純な適用が困難であり、新規に取り組むべき研究課題が多い。しかし、中小企業比率が高いため投資余力に乏しく、製造業に比べて研究人材が少ない等の理由から、サービス産業では企業による自発的な研究開発の取り組みが進んでいない。
これらの観点から、サービスに関わる「人」に着目し、中小サービス事業者にも利用可能なサービス工学の基盤技術研究開発を実施した。サービス工学研究は、観測(初期仮説策定、センシング)→分析(数理分析、モデリング)→設計(シミュレーション、サービスプロセス可視化)→適用(人間支援、ライフログ、人材育成)という最適設計ループにしたがって進めることが経済産業省の技術マップにおいて提唱されている。当該研究開発では、サービスの生産性向上、すなわち、サービス提供過程において付加価値の創出につながらない負荷とコストの低減を実現することを目的に、上記の最適設計ループにしたがって要素技術を開発し、かつ、それらを統合したパッケージとして、具体的なサービス現場に一貫して適用し、要素技術の統合による技術パッケージの有効性を検証した。
サービス工学研究を推進するに当たっては、具体的な現場をもつ事業者との連携が不可欠である。図1-1は既存サービス産業の分野別マップである。縦軸はサービスの対象範囲、横軸は労働集約型であるか資本集約型であるかを示している。L字で囲ったサービス業は、顧客接点の重要性が高く中小企業比率が高い。また、就労者数も多く、ITの活用を含む生産性向上への取り組みが遅れている。本研究では、L字で囲ったサービス業のうち、顧客接点の重要性が高く中小企業比率が高い3つのサービス業態:(1)飲食・小売、(2)医療・介護、(3)観光・集客との具体的な連携を通じて、汎用的な要素技術とそれらを統合した技術パッケージを開発した。

図1-1:既存サービス産業のマップ
図1-1:既存サービス産業のマップ(※図1.1.2-1)
本研究では、サービスの最適設計ループを構成する5個の要素技術を開発した。図1-2の灰色(*印)の要素技術は先行プロジェクトにおいてほぼ開発が完了しているものである。黄色(肩に丸付き数字)の箇所は、本研究において新たに開発した要素技術である。
図1-2:サービス工学研究の枠組み
図1-2:サービス工学研究の枠組み(※図1.1.2-2)
開発した要素技術は、技術パッケージとして統合し、顧客接点支援技術パッケージ、従業員支援技術パッケージ、経営者支援技術パッケージの3つにとりまとめた。顧客接点支援技術パッケージは、顧客への効果的な推奨を行いながら顧客データを観測するツール群である。従業員支援技術パッケージは、従業員のサービス品質管理活動を通じて従業員行動データを取得するものである。顧客接点支援、従業員支援を通じて観測されたデータはクラウドに蓄積される。これを分析し、経営者に提示することでサービス施策の意思決定を支援する。これが経営者支援技術パッケージとなる。顧客、従業員、経営者という多階層の関係者に対してさまざまな指標とプロセスを可視化する統合サービスマネジメント環境を開発した。
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