独立行政法人産業技術総合研究所
事業目的と研究開発のアプローチ 飲食・小売サービス 医療・介護サービス 観光・集客サービス サービス工学技術の導入戦略 成果のまとめと今後の展望

観光・集客サービス
4.1. 研究の構成と開発目標

大規模集客サービスの典型例には、地方観光地やスポーツスタジアムなどがある。飲食・小売と同様に顧客の情報を取得しカテゴリ化することで、顧客カテゴリに応じたサービス設計を支援することができる。ここでは、観光・集客サービスを2つのタイプに分けて考える。第一は、サービス提供者(通常、単一企業)が閉空間を用意し、その中で顧客との接点をもつタイプ(Closed Service Field)、第二は特定の地域に複数のサービス提供者が混在して広がっているタイプ(Open Service Field)である。Open Service Fieldでは、広域空間の中で顧客IDを付与した上でその行動をいかに取得するか、それを複数のサービス提供者にいかに提示するかが技術課題となる。
Closed Service Fieldでは、たとえばメンバーカードなどで顧客IDを与えて情報を取得することができるためID化された行動記録はさほど困難ではない。むしろ、顧客行動の内部にある動機付などの内的な情報をいかに取得するかが重要になる。また、収集された大規模データに対しては、経営者支援技術パッケージを適用し、有効性を検証した。本研究では、第一のClosed Service Fieldの事例として、球場内での顧客接点をもつ北海道日本ハムファイターズと連携した。第二のOpen Service Fieldの事例としては、城崎温泉の温泉街を形成する城崎この先100年会議(兵庫県豊岡市)と連携した。連携先の5名以上の担当者の60%以上から、技術パッケージが有効であると評価されることを目標として設定した。

4.2. 研究成果
(1)顧客接点支援技術パッケージ

顧客サービスを通じて顧客をID化し、行動を観測するための技術パッケージである。地方観光地などの広域空間(Open Service Field)で顧客ID化を実現するとともに、球場などの閉空間(Closed Service Field)でより深い顧客情報を得るための技術を開発した。広域空間(Open Service Field)での顧客接点支援技術については、先行するプロジェクトで開発してきた顧客にIDを付与するカードシステム(OFS-POS:Open Service Field - Point Of Service、城崎温泉にて「ゆめぱ」として実証中)を改良し、メインテナンスを容易にした【要素技術D:顧客ID化基盤技術】。ソフトウェアとハードウェアを実装レベルから見直し、特に導入時設定の省力化を実現した。従来システムの初期設定パラメータ数36を、9項目まで削減でき、70%以上の導入省力化を達成した。
閉空間(Closed Service Field)での顧客接点支援技術については、カードシステムの技術を応用したタッチタワーシステムの開発とこれによる顧客アンケートを実施した。具体的には北海道日本ハムファイターズの協力を得て、球場内の3箇所に図4-1のようなタワーを設置し、IDカードでタッチさせて選択肢付きのアンケートに回答させた。複数箇所のタッチタワーをスタンプラリーのように回遊させる仕組みを作った。タッチ数は12,570件で、その93%がファンクラブ会員であった。ファンクラブ会員の場合は、ID番号がヒモづけされ、アンケートの結果と来場記録とを組み合わせて、(2)経営者支援技術パッケージの分析にかけることができた。

図4-1 タッチタワーと設問例
図4-1 タッチタワーと設問例(※図4.2.2.1-1、4.2.2.1-2)
(2)経営者支援技術パッケージ

顧客ID化基盤技術、あるいは、閉空間サービスにおいてすでに導入されている顧客情報を多面的に集積し、外部環境データ(例えば球場内でのイベント、投手、対戦チームなどのCausal Data)とともに統合データベースに集約した上で、飲食・小売サービスフィールドで開発した経営者支援技術パッケージを適用し、有効性を検証した。具体的には北海道日本ハムファイターズの協力を得て、2009年から2010年の2年間の来場者データ(ID付きのファンクラブ会員情報を含む)に基づいて、カテゴリマイニング技術で顧客カテゴリを導出した。ID付きのファンクラブ会員は5つのカテゴリに類型化でき、C4についてはリピート率の高いカテゴリであることが分かった。さらに、この2年間のデータと顧客カテゴリに基づいて2011年の需要予測を行った。
この結果、予測精度は87〜88%であり、カテゴリ分類を行わない場合よりも顧客カテゴリ分類を行う方が来場者予測精度が高くなることが確認できた。さらに、イベントや投手、曜日などの外的要因との関係を調べた結果、顧客カテゴリ(ファンクラブ会員ではない一般来場者も1つの別カテゴリとして扱った)ごとに明瞭な差が現れた。この経営者支援技術パッケージを、北海道日本ハムファイターズの実務層、経営層の3名に提示したところ、3名全員から、集客サービスにおいても有効性が高いとの評価が得られた。

図4-2:ファンクラブ会員のカテゴリ毎の来場行動
図4-2:ファンクラブ会員のカテゴリ毎の来場行動(※図4.3.2-2)
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