Interview

森永邦彦が語る、
印象を変える
美しい所作の秘訣

音楽に歌詞やメロディーがあるように、服にもコンセプトがあって、言葉があって、それを届けるための色、素材、形があるんだ──。ファッションデザイナー・神田恵介氏の刺激的な世界観に惹かれ、ファッションの面白さに引き込まれていった森永邦彦さん。光の当たり方によって色が変わる服、球体の服、風の力がシルエットを生み出す服。従来の格好よさや美しさにとらわれない、新たな軸で作品を生み出し続ける感性は、学生時代に「歴史の目撃者」となったことが大きく影響しているようです。

2024年11月12日

  • 仕事の原点について

    なぜ職業としてファッションデザイナーを選んだのですか。

    直接的なきっかけとしては、神田恵介さんが行ったファッションショー(1999年)ですね。

    どのようなショーでしたか?

    会場がファッションショーの舞台ではなく、電車の中でした。しかも運行中の。ショーを観るためにあちこちの学校から400人くらいが集まってきて、電車はぎゅうぎゅうの状態。一駅ごとにモデルが乗ってきて、車両の端から端まで歩いて。ショー自体は15分くらいのものだったと思います。このショーにすごく感動したんです。ただ人が服を着て歩いているだけなのに、なんでこんなにドキドキするんだろうっていう気持ちになって。

    歩く姿を見るだけで、とてつもない非日常を感じました。いろいろな要因があったと思うんですけど、自分がいつも使っている日常の電車の風景がまったく違う非日常の風景に変わって、窓の外に流れていく景色を背景にしながら、アシンメトリーでグランジな洋服を着たモデルたちが人を掻き分けるように歩いていって、ニルヴァーナの音楽が流れていて……ショーを見ながら涙がでました。その日、洋服ってすごい、僕もこういう非日常が作りたいって思ったんです。

  • 魅力的だと感じたモデルについて

    最近、森永さんの目を引いたモデルがいれば教えてください。

    レオン・デイムですね、近年だとズバ抜けてるんじゃないでしょうか。パリ・コレクションであれだけ異質に、前傾姿勢になって、どんどん肩を揺らしながら歩く人なんていないので。ジョン・ガリアーノが手がけていたマルジェラでは、ディオール時代のジョン・ガリアーノがやっていたような、とても自由で、全てのものを美しさに変えていくようなとてつもない強さが思い起こさせるようなものになっていますね。昨年(2024年)の1月に行われたオートクチュールのコレクションも素晴らしかった。洋服がすごくツイストされていて、ポケットに手を入れたようなジェスチャーがそのままデザインになっているんです。そのデザインに対して、モデルがさらに服をねじるような感じで歩いていて、洋服の形、モデルの所作、ウォーキングの異質さが完璧に均衡していました。

    日本と海外のモデルの違いについて、どのように感じますか。

    まず骨格ですかね。あとは、日本のモデルの方が、精神的な内在しているものをランウェイで表現する力のある方が多いと感じています。勉強熱心であり、このブランドであればこういうコンセプトがあり、だからこそこういう服が生まれたんだという点を理解した上でウォーキングしてくれる人が多いと思います。

    今、レディースとオムのコレクションがあって、それぞれ考え方は別です。オムに関しては感情を形にしたような作り方をする洋服が多く、「未熟な少年像」みたいなものがあって。モデルに対しても普通のクラシカルなウオーキングではなくて、手をポケットに入れて満たされない精神を表現したり、手をグーにして歩いてもらったり、満たされないからこそ、強く、速く、前だけを向いて、脇目も振らずにまっすぐ歩く。服が崩れてもいいから、とにかく強く、前に向かって歩いていってもらっています。

    レディースに関しては毎回テーマがあって、2025年春夏パリ・コレクションでいえば「風」。雲のようなものがあったとして、そこを突き抜けていく風のように颯爽と歩く。風を感じさせるように、あるいは自分自身が風そのもののように歩いていってくださいと。このように、テーマによってぜんぜん違います。

  • きれいに、おしゃれに見せるコツ

    こんなふうに服を着てみると楽しいとか、きれいに着こなせるとか、デザイナーの視点からアドバイスするとすれば。

    格好よさとか、美しさにとらわれない服の選択の仕方があるといいなと思っているんです。その人のスタイルに合わせて、サステナブルな選択をするのもいいし、ほかの選択をするのもいいと思います。色、形、素材以外で、やっぱり「その服が持つストーリー」というものがどんな服にもあると思っていて、それが自分とフィットするものを選択できるといいんじゃないかなと思いますね。それは例えばジェンダーを超えているものがあるかもしれないですし、環境に対してポジティブなものもあるかもしれないですし、自分がすごく好きな人が着ている服かもしれないですし。その服を着ていると自分がポジティブになれる、そう思えるようにしてもらえるといいかなと思います。

    そんな意識を持つためのコツはあるんでしょうか。

    「普通じゃない服を着てみよう」ということじゃないでしょうか。世の中には、普通でない服がたくさんあって、それを生み出しているのがファッションデザイナーだと思います。着てみると「あれ?」っていう感覚があって、だんだんそれがその人の定番になっていく、みたいなことがよくありまして。 最初に袖を通してみるとか、履いてみるとかっていうのが、すごく大事かなと思いますね。当たり前とか常識とかが変わる、すごく自分にとって「非日常」になる。そんな瞬間が日常に訪れることに、ファッションが存在する意味があるんじゃないかと思います。

    左より人間拡張研究センター村堀達也、森永邦彦さん、人間拡張研究センター小林吉之、人間拡張研究センター齋藤早紀子

森永 邦彦

ファッションデザイナー

1980年東京都国立市生まれ。2003年早稲田大学社会科学部卒、大学時代からバンタンデザイン研究所に通い、卒業と同時に「ANREALAGE」(アンリアレイジ)を設立。 継ぎ接ぎの手縫いの服作りから始まり、今までにないファッションを生み出そうと最先端のテクノロジーを取り入れ、光の反射する素材使いや球体・立方体などの近未来的デザインを手掛ける。日常と非日常をテーマに様々な異分野とのコラボレーションを行い、国内外の美術館での展覧会にも多数参加。

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