Interview

村田晴信が語る、
印象を変える
美しい所作の秘訣
「コロナ禍の時期にドレスが売れなくなったかというと、意外とそうでもなかったんです。なぜならクローゼットにこの服があること自体に意味がある、気持ちに余裕を与えてくれるから、そんな声をよく聞きました」──そう語るのは、ラグジュアリーファッションレーベル「HARUNOBUMURATA」を展開する村田晴信さん。自身のブランドに大きな影響を与えた「美しい振る舞い」や「心のありよう」とはどのようなものでしょうか。村田さんが理想とする「エレガンス」のヒントに迫ります。
2024年10月30日

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日本と海外の違いとは
第42回「毎日ファッション大賞」新人賞・資生堂奨励賞受賞(2024年)、おめでとうございます。村田さんの原点はどんなところにあるのでしょうか。
高校生のころ、文化祭で「ファッションショーをやろうぜ」となって、剣道場にランウェイを作って、真っ暗にしてスポットを当てて、でかい音楽をかけて。それまでも先輩たちがやっていたのを見ていたので、「来年は自分たちも」と考えたのだと思います。もちろんそんなに凝ったものではなかったんですが、一つの原体験として自分の中に残っていますね。みんな1、2着の洋服をちょっとリメイクしたり、作ったりしている中で、僕だけ6着くらい作ったんですよ。ユザワヤに生地を探しに行って、パターンを買って、リメイクなんかも取り入れながら。生地を切るのも初めての経験でしたが、けっこういい感じにできたんじゃないかと思います。みんな受験勉強なんかもしながら、よくやったよなと。
これまでに印象に残っているショーはありますか。
よく覚えているのは、2003年、ジョン・ガリアーノが手がけたディオールのショー。音楽も含めて本当に素晴らしく、なんて格好いいのだろうと思いました。その時に感じた勢いみたいなものにずっと憧れていて、毎日ファッション大賞の表彰式で行ったミニショーでは当時の音楽を引用するなど、自分がこれまでやってきたことをたどるようなものになりました。普段はアップテンポの音楽ってあまり使わないのですが、おめでたい場所だからいいかなと。バックステージでその音楽を聞きながら「一番最初に憧れた世界ってこういうものだったよな」と思いましたね。
海外のどんなところに惹かれますか。
イタリアやフランスは、 もう生活自体に美意識が当たり前に溶け込んでいるのがすごく大きいと思います。例えばイタリアの街中で、格好いいスーツを着て、サングラスをかけて、片手をポケットに入れながらジェラートを食べていたりするんですよ、しかもコーンで(笑)。めちゃくちゃ格好いいなと感じました。なんだか「人生を楽しんでいる」という余裕からくるエレガンスみたいなものがあって、取り入れられたらいいなと思いますね。日本の感覚だと「こうあるべき」が強くて、スーツでジェラートを食べる姿なんて、なかなか想像しないんじゃないでしょうか。
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魅力的だと感じたモデルについて
このモデルさんはすごいなと感じた方はいますか。
日本人だと、わりと僕のショーにもよく出てくれている鈴木亜美ちゃん。ベテランで大人系の雑誌に出ているようなモデルさんなんですけど、歩く時に服を美しく見せるという意識が高くて、安心感がありますね。彼女は難しい服でも「こうやって布をさばいて歩いたらきれいに見えるだろう」というのを歩く前に確認して、「こういう風に歩くのはどうでしょうか」みたいな話もしてくれます。ポケットへの手の入れ方だったり、ポケットの中での手の方向を考えたり、そのレベルで細かいところまで気を配れるんです。
海外だと、ディオールのショーにも出演していたカーリー・クロスはやっぱりオーラがあります。あと、ジルサンダーのキャスティングに参加した時に、服を着てもらって歩いてもらう様子を一通り見ていたところ、一人圧倒的なオーラを放っていたのがYasmin Wijnaldum。写真だけだとちょっと変わった歩き方だなという感じだったのですが、実際に目の前で歩いた時のオーラがすごかったんですよ。僕が直接見たモデルさんの中では一番です。スイッチが入った時の歩き方はおそろしいほどで、「これが世界のトップレベルか」と驚きました。
歩く前はとても穏やかな表情ですが、スイッチが入った瞬間に演技が始まるような形で、その時のムードがすごく格好よかった。オーラみたいなものって、体の姿勢はもちろんありながらも、なんか空気感を変える、ちょっとピリつかせるような表情の作り方なども影響しているんじゃないかと思います。
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きれいに、おしゃれに見せるコツ
先ほどもおっしゃっていた「エレガント」な印象に見せる上で、なにか工夫できることはあるのでしょうか。
イタリアにいた時のバレンティーナというボスが、会議の時にちょこんと座るんじゃなくて、本当にドカっと机の上に座ったりしていたんです。上質なカシミヤのジャケット、ワイドパンツ、スニーカーで、高級そうな時計をつけてポケットに手を突っ込みながら、ベテランのデザイナーに「スケジュールは大丈夫なの、こだわりすぎじゃないの」とか強めに言ったりしていて。
歩き方とか伝え方とか、廊下ですれ違った時のちょっとした振り返り方とか、すごく格好良かったんですよ。そうした雰囲気は、僕のブランドもだいぶ影響を受けていると思います。また、直近では、一緒に仕事をしたルーシーというディレクターもすごくきれいな方で、話し方、振る舞いが美しい方でした。これらに共通するものって何だろうと考えると、余裕があって、あんまりあせっている感じがないことだと思います。すごくフレキシブルで、何かに執着せず、本当にすごく軽やかで生きているんですよね。
そういうものを踏まえることで、ブランドとして理想としているエレガンスの形に近づくかもしれないというところは、常々思いながらやっているところはありますね。彼女たちのような振る舞いなら、たぶんポケットに手を入れようとした時に布がきれいに流れてくれた方がいいんだろうなとか、ここは固くてしっかりしていた方が、姿勢が美しく見えるだろうなとか、常に意識をしながら、デザインしてるところはありますね。
「自分で気をつけるとしたら、どのような点でしょうか。
ゴールドマン・サックスの女性管理職の方とお会いして面白いなと思った話があるんです。研修で「女性管理職はどういう風に振る舞うべきか」といったプログラムがあって、そこでは「絶対に走ってはいけない」と言われたそうです。周囲に余裕がないと思われるから会社の中で走らないようにと。これは、僕にとっても一つのヒントになりそうだなと思いました。たとえ余裕がない状態だったとしても、そうではないように振る舞うことが落ち着きにつながり、それがエレガンスにつながり、さらにはオーラみたいなものになって部下がついてくる。それを実践している自分にも自信がつく。この話はすごく印象的でした。
ショーの最後に、デザイナーが走りながらランウェイに登場するシーンがよくあると思うんですけど、僕は絶対に走りません(笑)。さっと行ってさっと戻りたくなるんですけど、堂々と、なるべくゆっくり歩くようにしています。モデルのあり方も、そういう側面があるかもしれませんね。少しワンテンポ我慢する意識が少しだけあることによって、自分の振る舞いに対する意識も変わっていくんじゃないかなと思います。
左より人間拡張研究センター齋藤早紀子、人間拡張研究センター村堀達也、村田晴信さん、人間拡張研究センター小林吉之

村田 晴信
ファッションデザイナー
東京都出身。ESMOD JAPON TOKYO卒業後、MARANGONI学院マスターコースを修了。2012AWミラノコレクション公式スケジュール上にてデビューコレクションを発表し、その後JOHN RICHMOND社に入社。2015年よりJIL SANDER社レディースデザインチームに所属。2018年帰国し、HARUNOBUMURATAを設立。2024年には、第42回「毎日ファッション大賞」新人賞・資生堂奨励賞を受賞。