Interview

シトウレイが語る、
印象を変える
美しい所作の秘訣
自然体で親しみやすいトーク、モデル経験も生かした軽やかな立ち居振る舞い──。独自の感性から生み出されるストリートフォトグラフィーが世界的にも注目され、またジャーナリストとしても厚い信頼を寄せられるシトウレイさん。精力的に国内外を駆けめぐる中で、街ゆく人々からファッションショーまで、無数の「立ち方」・「歩き方」を見つめてきました。これまでシトウさんの心に残った「美しい動き」のこと、自身が気をつけていることなどについて、インタビュー。
2024年8月21日

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日本と海外の違いとは
シトウさんのキャリアはどんなふうにスタートしたのですか。
フォトグラファーとして活動を始めたきっかけは、ホントにもらい事故みたいなもので(笑)。2004年当時、『フルーツ』や『チューン』といったストリートスナップの雑誌を手がけていた青木正一さんから、いきなり「レイちゃん、ちょっとスナップやってみて」って声をかけられたんです。それまでカメラなんて持ったこともないし、写真に興味があったわけじゃなかったけど、「じゃあやります」と。
簡単に撮り方のポイントだけ教えてもらって、いってらっしゃい、みたいな感じでした。恵比寿に事務所があって、カメラをピックアップして原宿に出て、日が暮れたら戻ってくる。晴れたら行くし、雨が降ったら休む、そんな漁師みたいな毎日(笑)。写真が下手すぎてガードレール越しに撮っちゃったりして、「あ、その人しか見えてなかったです」みたいな、それくらいゼロベースでのスタートだったんですよ。でもストリートスナップですから、今でも「うまくなりすぎない」ことを大切にしています。構図を決めすぎないとか、カチッとしすぎないとか、被写体にああしてください、こうしてくださいってことも言わないように。ちょっと「あまい写真」が、私の中では完成度が高い写真です。
歩き方に関して、日本と海外の違いを感じることはありますか。
フォトグラファーとして海外のファッションショーなどにもよく足を運ぶようになって、現地で感じたのが「きれいに歩いている人が多いな」ということでした。そもそもの体型や骨格の違いもあるでしょうけど、うまく歩いているなあと思わせる人や写真を多く見る気がします。その理由を私なりに考えると、きっと「骨盤」なのかなって。腰で歩いているか、膝下で歩いているかによって、その人の印象ってずいぶん変わりますよね。上半身の立て方とか、巻き肩になっているとか、そういった点も歩き方やたたずまいの違いに影響するのだと思います。あともう一つ、海外には骨盤から下が地面を押していて「骨盤から上が引っ張られている感じで歩いている人」が多い印象かな。
私たちの研究でも骨盤の存在をとても重視しています。我々が若い人から高齢者まで200人ぐらいのデータを分析したところ、お年寄りや男性ほど骨盤が後傾していて、若い人や女性ほど立っているのが分かりました。
なるほど、骨盤、やっぱり大事ですね!
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魅力的だと感じたモデルについて
たくさん海外のショーをご覧になっている中で、歩き方がきれいだなと感じたのはどんなモデルさんでしたか。あるショーをレポートした動画※では、シトウさんが「ダンサーさんかな?歩き方がすごくキレイ」と注目されている場面もありましたね。
※ショーをレポートした動画[シトウレイ チャンネル NEW!!!]
一般的に、高級ブランドのショーに出演するモデルさんは棒みたいな感じで、自我がなくてつるんとした歩き方がかっこいいんです。その中にダンサーさんの曲線の動きを取り入れることで、エレガントさも際立たせたいというねらいがあったのかなと思います。それが優雅な雰囲気をつくっていて、キャットウォークがメインのショーでとても目立っていたんです。
そういえば、モデルさんがウェディングドレス姿で歩くショーで、冨永愛さんがスペシャルゲストで登場したことがあって。ウェディングドレスだと基本的には可愛らしく、しずしずと歩くものだと思うんですけど、冨永さんの場合は、まるで歌舞伎役者みたいでケレン味たっぷり。バサってスリットが入ったデザインだったんですけど、ブワって足をだして歩いてブワッと帰っていくという、それがカッコよかったんです。他のショーでもそうなんですけど、彼女が登場したその瞬間は「冨永劇場」が出来上がるんですよね。
あと、ドイツ人のレオンデイムというメンズモデルの歩き方も印象的でした。すごい肩の回し方をしていて、ランウェイ上で謎の歩き方をすることで話題になったんです。歩き方にも人間の個性って出るんですよね。
海外と日本ではショーの数が大きく違いますから、歩きの練習量、きれいな歩き方に対する感覚の鋭さにも差がつきますよね。でも、日本人のモデルも同じくらい練習すればもっときれいに歩けると思います。だって海外を中心に活動している日本人モデルは、どんどんうまくなっていますから。持って生まれたもので変えられないのならそのまま生かすべきですけど、努力でより良いものにできるのだったら、した方がいいんじゃないかなと思います。
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きれいに、おしゃれに見せるコツ
ご自身としては、体の動きについてどんなことに気をつけていますか。
ピラティスを始めてハマってから、それまでにも増して人の体を観察するようになりました。もう、とにかく背筋が気になって仕方がない(笑)。その中でも骨盤は一番大事な要素だと思います。このことを学んでから自分の姿勢への意識が変わりましたし、あ、いま巻き肩になってるな、骨盤が傾いてるなとすぐ気づくようになって、姿勢を整えられるようになりました。
きれいめなドレスやワンピースを着る時は背筋を伸ばすとよりエレガントに見えますし、逆にカジュアルな服装の時は、ちょっと背筋の力を抜いて。メイクといっしょで、TPOに応じた姿勢や体の動きってありますよね。そうしたシーンごとの意識にもつながっているのかなと思います。
「KHARiS」という「あなたが美しいと思う歩き方」を作成できるプログラムの開発を進めています。例えばファッションショーで、モデルさんに「こんなふうに歩いてほしい」といったイメージを伝える時の参考としても使えるかなと考えているのですが、どうでしょう。
確かに、ファッション業界では「エレガントに」とか「ワイルドに」といったイメージで共有しがちで、なかなか「このくらいの歩幅で」なんて細かいところまで言語化されないことも多いですね。「KHARiS」を使って「これが自分のイメージするエレガント」と具体的なものに落とし込んでもらえれば、とても助かると思います。
KHARiSβ 「あなたが美しいと思う歩き方」を作成できるプログラム 人によって「美しい歩き方」のイメージの受け取り方は、さまざまということですね。今日はありがとうございました。
左より人間拡張研究センター齋藤早紀子、人間拡張研究センター小林吉之、シトウレイさん、人間拡張研究センター村堀達也