Interview

日山翔太が語る、
印象を変える
美しい所作の秘訣

名札は関係ない、かっこいいか・かっこわるいかで選んでほしい──そんなスタンスを貫くデザイナー、日山翔太さん。自身が学生の頃に感じていたようなファッションの衝動を自らのブランド「SHOTAHIYAMA」を通して伝えたい、そして出会ったこともない誰かの力になる。そんな気持ちがやりがいにつながっていると語ります。活動の原点ともいえる海外でのユニークな体験や、ニューヨークでのコレクションデビュー。さまざまなエピソードから、「もっと自由に服を楽しむ」コツが浮かび上がります。

2024年9月9日

  • 日本と海外の違いとは

    どのような経緯でデザイナーになったのですか

    18歳でセレクトショップで働き始めて、20歳ぐらいの時にお世話になっている方と一緒に店を立ち上げました。お客さんが増えていく中で「服にポケットをつけてほしい」といった声を聞くようになって。それまで一切使ったことはなかったんですが、ミシンを導入してちょっとしたリメイクもするようになりました。お客さんの満足度は上がるし、ぼく自身も「服を作るという表現」に魅力を感じましたね。

    買い付けでイタリアの展示会に行った時に、来場者のストリートスナップとしてぼくの写真がメディアで取り上げられて、2誌の表紙にもなったんです。ぼくの周りに載っているのは、ファッション業界の名だたる人たち。なんでここに自分がいるんだろうと思うと同時に、「ぼくでもいけるんじゃないか」って感じさせてくれた体験でした。そこで、世界でもっと楽しみたいと思うようになって、2017年、海外に拠点を移しました。

    その年のニューヨークファッションウィークにどうしても行きたくて、知り合いのデザイナーを頼ってみたものの、もう席は確保できないと。でも諦めきれず、バイト先のラーメン屋でもらった段ボールに「あなたの時間をください」と書いてランウェイの会場の前で掲げ、片手にはマッキー(油性ペン)を握りしめていました。私から話しかけたり、立ち止まってくれた方にマッキーを渡して、自身が着ていた服にその場で絵を描いてもらってると、海外メディアの目に留まったんです。その時に「ファッションにはなんの名札もない人でさえも輝かせる力がある」と強く感じて、またここにファッションデザイナーとして戻ってこられたらと思いました。

    すごいエピソードですね。2023年2月、ついにニューヨークでコレクションデビューを果たされました。

    ぼくの生き方として「名札じゃなく、かっこいいか・かっこわるいかで選んでほしい」と思っています。段ボールを持って立ったことであんなことが起こったニューヨーク、そこでショーをすることは決めていました。

    2月のニューヨークでストリートランウェイ形式だと、天候もどうなるか分からないし、僕たちのショーの拘束時間が長く、1日のなかで他のショーに参加できないなどを考えると、モデル事務所の協力がなかなか得られないんですよ。過去の実績はありますかって言われてもデビューコレクションで、かつ海外でのショーも初めてなので、見せられるものもなくて。実は、ショーの前日までモデルさんはそろわなかったんですよ。僕たちのショーに参加してくれるモデルさんたちが「翔太が困ってるんだったら自分たちが動くよ」って言ってくれて助かったんですけど、もう、ヘアメイクさんやチームの誰かに歩いてもらいたいと思ってたくらいの気持ちでした。(笑)

    海外でモデルさんをキャスティングする際に、予想と違うことなどはありましたか。

    一番大きく違ったのは骨格ですね。渡航前に5名くらいの現地のモデルさんがほぼ決定していました。事前に背丈やウエストなどの情報はもらうんですが、実際に対面するとデータは数字どおりだけど太ももとか全体の骨格が違うんです。フィッティングしてみるとあまりにも違っていて服が入らない。こんなに骨格が違うんだと分かったのは勉強になりました。上着ならなんとか工夫できることもありますが、パンツはどうにもならない部分がありますね。

    ショーのイメージを伝える際にどんなことを心掛けたのでしょうか。

    前もって会える方に関してはキャスティングの時にまずは服を見ていただき、それぞれが感じることなどを教えてもらった上でシーズンのテーマや、僕が何をしにここへ来たのかということを伝えました。歩き方や動きについては、自分で解決してもらうようにしていました。あまりにも制限をかけると、見たいものは見られるかもしれないけど「想像できなかったものをつくりにくくなる」というのがぼくの中にあるんです。だから、あまりモデルさんに強く言わないですね。撮影の時などにニュアンスが伝わってないかなと思ったら、こうしてほしいというよりも「こんな雰囲気なんだよね」って少し言葉を置くことで、また自分で考えてもらうという感じです。

    服作りも一人では完結できません。チームとして、一人だったら100%が限界なところを人が関わることで120%、150%にできる力があるっていうのは、20代半ばから感じられるようになりました。20代の前半は同じ熱量じゃなかったらそれに対してストレスを感じていたんですが、今は内なる炎の人と、炎が表に出る人がいることも学びました。

  • 魅力的だと感じたモデルについて

    注目している「体の動き」はありますか。

    最近、この人の動きって面白いなと思ったのは、ダンサーでモデルのアオイヤマダさん。コンテンポラリーダンスのような動きで、他の人で見るようなポージングや表現ではないので心が惹かれていきます。どう解釈して、こうやっているんだろうと。ファッションブランドの撮影写真などを見たりするのですが、なぜこの動きを表現しようとしているのかが、なかなか紐解けないんですよ。なんか、どうやってここにたどり着いたのだろうって、すごく興味深く、会って話してみたい人です。

  • きれいに、おしゃれに見せるコツ

    今回のインタビュー企画の背景には、ファッションを切り口にして健康への関心を高めてほしいという思いがあります。おしゃれに関して、日山さんなりにおすすめしたいことはありますか。

    ぼくがよく話しているのは、服屋さんに行くこと。あと、インターネットで服を買うことをやめてみるといいんじゃないかなと思っています。ぼくは服屋さんに行って、そこに置かれているものを見て、店員さんに話を聞いて買った経験が今に繋がっています。始まりはなんでもいいと思うんです。好きな人ができた、その人がこんな服を好きだから着てみようとか、誰かからよく見られたいとか、そういうのでいいと思う。実際、ぼくもみんなより目立ちたいっていう思いで服を手に取って、そこから、その服にはこういう歴史があってとか知って、夢中になっちゃったんですよ。もっとファッションというものがライトで、身近にあるものであってほしいと思っています。

    左より、人間拡張研究センター村堀達也、日山翔太さん、人間拡張研究センター小林吉之、人間拡張研究センター齋藤早紀子

日山 翔太

ファッションデザイナー

2010年
国内メンズセレクトショップにて販売員・バイヤーを経験
2017年
カナダにてビンテージ古着のバイヤー・スタイリストを経験
2019年
サンプル縫製工場と量産縫製工場の縫製士を経験
日本を代表とするブランドのサンプル制作も手掛け技術を磨く
2022年
メンズファッションブランド「SHOTAHIYAMA」を設立
2023年
ニューヨークにてデビューコレクションをランウェイ形式で発表