Interview

江角泰俊が語る、
印象を変える
美しい所作の秘訣
自身のブランド「EZUMi」の展開を中心とするファッション業界での活躍はもとより、分野を超えたクリエイター塾「DireCreative」の開講など、独自の視点と深い思考に基づく創造性を発揮し続ける江角泰俊さん。ファッションの楽しさに目覚めて「作り手」を目指すようになり、渡った海外でどんな刺激を受けたのか。「着こなし」と「歩き方や姿勢」の関係をどう捉えているのか。「美しさ」につながる、さまざまなヒントが散りばめられたお話を聞くことができました。
2024年9月6日

-
日本と海外の違いとは
ファッションに興味を持ったきっかけを教えてください。
最初は「ウラハラ」ですね。アンダーカバーやナンバーナインの服で「着る楽しさ」を知って、スタイリストになりたいと考えていました。宝塚造形芸術大学短期大学部に入り、初めて服を作ったときに「作る方がおもしろいな」と。それでデザイナーを目指そうと決めたんです。
アレキサンダー・マックイーンやジョン・ガリアーノが全盛の時代です。彼らがファッションショーなどで披露するスペクタクルな世界に憧れて、調べてみたらロンドンの大学、セントラル・セント・マーチンズの出身だと分かりました。卒業後すぐに渡英して英語やデザインの勉強をしつつ、なんとか入学。2年後にはマックイーンのアトリエでも働くことができました。結局7年ぐらい向こうで過ごしましたね。
服作りを通じて、海外の人と日本人の違いは感じましたか。
まず腰の位置、足の長さが違いますね。それと自分のブランドを展開するようになっていろんなモデルさんに服を着せていく中で、「肩のつきかた」も違うと実感しました。日本人寄りのパターンでアームホールを作ると、海外の人だとギュウギュウになってしまって入らないんです。日本人の「元来のかたち」に合わせるには服の見え方、見せ方も変える必要がありますから、日本では日本人に合う服作りやパターンカットが発展してきたのだと思います。
歩き方や肩の動きなどについてはどうでしょうか。
単純に表現すると、ちょっと風を切って歩いているような感じがヨーロッパなのかなって思います。若い女性なんかはカツカツと、風を切って歩いている印象です。日本人も都会だといそいそと歩いている人が多いのですが、やはり歩幅の違いがありますね。海外の人は大股で、日本人は足の動きが早い。ぜんぜん見え方が違うなと感じます。
-
魅力的だと感じたモデルについて
これまでに出会ったモデルさんで、どんな人が印象深かったでしょうか。
アンテプリマとコラボレーションした際に、ミラノコレクションでショーを行いました。ショーに参加したイギリス出身のモデル、カーラ・デルヴィーニュは、身長はあまり高くはないのですが、全てのバランスがすごくいい。個性も別格で、彼女が来たらその場が一変するような空気感がありました。フィッテングで少し話したら、プロフェッショナルな一面もしっかり持ちつつ、チャーミングさもありましたね。
人気のモデルさんだからいろんなショーに呼ばれていて、登場する10分前とかにバイクで連れてこられるんです。メイクされながら、こういう風に歩いてって話をして、それを一瞬で体現してしまう。で、終わった瞬間にバイクで次のショーに向かうんです。場の空気に飲まれないというか、いつでも自分の良さを出せるという雰囲気がありましたね。やっぱりファッションショーだと萎縮するじゃないですか、準備があるし、あと10分しかないみたいな時に、あせりもせず。動きはとにかくきれいでバランスもいいんです。すごいなと思いました。
ショーでの歩き方についてはどうご覧になっていますか。
時代によってだんだん変わってきていて、美しい、かっこいいと感じる歩き方にも流行がありますね。ぼくの中にもコレクションのテーマとかイメージがあって、自分のショーでは「こういう風に見せたい」というものがあります。リハーサルなどでモデルさんに歩いてもらう時に、ショーを何本も手がけている演出家と一緒にチェックするんです。歩き方が合っていないとか、雰囲気がちょっと違うというモデルさんがいたら、歩き方を指導していきます。
プロのキャットウォークのモデルさんって10代から20前半が多くて、場数を踏んでいる人だとすぐにモードを変えられるんですよね。バレンシアガだとけっこう気だるくて街にいる酔っぱらいのような感じだとか、ジルサンダーはきれいな、ミニマルな歩き方だとか。うちのブランドもそのシーズンの雰囲気によって、もっと早く、もっと遅くといった指示をします。
あと、腕の振りを大きくするか小さくするかでも、けっこう変わります。最近は小さいのが多い気がしますね。モデルさんにはよく「昔みたいにキャットウォークぶって歩かないでほしい」と。モデルさんの中には肩が後ろ側にいって振っているような、ちょっと前時代的な指導を受けてそれが出ちゃう人もいます。それだと今の雰囲気にそぐわないので、もっと肩を出してと指導して、歩き方を早めてもらったり、ほかのモデルさんのマネをしてもらったりします。なるべく早く歩かせることで、割と自然な歩き方になるんですよ。
-
きれいに、おしゃれに見せるコツ
きれいな体の動かし方や、服をうまく着こなすためのポイントを教えてください。
シンプルに言えるのは、トップスとかアウターだと「肩で着る」こと。服を着きこなす時に、肩、背中の姿勢をきれいに整えるっていうのはまず大事なポイントです。やっぱり猫背気味になっているとあまりきれいな肩の動きには見えないと思いますし、首に関しても、ストレートネックにならないように気を付けておきたいですね。ジャケットを着ている人を見るとよく分かるんですが、きれいに着こなして似合っている人とあまり着こなせていない人がいるでしょう。似合っている人は、女性でも肩幅が広くて、ピンと張っているイメージです。
また、服が似合っているな、おしゃれだなと感じる人は、自分の体形をよく知っています。自分の体型に合うものは何かが分かっていてチョイスがうまく、バランスがいい、だから着こなしが上手なのだと思います。販売員でおしゃれな人がいて、「この人が着ている服いいな」と欲しくなって買う、でも自分で着てみたら「違うな」ってこと、ありますよね(笑)。誰かを見て美しいと感じることは当然ありつつ、やっぱり自分の骨格や雰囲気に合うものをどうチョイスするかが大事なのだと思います。もちろん体型を隠そうとして着ているものを全部大きめにするのではなく、どこを見せてどこを隠すか、そんな視点も大切ですね。
左より、人間拡張研究センター村堀達也、日山翔太さん、人間拡張研究センター小林吉之、人間拡張研究センター齋藤早紀子