研究の目的
陸上や海底を深く掘って地球の内部を探る研究が進むとともに、地下深部にも多種多様な微生物が広く生息していることが分かってきました。この微生物の活動は、地球システムにおける物質循環に重要な役割を果たしており、天然ガス田やメタンハイドレートの形成にも大きく貢献しています。土壌や地下水の有害物質を分解して地圏環境の保全にも貢献しています。
人類が天然ガスや石油などの地下資源を効率的に探鉱・開発するために、地下微生物の活動を知ることが必要となります。地下水や土壌の汚染(地質汚染)に対処する技術を開発するためにも、地下微生物の活動を知ることが重要です。私たちの研究グループでは、同位体分析や脂質分析などの地球化学的手法と、トレーサー実験や培養実験、遺伝子解析などの微生物学的手法を駆使し、産総研内外の研究者と連携して、地下微生物の分布や機能、活性を評価する研究を行い、天然ガス等の資源開発、地圏環境の利用や保全に貢献することを目指しています。
現在進行中の主な研究プロジェクト
■ メタンハイドレート及び水溶性天然ガス鉱床の成因解明
海洋の大陸棚斜面の地下には、メタンハイドレート(MH)が広く分布しており、新しいエネルギー資源として注目されています。MHのメタンの起源については、多くのものが地下に生息する微生物によって作られたと推定されていますが、実際に地下のどこで作られているのかよく分かっていません。また、千葉県や新潟県に分布する水溶性ガス田も微生物起源のメタンが多く含まれていますが、いつどこで生成されたのか不明です。我々は、天然ガス資源の分布する領域における地下微生物や微生物活性を評価することによって天然ガス鉱床の成因を解明することを目標とし、石油天然ガス・金属鉱物資源機構や関東瓦斯開発株式会社と協力して研究を行っています。 |
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■ 油層内微生物の原油分解メタン生成経路の解明
現在の技術レベルでは、原油を十分回収した後の枯渇油田において、まだ50%以上の原油が地下に残されます。技術革新によってこの原油をさらに回収できるようになれば、利用可能なエネルギー資源の拡大につながります。近年、油層中の微生物の働きを利用して、原油を地下でメタンに変換し、天然ガスとして回収する技術への期待が高まっています。その可能性を探るため、私たちは国際石油開発帝石株式会社、東京瓦斯株式会社と共同で、油層環境を模擬する培養実験を行ない、原油分解メタン生成経路を解明するとともに、そのプロセスを担う微生物を特定することを目指しています。 |
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■ 微生物による嫌気的メタン酸化プロセスの解明
近年、大気中の二酸化炭素濃度の上昇と地球温暖化の関係が注目を集めています。メタンもまた、二酸化炭素の20倍以上の温暖化係数を持つことから、環境中における動態解明が重要な課題となっています。微生物は、メタン生成のみならず、メタンの消費にも関わっており、地圏から気圏への放出を抑制し、大気中濃度の上昇を防ぐ役割を果たしています。特に嫌気環境下でメタンの酸化(嫌気的メタン酸化)に関わる微生物は、今世紀に入り新たに発見された存在で、まだ未解明な部分がほとんどです。我々は、特に陸域地下圏においてどのような微生物がメタン酸化に関わり、どの程度メタンフラックスに関与しているのかを解明するための研究を行っています。 |
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■ 微生物を利用した地圏環境保全技術の開発
地球上に存在する水のうち、利用可能な淡水は1%以下にすぎず、そのほとんどが地下水です。しかし、不適切な人間活動による地圏環境の汚染(地質汚染)は世界各地で進行しています。貴重な水資源である地下水を持続的に利用するために、地圏環境の保全技術開発は欠かせません。微生物の驚くべき多様な能力はそのための有力なツールです。我々は、特に揮発性有機塩素化合物を対象に、地圏環境保全技術の開発を目指し、民間企業との共同研究による様々な基礎研究や応用研究を実施しています。 |
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