National Institute of Advanced Industrial Science and Technology AIST 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 物理探査研究グループ Exploration Geophysics Research Group

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物理探査ケーススタディCase studies

物理探査法の紹介 地中レーダ探査法【横田 俊之】

土木分野や、土壌汚染・地下水環境などの環境分野では、比較的浅い部分の地質構造を効率的に分析できる手法を求めています。それも、狭い領域での精査を求める場合もあれば、広い領域でのすばやく簡単な探査法が必要となる場合もあります。このコーナーでは、地中レーダ探査について説明いたします。

物理探査法の紹介 地中レーダ探査法【横田 俊之】地面の中に送った高周波数(数十 MHz ~数 GHz 程度)の電磁波が、地層の境目や地下に埋まっている物体にぶつかり、反射されます。この反射した電磁波を観測して、地面の中を調べる物理探査法が、地中レーダー(Ground Penetrating Radar system)です(図1)。GPRアンテナを使って地面の中に電磁波を送り込みます。GPR アンテナは,地中に電磁波を効率的に送り込むため、さまざまな工夫がされています。中心部は金属の棒やボウタイ型をした金属板に電気を流す仕組みになっています。図2は、シールド付きボウタイ型アンテナを用いたデータ取得風景です。

物理探査法の紹介 地中レーダ探査法【横田 俊之】電磁波は誘電率(ε)、導電率(σ)もしくは透磁率(μ)という電磁気的性質が異なる物質の境界で反射します。ここでは、海水など導電率が極端に大きい場合は除いて説明します。その場合、導電率(σ)は電磁波速度(ν)にはほとんど関係しないので、GPR 調査に用いられる周波数帯域では、電磁波速度を以下のように書くことができます。なお通常は、誘電率や透磁率がそのまま用いず、真空中の誘電率や透磁率との比である、比誘電率(εr)もしくは比透磁率(μr)の形で用いられます。
物理探査法の紹介 地中レーダ探査法【横田 俊之】

表層部を構成する土壌、岩石、水などは一般に非磁性物質(正確には常磁性および反磁性物質)と呼ばれる、磁石に付かない物質がほとんどです。そのような非磁性物質の比透磁率(μr)は 0.9999 ~ 1.02 程度の値となります。従って、強磁性物質である鉄、コバルト、ニッケルなどの埋設物などが無いとすれば、比透磁率(μr)はほとんど 1 に近くなり、無視することが可能です。そのため、(1)式は、
物理探査法の紹介 地中レーダ探査法【横田 俊之】
と書き換えることができ、GPR 探査では主として物質の誘電率の違いを見ることとなります。地表付近の物質の比誘電率は、空気1 、鉱物 5 に対して、水は81で、ダントツに大きいので、GPR 探査が土壌水分率探査によく用いられるのです。この単純なモデルでは、乾燥した土壌は鉱物と空気の混合物であり、土壌の水分率が上昇するということは、鉱物粒子の間にあった比誘電率 1 の空気が比誘電率 81 の水で置きかえられるのですから、全体としての比誘電率が大きく上昇することになります。 GPR 探査において、導電率と電磁波の減衰率(α:単位は dB/m)の関係を式で表すと、以下のようになります。
物理探査法の紹介 地中レーダ探査法【横田 俊之】
GPR 調査では、送受信アンテナ間距離を固定し、測線にそって調査を行なうGPR プロファイル探査が一般的に行われます。この調査で地下にある電磁波反射面を比較的簡単に調査することができます。電磁波反射面の位置は、比誘電率が異なる二つの地層の境界を示していますが、比誘電率の値そのものは GPR プロファイル探査ではわかりません。そこで、比誘電率を計測するためには、送受信アンテナの距離を変化させながら調査を行う、ワイドアングル GPR 探査を行ないます。

物理探査法の紹介 地中レーダ探査法【横田 俊之】ところで、皆さんは泥火山ってご存知でしょうか?地下に高い間隙水圧をもった泥水が存在し、それが地表まで上昇してきて噴出し、泥の小丘を形成したものを言います。雲仙普賢岳とか一般に知られている火山に比べると、ずいぶんかわいらしいように思えますが、実は世界には規模の大きなものが沢山存在し、大きな災害をもたらしています。たとえば、2001年アゼルバイジャンのバクー市郊外で、泥火山がいきなり”噴火”し10-20mの炎を上げました。最近では、2006年のインドネシア,シドアルジョの泥噴出事故が知られています。これは,地中の異常高圧層から泥水が大量に噴出し、噴出した泥によって、村が埋まってしまったという大きな事故です。泥の噴出量は、当初一日5万m3程度でしたが、時間がたつごとに増え続け、2007年夏の段階では一日10万m3もの量が噴出し続けるというたいへんな事態になっています。図3は、今回調査を行った新潟県十日市町市松代地区の室野泥火山の噴出孔です。この泥火山は、深さ 4 m以上、直径 30m の陥没構造を持ち、その中に泥火山噴出物が充填されている(新谷・田中,2005)と報告されています。

泥火山の噴出孔から出てくる地下水は、石炭片を含んだ泥水で、導電率が 1.5 S/m(比抵抗に直すと 0.6 Ω m 程度)以上あります(新谷・田中,2004)。このように導電率の高い地下水の存在は、(2)式からもわかる通り、電磁波を急激に減衰させる特徴を持っているため、GPR 探査で調査可能な深度が浅くなります。そのため、普通なら浅部に導電率が高い地層がある場合には GPR 探査は実施しません。しかし、室野泥火山の周辺では、地下を下記のように大きく3つにゾーン分けすることができ、それぞれが GPR 探査で特徴的な記録として分類可能だと考えたため、このフィールドで GPR 探査を実施することとしました。その3つのゾーンとは、

  1. 1.地表まで続く噴出経路(ベント)などの存在により,表層付近まで導電率が高い地下水が上昇しているゾーン
  2. 2.泥火山噴出物が表層部に比較的厚く堆積しているゾーン
  3. 3.黒色泥岩などの噴出泥以外の堆積物が浅部から分布しているゾーン

それぞれのゾーンで期待される GPR 記録は以下の通りです。

  • ゾーン1:ほとんど反射が見られない。
  • ゾーン2:表土と泥火山噴出物との境界だけに強反射が見られ、それ以深にはほとんど反射が見られない。
  • ゾーン3:比較的深部まで反射が見られる。

物理探査法の紹介 地中レーダ探査法【横田 俊之】室野泥火山の周辺は、現在自動車練習場になったおり、自動車道路の部分は、アスファルトで舗装されています。それ以外の部分は、未舗装で起伏や植生があるためGPR探査に適しません。そこで舗装道路の部分に限定して探査を行いました。使用したGPRアンテナの中心周波数は200 MHzです。A 方向 8 本、B 方向 12 本、 C 方向 2 本の合計 22 本の測線で調査を行いました。

物理探査法の紹介 地中レーダ探査法【横田 俊之】図5は A 方向測線の調査結果です。地表に側溝や金網など人工物がある箇所では、データ処理結果にノイズが多くなるため、ハッチの網掛けをしてデータを表示しないようにしてあります。ほとんど電磁波の反射が見られないゾーンがところどころにあります。このゾーンは、先程ゾーン 1 と区分した、地表付近まで導電率が高い地下水が上昇している領域だと解釈することができます。このゾーン 1 を図4の実験フィールドの地図上にハッチで示しました。実験フィールドの北東部分にその多くが分布していることがわかります。また、その分布は全体として、北東から南西方向へのトレンドを持っているように見られます。その方向は、この地域全体の褶曲構造の軸方向と一致しており、極浅部の構造も広域の応力分布に支配されている可能性も考えられます。一方 、ゾーン 2 とゾーン 3 に関しては、明確に分けるのが難しい結果となりました。その理由は、比較的多くの箇所で見られる、深部に向かって周波数が低くなる特徴的な反射波の解釈が難しいためです。その領域では、見かけ上深部からの反射波が返ってきているように見え、一見ゾーン 3 の黒色泥岩などの噴出泥以外の堆積物が堆積しているゾーンとして解釈できるように見えます。ところが実際は、電磁波が地下を何度も往復するために観測される多重反射波である可能性も高く、その場合には、浅部にある泥火山噴出物で反射した反射波が表土中を往復していると解釈するのが適切であるため、ゾーン 2 の泥火山噴出物が表層近くから堆積しているゾーンと解釈することとなります。

詳細は、地質ニュース2008、4月号をご覧ください

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