National Institute of Advanced Industrial Science and Technology AIST 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 物理探査研究グループ Exploration Geophysics Research Group

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物理探査ケーススタディCase studies

物理探査法の紹介 海底電磁探査法【上田 匠】

海洋での電磁探査法はプレートテクトニクスや地球深部構造の調査などにおいて古くから利用されてきました。しかし、これはあくまでも学術研究としての探査でした。しかし近年、海外では海底下の石油ガス田調査のために、電磁探査を利用するようになっています。ここでは、海底石油ガス探査での利用が進められている人工(制御) 信号源を利用した海洋人工信号源電磁探査法(Marinecontrolled source electromagnetic (MCSEM)法) について説明します。

物理探査法の紹介 海底電磁探査法【上田 匠】人工信号源電磁探査法(以下CSEM 法) は、主に金属・地熱資源探査、あるいは地下水・土壌汚染等の環境調査に広く用いられてきました。その測定原理は、人工的に発生させた電磁波によって探査対象領域(通常地下)の比抵抗異常領域に発生した電磁場を測定、解析することで地下の比抵抗構造を推定するというものです。これを海底探査に使う場合、MCSEM法を呼びます。このMCSEM法は地震探査とともに用いられます。前者は地震波速度、後者は導電率(比抵抗)という異なる物性値を探査対象にしているため、互いの弱点を補い、より確度の高い解釈が可能だからです。具体的には、電磁探査は、背斜構造そのものを地震探査と同様の解像度で探査することは非常に難しいですが、地震探査が苦手とする海水(低比抵抗)と石油、ガス(高比抵抗)の区別を比較的容易に行えます(図1)。

物理探査法の紹介 海底電磁探査法【上田 匠】では、MCSEM法について具体的に説明しましょう。MCSEM 法では海底から数十m上を曳航された送信源から電磁信号を海底に向けて発信し、地下の比抵抗構造によって生じた電磁場を、海底に設置した受信機で受信、記録します。曳航される送信機は母船進行方向に平行な長さ100 m から300 m の電線(電気バイポール) が用いられることが多く、この送信機から約0.1 Hz 前後の周波数帯域で正弦波を発信します。 送信機からの信号は海水を伝播し、海底下に浸透し、さらに地下へと伝播していきます。海底下で比抵抗構造に何らかの変化があれば、その変化に対する電磁応答が生じるので、それを海底に設置した受信機で受信します。大規模な調査においては、送信電流値は数百から1キロアンペアに達します。現在まで、このような大電流を用いた探査によって、海生生物や海洋環境に悪影響が生じたという報告は、特にありませんが、後留意すべき事項であるといえます。一方、受信機は、通常水平方向の電場を測定するための電極と水平及び垂直方向の磁場を測定するための磁場センサーから構成され、重りを付けた状態で母船から海底に投下されます。着底後は遠隔操作によって海底での電磁場を測定、探査終了後は重りを分離して浮上し、回収されます。

物理探査法の紹介 海底電磁探査法【上田 匠】次に、データ解析について説明します。海底における電磁探査法の支配方程式は地表や空中での電磁探査と全く同様にMaxwell方程式で、その数値解析法も基本的には地表や空中での電磁探査法と同じです。通常海水層の比抵抗は1 ohm-m 以下であるため、海水層は低比抵抗層とみなすことができます。このデータ解析は非常に複雑で、現在もっとも重要な研究課題として世界中で研究されています。数値解法としては差分法、有限要素法、積分方程式法がよく知られています。それぞれ欠点、利点がありますので、状況に応じて使い分けることが重要です。筆者らは、図3のような条件を想定し、筆者らが開発した多重格子型QL近似法を用いて人工解析データを用いて、MCSEM法探査モデルでの解析実証試験を行いました。解析は、電磁マイグレーションと呼ばれる高速な解析手法を用いました。

物理探査法の紹介 海底電磁探査法【上田 匠】第4図(a)は仮定した真の比抵抗構造を示し、第4図(b)が反復マイグレーション解析結果を表しています。また,同じ解析結果を3次元表示したものが第5図です。貯留層の水平位置及び埋没深度が、非常に明瞭に解析されていることがわかります。観測データ及び、解析結果から計算した人工応答の一例が第6図(電場強度)および第7図(電場位相差)です。観測データが人工ノイズに汚染され、また予測データがノイズを含んだ観測データをよく再現していることがわかります。以上から、マイグレーションイメージング及び反復電磁マイグレーションが、MCSEM 法探査の3 次元逆解析法として有効に利用できる可能性を十分有していると考えられます。 物理探査法の紹介 海底電磁探査法【上田 匠】 物理探査法の紹介 海底電磁探査法【上田 匠】

詳細は、地質ニュース2008、4月号をご覧ください。

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