小学4年生で読んだ湯川秀樹の分子原子の伝記に触発されて以来、生涯研究者でいることが夢でした。有機結晶や金属表面の分子・原子レベル平坦化研究などに携わってきた私ですが、夢は52歳で絶たれました。産総研つくばセンターで連携業務を担当することになったからです。半年間ほど、私が携わる連携活動の意義に納得できない日々を送りました。転機は、技術研究組合の立ち上げでした。参画企業集めやNEDO のナノ炭素材料グラフェンプロジェクト(PJ)の立ち上げに奔走する中で、私の、研究者ならではの創意工夫が企業のグラフェン開発意欲をかき立てたり、PJ の方針案の策定に際し、連携業務での研究者としての視点と意義を見出すことができました。
東日本大震災の後、東北に戻り、単独で産学官金をはじめとする様々な連携を企画・支援できるイノベーションコーディネータ(IC)として東北コラボ100事業の立ち上げに携わりました。本事業では東北地域の約2000社の中から研究開発型企業138社を選び出すとともに、東北6県の公設試を訪問し、産総研と研究開発してくれそうな企業130 社の貴重なリストを頂戴することで、データベースを充実させていきました。この思想は平成27年に始まった産総研IC 制度にも反映されています。私は平成23 ~28 年で個別訪問を中心に東北企業175 社と面談し、産総研東北センター内外の研究ユニットと16 件の連携を構築してきました。16件/175社と、私のマッチング確率は10%に満たなかったので、平成26 年に広域コラボ47 事業を考案しました。企業の経営層の参加率が高い工業会に、産総研の多数のIC が多くのキー技術をわかりやすく紹介し、マッチング確率をあげる試みです。連携の仕方は十人十色と言われます。IC 独自の連携方法をまるで研究者のように考案することが楽しく、モチベーションになっています。今の私の夢は、産総研研究者2300人の技術を研究・融合し、東北をはじめとする日本企業のために技術を社会に出すことです。
産総研では、2015 年より始まった第4 期中長期計画の中で、研究成果を地域企業に展開し事業化につなげる、「橋渡し事業」を推進しています。このため、金融機関との連携を重視した「産学官“ 金” 連携」に注力しています。金融機関の皆様は、幅広い業種、あらゆる地域の企業と密接なコミュニケーションを持っています。このような金融機関の支援を得て、これまで見えなかった業種や地域の企業から課題をお聞きし、産総研の技術支援と金融機関の経営支援の、新たな連携モデルによる産業振興が我々のゴールです。
これまで産総研では、みずほ銀行、三井住友銀行などの都市銀行、また、静岡、常陽、伊予銀行などの地銀との連携事例がありましたが、東北地方では初めての試みです。金融機関にお聞きすると、「産総研を知らない」、「公設試との違いが判らない」、また「産総研と金融機関の連携形態がイメージできない」などの声がありました。一方で、「顧客企業の技術を理解し、事業の将来性を判断できる“ 目利き行員” が不足している」という状況もわかりました。
私どもの金融機関との連携も、まずは行員や銀行の顧客の皆様に、産総研を知っていただくことから始めて行きます(写真1 参照)。その後、行員の企業訪問に同行させていただくなど、企業の技術的な支援に繋げていく計画です。直ぐには実績に結び付きにくい事業ですが、産総研のスローガンである「技術を社会へ」を実現するため、地道な活動を始めています。
パネル展示による東北地方の地銀様向け説明会(2016 年2 月2 日仙台にて開催)