aist
Newsletter 一覧CONTENTS

研究紹介

研究員
相澤主任研究員

境に排出される揮発性有機化合物(VOC)は光化学オキシダントの原因物質とされ、排出量の削減が求められています。このVOCの排出の実に56%をしめるのが、屋内・屋外の塗装による排出です。塗装の中でも有機溶剤を使用するスプレー塗装からの排出量が大きく、この有機溶剤系スプレー塗装を置き換える画期的な塗装法の開発が求められていました。従来の有機溶剤系スプレー塗装では、希釈剤(シンナー)としてトルエン、キシレンを塗料原液とほぼ同量加えて噴霧しており、VOCを大量に大気に放出していました。今回紹介する二酸化炭素塗装装置は、希釈剤として有機溶剤の代わりに二酸化炭素を用いることで、希釈剤としてのVOCを全廃した革新的な塗装技術です(図1)。


圧の二酸化炭素が有機溶媒や樹脂に溶解すると、膨潤し低粘度化します(図2)。これは、塗料原液を薄めて、スプレーしやすいように低粘度化するシンナーの働きと一致します。シンナーは大気中に放出されるので、これを環境負荷の小さい二酸化炭素に置き換えることを考えました。また、二酸化炭素は発電所や工場から、わずかなエネルギーで作り出すことが出来、トルエンやキシレンを合成するエネルギーよりも小さくて済みます。その結果、値段もトルエンやキシレンより1桁安くすみ、環境にも財布にも優しい塗装となります。


図1 二酸化炭素塗装装置の構造

図2 圧力の増加による塗料の膨張


塗料に関しては、有機溶剤系スプレー塗装で使用されていた塗料樹脂をほぼそのまま使用出来るので、有機溶剤系スプレー塗装と同等の塗膜の意匠性が確保されます。特に水系スプレー塗装が苦手とするプラスチックへの塗装に関しては、圧倒的な強みを発揮し、耐摩耗性、密着性も有機溶剤系スプレー塗装と同等です。塗装装置は既存の有機溶剤系スプレー塗装装置を置き換えられるようなコンパクトなサイズを目指しており、乾燥ラインなどは既存設備をそのまま使用可能です。乾燥エネルギーについては従来の半分で済むので、既存の乾燥ラインの半分を休止するか、出力を弱めることで対応します。このことは、希釈剤のコストが大幅に減るだけではなく乾燥コストも半減することを意味します。二酸化炭素を数MPaほどの圧力で塗料原液に溶解させるために高圧対応の装置になり装置としては割高になりますが、ランニングコストの削減効果が大きいため5年以内に初期導入費用を回収可能と考えています。

0年度には共同研究先である加美電子工業株式会社に自動化された塗装ラインを設置し、実ラインでの評価を行い、早期の実用化を目指します。


図3 塗装実証装置と塗装風景


http://unit.aist.go.jp/tohoku/ UP