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研究紹介

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温高圧の水(亜臨界水/超臨界水)は、高温かつ低誘電率場による高速反応及び金属塩溶解度の低下による高い過飽和により、BaTiO3等の金属酸化 物ナノ粒子の合成に好適な反応場となります1)。また、100−200℃程度の水熱条件下では高濃度アルカリ環境(5M以上)を必要とするKNbO3やKTaO3等を0.5M以下のKOH濃度下で合成でき2)、さらにエピタキシャル薄膜を創製できるなど3)、環境に優しい材料合成プロセスを構築できる可能性を有しています。しかし、高温高圧水を用いる際の課題として、耐熱・耐圧の観点から、装置材料として金属材料を使用するため、使用環境により腐食の問題を避けることができません。特に原子力発電においては、配管などから溶解性腐食生成物が原子炉の炉心で放射化され、60Coなどの半減期が長く高γ線エネルギーを有する核種が生成し、配管に蓄積されると定期点検時の作業者の被ばくの原因となることから、厳密な炉水管理が行われています。加圧水型原子力発電所では、一次冷却水の一部を取り出し、冷却してイオン交換樹脂の充填された浄化装置で処理され、再度、加熱して冷却水に戻す操作が行われています(図1)。この過程において熱損失が生ずることからイオン交換樹脂に替わる高温水用吸着材の開発が望まれています。しかし、これまで報告されている無機系吸着材のCo吸着容量は殆どが0.5mmol/g以下とイオン交換樹脂のCoイオン交換容量の1mmol/gに匹敵するものはあまりありません。


者らは、種々の無機系吸着材の高温水中でのCo吸着特性を回分式吸着試験によりスクリーニングし、チタン酸アルカリ4)、ニオブ酸カリウム5)及び有機複合リン酸ジルコニウム6)が2.0mmol/g以上のCo吸着容量を有することを見出しました(表1)。興味深いことにチタン酸アルカリとニオブ酸カリウムは高温下では吸着材の結晶構造変化を伴う化学吸着により固定化されるのに対し、有機複合リン酸ジルコニウムは吸着後に常温での酸処理により、Coイオンを溶離することが可能です。本研究は文部科学省の委託研究として実施しているものであり、高温水浄化用吸着材の開発を目指して、東北大・日大と連携して、高温水下での合金の腐食挙動をはじめ、腐食金属酸化物の溶解・析出機構、高温水中でのCo吸着機構について検討を行っています。今後は、吸着性能・耐熱性の高い吸着材について、実プロセスを模擬した高温水流通系での吸着試験を計画しています。


図1加圧水型原子炉の炉水管理システム 表1無機系吸着材のコバルト吸着性能


参考文献:

1)林,金属酸化物ナノ粒子の連続合成技術,工業材料,55 (11)(2007)39-42.

2)Hydrothermal Synthesis of KNbO3powders in Supercritical Water and Its Nonlinear Optical Properties, B. Li, Y. Hakuta, H. Hayashi,J. Supercrit.Fluid., 35(2005)254-259.

3)Hydrothermal epitaxy of KTaO3thin films under supercritical water conditions, H. Hayashi, Y. Hakuta,J. Mater. Sci., (in press) DOI: 10.1007/s10853-007-2018-7

4)Hydrothermal Synthesis of Potassium Titanate Powders in Sub/Supercritical Water and Its Cobalt Ion Sorption Properties,H. Hayashi, A. Ueda, Y. Hakuta,J. Ion Exch., 18(4)(2007)150-153

5)Cobalt ion sorption properties of potassium niobate powders under hydrothermal conditions, H. Hayashi, A. Ueda, Y. Hakuta, J. Supercrit.Fluid., (in press) DOI: 10.1016/j.supflu.2007.09.005

6)アミン修飾リン酸ジルコニウムの水熱条件下でのコバルト吸着, 林,上田,伯田,化学工学会第39回秋季大会講演要旨集B218



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