地域センターは、これらのことが矛盾なく推進されている、というのが私の受ける印象である。産業とのコミュニケーションは、抽象的なものでなく現実のものである。目の前に、基礎研究の成果を役立たせようとする企業がある。そこには実際に人がいて、彼らは知り合いである。したがってコミュニケーションも、特定の研究課題についての研究協力の交渉にとどまらず、地域全体の社会的諸問題を背景とする課題解決のための深い交流へと広がってゆく。このことは、本格研究を進めている研究者にとって重要な機会を提供していると思えるのである。科学技術の基礎研究の成果が、持続可能な社会の実現のために不可欠となってきたいま、持続可能な社会を実現するために解決するべき問題とは何か、そしてそれを解決するために必要な科学技術の知識とは何か、それらが日常的な交流の中で実感され、そしてその実感が、何をあるいはどんな研究を進めるべきか、そして結局、本当に必要な基礎研究とは何かを研究者に気付かせるとすれば、それは現代において最も求められる研究、あるいは未来の中心的な研究を生み出すための環境が、地域センターにはあるといえるであろう。
そのような環境で研究している人たちに会うたびに、私は産総研全体が地域センターに学ぶことが多いと感じるようになった。産総研が次の飛躍をするために必要な要素がそこには多くある。本格研究ワークショップに出席するたびに、地域センターの研究者や職員の生き生きとした参加と討論に圧倒されたのは研究所発足当初からの強い印象であったが、今思えばそれには根拠があるのであり、したがってこれからは、地域を個別の課題としてではなく、研究経営の中の重要な柱と位置付け、それに基づく産総研戦略の全体構想を立ててゆくべき時がきたと考えているのである。 |