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産業技術総合研究所 東北センター

地域センターの意義

独立行政法人産業技術総合研究所 理事長 吉川弘之


総研が発足して7年が経過した。その間、産総研を構成するすべての人の努力によって、発足時に立てられた目標の多くが実現しつつあるように思う。分野別あるいは地域別に独立していた研究所群が統合されたこと自体大きな出来事であったが、新しい組織の構成原理が研究ユニットという全く違ったものになった結果、現場で仕事をする者にとって、組織改革が抽象的なものでなく身近で現実的なものとなったのであった。

究ユニットで進められている本格研究も、従来の基礎研究、応用研究という分類にはおさまらない概念であって、研究者にとって戸惑いがなかったとは言えないであろう。しかし、科学技術研究が社会を支えるという面がますます重要になる時代の到来に対応する本格研究について、日々の研究や研究会、それに加えて本格研究ワークショップと称して行われた100回にも及ぶ会合によって、その理解と定義が深まっていったと思う。ワークショップには、研究者だけでなく、研究ユニット長、研究コーディネータ、理事、それに管理関連部門の職員も参加して発表し討論し、それを通じて産総研の社会の中での使命を論じたのは、産総研の貴重な歴史の一部を作ることになったと思われる。

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格研究をはじめとする数々の新しい試みの中で、最も大きかったものとして地域センターの新しい位置付けを挙げなければならない。産総研の発足当初から、地域センターは日本を代表する“代表研究所(ナショナルセンター)”の一つになると同時に地域産業に貢献する研究所である、という目標を掲げ、さまざまな努力がはらわれたのであった。この二つの目標は、必ずしも調和するものではないから、その実現は簡単なものではない。しかし、7年経過した今、それは実現に向けて着実に進んでいることが実感できる。すでに地域センターの多くで、独自の方法によってそれが進められ実績を上げている。しかもそこには大きな将来が開けている。


北センターは、これらの点で先導的な歴史を作ってきたと思う。代表的研究所としての卓越性を実現するためには、特化した研究分野に集中しなければならない。東北センターでは、超臨界流体と無機系膜に焦点を絞り、コンパクト化学プロセスという新しい学問分野の開拓を進めるとともに、持続可能な化学産業の構成を目標として実績を上げている。一方、地域産業への貢献については、産業の期待する分野は広いものであるから特化した課題の中に収まるものではないことが当然である。その解決のために、地域研究者の背後につくばを含む他の地域センターの全研究者3000人がいて、これが課題ごとに参加し貢献するということを産総研の基本的な考え方としてきたのである。これも決して容易なことではないが、基本は地域間のコミュニケーションであり、つくばの?なからぬ研究者が東北センターに移籍して作ったコンパクト化学プロセス研究センターは、十分なコミュニケーションの可能性を持っていて、その意味でも産総研の方針を先導していると考えてよい。

のような状況の中で、産総研は今、地域センターに学ぶことが多くなってきたと思われる。産総研の使命は、言うまでもなく科学技術の基礎研究を推進し、同時にその成果の産業における使用を促進することである。そしてその結果、持続可能な産業が実現することを目標としている。そのために本格研究を推進し、その成果の産業化のために様々な方策をとっている。それは産業との連携共同研究やライセンシングのみならず、ハイテクものづくり、IPインテグレーション、産業変革研究イニシアティブなど、そして産総研ベンチャーである。これらは、産総研の産業に貢献する使命の直接的な実現手段であると同時に、基礎研究者たちの陥りがちな論文至上主義への過度の傾斜を気付かせる場を提供してもいる。


産総研組織図

産総研組織図


域センターは、これらのことが矛盾なく推進されている、というのが私の受ける印象である。産業とのコミュニケーションは、抽象的なものでなく現実のものである。目の前に、基礎研究の成果を役立たせようとする企業がある。そこには実際に人がいて、彼らは知り合いである。したがってコミュニケーションも、特定の研究課題についての研究協力の交渉にとどまらず、地域全体の社会的諸問題を背景とする課題解決のための深い交流へと広がってゆく。このことは、本格研究を進めている研究者にとって重要な機会を提供していると思えるのである。科学技術の基礎研究の成果が、持続可能な社会の実現のために不可欠となってきたいま、持続可能な社会を実現するために解決するべき問題とは何か、そしてそれを解決するために必要な科学技術の知識とは何か、それらが日常的な交流の中で実感され、そしてその実感が、何をあるいはどんな研究を進めるべきか、そして結局、本当に必要な基礎研究とは何かを研究者に気付かせるとすれば、それは現代において最も求められる研究、あるいは未来の中心的な研究を生み出すための環境が、地域センターにはあるといえるであろう。

のような環境で研究している人たちに会うたびに、私は産総研全体が地域センターに学ぶことが多いと感じるようになった。産総研が次の飛躍をするために必要な要素がそこには多くある。本格研究ワークショップに出席するたびに、地域センターの研究者や職員の生き生きとした参加と討論に圧倒されたのは研究所発足当初からの強い印象であったが、今思えばそれには根拠があるのであり、したがってこれからは、地域を個別の課題としてではなく、研究経営の中の重要な柱と位置付け、それに基づく産総研戦略の全体構想を立ててゆくべき時がきたと考えているのである。

産総研東北センター東北産学官連携研究棟

産総研東北センター東北産学官連携研究棟

 



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