近年、MCMファミリーやFSM 等の規則的なナノ細孔を持つシリカの合成研究が盛んになり、その応用開発が広く実施されてきている。このような規則性メソ多孔体は、制御可能な数nmの孔径を持つ均一な細孔が、規則的に配列しており、高い比表面積を持っている。我々は、この規則性メソ多孔体とタンパク質を複合化することにより、タンパク質の高密度集積および外的環境からの安定化について研究を行った。
血液中に含まれる酸素を運搬するヘモグロビンやミオグロビンは、鉄原子がポルフィリンの誘導体に配位した補欠分子族であるヘム、ヘミンを持っている(図1)。これらタンパク質は、変性したり、或いはヘム、ヘミンを取り出した場合には酵素活性がほとんど無くなる。これは、集合し精巧緻密な構造となっていた反応中心のバランスが崩れるからである。私達は規則性メソ多孔体の細孔に、ミオグロビンを導入し、タンパク質が高密度集積した複合体を調製する事に成功した。その目的はタンパク質の精巧な構造及び機能を規則性メソ多孔体の細孔中で維持させ、さらに目的にかなった新しい特性を発揮させることにある。実際に規則性メソ多孔体(FSM)に導入されたミオグロビンは、図2に示すように酸素、及び一酸化炭素の吸着能を維持していることが認められ、タンパク質として機能することが分かった。さらにスキーム1に示す有機溶媒中での酵素活性を測定した結果、図3に示すように天然のミオグロビン(Fe3+)に比べ高い酵素活性を示すことがわかった。これは本来タンパク質が変性してしまうトルエン中でさえも酵素の立体構造が維持されることを示している。以上のことからタンパク質をメソ多孔体に導入することによって、タンパク質本来の機能だけではなく、有機溶媒中での活性発現など耐環境性の向上も起きることが明らかとなった。しかし、生体中に含まれるタンパク質は一般には単独で機能するわけではなく、タンパク質同士の相互作用によって複合体を形成し様々な反応を行っていることから、今後は、規則性メソ多孔体中へのサブユニットタンパク質やヘテロタンパク質の導入へと展開して行く予定である。
関連情報 ・共同研究者:石井亮、蛯名武雄、花岡隆昌、水上富士夫(コンパクト化学プロセス研究センター) ・T. Itoh, R. Ishii, T. Ebina, T. Hanaoka, Y. Fukushima, F. Mizukami, Bioconjugate chem., 17, 236 (2006) ・特願2005-236171「ミオグロビン複合体」(伊藤徹二、石井亮、蛯名武雄、水上富士夫)