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研究紹介

研究員

003年にヒトゲノム配列のほぼ全てが解明され、新たにポストゲノムの時代に入ったと言える。それはゲノム情報をもとに、タンパク質・酵素の機能を解明し利用していく時代の到来である。生体内に含まれるタンパク質は触媒機能、分子認識能、電子伝達能等、高度な機能を発現する生体分子であり、生体内の大半の化学反応をつかさどっている。しかし、生体内で機能を発現する酵素を生体外に取り出して利用する場合、働く環境が大きく異なるため、必ずしも思ったとおりの機能を発現できない場合が多く、酵素を改良したり、より有用な酵素を開発することが重要となっている。一方でタンパク質の反応中心を取り囲む空間配置を模倣して、耐環境性能等を向上させた材料を開発しようとする研究も進められている。しかし反応中心の周囲のように、基質に応じて空間を制御するために適した材料はなかなか開発されてこなかった。

図1

近年、MCMファミリーやFSM 等の規則的なナノ細孔を持つシリカの合成研究が盛んになり、その応用開発が広く実施されてきている。このような規則性メソ多孔体は、制御可能な数nmの孔径を持つ均一な細孔が、規則的に配列しており、高い比表面積を持っている。我々は、この規則性メソ多孔体とタンパク質を複合化することにより、タンパク質の高密度集積および外的環境からの安定化について研究を行った。   


液中に含まれる酸素を運搬するヘモグロビンやミオグロビンは、鉄原子がポルフィリンの誘導体に配位した補欠分子族であるヘム、ヘミンを持っている(図1)。これらタンパク質は、変性したり、或いはヘム、ヘミンを取り出した場合には酵素活性がほとんど無くなる。これは、集合し精巧緻密な構造となっていた反応中心のバランスが崩れるからである。私達は規則性メソ多孔体の細孔に、ミオグロビンを導入し、タンパク質が高密度集積した複合体を調製する事に成功した。その目的はタンパク質の精巧な構造及び機能を規則性メソ多孔体の細孔中で維持させ、さらに目的にかなった新しい特性を発揮させることにある。実際に規則性メソ多孔体(FSM)に導入されたミオグロビンは、図2に示すように酸素、及び一酸化炭素の吸着能を維持していることが認められ、タンパク質として機能することが分かった。さらにスキーム1に示す有機溶媒中での酵素活性を測定した結果、図3に示すように天然のミオグロビン(Fe3+)に比べ高い酵素活性を示すことがわかった。これは本来タンパク質が変性してしまうトルエン中でさえも酵素の立体構造が維持されることを示している。以上のことからタンパク質をメソ多孔体に導入することによって、タンパク質本来の機能だけではなく、有機溶媒中での活性発現など耐環境性の向上も起きることが明らかとなった。しかし、生体中に含まれるタンパク質は一般には単独で機能するわけではなく、タンパク質同士の相互作用によって複合体を形成し様々な反応を行っていることから、今後は、規則性メソ多孔体中へのサブユニットタンパク質やヘテロタンパク質の導入へと展開して行く予定である。


図2

図3

関連情報
共同研究者:石井亮、蛯名武雄、花岡隆昌、水上富士夫(コンパクト化学プロセス研究センター)
T. Itoh, R. Ishii, T. Ebina, T. Hanaoka, Y. Fukushima, F. Mizukami, Bioconjugate chem., 17, 236 (2006)
特願2005-236171「ミオグロビン複合体」(伊藤徹二、石井亮、蛯名武雄、水上富士夫)



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