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研究紹介

石井主任研究員

土鉱物は、無機工業素材として多岐に応用されている。その中でもスメクタイト系粘土鉱物は、ナノ空間を制御可能な粘土鉱物として知られてきた。スメクタイト系粘土鉱物は、厚さ1nm(10-9m)程度のケイ酸ナノシートが積層した構造をとっている(図1)。
より詳細には、そのナノシートは負に帯電しており、電荷的バランスのためナノシートの間に陽イオンが存在している。これら正負電荷間の相互作用は弱く、層間の陽イオンは、他の陽イオンと容易に交換する性質を持っている(イオン交換性)。その陽イオンとして嵩高い無機イオンや有機カチオンを用いれば、スメクタイト系粘土鉱物の層間は膨張し、層間に数nm程度の空隙が形成され、その空隙(ナノ空間)は、ゼオライトの細孔に似た吸着・分子ふるい機能を示すことが知られていた。他方、ゼオライトとは異なり、交換するイオンによってナノ空間の大きさを容易に制御できること、また、触媒能を持つ無機イオンと交換することにより、触媒機能を持つナノ空間を創製できること等の特色があり、スメクタイト系粘土鉱物を用いたナノ空間制御技術が従来から蓄積されてきた。

図1
図1イオン交換前後のスメクタイト系粘土鉱物のモデル構造

年、このナノ空間制御技術を他の層状化合物に適用する研究が進められている。筆者は、本技術を結晶性層状ケイ酸塩の一種であるileriteに適用する研究を行っている。ileriteは、スメクタイト系粘土鉱物よりも結晶性の高いケイ酸ナノシートが積層した構造をとっている。
このナノシート表面には反応性官能基が規則的に配置されており、有機化学的な操作により、その層間空隙を修飾できる特徴を持っている。最近、筆者は、ナノ空間制御技術と有機化学的操作を組み合わせることにより、ileriteの層間に有機分子ユニット(ビフェニル)が規則的に固定されたハイブリット材料を開発した(図2)。本材料は、従来の有機カチオン交換型スメクタイトよりも大きなナノ空間(比表面積にして500 m2/g前後)を有している。さらに、ナノ空間の一部が有機分子ユニットで構成されているため、ナノ空間の設計と機能化を柔軟に進めることができるという利点を有している。このような特徴と利点は、本材料を、分離・センシング・触媒等の機能材料分野への展開を可能とさせるものである。今後は、有機分子ユニットへの官能基導入や反応性有機分子ユニットの固定化によりナノ空間の機能化を図っていく予定である。本材料をさらに発展させることにより、ナノ空間の効率的利用を進め、化学プロセス用部材のコンパクト化に寄与したいと考えている。


図2
図2層状無機化合物の有機ハイブリット化による新規ナノ空間のモデル図

参考文献
1. R. Ishii, T. Ikeda, T. Itoh, T. Ebina, T. Yokoyama, T. Hanaoka and F. Mizukami, Journal of Materials Chemistry, 16, pp 4035-4043, 2006.
2. R. Ishii and Y. Shinohara, Journal of Materials Chemistry, 15, pp 551-553, 2005.



http://unit.aist.go.jp/tohoku/ UP