|
化 学製品の製造プロセスの多くでは、温度や圧力、混合状態などの変化により化学反応の進行を制御しているため、加圧や加熱などに多くのエネルギーが必要となり環境への負荷が大きいという問題を抱えている。これに対して、オゾン、ヒドロキシラジカル(OH)、酸素負イオン種などの活性酸素種は、反応の進行に必要なエネルギーの消費が少なくまた反応の選択性も高いため、新しい化学反応制御の重要な要素として注目されている。しかし、一般に活性酸素種は寿命が短く生成効率が低いため、利用技術の開発が遅れている 。そこで筆者は、酸素負イオン種を固体内に安定して保持できるナノ構造セラミック(図1)を用い、酸素負イオンの効率的な生成法と、それを利用した環境対策技術の開発を進めている。ここでは、開発した技術の一つとして、シックハウス症候群の原因物質であり、呼吸器疾患などの健康被害をもたらす揮発性有機溶媒(VOC)の酸化分解技術の開発と空気清浄法への展開を紹介する。
|
家 庭用や小規模工場での空気清浄装置には、低コストで安全なVOCの分解除去の実現が望まれている。貴金属触媒や光 触媒による分解などの技術が開発されているが、触媒が高価であることや不完全分解により新たな化学物質が生成するなどの課題がある。そこで、固体内にオゾンの1万倍以上の強力な酸化力を有する酸素負イオンを保持させ、その放出を制御することで新たなVOC完全分解法を開発した。は電圧印加により、空気中の酸素を固体内にとして取り込み、同時に固体内から反応場への供給を連続的に制御することができる(図2)。この特徴を利用し、ホ ルムアルデヒドやアセトアルデヒド、トルエンなどの酸化分解特性を明らかにした。たとえばアセトアルデヒドの分解は、空気中では800℃以上の加熱が必要であるのに対し、の利用により400℃で二酸化炭素への分解を確認した。さ らに電圧を印加することで反応は促進され350℃での分解を実現した。また、をVOCの吸着材として用いることで室温での運転法も提案している。このは、活性化学種として以外にも、 を安定に保持し、放出も制御できるため、空気清浄技術以外にもシリコンの低温酸化や殺菌・滅菌技術へも展開してきている。今後はさらに適用範囲を広げるとともに、膜機能などとの融合によって制御性のさらなる向上を実現し、環境負荷低減技術として発展を目指したい。
|
・
特許出願:
西岡,水上,川崎,酸化反応促進方法及びその装置,特願2005-043270
・
関連論文:
・ C. Abhijit, M. Nishioka, F. Mizukami, Chem. Phys. Lett ., 390 , 335 (2004)
・
M. Nishioka, Y. Torimoto, H. Kashiwagi, Q. Li, M. Sadakata, J. Catalysis , 215 , 1 (2003) |
|