2019年度 計量標準総合センター成果発表会
ポスターセッション 1日目

【物理計測標準研究部門 時間標準研究グループ】

  • 光格子時計を用いた光時系の試験的構築

    赤松 大輔、小林 拓実、保坂 一元(物理計測標準研究部門)、稲場 肇(周波数計測研究グループ)、鈴山 智也、安田 正美

    協定世界時(UTC)は、世界中に10ほどのセシウム一次周波数標準器、および世界85機関が保有する水素メーザーなどの原子時計群により構築されている。近い将来、光格子時計などの光時計による秒の定義が予想されている。本研究では産総研のYb光格子時計を用いた光時系を試験的に構築し、その評価を行ったので報告する。

  • 協定世界時と水素メーザー周波数標準器の時間差予測とその評価

    田邊 健彦、叶 嘉星(分析計測標準研究部門)、鈴山 智也、小林 拓実、 安田 正美

    本グループでは、時刻の標準である協定世界時UTCと同期した時刻系信号UTC(NMIJ)を運用している。我々は最近、UTC(NMIJ)のUTCへの同期精度の向上を目的として、深層学習を活用する手法の開発に取り組んでいる。そのためには、UTCと、UTC(NMIJ)の原振である水素メーザー周波数標準器の時間差の予測手法の確立が必須である。本発表では、これまでに得られた予測結果について報告する。

  • 国際原子時への貢献を目指したイッテルビウム光格子時計の堅牢化

    小林 拓実、赤松 大輔、保坂 一元(物理計測標準研究部門)、稲場 肇(周波数計測研究グループ)、鈴山 智也、安田 正美

    近い将来のSI秒定義改定を見据えて、イッテルビウム光格子時計を用いた国際原子時への貢献を目指している。我々は堅牢で長期運転可能なイッテルビウム光格子時計を開発に成功し、1週間の準連続運転に成功している。本発表では、開発の現状および最近の測定結果について報告する。

【物理計測標準研究部門 周波数計測研究グループ】

  • 繰り返し30 GHzの可視広帯域光コム

    稲場 肇、中村圭佑、柏木 謙、大久保 章

    分光器の波長校正のニーズが高まっている。その最先端に天体分光システムがあり、天体の視線速度の精密測定のために光コムを用いるための研究を行っている。その実現に必要な、①30 GHz程度の輝線(光コムモード)間隔、②350 - 1700 nmにおいてカバー率50 %を越えるスペクトル帯域、③小さいパワー変動、④108フォトン/秒・モード以上の輝線当たりのパワー、⑤40 dB以上の不要モード抑圧比、といった特長を持つ光コムを開発したので報告する。

  • 変調器型高繰り返し光コムの狭線幅化

    柏木 謙、大久保 章、稲場 肇

    光周波数コム(光コム)の一種である変調器型光コムは、単一周波数レーザ出力を光変調器で変調して生成される。変調信号周波数がこの光コムの間隔を決めるため、比較的容易に高繰り返し光コムを実現できる。一方で、変調次数が高い成分ほど変調信号の位相雑音が蓄積して線幅が太くなってしまう。本研究では、狭線幅レーザ、およびそれに位相同期した狭線幅ファイバ光コムを用いた各成分の線幅狭窄化の現状について報告する。

  • 高精度ガス分析に向けたデュアルコム分光計の雑音評価

    大久保 章、入松川 知也(極限温度計測研究グループ)、稲場 肇

    2台の光コムを用いるデュアルコム分光法は、ガスの吸収スペクトルを高い周波数精度で、広い波長帯にわたり、短い測定時間で得ることができる。今回、デュアルコム分光計を高精度なガス濃度測定に応用するために、2台の光コムの位相雑音および強度雑音が測定スペクトルに与える影響を評価した。また、スペクトルの雑音がガス濃度測定精度へどのように影響するかを評価したので報告する。

  • 光ファイバ遅延線干渉計を用いた光コムの周波数雑音測定

    和田 雅人、大久保 章、稲場 肇

    光コムによる光周波数の絶対測定等の応用において、光コムの周波数雑音評価は動作の確認や精度向上のために重要である。光コムの周波数雑音測定方法として、光コムとCWレーザのビートを解析する手法が一般的であるが、より簡便かつ高感度な測定を目指して遅延線干渉計を用いる手法を新たに考案した。本発表では、光ファイバ遅延線干渉計による光コムモードの周波数雑音の測定結果をはじめ、その不確かさや測定限界について報告する。

【物理計測標準研究部門 量子電気標準研究グループ】

  • シリコン酸化膜中欠陥準位を用いたマイクロ波増幅器

    中村 秀司、岡崎 雄馬、高田 真太郎、金子 晋久(物理計測標準研究部門)

    近年、ダイアモンド窒素空孔中心に代表されるように欠陥準位の量子素子への応用が研究されている。本研究ではシリコン酸化膜中のE' center集団を用いて超伝導共振器に非線形性を誘起し、その非線形性を用いてマイクロ波増幅(パラメトリック増幅)を行なったのでそれについて報告する。

  • 音波を用いた新しい核スピン計測法の提案と実証

    岡崎 雄馬、中村 秀司、高田 真太郎、金子 晋久(物理計測標準研究部門)

    音波を使った固体核スピンの計測は、1950年代から核音響共鳴法として研究されているが、音波と原子核の相互作用が弱く、計測手法としてほとんど実用には至っていない。近年我々は音波の高い検出・制御効率を有する電気機械振動子を用いて、音波と核スピンの間の結合状態の観測に世界で初めて成功した。今後はこの原理を発展させ、音波を用いて核スピンを高感度に計測する実験技術へとつなげたい。本発表では、基本原理の説明と研究方法、実験結果、数値計算によるデバイス設計などについて報告する。

  • 表面弾性波を用いた高精度な量子電流源の実現

    高田 真太郎、太田 俊輔、岡崎 雄馬、中村 秀司、金子 晋久(物理計測標準研究部門)

    表面弾性波は物質の表面を伝わる音波の一種であり、圧電体上では電気的なポテンシャルの波を伴って伝播する。GaAs/AlGaAs半導体ヘテロ構造中に形成される二次元電子系にその動的なポテンシャルを適用すると、固体中を飛行する閉じ込めポテンシャルを作り出すことができ、そこに電子を1個単位で閉じ込めて輸送することができる。本発表では、その技術を利用して行っている高精度な量子電流源の実現を目指した研究について報告する。

  • 量子メトロロジートライアングルにおける差電圧トラッキング

    松丸 大樹

    すでに実現している量子力学的な電圧・抵抗に加え、電流をSIの新しい定義に基づいて実現することによって、量子力学的に、独立に3つの物理量が求まる。これら3つの物理量を用いることで、巨視的な観点では成り立つとみなされている「オームの法則」を量子力学の観点から検証すること(量子メトロロジートライアングル(QMT))が出来るようになる。本研究では、QMT測定における差電圧測定の不確かさ低減を目指す。

【物理計測標準研究部門 応用電気標準研究グループ】

  • キャパシタンス標準の利用促進を目指した研究開発

    堂前 篤志

    キャパシタンス標準の利用促進を目指して、センシング技術などの新たな計測ニーズへキャパシタンス標準およびその精密計測技術を応用するための研究開発を行っている。本発表ではその取り組みについて紹介する。

  • Si基板上への1アンペア薄膜型サーマルコンバータの作製と評価

    天谷 康孝、Stefan Cular(NIST Gaithersburg)、大川 顕次郎、金子 晋久

    サーマルコンバータは熱電変換を動作原理とする交流電流センサであり、電流を直流電力(熱)に変換して実効値を正確に測定することができる。しかし、国家標準に用いられるような精密測定用途で利用できる素子の測定電流は高々10 mAに制限されていた。我々は単一素子に1 A以上の電流を流せるSiベースのサーマルコンバータを開発し、交流-直流変換特性(交直差)を評価した。

  • 高出力フレキシブル熱電モジュールの変換効率評価

    大川 顕次郎、天谷 康孝、藤木 弘之(企画本部)、金子 晋久

    未利用熱の有効活用のため、熱電モジュールの正確な性能評価法の開発は必須の技術課題となっている。我々はモジュールへ投入した熱流と出力から変換効率を評価する装置を構築し、湾曲形状の廃熱源に対応する高出力フレキシブル熱電モジュールの高い変換効率を実証したので報告する。

【物理計測標準研究部門 電磁気計測研究グループ】

  • 電磁気計測研究グループの取り組み ~高周波計測・センシングソリューション、計量標準と国際標準化~

    堀部 雅弘、昆 盛太郎、渡部 謙一、平野 育、岸川 諒子、加藤 悠人、坂巻 亮

    電磁気計測研究グループでは、高周波インピーダンス標準の維持供給を行っている。この10年で、5Gやミリ波レーダーなどの先端技術の社会実装が進み、計量標準のみならず、計測方法の標準化や実デバイスの応用計測の必要性が高まっている。また、レーダーの性質から、電磁波を使った品質評価などの技術にも注目が集まっている。今回、高周波インピーダンス計測に関して、過去からの研究開発の成果と今後の展開について紹介する。

  • 走査型マイクロ波顕微鏡による誘電体定量評価技術

    平野 育、堀部 雅弘

    新材料の開発において、複数の素材の複合や、電気的特性の変化などの観察が重要となっている。高周波インピーダンス計測技術と原子間力顕微鏡の技術を組み合わせ、さらに独自技術で高精度化に成功している。今回、観察が主な目的であった本技術を定量評価可能な技術へと拡張する研究を紹介する。

  • 高精度な平面回路計測技術とその応用

    坂巻 亮、堀部 雅弘

    ミリ波自動衝突防止レーダーや第5世代携帯電話など、ミリ波帯電波の利用が進んでいる。これら機器には基板上に形成された平面回路が使われており、その性能評価には高周波プローブによるオンウェハ計測技術が用いられている。産総研ではこれまでに独自のプローブ制御技術と校正技術を研究開発し、100 GHzを超える周波数において高精度な測定を実現した。今回はその応用技術を含めて報告する。

  • 無線電力伝送の実現に向けた計測技術

    岸川 諒子、堀部 雅弘

    IoTセンサネットワークシステムによるエネルギー消費の効率化が注目されている。センサの駆動電力を供給する方法として、電磁波放射による無線電力伝送技術が有力視されている。本発表では、無線電力伝送を実現するために産総研で開発した技術を紹介する。

  • 人工メタ表面による電磁波位相制御技術を利用したアレイアンテナの開発

    加藤 悠人、She Yuanfeng(電磁界標準研究グループ)、黒川 悟(電磁界標準研究グループ)、堀部 雅弘、真田 篤志(大阪大学)

    高開口のアレイアンテナは、高利得の特性からレーダーなど様々な用途に利用される一方で、開口面における位相分布のばらつきにともなう利得の低下やサイドローブの生成が問題となっていた。本研究では、人工メタ表面による電磁波の位相制御技術を利用したアレイアンテナを提案する。無反射のメタ表面により開口面の位相の均一性を実現することで、利得の増大やサイドローブの大幅な抑制といったアンテナ特性の向上を達成したので紹介する。

  • 社会課題を解決する電磁波センシング技術

    昆 盛太郎、渡部 謙一、堀部 雅弘

    食品分野において異物の混入は過去30年以上にわたって課題となっており、プラスチックやゴムなどの異物については、課題が多い。X線や金属探知機では検出が難しい軽元素異物についても、誘電率の違いによる異なる電磁波応答を示す性質を利用することで検出を可能としている。本発表では、検出の原理と実証例について、紹介する。

  • 電磁波センシングによる水分計測技術

    渡部 謙一、昆 盛太郎、堀部 雅弘

    農林水産物や食品の品質管理において、水分の計測は重要である。しかしながら従来の乾燥法や抵抗式の場合、破壊検査で、測定に時間を要する。そこで、電磁気計測研究グループでは農林水産物・食品の水分量を非破壊でリアルタイムに計測するために、電磁波によるセンシング技術の研究開発を進めている。本発表ではマイクロ波を用いた農林水産物や食品の水分計測技術について報告する。

【物理計測標準研究部門 高周波標準研究グループ】

  • 原子の共鳴現象を利用した電磁波リアルタイムイメージングための基礎的検討

    東島 侑矢

    次世代移動通信ではアレーアンテナを用いた電波の放射指向性の制御が行われているが、最適な放射指向性を得るにはリアルタイムで放射パターンを評価する技術が必要である。この技術の実現に向けて、セシウム原子の電磁波との共鳴現象を利用した電磁波のリアルタイムイメージングの実現を目指している。今回、基礎的検討として測定系の構築を行ったので報告する。

  • テラヘルツ波帯精密絶対電力測定のためのカロリーメータ開発について

    東島 侑矢、木下 基、飯田 仁志、藤井 勝巳(NICT)

    近年、ミリ波・テラヘルツ波帯を用いた超高速無線通信技術の研究開発が盛んに行われている。通信利用の実用化に向けては、そのシステムの絶対電力を正確に評価する必要があり、我々はカロリーメータ方式による超高周波帯での絶対電力計測技術の研究開発を実施している。今回、カロリーメータの重要な補正要因である直流置換係数の寄与について検討を行ったので報告する。

【物理計測標準研究部門 電磁界標準研究グループ】

  • 30 MHz以下の特定二次標準器用ループアンテナの校正技術と不確かさの改善

    石居 正典

    EMC計測の分野では、30 MHz以下の磁界計測用のアンテナには直径が60 cmのアクティブ型のループアンテナが用いられる。現在、このループアンテナを用いた磁界測定法の規格化が国内外で進められているが、その中では使用するループアンテナに対するISO/IEC17025校正の実施が規定される。一方、NMIJではこの直径が60 cmのアクティブ型のループアンテナを校正する際、特定二次標準器(jcss校正を実施)となる直径が10 cmのパッシブ型のループアンテナから、相対測定によりJCSS校正を実施する事を推奨している。今回、特定二次標準器用の直径10 cmループアンテナに対するjcss校正の不確かさの大幅な改善を行ったので、測定技術と合わせて紹介する。

  • セシウム原子の多重共鳴を利用した低周波帯交流磁界計測技術の開発

    石居 正典

    NMIJでは、交流磁界とセシウム原子の相互作用を利用する高精度な次世代型の交流電磁界センサの研究開発を行っている。本報告では、ゼーマン副準位間のエネルギー差に着目し、kHzの低周波帯での磁界センサの実現に向けた技術の研究結果について紹介する。

  • 浅いニューラルネットワークを用いたアレーアンテナ点検法における測定点数削減に関する研究

    飴谷 充隆

    産総研では、従来のバックプロジェクション法に代わるアレーアンテナ点検法として、浅いニューラルネットワークを用いた点検法に関して研究を進めている。これまでの手法では点検時にグリッド走査が必要であったため、測定点数が増えてしまい、高速な点検ができないという問題があった。本発表では、最適な走査形状を選択することにより、測定点数を削減でき、精度をある程度維持したまま高速な点検が可能となることを示す。

  • 新たな線状アレーアンテナの設計

    She Yuanfeng、廣瀬 雅信、黒川 悟

    新たな設計法による高効率高利得線状アレーアンテナを開発した。不要な放射であるグレーティンローブを抑制する装置を最適化し、高性能なアンテナを設計することが可能となった。本技術は、無線通信やレーダーなどのアンテナ設計への応用が可能である。

  • 双方向光ファイバリンクを用いた1アンテナ法による広帯域ホーンアンテナの利得測定

    松川 沙弥果

    放射EMI測定に用いられる広帯域ホーンアンテナの校正法として、1アンテナ利得校正法を既に提案した。提案手法は、被測定アンテナをグランドプレーン下向きに設置して反射係数を測定する。通常の測定では、ベクトルネットワークアナライザにより、同軸ケーブルを用いて反射係数を測定するため、同軸ケーブルの測定結果への影響の評価が必要である。本報告では、同軸ケーブルの影響を取り除くため、双方向光ファイバリンクシステムを用いて1アンテナ法による広帯域ホーンアンテナのアンテナ利得測定を実施したので、その概要を報告する。

【物理計測標準研究部門 温度標準研究グループ】

  • 高温用白金抵抗温度計のITS-90による評価

    ウィディアトモ ジャヌアリウス、斉藤 郁彦、中野 享

    高温用白金抵抗温度計(HTPRT)は銀点(962 ℃)までの高温域において1990年国際温度目盛(ITS-90)を実現するための補間計器である。その使用にあたり、ITS-90に従って銀点の他に、アルミニウム点(660 ℃)、亜鉛点(420 ℃)およびスズ点(232 ℃)で校正しなければならない。本研究では、仕様が異なった9本のHTPRTを対象に前述のITS-90の定点での校正を行うとともに、HTPRTの白金線の酸化が発生し得る500 ℃および高温域の800 ℃における熱処理を行った。その評価を報告する。

  • 1600 ℃以上での熱電対評価用金属-炭素共晶点の実現

    小倉 秀樹

    1600 ℃以上での高温域では半導体やセラミックスなどの素材産業等の分野において、製品の品質管理やエネルギー効率の向上のため、高温用熱電対による高精度な温度測定が重要となっている。一方で、高精度な温度測定を実現するためには、使用する高温用熱電対の安定性や不均質の評価が不可欠である。本発表では、高温用熱電対を高精度に評価するため新たに開発した大型のRh-C共晶点(1657 ℃)セル、および、Ru-C共晶点(1953 ℃)セルの評価結果について報告する。

  • 150 ℃以上の高温域用の温度計比較測定システムの開発

    斉藤 郁彦

    これまで高精度な温度場である圧力制御型ヒートパイプを使用し、60 ℃から150 ℃の温度域で温度計の特性評価を行ってきた。一方で工業的には温度計の比較測定をさらに高温で行うことが求められている。そこで、3-ゾーン電気炉と新規開発した銅ブロックを組み合わせた比較測定システムを開発した。本研究では開発した比較測定装置の諸特性の評価のほか、標準白金抵抗温度計を用いた評価性能の確認を行った。

  • 新規温度定点の開発に向けた物質の三重点の高精度実現とその評価

    河村 泰樹

    13.8033 Kから273.16 Kの低温域の基準となる温度目盛には水銀の三重点(234.3156 K)が必要不可欠であるが、近年水銀を用いない温度目盛の実現方法が求められている。水銀の三重点の代替候補としてCO2の三重点とSF6の三重点を実現するシステムを構築し、三重点温度の精密評価を行った結果と、これらの代替候補を用いて実現した温度目盛を評価した結果について報告する。

【物理計測標準研究部門 極限温度計測研究グループ】

  • 3Heジュール・トムソン冷凍機の連続運転における循環ガス不純物の影響

    島崎 毅

    ジュール・トムソン(JT)効果は、細孔などを通して気体を断熱的に自由膨張させた際に気体の温度が変化する現象である。JT効果と機械式冷凍機を適切に組み合わせると機械式冷凍機単体では到達できない低温を生成する事ができる。JT効果を利用する場合、使用する気体への不純物混入は細孔の閉塞などの問題を引き起こす。JT効果を利用した冷凍機内を循環させている気体の不純物分析を行ったので報告する。

  • カピッツァ熱界面抵抗に打ち勝つプラスチック多孔質体熱交換器材の研究

    中川 久司

    超低温冷却への成功の鍵は、微小熱入量でも大きな温度差を生む熱界面抵抗の低減にある。金属粉末を焼結した多孔質体が、大きな表面積を持つ熱交換器材として利用されているが、有効に熱交換する部分が少ない。金属に比べ、ヘリウムとの熱界面抵抗が小さなプラスチック(PLC)粉末を、熱交換器材に利用すれば、熱交換効率の向上が期待できる。我々は、熱交換器材として適したPLC粉末多孔質化技術の開発を進めている。

  • 微小デバイス化によるトポロジカル絶縁体の表面輸送測定

    三澤 哲郎

    近年、良好なバルク絶縁性を持った3次元トポロジカル絶縁体(3DTI)が実現され、表面における電気輸送が観測されるようになった。3DTIはスピントロニクスや量子計算、新奇な電気抵抗標準など様々な分野への応用が期待されており、その電気輸送特性の評価は重要な課題である。本研究では3DTIの輸送特性を評価するため、3DTI薄片を微小デバイスとし輸送特性測定を行っている。

  • 回転状態分布温度計測(RDT)に向けた偏波保持型デュアルコム分光計の開発

    入松川 知也

    デュアルコム分光は、ガス分子の吸収スペクトル強度比から熱力学温度を決定する回転状態分布温度計測(RDT)に適した手法である。本研究では、デュアルコム分光によるRDTの高精度化に取り組んでいる。発表では、光コムスペクトルの安定化を実現するため開発をすすめている偏波保持型デュアルコム分光計の進捗状況について報告する。

【物理計測標準研究部門 応用放射計測研究グループ】

  • LED スペクトラルチューナブル光源を利用した照度計校正システムの開発

    神門 賢二、田村 裕((株)セルシステム)、渡 脩((株)セルシステム)

    照度計の正確な校正は、照明光源や太陽光の計測等で不可欠であるが、近年標準電球の生産中止等により、困難になりつつある。本発表では、標準電球に代わる方法として、LED スペクトラルチューナブル光源により再現したCIE 標準イルミナントA近似スペクトルを利用した照度計校正システムの開発を行ったので報告を行う。

  • 熱放射自己干渉ホログラフィによる立体温度計測法の開発

    井邊 真俊

    レーザー加工やガス中粒子計測などでは、サーモグラフィによる温度計測がおこなわれている。これらの分野では本来、奥行き方向も含めた立体的な温度計測が必要である。しかし、撮影時にピント合わせが必要であり、特定の距離に限定した面計測にとどまる。そこで、撮影後に計算処理でピント位置を変更可能なホログラフィ技術を用いた三次元放射温度計測法を開発した。多段形状の物体の温度計測へ適用した結果について発表する。

  • 二次元温度分布の測定に向けた発光中心共添加セラミックス蛍光体に関する研究

    清水 雄平

    セラミックス蛍光体の発光の温度依存性を利用した蛍光式温度センサは、電磁気環境への耐性が高く、センササイズの自由度も高く、遠隔測定も可能であるため、電子デバイスの温度分布測定等に有用である。本研究では、リアルタイム二次元温度分布測定に適した測定方式や発光特性を検討し、二種類の発光中心を使用した蛍光体に着目して蛍光式温度センサ用蛍光体の開発を進めている。本発表において検討内容や開発状況を報告する。

【物理計測標準研究部門 光放射標準研究グループ】

  • 測光データを活用した光生物学的安全性の実用評価技術

    蔀 洋司

    照明製品のLED化が加速している現在、一般照明製品に対する光生物学的安全性評価では、青色光網膜傷害のリスク評価が特に注目されている。青色光網膜傷害リスクは、所定の作用関数で重み付けされた放射輝度の値に基づいて判定され、一般に近紫外域から可視域における分光放射輝度測定を必要とするが、製造時の安全評価などにおいて実運用することは容易ではない。そこで実用的な評価手法として、測光データを活用して青色光網膜傷害リスクを推定する方法に着目し、測定方式の最適化を図ると共に、推定方法の妥当性を検証した。

  • 紫外域及び赤外域分光応答度のjcss供給

    木下 健一

    紫外域および赤外域の光放射は、紫外域では殺菌、樹脂硬化など、赤外域では通信、リモートセンシングなどの用途で活用されている。そこでの計測や機器の品質管理のために多くの光検出器が用いられている。近年、性能評価や品質管理における信頼性確保の重要性が関連業界内で認知されるようになり、トレーサビリティの確保された校正の要望が高まっている。そこで、これまで依頼試験で対応していた紫外域および赤外域分光応答度のjcss供給を開始した。

  • アレイ式分光放射計の応答非直線性によるレーザやLEDで構成される光源の色度座標の変化

    田辺 稔、神門 賢二(応用放射計測研究グループ)、蔀 洋司

    アレイ式分光放射計は、光源の分光分布を短時間で測定できるため、 測光や測色などで多用されている。殆どのアレイ式分光放射計は、光源からの入射束に対する応答の比が一定でない非直線性を示す。光源の色は、その分光分布や強度比で決定されるため、応答の直線性が重要である。本研究では、アレイ式分光放射計の応答非直線性を精密に評価し、その結果がLED やレーザで構成される光源の色の測定に与える影響について考察した。

  • 標準LEDを参照標準とした白色LEDの全光束測定の妥当性検証

    中澤 由莉、神門 賢二(応用放射計測研究グループ)

    NMIJでは、LED照明等の全光束評価のため、2π幾何条件での分光測定に適した標準LEDの開発・評価を行ってきた。本発表では、標準LEDを参照標準として分光式球形光束計により計測を行った市販白色LEDの全光束値と、配光測定法により直接計測した市販白色LEDの全光束値の比較を行い、標準LEDを使用する方法の妥当性検証や、不確かさ要因となるスペクトル形状の違い等の評価を実施したので報告する。

【物理計測標準研究部門 量子光計測研究グループ】

  • 光計測バイオ分析装置の国際標準化

    丹羽 一樹

    創薬や医療などにおける分析技術の多くは、生体物質の量を蛍光、発光など光シグナルに変換している。ここで使用される分析装置の客観的な性能確認方法の標準化が求められている。我々はこれまで光放射量標準に基づく微弱光の計測技術の開発を行ってきた。本発表では極微弱LED光源を用いた発光測定装置の精度管理方法を中心に、蛍光、発光測定によるバイオ分析装置の国際標準化について紹介する。

  • 単一光子分光可能な超伝導素子の開発 ーバイオイメージングに向けてー

    服部 香里

    単一光子を分光可能な超伝導転移端センサ(Transition edge sensor; TES)は、可視光・近赤外同時イメージングが可能であり、バイオイメージングの新しいプローブとして期待されている。TESの波長分解能向上には、素子の波長分解能を決定づける物理の理解が必須である。本発表では、物理を解明するために取り組んだ性能評価について発表する。

  • 光バンチングによる蛍光色素の2光子励起効率の向上

    衞藤 雄二郎

    2光子励起を利用した生体顕微鏡は生体の深部を高い時空間分解能で観察することができるため、神経科学や癌研究など、医療や生命科学の幅広い分野において大きな注目を集めている。2光子励起効率は、強度の2乗に比例するだけでなく、光バンチングの大きさにも比例する。本研究では、2光子顕微鏡の効率を改善するために、コヒーレント状態のレーザー光源よりも大きな光バンチングを持つパルス光源の開発を進めている。

  • バイオイメージングに向けた可視光用超伝導転移端センサアレイからの信号多重化読出し

    中田 直樹

    バイオイメージングへの応用に向けて、マイクロ波SQUIDマルチプレクサ(MW-Mux)を用いた可視光用超伝導転移端センサ(TES)アレイからの信号の多重化読出しについて取り組んでいる。このMW-Muxは、1本の伝送線路上に配置した共振周波数が異なる複数の超伝導共振器から構成される。本技術を用いて、今回、複数のTESから同時に信号を読み出すことに成功した。本発表では、読出しの信号帯域やTESのエネルギー分解能などの結果を紹介する。

【物質計測標準研究部門 無機標準研究グループ】

  • 電気伝導率標準の現状に関する調査研究

    日比野 佑哉

    電気伝導率は溶液中のイオン濃度と相関があるため、簡便な水質管理の指標として非常に幅広い分野で利用されている。近年は薬局方の改正の影響で、特に計量トレーサビリティの需要が高まっている。本発表では、標準供給のための絶対測定技術、世界各国での標準供給の動向、および電気伝導率の産業における現状についての調査結果を報告する。

  • 中性子放射化分析法による元素標準液原料物質の評価

    三浦 勉

    中性子放射化分析法により高純度物質中の微量元素を定量することにより、元素標準液原料物質の評価を継続して進めている。ここでは、高純度金属チタン及び高純度酸化イットリウム中の不純物元素の分析結果をICP質量分析法による分析結果と比較し、お互いで相補的な結果が得られていることを報告する。

  • 高純度希土類酸化物中の不純物分析に関する研究

    和田 彩佳、浅井 志保、大畑 昌輝

    高純度希土類酸化物中の不純物として考えられる主な要因は主成分以外の希土類元素である。本研究では酸化ランタンおよび酸化ネオジムを対象に、希土類元素をはじめとする不純物を分析するために、いくつかのアプローチを試みたので報告する。

  • 単成分元素標準液の安定性

    鈴木 俊宏

    化学分析において元素の定量の基準として用いられる金属標準液および非金属イオン標準液は、計量法トレーサビリティ制度(JCSS)の下で信頼性の高い標準液が供給されており、NMIJではそうした標準液の値付けでトレーサビリティ元となる元素標準液CRMを開発・維持している。元素標準液CRMの認証値において、安定性は主要な不確かさ要因であり、微小な濃度変化を検出する精密分析による評価が必要である。本発表ではこれまでに得られた知見について報告する。

  • 窒素量を測定対象量とした塩化アンモニウム及びアミド硫酸の長期安定性

    朝海 敏昭

    従来はSIトレーサブルに決定することが困難であった化合物中の窒素量について、次亜臭素酸イオンの電解発生による電量滴定法を用いて測定を実現した。本法により、塩化アンモニウム中のアンモニウムイオン、アミド硫酸中の窒素について絶対定量を実施し、認証標準物質を開発した。当該物質の絶対測定による長期安定性について報告する。

  • 汚染水処理に使用されたCs吸着材中Cs-135のレーザーアブレーションICP-MSによる定量

    浅井 志保

    福島第一原子力発電所では、汚染水処理で使用された廃Cs吸着材が多量に発生している。この廃Cs吸着材中には、主要な放射能汚染源であるCs-137だけでなく長寿命核種Cs-135も存在しており、処分の際には正確な放射能量評価が不可欠となる。本研究では、微量固体試料の同位体分析が可能なレーザーアブレーション(LA)-ICP-MSを用い、廃Cs吸着材中のCs-135/Cs-137を溶出操作なしで直接測定し、Cs-137のγ線測定値からCs-135の放射能量を簡便に定量する方法を開発した。

  • 精確な海水栄養塩分析のための 連続流れ分析法の検量線の評価

    チョン 千香子

    連続流れ分析法(CFA)を用いた海水中の栄養塩(硝酸イオン、亜硝酸イオン、りん酸イオン、溶存シリカ)の精確な分析のために、検量線特性の詳細な評価を行った。適切な検量線範囲と較正方法について検討し、海水分析に適用した結果を報告する。

【物質計測標準研究部門 環境標準研究グループ】

  • 元素成分情報に基づく新たな粒子・細胞スクリーニング手法

    宮下 振一、藤井 紳一郎(バイオメディカル標準研究グループ)、稲垣 和三

    誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)を基本とした粒子・細胞分析手法であるシングルパーティクル/セルICP-MSは、元素成分情報に基づく新たな粒子・細胞スクリーニング手法として、製品中の不純物粒子の評価や金属製剤等の細胞曝露試験における金属動態解析などに応用されつつある。我々はこれまで、本手法の高度化を目的として、精確かつハイスループットなスクリーニングを実現するデバイスの開発とその応用に取り組んできた。本発表では、開発デバイスを紹介するとともに、それを使ったナノ粒子・微生物スクリーニング例を紹介する。

  • 定量分析用標準液自動調製システムの試作と評価

    朱 彦北

    定量分析における検量線作成のため、目的成分の複数濃度レベルの標準液を作成し分析することが多くの工業規格に求められている。本発表は、加圧送液・超音波流量センサー・電磁弁などを利用した標準液自動調製システムの試作について紹介する。また、システムの性能評価のため、ICP質量分析計による元素分析を行ったので、その結果についても発表する。

  • 誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)における炭素増感効果のメカニズム解明

    有賀 智子

    誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)において、試料中の炭素マトリクスが分析対象元素の信号強度を増加させる現象(炭素増感効果)が知られる。この現象は精確な定量分析を妨げることから抑制や補正の必要があるものの、その発生メカニズムは充分明らかになっていない。本研究では、この現象が溶液中で特定の化学形態をとる元素に特異的であることを見出し、炭素マトリクスがこれらの元素の原子化過程に及ぼす影響に着目して炭素増感効果のメカニズム解明を目指した。

【物質計測標準研究部門 ガス・湿度標準研究グループ】

  • 高純度二酸化硫黄標準ガスの開発

    松本 信洋、下坂 琢哉

    排ガス中の二酸化硫黄(SO2)ガスを定量するガス分析計の校正には、窒素希釈または空気希釈SO2標準ガスが用いられており、そのSO2標準ガスの調製では、液化二酸化硫黄ガスが原料として用いられている。差数法による純度が認証された二酸化硫黄認証標準物質の開発について紹介する。

  • 高圧容器の秤量における不確かさ要因の解明

    青木 伸行、下坂 琢哉

    近年、分析精度の向上により、高精度に成分濃度が決められた標準ガスが必要となってきている。成分濃度を高精度に決定するには、高圧容器を高精度に秤量しなければならない。高圧容器の秤量精度の向上を目指した実施した秤量における不確かさ要因の解明について発表する。

  • 国際基幹比較CCQM-K118(天然ガス組成分析)への参加 

    渡邉 卓朗、松本 信洋、高田 佳恵子、下坂 琢哉

    天然ガスの商取引は熱量ベースで行われているが、熱量そのものを測定しているのではなく、天然ガスの組成分析を行って各成分濃度値から熱量を導出している。成分濃度値の信頼性の観点から、天然ガス組成分析に係る国際基幹比較が行われている。現在実施中のものについて、NMIJが用いた手法とそれを用いた測定結果について紹介する。

  • 波長計制御型CRDSを用いた水の吸収スペクトルの高精度測定

    橋口 幸治

    微量水分の測定・管理の需要の高まりに対応できるように、これまで開発してきた「波長計制御型CRDS」による高感度微量水分計を用いて、水の吸収スペクトルの高精度測定を行う。測定装置の観点から、及びスペクトル解析の観点から、高精度測定に向けた取り組みについて紹介する。

  • 小型CRDS微量水分計の開発

    阿部 恒、橋口 幸治

    キャビティリングダウン分光法(CRDS)を用いた小型微量水分計の開発を行い、センサー部のサイズ9 cm×15 cm×20 cm、質量3 kgとなる小型化に成功した。これは月面開発に向けた宇宙機搭載用の水探査センサーや、半導体製造装置内のin situ水分モニタ用センサーへの応用が期待できるサイズである。当日はSIトレーサブルな参照標準に基づいて行った性能評価の結果についても報告する。

  • 高湿度標準発生装置の能動的露点制御システムの開発

    石渡 尚也

    高湿度標準の高度化を目指し、高湿度標準発生装置の能動的露点制御システムの開発を進めている。既に本システムを用いて、大気圧変動による露点変動や高露点発生での露点ドリフトの抑制に成功している。しかし発生部温度の変動が大きい条件では、露点変動の抑制能力は十分でなかった。本発表では、発生部の温度変動に対する本システムの露点制御能力の向上を目的とした先行制御の開発等の取組みとその成果を報告する。

  • 窒素・アルゴン・酸素・ヘリウム中微量水分の一次標準の開発

    天野 みなみ

    半導体製造では様々な種類の材料ガスが使用されており、これらのガス中に不純物として含まれる微量な水分は製品の性能に悪影響を与えることが知られている。本研究では、多種ガス用微量水分発生装置を用いて、窒素・アルゴン・酸素・ヘリウムについてガス中微量水分の一次標準を開発し、半導体製造工程で用いられている微量水分計の校正・性能評価を可能にした。標準の実現方法や市販微量水分計の性能について述べる。

  • 大気濃度レベル酸素測定時の磁気式酸素計の安定化

    下坂 琢哉

    二酸化炭素の大気・海洋・生物・化石燃料間の循環量を推定するために、大気中の酸素濃度を高精度に測定することが行われている。磁気圧式酸素計により高精度測定の可能性を実証してきたが、長期間測定するときにデータが変動することが見られた。この発表では、データが変動する要因について検討するとともに、その変動を抑える方法について検討した結果を発表する。

【物質計測標準研究部門 有機組成標準研究グループ】

  • 短鎖塩素化パラフィンの共同分析(第1回2018年度)

    羽成 修康

    新規規残留性有機汚染物質としてストックホルム条約の対象物質である塩素化パラフィンの分析について関心が高まっている。しかしながら、精度良い分析値を得るには多くの課題を解決しなければならず、分析事業者らは対応に苦慮している。そのため、共通試料を準備し、塩素化パラフィン分析に関する共同分析を実施した。本発表では、その結果の概要を紹介する。

  • 2012年から2018年に実施した穀類中残留農薬分析のための技能試験

    大竹 貴光

    食品分析の信頼性を保証するためには、精度管理が必要である。そのため、われわれは食品メーカーや受託分析機関などを対象に「残留農薬分析の技能試験 (PT)」を実施している。本PTは以下のような特色がある:①分析対象農薬が残留した穀類を原料とした試料を調製して使用。②各参加機関の分析結果を2種類のzスコアにより評価。③フォローアップセミナーの実施。ここでは、2012年から2018年までに実施したPTの結果の概要を報告する。

  • ラマンシフト校正用ポリスチレンディスク(NMIJ CRM8158-a)の開発

    伊藤 信靖

    半導体や材料、製薬業界などの幅広い分野で既に使われているラマン分光装置は、使用目的によって装置性能が大きく異なる。ところが、多くの場合に横軸として使用されるラマンシフトでさえも統一的な校正方法は存在せず、結果の同等性や互換性に対する懸念があった。このような背景から、我々は、ラマンシフト校正用ポリスチレンディスク(NMIJ CRM8158-a)の開発を行った。本発表では、値付けの方法や不確かさの寄与、妥当性確認や共同分析の結果について報告する。

  • ネギ中ネオニコチノイド系農薬分析における加圧流体抽出法の評価

    中村 圭介

    加圧流体抽出法(PLE)は、高効率かつ自動化可能な手法として、有機汚染物質等の抽出に利用されている。しかし、ネオニコチノイド系農薬(NEOs)の抽出に適用された例は少ない。本発表では、ネギ中のNEOsを対象とした添加回収試験、及びNEOsが残留した試料を用いた試験においてPLEの条件検討を行うとともに、その妥当性を評価した結果について報告する。

【物質計測標準研究部門 有機基準物質研究グループ】

  • 定量NMR用標準物質3,5-ビス(トリフルオロメチル)安息香酸の熱分析による純度評価

    清水 由隆、山﨑 太一、北牧 祐子、山中 典子、鮑 新努、中村 哲枝、沼田 雅彦

    定量NMRは、多くの種類の測定対象を標準物質の物質量を基準として精確に定量することが可能な手法である。信頼性の高い定量NMR用標準物質として供給している3,5-ビス(トリフルオロメチル)安息香酸のロット更新のため、DSCやTGを用いた純度評価を行ったので、その詳細について報告する。

  • 外標準法を用いた定量NMRによるオカダ酸標準液の濃度測定法の最適化と共同測定

    山﨑 太一

    これまで内標準法を用いた定量NMR法による純度や濃度の評価を検討してきたが、試料に内標準を添加してしまうと貴重な試料を回収できないという課題があった。特に貝毒のような天然毒は希少性が高く、原料を消費することなく値付けすることが出来れば標準物質の生産性の向上が見込まれる。本発表では、試料に内標準を添加しない外標準法を用いた場合の定量分析法を確立し、複数機関による比較試験によって測定値の妥当性確認を行ったのでその詳細について報告する。

  • qNMR/クロマトグラフィーと分取LCを併用した17β-エストラジオールの定量

    黒江 美穂、山﨑 太一、斎藤 直樹、沼田 雅彦、井原 俊英(物質計測標準研究部門)

    クロマトグラフィーは分離分析、定量NMR(qNMR)は異なる物質を基準に精確な定量が可能という利点がある。我々はこれらの利点を併せ持つqNMR/クロマトグラフィーという分析手法の研究を行っている。本研究ではqNMR/クロマトグラフィーへさらに分取LCを組み合わせることで、より精確な17β-エストラジオールの定量を実現したので報告する。

  • ドーピング検査用標準物質の定量NMRによる純度評価

    斎藤 直樹、山﨑 太一、黒江 美穂、清水 由隆、井原 俊英(物質計測標準研究部門)、中村 哲枝、鮑 新努、沼田 雅彦

    当グループでは、定量NMRを中核としてSIトレーサビリティが確保された有機標準物質の拡充に取り組んできたが、昨年度より新たな社会要請に応えるべく、ドーピング検査用標準物質の拡充に取り組んでいる。本発表では、要請元の一つである世界ドーピング防止機構から要望されるドーピング禁止物質の代謝産物について、定量NMRによる純度評価を行ったので報告する。

  • 「ドーピング検査標準研究ラボ」が進める国際単位系にトレーサブルな分析基盤の構築

    井原 俊英(物質計測標準研究部門)、伊藤 信靖(有機組成標準研究グループ)、川口 研(バイオメディカル標準研究グループ)、黒江 美穂、斎藤 直樹、山路 俊樹(スピントロニクス研究センター)

    オリンピックなどの国際競技大会におけるドーピング検査は、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)認定の検体分析機関で行われている。検査結果の国際整合性および信頼性確保には、その根幹となる計量学的に高品質な標準物質が不可欠であるが、近年のドーピングの多様化によって禁止物質は増え続けており、WADAから当所に計量学的な支援の要請があった。そこで、2018年7月に「ドーピング検査標準研究ラボ」を設置し、国際単位系(SI)にトレーサブルな分析基盤の構築を進めている。本発表では、当該ラボにおけるこれまでの取り組みを紹介する。

【物質計測標準研究部門 バイオメディカル標準研究グループ】

  • 体外診断のためのD-セリンの迅速な純度測定法の開発

    宮本 綾乃、山﨑 太一(有機基準物質研究グループ)

    生体中のアミノ酸は主にL体であるが、近年の研究により微量ながらD体も存在することが分かっている。中でもD-セリン等、一部のD-アミノ酸は代謝異常により生成していることから、臨床検査のバイオマーカーとしての利用が検討されている。こうした利用の確立にはD-アミノ酸の標準物質が不可欠である。本研究では、定量NMR法と不純物分析を組み合わせたD-セリンの迅速な純度測定法の開発を行った。また、得られた測定結果は従来法である滴定法と比較し、その妥当性確認を行った。

  • 酸分解を用いた高精度なRNA絶対定量法の開発

    柴山 祥枝、吉岡 真理子、加藤 愛

    本研究では、RNAを酸分解することで生成した核酸塩基をLC-MS/MSで精確に定量することでRNAを高精度に絶対定量する手法を開発した。分解条件の最適化を行った結果、核酸塩基ごとに異なる分解性質があることが分かった。最適条件下でNMIJ CRM 6204-b 1000-Aを試料として定量した結果、拡張不確かさとして5 %以内で認証値と一致する結果を得た。

  • CCQM K115.2018 HbA0およびCCQM-K115.c HbA1cの不純物解析

    七種 和美、絹見 朋也

    ヘモグロビンA1cは糖尿病関連のバイオマーカーであり、SIトレーサブルな定量分析のキャリブレーションスタンダードとして用いられてきた。今年度CCQMでは、このヘモグロビン1Acを用いた純度測定が行われることとなった(CCQM-K115.2018、CCQM-K115.c)。本研究では、その国際比較へ参加する際に行った不純物解析について報告する。

  • 国際比較CCQM K115 オキシトシン純度測定

    絹見 朋也

    10アミノ酸からなる環状ペプチドであるオキシトシンの純度測定について、BIPMとNIMCを幹事とし8カ国が参加して基幹比較が行われ、これに参加した。アミノ酸分析によってペプチド総量を定量し、LC-MSによって不純物の同定と定量を行った、ここでは、NMIJでの測定の結果について報告する。

  • アルドステロン分析用ヒト血清認証標準物質の第二ロット開発

    川口 研、惠山 栄

    NMIJでは、アルドステロン分析用ヒト血清認証標準物質を世界で初めて開発し、頒布してきた。本年度、第一ロット完売に伴い、第二ロット開発を行っている。第一ロットの開発では、感度の問題から誘導体化法を利用して、値付けを行った。第二ロット開発にあたり、高感度な質量分析計により誘導体化を利用しないで、値付けを試みた。

  • 高効率スプレー技術の生体関連試料分析への適用

    藤井 紳一郎、絹見 朋也、宮下 振一(環境標準研究グループ)、稲垣 和三(環境標準研究グループ)

    これまで、微細な液滴を得ることの出来る高効率スプレーノズルを開発してきた。開発したスプレーノズルは三重管構造のものとグリッド構造のものがあるが、いずれのノズルによっても粒径3 μm程度の微細な液滴を連続的に発生することが可能である。この微細な液滴は質量分析法の試料導入技術に適しており、主に生体試料分析への適用事例について報告する。

  • トリプシン消化ペプチドによる純物質系タンパク質定量についての国際比較

    加藤 愛、惠山 栄

    定量的標的プロテオミクスは標的となるタンパク質を配列特異的に定量出来る方法であり、発表者らはこれまで、定量の高感度化や高精度化に向けて検討を行ってきた。今年度はそれらの検討結果を踏まえ、日中間での国際比較に参加したため、それらの結果について発表する。

【物質計測標準研究部門 表面・ナノ分析研究グループ】

  • 微粒子分散液から電子顕微鏡観察用試料調製するときのリング状凝集の検出方法

    黒河 明

    微粒子分散液を基板に滴下乾燥して電顕用試料を作製するとき、リング状の凝集(コーヒーリング)ができると電顕観察の妨げになる。コーヒーリングの抑制ができる試料作製条件を探索するには、リングの形成を電子顕微鏡を用いる方法よりも迅速な方法が必要である。そこで蛍光顕微鏡法によるリング検出方法について調べた結果を報告する。

  • 走査電子顕微鏡によるナノ粒子個数濃度計測技術開発

    熊谷 和博、黒河 明

    ナノ粒子の個数濃度はナノ材料品質管理や環境中ナノ粒子評価において重要な指標の一つであり、一般に化学分析により測定されることが多い。一方、走査電子顕微鏡法(SEM)は個々のナノ粒子を可視化・計測可能な手法として期待がもたれているが、試料調製の難しさから個数濃度計測には用いられていない。そこで報告者らはインクジェット法による試料調製と質量測定を組合せることでSEMによる個数濃度計測技術を開発したので報告する。

  • 透過電子顕微鏡の倍率校正技術の研究

    小林 慶太、黒河 明

    透過電子顕微鏡(TEM)はサブÅオーダーに至る分解能で拡大像を得られる顕微装置である。近年この高分解能に着目して、TEM像からの微細構造の測長が広く求められている。しかしTEMはその機構に起因して倍率が一定しないなど測長用途に用いるには問題となる点が多い。そこで報告者らは近年のTEMによる測長技術開発研究の傾向を調査し、またその結果更なる研究が求められると考えられる電磁レンズに起因する倍率変動の評価に着手した。これらの調査ならびに研究について報告する。

  • X線光電子分光法により測定した膜厚のSIトレーサビリティの実現に関する検討

    張 ルウルウ、東 康史、黒河 明

    X線光電子分光法(XPS)は試料表面(数nm程度の深さ)に存在する元素の定性・定量分析法、また極薄膜の膜厚測定法として広く利用されている。本研究では、SIトレーサブルX線反射率法を用い光電子減衰長さを校正し、XPSにより測定した膜厚のSIトレーサビリティの実現について検討する。

  • 表面分析用標準物質の開発と安定性モニタリング

    寺内 信哉、伊藤 美香

    これまでに表面分析用標準物質として開発したEPMA用標準物質(CRM 1001a-1010a,1017a-1020a)、デルタBN多層膜(AsドープSi基板,CRM 5206-a)、金/ニッケル/銅金属多層膜標準物質(CRM 5208-a)の安定性モニタリングについて紹介する。

  • X線反射率測定環境中におけるSi表面の汚染物質の同定

    東 康史

    X線反射率法はSIトレーサブルな膜厚計測法であるが、試料表面に付着した汚染物の影響を受ける。本研究では測定環境中における表面汚染の原因物質を明らかにすることを目的とした。200 mmのSiウェーハをXRR測定室内に一定時間放置し、表面汚染層を形成する。そのウェーハを不活性ガス気流中で400 ℃に加熱し、熱脱離した有機物をGC/MSで測定し、汚染物質の同定と定量を行った。

  • 放射光を用いたシリコン酸化物薄膜中での光電子の有効減衰長測定

    今村 元泰

    物質中での光電子の有効減衰長を精度良く求めることは光電子分光法による定量分析の精度の向上において重要な課題である。本研究では膜厚の異なるいくつかのシリコン酸化物薄膜試料について放射光を用いた光電子分光スペクトルを測定しスペクトルの形状変化と光電子の運動スペクトルから有効減衰長をそれぞれ求めた。

【物質計測標準研究部門 ナノ構造化材料評価研究グループ】

  • 薄膜分析を行うためのsub-MeV~MeV級高速多粒子イオンビーム照射技術の開発

    平田 浩一

    イオンビームは、半導体への元素ドーピング、表面改質・分析等、材料改質、材料分析の幅広い分野で用いられている。イオンビームを用いた材料分析では、入射イオンと材料との相互作用により、試料表面から放出される粒子や光子を検出・分析することにより、材料の深さ方向元素分布、材料表面の微量元素や化学構造の分析を行うことが可能である。本発表では、sub-MeV~MeV領域の入射エネルギーを持つ高速多粒子イオンビーム照射による2次粒子放出現象を用いた薄膜評価に関して、同ビームの照射技術開発に関する報告を行う。

  • 同位体希釈-中性子放射化分析による酸化ハフニウム膜の定量

    高塚 登志子

    先端半導体デバイスの絶縁膜や強誘電体膜として酸化ハフニウム薄膜が用いられており、デバイス作製プロセス評価のために膜の定量分析は重要である。酸化ハフニウム薄膜中のハフニウム量を、同位体希釈-中性子放射化分析を用いて高精度に定量した結果について報告する。

  • 鉄鋼部材評価に資する非破壊欠陥検査装置開発

    山脇 正人、伊藤 賢志

    陽電子消滅法は、金属の原子欠陥や高分子の自由体積等に高い検出感度を持つことから、超微細欠陥の分析手法として、金属疲労研究や機能性高分子材料の開発等に利用されている。我々は、一般ユーザでも操作できる簡便な測定プロトコルを確立した。民間企業連携により製品化のための技術開発を進めている。今年度は新しく提案するDT0評価法とT0の高精度計測技術の開発を行った。

  • 高速表面X線回折法の開発と機能性材料界面の原子レベル構造解析

    白澤 徹郎

    機能性材料界面のオペランド観察に用いる表面X線回折測定の高速化技術開発を進めている。この方法を用いた薄膜成長過程の原子スケール解析および、薄膜全固体電池界面の解析による電池特性改善のメカニズム解明について報告する。

【物質計測標準研究部門 粒子計測研究グループ】

  • 100 nm・単分散ポリスチレンラテックス標準粒子の開発

    高畑 圭二、桜井 博

    球形で粒径の均一性に優れるポリスチレンラテックス(PSL)粒子は、粒子計測器の粒径校正・試験に便利に利用できる。NMIJでは、粒径分布幅が3 %以下と十分に狭い100 nmの国産のPSL粒子を原料とした粒径標準物質の開発を行っている。微分型電気移動度分析器によるPSL粒子の粒径および粒径分布幅の値づけの詳細について報告する。

  • 気中粒子計測技術を用いたナノ粒径域の液中粒子数濃度測定 

    車 裕輝

    エレクトロスプレー式エアロゾル発生技術と気中粒子の粒径分布測定技術を組み合わせた、ナノ粒径域の液中粒子数濃度測定法を開発した。本講演では 30 nm 金粒子の測定結果を例として紹介する。

  • 二次元粒子径評価手法の開発:粒子径と粒子屈折率の同時評価(Hybrid Flow Particle Tracking 法)

    松浦 有祐(計量標準基盤研究グループ)、中村 文子、加藤 晴久

    現在インライン異物粒子管理法としては単一粒子光散乱法が用いられているが、校正粒子換算粒子径やカウントができるものの、真の粒子径や材質識別ができない問題点があった。そこで新規に単一粒子の粒子径ならびに粒子屈折率の同時計測法(Hybrid Flow Particle Tracking 法)を開発した。本手法は精確な粒子径のみならず、材質を評価できることから近未来のインライン異物粒子管理法として重要な役割を果たすことが期待される。

  • 蛍光検出型バイオ計測器のためのポジティブコントロール標準ビーズの開発

    飯田 健次郎、沼田 雅彦(物質計測標準研究部門)

    気体・液体中に浮遊する微生物や病原体などからの蛍光発光を利用したリアルタイム計測器が、製薬、感染症の検査、公衆衛生の現場に導入される見込みが高い。これら計測器のポジティブコントロールを目的とした標準ビーズの開発について近況報告する。

  • エアロゾル法による疎水性粉体の水分散の進捗

    水野 耕平、飯田 健次郎

    我々は近年、疎水性の微粒子・粉体を分散剤や表面改質の補助なしでそのまま純水に分散可能な「エアロゾル凝縮成長法」を開発し、その後、本手法の有効性を確認するための試験を進めてきた。その進捗について紹介する。

  • 高速応答型エアロゾル粒径分布測定装置の個数濃度測定精度の評価

    村島 淑子

    Engine Exhaust Particle Sizer spectrometer (通称、EEPS)はエアロゾル粒子の個数濃度基準粒径分布を高速応答で測定できる装置である。PSLおよび銀粒子を使用して試験を行い、EEPSで測定した個数濃度の測定精度について検証した。

【物質計測標準研究部門 熱物性標準研究グループ】

  • データベースと機械学習を援用する熱物性評価技術の高度化の取組

    山下 雄一郎

    パルス光サーモリフレクタンス測定では、解析式による最小二乗フィッティング、パラメトリックシミュレーションによる最適解探索等によって、測定データから物性値を決定する。本報では、フィッティングデータの膨大な蓄積から機械学習による予測モデルを事前に構築することで、測定データ解析の高速化・精緻化を実現する手法に関する取り組みを紹介する。

  • レーザフラッシュ法における熱損失補正の妥当性検討及び断熱材の熱拡散率測定 

    阿子島 めぐみ、阿部 陽香

    レーザフラッシュ法は緻密な固体材料の熱拡散率を短時間で計測できる測定技術として知られている。断熱材の熱伝導率測定には保護熱板法等が用いられるが、試料が大型で長時間の測定が必要であることが課題となっている。本研究では、レーザフラッシュ法を断熱材の熱拡散率測定へ適用することを試みた。測定においては熱損失補正が重要であることを確認し、その補正方法の妥当性を検討した。それらによりレーザフラッシュ法の断熱材の熱拡散率測定への適用性を議論する。

  • 低熱拡散率標準物質の開発

    李 沐、阿子島 めぐみ

    熱物性標準研究グループでは、固体材料による熱拡散率の標準物質として、現在等方性黒鉛(CRM 5804b)とAl2O3-TiCセラミックス(CRM5807a)を頒布しているが、対応可能な熱拡散率の域を拡張するために新規標準物質を開発中である。現在開発中の石英ガラス(CRM5809-a)の標準物質について紹介する。

  • 高温用熱膨張率標準物質の開発・長期安定性評価

    渡辺 博道

    産総研では、理工学の様々な分野で使用される熱膨張計の校正に必要な熱膨張率標準物質の開発・供給を行っている。室温から1000 Kの温度範囲で使用可能な熱膨張率標準物質としては既にシリコンとガラス状炭素を供給しているが、来年度新たにアルミナ焼結体製の標準物質の供給を開始する。本発表では、アルミナ標準物質の認証値を決定するために行った絶対熱膨張測定の結果及び既存標準物質の安定性評価結果について報告する。

  • 超高温・高圧力下での熱物性計測技術の開発

    長谷川 暉、八木 貴志

    薄膜熱物性計測技術を活用し、超高温・超高圧下にある微小材料の熱拡散率を計測する測定装置を開発した。ダイヤモンド圧子に封入したディスク状のFeおよびPtを連続光レーザで加熱し、同時にサーモリフレクタンス測定を行うことで、最高圧力60 GPa、最高温度2000 Kにおける熱拡散率の計測を行った。本計測技術は、地球惑星分野に関する研究や極限状態を用いた新規物性の発現などへの応用が期待される。

  • 熱機能固体材料の熱膨張特性評価-遮熱コーティングの特性評価試験-

    山田 修史

    ガスタービンの高効率化のための燃焼ガスの高温度化にはタービンブレードの耐熱性向上のための低熱伝導性セラミックスによる遮熱コーティングが必須となる。現在、コーティング材の熱的な特性試験に関する試験法の標準化が進められている。主要なコーティング材であるイットリア安定化ジルコニアについて室温から1300 ℃までの温度サイクル下での熱膨張特性に関する試験研究を行った。

【物質計測標準研究部門 計量標準基盤研究グループ】

  • 品質向上による価格変化を考慮した検査における合否判定の最適化

    城野 克広、田中 秀幸、小池 昌義

    検査における規格値(良品/不良品の境界)に対する合否判定値(出荷/廃棄の境界)の決定、すなわちガードバンドの決定について検討する。本研究においては、不良率と価格の関係をモデル化し、それを踏まえた最適な合否判定値の決定方法を提案する。生産において限界製造費用(ひとつの製品を製造する追加費用)を生産数に対し線形に近似した場合の最適解について考察する。

  • Joint Committee for Guides in Metrology WG1(GUM)についての報告

    田中 秀幸

    JCGM WG1はGUMについてメンテナンスを行っているワーキンググループである。現在JCGM WG1ではモデリングの文書作成と、GUM New Perspectiveに関する作業を中心として行っている。本発表では2019年12月に開催されたJCGM WG1についてとその前日に行われたワークショップの内容に関して紹介する。

【物質計測標準研究部門 精密結晶構造解析グループ】

  • 位相コントラストX線CTによる金属容器内の軽元素材料の密度比較

    竹谷 敏

    低エネルギーのX線は鉄やアルミなどの金属により吸収され、高エネルギーのX線のみが金属を透過する。このため、医療用など一般に用いられる吸収コントラストX線CTでは、金属容器内の軽元素材料を可視化することは困難である。今回の発表では、位相コントラストX線CTを用いたアルミ容器内の樹脂材料などの可視化と、容器内の物質の密度評価の方法について発表する。

  • 水晶振動子高圧粘性計測における解析法の比較

    山脇 浩

    水晶振動子を用いた高圧粘性計測における粘度算出に対して、高次倍音共振ピークの半値幅の変化を用いた解析法や、共振周波数のシフトを用いた解析法などの方法が提案されている。セバシン酸ジオクチルやn-ドデカンなどの同一サンプル中で高圧力下の基本音及び3倍音の共振ピークを測定し、それぞれの解析法を適用してみた結果を発表する。。

  • 超硬質ホウ化物の結晶構造モデリングとビッカース硬さ計算

    藤久 裕司

    金属窒化物や金属ホウ化物は超硬材料として利用価値が高いもののまだ十分に探索されていない。発表者は昨年度TIA連携事業「かけはし」により、5d金属窒化物の結晶構造モデリング、体積弾性率B0、ビッカース硬さHVの計算を行い、新規超硬質窒化物を提案した。今年度は5d金属ホウ化物について同様の計算を行い、B0 >350 GPa, HV >35 GPaの優れた硬さを持つ新物質を見出した。

  • 単結晶精密原子構造解析法におけるモデル評価と席占有率も決定

    後藤 義人

    単結晶を用いる精密X線構造解析法において原子構造モデルの精密決定を行うために、統計的モデリングの手法である情報量規準を指標として用いるモデル評価法の有効性が確認されつつある。今回は化学組成の微量評価について、席占有率の変数選択に対する有効性の検証を、標準不確かさとの量的関係を比較しつつ行った。新規の各種超伝導体等を例に用いて紹介する。

  • AIST先端ナノ計測施設(ANCF)の固体NMR装置と共同利用

    服部 峰之、林 繁信、治村 圭子、後藤 義人

    文部科学省ナノテクプラットフォーム微細構造解析プラットフォーム事業においての固体NMR装置群の共同利用に参画し、幅広い分野の計測要望に応えている。主に国内の大学や研究機関との計測事例について紹介する。また、一般にプラットフォームでの固体NMR測定支援に利用できる、固体NMRデータベースを公開しており、同データベースの利用法について発表する。