2015年度 計量標準総合センター成果発表会
ポスターセッション 2日目

【工学計測標準研究部門 長さ標準研究グループ】

  • 光共振器内での光干渉法による長さ測定について

    日比野 謙一

    光学表面を持つ物体(直方体や球体)を光共振器に固定し、その絶対長さや直径を、左右両面から観察される干渉縞位相から決定することが考えられる。機械的送りや波長走査により位相変調を行う場合、位相走査の非線形性や、光源強度やコヒーレンス度の変化が系統誤差になる。位相シフト測定の場合について、従来の解析法を比較し、除去が難しいDC成分誤差を低減する新たな解析法を提案する。

  • 自己校正型ロータリエンコーダを用いた形状測定機の開発

    近藤 余範、尾藤 洋一

    表面の局部傾斜角測定に基づく形状測定機が注目されている。局部傾斜角検出器として、オートコリメータを利用したシステムが多く開発されているが、測定光のビーム径が大きいことによる形状測定の空間分解能が低い、角度測定のダイナミックレンジが限られる、といった問題点がある。本発表では、オートコリメータを用いず、表面の局部傾斜角を自己校正型ロータリエンコーダにより間接的に測定できる新たな測定システムを紹介する。

  • 標準尺の国際比較

    寺田 聡一、鍜島 麻理子

    2015年度、標準尺の国際比較(APMP L-K7)が、APMP外の5カ国を含む18カ国の参加で開始された。韓国KRISSがパイロットで、NMIJは9月に測定を行った。未測定の国があるため、測定値は公表できないが、標準尺の測定や不確かさについて発表する。

  • よう素安定化半導体レーザによるブロックゲージ測定

    尾藤 洋一、向井 誠二、小林 拓実(物理計測標準研究部門 時間標準研究グループ)、保坂 一元(物理計測標準研究部門 時間標準研究グループ)、洪 鋒雷(横浜国立大学)

    よう素安定化半導体レーザ(波長531 nm)をブロックゲージ測定に適用した結果について報告する。本レーザは他の安定化レーザに比べ、安価、コンパクト、高出力といった特徴がある。1mまでの長尺ブロックゲージ測定に必要なな性能を十分に有していることが確認できた。

【工学計測標準研究部門 幾何標準研究グループ】

  • ロータリエンコーダSelfAの回転軸ぶれ検出機能

    渡部 司、近藤 余範、上山 裕理(東京電機大学)

    自己校正機能付きロータリエンコーダ「SelfA」は、in-situ角度誤差検出が可能であり、さらに回転軸ぶれの検出も可能な「SelfA+」へと進化している。「SelfA+」の定量的な軸ぶれ検出機能評価を行った結果を紹介する。

  • 幾何形状計測用X線CTの誤差要因検出・評価方法の開発

    松崎 和也、佐藤 理、藤本 弘之、阿部 誠

    内外形状・寸法を非破壊で計測できる幾何形状計測用X線CTについてトレーサビリティを確保する要求が高まっている。本研究では、誤差要因の一つであるX線CTのX線の試料透過距離の違いが寸法測定誤差に与える影響について検出・評価方法の開発の現状について報告する。

  • 非直交形非接触三次元測定機の国際標準化

    阿部 誠、佐藤 理、松崎 和也

    産総研はJIS B7440-8:2015“光学式距離センサ付き座標測定機”及びISO 10360-8:2013 CMMs equipped with optical distance sensor の制定を達成した.これらの工業標準は直交型の装置構成をもつ座標測定機に限定したスコープが設定されたため,非直交形の座標測定機の性能評価法に関する国際標準化が求められており,産総研はISO/TC213/WG10での開発を主導している.そのフレームワークの開発状況について報告する。

  • CMM による1次元直径校正

    佐藤 理、松崎 和也、福島 博之、阿部 誠

    直径は外接する2点で定義される一次元寸法として定義される。NMIJ でも一次元測長機を使用して外接直径の校正を行ってきた。本研究では汎用性の高い CMM を使用して一次元寸法としての直径を小さい不確かさで校正する方法について検討し、50 mm 程度の直径を 0.1 um オーダの不確かさで校正できることを確認した。

  • レーザー干渉計搭載画像測定機による大型グリッドプレートの評価

    鍜島 麻理子、渡部 司、阿部 誠、高辻 利之

    二次元状に目盛を配置した画像測定機校正用の基準器である二次元グリッドプレートを、高精度に校正するため、レーザー干渉計を搭載した画像測定機を開発してきた。この測定機の最大測定範囲である350 mm ×350 mm の範囲をカバーする大型グリッドプレートを試作し、その評価を行ったので、報告する。

  • X線CTによる幾何学計測

    藤本 弘之、阿部 誠、佐藤 理、松崎 和也

    X線CTを用いた幾何学計測を行う際には、様々な要因により測定値が変動する。数値ファントムを用いたシミュレーション、実測定等を組み合わせて、誤差要因に関する検討を加えた。

【工学計測標準研究部門 ナノスケール標準研究グループ】

  • 測長原子間力顕微鏡を用いた標準ナノ粒子サイズ測定

    三隅 伊知子、高畑 圭二(物質計測標準研究部門 粒子計測研究グループ)、高橋 かより(物質計測標準研究部門 粒子計測研究グループ)、菅原 健太郎、榎原 研正(計量研修センター)

    標準粒子のサイズ測定において、従来の気相・液相中での測定手法に加え、基板上に固定された粒子のサイズ測定の需要が高まっている。今回、測長原子間力顕微鏡を用いて、標準ナノ粒子(ポリスチレンラテックス(PSL)、金及び銀)のサイズ測定を行い、不確かさ評価を行った。また、他の手法の測定結果との比較も行ったので報告する。

  • 光学的手法による段差の国際比較

    土井 琢磨

    2015年1月から、インドCSIR-NPLIを幹事国としてインド、シンガポール、タイ、オーストリア、日本の5カ国の間で光学的手法による段差校正の国際比較(APMP.L-S7)が行われている。持ち回りされる段差は称呼値8 nm〜10 mmである。国際比較の概要について述べると共に、当所の測定方法や不確かさ解析の方法について報告する。

  • ISO25178-2に基づく面領域表面性状のフラクタル解析

    直井 一也

    様々な手法によるフラクタル解析が、断面曲線や面領域の表面凹凸形状の測定データに用いられてきた。異なる解析方法が開発されてきたが、同一表面の評価においても、用いられた解析方法により解析結果の傾向は異なっていた。現在、ISO25178-2:2014において、フラクタル解析が採用された。そこで、フラクタル解析のツールを試作し、その有効性を確認する。

  • サファイア単原子構造を利用した表面修飾技術の開発

    菅原 健太郎、Bo-Ching He、権太 聡

    ナノメートルスケールの長さ標準のひとつの候補としてサファイアの原子ステップを基準としたナノ段差試料の作成を試みたので報告する。市販のサファイア基板にたいして微細加工技術をもちいた表面修飾をおこない、その仕上げ処理として熱アニール処理をおこなった。その結果、多原子層からなるステップ構造を誘起させることに成功した。

  • 三次元ナノ構造の寸法・形状計測技術に関する調査研究

    木津 良祐

    近年、半導体素子ナノ構造の三次元化が進んでいる。本調査では様々な三次元ナノ構造の寸法・形状計測技術の特徴について調べた。次に、絶対寸法評価やナノスケール標準試料の校正に適した技術として原子間力顕微鏡(AFM)に注目し、次世代半導体素子の寸法計測において最も基本的なパラメータである線幅の計測技術について調べた。

  • 静電容量センサ評価装置の開発

    堀 泰明、平井 亜紀子、尾藤 洋一

    高精度で簡便な変位センサとして広く使用されている静電容量センサの特性は、製造現場での品質管理で重要な情報であるにも関わらず、未知の部分が多い。そこで、産総研で開発した超高分解能レーザ干渉測長モジュールを使用し、静電容量センサの特性(非線形性, 安定性, 温度依存)を評価するシステムを開発した。デモンストレーションとして産総研所有の静電容量センサの特性を評価したので報告する。

  • リンギング不要な寸法・厚さ計測用干渉計の開発

    平井 亜紀子、尾藤 洋一(長さ標準研究グループ)、Nurul Alfiyati

    ブロックゲージ寸法の経年変化評価や熱膨張係数の評価などのブロックゲージ寸法の相対測定や板厚測定に対する要望がある。ブロックゲージ絶対寸法測定ではゲージを平面基板へリンギング(密着)させるが、その不確かさの影響が大きいため、リンギング不要な測定法が望まれている。開発中のリンギング不要な寸法・厚さ干渉計について報告する。

【工学計測標準研究部門 質量標準研究グループ】

  • シリコン28同位体濃縮結晶によるキログラムの定義改定−アボガドロ国際プロジェクトの進展−

    藤井 賢一、倉本 直樹、水島 茂喜、早稲田 篤(流体標準研究グループ)、東 康史(物質計測標準研究部門 表面・ナノ分析研究グループ)、成川 知弘(物質計測標準研究部門 環境標準研究グループ)、日置 昭治(研究戦略部)

    質量の単位「キログラム」を基礎物理定数によって再定義するための研究が、世界各国の計量標準研究機関で進んでいる。NMIJは、シリコン28同位体濃縮結晶を用いたアボガドロ定数精密測定のための国際研究協力「新アボガドロ国際プロジェクト」を推進し、2015年にアボガドロ定数を1.8×10-8の世界最高精度で決定することに成功した。国際研究協力の概要およびアボガドロ定数決定の詳細について報告する。

  • 3台の質量比較器の19年間の使用履歴

    植木 正明、孫 建新、上田 和永(力トルク標準研究グループ)

    10 gから10 kgの範囲の質量標準を供給するため、1996年3月から現在までの約19年間、3台の質量比較器を校正用機器として管理している。約19年間の使用履歴では、2011年の東北沖大地震の余震による不具合の修理があったが、これ以外は概ね順調に管理できた。19年間の合計5,000ファイル以上の測定結果を解析した結果、質量比較の標準偏差の平均値は、3台の質量比較器それぞれの最小表示以下である良好な状況であった。

  • NMIJにおける500 kg高精度質量比較器の開発(第二報:50 kg〜100 kg分銅の質量比較の性能評価)

    孫 建新、植木 正明、上田 和永(力トルク標準研究グループ)

    当所では、ひょう量500 kg、分解能0.01 gの高精度な質量比較器の開発を試みている。前報では、新設計の質量比較器を試作し、当所の200 kg〜500 kg分銅の校正に使用している既存品より、分解能は1/10に、繰り返し性は40 %以下に低減した比較性能を確認できた。今回は、引き続き当所の50 kg〜100 kg分銅の校正に使用している既存品と性能比較したところ、分解能は1/5に、繰り返し性は1/2に低減した。ここでは、これらの評価結果について報告する。

  • プランク定数に基づくキログラムの実現に関するパイロットスタディ

    倉本 直樹、水島 茂喜、藤田 一慧、藤井 賢一、黒河 明(物質計測標準研究部門 表面・ナノ分析研究グループ)、東 康史(物質計測標準研究部門 表面・ナノ分析研究グループ)、張 ルウルウ(物質計測標準研究部門 表面・ナノ分析研究グループ)

    質量の単位「キログラム」は、世界に一つしかない分銅「国際キログラム原器」によって定義されている。この定義が、近い将来、プランク定数による定義に改定される。質量関連量諮問委員会(CCM)は、2018年の改定実施をゴールとするロードマップを公開し、各国のキログラム実現能力の同等性を評価するためのパイロットスタディを実施している。NMIJは定義改定後にシリコン28同位体濃縮結晶球体を用いてキログラムを実現するための準備を進めている。パイロットスタディの概要および新しい定義に基づくキログラム実現のスキームについて紹介する。

  • Extraordinary Calibrations 後の白金イリジウム製キログラム質量標準の設定

    水島 茂喜、藤井 賢一

    2018年に予期されているキログラムの再定義に向けて、国際度量衡局は、2013年から2015年に国際キログラム原器を参照した質量校正を実施した。国際キログラム原器を用いた校正は、各国キログラム原器の第3回定期校正(1988–1992)以降初めてで、Extraordinary Calibrations と名付けられている。この校正にはNMIJの白金イリジウム製キログラム質量標準のうち2個も含まれている。本報告では、これらの校正結果に基づいたNMIJにおける質量標準の設定について紹介する。

  • アボガドロ定数決定のための分光エリプソメーターを用いたシリコン球体表面層の評価

    藤田 一慧、倉本 直樹、藤井 賢一

    SI基本単位のひとつであるキログラムの定義改定が2018年頃に予定されている。X線結晶密度法を用いたアボガドロ定数(プランク定数)決定によりキログラムを実現するためには、単結晶シリコン球体の表面層をサブナノメートルの精度で評価する必要があるが、真空雰囲気下における表面層の安定性については未評価の部分が多い。そこで本研究では、真空雰囲気下で測定可能な分光エリプソメーターを開発した。この装置による測定結果について報告する。

【工学計測標準研究部門 流体標準研究グループ】

  • バイオディーゼル燃料認証標準物質(NMIJ CRM 8302-a)の密度・粘度測定

    狩野 祐也、藤田 佳孝、北牧 祐子(物質計測標準研究部門 有機組成標準研究グループ)、沼田 雅彦(物質計測標準研究部門 有機組成標準研究グループ)、稲垣 真輔(物質計測標準研究部門 有機組成標準研究グループ)、朱 彦北(物質計測標準研究部門 環境標準研究グループ)

    化石資源代替の自動車用燃料として,バイオ燃料の利用が世界的に広まっている中で,NMIJではバイオディーゼル燃料標準物質(NMIJ CRM 8302-a)の開発を進めている.本発表では,同標準物質の認証予定項目のうち,物理的特性である密度および粘度の測定について詳細を報告する。

  • 非ニュートン性液体の粘度標準とMEMS粘性センサの開発状況

    山本 泰之

    液体の粘度は、医薬品や食品などの性能評価に用いられており、近年では、バイオフューエルなどの粘度測定も注目されている。これまで高精度なニュートン性液体の標準液を供給してきたが、非ニュートン性の標準も供給すべく、並進円筒法という独自に開発した測定装置を用いた依頼試験を開設した。また、非ニュートン粘度標準液の開発も進めている。さらに、産業界での実情を考慮して、MEMS技術を用いた粘度センサの研究も行っており、開発状況について報告する。

  • アルコール表の再計算について

    竹中 正美、藤井 賢一(質量標準研究グループ)

    現行のアルコール表の基になった過去のアルコール水溶液の密度の測定データについて、不確かさの要因及び不確かさの相関について評価を行い、誤差行列の成分を推定する。これを用いて最小二乗法による再計算を行い、表現式から求められる密度の推定値の不確かさの評価、温度目盛改訂の影響、他の大気圧下の測定データとの比較等を行った結果について報告する。

  • 自己参照型X線格子比較器を用いた単結晶シリコンの結晶評価

    早稲田 篤、藤本 弘之(幾何標準研究グループ)、倉本 直樹(質量標準研究グループ)、張 小威(中国科学院高能物理研究所)

    KEK放射光を利用した格子定数分布測定による単結晶シリコンの結晶評価を行っている。アボガドロ定数決定に用いた同位体濃縮28S単結晶の格子分布評価を行うとともに、Cz結晶の結晶評価を行った。また、装置改良として大面積Cz結晶の測定を可能とする高精度大面積セラミックミラーを作製した。

  • 粘度標準の維持・開発・供給状況について

    藤田 佳孝、山本 泰之

    粘度標準の維持・供給は、蒸留水の粘度絶対値を基準にした細管式標準粘度計群による精密比較測定に基づくが、粘度計群の装置定数の再校正を10年ぶりに実施した。その安定性を評価した結果について報告するとともに、参加したCIPM基幹比較(CCM.V-K3、粘度 5 mm2/s〜160000 mm2/s)の実施状況について併せて報告する。

【工学計測標準研究部門 力トルク標準研究グループ】

  • ひずみ校正器による指示装置の個体差の検証

    林 敏行、上田 和永、前島 弘

    ひずみゲージ式力計は、力変換器と指示装置からなる。指示装置だけを交換して使用する場合、指示装置はひずみ校正器により校正されていなければならないが、ひずみ校正器により校正し補正を行っても、指示装置の交換によって力計の指示値に差が生じる場合がある。指示装置を交換しながら力計の校正を繰り返す実験を行い、指示装置の交換による力計の指示値の差と校正の不確かさとを比較・検討したので、報告する。

  • 電磁力による微小トルク標準機の設計

    西野 敦洋、上田 和永、藤井 賢一(質量標準研究グループ)

    本研究では、一様な静磁場中に置かれたコイルに電流を流すことでトルクが発生する原理に基づいた装置を開発し、電磁力による高度なトルクの計測技術を確立することが目的である。電磁力によるトルクの発生方法では、コイルの形状や磁束密度の厳密な評価などが困難であるため、精密なトルクを発生できたという報告はない。著者らは、この課題を力学的仕事率と電気的仕事率の関係から克服し、全く新しいトルクの計測技術を開発する。

  • 50 N・m〜2 kN・mにおけるトルクの校正・測定能力の二国間比較

    大串 浩司、西野 敦洋、上田 和永、Min-Seok Kim(KRISS)、Yon-Kyu Park(KRISS)

    NMIJでは2007年に定格容量1 kN・mのトルク標準機の改良・高度化を行い、校正・測定能力(CMC)の向上をはかり、2010年にトルクメータ(TMD)のCMCの妥当性・同等性をあらためて検証するため、韓国標準科学研究院(KRISS)との二国間比較を実施した。その後東日本大震災によりトルク標準機群が損傷し、修理・再評価を行っていたため比較結果のまとめを休止していたが、このたび評価が終了したので報告する。

【工学計測標準研究部門 圧力真空標準研究グループ】

  • アジア太平洋計量計画(APMP)の質量関連量技術委員会の活動

    小畠 時彦

    2012年12月から、2015年11月まで、アジア太平洋地域の地域計量組織(RMO)であるアジア太平洋計量計画(APMP)の質量関連量技術委員会(TCM)の主査を務めた。同技術委員会は、国際度量衡委員会 (CIPM) の質量関連量諮問委員会 (CCM)や他地域のRMOのTCMと連携しながら、質量、密度、粘度、力、トルク、圧力、真空、硬さ、重力加速度等の計量標準及び計測技術に関わる各種活動に取り組んでいる。本発表では、同技術委員会の活動内容について紹介する。

  • 液体高圧力用高精度圧力計の長期ドリフト特性

    梶川 宏明、小畠 時彦

    液体高圧力用の高精度圧力計について、約7年にわたる長期間の校正値の変化(ドリフト)を追跡した。また、同型の圧力計に対し、測定の最大圧力を連続して印加した場合の校正値のドリフトを評価した。長時間加圧を受け続けた場合、校正値は通常の経時変化とは逆の方向に変化した。特殊な条件下にある圧力計の出力を適切に補正するためには、通常の校正を繰り返すだけでなく実際の加圧条件に応じた評価も必要である。

  • 光波干渉式標準圧力計のゼロ点の安定性評価

    小島 桃子、小畠 時彦

    当グループでは、特定標準器として光波干渉式標準圧力計(水銀を圧力媒体とする液柱形圧力計)を維持してきており、現在は、この標準圧力計によって重錘形圧力天びんを校正するための準備を行っている。本発表では、測定準備の過程で得られた標準圧力計の温度やゼロ点の安定性について紹介する。

  • 100 MPaまでの気体圧力標準の国際同等性確保に向けた取り組み

    飯泉 英昭、梶川 宏明、小島 桃子、小畠 時彦

    新たに開発した100 MPaまでの気体高圧力標準の国際同等性を評価するため、米国との国際比較(APMP.M.P‐S6)を実施した。幹事機関であるNMIJでは、仲介器に用いた高精度圧力計の特性評価を行い、校正値の補正や仲介器の不確かさ評価を行った。測定結果は米国の測定結果と不確かさの範囲で一致し、国際同等性を確認できた。

  • 熱陰極電離真空計の比感度係数

    杉沼 茂実

    B-A真空計管内の導入ガスの電離断面積から生成イオン分布を算出するシミュレーションにより、導入ガス種の違いが、感度係数に及ぼす影響について、実験データの文献値と計算結果を比較した。比感度係数のばらつきなど電離断面積を用いた計算では十分に評価できない部分についても原因の検討を行った。

  • 10-9 Paから10-3 Paの国際比較(パイロットスタディ)の結果報告

    吉田 肇、新井 健太、小松 栄一、小畠 時彦

    産総研とドイツの国家計量標準研究機関PTBで、 世界初となる10-9 Paから10-3 Paの国際比較を実施したので、結果を報告する。輸送標準器として、2台のスピニングローター真空計、1台のエキストラクター真空計、1台のATゲージを用いた。最初に産総研、次いでドイツPTB、最後に再び産総研で校正し、結果を比較した。両者の校正結果は、3 %以下で一致した。

  • 細管型標準リークを通過する気体流量の気体種依存性

    新井 健太、吉田 肇、小畠 時彦

    当グループでは、5×10-7 Pa m3/s〜10-4 Pa m3/sの流量を測定できる精密微量気体リーク量計を開発し、標準リークを通過する気体リーク量の校正サービスを行っている。今回、その流量計を用いて、細管をつぶしたタイプの標準リークを通過する気体リーク量について、下流側圧力が真空及び大気圧のそれぞれの場合について、上流側圧力を150 kPa〜500 kPaで変化させたときの気体リーク量の圧力及び気体種依存性を調べた。試験した気体は、窒素、アルゴン、ヘリウム、フロンガスの一種である R 134aである。その結果、標準リークを通過する気体について、粘性流及び中間流が成立する圧力範囲などが気体種によって異なることがわかった。

【工学計測標準研究部門 強度振動標準研究グループ】

  • ビッカース硬さ標準機のくぼみ画像読取自動化への試み

    清野 豊

    ビッカース硬さ試験、ブリネル硬さ試験では、くぼみのサイズ測定の正確さが硬さ値の測定結果に最も大きな影響を及ぼす因子である。多くの場合は、顕微鏡像を眼視で測定する際のフォーカシング、視度調整、標線合わせなどでの個人差からくる、ばらつきや系統的誤差に起因する。本報告では、くぼみ顕微鏡画像と計測顕微鏡座標値の取込プログラムについての概要、くぼみ画像からのコーナー検出のための画像処理アルゴリズムの検討状況について述べる。

  • Savitzky-Golayフィルタ(デジタル信号処理)の微分特性に関する研究

    野里 英明

    ISO 16063-13(加速度計の衝撃校正)では、レーザ干渉計で測定した変位波形を中央差分による数値微分によって加速度波形へ変換することを規定している。本研究では、より高精度に加速度波形を得るために、移動型多項式近似であるSavitzky-Golayフィルタの微分特性と中央差分による微分特性の比較検討を行ったので、その検討結果について報告する。

  • 新方式デジタル位相差計測アルゴリズムの開発とその応用

    穀山 渉

    振動計測に用いられるヘテロダインレーザ干渉計の計測分解能・高速応答性・ダイナミックレンジを両立するため、新方式のデジタル位相差計測アルゴリズムを開発した。この技術は、振動計測のみならず、複屈折計測装置や光コムにおける位相雑音計測に応用を進めているところである。この技術の概要と特長、現在の応用実績と今後の応用可能分野について説明する。

  • 超低周波振動加速度標準の性能向上

    穀山 渉、石神 民雄、野里 英明

    超低周波振動加速度標準(周波数範囲:0.1 Hz 〜 2 Hz)は、地震計測やインフラ計測のための計量標準であるが、不確かさが最大6 %と大きかった。我々は信号処理系などの改良によって、不確かさを 0.2 %以下へ低減するための技術的部分の構築を完了した。本発表では、装置の概要を紹介し、改良によって拡張した加速度計試験の範囲やその能力について説明する。

  • 試験機の要件から見積もられる不確かさ

    服部 浩一郎

    工業的な試験方法である硬さ測定では、ISO等に規程された試験方法により測定値を得る方法である。用いる圧子の種類や硬さ値の算出方法により多様な組み合わせがあり、材料の特性に応じた試験方法が選ばれる。硬さ試験においてはトレーサビリティは力や長さによって確保することもできる。このような組み立てを行った場合に、試験機の要件から見積もられる不確かさについて説明する。

【工学計測標準研究部門 液体流量標準研究グループ】

  • ピストン駆動式定流量発生装置による微小流量校正装置の開発(第二報)

    土井原 良次

    秤量タンクと小型ピストン式定流量発生装置による校正装置を試作し、不確かさ評価をおこなったので報告する。微小流量計測で課題となる秤量タンクでの表面張力影響、蒸発影響及びピストン式定流量発生装置での位置依存性、溶存気体影響などについて評価と改良を行った。

  • 立体配管モデル下流における超音波流速分布計測法の流量計測の不確かさについて

    和田 守弘

    秤量タンクと小型ピストン式定流量発生装置による校正装置を試作し、不確かさ評価をおこなったので報告する。微小流量計測で課題となる秤量タンクでの表面張力影響、蒸発影響及びピストン式定流量発生装置での位置依存性、溶存気体影響などについて評価と改良を行った。

  • 石油小流量国家標準の目標流量範囲の整備達成について

    CHEONG Kar-Hooi

    石油小流量の計量標準を整備するため、これまでに開発した校正設備に対して流量範囲拡大と液種拡大を進めた。現在、上限流量100 L/h〜下限流量20 mL/hにおける校正サービスを実施しており、当初の目標を達成した。最終目標を達成する過程での技術開発について報告する。

  • 石油小流量域における校正設備間比較による校正能力の妥当性評価

    嶋田 隆司、土井原 良次、チョン カーウィー、寺尾 吉哉、辻 周志((株)小野測器)、石川 智士((株)小野測器)、福島 晋((株)小野測器)

    国家標準である産総研の石油中流量校正設備と小野測器の校正設備との間で、仲介器としてピストン式流量計を用いた比較試験を実施した。その結果、軽油及び流量範囲0.02 〜 0.30 m3/hでの小野測器校正設備の校正の妥当性が確認された。

【工学計測標準研究部門 気体流量標準研究グループ】

  • 水素ガス流量標準に関する国際比較に向けた予備試験結果について

    森岡 敏博

    気体流量標準研究グループでは水素ガス流量標準の開発を進めてきた。将来、水素ガス流量標準の国際整合性を確認するための国際比較を実施することを目的として、仲介器の開発・評価、NIST及びPTBと行った予備試験の結果について報告する。

  • 気体流量計の動特性補償に必要な基準駆動源に関する試行的研究

    舩木 達也

    気体流量計の動特性補償は、既知の流量変動を適切に獲得し、それと供試流量計の出力とを比較することで実現できる。本研究では、流量変動を再現可能な各種駆動源の特性を試行的に整理し、その課題抽出や運用の可否などについて検討した結果を報告する。

  • 気体中流速標準におけるいくつかの進展

    栗原 昇

    気体中流速(1.3〜40 m/s)は微風速(0.05〜1.5 m/s)と今年度に立ち上がった気体大流速標準(40〜90 m/s)との間をつなぐ範囲にあり、その維持向上は気体流速標準の一貫性を確保する上で重要である。本報告では、当標準における近況とその考察を述べ、ロードマップ的な展望を示す。

  • 気体大流速標準の不確かさ低減に向けた噴流せん断層の定量的評価

    岩井 彩

    気体大流速標準では体積流量から流速へのSIトレーサビリティを確立しているが、流量から流速への変換過程において大きな不確かさが生じるため、その低減化が課題であった。本発表では、流速への変換過程で用いられる噴流の流速分布の中でも、流速勾配が大きいせん断層の定量的評価を行った結果を示す。

  • AGA8-92DC法に整合する天然ガスの圧縮係数を求めるための数表とその誤差

    石橋 雅裕

    様々な成分比で仮想的に合成した多数の天然ガスの圧縮係数をAGA8-92DC法により計算して統計処理を行い、成分を反映する2変数をパラメータとして、現実的な天然ガスの圧縮係数を単純な演算のみで精度よく求めることのできる2次元数表を作成した。その誤差を、AGA8-92DC法により求めた値からの差として評価し、最大誤差、平均誤差、2σ範囲、AAEなどと共に、AGA8、ISO 12213-2、及びISO 20765-1のサンプルガスを用いて現実的な誤差の大きさを推定した。

【工学計測標準研究部門 流量計試験技術グループ】

  • CIPMによる浮ひょうの基幹比較(CCM.D-K4)

    戸田 邦彦

    浮ひょうは液体の密度・濃度・比重を測定する計測器として計量法の特定計量器に規定されている。また、JCSS制度では登録校正事業者により浮ひょうの校正が実施されており、NMIJは特定計量器の検査に用いる浮ひょう基準器の検査及びJCSS事業者との技能試験の為の参照値の提供を通じて標準供給を行っている。この標準の信頼性確保及び国際的な同等性評価を目的とするCIPM基幹比較が、2011年〜2013年に渡ってNMIJを含む11カ国の国家計量標準機関の参加によって、この分野では初めて実施された。本発表では、この国際比較の概要と2015年に報告された最終結果について紹介する。

  • 水素社会実現に向けて水素ディスペンサに関する欧州調査及びJIS規格原案作成の報告

    森中 泰章、伊藤 武、藤本 安亮、菅谷 美行、小谷野 泰宏

    水素社会の実現に向けての日本の状況に対する欧州(独、英、蘭)の反応を調べると共に、欧州における水素ディスペンサの規格化に関する取り組みを調査した。また、今年度4月〜11月、三者構成(中立者、製造者、使用者)にて、水素ディスペンサのJIS原案を作成した。これらの内容について紹介する。

【物理計測標準研究部門 時間標準研究グループ】

  • 超低熱膨張材料を用いた新しい狭線幅レーザーの開発

    保坂 一元、安田 正美、赤松 大輔、田邊 健彦、小林 拓実

    高フィネス光共振器に対してレーザーの周波数を安定化させる方法では、光共振器の共振器長の変化が、共鳴周波数の変化となって観測される。このため、共振器を構成する材料のごく僅かな熱膨張や経年変化の知見を得る事が出来る。本発表では、ガラスやセラミックを用いた光共振器の特徴を示し、これらの光共振器を用いた新しい狭線幅レーザーを提案する。

  • 光格子時計を用いた地殻変動の計測−システムの可搬化に向けた光制御型低速原子線源の開発−

    安田 正美、赤松 大輔、田邊 健彦、小林 拓実、保坂 一元

    光格子時計を重力ポテンシャルセンサーとして利用する場合や、有線・無線通信による周波数比較で所望の精度が得られない場合、将来的には光格子時計の可搬化が必要となる。光格子時計の構成要素のうち、従来型の熱的原子線源は、冷却水や大電力が必要であり、可搬化の制約となっている。本発表では、光誘起原子脱離現象を利用する、新しいタイプの光制御型低速原子線源の開発を目指した探索的研究について報告する。

  • Sr原子の時計遷移周波数の精密測定と光格子時計の長期運転に向けた取り組み

    田邊 健彦、赤松 大輔、小林 拓実、高見澤 昭文(高周波標準研究グループ)、柳町 真也(高周波標準研究グループ)、池上 健(高周波標準研究グループ)、鈴山 智也、稲場 肇(周波数計測研究グループ)、大久保 章(周波数計測研究グループ)、安田 正美(周波数計測研究グループ)、洪 鋒雷(横浜国立大学)、大苗 敦(周波数計測研究グループ)、保坂 一元

    ストロンチウム原子の時計遷移は、SI秒再定義の有力候補の一つである。今回、我々はその絶対周波数測定を改めて行い、前回の1/3以下の不確かさでの測定に成功した。また、秒の再定義後の光時計による、国家標準UTC(NMIJ)の生成や国際原子時の校正という観点からは、現状の連続運転時間が数時間程度の光格子時計を、長期間にわたり連続的に運転可能にすることが重要な課題である。本発表では、光格子時計の長期運転に向けた取り組みについても併せて報告する。

  • イッテルビウム光格子時計の高精度化

    小林 拓実、安田 正美、赤松 大輔、田邊 健彦、保坂 一元

    時間標準研究グループの光格子時計1号機および2号機は不確かさが10-16レベルで、現在の秒の定義を実現するCs原子時計の不確かさより小さくなりつつある。当グループでは、現在、不確かさの大きな要因となっている黒体輻射による影響を低減させるために、3号機として低温動作光格子時計の開発に着手した。本発表では、開発の現状を報告する。

  • 協定世界時UTCの現状及び周波数遠隔校正の長期特性評価

    鈴山 智也、奥田 敦子、雨宮 正樹

    高信頼、高安定な時間周波数の国家標準であるUTC(NMIJ)を連続的に発生させ、周波数標準器の持込及び遠隔校正を実施している。新規や持込校正からの移行も含めて遠隔校正の件数は年々増加しており、着実に普及している。本発表では、協定世界時UTCの現状と併せて周波数遠隔校正の長期特性評価結果について報告する。

【物理計測標準研究部門 周波数計測研究グループ】

  • デュアルコム分光法によるガス分析装置の開発

    大久保 章、岩國 加奈、大苗 敦、佐々田 博之(慶應義塾大学)、洪 鋒雷(横浜国立大学)、稲場 肇

    環境ガスや工業用ガスをリアルタイムかつ精密に分析するために、高い分解能と短時間での測定を両立する検出法が求められている。2台の光コムを用いたデュアルコム分光法は、高い分解能、広い帯域を併せ持つ分光スペクトルを短い測定時間で得ることができるため、リアルタイムでの精密ガス分析に活用できる。本発表では、デュアルコム分光によるガス検出の原理と、我々が開発したデュアルコム分光装置を紹介する。

  • 光コムの高精度化

    和田 雅人、大久保 章、稲場 肇

    光コムは周波数の精確なものさしであり、その性質や特長を活かして環境ガス分析をはじめ、長さ計測・標準、光時計、テラヘルツ、果ては天文分野にまでその応用が広がってきている。リアルタイム計測、およびより広い範囲での応用のためには、短時間で高い精度が得られることが特に重要である。本研究では、光コムの短期〜長期の周波数精度について制限要因を調べ、その改善を目指す。

  • 精密な位相雑音測定におけるサンプリングクロックの影響

    平野 育、柳町 真也(高周波標準研究グループ)、池上 健(高周波標準研究グループ)、萩本 憲(時間標準研究グループ)、高見澤 昭文(高周波標準研究グループ)

    我が国産業界から水晶発振器の時間領域でのより精密な評価技術の需要があるが、そのための高精度周波数基準信号は測定器内には具備されていない。このため、被測定信号のオフセット周波数12 kHz〜20 MHz等のスペクトル領域からの変換で時間領域の評価値を得ているが、低オフセット領域での影響は曖昧なままである。我々は、周波数安定度の非常に高い基準クロックの使用と数値演算の結果から、問題点の指摘と解決方法の提案を行う。

【物理計測標準研究部門 量子電気標準研究グループ】

  • SETによる微小電流計測

    中村 秀司、岡崎 雄馬、金子 晋久

    近年、半導体産業、生体センサー(DNAシーケンサー)、微粒子計測、放射線計測などにおいてアトアンペアからナノアンペアといった微小電流の精確な計測と発生が求められている。本発表では、単一電子トランジスタ(SET)を用いた単一電子操作による微小電流計測と微小電流発生の技術について紹介し、あわせて化学センサーや生体センサーなどへの応用を検討する。

  • CCC電流アンプとその応用

    岡崎 雄馬、大江 武彦、金子 晋久

    高巻数比の極低温電流比較器(CCC)は、アトアンペアからナノアンペアといった微小電流の精密測定を可能にし、SETによる微小電流計測や高抵抗測定の精度評価を行ううえで必要となるコア技術である。特に、現在開発している無冷媒式冷凍機を用いたCCC測定系が実現されれば、液体ヘリウムを用いない簡便な微小電流測定を可能にし、ユーザーの利便性も向上する。本発表ではCCCの原理、及び現在行っている研究について紹介する。

  • 集積型量子電圧雑音源を用いた雑音温度計測システムの開発

    浦野 千春、山田 隆宏(ナノエレクトロニクス研究部門)、前澤 正明(ナノエレクトロニクス研究部門)、山澤 一彰(温度標準研究グループ)、金子 晋久

    産総研では超伝導デバイス中に擬似乱数発生回路などの電圧雑音を発生するための機能を全て組み込んだ、集積型量子電圧雑音源(IQVNS)を開発した。IQVNSを基準とした広い温度範囲で使用可能なジョンソン雑音温度計(JNT)を開発し、ボルツマン定数の再定義、および様々な温度定点の熱力学温度を評価することを目指している。本技術は、アンプやスペクトル計測装置の校正にも利用可能である。

  • 高抵抗測定技術の高度化および普及の取組

    大江 武彦、金子 晋久

    高抵抗の精密測定は、電子部品の絶縁抵抗測定等の広い分野で求められているため、国家標準に基づく標準供給体制の構築を進めてきた。本年、精密抵抗測定コンソーシアムを設立し、産総研の有する高抵抗測定技術の普及を開始した。産総研で開発した自己平衡型高抵抗ブリッジを用いた高抵抗測定技術と、コンソーシアムの概要を紹介する。

【物理計測標準研究部門 応用電気標準研究グループ】

  • 高圧直流給電に対応した消費電力モニタリング装置

    堂前 篤志、金子 晋久、(株)寺田電機製作所

    交流(AC)/直流(DC)変換による電力損失を削減できることから、直流方式の給電(直流給電)に注目が集まっており、特にデータセンターへの導入が進んでいる。産総研と寺田電機製作所は共同で“高圧直流給電に対応した消費電力モニタリング装置(DC-Smart Energy Monitoring System(SEMS) )”を開発した。開発品は“被測定電力を遮断することなく電流センサーの校正が可能な特徴”を有する。

  • リチウムイオン電池の非破壊評価

    坂本 憲彦

    充放電の繰り返しで生じる、リチウムイオン電池の内部インピーダンスの変化を精密に計測することにより、電池内部の劣化状況を評価する手法を紹介する。近年普及し始めた大容量蓄電池は、内部インピーダンスが低いため、mΩレンジのインピーダンス評価装置を開発した。微弱な交流電気信号を印加して評価するため、電池に負荷を与えることなく、非破壊での評価が可能となった。

  • 電力品質の向上に資する高調波電圧電流計測技術

    山田 達司

    スマートグリッドが推進される中、国内では太陽光発電を主とした分散電源の普及が進み、電力系統に電力供給するためのパワーコンディショナが急増している。パワーコンディショナは電力品質の低下を引き起こす高調波を発生するため、その高調波発生量を事前に測定することが義務付けられている。そこで産総研では、複雑な波形の電力に含まれる高調波を高精度に測定できる技術を開発した。本技術は高調波計測器(パワーアナライザ)の評価等に利用され、電力品質の向上に貢献している。

  • 酸化物超伝導体を用いたゼーベック係数の絶対測定技術の開発

    天谷 康孝、島崎 毅(極限温度計測研究グループ)、河江 達也(九州大学)、藤木 弘之、山本 淳(省エネルギー技術研究部門)

    未利用熱の利活用のため、排熱を電気エネルギーに再資源化する熱電発電が注目を集めている。熱-電気変換の指標となるゼーベック係数の測定には、熱と電気の両方の計測が要求される。産総研では、従来の鉛等の金属材料ではなく、酸化物超伝導体を用いた熱電対回路を試作し、液体窒素温度で白金のゼーベック係数の評価を進めている。独自に開発した断熱型クライオスタットとその性能、白金の温度依存性の評価結果を報告する。

  • サーマルコンバータの直並列回路化による低周波特性の改善

    天谷 康孝、藤木 弘之

    交流電圧の10 Hz以下の不確かさを改善するため、サーマルコンバータの直並列回路法を提案する。電気-熱回路解析により、ヒータ抵抗を直並列化することで発熱量が低下し熱的非線形効果が抑制される効果に加え、熱電対回路を直列に接続することで、出力電圧が理論上低下しないことが示される。4×4の直並列回路を試作し、素子単体の特性と比較したところ、10 Hz以下の交直差が大幅に低減することが示された。

【物理計測標準研究部門 電磁気計測研究グループ】

  • 農産物水分量のリアルタイム計測を実現する電磁波センシング技術

    昆盛 太郎、堀部 雅弘、松尾 守展(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター)

    穀物や家畜用飼料などの水分量をリアルタイムに計測するための電磁波センシング技術の開発に取り組んでいる。本技術は従来技術に比べて、非破壊で全数検査が可能であることや、屋外を含むその場計測が可能な点で優位性がある。本技術について、現在の開発状況や測定結果の例などについて報告する。

  • 窒化ガリウム半導体デバイスの高周波伝送特性評価

    岸川 諒子、堀部 雅弘、川繁 男(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)

    高速動作が可能で、高い宇宙線耐性を持つ窒化ガリウム半導体は、宇宙機内の無線通信や無線電力伝送への応用が期待されている。しかし、高精度な高周波伝送特性の評価方法とその結果に基づくデバイスモデリング技術が確立されておらず、回路設計においてデバイスモデルが実用に耐えないといった課題がある。そこで、測定に影響を与える要因を定量的に評価し、測定結果の信頼性を明確化するための技術を開発している。これにより、デバイスモデルの高精度化への寄与を目指す。この技術は宇宙に限らず無線技術全般に活用可能で、特に送受信機の効率的な設計に役立てることができる。

  • 印刷技術による高周波平面回路のための設計と計測技術

    坂巻 亮、堀部 雅弘、吉田 学(フレキシブルエレクトロニクス研究センター)

    通信やセンサなどの様々な分野で高周波技術を用いた製品の利用が進んでいる。特に近年、軽量化・薄型を目的とした樹脂基板の利用や、低価格化といった要求から、印刷配線技術が注目されている。そこで、印刷配線技術の高周波回路への応用を検証するため、高性能な伝送線路の設計・試作および評価を行なっている。これまで、ミリ波帯で従来より低損失で耐久性の高い伝送線路を実現した。更なる技術の応用先として、ウェアラブル機器を念頭においた、フレキシブル基板上の伝送線路技術についても設計・評価を進めており、現在の開発状況と今後の展望について報告する。

  • ナノ材料の電磁波遮蔽特性とその評価方法 〜評価方法の違いによる結果の差異の解析 〜

    加藤 悠人、堀部 雅弘、長谷川 雅孝(ナノ材料研究部門)、石原 正統(ナノ材料研究部門)、中西 毅(機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センター)

    軽量かつ電気伝導性に優れた炭素系ナノ材料は、エレクトロニクス応用に向けた新たな機能材料、特にモバイル機器の電磁波対策部材への活用が期待されている。しかし、部材の性能を表わす電磁波遮蔽特性の評価方法は統一されておらず、異なる方法間の比較についても十分には検討されていない。今回、プラズマCVDグラフェンを用いて実現した透明な薄膜状の電磁波遮蔽材を評価する過程で、日本で一般的なKEC法と世界的に最も利用されているASTM法(ASTM D4935)の比較を行った。その結果、1 GHz以下の評価結果に差異が現れたが、その原因について理論的に解析した結果を報告する。

【物理計測標準研究部門 高周波標準研究グループ】

  • テラヘルツ波微弱電力の精密測定技術の開発

    飯田 仁志、木下 基、雨宮 邦招

    情報の高密度化により、近い将来テラヘルツ帯を利用した無線通信の実現が期待されている。そこではテラヘルツ波の正確な電力計測が重要となるが、一般にテラヘルツ波は発生電力が極めて小さいため、極低温環境が必要となるなど測定は容易ではなかった。そこで我々は液体ヘリウム冷却を行わずに常温で測定するための高感度センサを開発し、精密な絶対電力測定を実現した。

  • 空間中におけるラビ周波数に基づく電磁場測定

    木下 基、石居 正典

    一般的な電磁場センサは金属アンテナで構成され、その測定原理はマクスウェル方程式に帰着する。しかしこの場合、原理上、金属アンテナ自身が被測定電磁場を乱す侵襲性が存在する。これに対して我々は量子力学に基づき、原子との相互作用を解析することで電磁場強度を測定する新しいセンサ技術を提案する。本原理では金属アンテナを必要としないため低侵襲性センサの実現が期待される。今回、原子と電磁場との結合度合いを表すラビ周波数に基づく電磁場センサについての初期検討を行った。

  • 長期連続運転に適した電気的冷却方式低温サファイア発振器の開発

    池上 健、渡部 謙一(レーザ放射標準研究グループ)、柳町 真也、高見澤 昭文、平野 育(周波数計測研究グループ)、萩本 憲(時間標準研究グループ)、John G.Hartnett(アデレード大)

    水素メーザーより優れた周波数安定性を有する低温サファイア発振器(Cryogenic Sapphire Oscillator、CSO)は、大陸間の距離の精密決定や、銀河中心のブラックホールを撮像するためのVLBI(超長基線干渉計)の性能向上などへの貢献が期待される。産総研の2台の液体ヘリウム冷却方式CSOを改造し、冷凍機と振動抑制クライオスタットを用いた電気的冷却方式に改造することで、年単位の連続運転を可能とした。

  • センサ端末同期用小型・低消費電力原子時計の開発

    柳町 真也、高見澤 昭文、池上 健、高木 秀樹(集積マイクロシステム研究センター)、倉島 優(集積マイクロシステム研究センター)

    近年、小型かつ低消費電力の原子時計の開発が全世界的に盛んに進められている。米国ではすでに商品化されており、大きさは数センチ角、消費電力は150 mW程度である。一方、無線センサネットワークの時刻同期への利用を目標とした場合、長期安定度は十分な性能に達していない。そこで我々は、長期安定度の向上へ寄与するため小型ガスセル開発を進めている。

  • セシウム原子泉一次周波数標準器NMIJ-F2の開発

    高見澤 昭文、柳町 真也、萩本 憲(時間標準研究グループ)、平野 育(周波数計測研究グループ)、渡部 謙一(レーザ放射標準研究グループ)、池上 健

    秒の単位を決めるセシウム原子泉一次周波数標準器の2号器(NMIJ-F2)の開発の現状について報告する。磁場による2次ゼーマンシフト、原子間衝突による衝突シフト、およびマイクロ波の漏れなどに起因するマイクロ波パワー依存シフトなどの主要な不確かさ要因について実験的・理論的に調べ、全体の不確かさを7×10-16と評価した。

【物理計測標準研究部門 電磁界標準研究グループ】

  • 30 MHz以下のEMI試験装置評価のための対数目盛コムジェネレーターの開発

    飴谷 充隆、黒川 悟

    無線充電装置や電磁調理器等の高周波利用装置の普及や、インバーターの高周波化に伴って、9 kHz〜30 MHzの電磁ノイズ源が増加しており、30 MHz以下の伝導/放射エミッション試験の必要性が高まっている。本研究では、これらの試験装置の日常点検あるいはラウンドロビン試験の仲介器として利用可能な、対数目盛コムジェネレーターを開発している。本装置はFPGAとDA Converterを用いたデジタル回路を利用しており、従来のアナログ式コムジェネレーターでは実現できない対数周波数軸にほぼ等間隔なスペクトルを安定に出力でき、9 kHz〜30 MHzまでの全帯域にわたり周波数特性がフラットなコムを発生することが可能である。

  • 近接イミュニティ試験用電界分布測定

    She Yuanfeng、廣瀬 雅信、黒川 悟

    携帯端末が発する強い電波が周辺の電子機器や人体に影響を与えることが懸念されている。端末周辺の電界強度を模擬する近接イミュニティ試験が行われており、その国際標準化も進められている。そこで、近接イミュニティ試験に用いる放射アンテナ近傍の電界を、5 mm角程度の非常にコンパクトな光電界センサーを用いて測定する技術を開発している。小型センサーを用いることで、センサー自身の影響を低減させ、より正確な電界分布の測定を可能にする。

  • 光電界センサによる精密電界強度計測

    森岡 健浩、黒川 悟

    デバイスの省電力化や筐体の軽量化が進み、機器の外来電磁波に対する耐性の評価が重要となっている。強電界を機器に照射する試験における電界強度の測定には、三軸の市販電界センサが用いられているが、空間分解能や測定精度などが十分でない場合がある。そこで、標準電界により校正された光電界センサを用いて、20 MHz〜2 GHzの広帯域で高精度に測定する技術を開発した。本技術は、今後のEMC計測で必要となる、より高い空間分解能での測定を可能とした。

【物理計測標準研究部門 温度標準研究グループ】

  • 音響気体温度計(AGT)によるボルツマン定数測定

    ウィディアトモ・ジャヌアリウス、三澤 哲郎、山澤 一彰、狩野 祐也(工学計測標準研究部門 流体標準研究グループ)

    国際単位系(SI)における熱力学温度の単位であるケルビンの定義は、水の三重点温度による定義からボルツマン定数による定義へ改定が進んでいる。ボルツマン定数測定に向けて、擬球形の無酸素銅製共鳴器を用いた音響気体温度計(AGT)を開発した。水の三重点温度における音響共鳴および電磁波共振の観測から、アルゴンガス中の音速およびボルツマン定数を推定した。

  • スズ点セルの長期的安定性の評価

    ウィディアトモ・ジャヌアリウス、佐藤 公一、山澤 一彰

    抵抗温度計のための国家標準であるスズの凝固点(231.928℃)は、1990年国際温度目盛において定義定点として定められている。その実現に用いるスズ点セルの長期的安定性を評価するため、定点炉や実現手順を変えながら、複数のセルの相互比較を行った。その結果、一種類の実現方法を繰り返したところ、実現温度に系統的変化が見られたが、異なった実現方法を導入することで初期の値に復帰し、その後の変化も最小にできることが分かった。この変化の要因について検討を行った。

  • 1600 ℃以上の金属−炭素共晶点を用いた熱電対校正技術の開発

    小倉 秀樹、井土 正也、山澤 一彰

    1600 ℃以上での高温域ではガラス、半導体、セラミックスなどの素材産業等の分野で、製品の品質管理やエネルギー効率の向上のため熱電対を用いた高精度の温度測定が求められている。しかし、現在、産総研から供給されている熱電対による温度標準の上限は1554 ℃であるため、1600 ℃以上での熱電対による温度標準供給開始に向けて、熱電対校正用Rh-C共晶点(1657 ℃)、Ru-C共晶点(1953 ℃)実現装置の開発を進めている。

【物理計測標準研究部門 極限温度計測研究グループ】

  • 低温流体の安全・高効率な貯蔵・輸送のための音叉型水晶振動子を用いた低温圧力センサの開発

    中川 久司

    次世代エネルギーである水素や超伝導機器用寒剤などの低温流体の貯蔵・輸送には、十分な安全性と効率化が求められる。一方、現状では、安全性確保のため室温部の圧力センサなどにより流体圧力などを監視している。我々は、時計などの周波数基準であり、極低温下でも圧電効果により稼働する高Q値の音叉型水晶振動子(QTF)に注目した。QTFは共鳴周波数や半値幅の変化として、流体自身の粘性や密度変動すなわち圧力・温度変動を直接的に、高感度に捉える。高い安全性とより効率的な貯蔵・輸送のために低温流体の圧力分布などをその場測定可能なQTFを用いた圧力センサを開発している。

  • 低温度センサ評価の基準となる3He気体温度計の長期再現性の評価

    中野 享

    リニアモーターカー等の超伝導利用や燃料電池自動車等に用いられる水素の輸送では、その安全・品質管理から25 K以下での低温度計測が重要になってきている。産総研では、その温度計測の基準となる温度目盛を1990年国際温度目盛に従い3He気体温度計により実現するとともに、その温度目盛と任意の低温度センサを比較測定する温度センサ評価システムを開発している。基準となる温度目盛を作る3He気体温度計は、7年以上の長期間において、1 mKの不確かさの範囲内で再現した。このため、産総研での低温度センサの評価も、10 mKオーダーの不確かさで可能なことを確認した。

  • 標準用白金コバルト抵抗温度計のサーマルサイクルに対する安定性

    島崎 毅

    再生可能エネルギー導入量の増大、並びにエネルギー変換効率の向上が積極的に進められている。これらを背景に、水素社会の実現や超電導機器の普及に必要な極低温領域での精密な温度計測へのニーズが高まっている。対応する温度範囲では標準用温度計のひとつとして、白金コバルト抵抗温度計が使用される。これまで余り報告が無かった標準用白金コバルト抵抗温度計のサーマルサイクルに対する安定度について報告する。

  • 量子化ホール抵抗の普遍性の検証

    三澤 哲郎、福山 康弘(量子電気標準研究グループ)、岡崎 雄馬(量子電気標準研究グループ)、中村 秀司(量子電気標準研究グループ)、名坂 成昭(東京工業大学)、笹川 崇男(東京工業大学)、富永 淳二(ナノエレクトロニクス研究部門)、金子 晋久(量子電気標準研究グループ)

    量子化ホール抵抗の普遍性の検証として、これまで様々な2次元電子系における量子化ホール抵抗が相互比較され、差異のないこと が確認されてきた。普遍的な値を高い精度で示すことから、今日では量子化ホール抵抗は抵抗の一次標準に用いられている。しかし、近年発見されたト ポロジカル絶縁体においては、量子化ホール抵抗の測定が、十分な精度で行われていない。本発表では、量子化ホール抵抗の普遍性検証のため、トポロ ジカル絶縁体と既存の2次元電子系との間で、量子化ホール抵抗を高精度比較する方法について検討する。

  • 接触式表面温度計の校正技術の開発

    斉藤 郁彦、中野 享、丹波 純

    測定対象物に圧接させて使用する接触式表面温度計を、実際の使用状態と同様な条件で校正する方法として、一定温度に保持した金属ブロックに温度計を圧接させる方法がある。この校正では、温度計が金属ブロックに接している部分の温度の推定と、その不確かさ評価が重要になる。本研究では、150 ℃において金属ブロック内部の温度分布を高精度に測定し、接触面の温度を0.1 ℃以内の不確かさで評価することを可能とした。

【物理計測標準研究部門 応用熱計測研究グループ】

  • 合金の溶融反応に基づく高温温度履歴モニターの開発

    笹嶋 尚彦、山田 善郎

    SiCパワー半導体を製造する際の高温熱処理においては、温度分布の測定と制御が重要である。しかし、放射温度計による測定ではウェハ位置や測定窓の問題があり、一方、高温熱電対による測定では、熱電対の配線や測温接点による温度分布の乱れ等が問題になるため、正確な測定は難しい。そこで、熱処理装置内のウェハ面内の温度分布を評価するため、溶融合金と試料の表面状態の変化から到達温度を判断する温度履歴モニターを開発している。本研究では、共晶点技術を応用した試料を高温炉内で熱処理し、試料の表面や断面の状態を評価することにより、到達温度の違いを明らかにする。

  • カーボンナノチューブ熱放射源の実用化

    清水 祐公子、山田 善郎

    熱画像装置の利用が拡大し、10 µm帯放射温度計の校正の要望が強くなってきたが、国家標準である1.6 µm近赤外放射温度計から、10 µm帯へ波長展開するための技術が十分ではなかった。そこで、産総研では、カーボンナノチューブを利用した波長依存性のない黒体技術を開発し、10 µm帯放射温度計の校正技術を確立させた。さらに、波長依存性のない温度可変黒体炉の製品化も進めている。この炉を用いれば、ユーザー自ら波長展開が可能となる。

  • 放射率その場補正による表面温度分布の計測

    山口 祐、山田 善郎

    製鉄や半導体、自動車等の製造プロセスの温度制御や熱設計において、正確な温度分布の測定は、製品品質・歩留まり向上、省エネルギー対策のために極めて重要である。しかし、物体の表面状態・温度に依存する放射率の特定が困難であるため、実際のプロセスにおいて精密な温度分布測定を行うことは困難であった。そこで、2波長放射温度測定と反射率測定を組み合わせることにより、対象の放射率をリアルタイムに補正可能な手法を開発した。これにより、放射率分布と温度分布の同時測定が可能となり、例えば、塗装鋼板の熱処理における温度制御精度の向上や、溶接プロセスにおける最適条件の同定、パワーデバイス内の特定発熱部位の定量的観測などの応用が期待される。

  • 赤外放射率の高精度測定のための技術開発

    井邊 真俊

    新規材料・デバイスの開発のためには、放射温度測定や熱設計のために放射率は不可欠な情報である。しかし、放射率はその物体の表面形状や温度に依存し、測定のために検出する光の波長や偏光によっても変化するので、その測定は容易ではない。そこで,現在開発中の放射率の精密測定技術を紹介する。

  • CIPM/CCT高温定点プロジェクト

    山田 善郎、山口 祐

    金属-炭素共晶による高温定点を一次温度標準として活用するには国際的な合意されたそれらの温度値が必要がある。国際度量衡委員会(CIPM)測温諮問委員会(CCT)では、ワーキンググループ内の活動として選別された高温定点セルの熱力学温度値決定を目的とするプロジェクトHigh-Temperature Fixed Point Research Programmeを実施し、このほど測定が完了した。NMIJが中心的役割を果たした全体計画作成と定点セルの作成・選別やNMIJにおける熱力学温度測定の結果を中心に、プロジェクト全体について報告する。

【物理計測標準研究部門 光放射標準研究グループ】

  • 機械強度が高くかつ紫外放射耐性に優れたBaSO4拡散反射面の開発

    蔀 洋司、伊藤 忍((株)オプトコム)、徐 道源((株)オプトコム)、山田 基宏(豊橋技術科学大学)、福本 昌宏(豊橋技術科学大学)

    拡散反射面は、光学測定における基幹ツールであり、一例として、LED照明等の各種光源の評価に用いられる積分球での使用が挙げられる。従来型の硫酸バリウム(BaSO4)塗装面では、接触による破損、乾燥や基材の歪みによるひび割れ、光学特性の経年劣化などが問題となっている。そこで本研究では、BaSO4に最適化された新しい溶射プロセスを開発し、緻密かつ密着力の高いBaSO4溶射皮膜の形成を可能とした。これにより、従来型の塗装面に比べて、10倍以上の機械強度と50倍近い紫外放射耐性を持つBaSO4拡散反射面を実現した。

  • 新しい輝度評価用光源開発への取組

    神門 賢二

    ディスプレイの高精度化・多機能化が進んでおり、それに伴いディスプレイの輝度を計測する輝度計の高精度な校正が要求されている。しかし、輝度計を校正する従来の輝度標準光源は入手が困難、更には輝度レベル範囲、可搬性や安定性という点において問題があることが知られている。本研究発表では、産総研で開発を進めている、高機能光学素子やマイクロレンズ技術を利用した新しい輝度標準光源開発について報告する。

  • 極微弱LED光源による生物発光反応測定装置の精度管理

    丹羽 一樹

    ホタルなど生物発光反応を組み込んだ培養細胞は、化学物質の生体影響評価に利用でき、近年では創薬や化学物質安全性評価での応用が拡大している。ここでは薬効などの判定基準となる発光強度測定が重要であり、我々はこれまで光放射量の国家標準にトレーサブルな絶対計測技術の開発を行ってきた。本発表では極微弱LED光源を用いた発光測定装置の精度管理方法、並びに同光源の校正法の標準化(規格文書策定)について紹介する。

  • LEDの全光束評価のための新しい標準の開発

    中澤 由莉、神門 賢二、丹羽 一樹、座間 達也

    LEDは、前面のみに光が放射されるものが多いことから、球形光束計の壁面に光源を設置する2π幾何条件での全光束測定のニーズが高まっている。このため、2π幾何条件で使用できる分光全放射束標準が世界的に必要とされている。そこで、分光放射計を組み込み高精度な分光放射測定を可能にした配光測定装置を用いた測定・評価により、2π幾何条件用の分光全放射束標準の開発を行った。

【物理計測標準研究部門 レーザ放射標準研究グループ】

  • 単一光子によるバイオイメージング技術の開発

    福田 大治、中川 久司(極限温度計測研究グループ)、丹羽 一樹、小林 稜、田辺 稔、沼田 孝之、雨宮 邦招

    究極的な感度で光を検出する技術として、超伝導を用いた光子検出デバイスの開発を行っている。この技術をバイオイメージング等に応用すると、今まで観測できなかった微弱な光でも精密なイメージ画像を取得できる可能性がある。この単一光子バイオイメージングの実現に向け、本発表では、可視波長領域超伝導光検出デバイス及び超伝導素子を安定に動作させるための無冷媒希釈冷凍機の開発現況を報告する。

  • 精密レーザ加工に必要な高強度レーザのビームプロファイル評価技術の開発

    沼田 孝之、瀬渡 直樹(製造技術研究部門)、雨宮 邦招、田辺 稔、福田 大治

    3Dプリンタ等のレーザ加工技術において、加工精度の管理にはレーザ光のビームプロファイルの測定が不可欠である。しかし、加工用レーザに一般的な高次横モードのマルチモードビームに対するプロファイル評価法が確立されておらず、測定の定量化が進んでいない。そこで本研究では、これらのビームの測定に不可欠なイメージセンサ型ビームプロファイラの評価を行い、任意のビーム形状を正確かつ定量的に測定する技術の開発に取り組んでいる。

  • バイメタルMEMS熱量センサの開発と光放射計測への応用

    雨宮 邦招、福田 大治、沼田 孝之、田辺 稔

    サーモパイル等の熱量センサは、赤外線センサほか、幅広い用途があり、近年では検出光の微弱化に伴いセンサの高感度化が求められている。しかし、従来の薄膜サーモパイル方式では高感度と大面積化の両立が困難で、スループットが稼ぎ難い。そこで今回、バイメタルMEMSセンサ方式を検討したところ、少なくとも従来機と同等のノイズ性能が得られ、熱変位読出し系次第で大面積でもさらに高感度化しうることを確認した。本センサは、赤外線等の光放射計用途のほか、バイオ・化学検出用熱量センサにも応用可能と考えられる。

  • 表面プラズモンポーラリトン導波路を用いた光合分波器の試作〜光を用いた量子回路の実現に向けて

    小林 稜、渡部 謙一、沼田 孝之、行方 直人(日本大学)、井上 修一郎(日本大学)、福田 大治

    表面プラズモンポーラリトン(SPP: Surface Plasmon polariton)は金属と誘電体の界面を伝搬する電磁波である。光をnmスケールの領域に閉じ込めることが出来ることから、集積度の高い光量子回路への応用が期待されている。本研究では、SPPを用いた光量子回路を構築するための一構成要素として、SPP導波路による光合分波器(光カプラ)を開発している。長距離伝搬型SPPに適した導波路と光カプラを設計及び試作し、その特性について評価した。

  • シリコンフォトダイオードの応答非直線性の波長依存性の予測にむけた研究開発

    田辺 稔、雨宮 邦招、沼田 孝之、福田 大治

    シリコンフォトダイオード(Si-PD)は、広い波長域、10桁程度のパワー範囲まで計測可能であるため、光パワー検出器の一つとして広く利用されている。このような領域で精密光計測するためには、Si-PDが直線性を有することが理想であるが、個体によっては、長波長でμW 程度以上の領域で数%以上の非直線性を示すことがある。そこで、本研究では、精密な実測と理論解析を用いて、この非直線性を予測することに成功した。この手法は、様々なSi-PDに対しても簡易な方法で非直線性を補正できるため、精密光計測へ活用が期待できる。