国際単位系(SI)
国際単位系(SI:フランス語 Système international d’unités に由来)は、現在国際的に使用されている単位系であり、 科学技術の進展と共に進化してきた、合理的かつ実用的な単位系です。 そのルーツは18 世紀のフランスで生まれたメートル法に遡ります。 メートル法はその後 1875 年のメートル条約の成立を経て世界中に広まり、電磁気や化学の計量を取り込み、7つの定義定数および7つの基本単位を起点とする単位系に体系化され現在に至っています。
国際単位系という名称および略称SIは、1960年に開催された第11回国際度量衡総会(CGPM)の決議12にて採択され、接頭語、組立単位、以前から採用されていた補助単位を含む計量単位のまとまった規則の基礎が確立されました。 そして、1971年第14回CGPMの決議3では基本単位に物質量の単位 モル(mol) が追加され、7つの基本単位を起点とする単位系となりました。
2018年には、第26回CGPMの決議1にて7つの定義定数を起点とする単位系への改定が決議され、 翌年の2019年5月20日より、その決議が世界中で発効しました。 この改定により、SI の基本単位は全てキログラム原器のような人工物から解放され、普遍的な定数にもとづき定義されることになりました。 これにより、単位の実現方法への律速は無くなり、より優れた様々な原理や手法を用いた単位の実現(現示)が許容され、研究開発の促進につながっています。
2022年の第27回CGPMの決議3では、SI接頭語の範囲が 10±24 から 10±30 に拡張されるなど、現在も社会の変化に応じた進化を遂げています。 SI接頭語の範囲拡張に関してはこちらのページをご覧ください。
SIの7つの定義定数と基本単位
国際単位系(SI)では、7つの定義定数を起点として、7つの基本単位が表現され、それら基本単位を用いて組立単位が導かれます。 右に示すロゴは、国際度量衡局(BIPM)によるもので、それぞれの基本単位に対応する定義定数が表されています。
7つの定義定数は、下記の表のように定義されています。 これら7つの定義定数に不確かさはありません。
対応する基本単位 | 定義定数の説明 | 記号 | 定義値 |
---|---|---|---|
秒 (s) | セシウム 133 原子の摂動を受けない基底状態の 超微細構造遷移周波数 |
ΔνCs | 9 192 631 770 Hz |
メートル (m) | 真空中の光の速さ | c | 299 792 458 m/s |
キログラム (kg) | プランク定数 | h | 6.626 070 15 × 10−34 J s |
アンペア (A) | 電気素量 | e | 1.602 176 634 × 10−19 C |
ケルビン (K) | ボルツマン定数 | k | 1.380 649 × 10−23 J/K |
モル (mol) | アボガドロ定数 | NA | 6.022 140 76 × 1023 /mol |
カンデラ (cd) | 周波数 540 × 1012 Hz の単色放射の視感効果度 | Kcd | 683 lm/W |
図1
図1は、単位と定義定数間の関係を示しています。7つの各基本単位は、7つの普遍的な定義定数を用いて書き下すことができ、図1はその依存関係を視覚的に表しています。
例えば、秒(s)はセシウム 133 原子の超微細構造遷移周波数 ΔνCs のみから導かれます。
また、アンペア(A)は単位時間に通過した電子の個数から導かれますから、ΔνCs と e と関連付けられます。
すべての単位が、具体的な実現方法ではなく普遍的な定義定数を用いて表現されることにより、人工物に由来する変動から解放されるほか、より高精度な測定技術による単位の実現が可能となり、将来の技術的進歩を阻害することなく測定精度の向上が期待できます。
下記の数式は、それぞれの基本単位が、係数と定義定数のみによって表されることを示しています。
組立単位
上述の基本単位の組み合わせにより、多くの組立単位が得られます。 面積を表す m2 や、密度を表す kg/m3 、電流密度を表す A/m2 や物質量濃度を表す mol/m3、輝度を表す cd/m2など多岐にわたります。 それらの内、単位の使用頻度や歴史的な理由、また同じ次元をもつ他の組立単位との明確な区別をする目的で、固有の名称と独自の記号を持つに到った22個のSI組立単位を下記の表に示します。
量 | 単位の名称 | 単位記号及び基本単位による表現 | 他のSI単位も用いた表現 |
平面角 | ラジアン | rad = m/m | |
立体角 | ステラジアン | sr = m2/m2 | |
周波数 | ヘルツ | Hz = s−1 | |
力 | ニュートン | N = kg m s−2 | |
圧力、応力 | パスカル | Pa = kg m−1 s−2 | N/m2 |
エネルギー、仕事、熱量 | ジュール | J = kg m2 s−2 | N m |
仕事率、放射束 | ワット | W = kg m2 s−3 | J/s |
電荷 | クーロン | C = A s | |
電位差 | ボルト | V = kg m2 s−3 A−1 | W/A |
静電容量 | ファラド | F = kg−1 m−2 s4 A2 | C/V |
電気抵抗 | オーム | Ω = kg m2 s−3 A−2 | V/A |
コンダクタンス | ジーメンス | S = kg−1 m−2 s3 A2 | A/V |
磁束 | ウェーバ | Wb = kg m2 s−2 A−1 | V s |
磁束密度 | テスラ | T = kg s−2 A−1 | Wb/m2 |
インダクタンス | ヘンリー | H = kg m2 s−2 A−2 | Wb/A |
セルシウス温度 | セルシウス度 | °C = K | |
光束 | ルーメン | lm = cd sr (注) | cd sr |
照度 | ルクス | lx = cd sr m−2 (注) | lm/m2 |
放射性核種の放射能 | ベクレル | Bq = s−1 | |
吸収線量、カーマ | グレイ | Gy = m2 s−2 | J/kg |
線量当量 | シーベルト | Sv = m2 s−2 | J/kg |
酵素活性 | カタール | kat = mol s−1 |
平面角の単位ラジアン rad 及び立体角の単位ステラジアン sr は長らくSI補助単位として基本単位に準じるものとして位置づけられていましたが、 第20回CGPM(1995)で平面角や立体角を同じ次元の量(長さ又は面積)の比で表される無次元量に対する組立単位に与える固有の名称及びその独自の単位記号とすることが採択されました。 また、第21回CGPM(1999)では酵素活性の単位モル毎秒 mol/s を固有の名称カタールとその単位記号 kat とすることが採択されました。
セルシウス度 °C は、他の単位と異なる特徴を持っています。 他の組立単位が基本単位の乗除によって導かれるのに対して、熱力学温度 T のケルビン K による値とセルシウス温度 t のセルシウス度 °C による値は、 一定数 273.15 の差を持つように
t /°C = T /K - 273.15
として定義されているからです。 また温度差を表すときの単位は、 K と °C は全く同じ意味を持っています。
さらにこれらの単位を用いた組立単位(粘度の単位 パスカル秒 Pa s、力のモーメントの単位 ニュートンメートル N m など)もあり、多岐にわたります。 詳細は下記参考文献のSI単位に関するパンフレットやポスターをご覧ください。
SIに属さない単位
私たちが日常的に使用するリットルや、時間の分(min)などは、国際単位系(SI)には属していませんが、社会的・歴史的な観点から重要な単位であるため、SI単位と併用できる単位として、 SI文書(原本はこちら、 日本語訳はこちら)の4章に定義されています。 原子物理学及び天文学で用いる3個の単位も、SI単位との換算関係と共に下記の通り定義されています。
量 | 名称 | 記号 | SI単位による値 |
時間 | 分 | min | 1 min = 60 s |
時 | h | 1 h = 60 min = 3600 s | |
日 | d | 1 d = 24 h = 86 400 s | |
長さ | 天文単位 | au | 1 au = 149 597 870 700 m |
平面角および位相角 | 度 | ° | 1° = (π/180) rad |
分 | ′ | 1′ = (1/60)° = (π/10 800) rad | |
秒 | ″ | 1″ = (1/60)′ = (π/648 000) rad | |
面積 | ヘクタール | ha | 1 ha = 1 hm2 = 104 m2 |
体積 | リットル | l, L | 1 l = 1 L = 1 dm3 = 103 cm3 = 10−3 m3 |
質量 | トン | t | 1 t = 103 kg |
ダルトン | Da | 1 Da = 1.660 539 066 60 (50) × 10−27 kg | |
エネルギー | 電子ボルト | eV | 1 eV = 1.602 176 634 × 10−19 J |
比の対数 | ネーパ | Np | |
ベル | B | ||
デシベル | dB |
体積の単位リットルにはl とLの2つの記号が併用されています。これは、小文字のl と数字の1との混同を避けるためで、大文字のLは第16回CGPM (1979)で暫定的に導入されました。 ただ、単位は直立体で書く規則になっていますので、斜体(イタリック体)の ℓ は正しくありません。 しかしながら、単位記号のフォントに関する制限は定められていませんので、直立体の ℓ は間違いとは言えませんが、他の単位で筆記体を使用しないこととの統一性を考えると適切ではありません。
SI接頭語
k(キロ)、M(メガ)、G(ギガ)、m(ミリ)、μ(マイクロ)、n(ナノ)など、大きな量あるいは小さな量を端的に記述するために、10のべき乗を表し、SI単位と共に用いられるものをSI接頭語と呼びます。 2022年の第27回CGPMの決議3において、SI接頭語の範囲は 10±24 から 10±30 に拡張され、 現在では下記の24個が使用可能です。
第27回CGPMでのSI接頭語追加の詳細に関しては、こちらのページをご覧ください。
SI接頭語の名称と記号、十進数表記と制定年
名称 | 記号 | 指数表記 | 十進数表記 | 制定年 |
---|---|---|---|---|
クエタ(quetta) | Q | 1030 | 1 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 | 2022 |
ロナ(ronna) | R | 1027 | 1 000 000 000 000 000 000 000 000 000 | 2022 |
ヨタ(yotta) | Y | 1024 | 1 000 000 000 000 000 000 000 000 | 1991 |
ゼタ(zetta) | Z | 1021 | 1 000 000 000 000 000 000 000 | 1991 |
エクサ(exa) | E | 1018 | 1 000 000 000 000 000 000 | 1975 |
ペタ(peta) | P | 1015 | 1 000 000 000 000 000 | 1975 |
テラ(tera) | T | 1012 | 1 000 000 000 000 | 1960 |
ギガ(giga) | G | 109 | 1 000 000 000 | 1960 |
メガ(mega) | M | 106 | 1 000 000 | 1960 |
キロ(kilo) | k | 103 | 1 000 | 1960 |
ヘクト(hecto) | h | 102 | 100 | 1960 |
デカ(deca) | da | 101 | 10 | 1960 |
デシ(deci) | d | 10−1 | 0.1 | 1960 |
センチ(centi) | c | 10−2 | 0.01 | 1960 |
ミリ(milli) | m | 10−3 | 0.001 | 1960 |
マイクロ(micro) | µ | 10−6 | 0.000 001 | 1960 |
ナノ(nano) | n | 10−9 | 0.000 000 001 | 1960 |
ピコ(pico) | p | 10−12 | 0.000 000 000 001 | 1960 |
フェムト(femto) | f | 10−15 | 0.000 000 000 000 001 | 1964 |
アト(atto) | a | 10−18 | 0.000 000 000 000 000 001 | 1964 |
ゼプト(zepto) | z | 10−21 | 0.000 000 000 000 000 000 001 | 1991 |
ヨクト(yocto) | y | 10−24 | 0.000 000 000 000 000 000 000 001 | 1991 |
ロント(ronto) | r | 10−27 | 0.000 000 000 000 000 000 000 000 001 | 2022 |
クエクト(quecto) | q | 10−30 | 0.000 000 000 000 000 000 000 000 000 001 | 2022 |
単位の書き方
SI における単位の記述規則は、SI文書(原本はこちら、 日本語訳はこちら)の5章に記述されています。 また詳細な規則は国際規格 ISO 80000 や、日本産業規格 JIS Z 8000[量及び単位]に規定されています。 代表的なものを下記に示します。
- 量の記号は斜体(イタリック体)で、単位記号は直立体で記述する。(例: g = 9.806 65 m/s2)
- 数値と単位記号の間には半角スペースを挿入する。
- 単位記号の積は半角スペースもしくは中黒(·)で表す。(例: N m、N·m)
- 単位記号の商は、水平の線(分数)、斜線または負の指数で表す。(例: m/s、m s−1)
- 接頭語の記号は直立体とし、単位記号との間に間隙を置かずに表記する。
- 接頭語は1つだけを用い、 μμF や mmm 、 nkg のように2つ以上重ねてはならない。
-
接頭語付きの単位に指数が付されているときは、その指数は母体となる単位と接頭語の両方に累乗が掛かる。
(例: 1 cm3 = (10−2 m)3 = 10−6 m3、 1 μs−1 = (10−6 s)−1 = 106 s−1)
基礎物理定数
SI単位は定義定数から導かれることとなりましたが、依然として基礎物理定数を高精度に求めようとする取組みは世界中で行われています。 国際学術連合会議(ICSU)の科学技術データ委員会(CODATA : Committee on Data for Science and Technology) の基礎物理定数作業部会(Task Group on Fundamental Physical Constants)は論文発表された測定結果を基に数年おきに基礎物理定数の推奨値をまとめています。 下記の表は、2018年末までに報告された実験データから導かれた、“2018年CODATA推奨値”をまとめたものです。
2018年の調整による主な基礎物理定数の推奨値
定数 | 記号 | 推奨値(注) | 単位 | 相対標準 不確かさ (1σ) |
真空中の光の速さ | c | 299 792 458 | m s−1 | (定義値) |
万有引力定数 | G | 6.674 30(15) × 10−11 | m3 kg−1 s−2 | 2.2 × 10−5 |
プランク定数 | h | 6.626 070 15 × 10−34 | J s | (定義値) |
h / 2π | ℏ | 1.054 571 817・・・ × 10−34 | J s | (定義値) |
電気素量 | e | 1.602 176 634 × 10−19 | C | (定義値) |
磁気定数(真空の透磁率) | μ0 | 1.256 637 062 12(19) × 10−6 | N A−2 | 1.5 × 10−10 |
電気定数(真空の誘電率) | ε0 | 8.854 187 8128(13) × 10−12 | F m−1 | 1.5 × 10−10 |
ジョセフソン定数 | KJ | 483 597.848 4・・・ × 109 | Hz V−1 | (定義値) |
フォン・クリッツィング定数 | RK | 25 812.807 45・・・ | Ω | (定義値) |
磁束量子 | Φ0 | 2.067 833 848・・・ × 10−15 | Wb | (定義値) |
コンダクタンス量子 | G0 | 7.748 091 729・・・ × 10−5 | S | (定義値) |
電子の質量 | me | 9.109 383 7015(28) × 10−31 | kg | 3.0 × 10−10 |
陽子の質量 | mp | 1.672 621 923 69(51) × 10−27 | kg | 3.1 × 10−10 |
陽子-電子質量比 | mp / me | 1836.152 673 43(11) | 6.0 × 10−11 | |
微細構造定数 | α | 7.297 352 5693(11) × 10−3 | 1.5 × 10−10 | |
微細構造定数の逆数 | α−1 | 137.035 999 084(21) | 1.5 × 10−10 | |
リュードベリ周波数 | c R∞ | 3.289 841 960 2508(64) × 1015 | Hz | 1.9 × 10−12 |
ボルツマン定数 | k | 1.380 649 × 10−23 | J K−1 | (定義値) |
アボガドロ定数 | NA, L | 6.022 140 76 × 1023 | mol−1 | (定義値) |
気体定数 | R | 8.314 462 618・・・ | J mol−1 K−1 | (定義値) |
ファラデー定数 | F | 96 485.332 12・・・ | C mol−1 | (定義値) |
シュテファン-ボルツマン定数 | σ | 5.670 374 419・・・ × 10−8 | W m−2 K−4 | (定義値) |
詳細は、下記の論文をご覧ください。
Eite Tiesinga, Peter J. Mohr, David B. Newell, and Barry N. Taylor,
"CODATA recommended values of the fundamental physical constants: 2018",
Rev. Mod. Phys. 93, 025010, June 2021.
J. Phys. Chem. Ref. Data 50, 033105, September 2021.
参考文献
国際単位系(SI)に関する参考文献です。
上記本文中でも何度か紹介しましたが、国際度量衡局(BIPM)によるSI Brochure第9版(フランス語及び英語)に、
定義定数や基本単位、組立単位や接頭語および記述のルールなどに関して記載されています。
NMIJが作成したSI文書第9版(2019) 日本語版も是非ご活用ください。
また、SI単位に関してまとめた、分かりやすいパンフレットやポスターも用意しています。 詳細はパンフレットのページをご覧ください。
2019年5月20日発効のSI改訂に関するリンク集
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定義改定が決議された第26回国際度量衡総会(CGPM)に関するホームページ(英語)
https://www.bipm.org/en/committees/cg/cgpm/26-2018 -
国際度量衡局(BIPM)の改定後の国際単位系に関する解説(英語)
https://www.bipm.org/en/measurement-units -
国際度量衡局(BIPM)YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/thebipm -
SI定義変更の詳細について(PTB “Annalen der Physik” 特別号 “The Revised SI: Fundamental Constants, Basic Physics and Units”)
https://onlinelibrary.wiley.com/page/journal/15213889/homepage/the_revised_si.html -
質量の単位「キログラム」の新たな基準となるプランク定数の決定に貢献(2017年10月24日)
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2017/pr20171024/pr20171024.html -
国際単位系(SI)kg再定義の舞台裏 (高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 物構研News No.26 (2018.11))
https://www2.kek.jp/imss/news/IMSS-News/news-no26/