物質量:モル(mol)

モルの定義

モル(記号は mol)は、要素粒子(原子、分子、イオン、電子、その他の粒子、あるいは、粒子の集合体)の物質量の単位として定義されており、その大きさは、単位 mol–1 で表したときのアボガドロ定数NA の値を厳密に6.022 140 76 × 1023 として決められています。
この定義は、NA = 6.022 140 76 × 1023 mol–1 という厳密な関係を示しており、定義定数NA を用いて、モルは次式のように表現することができます。

モルの式

つまりこの定義は、モルとは、特定された要素粒子を6.022 140 76 × 1023 含んだ系の物質量であることを意味しています。

化学計測において、モルにトレーサブルな結果を与えうる計測方法を、一次標準測定法と呼んでいます。一次標準測定法とは、「最高の質を有し、その操作が完全に記述され、理解され、かつ不確かさがSIを用いて完全に記述される方法で、その量については他の標準を参照せずに測定結果を標準として使用できる方法」です。国際的に認められている一次標準直接法には、電量分析法、重量分析法、凝固点降下法があり、また同位体希釈質量分析法、滴定法が準じています。なお当所では、これらの一次標準測定法の開発や高度化に取り組むとともに、他国の計量標準機関との国際比較を実施することで、化学計測の国際同等性の確保に努めています。
ここでは、代表的な一次標準測定法の原理・応用例について解説します。

電量滴定法(電量分析法)

ファラデーの電気分解の法則により、電極反応で消費された電気量を正確に測定すれば、電極反応で生成した化学種の物質量を正確に決定することができます。この原理に基づいて定量分析を行う電量分析法のうち、滴定剤に相当する物質を電極反応で発生させ、それによって目的成分を滴定する分析法を電量滴定法と呼びます。電量滴定法では、電極反応を制御しやすく、定電流の条件下で電極反応を行うことができるため、極めて精密な定量分析が可能です。また、この方法は電流と時間の測定から、電気素量とアボガドロ数を基礎として物質量を絶対的に決定できるため、SIにトレーサブルな特性値を持つ標準物質の値付けに利用されています。例えば、水を電気的に還元すると、還元に要した電気量に相当する物質量の水酸化物イオンが発生します。この水酸化物イオンを用いて酸を中和すれば、酸の物質量をSIトレーサブルに決定することが可能です。応用例として、容量分析の基準として用いられる高純度試薬の純度測定、金属・非金属イオン標準液の原料となる高純度試薬の純度測定、pHの一次測定法(ハーンドセル法)で基準となる塩酸の濃度測定、電気伝導率標準液の原料となる塩化カリウムの純度評価などで用いられています。

電量滴定装置
当所で開発した電量滴定装置

凝固点降下法

凝固点降下法は、試料(高純度物質)に含まれる不純物が主成分の凝固点または融点を下げる効果を利用して、試料中の不純物の割合(物質量分率)を求める方法です。試料に複数の種類の不純物が含まれていても、不純物の種類によらず、それらの総物質量に応じて主成分の凝固点(融点)が降下します。そのため、純度および濃度の標準を用いることなく、不純物の総物質量分率を評価できることから一次標準測定法の一つとされています。右は当所で開発した断熱型熱量計で、温度と熱量の正確な測定から融点降下度を求めることにより、高純度物質の純度を評価することができます。この装置あるいは示差走査熱量計(DSC)を用いて、環境計測等に用いられる測定対象物質(標準液や標準ガスの成分物質)の基準(トレーサビリティソース)となる高純度有機標準物質の純度を凝固点降下法により評価しています。

断熱型熱量計
当所で開発した断熱型熱量計

同位体希釈質量分析法

同位体希釈質量分析法は、測定対象物と同じ元素もしくは同じ構造の化合物で、この元素もしくは化合物の同位体組成とは異なる同位体組成を有するもの(濃縮同位体、スパイク、同位体標識などとされる)を一定既知量添加し、その添加前後の同位体比変化を質量分析計で測定することで、測定対象物の物質量を決定する方法です。元素の安定同位体を利用することで無機分析に利用できるほか、化合物の一部の元素を濃縮同位体に置換したものを用いることで有機化合物、高分子化合物などの幅広い分野においてSIにトレーサブルな定量分析が可能です。

同位体希釈質量分析法の原理イメージ

モルの定義
モル(記号は mol)は、物質量のSI単位であり、1モルには、厳密に6.022 140 76 × 1023 の要素粒子が含まれる。この数は、アボガドロ定数NA を単位 mol–1 で表したときの数値であり、アボガドロ数と呼ばれる。系の物質量(記号は n)は、特定された要素粒子の数の尺度である。要素粒子は、原子、分子、イオン、電子、その他の粒子、あるいは、粒子の集合体のいずれであってもよい。(第26回CGPM, 2018)