熱物性に関する解説
熱伝導率/熱拡散率
熱伝導/熱拡散率測定法
熱伝導率、熱拡散率は、試料を加熱して、その時の温度応答を観測することで測定される。測定方法には、様々な試料の加熱方法、加熱に対する試料の温度応答の検知方法、試料の形状の組合せがある。大きくは、加熱の時間変化の仕方で、定常法と非定常法の2つに分類される。以下に、いくつかを紹介する。
◇ 定常熱流法
◇ パルス加熱法(フラッシュ法)
◇ 周期加熱法
◇ ステップ加熱法
定常熱流法
断熱真空下において、試料の一方向へ大きさが既知の熱流を与えて定常的な温度勾配が生じた状態において、熱流の方向に沿った試料の2点間の距離と温度差を測定することで熱伝導率を得る方法である。与える熱流、距離、温度差が正確に求められる場合は、絶対測定法である。熱流を求めることが難しい場合は、同じ熱流を与えた時の温度勾配を熱伝導率が既知の試料のそれと比較して熱流を推定する比較法で熱伝導率を求めることができる。測定装置の構成としては、ヒーターや細線によるジュール加熱で熱流を与え、熱電対などの温度センサで温度勾配を測定するものが多い。大型試料に十分な温度勾配を生じさせて測定すると、測定がしやすく得られた結果の信頼性も高いことから、断熱材などの低熱伝導材料の測定に用いられることが多い。また、試料に熱流を与えてから定常状態に至るまでに時間を要するため、長時間測定となる場合が多い。
定常法の一種である保護熱板法(Guarded Hot Plate法)は、断熱材の標準的測定法として利用されており、規格も制定されている。保護熱板で熱損失を補償することで、試料内に理想状態を実現して、信頼性の高い測定結果を得ることができる。
(*熱伝導率/熱拡散率とは?)を参照
パルス加熱法(フラッシュ法)
パルス加熱法は、非定常法による熱拡散率測定方法の一つである。断熱真空下におかれた厚さが既知で均一な平板試料の片面にパルス的に熱エネルギーを与えて加熱すると、その熱エネルギーは試料全体へ拡散して最終的に試料温度は均一になる。このとき、熱エネルギーが加熱される試料表面の全域でエネルギー密度が均一な状態で与えられると、熱流は平板試料の厚さ方向に1次元的に拡散する。この熱拡散現象を試料裏面の温度の時間変化として観測し、どのくらい速く上昇するかを調べることで熱拡散率を求める手法である。パルス加熱には、パルスレーザやフラッシュランプによる光加熱が用いられることが多い。試料裏面の温度応答は赤外放射計による観測が一般的となっており、非接触・短時間の実用的な測定方法として広く普及しているとともに、現象が簡潔で信頼性評価がしやすいため、標準測定方法としても採用されている。典型的な試料形状は、直径5 mm~12.7 mm程度で厚さ1 mm~4 mm程度の円板である。以下に測定装置の例を示す。
(*熱伝導率/熱拡散率とは?)を参照
周期加熱法
周期加熱法も、非定常法による熱拡散率測定方法の一つである。断熱真空下におかれた厚さが既知で均一な平板試料の片面に強度を周期的に変調させた熱エネルギーを与えて加熱すると、その熱エネルギーは試料全体へ拡散していくが、熱エネルギーが加熱される試料表面の全域でエネルギー密度が均一な状態で与えられる場合では、熱流は平板試料の厚さ方向に1次元的に拡散し、試料裏面の温度は加熱と同じ周期で変動する。このとき、試料の厚さ方向の熱拡散率は、加熱の周波数、加熱と裏面温度変動の位相差、試料厚さから求められる。周期加熱には、ヒーターによるジュール加熱やCWレーザによる光加熱が用いられる。上記では、平板試料の面を加熱して厚さ方向の熱拡散率を測定する例で説明したが、平板試料の面内の1点を加熱して離れた位置の温度変動を観測して面内方向の熱拡散率を得ることもできる。また、点加熱や線加熱をしたり、温度変動の観測には熱電対や赤外放射計など様々な温度センサーが用いられ、周期加熱法は多様である。
(*熱伝導率/熱拡散率とは?)を参照
ステップ加熱法
ステップ加熱法も、非定常法による熱拡散率測定方法の一つである。断熱真空下におかれた厚さが既知で均一な平板試料のある位置を一定強度で一定時間加熱するとき、試料の加熱位置での温度変化を加熱開始から定常状態に至る前までの時間帯で測定した結果から、試料の熱伝導率を求める方法である。加熱は細線(ヒーター線)によるジュール加熱、温度変化の観測は熱電対による測定やヒーター線の抵抗変化による検知でなされることが多い。