計測技術

■先端構造計測技術

 位相コントラストX線CTによる3次元構造評価技術
(材料の3次元構造の定量解析:孔の体積分率、孔径、経路長、密度の不均一性、内部の異物・生成物 等)
 材料の物性制御や新たな材料のデザインのため、材料の構造・形態と物性の相関の理解が求められています。このためには、3次元構造の定量解析が重要で、3次元イメージング手法に対する計測ニーズが高まっています。
 X線CT法は代表的な3次元イメージング手法の一つで、近年の産業用マイクロフォーカスX線CT装置の普及もあり、材料やデバイスの非破壊観察に広く使われるようになっています。私たちは、一般的な吸収コントラスト型X線CT法よりも軽元素材料に対して数百倍以上も高感度な測定が可能な「位相コントラスト型X線CT法」を用い、温度制御条件下での測定が可能な計測手法の開発を行っています。-100℃~+100℃の温度域での試料の温度制御を可能にすることにより、材料が機能を発現する条件下でのその場観察を行います。
 位相コントラスト型X線CTの高感度測定により、材料の内部構造変化のみでなく、不均一性(密度)の変化や相変化など、従来のイメージ法では捉えることができない現象の計測が可能になりました。本技術を用い、多孔質材料・有機材料・食品等のその場観察測定を実施しています。
 今後、3次元構造の高精度定量解析により、材料の3次元構造と物性の相関関係にもとづく物性予測への展開を目指しています。

X線CT法における吸収コントラスト(一般的手法)と位相コントラストの違い

水中にある各種樹脂のX線CT画像の比較。吸収コントラストX線CTでは捉えられないわずかな密度の違いも、位相コントラストX線CTは観察が可能(PP:ポリプロピレン密度 0.91 g cm-3, Nylon:ポリアミド密度 1.1 g cm-3, PEEK:ポリエーテルエーテルケトン密度 1.3 g cm-3)

カーボン紙中の炭素繊維の3次元構造の可視化例

 計算科学を併用した粉末X線構造解析
 粉末X線回折実験は、単結晶が得られない物質・材料の相の判別や既知結晶構造の格子定数や原子座標の最適化などに広く利用されています。その測定の簡便さの反面、結晶構造が複雑であったり未知の物質の場合には、構造解析はとても難しくなります。さらに、水素やリチウムなどの軽元素の位置、ディスオーダーを含む系、高・低温や高圧環境のために観測される回折角度に制限のある測定データ、数マイクロメートル程度の微小試料などにおいては、構造解析に多くの誤差が生じるだけでなく、解析された構造に間違いが生じることもあります。
 私たちのグループでは、このような粉末構造解析の弱点を補うために、DFT計算を併用した結晶構造のモデリングを行っています。これにより水素やリチウムなどの軽元素の位置、原子間距離、結合角のチェックに加え、MDシミュレーションによる構造安定性、相転移の確認、振動スペクトルや物性値の予測、実験で得られた物性値との比較などを行い、解いた構造モデルの信頼性を検証することができます。結晶格子内の原子数が1000個以上の大きな系については、力場計算を用いた構造解析も行います。 特に、従来は解析が困難であったケースを数多く取り扱うとともに、様々な新規結晶構造を解明しています。

計算科学を併用した粉末X線構造解析を用いて、明らかにした新規結晶構造の例

 固体NMRとNMR感度の高度化
 固体NMRは、固体試料を対象とし、原子が持つ核スピンをプローブとして、局所構造およびダイナミクスを原子・分子レベルで測定する分光法です。核スピンをもつ物質に磁場中でラジオ波を照射すると、ラジオ波の吸収が起こります。この現象を利用して、固体中における原子や分子の構造や運動を調べることができます。例えば、測定核スピン周辺の平均的エネルギー(化学シフト)の測定から、分子・原子周辺の結合状態が解析できます。また、スペクトルパターンや緩和時間測定から、反応や拡散のダイナミクスの評価に利用できます。
 固体試料を静磁場に対して54.7°傾いた方向を軸にして高速回転(0~60,000回転/sec)するマジック角回転法により、双極子-双極子相互作用などのNMR共鳴線の広幅化の原因が取り除かれ、高分解能なNMR測定を可能にしています。これにより、溶媒に溶かすと構造変化してしまう物質(高分子・ゴム・蛋白質etc.)でもそのままの状態で分析が可能、気体・固体・半固体試料の分子結合状態の解析、 固体内の原子・イオン・分子の運動の非破壊・非接触での観察ができるといった特徴があります。なお、磁性体を含む試料の測定はやや難しいことに注意が必要です。

 固体NMRの分析活用例
ー発光性分子の構造解析(13C CP/MAS NMR)
ー触媒の酸塩基特性評価 (31P MAS NMR)
ー有機・無機ハイブリッド材料の表面解析
ー金属水素化物の構造解析評価、水素貯蔵材料における水素のサイトと拡散挙動
ー無機有機ハイブリッド材料における界面の構造、可逆的な溶解固化反応の構造変化を測定
ー電池材料の伝導メカニズムを評価、イオン伝導材料におけるイオン拡散とそのメカニズム
ー食肉の固体脂含量を評価

マジック角での回転により、双極子-双極子相互作用など、核が固定されていることによるNMR共鳴線の広幅化の原因が取り除かれ、先鋭なスペクトルが得られる。

TMPOを導入した、ボールミル処理後のBNの31P MAS NMRスペクトル

Coming soon
 単結晶精密原子構造解析技術の高度化


■先端物性計測技術

 薄膜熱物性計測技術
 薄膜材料の厚さ方向の熱拡散率の絶対計測技術であるパルス光加熱サーモリフレクタンス法を開発しています。(本手法による標準物質の供給は熱物性標準研究グループで行っています)
 薄膜試料の片面をピコ秒~ナノ秒のパルスレーザー光で瞬間的に加熱し、加熱面からの熱拡散に応じた温度変化の様子(温度履歴曲線)を、別の測温パルスレーザー光を用いて測定します。このとき温度変化の検出は、試料膜に施した金属膜の反射率の温度係数を利用(サーモリフレクタンス法)します。反射率の変化は電子状態に対応するため、実質的に応答速度を無視することができ、放射温度計や熱電対等では捉えることができない超高速の温度変化測定を非接触で行うことができます。また、加熱と測温を同一箇所で行えば加熱面から薄膜の深さ方向に熱拡散が進む様子を、同じく膜厚を挟んで対向する位置とすれば薄膜層や界面を通過する熱拡散が観察できます。注意すべき点として、サーモリフレクタンスは、一般的に0.01%/K以下の微小な反射率の温度係数を用いるため、試料温度の絶対値は不明となります。熱拡散率(単位はm^2 s^-1)は絶対測定が可能であり、熱浸透率(同J m^-2 s^-0.5 K^-1)、熱伝導率(同W m^-1 K^-1)、層間の界面熱抵抗(同単位はm^2 K^ -1 W^-1)を求める場合には、検出用の金属膜や基板の熱物性値を既知とした熱伝導方程式による解析を用います。

パルス光加熱サーモリフレクタンス法

当グループの装置例(ピコ秒パルスレーザによるパルス光加熱サーモリフレクタンス法)

 本手法は、対象表面が良好な光学反射面である必要がありますが、膜厚として数nmの極薄膜から数μmのコーティング類まで、物質として金属や無機、高分子まで幅広い材料に対して適用できる方法です。なお、本名称は日本工業標準規格JIS R1689で定められており、一般には時間分解サーモリフレクタンス法(Time-domain thermoreflectance method)も同一技術を指します。

 計算科学による固体材料の熱物性
 薄膜のようなナノ材料においては、熱輸送キャリア(=フォノン)の平均自由行程が試料サイズによって制限されることで、バルクと異なる熱物性を示します。すなわちナノ材料における熱輸送では、熱伝導の素過程であるフォノンの挙動を考慮した理解が必要となります。私たちは、フォノンボルツマン輸送方程式を支配式とした熱応答シミュレーションを活用し、材料構造と物性発現に関する研究を進めています。

フォノンボルツマン熱輸送方程式(上)と物質中のフォノン粒子による熱エネルギー輸送を計算する熱応答シミュレーション体系(左下)100nmから900nmの寸法の物質に対しインパルス加熱を行った際の表面の熱応答シミュレーション(右下)

フォノン熱輸送計算に必要なフォノン周波数ごとのフォノン特性(群速度、散乱緩和時間)は、結晶構造をスタートとして、第1原理計算による構造緩和と力定数計算(2階、3階)を経て、線形化フォノンボルツマン輸送方程式を解くことで得られます。つまり、経験的パラメタを用いずに、結晶構造情報から前述の熱応答信号シミュレーションを実現しています。
 これまでに、酸化亜鉛、サファイア、ダイヤモンド、シリコンなどの絶縁体や半導体を中心に解析の実績があります。将来は、パルス光加熱サーモリフレクタンス法のように実在のナノ材料から得られる熱応答信号とフォノン熱輸送シミュレーションを比較可能とすることで、実材料におけるフォノン散乱の評価につなげていく予定です。

結晶構造をスタートとするフォノン特性の計算手順

フォノン特性の計算例(分散関係、フォノン分枝毎の群速度と散乱緩和時間

 高圧液体の物性計測技術
 ギアなどの機器の摺動部、プレスなど高圧力機器、コモンレール式ディーゼルエンジンなどにおいて、数百MPaの高圧力下で使用される液体(潤滑油、圧力作動油、バイオディーゼル燃料等)を評価し開発するうえで 高圧における粘性や密度などの物性が重要です。当グループでは、センサー部分が安価かつ簡便で迅速な計測が可能な水晶振動子法を用いて、インピーダンス分光により高圧液体中における水晶振動子の共振スペクトル(コンダクタンス・スペクトル)を測定する高圧粘性計測技術を開発しました。共振周波数のシフト量やピーク幅の変化量から液体粘度が求められます。ピストンシリンダー型圧力発生装置との組み合わせることにより、300 MPaまでの液体粘度の圧力依存性を得ることに成功しています。また、ここで用いたインピーダンス分光法は、固体電解質のイオン伝導度の圧力依存性測定などにも適用でき、様々な高圧物性計測手法として有効な手法です。
 これまでに開発した高圧実験技術について以下のページにまとめています。ようこそ 高圧科学の世界へ

水晶振動子法による高圧液体用粘性センサー

水晶振動子の共振ピーク(左図)と粘度の圧力依存性測定結果(右図)



■計量に関わる標準化活動への寄与
・ISOTC229の運営貢献
・JIS、ISO、VAMAS等の標準化活動への貢献