MINERAL RESOURCES RESEARCH GROUP

グループ長挨拶

   ・・・脱炭素社会実現のための鉱物資源の安定供給のために・・・

  鉱物資源研究グループ長の星野美保子と申します。当グループは2001年の産総研発足時からのグループで今年21周年を迎えます。私が入所したのは2009年ですが、2010年の中国のレアアース輸出規制に端をなす「レアアース危機」が大きな契機となり、レアメタル研究設備の整備が急ピッチで進められました。それまでは資源探査や評価のための地質調査や鉱物資源情報整備がミッションの中心でしたが、レアメタル鉱石の評価のための分析技術や選鉱技術の開発のために、現在、鉱床学、鉱物学、地球化学、リモートセンシング、選鉱学、GISの多様な専門性を持つ職員8名(兼務とPD含む)および研究を支援するテクニカルスタッフ6名が所属しています。
  現代の工業製品には、レアアースをはじめとする多種多様な元素の供給が不可欠です。資源開発という言葉からは環境破壊などのネガティブな側面が想起されますが、1980年代にレアアース磁石であるネオジム磁石が開発され、ハイブリット自動車など環境への負荷の少ない製品への用途が拡大されるようになり、製品の小型化や省エネ化が進みました。レアアースがグリーンメタルと呼ばれる所以はここにあります。レアアース危機の後、特にネオジム磁石に必須のジスプロシウムに至っては、2011年の8月に2800US$/kgを記録しました。これは、当時の価格で貴金属である銀の2倍以上であり、日本の磁石メーカーをはじめとするレアアース関連企業は窮地に立たされました。2013年以降は、ジスプロシウムを含めて、上述の騒動以前の価格に下がりましたが、SDGsの達成や脱炭素社会の実現に向けてレアアースだけでなくコバルトやリチウムなどのレアメタルの需要の増大が見込まれており、2011年のような騒動がまたいつ起こるとも限らず、自国として鉱物資源を安定的に確保するための戦略が求められています。
  当グループは、国立の研究所で唯一の鉱物資源研究を行う研究グループであり、2005年にレアアースの語がミッションに加えられて以降、世界中のレアアース鉱床の探査およびポテンシャル評価や鉱床の成因研究を行ってきた実績があります。また、鉱物資源の研究を進める上で、鉱石や鉱物の高精度の分析や選鉱プロセス評価は不可欠であり、レーザーアブレーションICP-MSによる微量元素マッピング技術や鉱物粒子解析装置を応用した粉砕状況の評価法の開発などを積極的に行っています。これらは、材料や医療分野等での応用も期待できますので、鉱物資源にとどまらず企業などの要請に応じて用途の拡大を図っていきます。さらに、既存の鉱山から産出する鉱石から副産物としてレアメタルを回収するための技術開発にも取り組んでいます。長年、政府・鉱山業界等の要請に基づき、アジア地域の地質図・鉱物資源図、鉱物資源データベースなどの作成に取り組んできましたが、近年の金価格の上昇を受けて、国内の金鉱床の探査が活発化しており、国内の鉱物資源に係る情報整備も重要なミッションとして取り組んでいます。新たな鉱物資源の危機を未然に防ぐために、関係機関や企業等との対話を密に行い、多様な専門性を持つ職員が一丸となりより一層の研究力を向上することが当グループの使命だと考えています。今後ともご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。