産総研 東北 Newsletter
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研究者紹介
   
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 本内容は研究者と対談形式をとり、研究内容と個人を紹介しています。
 今回はナノポーラス材料チーム研究員松浦俊一さんにインタビューしました。松浦さんは平成18年より当センターで研究を始め、現在は主に酵素マイクロリアクターの開発に取り組んでいます。なお、本文中の研究キーワードは3ページの研究キーワードで解説しております。

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bar 現在の研究を始めたきっかけと研究内容についてご紹介ください。
 私は、高専生のときに産業用酵素を扱ったリアクターの研究をしていました。大学では一分子観察研究キーワードとマニピュレーション技術研究キーワードによりDNA一分子レベルでの酵素反応を解析する研究を行い、ポスドク時代には遺伝子操作技術によって酵素・タンパク質を作る手法を学びました。その時に、現在の無機生体機能集積チームのつくば分室に、バイオの研究チームを立ち上げようという話になりまして、外来研究員として実験室の立ち上げに携わったのがきっかけです。そこでリフォールディングという、不活した酵素を無機の材料に固定化させて再活性化する研究に携わりました。
 現在のチームでは、2〜20nmぐらいの規則的な孔の空いているメソポーラスシリカ研究キーワードという無機の材料に酵素を複合化する研究をしています。酵素を細孔内にカプセル化することで安定性を向上させることができるのですが、私は更に、その細孔の中での酵素やタンパク質の挙動解析と、実際に産業用で使われている酵素をマイクロ流路に固定させて反応活性を向上させる酵素マイクロリアクター研究キーワードの開発を行っています。通常のバッチ式反応研究キーワードですと、遠心分離をして生成物を回収する、分離と回収の操作が必要なのですが、流通式ですとその操作を省略でき、さらに反応を精密に制御できる点がマイクロリアクターの良いところです。
bar もともと生物やタンパクに興味があったのですか?
そうですね。大学生のときに生体分子であるDNAを顕微鏡で直接見ることができたんですね。それを見た時に、衝撃を受けました。直径2nmの紐状のものが動いている状態が見えたんです。また、一分子レベルの酵素の挙動が追えたのでかなりの衝撃と感動でした。それから大いに興味を持ちました。

bar 分子の1つを見るということはなかなかできませんよね。
 細胞の中には数千種類の酵素がコンパクトに収納されていて、その中で高効率な物質生産が行われているんです。その仕組みを人工的にうまく模倣できないかなと現在の研究に至っています。

bar 酵素の寿命はどれほどなのですか?
 酵素、タンパク質も多様性がありますので、ものによって全然違います。2006年の一般公開で、皆さんにご覧いただこうと作った緑色の蛍光タンパク質があるのですが、溶液のまま4年くらい経ちました。通常は−80℃で保存しなければならないのですが、その安定性を見るために2体のうち1体を冷蔵庫の中に放置していたところ、構造が壊れ透明になってしまいました。メソポーラスシリカの細孔内に固定化させて保存していたもう1体は、蛍光を保ったままで立体構造を保持していました。現在、メソポーラスシリカの粉体を担持した酵素マイクロリアクターの開発をしているのですが、この粉体自体が酵素を安定に保存する容器としても使えるのではないかと期待しています。

bar メソポーラスシリカは担持するものだけではなく、それ自体が容器として使えるということですね。

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 2008年に下村博士がノーベル化学賞を受賞したことで有名になったのですが、1960年代に博士がオワンクラゲから、光るタンパク質である緑色蛍光タンパク質GFPを見つけたんです。 image

しかし、そのGFPは市販されていないので、遺伝子組み換えの操作をして、大腸菌に作らせて精製したものがこちらです。
 紫外線など特定の波長の光を当てると緑色の蛍光を出しますが、可視光でもこれだけ光っています。
 これまで、酵素がメソポーラスシリカの細孔の中に本当に入っているのか、どれくらいの距離で固定化されているのかを調べる手段がなかったんです。それを調べるために先ほどのGFPと、もう1つイソギンチャクの赤色の蛍光タンパク質を作りました。通常は溶液中で混ぜても、青い光を当てると緑の蛍光しか出ないのですが、固定化しそれぞれのタンパク質の距離が近づいて10nm以内に近接しますとエネルギーが移動して蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)研究キーワードという現象が見られるのではないかと思ったのです。実際に溶液中では何も起きないのですが、細孔に固定化するとFRETのシグナルが得られました。これによって蛍光タンパク質の距離が近づき、高密度集積ができていることが明らかになりました。
 次に、発光酵素であるルシフェラーゼとGFPを同時に固定化させたら、化学反応でGFP由来の緑の蛍光が取り出せました。通常は光を当てないと光らないものが、化学反応でエネルギー移動が進行して緑の蛍光が出る。これも距離が近づいたことを示しています。これがオワンクラゲに見られるBRET(生物発光共鳴エネルギー移動)研究キーワードという現象です。まさに生体の機能を模倣したような現象を提示することができました。これを何かに使えないかと思いまして、現在、産総研関西センターと、異種の酵素を複合化したバイオセンサーの開発に着手したところです。レーザーで励起する必要がないので、バッググラウンドがおさえられ、S/N比の高い高感度検出が可能になります。このような研究をしていまして、更に酵素とメソポーラスシリカの複合体をマイクロチップ上に固定化させて酵素センサーやリアクターにしようと考えています。

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bar 次のステップとしては
 ここ数年間は、中性脂肪を分解する酵素やアミノ酸の合成酵素をモデルとした酵素マイクロリアクターの開発を行っていますが、ここでは1種類の酵素を固定化しています。実用化されている酵素リアクターもほとんどのものが1種類の酵素を利用しています。


できれば、生体模倣ではないが、複数の酵素を並べて配列化をして、機能を持たせる研究を行いたいと思います。例えば医薬品中間体として有用である光学活性アルコールの中には、2種類の酵素を連動してやらないと合成できないものがあります。できればこのような反応をナノ空孔のチャネル研究キーワードの中においてやりたいと考えています。光エネルギーの場合も距離を近づけることで、エネルギーの移動距離が短くなり反応が効率良く進むケースがおきている。これを分子とか熱に置き換えても同じように移動距離が短くなるはずなんですね。多段階酵素反応をシンプル化して高速化する。そこに持っていきたいと思います。
 AとBの産業用酵素を混合すると、それらの相性が悪いと互いにくっついて凝集し沈殿してしまいますが、メソポーラスシリカの細孔内に入れると、凝集体の形成を抑制して高密度に固定化できます。それで反応がうまく進めば、反応の高速化に繋がると思います。

bar 今後、どのような活動・研究を行っていきたいですか。
 バッチ式の大量生産向けの話になりますが、酵素利用で注目されているのが、セルロース系のバイオマスからバイオ燃料を作ることです。その過程でセルロースを酵素で分解してグルコースを作る過程があり、その反応にはセルラーゼという酵素を使います。しかし、反応の選択性は高いのですが反応速度が非常に遅いという問題があります。ここで興味深いことに、溶媒をイオン液体研究キーワードに置き換えると反応速度が向上するとの報告があり、産総研東北センターの技術ポテンシャルとしてイオン液体・超臨界流体・マイクロ波等がありますので、これらの特異な反応場と酵素反応をうまく組み合わせればもっと効率のよい反応ができるのではないかと思っています。先輩方にアドバイスをいただきながら、所内融合を積極的に行っていきたいと考えています。
 1 5 年前に分析用のμ T A S ( マイクロタス研究キーワード) とかLab-on-a-chipが提唱されて、この十数年で酵素とマイクロリアクターを利用した物質生産への応用研究が著しく進んでいます。多品種少量生産時代といわれている中で、本手法がキーテクノロジーになるのは間違いないと思います。

bar 今日はどうもありがとうございました。

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楽天の試合観戦の一葉  週末はジョギングでリフレッシュ! 一昨年まではつくばでの駅伝大会や仙台市民マラソンにも出場されたとのことです。「昨年はパーマネント化審査があり、試験の準備で時間があまりとれなかったのですが、野球も好きなので、たまに楽天の試合を見に行くのも楽しみのひとつです。」とお話されていました。

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