産総研 東北 Newsletter
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研究者紹介 ヘテロ界面チーム
 本連載では、研究者の方との対談形式を取り、研究内容をわかりやすく解説することをコンセプトとし、研究者個人にもフォーカスをあてた内容を目指しています。
  連載第4回は、ヘテロ界面チームです。同チームは、無機化合物と有機生体高分子を組み合わせることにより、新技術・新材料の開発を目指しています。最近では、ゼオライトを用いてタンパク質の立体構造を修復する技術を開発しています。今回は、タンパク質の修復技術について取材すると共に、専門分野の異なるメンバーが集うチーム内のコミュニケーションについて、角田チーム長と4人のポスドクの方を交えて伺いました。
  なお、本文中の研究キーワードアイコンは、3ページの‘研究キーワード’に掲載された専門用語を示していますので、そちらも合わせて御参照ください。

ゼオライト法は、タンパク質の多
 角田さん) 酵素などのタンパク質研究キーワードは様々な化学反応に利用できるポテンシャルを持っていますが、タンパク質自体を化学合成で作ることは難しいのです。そのために、大腸菌を利用したタンパク質の合成方法が利用されていますが、この方法では、立体構造が壊れたタンパク質が大量にできてしまいます。このようなタンパク質は不溶性で、本来持つべき機能を失っています。そこで、壊れたタンパク質の立体構造を修復して活性化する必要性が生まれてくるのです。
  冨樫さん) タンパク質の立体構造を修復する方法は、すでにいくつか考案されていますが、どの方法も、1)凝集した不溶性のタンパク質を、タンパク質を可溶化する薬剤(変性剤)を使って溶かす、2)その変性剤を徐々に取り除く過程でタンパク質の立体構造を本来の形に修復し、活性化させる、という基本的な原理は変わりません。すでに開発された方法の中で代表的なものに希釈法があります。この方法は、溶液中の変性剤を希釈することにより薄め、変性剤の濃度を低くする過程で、タンパク質の構造を修復する方法です。ただ、この方法を産業化するとなると大変です。たとえば、1tのタンパク質溶液を希釈するのに、何百tの希釈液を用意するスペースが必要になります。これはあまり現実的な方法ではないですね。この他の方法も産業化を考えると一長一短です。
 一方、私たちが検討しているゼオライト研究キーワードを用いたタンパク質の構造修復法(ゼオライト法)は、ゼオライトの性質を利用したものです。ゼオライトはタンパク質をよく吸着するので、タンパク質を吸着させている間に変性剤を洗い流すことができますので、大量に希釈溶液を用意する必要はありません。その後、タンパク質をゼオライトから引き離す薬剤を添加して立体構造を修復するのですが、この薬剤もタンパク質へのダメージが少ないものを利用しています。すなわち、ゼオライト法は、希釈法に比べて省スペースで操作ができる上、タンパク質を修復する能力も高いのです。
使用しているゼオライトや薬剤は決して高いものではないので、コストパフォーマンスも優れていますね。
  角田さん) 加えて、この方法は、様々なタンパク質で使うことができます。条件設定が幅広くできるので、タンパク質の多様性に条件の多様性で対応することができます。
ゼオライト法の応用例としてはどのようなものがありますか?
  奈良さん) それぞれのタンパク質に適した修復条件を検討するキットの開発をしています。このキットは、異なる修復条件の操作を同時に行い、それぞれの結果を検討して、対象のタンパク質に合った条件を見出すことができます。もっとも、このキットの特徴は、1 回の操作で回収できるタンパク質の量が非常に多い点にあります。研究レベルであれば、1 回の生化学実験に必要な量のタンパク質をこのキットで容易に回収できると考えています。

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図
 冨樫さん) ゼオライト法の産業化に向けて、流通式の修復装置の開発も試みています。この装置は、添加する薬剤の量やスピードなどもコントロールできますので、奈良さんの開発しているキットで検討した条件を基に、さらに最適化していくことができると思います。
  角田さん) また、基質選択性のある反応や光学異性体の合成反応などに利用する酵素などを中心に、すでに100種を超えるタンパク質の修復条件を検討しています。製薬などの産業界が必要としている研究データをできるだけ蓄積し、公開していく予定です。
Qなるほど、産業化に向けての条件検討とスケールアップを同時に試みているのですね。

異なる研究領域では、実験計画という研究の土台から違う
Q専門分野の異なるメンバーが集まって研究するには、情報共有が重要だと思いますが、工夫はありますか?
  角田さん) チームのメンバーが気軽にコミュニケーションできる場所として、メンバーの控え室と実験室の間にテーブルを置いています。また、チーム内でデータサーバを立ち上げて、メンバー間で実験データの共有を図っています。共同研究など、データによって、アクセスできるメンバーは異なりますが、それぞれのメンバーがどのような研究をしているかを把握できるようにしています。
Q円滑なコミュニケーションとデータ共有でメンバー間の情報共有を図っているのですね。異分野のメンバー間で研究内容の認識にズレが生じたりはしませんか?
  冨樫さん) オートクレーブの話はよく覚えています。この器械はバイオの分野では滅菌するために使います。一方、無機の世界ではゼオライトなどを合成するときに使います。同じ器械でもイメージする操作がまるで違っていたのです。
  実験の方法論でも違いがありました。バイオの世界で現象の違いを観察するときには、必ずと言っていいほど対照実験という手法を適用しますが、無機材料の世界では、目的の物質を合成して、その物質の特性を分析するので、絶対的な物性値が得られることも多く、対照実験を適応しない場合も多いのです。異なる研究領域では、実験計画という研究の土台の部分から違う場合もあるのです。
Qそういったコミュニケーションエラーを克服して、現在、成果が形になって出てきているのですね。
産総研は研究に加え、技術としても開発するスタンスが特徴的
Qポスドクから見た産総研はどのような研究環境ですか?
  冨樫さん) 大学にとっての産業化はとても長い道のりですが、産総研での産業化は意外と身近な内容なので、企業の方のアプローチの仕方も違うなという印象があります。自分の研究成果を社会へアピールする方法などは、大学ではなかなか身につかない経験だと思います。
  塩見さん) 産総研は産業化に近い部分の研究に加え、技術としても開発するスタンスが特徴的だと思います。また、様々な分野の研究者が集まっているので、その道のプロフェッショナルが目と鼻の先にいる点などはいい刺激になっています。
  奈良さん) 企業の方と共同研究を行う場合、特許の面から公表できない内容もあります。質の高い論文を一報でも多く書かなければならないポスドクの立場としては、論文のための研究と共同研究をうまく両立させるのに苦労もあります。共同研究と基礎研究をもっとうまく両立できる方法を見出していきたいです。
  小野さん) 産総研には、今すぐ産業化につながらない研究でも取り組める環境があります。基礎研究と応用研究のどちらにも身をおけるのがいい点だと思います。
Q基礎研究から産業化研究まで行う産総研ならではの印象ですね。最後に、へテロ界面チームは、今後どのように活動していきたいと考えていますか?
  塩見さん) ヘテロであり続けていくことが大事だと思っています。研究活動も慣れてくると枠にとらわれるので、アプローチしたことの無い研究に挑戦し続けていきたいです。
  角田さん) チームができたときは、専門分野の異なるメンバー同士で話が通じないことも少なくなかったのですが、今は、価値観が共有できるレベルまで纏まってきました。お互いの壁がなくならないと真の異分野融合はできません。メンバーと培ってきたチームとしての機動力を活かして、今後も無機材料と有機系の材料を組み合わせる研究について、基礎から応用研究まで幅広く攻めていこうと考えています。
Q今日はどうもありがとうございました。

チームお気に入りの写真
チームお気に入りの写真
学会発表の後、発表者を囲んでの一葉。誕生日会や食事会などを通して、メンバーの交流を深めているのもチームの結束力アップにつながっています。

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