酵素というと、pHの変動で活性が上下したり、熱に弱いイメージがありますが?
開発した酵素センサーは、溶液にセンサー部を浸して測定する方式なので、pHの影響がないとはいえませんが、現在まで検討した結果では、pHの影響は出ていません。実は、メソポーラスシリカは通常の環境では、細孔内に水を多く吸着しているものなのです。そこで、将来的には、メソポーラスシリカ内の吸着水を有効に使うことで、センサー部を直接溶液に浸さなくても測定できるようにしたいと考えています。いずれにしても、極端な酸性・アルカリ性の条件でなければ、それほどpHの影響は受けないのではと考えています。<br>
また、開発した酵素センサーは、熱に対しても比較的強いものです。この酵素センサーでは、メソポーラスシリカの細孔内に酵素が入っている。その孔の中には吸着した水があって、この水に囲まれた形で酵素が格納されている。ダンボールの中に梱包材が入っていて、その中に荷物が包まれているといったイメージでしょうか。この状態のおかげで、酵素が熱を受けても型崩れしないのだと考えています。
なるほど。このセンサーは今後どのような用途に応用できるのですか?
たとえば残留農薬の検出です。酵素センサーを使えば、今問題になっている微量な農薬を短時間で検出できると思います。酵素をカートリッジのように交換式にすることで、様々な物質に対応できるセンサーが実現できると考えています。
ほかにも、環境中に排出されてしまった有害物質を検出する用途などにも応用できると思います。多くの物質が混在している中で、特定の物質をピンポイントで検出できる酵素センサーの特徴は、応用範囲が非常に広いと考えています。 |
ただ、われわれコンパクト化学プロセス研究センターでは、ゼオライトという鉱物を使って、機能を失ったタンパク質の機能性を復活させる技術を開発しています。この方法が実用化されれば、酵素を含む様々なタンパク質をある程度の量として生産できるようになると期待しています。
一方、メソポーラスシリカの量産についてですが、実を言うと、すでにNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトとして実際に取り組んでいます。現在、試験用の小型プラントを使って、年間約30トンのペースでメソポーラスシリカの生産が可能です。
また、タンパク質、メソポーラスシリカの生産の両方とも、省エネルギーでの生産ができる点も特徴です。
省エネルギー・リサイクル製品などを生産する場合、その生産の過程でどれだけのエネルギーを消費するのかも重要な問題点ですが、その点からも伊藤さんの試みは環境への負担が少ないものですね。
今後は、環境に負担をかけない方法を開発してほしいというニーズがより強く出てきます。その時にニーズに合った技術を出せるようにしていかなければならない。こういった技術を検討することも産総研の仕事だと思います。
これからの時代は、酵素などの生体に由来する物質を積極的に使っていく時代になると思います。特に、日本は酵素・発酵技術に関しては世界トップです。そこで、産総研も酵素を使った化学プロセス分野を伸ばしていけたらなと思っています。
今日はどうもありがとうございました。
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最初の話にありましたが、酵素を使った化学プロセスを実現したいという目標ですが、どのような技術的課題がありますか?
酵素センサーのレベルであれば、それほど大量に酵素を使うことは無いので問題は大きくないのですが、われわれの目標である酵素を利用した化学プロセスの実現となると、大量の酵素が必要になります。 それだけの量の酵素を作ることは、現在の技術では大変だと思います。大腸菌などでタンパク質を生産する系を例にすると、機能を失ったタンパク質がかなりの割合でできてしまうのです。
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伊藤さんお気に入りの写真:沖縄、砂浜ポイントにて
週末は必ずといっていいほどサーフィンを楽しむ伊藤さん。とはいえ、研究がうまく進んでいないときはサーフィンも楽しめないという研究者気質の側面も。“ 家族の支えがあればこそ趣味のサーフィンや研究に打ち込るのです。”とのことでした。
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