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研究紹介

ノポーラス物質とは、ナノメートル程度の穴の開いた物質の総称である。その代表としてゼオライトと呼ばれる無機多孔体がある。ゼオライトは、元々は天然鉱物として見いだされたものであるが、今日では広く工業材料として用いられ、石油製品を合成するための触媒、ビルダー(洗浄剤)、建築材など様々な用途がある。このゼオライトを合成するには、一般的に水熱合成法といって主成分となるシリカ源、アルミ源、アルカリ金属イオンなどを大量の水と一緒に加えて、圧力容器内で加熱する(圧力鍋で煮るようなもの)方法が用いられる。
これに対し、全く違うアプローチとして、層状化合物の骨格構造を積木細工的に用い、図1のように層と層の間に意図的に原子や分子を挿入して並べ方を変えたり、加熱して繋げたりすることで、新しいゼオライトを作る試みに現在取り組んでいる。その一例を紹介する。

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状化合物にも様々なものが存在するが、なかでもゼオライトと化学組成の近い結晶性層状ケイ酸塩は、それ自身がゼオライトと部分的によく似た構造を有するものが多いことが、近年の結晶構造解析から明らかになってきた。このことが、層状物質にアプローチした背景となっている。我々のチームでは、これまで幾つかの新しい層状ケイ酸塩の探索・合成に成功してきた。粉末X線構造解析により決定された新規層状ケイ酸塩PLS-1の結晶構造を図2上に示す。Si原子とO原子の共有結合によって層状の骨格が形成されている。またその層と層の間に、穴の形に似た空隙があり、その中に有機アミンとアルカリ金属イオンがカチオンとして分布している。この図から、隣接する層状骨格をうまく結合できれば、層間に新たな細孔ができることが予想される。実際に、PLS-1を加熱させるだけで、層状骨格の表面に相対して分布するシラノール基が脱水重縮合反応(-Si-OH + HO-Si- → -Si-O-Si- + H2O)することで架橋し、新しい骨格構造を有する高シリカゼオライトCDS-1を作ることに成功した(図2下)。


の様な、層状ケイ酸塩の基本構造を維持しながら相転移的にゼオライトに変化させる手法(Topotactic Conversion Method)では、従来の合成法では得られない骨格構造を持ったゼオライトが作り出せると期待している。また天然にも数多く存在する層状ケイ酸塩を出発物質に適応できれば、コストの低い高シリカゼオライトの開発にも繋がるものと期待している。PLSは現在までに4つの類似した構造体ができており、さらにそれらを起点に派生したゼオライトとは少し異なる新規なナノポーラス物質を見いだしている。本研究を更に展開して、合成・結晶構造・物性特性の面から新規材料の開発に繋げていきたいと考えている。

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参考文献
○ T. Ikeda, Y. Akiyama, Y. Oumi, A. Kawai, F. Mizukami, Angew. Chem. Int. Ed., 43. 4892-4895 (2004).
○ T. Ikeda, Y. Oumi, E. Hida, T. Yokoyama, T. Sano and F. Mizukami, , Studies in Surface Science and Catalysis, (2005).


http://unit.aist.go.jp/tohoku/ UP