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産総研 質量標準研究グループ

質量標準研究グループでは、プランク定数にもとづく新しいキログラムの定義から、日本の産業・科学の基盤となる質量の基準を作り出す研究を実施しています。

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質量の単位「キログラム」(更新:2024年5月26日)お知らせ

目次
はじめに
世界共通の質量の単位が必要になったわけ
キログラムの誕生
国際キログラム原器の登場
日本国キログラム原器
国際キログラム原器の質量は永遠に変わらないの?
国際キログラム原器への引退勧告
プランク定数の測定
プランク定数にもとづく新しいキログラムの定義
130年ぶりの定義改定への日本の貢献
キログラムの定義が変わったことでどんなことがおきたのでしょうか?
現在、国際キログラム原器の質量はどのように決められているの?
日本国キログラム原器の現在の役割は?

はじめに

 私たちの日常生活は、様々なものを測定することによって成り立っています。健康管理のために、定期的に体重や血圧を測っている方も多いと思います。車を運転する方は、スピードメーターの表示を見ながら安全運転を心がけているのではないでしょうか。ガソリンスタンドでも、車に給油されたガソリンの量が大きく表示されていると思います。
 測定した結果には「単位」がついています。例えば体重計で測った結果には、キログラムを表す記号「kg」がついています。もし、体重が50 kgぴったりであったとすると、それは体重が1 kgのちょうど50倍あるということです。キログラムは世界共通の質量の単位なので、「体重が50 kg」と言えば、世界中の多くの人たちが体重測定の結果を理解することができます。
 ところで、そもそも1 kgは具体的にはどれくらいの質量なのでしょうか。キログラムは良く使う単位だと思いますが、1 kgがどのように決められているかは考えてみたことがない方がほとんどだと思います。このページでは、キログラムの歴史や1 kgがどのように決められているかについてやさしく紹介します。



世界共通の質量の単位が必要になったわけ
 昔、質量の単位は国や地域で異なっていました。例えば、大昔のギリシャでは「カラット」という単位が使われていました。1カラットはこのイナゴ豆一個の質量として決められ、約0.0002 kgでした。また、昔の日本では「貫(かん)」という単位が使われていました。1貫は当時使われていた貨幣1000枚分の質量として決められており、約4 kgでした。
 しかし、科学技術が発展し、汽車、船、飛行船などの様々な移動手段が開発されると、人や物が世界規模で交流し始めます。国や地域で違う単位が使われていると、スムーズに貿易をおこなったり、様々な情報を正確に共有することが困難です。そこで、世界共通の質量の単位が必要になってきました。



キログラムの誕生
 キログラムの起源は、およそ230年前のフランスです。当時、フランス国内だけでも数百もの異なる質量の単位が使われており、大変不便でした。そこで世界共通の質量の単位を作ろうという画期的な提案が行われました。それがキログラムです。1 kgがどれくらいの質量かを決める方法ですが、誰にとっても受け入れやすい単位であるように、世界中どこにでもある水の質量を基準とすることが提案されました。そこでフランス人の研究者が当時の最新技術を駆使して水1 L(リットル)の質量を測定しました。その結果をもとに、1 kgは水1 Lの質量として決められました。これがキログラムの誕生です。



国際キログラム原器の登場
 まずキログラムはフランス国内で使われ、とても便利であることがわかりました。そこで、1889年、今から約130年前に、国際的な単位として使われることになりました。その際、水1 Lよりも正確に1 kgを決めるために、国際キログラム原器という分銅が作られました。国際キログラム原器は、高さが約4 cm、直径が約4 cmの筒型の分銅であり、当時の最先端材料である白金とイリジウムの合金で作られました。つまり、この世界に一つしかない分銅の質量を1 kgぴったりとしたのです。また、国際キログラム原器はフランスにある国際度量衡局(BIPM)という研究機関で厳重に管理されることになりました。ただし、国際的な質量の基準がフランスにしかないのは不便ですので、その複製が世界各国に配布されました。日本にもNo. 6と番号付けされた複製が送られています。これが日本国キログラム原器です(図1)。



図1 二重のガラスの容器のなかに収められた日本国キログラム原器:1891年(明治24年)から2019年(令和元年)まで、約130年にわたって日本の質量の基準として使用されました

日本国キログラム原器
 1890年に日本に到着した日本国キログラム原器は、その後、日本国内で使われるはかりや分銅などの基準として運用されました。また、約40年おきに、フランスの国際度量衡局(BIPM)に輸送され、その質量が国際キログラム原器を基準にして測定されました。 約100年間にわたる日本国キログラム原器の質量の変動量は、他国のキログラム原器と比べて非常に小さく、先人たちの英知とたゆまぬ努力によって、 日本の質量の基準が極めて安定な状態に保たれつづけてきたことを示しています(図2)。
 日本国キログラム原器の歴史や、現在の管理の様子については以下の動画などをご覧ください。
日本国キログラム原器の紹介(産総研 YouTube動画)
キログラム原器等 重要文化財指定 特設ページ(産総研 計量標準総合センターウェブサイト)
キログラム原器や貫(かん)原器のやさしい説明


図2 各国のキログラム原器の質量変動

国際キログラム原器の質量は永遠に変わらないの?
 国際キログラム原器という特別な分銅が130年前に作られたことを紹介しましたが、この分銅の質量がずっと変わらないかどうかが心配されていました。もしこの質量が変わってしまうと、全世界の1 kgが変わってしまうからです。一方、科学技術の進歩によって、色々なモノの質量の変化をとても精密に調べることができるようになってきました。その結果、1990年頃、表面の汚れなどでこの国際キログラム原器の質量が100年間で1億分の5 kg変わった可能性のあることがわかりました。およそ指紋一個の質量に相当する非常にわずかな変化ですが、無視できる大きさではありません。また、こういったおもりの質量がずっと変わらないように管理することは不可能です。そこで、分銅のような「モノ」ではないもので1 kgの質量を決めようという提案が行われ始めました。

国際キログラム原器への引退勧告
 2011年には、将来、国際キログラム原器を引退させ、プランク定数という、原子一個の質量に関連した物理学の定数で1 kgの質量を決めようということが国際的に合意されました。プランク定数は、世界中どこでもかわらず、時間とともに変化しないため、極めて安定な質量の基準となると考えられたためです。ただし、この時点では、このプランク定数の正確な値が良くわかっていませんでした。そこで、産総研をふくむ世界各国の研究機関でこのプランク定数を正確に測定するための研究開発が行われました。目標としたのは、指紋一個分の質量である1億分の5 kgよりも良い精度でプランク定数を測定することでした。

プランク定数の測定
 産総研では、プランク定数をX線結晶密度法で測定しました。この方法では、シリコン原子一個の質量を精密に測定し、プランク定数とシリコン原子一個の質量の間の厳密な物理学の関係式を用いて、プランク定数を求めます。シリコン原子一個の質量を測定するのに用いたのが、シリコン単結晶球体(図3)です。

図3 産総研がプランク定数の測定に用いたシリコン単結晶球体

 この球体を用い、プランク定数を、目標とした1億分の5を上回る精度で決定することができました。2017年までに、ドイツ、アメリカ、カナダ、フランスの研究機関もプランク定数の高精度な測定に成功しました。図4に世界各国の研究機関が測定したプランク定数をまとめています。NMIJ–17が産総研によって測定された値です。
 産総研でのプランク定数の測定については以下のページをご覧ください。
さらばキログラム原器、プランク定数にもとづくキログラムの定義を導いたプランク定数測定
新しい1キログラムの測り方ーさらばキログラム原器ー(産総研 YouTube動画)
アボガドロ国際プロジェクト


図4:新たなキログラムの定義の基準となったプランク定数の決定に貢献した測定データ

プランク定数にもとづく新しいキログラムの定義
 2017年10月、様々な物理定数の推奨値を決定する国際組織「科学技術データ委員会(CODATA)」は、図4中の八つの高精度な測定値にもとづき、次のプランク定数hの調整値(CODATA 2017)を報告しました。

h = 6.626 070 150 (69) × 10^(−34) J s

括弧内の数値は最後の2桁の不確かさを表わします。2018年11月に開催された国際度量衡総会では、CODATA 2017の不確かさをゼロとした値をプランク定数の定義値とする次の新たなキログラムの定義への移行案が採択されました。

キログラムは、プランク定数を6.626 070 15 × 10^(−34) J sと定めることによって定義される

これをうけて、2019年5月20日から新たな定義が施行されています。1889年以来、約130年ぶりにキログラムの定義が新しくなったのです。

130年ぶりの定義改定への日本の貢献
 表1は、CODATA2017の決定に採用されたデータが報告された論文、データ名、測定を実施した研究機関をまとめたものです。CODATA 2017の決定に採用された八つのデータのうち、産総研は四つの値の測定に貢献し、そのうちの1つ(NMIJ–17)は産総研がほぼ独立に測定したものです。これは日本の科学技術力が世界最高水準にあることを裏付けます。さらに、歴史上初めて、人工物ではなく普遍的な物理定数によって質量の単位が定義されることになりました。130年ぶりのキログラムの定義改定への貢献は、正に科学の歴史に残る大きな成果と言えます。また、表1に示すように、科学の歴史に残る値の決定に、日本の研究機関の名前(NMIJ(産総研 計量標準総合センターの英語名 National Metrology Institute of Japanの略称)および日本人の研究者の名前(Kuramoto et al.)を明確に刻むことができたことは、世界に向けて誇ることのできる快挙です。

表1 新しいキログラムの定義の基準であるプランク定数の定義値の決定に採用されたデータ


キログラムの定義が変わったことでどんなことがおきたのでしょうか?
 プランク定数が新たなキログラムの定義の基準となったことで、原理的には、適切な技術さえあれば、誰でも、プランク定数を基準にして質量を測定することができます。ただし、そういった技術はまだ成熟していません。このため、正確な質量測定には、これまでと同様に、質量が測定された分銅が欠かせません。では、この分銅の質量はどのように測定されているのでしょうか。日本国内で使われている分銅は産総研が管理する「標準分銅群」につながっています。標準分銅群は複数の分銅からなり、各分銅の質量は国際キログラム原器を基準にして測定されています。定義が変わる前との決定的な違いは、国際キログラム原器の質量がちょうど1 kgではないことです。2021年10月時点、プランク定数を基準として、その質量は0.999 999 998 kg、その標準不確かさは20 µg(マイクログラム)と決定されています。

現在、国際キログラム原器の質量はどのように決められているの?
 産総研は、プランク定数を基準にして高精度に、例えば分銅の質量を、測定できる技術を持っています。ただし、そういった技術を持った国はまだ多くありません。2021年11月の時点で、産総研、米国国立標準技術研究所、カナダ国立研究機構、ドイツ物理工学研究所の四つの研究機関のみがそういった技術を持っています。こういった研究機関の測定結果などを用いて国際キログラム原器の質量が決定されています。

日本国キログラム原器の現在の役割は?
 日本国キログラム原器は産総研が管理する「標準分銅群」の一部となっています。つまり、日本国キログラム原器の役割は以前とは異なりますが、依然として、優秀な分銅として、私たちの社会生活を支え続けてくれています。このため、現在でも厳重な管理を行っております。一般の方に直接ご覧いただけるのは、しばらく先になりそうです。現在の日本国キログラム原器の管理状況については下記の動画をご覧ください。

日本国キログラム原器の紹介(産総研公式 Youtube動画)

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