キログラム原器(更新日:2024年5月27日)お知らせ
お知らせ
2023年1月29日:
パンフレット「計量のひろば」(日本計量振興協会様発行)に新しいキログラムと定義とキログラム原器の重要文化財指定についての解説を寄稿させていただきました。
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計量のひろば No.65、 特集:キログラム原器の重要文化財指定と新しいキログラムの定義
2022年11月4日:
キログラム原器とメートル原器の役割や歴史についてまとめた新しいHPが公開されています。
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メートル条約並度量衡法関係原器(産総研HP)
2022年9月18日:
明治から令和にわたる約130年間、日本の質量の国家標準として運用されてきたキログラム原器が、国の重要文化財に指定されています。現在、どのように日本国キログラム原器が管理されているのかを、動画でご紹介します。
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日本国キログラム原器の紹介(YouTube動画)
2022年9月8日:
明治から令和にわたる約130年間、日本の質量の国家標準として運用されてきたキログラム原器(レプリカ)が、2022年9月14日〜16日に東京ビッグサイトで開催される「INTERMEASURE2022」の産総研ブース(I-25)において展示されます。産総研の研究員がキログラム原器の歴史や役割をご説明させていただきます。是非、お越し下さい。
目次
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はじめに:原器(げんき)ってなに?
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質量の単位「キログラム」
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メートル条約の締結と日本の加盟
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国際キログラム原器と日本国キログラム原器
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貫(かん)原器
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日本国キログラム原器の管理
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日本国キログラム原器の役割変更と重要文化財への指定
はじめに:原器(げんき)ってなに?
「原器(げんき)」という言葉に、どんなイメージを持っていますか?「とても大切なもの」という印象をお持ちの方が多いと思います。実際には、なにかの「最上位の基準となる器物」を指します。私たち質量標準研究グループでは、「日本国キログラム原器」とよばれる器物を管理しています。文字通り、「キログラム」という質量の単位に関する、日本における最上位の基準であった器物です。このページでは、日本国キログラム原器の歴史や皆さんの生活とのかかわりについてご紹介します。
質量の単位「キログラム」
私たちは色々なもの質量を表すのに「キログラム」を使っています。記号は「kg」ですね。キログラムは世界共通の質量の単位なので、世界中の多くの人たちに物の質量がどれくらいであるかを正確に伝えることができます。例えば、「あなたの体重は結構重いです。」より「あなたの体重は100
kgです。」の方が、はるかに正確に情報を伝えることができます。
このキログラムですが、大昔から使われていたのではありません。昔、質量の単位は国や地方によって異なり、様々な単位が使われていました。しかし、科学技術が発展し、汽車、飛行船などの様々な移動手段が開発されると、人や物が世界規模で交流し始めます。国や地域で違う単位が使われていると、スムーズに貿易をおこなったり、様々な情報を正確に伝え合うことが困難です。そこで、世界共通の質量の単位が必要になってきました。こういった考えのもと、今から約230年前のフランスでキログラムが作られました。当初は水1
L(リットル)の質量として1 kgが決められました。また、ほぼ同じタイミングで、長さの単位「メートル」もフランスで作られました。メートルの基準になったのは、地球の大きさです。世界中の誰にとっても受け入れやすいよう、水や地球の大きさが基準として選ばれたのです。
メートル条約の締結と日本の加盟
キログラムとメートルを基礎とする単位のシステムが「メートル法」です。メートル法は、当初、フランス国内のみで使われていましたが、大変便利なシステムであることが徐々に各国に認めらてきました。そこで、1875年、メートル法にもとづき、単位の国際的な統一を目的とする国際条約「メートル条約」が締結されました。多くの国がキログラムとメートルを共通の単位として使おうと決心したのです。明治維新を終え、近代国家への道を歩み始めた日本も、1885年(明治18年)にメートル条約に加盟しました。
国際キログラム原器と日本国キログラム原器
キログラムを世界共通の単位として用いるのにあたって、1889年、世界に一つしかない分銅(おもり)「国際キログラム原器」が作られました。名前からわかりますように、この分銅がキログラムについての世界の最上位基準となったのです。つまり、国際キログラム原器の質量がぴったり1キログラムであり、その誤差はゼロでした。この分銅の質量を基準にして、他の物の質量が測定されることになったのです。国際キログラム原器は、高さ約39 mm、直径約39 mmの円筒型分銅であり、白金とイリジウムの合金で作られました。
国際キログラム原器は、国際度量衡局というフランスにある研究機関で厳重に管理されていました。ただし、世界中の質量の最上位の基準がフランスにしかないのはとても不便です。そこで、その複製(コピー)がメートル条約加盟国に、各国のキログラム原器として配布されました。各複製は国際キログラム原器と同じく白金とイリジウムの合金で作られており、サイズもほぼ一緒です。日本も、1889年(明治22年)にNo.
6と番号付けされた複製を受け取っています。この複製が「日本国キログラム原器」(写真1)であり、日本のキログラムの最上位の基準となりました。ただし、この日本国キログラム原器の質量はちょうど1
kgではありません。非常にわずかですが、1 kgからより重くなっています。1889年の時点で、その質量は1.000 000 169 kgでした。
写真1:二重のガラス容器に収められた日本国キログラム原器
産業技術総合研究所での日本国キログラム原器の管理状況については以下の動画をご覧下さい。
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日本国キログラム原器の紹介(産総研公式 Youtube動画)
1889年、日本国キログラム原器は船でフランスから日本に輸送されました。その際に用いられたのが写真2右側の容器です。航海中の事故に備えて、この堅牢な耐圧容器に収められ、日本国キログラム原器は輸送されました。なお、左側の容器は、同じタイミングで輸送された日本国メートル原器を収めるための容器です。二つの輸送容器は、産業技術総合研究所で大切に保管されています。
写真2:(右)日本国キログラム原器を輸送するために用いられた容器、(左)日本国メートル原器を輸送するために用いられた容器
日本国キログラム原器は、産業技術総合研究所およびその前身の研究所(中央度量衡器検定所、通商産業省 計量研究所など)で、日本国内で使用される分銅やはかりなどの基準として1891年(明治24年)から2019年(令和元年)まで用いられてきました。つまり皆さんがお使いのはかりや体重計は、元をたどればこの日本国キログラム原器につながっていたのです。また、質量の基準は、ものづくり産業をはじめとする様々な産業における最も基本的で重要な基準の一つです。つまり、日本国キログラム原器は、明治、大正、昭和、平成、令和の五つの時代にわたる約130年間、日本の産業の発展を支え続けてきたと言えます。
1894年(明治27年)には、より堅牢に日本の質量の基準を維持するために、No. 30(写真3)およびNo. 39と番号付けされた二つの国際キログラム原器の複製を国際度量衡局から受け取っています。この二つの複製がキログラム副原器です。キログラム原器とキログラム副原器、合計三つの複製間での質量比較を定期的に行うことで、日本国キログラム原器の質量変動を正確に検知できるのです。ただし、1947年(昭和22年)、No.
39はキログラム原器を保有していなかった韓国へ委譲され、キログラム副原器はNo. 30のみとなりました。このため、その後、E59およびNo.
94と番号付けされた複製を受け取っています。
写真3:キログラム副原器(No. 30)
貫原器
明治時代以前、「貫(かん)」という質量の単位が日本では使われていました。日本の近代化には、世界共通の質量の単位であるキログラムを導入する必要がありました。ただし、いきなり貫を廃止し、キログラムに完全に移行してしまうと、様々なトラブルが発生することが予測されました。そこで、1891年(明治24年)に制定された度量衡法では、日本国キログラム原器の質量の4分の15(3.75キログラム)として貫が定められました。基本となる単位は貫ですが、その貫を日本国キログラム原器を基準として定めることで、日本の単位制度を国際化したのです。また、この貫の基準とするために、1898年(明治31年)、二個の貫原器を国際度量衡局から受け取っています(写真4)。貫原器は直径約6.1
cm、高さ約6.1 cmの円筒型分銅です。国際キログラム原器や日本国キログラム原器と同様に、白金とイリジウムの合金で作られています。
写真4:貫原器
日本国キログラム原器の管理
日本国キログラムの管理には細心の注意が払われました。写真5はその保管に用いられた金庫です。「大日本帝国度量衡原器」と記載された銘板がつけられています。この金庫は鉄で作られていますが、内面は桐で覆われています。桐の特性によって金庫内の湿度が調整され、かびなどによって日本国キログラム原器の表面が汚染されるのを防ぐことができると考えられたためです。
写真5:日本国キログラム原器保管用金庫とその内部に格納された日本国キログラム原器(上段中央)、キログラム副原器(上段左)および貫原器(下段左および右)
また、1889年に、日本国キログラム原器の質量が、国際キログラム原器を基準にして測定されたことをすでにご紹介しました。さらにその後も約40年おきに、日本国キログラム原器は国際度量衡局に輸送され、その質量が国際キログラム原器を基準にして測定されました。図1は、各国のキログラム原器の質量を国際キログラム原器を基準にして測定した結果をまとめたものです。約100年にわたる日本国キログラム原器の質量の変動量は、他国のキログラム原器と比べて非常に小さく、日本の質量の基準が極めて安定な状態に保たれつづけてきたことを示しています。
図1:約100年にわたる各国のキログラム原器の質量変動
日本国キログラム原器の役割変更と重要文化財への指定
2019年(令和元年)5月20日、キログラムの定義が改定され、国際キログラム原器に代わって、普遍的な物理定数である「プランク定数」がキログラムの基準となりました。国際キログラム原器は原器としての役割を終えたのです。なお、新しくキログラムの定義の基準となったプランク定数の決定にも、日本国キログラム原器は大きく貢献しています(
さらばキログラム原器、プランク定数にもとづくキログラムの新しい定義)。
この定義改定をうけ、日本の質量の基準は、日本国キログラム原器から、プランク定数に基づき質量が測定された多くの分銅からなる「標準分銅群」に変更されています。日本国キログラム原器は、日本におけるキログラムに関する最高かつ唯一の基準ではなくなったのです。これをうけ、日本国キログラム原器の歴史上および学術上の価値が評価され、2022年3月22日、国の重要文化財に指定されました。重要文化財への指定については、下記の特設ページをご参照下さい。
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キログラム原器等 重要文化財指定 特設ページ(産総研 計量標準総合センターウェブサイト)
ただし、日本国キログラム原器は完全に引退してはおらず、上述の「標準分銅群」の一部となっています。したがって、以前とは役割は変わりましたが、優秀な分銅として私たちの生活を支え続けてくれています。このため、産業技術総合研究所でこれまで同様に日本国キログラム原器を厳重に管理させていただいています。一般の方に直接ご覧いただけるのは、残念ながらしばらく先になりそうです。
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