日本国メートル原器

1890年に日本国キログラム原器と共に日本に到着した日本国メートル原器(No. 22)は、他のメートル副原器、尺原器などと共に約70年間、我が国の長さの基準として産業を支えてきました。

そして2012年9月に、メートル副原器(No. 10c)や尺原器(No. 1、2)などと共に国の重要文化財「メートル条約並度量衡法関係原器」に指定されました。

メートルという単位がこれまでどのように定義されてきたかを以下の表にまとめています。表に示すとおり、1メートルの長さは、18世紀末の子午線の測定結果をもとに決められ、確定メートル原器が作製されました。

その後、白金90 %、イリジウム10 %の合金製のX断面をもつ線度器I1、I2、I3が作製され、最も確定メートル原器と長さが近いI2が国際原器の値付けに使用されました。

メートル条約加盟各国に配るため、I2と同様の30本のメートル原器が作製され、そのうち線間の長さが最も確定メートル原器に近いNo. 6を国際メートル原器とすることが、1889年の第1回国際度量衡総会にて決議されました。

日本にはNo. 22が配布され、日本国メートル原器となりました。
ちなみに、メートル原器の長さは1020 mmで、質量は 3.28 kg です(キログラム原器と貫原器の間ですね)。

※フォントサイズや画面幅によっては横スクロールで隠れている場合があります。
定義 媒体 確定年
子午線 北極と赤道との間にはさまれる子午線の弧の1千万分の1であるメートルは、従来の単位との換算比において3ピエ11.296リーニュと最終的に決定される(フランス国内のみ) 確定メートル原器:
アルシーブ原器(端度器)
1799
原器 0 ℃におけるI2の目盛線間の距離から6×10−6 mを減じた長さ(国際メートル原器が完成・承認されるまでの基準) I2(線度器) 1881
国際度量衡局が保管する白金イリジウムの棒の上に引かれている2本の目盛線の中心間の、温度0 ℃のときの距離 国際メートル原器(線度器) 1889
波長 86Kr原子のエネルギー準位2p10と5d5間の遷移に対応するスペクトル線の真空中における波長の1 650 763.73倍に等しい長さ 1960
光の速さ 1秒の299 792 458分の1の時間に光が真空中を伝わる行程の長さ 1983
メートル(記号は m)は長さの SI 単位であり、真空中の光の速さ c を単位を単位m s−1で表したときに、その数値を 299 792 458 と定めることによって定義される 2019
  • 確定メートル原器は白金製で、25.3 mm×4 mmの矩形断面をもつ板状の端度器です。
  • 端度器は端面から端面の長さを用いるもので、線度器は刻印された線間の長さを用いるものです。

光の速さに基づく長さ標準

その後、メートルは1960年に86Kr原子が発する光の波長を用いた定義に改定され、1983年の第17回国際度量衡総会で、真空中の光の速さに基づいた定義になりました。

2019年の定義の改定では、メートルの定義の内容には変更はありませんが、他の単位の定義と揃えて、基礎物理定数である光速 c を基準とする表現に改められました。 現在の定義は下記のとおりです。

「メートル(記号は m)は長さの SI 単位であり、真空中の光の速さ c を単位 m s−1 で表わしたときに、 その数値を 299 792 458 と定めることによって定義される。」

現在、メートルがどのように現示されているのかに関しては下記解説動画をご覧ください。
1メートルってどう決まっている?【産総研公式】(YouTube 19分55秒)

日本が入手した長さ関連原器

2012年9月には図1に示すメートル原器や尺原器が重要文化財に指定されましたが、下の表に示す通り、それ以外に半尺原器や10 cm原器(デシメートル原器)などもNMIJは管理しています。

図1. 重要文化財に指定されたメートル原器類 図1. 重要文化財に指定されたメートル原器類

※フォントサイズや画面幅によっては横スクロールで隠れている場合があります。
名称 本数 識別番号 入手年 地金
メートル原器(正) 1 No. 22 1889 1885年頃 英ジョンソン・マッセイ社製
メートル原器(副) 2 No. 10c
No. 20c
1894
1899
1874年 フランス部会製
尺原器 2 No. 1
No. 2
1898 1874年 フランス部会製
半尺原器 1 - 1898 1874年 フランス部会製
10 cm原器 1 - 1898 1874年 フランス部会製
ニッケル製1 m標準尺 1 - 1898 -
  • 尺原器、半尺原器、10 cm原器は、No.14c(1874製地金)を切断し製作されました。
  • No.10cは後に韓国へ移譲されました。

ところで、図1で、日本国メートル原器(No. 22)が短い棒のようなものの上に置かれていることにお気づきでしょうか。 この写真では残念ながら支えの位置は正確ではないのですが、 この支えの位置は厳密に決められており、メートル原器のたわみや変形による誤差を抑制する上で重要です。

これはベッセル点支持法と呼ばれており、長さ L の均等荷重の梁を、支点間距離が 0.5594 L となる中央の位置(端面から 0.2203 L の位置)で支えることでたわみの影響を最小にするというものです。 メートル原器の全長は 約1020 mm ですので、測定の際は、メートル原器のそれぞれの端から 224.7 mm の位置に半円柱の支えが置かれました(支柱間距離は 570.6 mm)。

メートル原器の目盛線の引き直し

メートル原器は、その全長は約1020 mmであり、両端から約10 mmの位置に引かれている3本の線のうち、中央の線間がほぼ 1 m になるように線が引かれていました。

メートル原器の作製から60年以上が経過した1950年代には、目盛線の刻線技術も進歩しており、従来よりも明確な線を引くことができるようになっていました。 それを踏まえ、1954年(昭和29年)の第10回国際度量衡総会において、各国のメートル原器に新しい目盛線を引くことを推奨する決議が採択されました。 希望する国のメートル原器が国際度量衡局に集められ、旧目盛線はすべて研磨除去し、再刻線がなされました。

もともとはメートル原器を 0 ℃ の温度下においた際の線間の長さが 1 m となるようにされていましたが、20 ℃ の温度に合わせて1001本の目盛線が 1 mm 間隔で引かれたほか、0 ℃ で 1 m を示す補助線も引かれました。


関連文書および参考文献:
  • 産総研プレスリリース、“メートル原器の重要文化財指定について”、2012年(平成24年)4月
  • 平井 亜紀子、“メートル原器の重要文化財指定”、日本計量振興協会、計量のひろば、No. 55、2012年(平成24年)9月
  • 小泉 袈裟勝、“度量衡の歴史”、1961年(昭和36年)4月
  • 吉森 秀明、“「メートル原器」豆知識”、pptスライド、2004年(平成16年)
  • 高田 誠二、 “単位の進化 原始単位から原子単位へ”、講談社、2007年(平成19年)
  • メートル原器調査研究委員会、“我が国における近代長さ標準確立の経緯に関する調査研究”、計量史研究、39、1、1-73、2017年(平成29年)
  • 升元 健太郎、“メートル副原器No.20cの来歴 -保管と使用の実態-”、東京大学修士学位論文、2019年(平成31年)
  • 小泉 袈裟勝、“メートル原器(日本)の線の引き直し”、計量管理、5、8、32、1956年(昭和31年)