研究内容
「 光通電ハイブリッドパルス加熱法による高温熱拡散率測定法の開発」
● 2000℃以上の高温における金属の熱拡散率を簡便に測定
● 光通電ハイブリッドパルス加熱法を用いた高速測定
● 耐熱コーティングの伝熱性能評価への適用も検討中
【研究のねらい】
高温システムの伝熱シミュレーションにおいてはシステムを構成する部材の熱拡散率が必要となるが、一般的な熱拡散率の測定装置では2000℃以上の高温における物質の熱拡散率測定は困難であった。産総研では、熱拡散率を測定する標準的な手法であるフラッシュ法と高温物質を短時間で室温から2000℃以上に加熱できるパルス通電加熱法を組み合わせた光通電ハイブリッドパルス加熱法を開発して従来より簡便に高温熱拡散率を測定する方法を開発しました。本技術は、金属板上に製膜した絶縁体膜の熱拡散率測定にも成功しており、耐熱コーティングの伝熱性能評価への適用も検討中です。
【研究内容】
開発した装置はパルス通電時の電流をフィードバック制御して試料を目標温度に数百ms間保持している間に、1 ms以下のパルスレーザを試料に照射し、その後の裏面の温度履歴をフラッシュ法の原理で解析して熱拡散率を導出する。開発した測定法の性能評価の一環として、温度域2000~2600
KにおけるMoの熱拡散率の測定を行い文献値と比較した結果、良い一致を示すことを確認した1)。また、高温では変質しやすいため従来の方法では測定が困難である鉄表面の酸化鉄膜(FeO)の高温熱拡散率を安定して測定することに成功した2)
光通電ハイブリッドパルス加熱装置の概略図
Mo試料の測定時の温度履歴例と測定結果と文献値との比較
「多段階パルス通電加熱法による高温熱物性測定法の開発」
● 広い温度範囲(500~3000℃)における物質の熱物性を測定
● 多段階パルス通電加熱技術を用いた高速・高精度測定
● 高温で使用する合金・炭素材料・半導体の物性評価に貢献
【研究のねらい】
エネルギー産業や航空宇宙産業においては高温で使用するシステムや部材が多数存在するため、新規の製品・システムの開発・設計・品質管理の際に、それらの製品・システムを構成する材料の比熱、熱伝導率、放射率、熱膨張率等が必要となります。産総研では、高温物質を短時間で室温から1,000℃以上に加熱できるパルス通電加熱法を利用した高温熱物性測定法の高度化に長年取り組んでおり、最近、新たな高速温度制御技術を開発して従来より高効率・高精度でエンタルピー(比熱)を測定する方法を開発しました。本技術は、非導電性物質の測定にも適用可能と考えられ、パルス通電加熱法による高温熱物性測定の汎用性と測定効率の大幅な向上が期待されます。
【研究内容】
パルス通電加熱法は導電性物質の高温における比熱(エンタルピー)、全放射率、電気抵抗率を最も正確に測定することが可能な方法ですが、適切な測定条件(試料形状や加熱速度等)を選択する基準や試料温度の時間変化率を算出する標準的な解析手法が確立してないため、標準的な測定方法として確立してません。そこで、短時間で多段ステップ状に試料を温度変化させる多段階パルス通電加熱技術を世界で初めて開発し、試料温度の時間変化率の導出を必要としない単純かつ高精度なエンタルピーと放射率の測定法を開発した。
開発した測定システムにより、室温状態の試料を1回3秒間の加熱時間中に15段の目標温度に連続的に加熱かつ一定時間(200 ms)保持する多段階パルス通電加熱を実現した。開発した測定法の性能評価の一環として、温度域1050~2850 KにおけるWとMoのエンタルピーの測定を行い、どちらの測定結果も標準値と拡張不確かさ(2.7%)の範囲内で一致することを確認した。2)
左図:温度と入力エネルギーの時間変動
右図:エンタルピーと入出力エネルギー比の時間変動
図:WとMoのエンタルピーの測定結果