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熱物性に関する解説

熱膨張率

熱膨張率測定法


線膨張率は、単位温度変化あたりの長さ変化率として定義される。したがって、その測定では
温度と長さを測ることになるが、この時採用される長さ測定の方式によって測定法を分類する
ことができる。測定法には大きく分けて試料の寸法変化を直接測定する絶対測定法と熱膨張率が
既知の参照物質に対比させて測定する比較測定法の区分があり、さらに長さ測定の方式により
細分することが出来る。以下にいくつかの主要な測定法を紹介する。

【絶対】光干渉法 (optical interferometric method)
【絶対】X線回析法 (X-ray diffraction method)
【絶対】測微望遠鏡法・光走査法 (telemicroscope method and light scan method)
【比較】押し棒式膨張計 (push-rod dilatometer)
【比較】機械テコ法、光テコ法 (mechanical lever, optical lever)
【比較】電気容量法 (capacitor method)
【比較】歪みゲージ法 (strain gauge method)

【絶対】光干渉法(optical interferometric method)

試料の長さ測定を光の波長を基準としてはかる光干渉法により行う方法である。現在、光の波長
がメートルの定義となっており、SI単位系にトレーサブルな絶対測定となる。ほかの絶対測定法に比較して分解能が高く、線膨張率が10-7K-1オーダーの低膨張材料や線膨張率の比較測定法で使われる標準物質の値付けなどに用いられる。しかしながら、加工精度の高い試験片を必要とするといった測定に対する制限が厳しいことから、市販装置でこの測定方式を採用しているものはごく少ない。
光干渉法に用いられる光干渉計の形式には多くの種類があるが線膨張率測定にはフィゾー干渉計がこれまで広く適用されており、変位測定分解能として(1/10)フリンジ程度(使用レーザ波長633nmで20~30nm相当)が得られている。また、最近ではマイケルソン型干渉計に光ヘテロダイン法を適用しさらに2重光路化による感度の倍増がなされた線膨張率測定装置が開発されており、変位測定分解能として1nmよりよい結果が得られている。光干渉法を用いた熱膨張率測定系では試験片表面に作製された鏡面もしくは試験片に密着した補助用反射鏡が光学系に組み込まれるため、それらの鏡面の耐熱温度が光干渉法の適用温度の上限となる。鏡面として金の蒸着面の場合には1000℃程度であるが、耐熱性のあるセラミックス、炭素材料等を反射鏡として用いることによりさらに1000 ℃以上での測定も可能となる。

光干渉法による熱膨張率測定に関連する工業規格としては、JIS R 3251-1995「低膨張ガラスのレーザ干渉法による線膨張率の測定方法」がある。

フィゾー干渉法の模式図

光へテロダイン法2重光路干渉計の模式図

【絶対】X線回析法(X-ray diffraction method)

X線回折法は結晶格子の格子間隔の温度変化をX線の回折角の変化として測定することにより微視的な熱膨張特性を検出する事が出来る方法である。X線の回折角と格子面の間隔の関係はブラッグの法則より、
数式
となる。ここで、dは格子面間隔、θは格子面に対するX線の反射角である。面間隔の変化率と回折角の変化量の関係は上記の式より
数式
と表される。回折による小さな補正を除いて線膨張測定の結果はX線の波長に依存しない。X線回折法は結晶性試料であれば他の測定方法では測定が困難なごく僅かな量の試料でも測定を行うことが出来るため、学術的な研究分野で用いられることが多い測定法である。同じ回折法としては検出プローブとして原子炉より取り出した中性子ビームをもちいる中性子線回折法があり、X線回折では見えづらい水素や炭素といった軽い原子により構成された物質の測定に威力を発揮している。

【絶対】測微望遠鏡法・光走査法
(telemicroscope method and light scan method)

測微望遠鏡法は比較的大型の試料についての高温領域での絶対測定に便利な方法である。測定原理は非常に直感的で、試料上に付けた一対の刻み目もしくはナイフエッジの間隔の変化を低膨張な台座に取りつけられた一対の可動な測微望遠鏡(Telemicroscope)を用いて目視(もしくは画像処理)により検出することにより行われる。分解能は50倍の拡大率をもったスコープを用いた場合で1μm程度となる。測定の性質上、光学窓や高温炉内雰囲気および試料の温度分布の影響が測定に大きな不確かさを与えることがある。
同様に高温での非接触絶対測定法として光走査法がある。光走査法は試料の両端に作製されたナイフエッジの変位をプローブ光の走査速度と走査された光が試験片により遮断される時間から決定する方法である。測微望遠鏡法に関してはISO 4897-1985「Cellular plastics - Determination of the coefficient of linear thermal expansion of rigid materials at sub-ambient temperatures」、光走査法に関してはJIS Z 2285-2003「金属材料の線膨張係数の測定方法」に記載がある

測微望遠鏡法の模式図

光走査法の模式図

【比較】押し棒式膨張計 (push rod dilatometer )

押し棒式膨張計は操作が簡便で測定対象に対する汎用性が高く、現在市販されている線膨張測定装置の大部分がこの測定法を採用している。測定は試料の寸法変化を試料端面に接触させた押し棒(push rod)を介して外部に置かれた変位検出器により検出することにより行われる。押し棒式膨脹系は比較測定器であるため線膨張率値が既知である参照物質が必要である。装置の形式としては測定に際して被測定試料と参照物質を同時に用いる示差膨脹式と個別に測定を行う全膨張式の2種類がある。変位検出器としては差動トランスが多く用いられ、変位検出における分解能は0.1μm程度である。また適用温度範囲は液体ヘリウム温度(4.2 K)から2000 ℃以上と非常に広い。押し棒を含む試料支持部の材質として1200 K以下では石英ガラス、それ以上の温度領域では温度上限に応じてアルミナ、カーボンが用いられる。
同様に押し棒を用いる装置に熱機械分析装置(TMA)がある。熱機械分析装置は試料に応力を付加した状態で変位測定を行うことが出来る点が押し棒式膨脹計と異なっている。厳密には熱膨張特性は試料をゼロ応力下で測定する必要があるがテープ状や繊維状といった自立不可な試験片については応力を付加した状態での測定が可能な熱機械分析装置により熱膨張率測定を行うことが出来る。
各種固体材料の線膨張率測定に関する工業規格では押し棒式膨脹計および熱機械分析装置によるものが大部分であり、主なものとしてJIS R 1618-2002「ファインセラミックスの熱機械分析による熱膨張の測定方法」、JIS Z 2285-2003「金属材料の線膨張係数の測定方法」、ISO 7991-1987「Glass - Determination of coefficient of mean linear thermal expansion」、ISO 17562-2001「Fine ceramics (advanced ceramics, advanced technical ceramics) - Test method for linear thermal expansion of monolithic ceramics by push-rodtechnique」に記載がある。
押し棒式膨脹計(示差式)の模式図

【比較】機械テコ法、光テコ法(mechanical lever, optical lever)

機械テコ法では試料の微小な寸法変化をテコの原理を用いて拡大し検出感度を高めている。しかしながらプローブ部を含めた試料支持部の機械的構造が複雑であるため温度変化に対して不安定であり高精度な測定は困難である。光テコ法は機械的なテコ機構のかわりに試料の寸法変化を試料に取りつけた反射鏡の角度変化に変換し反射鏡の角度変化を光により拡大・検出するものである。過去の測定例では角度変化検出における分解能が2×10-8 radで、検出感度としては10-11が報告されている。

機械テコ法の模式図光テコ法の模式図

【比較】電気容量法(capacitor method)

電気容量法(特にガード電極を配したものをThree-terminals parallel plate capacitor methodという)は変位分解能が高く、特に室温以下の低温度領域において採用される。測定は試料の寸法変化を試料と試料ホルダーにより構成されるキャパシターの電気容量変化としてブリッジにより検出することにより行う。この時、試料長の変化率は試料およびホルダーの長さをLSおよび LR、キャパシターの電気容量をCとすると、

となる。キャパシターの電気容量Cを10pF、試料長とキャパシターのギャップの比((LR-LS)/LS)を10-3、とするとおよそ10-10の分解能で寸法変化率の測定が可能となる。

電気容量法の模式図

【比較】歪みゲージ法(strain gauge method)

歪みゲージ法は歪みゲージ(ストレインゲージ)と呼ばれるシート状のセンサーを試料に貼り付けることにより行われる。歪みゲージは非常に小さいもの、多軸のセンサー部を組み込んだもの等の様々な種類のものが市販されている。また、ゲージのリード線を取り出すことが出来れば測定が可能であるため、多様な環境下での測定に対応出来る。測定原理は歪みゲージには特殊な合金による抵抗線が形成されており、抵抗線が試料長の変化とともに伸縮することによる電気抵抗値変化を抵抗ブリッジにより検出することで試料長の変化を検出するものである。抵抗線の電気抵抗値の温度変化は同種の歪みゲージをブリッジ回路に組み込むことによりキャンセルする。歪みゲージによる寸法変化率に対する分解能は10-8程度である。

歪みゲージ法の模式図

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